2014年12月01日

☆2014年11月に読んだ本。

2014年11月の読書メーター
読んだ本の数:25冊
読んだページ数:6173ページ
ナイス数:570ナイス

陰陽師たちの日本史 (角川選書)陰陽師たちの日本史 (角川選書)感想
陰陽師の消長を綴る。陰陽道は中国の陰陽五行思想や、密教系の宿曜経、神道などを混合して成立。泰山府君祭、河臨祓等の儀礼をしたり、牛頭天王の考えを飲み込んだり。安倍家(後の土御門家)の生業になり、江戸時代には占師の家元として免許発行権を確立する。家業・天文観測では中国の暦法や西洋から伝来した地動説などの影響を受け、1684年の貞享暦採用以降に至る改暦に関わり、明治に入っての太陽暦採用でその命脈が尽きる。話は流れていくものの、陰陽道自体に馴染みがないので、論じている根幹がよく分からないままなのだが。
読了日:11月30日 著者:斎藤英喜
地図に見る日本―倭国・ジパング・大日本地図に見る日本―倭国・ジパング・大日本感想
「圖書」という言葉は「左図右書」という言葉があり、学問の要諦としているそうだ。出典が分からないから伝聞形で書いたが、ものの理解には字だけではなく絵も見よう、ということ。この本は右ページに地図、左ページに解説という版組。図をよく見てから文を読んでくれと筆者は言う。さて形は千差万別、それにつけても海沿いというのは外部の人間には見聞が広めやすいのか、土佐の大きさが今でいう太平洋いっぱいになった図まである。京都から見れば南の果てなのだけど。行基図を扱った岩波新書の「竜の棲む日本」の元ネタ本。良心的な入門書です。
読了日:11月29日 著者:海野一隆
地図から消えた島々: 幻の日本領と南洋探検家たち (歴史文化ライブラリー)地図から消えた島々: 幻の日本領と南洋探検家たち (歴史文化ライブラリー)感想
「島を見つけた」となると海図に記載、領有宣言がでる。繰り返している内に「幻の島」が生まれる。日本の周辺で欧米の艦船は頻繁に往来を繰り返し、こんな島々を次々と見つけていたらしい。日本人もアホウドリの羽毛と糞を目当てに殺戮と収奪を繰り返していた。欧州の植民地支配のミニ版だ。就中、有りもしない「中ノ鳥島」をでっち上げ、地図を作り、借用権の申請までした元教育者の存在は本当に不可解。今風に言えば「クラウドファウンディング詐欺」を目指した? いっそウェーク島、ミッドウエー島まで明治政府が領有を宣言していたら……。
読了日:11月28日 著者:長谷川亮一
おかしなジパング図版帖 -モンタヌスが描いた驚異の王国-おかしなジパング図版帖 -モンタヌスが描いた驚異の王国-感想
銅版画の描線というのは細密で真面目腐っている。ただ描写がトンチンカンだと絵は当然のことながら変になる。一度も来日したことのないモンタヌスというオランダ人が日本の見聞記を元に空想を膨らませた結果がこの図版集である。今、NHKで「妄想ニホン料理」という番組をやっているけど、まさに同じテースト。21世紀の今となっても遠く異国の人間にとってみれば、中国だろうが、インドだろうが、一緒くたになるのは仕方ないところ。ただ岩波文庫のビゴー、ワーグマン、パンチらの素描集に比べて何か読みにくい。タマキングワールドのゆえか。
読了日:11月26日 著者:宮田珠己
男色演劇史 (1970年)男色演劇史 (1970年)感想
Amazonの奸計に引っ掛かった1冊。刊行は70年安保前夜。筆者のナルシズムが表紙近くの紋付袴姿で横浜港の船をバックにユウケンをする姿、後書きは線路で左腕を撃たれ倒れているポーズ。流石、三島由紀夫の「腹切りごっこ」仲間だ。中身は特になし。別のものでも筆者が書いていることの域を出ず、仰々しい題名の割に散漫。ただ本題と無縁ながら口絵に入っている写真がいい。友枝喜久夫、梅若六郎、金剛巌、本田秀男、野村万蔵に三宅藤九郎。歌舞伎なら実川延若に森田勘弥と玉三郎の共演姿など。1枚の写真にも物語るものが多いのを知る。
読了日:11月25日 著者:堂本正樹
世界ボーイズラブ大全―「耽美」と「少年愛」と「悦楽」の罠 (文春文庫)世界ボーイズラブ大全―「耽美」と「少年愛」と「悦楽」の罠 (文春文庫)感想
切り貼り羅列本。内容空疎。以上。お勧め本に乗った私が馬鹿でした。
読了日:11月24日 著者:桐生操
男色の民俗学 (歴史民俗学資料叢書・第二期)男色の民俗学 (歴史民俗学資料叢書・第二期)感想
世の中には如何に先行の文献を引用するだけで構成する本が多いかを思い知らされる1冊。編者の見解は序文部分だけで、あとは男色に関する先行文献の引用が続く。いわば「広文庫」のような感じ。知見として新たなものはとほほな位少ないものの、本に挙げている文献を元にあれこれ書いている御仁が多いのに驚く。中にあって、1957年に「第三の性」なる雑誌に掲載された伊藤晴雨と比企雄二なる人物の対談が面白かった程度。文献民俗学という分野があるそうだが、文字資料だけではなく、「聞き書き」こそ事実の再現に生彩を与えると実感した次第。
読了日:11月24日 著者:
戦国武将と男色―知られざる「武家衆道」の盛衰史 (歴史新書y)戦国武将と男色―知られざる「武家衆道」の盛衰史 (歴史新書y)感想
筆者の指摘通り、男色の研究は僧侶や公家を中心とした上古、武士や町人まで広く流布した江戸期以降の研究はあるものの、中間は丁寧な研究史はなかった。前後の時代の推定から、男色=傾国という図式が出来上がったという指摘は当たっているかもしれない。巷間に名高い武田信玄、上杉謙信などなどの人物の行状を裏付けるとされる文書は別の読みも成立しうるという解釈を披露する。もう一つの筋、平安時代の公家・僧侶から始まった男色が武家にも伝播〜「武士+喝食、稚児」から「武士+小姓」という組み合わせに変わるという変遷史は興味深い。
読了日:11月22日 著者:乃至政彦
江戸端唄集 (岩波文庫)江戸端唄集 (岩波文庫)感想
「奴さんどちらへ」と唄うのは「奴さん」、「兄哥や宅かと姐御に問へば兄哥や二階で木遣りの稽古」と唄うのは「木遣りくずし」。江戸から明治にかけての俗謡俗曲端唄を集めた1冊。美空ひばりの歌でその一節が登場して伝法で仇な空気を感じるが、源を示すような1冊。文句が連想のキーになる。Webのページに演奏例が載っている。編者が底本に使った根岸登喜子の稽古用音源を転載しているのだけど、岩波文庫が、と新鮮。URLはhttp://www.iwanami.co.jp/moreinfo/3028310/top.html#03
読了日:11月19日 著者:
グランドスラム 44: アマチュアベースボールオフィシャルガイド’14 (小学館スポーツスペシャル)グランドスラム 44: アマチュアベースボールオフィシャルガイド’14 (小学館スポーツスペシャル)感想
読んだ本というほどではないのですが。社会人野球に関わった経験から創刊号からずっと購読してきました。でも久しぶりに目を通してみてびっくり。野球の記録の体裁がなっていないんです。いわゆる「テーブル」という部分。盗塁、失策、残塁の記録がない。バッテリー間の暴投、捕逸、打撃妨害、ボークの記録もない。長打も本塁打のみ。こんなずさんな雑誌をすくなくとも日本野球連盟の公認雑誌としている神経を疑います。何かこういうことを書いていると因業親父みたいで厭なのですけどね。原稿の上手い下手は好みもあるけど。こういうことが実は大事
読了日:11月19日 著者:小学館
はるか南の海のかなたに愉快な本の大陸があるはるか南の海のかなたに愉快な本の大陸がある感想
今年たぶん一番読んでいる宮田珠己が書いた本だからなのか、この人の本の嗜好と思考のベクトルが同じになるのか。この本は実に悩ましい本で、取り上げている本を次から次へとポチリたくなってしまうのであります。軽妙なノンフィクションの書き手は即ち素敵な読み手であるということです。気になった本の部分は付箋紙をつけたり、隅を折ったりするのですが、この本はそんなことをする箇所が多すぎて。副題にある「墨瓦蠟泥加」とは南方海上にあると夢想されていた大陸の名だそう。こんな本が並んでいる書架があれば夢であるのは間違いないですが。
読了日:11月18日 著者:宮田珠己
宮本常一の写真に読む失われた昭和宮本常一の写真に読む失われた昭和感想
診療所の待合室で読了。宮本常一の写真は何気ないから、説得力がある。写真は1枚で見せるのが基本だが。
読了日:11月17日 著者:佐野真一
味なもの (1953年)味なもの (1953年)感想
1953年のお江戸美味いもの名店巡り。明神下神田川、空也もなか、村上開新堂、泰明軒、いせ源などの老舗もあれば、長命寺桜餅、駒形どぜう、船橋屋、羽二重だんご、舟和など発展した店あり、当時の高名にも関わらず跡形もない店もあり。生々流転。面白いのは筆者に俳画風の挿絵を描かせている点。読売巨人軍一塁手の川上哲治氏も煎餅屋の壺の絵を描いている。後、東京は都電の町だったのだなということ。店の紹介欄は都電・××下車という案内がほとんど。高度成長期の交通渋滞を考えると仕方なかったのかもしれないけど、勿体ない気がする。
読了日:11月16日 著者:読売新聞社社会部
共謀者たち 政治家と新聞記者を繋ぐ暗黒回廊共謀者たち 政治家と新聞記者を繋ぐ暗黒回廊感想
大切なのは取材相手と記者自身との距離感、なのだと思う。そして知識、経験、体力−−。福島第一原発の事故では国内にいる記者より、海外にいる優秀な記者の方が事実を書いていたという。当今、考えることの多い出来事の前に、有意な1冊だった。「オフレコとリークに頼るスクープ至上主義」「政策より政局に重心」「地域コミュニティーの段階で、市政など権力を監視するローカルレポーティング」などなど。気になる言葉が次々と出てくる。振り返ってみれば「記者クラブ」という存在がないのなら、それはそれであり。その分、足で稼げばいい。
読了日:11月15日 著者:河野太郎,牧野洋
男色の日本史――なぜ世界有数の同性愛文化が栄えたのか男色の日本史――なぜ世界有数の同性愛文化が栄えたのか感想
新聞の書評欄はちょっとした本屋さんがないエリアでは重要な情報源。確かこの本はそんな選択だったけど、ちょっと相性が合わなかった。なぜかといえば「隔靴掻痒」の感が否めないから。外国から見た日本の男色史なのだけど、興味の重心が微妙にずれている気がして仕方ない。本の背骨とすれば「本朝男色考・男色文献書志」に則っているのが透けているのだけど、枝葉末節へのこだわり方が何か違う。何か無修正のポルノがこれでもかと羅列されているような感じかなぁ。類書なら「男色の景色」などの本邦の本の方が読みやすい気がする。
読了日:11月14日 著者:ゲイリー・P・リュープ
言論抑圧 - 矢内原事件の構図 (中公新書)言論抑圧 - 矢内原事件の構図 (中公新書)感想
帝大経済学部の矢内原忠雄が辞職に追い込まれた1937年12月の出来事が題材。大学外の外圧(帝国議会、キングなどの雑誌メディア、国粋主義的な団体、文部省)は勿論、学内の紛擾(教授会内の派閥抗争)や信仰していた無教会派の集団内での立場の対立、大学の独立性など、重層的に解き明かす。言論弾圧というと外圧の側面が短絡的に注目される。しかし、それ以上に自身の足元が崩れていくような構図が浮かんでくる。マイクロヒストリーという手法はとまれ、無批判な大衆の軽躁と学内の教授陣の権謀術数こそが一番の陥穽となるのがよく分かる。
読了日:11月13日 著者:将基面貴巳
味―天皇の料理番が語る昭和 (中公文庫BIBLIO)味―天皇の料理番が語る昭和 (中公文庫BIBLIO)感想
これは筆者の処女作。新鮮で内容豊富、面白い。前半は筆者の半生記、後段は料理に関する漫筆。料理人の中でも宮中の主厨長、しかも大正、昭和の両天皇の大典を仕切り、日本が一等国と自認した時代からの話は、余人が経験できるところではない。中でも宮中の伝統的な食べ物用語の蒐集や、終戦前後の台所事情などはこの人ならでは書き残し得なかったことだろう。大隈重信が毎日メロンを食べていたり、GHQのホイットニー(民政局長ですな)の奥さんがわがままだったり。巻末の「完全な食卓作法」も佳品、これはこれで筆者の性格がよく出ています。
読了日:11月10日 著者:秋山徳蔵
〈役割語〉小辞典〈役割語〉小辞典感想
話者と人物像を結びつける言葉を「役割語」と言う。例えば1人称。あたい、あたくし、あっし、おいら、おいどん、おら、おれ、じぶん、それがし、わがはい、わし、わたくし、わちき、わて、わらわ。性差に由来する男ことば、女ことばの2項対立を始め、地域に由来する田舎ことばや方言(大阪弁・関西弁、京言葉、九州弁、土佐弁、沖縄言葉)、時代に由来する武士ことば、公家ことばなどなど、話し方の個性が社会でステレオタイプとして固定すると、創作(仮想現実)でひとり歩きを始めるという仕掛け。用例の抽出がユニークで拾い読みが楽しい1冊。
読了日:11月9日 著者:
料理歳時記 (1955年)料理歳時記 (1955年)感想
著者は「きょうの料理」などで講師役を務めた料理研究家。今、活躍している柳原一成の父であり、売り出し中の尚之の祖父に当たる。東京農大を出た後、この本を書いたころは熱海で割烹を開いていた。さて中身。一番興味深いのは「畫(画)餅の詩」の部分。江戸前の割烹の仕事をさりげなく書いている。鰹の「たたき膾」や、アワビと山芋をすり下ろして寒天で寄せた「山芋豆腐」など、凝った料理の紹介がある一方、何げないものをより美味く食べる工夫もあって楽しい。その後、改訂を繰り返しているようだけど、今風に仕立て直せば文庫化も可、な本。
読了日:11月9日 著者:柳原敏雄
舌―天皇の料理番が語る奇食珍味 (中公文庫)舌―天皇の料理番が語る奇食珍味 (中公文庫)感想
著者は「天皇の料理番」として知られ、竹の園生で司厨長を1913~1972年、務めた人物。ただ、この肩書きが多くの人にとっては忘却の彼方に去った今となってしまうと、本としての価値が著しく減じていることを感じざるを得ない。料理番として数多の経験を積み、正統派の道を歩み、そのために多くの典籍を紐解いて修業に励んだのは痛いほどよく分かるのだけど。同じ宮中ものでも入江相政の随筆の端々に今も精彩を失わない物があるのとは対蹠的な気がする。筆者がよく引く「随園食単」との違いとも言えるのだけど。本の寿命、かな。
読了日:11月8日 著者:秋山徳蔵
高野山 (岩波新書)高野山 (岩波新書)感想
高野山は開創1200年だそうだ。聖俗が混在しながらも何度訪れても神韻とした空気は得難い。で、今のこの教団にあって一番の学識が書いた密教の入門書でもある。中で高野山の開創の章と高野山の歴史の部分が筆者の面目躍如。教学の難解さは残るものの、新義真言宗を開いた覚鑁の評価の高さを示したり、真言教学を伝える信念を伝えたり。念仏を奉じた高野聖(時衆)の存在の大きさや運営を担った行人方への言及、徳川幕府による宗門改、本山末寺制度の確立への言及が足りないのは残念。高野山霊宝館の「高野山よもやま記」を補完で読むといいかも。
読了日:11月7日 著者:松長有慶
川はどうしてできるのか (ブルーバックス)川はどうしてできるのか (ブルーバックス)感想
川についての入門書。印象的だったのはプレートテクトニクス理論やパンゲア大陸(大陸移動説)を含めての解説ぶり。諏訪湖が水源とされる天竜川は実は中央分水嶺を越えて古くはウスリー川まで源流を遡れるのでは、という仮説。プレートの移動と造山運動で強ち空論ともいえまい。たまたま搭乗した飛行機で眼下の雲海を見ていたら、かつてはこんな世界が広がっていたいたかな、と思った。それと太平洋側の川は遠く海溝まで続いているという指摘。関東地方の川は海の底の盆地に集まり、日本海溝に向かっていくそうだ。不思議なものです。
読了日:11月6日 著者:藤岡換太郎
関西鉄道遺産 (ブルーバックス)関西鉄道遺産 (ブルーバックス)感想
関西は私鉄王国だ。近鉄を筆頭に阪急、阪神、南海、そして国鉄が覇を競い合った歴史を持つ。資本が集積していたから鉄道も発達した。関東とは違い、険阻な山脈に隔てられることもない。地理的条件に加えて、古来王城の地、文化の中心であったことが独自の美意識を生む。鉄道の遺構にも風土が生きているのがよく分かる。橋梁では当初の英国式から米国式に変化したり、アールデコが入ってきたり、日本風の木造の駅舎が登場したり。橋梁、隧道、高架、駅舎など項目ごとに時系列で読みやすい。あと「マンボウ」の説明が個人的には興味深かった。
読了日:11月4日 著者:小野田滋
ロッパ食談 完全版 (河出文庫)ロッパ食談 完全版 (河出文庫)感想
食道楽・古川緑波が雑誌に連載をしたものをまとめた1冊。昭和20年代の外食事情が伝わる。東京生まれで気性は江戸前ながら、魚がダメで洋食好き。ありとあらゆる食にまつわる月旦あり、追憶あり。東京、大阪、京都、神戸がよく登場するのは大都会であった証だろう。谷崎潤一郎や菊池寛、草野心平、久保田万太郎らとの交流でも食卓が挟まる。軽妙で歯切れのいい書きぶりは終戦後のものとは思えない。「美味いものを自由に食える身分になりたい」という性根に経緯。こんな本は以前なら中公文庫の得意分野だったけど、今は河出文庫に移ったのだな。
読了日:11月4日 著者:古川緑波
ふしぎな国道 (講談社現代新書)ふしぎな国道 (講談社現代新書)感想
酷道であり、兎道・吐道(都道)、獰道(道道、獰猛のドウ)、腐道・怖道(府道、恐怖のフ)、険道(県道)、跳道(町道、凹凸が激しく跳ねる道)・懲道などなどの愛情いっぱいの宛字が生まれてきた。そんなマニアの入門書として書かれた1冊である。と、同時に日本には「グランドデザイン」などという発想が絶えて存在せず、我田引鉄以来の伝統をひく地元陳情に基づく利益供与とご都合主義の集積が今の道路行政ともいえ、その皮肉を綴っているともいえる。さて、何事によらず、マニアが公認される存在になると対象物は姿を消していく。難しい。
読了日:11月1日 著者:佐藤健太郎

読書メーター
posted by 曲月斎 at 11:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年11月01日

☆2014年10月に読んだ本。

2014年10月の読書メーター
読んだ本の数:16冊
読んだページ数:4854ページ
ナイス数:484ナイス

腰痛探検家 (集英社文庫)腰痛探検家 (集英社文庫)感想
転んでも只は起きないという見本のような1冊、さすが高野秀行である。腰痛に苦しんだことをネタに整体、鍼、PNF、整形外科などなど、ありとあらゆる施術を試みていく。ウモッカを探す時より、ムベンベを訪ねるのと同じ体力と気力を傾注しているのだからすごい。たとえ様が密林の探検家だったり、ダメ女子だったり、ダメ男子だったり、会社再建だったり。絶妙軽妙。間に入る地の文はまた哲学的で思索に富む。最終的には元々親しんでいた水泳に戻って、がむしゃらに遣っていたら、それで腰痛が軽快したという、めでたしめでたし、なのだけど。
読了日:10月31日 著者:高野秀行
日本劣化論 (ちくま新書)日本劣化論 (ちくま新書)感想
安倍首相が実際にやっていることは米国の第2次世界大戦での成果の否定であり、米国の都合と何事も一致するか分からないという見立ては過去にもあった。ただ本書は自民党内のハト派とタカ派の関係から、社会主義の変遷、受容史、19世紀の戦争と20世紀の戦争の違いまで、ありとあらゆる分野に言及しているのが特徴。「反知性主義の否定」ということをこういう形で表現しているというか。武芸百般、博覧強記、百家争鳴……。黒門町の文楽風に言えば「奥の方に何かキラッと光る物がございます」。広汎過ぎて読了後もどう書いていいか分からない。
読了日:10月29日 著者:笠井潔,白井聡
日本史の謎は「地形」で解ける【環境・民族篇】 (PHP文庫)日本史の謎は「地形」で解ける【環境・民族篇】 (PHP文庫)感想
読みました。昔、阿川弘之は「だ」「だった」ばかりで止める原稿のことを「安物の軽機関銃」といって馬鹿にしたように記憶しています。まさに、その感じ。信濃川の大河津分水も偉大な工事のように言いますが、今は砂浜の浸食など大きな禍根も残しています。評価が一面的に過ぎる気がして。それを補うような軽機関銃の音。
読了日:10月26日 著者:竹村公太郎
日本史の謎は「地形」で解ける【文明・文化篇】 (PHP文庫)日本史の謎は「地形」で解ける【文明・文化篇】 (PHP文庫)感想
読みました。
読了日:10月26日 著者:竹村公太郎
ユリイカ 2014年9月 臨時増刊号 総特集◎イケメン・スタディーズユリイカ 2014年9月 臨時増刊号 総特集◎イケメン・スタディーズ感想
「イケメン」という言葉をくくりに、見る側、見られる側、見せる側と論を広げていく。かつての「2枚目」「男前」という言葉は確かに経験のある人間が選び出して磨いていく存在だったけど、今は「ジュノンボーイズ」に代表されるように、集合知が見つけ出し、育てていく存在になっている。最後の伝統的な藝系を示しているのがジャニーズ事務所であるという位置づけはわかりやすい。現に同事務所でも、アイドルが変質しているのだから。久しぶりに「ユリイカ」を読んだけど、こういう活字媒体(何せ1カ所の広告がない雑誌)というのはうれしいな。
読了日:10月24日 著者:小越勇輝,鈴木拡樹,高杉真宙,小野賢章,坂口健太郎,國島直希,飯伏幸太,阿久津愼太郎,千葉雅也,星野太,柴田英里
検証 長篠合戦 (歴史文化ライブラリー)検証 長篠合戦 (歴史文化ライブラリー)感想
長篠合戦といえば甲州武田の騎馬軍団が織田徳川の鉄砲隊に敗れ去った戦いと教科書では習った。でも実際は別のところに敗因があったとの分析がこの本。筆者の見立ては物流の中心か否か、動員が可能であったかなどを挙げる。鉄砲を重視してもそれを調達できる製造工場があるか、硝煙、特に弾丸に使う鉛を調達できたかなど。信長記や甲陽軍鑑、手紙や命令書といった文書の読み解きに留まらず、鉛の鉄砲玉を発掘して成分分析をし、産地を同定するなど、歴史学も大きく進歩したものだ。中国産やインドネシア産の鉛まで入っていたというのだから。面白い。
読了日:10月24日 著者:平山優
日本史の謎は「地形」で解ける (PHP文庫)日本史の謎は「地形」で解ける (PHP文庫)感想
戦後、日本の地形は大きく変わった。その点でかつての地形や地勢を見落としていると、歴史的な出来事の分析を見誤ることになるというのは事実です。ただ、この方の本は思い込みが激しい気がします。下部構造(地形や河川などの自然地理学の領域)に関しての記述に徹していればおもしろい本だったと思うのですが、生半可な知識と結びつけようとしているのが残念。3冊買っちゃったけど、ちょと2冊目以降はつらいかな。例えば濃尾平野の木曽三川と東海道の関係なら「中世の東海道をゆく」の方が良書。PHP文庫風というか。生兵法は事故の元。
読了日:10月20日 著者:竹村公太郎
二〇世紀の歴史 (岩波新書)二〇世紀の歴史 (岩波新書)感想
出来事の羅列になるのが歴史の教科書、でもこの本は時代に横串を通して20世紀を概観していく。ロシア革命から共産主義体制の崩壊までと捉える「短い20世紀論」に対し、世界全体に視野を広げて帝国主義の領土分割が進んだ1870年代から1990年代までの動きを分析する、結構の大きな1冊。アフリカ大陸や中東の植民地化、極東での動きと、宇宙から眺めたような視点で見ると、歴史の因果がよく分かります。と同時に「謎の独立国ソマリランド」が微分ならこの本は積分。日本という国が遅れてきた帝国主義国として近視眼的だったこともまた。
読了日:10月18日 著者:木畑洋一
四人組がいた。四人組がいた。感想
元村長、元助役、元郵便局長に老婆。元郵便局舎に集まって日毎に繰り返す話を綴ったファンタジー。狸や熊、駝鳥まで登場してのお伽話である。ただ、どの辺にピントを合わせたのかが計り兼ねた。写真で言えば「被写界深度」のようなもの。近景を見れば痛快娯楽の話、遠景を見れば現下の少子高齢化から社会風刺。近景で見えている話は地方では現実であり、遠景はまた抱えている悩みの実像。虚実皮膜の間に仕立ててすべてを包含しようとしたのだろうけど、使い捨てカメラの画像のように、結局はどこにも焦点が合っていない、ということではないかな。
読了日:10月14日 著者:高村薫
昭和陸軍全史 1 満州事変 (講談社現代新書)昭和陸軍全史 1 満州事変 (講談社現代新書)感想
永田鉄山と石原完爾。2人とも日本史の教科書には余り登場しない。でも15年戦争の端緒となった満州事変の立役者である。本の妙味は時の政権がこの2人にどう引き摺られていったのかを詳述している点にある。九カ国条約、四カ国条約といったワシントン体制、国際協調路線からどう逸脱していったか。旧憲法下での内閣制度の限界や参謀本部の位置づけ、海外派兵に対しての内閣の責任等々。政府が執った一つずつの手続きは2人の策謀の前に糊塗弥縫を繰り返したのが分かる。惜しむらくは索引、年表がなく、地図も不十分な点。人物索引は特に欲しい。
読了日:10月13日 著者:川田稔
誰も調べなかった日本文化史: 土下座・先生・牛・全裸 (ちくま文庫)誰も調べなかった日本文化史: 土下座・先生・牛・全裸 (ちくま文庫)感想
「パオロ・マッツァリーノの日本史漫談」(二見書房)の改題。仮面の作者は誰か分からない(いじめ問題を専門にした社会学者という説もあるそうだ)が、論理は合理的に見えて結構専断的。朝日と読売のデータベースを活用とあるものの、1980年代以前のデータベースは十全ではないのは承知の通り。土下座の習慣、先生という呼び名、牛はどこにいた?、牛乳臭いの由来などなどを考証して見せる文です。確かに誰も書かなかったろうけど、逆に価値があったか否か。新聞の一面広告の章は天野祐吉の本を一度目を通した方がよさそうな内容。戯作ですな。
読了日:10月9日 著者:パオロマッツァリーノ
馬鹿について―人間-この愚かなるもの馬鹿について―人間-この愚かなるもの感想
「勤勉は馬鹿の埋め合わせにはならない。勤勉な馬鹿ほど、はた迷惑なものはない」。人生の愚かさについての格言集(巻末)についている一文である。今日、ゼークトの言葉として喧伝され、ビジネス本に時々登場するこの言葉「有能な怠け者は司令官に、有能な働き者は参謀にせよ。無能な怠け者は連絡将校か下級兵士にすべし。無能な働き者はすぐに銃殺刑に処せ」の元ネタである気がしている。阿川弘之がこの本を随筆で紹介していたので読み始めたけど、ナチスの優性政策の影響が色濃い感じが違和感につながる。今は出版も難しい1冊かもしれない。
読了日:10月8日 著者:ホルスト・ガイヤー
第一次世界大戦 (ちくま新書)第一次世界大戦 (ちくま新書)感想
サラエボでの1発の銃弾がなぜ欧州全体の戦争に発展したかという第1章と第4章の「おわりに」に妙味がある。大戦後、他民族国家の崩壊し、民族自決権と政治への民衆参加で国民国家の成立し、多国間の安全保障体制への移行、女性の社会進出など。今につながる結果が出たこと。ドイツを中心とした総力戦体制が実は国力を問われるこという結果。資源、人口などなど、日本は第二次大戦に向けて何も学ばなかったのだろうか。15年戦争で日本兵の死亡率は約3割3分といわれるが、この大戦の主要国より高く、総力戦の末路もご存じの通りなのだが。
読了日:10月6日 著者:木村靖二
カラー版 国芳 (岩波新書)カラー版 国芳 (岩波新書)感想
浮世絵といえば歌麿、北斎、広重、写楽が既成概念だけど、忘れてはいけないのが国芳。大胆な構図と機知に富む題材、西洋画の技法を取り入れる進取の気性。概観する本がなかったのだが、この1冊は入門書として好個である。こういう企画展があったら楽しいだろう。「猫好き」の浮世絵師であると同時に、弟子思いであり弟子に慕われる一面、総身に彫物をした鳶のような気っ風のよさ、江戸っ子気質が渾然一体となって生まれた絵なのだ。筆者はフリーのキュレイター。ボストン、大英の両博物館蒐集の国芳作品がWebで見られる時代ならではの1冊。
読了日:10月5日 著者:岩切友里子
鞆ノ津茶会記 (講談社文芸文庫)鞆ノ津茶会記 (講談社文芸文庫)感想
織豊時代に生きた外交僧安国寺恵瓊を一応の主人公に、その周辺にいた架空の人物が鞆ノ津辺りで茶会を開いたという舞台設定、道具立てやもてなしを記して置くのが茶会記。小早川家やその周縁の人々の話を聞き書きしたという体裁で話は進む。話の中身は石山合戦のころから関ケ原の合戦前夜まで。登場人物の何気ない会話から、秀吉の時代の空気を写し取ろうという試みは蕪村の絵を見ているような感じで、淡い中に何が心に残る。小田原征伐のこと、朝鮮出兵のこと、権力者という立場の狂気が浮かび上がる。巧い。軽い読後感と同時に残るもの多々。
読了日:10月5日 著者:井伏鱒二
お言葉ですが…〈別巻6〉司馬さんの見た中国お言葉ですが…〈別巻6〉司馬さんの見た中国感想
原稿の執筆年代が支離滅裂で、内容に基づいて、とりあえず部立てをしてまとめましたみたいな1冊。1990年代のものが多く、時代を感じてしまう。2014年6月の新刊ということで期待をしたけど、ちょっと裏切られた感じです。落ち穂拾いみたいな。さすがに本の紹介をする下りはこの筆者ならではの筆捌き(この書き方の影響は受けているのを自覚)だけど、前後は如何かな。週刊文春に連載をしていた頃の筆鋒の鋭さがないのが残念。ちなみにこの本には巻末に詳細な索引(別巻の分だけですが)がついていて、筆を擱くことを考えているのかな。
読了日:10月2日 著者:高島俊男

読書メーター
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2014年10月01日

☆2014年9月に読んだ本。

2014年9月の読書メーター
読んだ本の数:24冊
読んだページ数:6838ページ
ナイス数:520ナイス

高野聖 (角川選書 79)高野聖 (角川選書 79)感想
再読。真言密教の聖地のように今は映る高野山ではあるけれど、歴史を振り返ればそう単線的な歴史ではない。兵火にかかり、宗派内の権力抗争があり、衰微した時期も長い。中で念仏聖が住み着き、全国を経巡り、骨のぼせ(納骨)を進め、高野山の名を広めていった歴史がある。高野三方といわれ、純粋な真言教学を伝持する学侶方、法会や諸堂舎の管理から、炊事や雑用、年貢や出納管理の仕事を担当した行人方も居て、本書の主役は聖方。唱道や勧進をしながら全国に信仰を説いて廻った。日本総菩提所といった信仰を作った陰の功労者に焦点を当てた名著。
読了日:9月28日 著者:五来重
修験道入門 (1980年)修験道入門 (1980年)感想
再読。最初に読んだ時は新鮮だった記憶がある。今でもこの本以上の入門書は探すのが難しい。というのは、修験の信仰面だけではなく、広く民俗学や社会学などの範疇にまで視野が及んでの著作だから古びることがない。逆に事例研究は進んでいるかもしれないけど、この時代に筆者が聞き取り調査や自分でフィールドワークしたことはその後に絶えている可能性が高いものも多い。だから今でも修験道という日本独自の自然信仰に関して概括的にとらえることのできる貴重な1冊といえると思う。手に入れた古本は意味のない傍線だらけで読みにくかったが。
読了日:9月28日 著者:五来重
泉光院江戸旅日記: 山伏が見た江戸期庶民のくらし (ちくま学芸文庫)泉光院江戸旅日記: 山伏が見た江戸期庶民のくらし (ちくま学芸文庫)感想
原文を読んだら、おもしろいのだろうなあ、という感じ。となると、三一書房の「日本庶民生活史料集成」に当たるしかないのかな。現代語に意訳してあるようなので、味わいはどうかな。「日本九峰修行日記」という本は五来重の本で知ってはいたのだけど、ま、こういう修行者がいたというのはすごいことです。積読から手に取ったのは御嶽山の噴火がきっかけ。御嶽山に行っていないかなと思ったら、御嶽山は九峰に入っていなかった……。
読了日:9月28日 著者:石川英輔
中国絵画入門 (岩波新書)中国絵画入門 (岩波新書)感想
「気」というのは風水でも漢方医学でも出てくる概念だが、絵画の中に流れている。気品を賞翫するのが値打ちであるという命題に沿って展開していく。丹念に時代順に追いかけていく。どちらかと言えば馴染みが薄い作家も多いのだけど、画例をなるべく口絵やページに掲載しながら進める。文人画、士大夫という階層が生まれる中で独自の発展を遂げていくことが分かる。模写であっても「気」が生きていれば本物と同じ評価が得られるのに対し、作者が高名であっても「気」が備わっていなければ評価が得られないとする視点。筆者の書きっぷりは歯切れいい。
読了日:9月27日 著者:宇佐美文理
知の訓練 日本にとって政治とは何か (新潮新書 578)知の訓練 日本にとって政治とは何か (新潮新書 578)感想
題名に難。せめて「日本のまつりごと」くらいにすべきでしょ。明治学院大国際学部の「比較政治論」講義録です。筆者が言いたいことは日本の政治は「まつりごと=祀りごと」と一体化していて、それは日本の大和系と出雲系の対立までさかのぼるのではという分析が登場したり、創価学会の存在、靖国神社の宗教観、東京と大阪の比較論などなどと次々と登場するのですが、すべてで何か食い足りない。それは講義録の限界なのかもしれません。講義は学生にとっての「知の訓練」であるにせよ、余りに大風呂敷であると思いますし、傲岸にも思えるのですが。
読了日:9月26日 著者:原武史
列島の歴史を語る (ちくま学芸文庫)列島の歴史を語る (ちくま学芸文庫)感想
網野善彦の歴史のとらえ方、歴史学とか民俗学とか、社会学の境界を探る姿勢がよく分かる。文献を読み込むこと、史料を博索すること、現地を踏査すること。これを繰り返して思索を巡らし、その結論を探る姿勢。日本列島を単一の時間軸の年表で語ることの難しさを説く。最終章の一遍上人絵伝を読み解く部分が興味深かった。ただ、1980年代の講演会の分が4篇あり、ここではまだ、皇国史観の後に日本を席捲したマルクス史観の時代を思い返させてくれるような質問があり、今となってはちょっと価値を見いだしがたいやりとりもあるのが残念。
読了日:9月26日 著者:網野善彦
日本映画史110年 (集英社新書)日本映画史110年 (集英社新書)感想
今日的な意味での「映画」が成立する以前、つまり無声であった時代に、日本映画に通底する特徴を見出している点が興味深い。識字率の高さ、出版文化の爛熟が映画に原作を提供するばかりでなく、物語の映像化という輻輳した影響を生んだ点、弁士という饒舌な存在が前説、後説といった習慣を生み、ロングショットを受け入れる素地になったこと、さらには能の地謡、歌舞伎の浄瑠璃といった説明が入る演劇が背景にあったこと。松竹、日活など東京と京都の2極で制作が進んだ影響の指摘も興味深い。筆者の古典映画、先行作品への造詣が生んだ1冊である。
読了日:9月23日 著者:四方田犬彦
向田邦子の手料理 (講談社のお料理BOOK)向田邦子の手料理 (講談社のお料理BOOK)感想
作れそう、作ってみたくなる料理ばかりであるところが悩ましい。決して気取ったものではないのだけど。でも、いざ作るとなると難しいかな。あと、こんな料理を出せる相手はある程度年齢を重ねた、味の分かる相手でないと成立しえない感じも。でも参考になりました。こういう料理をちょっと出して酒を酌み交わせるような宴を開きたいものです。
読了日:9月20日 著者:向田和子
欲望の図像学欲望の図像学感想
今となっては内容が古すぎる気がします。日本のプロパガンダ誌フロントを始め、旧ソ連、アメリカでの写真を利用した煽情的な発行物を題材に論じているのですが、写真はもちろん、動画ですらここまで流通してしまう時代になると、紙媒体という存在はいささか軽微であることを思い知らされます。つまり、写真を題材にあれこれと論じても、その基盤が紙媒体を前提とした立論であるので、いささか時代錯誤という感じがするのです。1980年ごろに流行した、論理に、何か懐かしさも覚えましたが。逆に今をみるための視座として読めば好材料かも。
読了日:9月20日 著者:柏木博
昭和ごはん 作れる思い出レシピ昭和ごはん 作れる思い出レシピ感想
料理の本ではありません。人間の本性を解き明かすような本です。たぶん、味覚と嗅覚が行動の記憶という部分と深くつながっているような気がします(何を食べたか思い出せれば、行動がよみがえるでしょ)。東京周辺の手に職を持った方々のインタビューが主、その記憶のキーになる料理を紹介、といった体裁の本です。でも、取り上げている料理が実に美味そうでありまして、この本を参考にして料理を作ってみようか、と思うくらい。あ、書き手の狙い通りか。聞き手の時代の空気のとらえ方、話の引き出し方が絶妙。ただし、対話の部分が妙に寸足らず。
読了日:9月19日 著者:瀬尾幸子
作家のごちそう帖: 悪食・鯨飲・甘食・粗食 (平凡社新書)作家のごちそう帖: 悪食・鯨飲・甘食・粗食 (平凡社新書)感想
大半が羅列本、切り貼り本。筆者の生年は1958年?で自分の生きてきた年代が重なり、実際に食べられるものに関連しての引用、考察は生気にあふれ、筆遣いも闊達だのだけど、世代的に隔絶していたり、当時を振り返るよすががないであろう作家(章立てで言えば森鷗外から吉田健一以前の人々)は今一つ。ま、言えば、最後の向田邦子、開高健の2章がお値打ちというところ。帯にある「食の饗演」は看板倒れか。「経験がないと感知できないことが厖大にある。経験していても感知できないこと、これまた厖大である」と引用している開高の言葉が嵌まる。
読了日:9月18日 著者:大本泉
だから日本はズレている (新潮新書 566)だから日本はズレている (新潮新書 566)感想
「このままでは2040年の日本はこうなる」の章が印象的。人口減少、就労人口の高齢化、階級格差の拡大、財政赤字の拡大などなど、行き着く先を考えれば絵空事ではない。「地域創生」なんて4文字熟語の標語が闊歩する時世が続くとは思えないし。財源が限られれば選択と集中が進み、東京と福岡が生き残るとの見立て。政府権限の委譲に伴う特区もできるとの予想だ。その頃にはこの筆者も今の自分と大差ない年になっているだろうな。「正しいではなくもっともらしいこと」を尊重していけば確かにそうなるだろう。唐突だが真鍋博の名を思い出した。
読了日:9月18日 著者:古市憲寿
すみだ川気まま絵図 (ちくま文庫)すみだ川気まま絵図 (ちくま文庫)感想
1982,3年ごろの隅田川遊覧記。というより先学の名を借りれば、永井荷風 今和次郎 妹尾河童、辺りか。当時、国技館は蔵前にあり、両国に青果市場があった時代。さらにはリバーサイドに超高層マンションが立ち並んではいないし、深更の橋に立てば漆黒の闇が広がる町ではあった。時移り、大川端も様変わりした。水質は良くなったかもしれないけど、失った人気、風情が多いのに驚く。筆者の好奇心に任せたスケッチルポ。貴重である。名所巡りにも橋巡りにも役立たないけど、幾星霜を経て版型、版元を変えて復刊されたのは慶賀にたえない。
読了日:9月16日 著者:松本哉
金田一家、日本語百年のひみつ (朝日新書)金田一家、日本語百年のひみつ (朝日新書)感想
河竹黙阿弥からの3代。繁俊−登志夫と続き、3代目が「作家の家」を書いた1冊を連想した。で、筆者は金田一京助、春彦に続く3代目の日本語学者。とはいえ、初代が言語学者、2代目が国語学者であったと筆者の弁。家職の継承を目指したものではなく、生まれ育った環境の産物であろう。本に親しみ、日本語について考える空気が身辺にあったからこそ3代目が生まれた。身辺雑記が楽しいし、父との対談や思い出の記は身近にいた者ならではだ。面白いと思うものを追う暮らしである。親の収入と子の学歴に相関関係があるという社会調査も思い出した。
読了日:9月16日 著者:金田一秀穂
「外食の裏側」を見抜くプロの全スキル、教えます。「外食の裏側」を見抜くプロの全スキル、教えます。感想
外食店の裏側を見抜くと言ってもごく当たり前のことです。値段相応、なら少しでも美味いと思える店を選ぶ、だけのこと。それが大戸屋であり、吉野家であり、ケンタであり、ココイチであり。量をこなしつつ、何処かで一線を守っている、ということです。確かに植物性タンパクだったり、リン酸塩だったり。外食の場合は細かな表示が不要というルールもありますが、やはり値段相応ということになるのではないかなあ。店の評判はやはりネットより口コミだと思うなあ。
読了日:9月16日 著者:河岸宏和
一遍と時衆の謎: 時宗史を読み解く (平凡社新書 748)一遍と時衆の謎: 時宗史を読み解く (平凡社新書 748)感想
時宗というのは今も続いている浄土系の仏教宗派ではあるけど、馴染みが薄い。「決定往生六十万人 南無阿弥陀仏」の札を配り、浄不浄、信不信を問わず、従来の日本の神祇を拝まずという姿勢を貫いた鎌倉新仏教(日蓮、親鸞など)とは違い神仏習合をも認める教義で、合戦ともなれば「陣僧」として戦場を駆け回り遺体を回収したというのだから。後に親鸞系の教団に信徒が流れるのだが、江戸時代以前までの独自性は見逃せない。前段は一遍と時衆の解明、後段は一遍聖絵を使っての生涯の俯瞰。阿弥号の問題や係累縁故も論述の範囲に。いい入門書である。
読了日:9月16日 著者:桜井哲夫
日本の軍歌 国民的音楽の歴史 (幻冬舎新書)日本の軍歌 国民的音楽の歴史 (幻冬舎新書)感想
極論すれば日本の軍歌は明治期と昭和期の2層構造で、方や唱歌や演歌、寮歌の延長線上だったのに対し、後者は新聞社、レコード会社、映画、NHKの思惑と陸海軍の嚮導が一致してできた産物。人が歌うのか、歌わせるのか。質が違うのは自明。先行の数々の資料でもわかることで本の新味はない。最終章の北朝鮮のルポは印象批評の域を出ず、内容空疎。web上の音源まで利用した「世界軍歌全集」の著者とは思えぬ平板さ。難解な軍歌の歌詞にルビもなく引用も何か釈然としない。今、軍歌を享受する新しい層が出現しているなら掘り下げて欲しいところ。
読了日:9月14日 著者:辻田真佐憲
あの頃ぼくらはアホでした (集英社文庫)あの頃ぼくらはアホでした (集英社文庫)感想
1958年生まれの筆者。3学年上になる。筆者が夢中になる怪獣物の映画やウルトラマンなどほぼ同時代感覚であり、住んでいた環境こそ違え、アホなことはしていたなあとの感慨に耽るのである。大学受験も浪人生活も大差なし。大学もバリバリの文系に進んだ自分と理系に進んで悩む筆者。結局は大差ない。でも悩みを何らかの形で「形」に仕上げていく才能の有無が大きな岐路になるのだなぁ、と、改めて悩んだり自省したり。途中捨てるに捨てられぬスキーウエアの話。分かるなあ。そんなものばかりが身近に残っているのだから。今も自分はアホなのだ。
読了日:9月11日 著者:東野圭吾
歴史人口学の世界 (岩波セミナーブックス (65))歴史人口学の世界 (岩波セミナーブックス (65))感想
歴史人口学の入門書。岩波が開いた講座が下敷きで、要諦部分である序章、第1章の部分が平明に書かれているので、初学には好個の1冊。本は1997年の刊行で「少子高齢化」なんていう言葉が大手を振っていなかった時代。ではあれ、人口が遠からず減少していくことを含んでおり、それも江戸時代の宗門改帳や過去帳、明治期に入って以降の戸籍制度などを駆使しての考察は面白い。終章の歴史人口学と家族史の部分は日本を東北日本、中央−西日本、西南日本に分けて考察しているのも興味深い。先の日本語の本であれ、この考えの証左は色々あるかも。
読了日:9月11日 著者:速水融
趣味は何ですか?趣味は何ですか?感想
趣味という言葉をどう理解するか。鑑定眼でも玩物でも素人藝でも蒐集癖でもなく「Pass Time」即ち、時間潰しであると分析した結論がすべてだ。エコ、防災もそう。この見極めがあれば「趣味」の解明は進む。就活のため履歴書の趣味欄をどう書くかから始まって、遍路から切手の消印収集、蕎麦打ちからヨガと、部立ての中の変転が面白い。終わり近く「趣味は○○と●●と▲▲」と三つずつ挙げる人々の例を示している。自分の体調、生活環境が変わっても何かしらの「暇つぶし」ができるようにという経験則だろう。で、我が趣味は何だろう。
読了日:9月8日 著者:高橋秀実
からくり民主主義からくり民主主義感想
違和感のある言葉の一つに「国民の声」がある。多くの人の声を代弁するかのような言葉だが実はどうなのだろう。世界遺産の白川郷、諫早湾干拓、オウムの施設があった上九一色村、米軍基地移設問題の辺野古、若狭湾の原発、自殺の名所青木ケ原などなど。どこでも本音と建前が交錯する。本音をなおざりにする姿勢では戦争責任を自問した伊丹万作の文章と同じだ。よくよく調査をし、正当な弱り方をし、できるだけ親切な文章にする。そう簡単にルポは書けない。後書きで村上春樹が書いている通り、自分が生きている社会の実像なのだから。筆者に敬意。
読了日:9月7日 著者:高橋秀実
彼のオートバイ、彼女の島〈2〉 (角川文庫)彼のオートバイ、彼女の島〈2〉 (角川文庫)感想
不思議な本です。自著を映画化したら、その映画を活字にしたら、という試みです。エンドロールが上がっていくまで書いてあるのも筆者の意図か。半組では紙面の天の部分が広く余白があり、活字は下寄せて組んであるのですが、角川文庫もこんな本を作っていたのだなとちょっと感慨。
読了日:9月3日 著者:片岡義男
辺境中毒! (集英社文庫)辺境中毒! (集英社文庫)感想
この本はいわゆる旅行記系の読み物も所収されてはいるけど、「冒険に持って行く本はどんなものがいいか」という視点で書いた書評の部分の方がおもしろい。サクサクと読めてしまう本は燃費が悪く、じっくり読み進めざるを得ない本が燃費がいいそうだ。確かに荷物が限られる中、この表現は妙。そして何より、最後の対談で出てくるのだけど、冒険に持参する本はどんな本がいいかといえば、よく燃えるものだという結論もいい。本って燃え上がるまでなかなか燃えないものですからねえ。遠い異境で読む日本趣味横溢の本というのはどんな味わいなのだろう。
読了日:9月3日 著者:高野秀行
謎の独立国家ソマリランド謎の独立国家ソマリランド感想
民主主義が生まれるまでの実証実験を見るような国ソマリランド。ソマリアというとアデン湾に出没する海賊と内戦のイメージが強いが違うところもある。丹念にルポした1冊。党の数を3つとし、選挙で選ぶ下院と氏族社会の伝統を反映する長老による上院で国政を動かすというのは日本より上出来な気さえする。この本の優れているところはソマリアという氏族社会をどう見立てたかという点。理解しやすくするために、源氏、平家、北条家など氏族に「あだ名」をつけて話を進めたり、「本家〜分家〜分分家〜分分分家」という表記をしたり。取材+表現の妙。
読了日:9月2日 著者:高野秀行

読書メーター
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2014年09月01日

★2014年8月に読んだ本。

2014年8月の読書メーター
読んだ本の数:17冊
読んだページ数:4542ページ
ナイス数:335ナイス

被差別部落の暮らしから (朝日文庫)被差別部落の暮らしから (朝日文庫)感想
被差別部落の問題は地域差がある。都市化の進捗でほとんど痕跡を残さぬまでになったエリアもあれば今も色濃く残っている地方もある。この1冊は長野での日々の暮らしはどう営まれてきたのか、ということを淡々と綴った1冊である。心に響く。言葉、食べるもの、衣類、仕事などなど。中でも貧困故に着たきりにならざるをえなかった暮らし、あるいは小学校で弁当を持参できない児童の話は胸が痛む。敬虔な仏教徒でありながら、逆に寺側が「差別戒名」や処遇の面で差別の淵源になっていたのには驚く。最終章は信州出身の小林一茶の句の解説。
読了日:8月29日 著者:中山英一
日本霊性論 (NHK出版新書 442)日本霊性論 (NHK出版新書 442)感想
一箇の生命体として感知できる感性を磨きましょうというのが内田の論点。人間が生き延びるために「裁き、学び、癒し、祈り」の4項目が大事であるとか、危険なものは大切なものと類似しているとか、あえて「空位」を作ることによって生まれるものの指摘など示唆に富む。ただレヴィナスが出てくると正直手に負えない感も。この感覚は一種の内田自身の法悦につながるから。釈は鈴木大拙の「日本的霊性」をテキストに「日本の宗教は空気が教義」と絵解きする。ただ個人的には阿部謹也の言う「世間論」に比べて狭い気も。あと法然&親鸞に傾きすぎ?
読了日:8月28日 著者:内田樹,釈徹宗
怨霊とは何か - 菅原道真・平将門・崇徳院 (中公新書)怨霊とは何か - 菅原道真・平将門・崇徳院 (中公新書)感想
恨みを残して死んだ人は祟る、という御霊信仰の入門書。具体的には菅原道真、平将門、崇徳院の3人を詳述し、後は後鳥羽院や後醍醐帝などを順次列挙していく。ただ新書である恨みが残る。御霊の発動の仕方とその対策を追うことが本旨であろうけど、時宗の僧が「陣僧」として戦場での回向を担当し、本来は霊魂の存在を教義に持たない禅宗が「怨親平等」と掲げて敵味方を同時に供養する宗旨となっていったことなどにもう少し筆を割いてほしかった。さらには島津氏の「高麗陣敵味方供養塔」の存在が明治期以降の忠霊塔や興亜観音につながるという点も。
読了日:8月28日 著者:山田雄司
ものの言いかた西東 (岩波新書)ものの言いかた西東 (岩波新書)感想
方言は語彙や発音の違いではなく、発想の違いであるという指摘が新鮮。人口密度、物の流通、北日本の同族組織型に対し南日本の年齢階梯型の社会組織等。背景の下に話し方が原初型から進化して社会性を帯びていく。発想が変わるから言葉も変わる。中でも時代によって変わる人口密度が大きな影響を残している気がします。というのは人口の集積の有無で、人との接触頻度が変わっていく訳ですから。筆者らが着眼点として挙げたのが次の7項目。発言性、定型性、分析性、加工性、客観性、配慮性、演出性−−委細は本を。第8章を先に読む方がいいかも。
読了日:8月27日 著者:小林隆,澤村美幸
山賊ダイアリー(5) (イブニングKC)山賊ダイアリー(5) (イブニングKC)感想
狩猟を続けていくことの難しさを感じます。結婚であったり、転居であったり。自然と身近な環境で生きるということは決して楽しいことばかりではないのですから。それと生活感に満ちた1冊になっている気がします。山菜、アメリカザリガニ、ヌートリア、ミドリガメ……。食べようとするものがだんだん陸自のレンジャー部隊のような感じになってきている気も。それとこの漫画の魅力である「地の文」が哲学的になっているような気もします。一方、身近にいる猟をするおんちゃんたちはもっと楽天的であるような。この冬の猟期もどんな経験をするのか?
読了日:8月27日 著者:岡本健太郎
愛唱歌ものがたり (岩波現代文庫)愛唱歌ものがたり (岩波現代文庫)感想
所謂「愛唱歌」の出自を探り、その作詞作曲歌手の遍歴とそのゆかりの人の証言を点綴していく、という手法を繰り返している本。新聞に連載しているときにはなかったけど、本という形になると、何ともいえない鬱屈感、違和感が募る。同じ手法を毎度踏襲していく所為だろうか。1篇1篇に込められた思いはよく分かるのだけど。まとめて読むという行為となるとつらい手法なのかもしれない。少し考えてしまった。
読了日:8月26日 著者:読売新聞文化部
完本 酔郷譚 (河出文庫)完本 酔郷譚 (河出文庫)感想
いろんなものを想起させられる。新古今集の本歌取り、能の数々「定家」「黒塚」「菊慈童」……、唐宋代、江戸時代の文人趣味、ひいては沼正三の「家畜人ヤプー」まで。数え切れないほどの先行作品や民俗学を下敷きにすることで、あたかも「文章のカクテル」が生まれる。少し囓っていれば何かの折に詞章は脳裏を駆け巡るものだ。文中で九鬼さんが慧君に振る舞うカクテルのように、読み手を別世界に誘う。本書は筆者の絶筆であると聞く。本の後半より前半の陶酔感こそこの1冊の身上だと思う。久しぶりに読んだ小説の世界、十二分に歓を尽くした。
読了日:8月25日 著者:倉橋由美子
あんこの本 何度でも食べたいあんこの本 何度でも食べたい感想
上品で美味しいあんこが食べたい。薄紫色になったような。あるいはねっとりとした黒糖の風味もいい。そんな日常的に起きている渇仰感を刺激、促進するような1冊。気軽にこういう菓子が食べられる環境にいる、というのが都会であると思う。本所一つ目の越後屋若狭、そして南青山の菊屋。ああ本当の水羊羹が變しい變しい。あと、アンパンマンの中身は粒あんであるとやなせたかしが定義しているのは初耳であったことよ。
読了日:8月24日 著者:姜尚美
学問と「世間」 (岩波新書)学問と「世間」 (岩波新書)感想
一連の「世間」の概念について、高等教育機関に於いての人文科学の発展ではどう考えればいいのかを説いた1冊。折しも大学での一般教養が廃止され、独法化がされた時期に重なる。欧州の研究を導入しても思考の停止があり、別世界の出来事のように論じられる現実を説く。打開のためには「現場主義」「生涯学習」などのキーワードを最後に提示している。日本人が本来生きている「世間」と公的な場所での「社会」。二重の世界構成が生む落差は今でも生きている。筆者はフッサールの著作を紹介しているが、個人的には佐藤直樹という人物が気になった。
読了日:8月24日 著者:阿部謹也
鮎の宿 (講談社文芸文庫)鮎の宿 (講談社文芸文庫)感想
師匠の志賀直哉葬送記を冒頭に据え、獅子文六、内田百ケンなどの作家の月旦を導入に、主に日経の文芸欄に書いた雑文を並べ、末尾は奈良京都の紀行文という結構。個人的におもしろかったのは、水交なる雑誌に寄せた一文。趣旨はサイレントネービーを旨とした旧日本海軍が時世時節の移ろうままに、妙に美化されすぎてはいないか、という戒めの一文。「アングルバー(鉄棒)でなにができる、フレキシブルワイヤー(鋼索)でなくてはいけない」と教えたことをネタに話が進むのですが、戦争体験を冷静に見る目に好感を持ちます。所謂、雑文の名手です。
読了日:8月23日 著者:阿川弘之
戦国大名の「外交」 (講談社選書メチエ)戦国大名の「外交」 (講談社選書メチエ)感想
知的な愉悦を刺激してくれる本。戦国大名というと戦に明け暮れ、粗野な人々というような先入観がある。でも実は他の領国との境界地域の人間を仲介に、自分の信頼できる部下を正使に、同盟を結んだり、中立地帯で話し合ったり、仲裁をしてもらったり。筆者の専門は甲州武田氏とのことですが、広く全国の戦国大名に目配りをして、蓋然性の高い立論を展開しています。在判か花押かという区別や書札礼という書式の様式、起請文の文言に至るまで、細かく気を配り、大義名分が立つように振る舞う。ウィーン会議で確立した欧州の外交様式にも似ています。
読了日:8月22日 著者:丸島和洋
桃の宿 (講談社文芸文庫)桃の宿 (講談社文芸文庫)感想
日経に連載した「私の履歴書」の抄録、長年の友人だった吉行淳之介、遠藤周作や、志賀直哉門下の先輩に当たる尾崎一雄の謦咳を綴ったものからなる。惜別の文章は難しい。臨終のスケッチになったり、葬式の段取りであったりと、親しいが故の難しさもあるがけど、これもまた記録文学なのかもしれない。むしろ交誼は深くないものの、向田邦子が事故死した時の感懐の味わいがいい。元々は多くの随筆集から再編してこの1冊が編まれた。単行本の頃に読んだ何編かは含まれているけど再読しても楽しい。編集者の力である。気がつけば筆者現在93歳だった。
読了日:8月18日 著者:阿川弘之
森の宿 (講談社文芸文庫)森の宿 (講談社文芸文庫)感想
淡々とした筆致と諧謔。50歳ごろに書いた文章には歯切れがいいし剽味がある。「論語知らずの論語読み」からの転戦。冒頭にある里見クの全集刊行祝賀会の逸話。案内された卓で宇野千代、小林秀雄、横山隆一ら鎌倉文士の長老らと居合わせた話や、今はなき東洋活性白土の機関車の話、船便で戦時中に赴任した上海を再訪する話などなど。そして師匠と思慕する志賀直哉への敬意が背筋を貫いているのが1冊の支えになっている気がする。説教臭と昔はよかった系が強い最近の作は性に合わないのだけど、このころの随筆は自分も影響を受けたのかと再認識。
読了日:8月17日 著者:阿川弘之
日本人の歴史意識―「世間」という視角から (岩波新書)日本人の歴史意識―「世間」という視角から (岩波新書)感想
断層のある1冊。日本文学回顧の部分と西欧の歴史の学徒のしての部分と。後者に引き摺り込むために前段がある。6〜9章を読めばよろしい。就中、9章を先に読むことをお勧めする。回りくどい筆者の論法をかなり回避できるから。言わんとするところは所謂西洋史学的「社会」という概念と、日本の民俗学的「世間」という概念は似て非なるものであるということに尽きる。後出しで被差別階層の話を持ち出してくるけど、違和感以外の何物でもない。「世間」という視角は根強いものだ。この1冊を読むにも「世間」を知りたいのが第一の動機である。
読了日:8月12日 著者:阿部謹也
論語知らずの論語読み (講談社文芸文庫)論語知らずの論語読み (講談社文芸文庫)感想
初版の再読。この版を選ぶ自分が悲しい。でも、この本と丸谷才一の「男のポケット」が我が身に及ぼした影響を考えると絶大で何も言えない。「徳ハ孤ナラズ、孤ハ徳ナラズ」と言い習わす遠藤周作をはじめ、筆者の交遊録の浩瀚さに思いをいたすしかないからだ。この文芸文庫のよろしさは解説と年譜の充実。さもなくはこの版を買う意味はない。でも(逆接が続くのは不愉快だが)この本が教えてくれたことはあまりに多すぎる。非カク三原則はさておき、今の安倍内閣に対して何で阿川は発言しないのか。「軽躁を嫌う」というのはこの人に教わったのだが。
読了日:8月8日 著者:阿川弘之
世にも奇妙なマラソン大会 (集英社文庫)世にも奇妙なマラソン大会 (集英社文庫)感想
表題作は真夜中に突如、西サハラで開催されるマラソン大会に出場を決意し、顛末をルポしたもの。むしろ、名前変更物語での悪戦苦闘ぶりに飄逸な味がある。タイから国外退去処分を受けている身ながらもう一度入国したくて奸計を巡らす話である。名前の読みを変更する、妻の姓に帰るなどなど、いろいろと取り組むものだ。最後の「謎のペルシア商人」は7編の掌編からなる。どれも読後感がサラッとしていて、なかなかの随筆に仕上がっているのがうれしい。中でも「ペルシャ商人」と「二十年後」はなかなかにホワッしている。さすがエンタメノンフ。
読了日:8月4日 著者:高野秀行
ヤバい日本経済ヤバい日本経済感想
日本を代表するエコノミストの鼎談による経済趨勢の分析本。3人がかなり高い水準(というか門外漢の私にはそう思える)で共通認識を持っているので、話のテンポについて行けない。対談本で取り残された感を味わうというのも久しぶりの経験。話は断片的な理解ながらすこぶる面白く、東洋経済の出す本は違うと思うのだけど、編集者が脚注か頭注を入れてくれないとついていけません。話し合っている方々は違和感がないのだろうけど。一つよく分かったのは経済というとすこぶる計量的に見えるけど、実は人間的な要素が左右している、のだというと。
読了日:8月4日 著者:山口正洋,山崎元,吉崎達彦

読書メーター
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2014年08月01日

☆7月に読んだ本。

2014年7月の読書メーター
読んだ本の数:13冊
読んだページ数:3630ページ
ナイス数:262ナイス

「世間」とは何か (講談社現代新書)「世間」とは何か (講談社現代新書)感想
鴻上本からの転移。ただ、この筆者の本、読む順番を間違えたようで、前段の世間とは何かという部分はさておき、その後はひたすら日本の文学作品の上での「世間」「世の中」「浮世」などという用語例を引用しながら、その背景を探っていく。俎上には記紀万葉から徒然草、真宗周辺、井原西鶴、漱石、藤村と広汎に渡るのだけど食い足りない。門外漢の小手先という感じで。筆者が「世間」という概念について思慮を深めた別の1冊が前提になるのだろう。ま、「吾輩は猫である」「坊っちゃん」が今も不磨たりえるのは個人の確立ゆえというのは分かるが。
読了日:7月30日 著者:阿部謹也
「空気」と「世間」 (講談社現代新書)「空気」と「世間」 (講談社現代新書)感想
震災前の本。「KY」なんていう言葉が元気だった時代。でも本質は今も変わっていない。個が構成する社会との対立概念「世間」というもののの実態を解く。曰く1)贈与互酬2)長幼の序3)共通の時間認識4)差別的かつ排他的5)神秘性。阿部謹也の著作を要約しながら話を進める。で、この世間の形態が崩壊し、流動化した結果が「空気」という概念であると説く。地方に住んでいて「世間」は確実に崩れつつあり、空気を醸成するだけの人口もいないという現実。考えさせることは多い。打開のために異社会との交流を説くが現実的な処方箋なりや?
読了日:7月26日 著者:鴻上尚史
快楽の動詞 (文春文庫)快楽の動詞 (文春文庫)感想
山田詠美版「文学部唯野教授」という風情。掌編小説の連作集なのだけど、時代相が変わってしまったのだなあ、と改めて思う。
読了日:7月23日 著者:山田詠美
眞説 光クラブ事件  戦後金融犯罪の真実と闇 (角川文庫)眞説 光クラブ事件 戦後金融犯罪の真実と闇 (角川文庫)感想
東大法科の同窓生への取材の中で当時、人付き合いの悪い人間が2人いたという。主人公山崎晃嗣と平岡公威。この山崎の生い立ちから戦争体験、学生高利貸しから自殺に走る姿までを取材を通して描きつつ、一方で三島由紀夫の「青の時代」を状況証拠に使いながら文章は進む。戦争体験が影響が後の人生に影響を与えたのを示す一方、犀利な知性と幼稚さの同居ぶり、余りに世間知らずな様は驚くばかり。アプレゲール犯罪というレッテルは間違いであるのがよく分かる。この生き方は彼なりの戦争への総括だったのかもしれない。今も共通する何かがある。
読了日:7月23日 著者:保阪正康
計量言語学入門計量言語学入門感想
内容が古すぎ。前段部分だけを読むためなら、図書館で十分でしょう。正直のところ期待はずれです。
読了日:7月21日 著者:伊藤雅光
新装版 アメリカの日本空襲にモラルはあったか―戦略爆撃の道義的問題新装版 アメリカの日本空襲にモラルはあったか―戦略爆撃の道義的問題感想
この本によれば、日本本土で大規模な焼夷弾攻撃をし、原子爆弾を投下した米軍では一義的に「戦争の早期終結」が最大の目標であり、バターン死の行進の如き日本軍の残虐非道ぶりの前には無辜の非戦闘員を巻き込むことも致し方なく、民家を殲滅することは家内制手工業で作られる軍事部品の生産を阻害する有効な手段と判断した、ということがよく分かります。早くから焼夷弾による絨毯爆撃を企図していた米軍。欧州戦線での対応との差が際立ちます。やはりこういう行為は爆弾を投下する時、地上で何が起きているか考えない人ができる任務のようです。
読了日:7月18日 著者:ロナルドシェイファー
ないもの、ありますないもの、あります感想
「舌鼓」「転ばぬ先の杖」「大風呂敷」「取らぬ狸の皮ジャンパー」などなど、言葉の遊び、あやを取り上げ、まじめ腐って解説してみた1冊。読み終わってみて、個人的には何となく切れ味が欠けるなあという感じ。再読するかといえばしないし、あわいに流してしまおうかとおもっています。
読了日:7月15日 著者:クラフト・エヴィング商會
カクレキリシタンの実像: 日本人のキリスト教理解と受容カクレキリシタンの実像: 日本人のキリスト教理解と受容感想
切支丹禁教に始まった「隠れ切支丹」の歴史であるが、筆者はキリスト教を日本に伝えた宣教師不足が「コンフラリア(平信徒の組織)」の発達を招き、仏教や神道、修験道、加持祈祷にまじないにまで信心を広げ、普通に暮らしてきた故に伝わったのではないかと説く。「隠れ」の意識はなく、近代に至って教派神道のような形で信仰を表明することが求められるようになって「隠れ」という立場を認識したのではないかと分析する。クリスマスを祝い、初詣には神社仏閣を訪れる今の日本人の信仰形態は案外原初的に持っていたものに過ぎないのかもしれない。
読了日:7月14日 著者:宮崎賢太郎
第一次世界大戦と日本 (講談社現代新書)第一次世界大戦と日本 (講談社現代新書)感想
主戦場は日本から遠く離れた欧州でもその影響が甚大だったことが分かります。曰く金の流れ、外交。五大国という呼び名が登場したころ、その意味するところを冷静に考えていれば、と改めて思います。社会格差、女性の社会進出、大量消費と進んだ末の関東大震災、戦後不況。本の構成が、外交、軍事、政治、経済、文化の部立てになっているので、相互の関連を理解させるための年表が付いていないのが怨み。遠い戦役が日本のその後に大きな影響を与えることが最も得心が行くのではないかと。それにしてもどうして「軽躁」という言葉が脳裏を離れない。
読了日:7月13日 著者:井上寿一
文学報国会の時代文学報国会の時代感想
15年戦争末期、日本では「日本文学報国会」なる組織が作られ、文学者の大半、約3千人が所属した。戦雲急迫の中、相手の懐に飛び込んで意を通そうとして失敗した者、迎合した者、ナショナリズムの高揚感に身を委ねた者。結末は言うまでもない。戦争は始まればどうしようもないものなのだから。一方、別世界に沈潜する、韜晦、沈黙、非協力の者も。世の流れを止めるエネルギーはなくても余計者に徹するという消極的抵抗−−賛成論が力を持つためには反対論が必要、なら非協力も一つの戦略というのが筆者の結論。常に良心を貫くのが肝要、である。
読了日:7月12日 著者:吉野孝雄
昭和天皇 「よもの海」の謎 (新潮選書)昭和天皇 「よもの海」の謎 (新潮選書)感想
「よもの海みなはらからと思ふ世になど波風のたちさわぐらむ」とは明治天皇の御製。太平洋戦争開戦決定への御前会議で昭和天皇が読み上げたことで知られる1首である。この1首を巡っての謎解きが縦糸。「天皇ハ國ノ元首ニシテ統治權ヲ總攬」という立場ながら意思をなぜ通さなかったのかを関わった人物の証言、聞き書き、行状を綴ることを横糸に話は進む。天皇機関説と天皇主権説、陸海軍の思惑の交錯とそれに絡む皇族、あるいは自己保身のために言説を曲げる者も。入江相政、徳川義寛と2代の侍従長も。菊のカーテンの内側は今尚、深淵である。
読了日:7月11日 著者:平山周吉
スエズ運河を消せ―トリックで戦った男たちスエズ運河を消せ―トリックで戦った男たち感想
「ナチスを欺いた死体」がそこそこに面白かったので、期待していたのですが話が散漫で、ちょっと期待外れでした。
読了日:7月10日 著者:デヴィッド・フィッシャー
ポエムに万歳!ポエムに万歳!感想
ポエムってどういうことかというと、筆者の言うのは「安直な人情噺」のことを指しているのだろうか。確かに1サッカー選手の引退声明であれ、今の首相の「家族が乗っている船を護衛できない」みたいな感情的な論理展開であったり。論理的な文章をすべて超越してしまうのが「ポエムの力」なのかもしれない。でもポエムを求めたのは誰なのか。論理的な文章は下手をすると「上から目線」という評価の言葉になる。求める人がいるからポエムが幅をきかせるようになっただけではないのか。正直のところ、ポエム論より後段の文の方がおもしろかった。
読了日:7月7日 著者:小田嶋隆

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2014年07月01日

★6月に読んだ本。

2014年6月の読書メーター
読んだ本の数:18冊
読んだページ数:4298ページ
ナイス数:336ナイス

鹿洲公案―清朝地方裁判官の記録 (東洋文庫 (92))鹿洲公案―清朝地方裁判官の記録 (東洋文庫 (92))感想
18世紀の清朝の地方官が広東省の沿岸部潮陽県知事中の出来事を記した本。人間の性格の形成は3世代100年はかかると思うけど、単なる裁判録というより民衆の行状記として興味深い。というのは、今の中国で抱え込んでいる問題の祖型を見る思いがするからだ。癒着してクズ米を売る、墓を暴いて強請りの種を作る、豚の血で書いた血書を利用したり、結納金目当てで重婚させたり、邪教をネタに金稼ぎしたり。そんな曲者を彩る三百代言、学生崩れ……。裏仕掛けで動く上司の横車で解決できなかったことも。中央集権、法治国家、官僚制の面目躍如。
読了日:6月29日 著者:藍鼎元
大空襲と原爆は本当に必要だったのか大空襲と原爆は本当に必要だったのか感想
筆者は英哲学者。第2次大戦下での独、日での地域爆撃、原爆投下の是非について論じた1冊です。しかも英側の史料のみを駆使し、ハンブルグ空襲を中心の例に無差別爆撃は非効率で非人道的なことを論証していく。「死者を減らし、戦争を短期化するのが目的と言われた。このような非人道的手段を正当化するのは力は正義なりというナチの哲学と同じ」という一文を引く。都合が悪くても自国の歴史を直視する姿勢こそ、成熟した市民の姿勢であることを示す。さて読後、浮かんだこと一つ。会津藩内の子供の掟の一条だ。「ならぬものはならぬのです」と。
読了日:6月23日 著者:A・C・グレイリング
書物の達人 丸谷才一 (集英社新書)書物の達人 丸谷才一 (集英社新書)感想
読みの達者が論じるとこうなるのだろうけど、個人的には和歌、民俗の専門家の岡野弘彦、歌舞伎の見巧者・関容子の章が一番面白かった。多分、丸谷才一は小説家ではなく随筆家として見ている自分のゆえだろう。だから逆にほう、そんなものかと思い知ること点も多々。文中で「作家は処女作に向けて熟成していく」という亀井勝一郎の言葉を鹿島茂が紹介しているけど、少なくとも丸谷の随筆は「男のポケット」に向かっての歴史だったのは実感している訳で、なるほどと思ったり。元は世田谷文学館での連続講演で才人丸谷の全体像を振り返るに好個の1冊。
読了日:6月23日 著者:川本三郎,湯川豊,岡野弘彦,鹿島茂,関容子
野球の国 (光文社文庫)野球の国 (光文社文庫)感想
昔。日本ではあることないことを繋ぎ合わせて書くような夕刊紙の元記者や週刊誌記者の野球の読み物しかなかった(スポーツジャーナリズムなんていう言葉のない時代だ)。同じころ、米国にはロジャー・エンジェルのような書き手がいた。駆け出しの野球記者だったころ、そんな空気に憧れて、大洋のキャンプ地・宜野湾球場のスタンドに座った朝を思い出す。玉木正之と初めて会ったのもその頃。奥田のこの本を読んでいて、そんな時代を思い出した。この本の題材は内容はいささか時代を感じさせるけど、野球の力っていいなあ、と思うのであります。
読了日:6月22日 著者:奥田英朗
泳いで帰れ (光文社文庫)泳いで帰れ (光文社文庫)感想
シドニー五輪観戦記が村上春樹の「シドニー」なら、アテネ五輪はこの1冊だ。中畑が代理指揮を執った野球の話題を縦糸に、柔道や陸上の観戦やアテネでの日々、観客席での席取りから埒外で起こっていた体操男子団体の優勝まで。本当のテーマは「旅の効用」だ。「思い切って出かけると多少は利口になって帰ってくる。行って損したと思ったことはない」といい、「旅の経験は心の中で推敲される。大半の出来事が忘れ去られ、ほんの少しの出来事が記憶として残る」と。表題は日本野球が銅になった時、筆者の思い付いた罵声。こんな風にいえる客が欲しい。
読了日:6月21日 著者:奥田英朗
用もないのに (文春文庫)用もないのに (文春文庫)感想
北京五輪の野球−−天安門では「世界人民大団結万歳 やや不安な感じもする。日本人は団結する恐ろしさを六十数年前に知りましたから」と記す。「わたしは、コメント欲しさに媚を売るぶら下がり記者ではない。ドラマを捏造してスポーツを汚すな」なんていう記述は胸がすく。ニューヨーク漫遊記、楽天の仙台初戦ルポ、雨の中のフジロック等々ルポの名手である。富士急ハイランドのフジヤマ行は「現役意識とはいつ決別しなければならないのか」という警句で始まる。巧い。就中「四国お遍路歩き旅」は秀逸。道路縁を肩身狭くあるく姿。将に実像である。
読了日:6月20日 著者:奥田英朗
港町食堂 (新潮文庫)港町食堂 (新潮文庫)感想
この本を薦めてくれた後輩に感謝。面白い。文が短くリズムがいい。不思議な口語調で真似できそうでできない。物を食べてばかりいる感じだけど警句が混じる。「旅は人を感傷的にする。そこで暮らす人にふれあいを期待するのはありていに言って図々しい。少なくともわたしはその温度差に自覚的でありたい」とか「独り者は不便じゃ」とか。女川を訪ねた時は「さびれた漁村でいくのか、原発を受け入れて豊かな生活を手にいれるのか。原発に万一のことがあったときは町ごと滅びる」−−2005年刊の本だけど、3・11後はどう思ったか、興味がある。
読了日:6月19日 著者:奥田英朗
坂元雪鳥能評全集 (1972年)坂元雪鳥能評全集 (1972年)感想
読み終わったのはこの本の底本になった方の畝傍書房版。1943年、戦雲急を告げる中でよく豪華な造本の本がつくられたと思うほど。
読了日:6月18日 著者:坂元雪鳥,秋葉安太郎
未完の憲法未完の憲法感想
2013年の本。2人の憲法学者が語り合った内容は今も新鮮。でもそれ以上に政治が憲法を無視した形で進むもどかしさ。「法の支配というものは専門の法律家であれば誰が解釈しても同じ結論が出る。それが法の支配で、人の支配ではない。人に法解釈を任せる人は法の支配という概念が分かっていない」と木村は断じているのだけど。序段の章にある「立憲主義」には「立憲君主制」に根差したものもあるという指摘が当たっていたというべきか。解釈改憲をした後、何がしたいのか? そんな程度のビジョンもないいまま流れていく怖さを改めて感じる。
読了日:6月17日 著者:奥平康弘,木村草太
天切り松闇がたり 第五巻 ライムライト天切り松闇がたり 第五巻 ライムライト感想
文庫化が待ち切れずに珍しく単行本を買う。9年ぶりの新刊、歌舞伎の渡り台詞を読んでいるような独特のリズムは健在。6篇収められている中では前3篇がいい。義理を通すという立場で有無を言わさぬ筋を通す話、惚れられた男の思いを受け止めつつサラリと人情を切り分ける手筋、希代の箱師が見せた恩と、どれも長短付けがたい。山田風太郎の明治ものに似て、思わぬ時代の綾を綴って縦横に織り重ねていく虚実が背景にあるところへ、登場人物の立ち居振る舞いの水際立った様が爽快感を生む。やはり文庫化まで待たずに良かった。そう思える浅田の1冊。
読了日:6月14日 著者:浅田次郎
ビゴーが見た日本人 (講談社学術文庫 (1499))ビゴーが見た日本人 (講談社学術文庫 (1499))感想
仏人戯画家、というラベルを貼ってしまっては実像を見誤る。正統的写実派の画業を修め、浮世絵の文化を探りたいと来日した御仁で、写実的な作風から写真が一般的ではなかった時代の世相を映す作を残しているのだ。新聞でも画家が腕を振るっていた時代である。ただ、この人は小心な皮肉屋だったみたいで、日本の姿を戯画的に描かずにはおれなかったのだろう。所収している市井の人間の姿を見ると文明国からの上から目線ではあるけど当時の日本の姿は伝わってくる。なお「絵で書いた日本人論−−ジョルジュ・ビゴーの世界」(中央公論社刊)の改題。
読了日:6月13日 著者:清水勲
『枕草子』の歴史学: 春は曙の謎を解く (選書916)『枕草子』の歴史学: 春は曙の謎を解く (選書916)感想
期待していたほどの「読んだぞ」感はなかった。昔の国文学徒とすればこういう読み方はごく当たり前のことで、公卿補任、尊卑分脈といった基礎文献から小右記のような公家の日記に至るまで博索、短い文章に記号の如く書かれる人物像を探り当てたり、年代同定をしたり。この本の親身はそれを部立てにしてみせたことだろう。言い換えれば枕草子の諸本の中で、雑纂本と類纂本があるように、この本は筆者の恣意による「堺本」といった風情だった。推論は推論で結構だけど、同じ朝日選書でも角田文衛の「平家後抄」を読み終えた時のような驚きには薄い。
読了日:6月12日 著者:五味文彦
唐物の文化史――舶来品からみた日本 (岩波新書)唐物の文化史――舶来品からみた日本 (岩波新書)感想
「舶来品」という言葉が価値を失って久しいけど、正倉院御物から王朝文化の時代、平清盛の日宋貿易、足利義満の日明貿易、そして江戸時代の出島での交易に至るまで、さまざまな局面で「舶来品」が日本の文化に彩り、影響を与えてきたのは言うまでもない。この言葉をキーに日本史をスパッと唐竹割りにした1冊。割れた竹の中にはいろんな文物が詰まっている。窯変天目れあれ、銘馬蝗絆(かすがいで継いだ青磁)の碗であれ、珍重し、受け入れるだけでなく自分の価値観に合わせていくところが面白い。何とも実直な書きぶりで、好感がもてる内容。
読了日:6月12日 著者:河添房江
日本国勢図会〈2014/15〉―日本がわかるデータブック日本国勢図会〈2014/15〉―日本がわかるデータブック感想
この本を読むのは38年ぶりだ。高校の地理の授業で使って以来。当時、恩師は「統計だけでなく地の文が面白い」と言ったがその通りだ。本のネタを拾っていけば優秀な代議士も勤まる。国土と気候から始まって人口、エネルギー、産業、貿易、物価、財政、サービス、社会福祉、環境、防衛まで網羅している。中で面白いのが波線で囲われた解説欄。要旨簡潔だ。ウクライナ情勢、領土問題の経緯、今冬の豪雪、電力システム改革、3Dプリンター、ジェネリック家電、消費税の歩み、特殊詐欺等々。数字に目を転じればまた刮目。地に足が付いた知識の宝庫だ。
読了日:6月8日 著者:
江戸の備忘録 (文春文庫)江戸の備忘録 (文春文庫)感想
元々は朝日新聞土曜版の連載。連載のゆえに、1篇の分量が少ない気もする。ネタはふた転がししてオチをつけるとちょうどおもしろい寸法のような気がするのだけど、そのリズムには少しかける。それでもなお面白いと思うのは古文書を読み込んでいること、そして時空を超えての比較があることだろう。例えば公務員定数の問題、織豊時代から太平洋戦争下、あるいは戦後にまで目を配っての比較や、江戸時代の少子化対策、あるいは庄屋総選挙などなど、筆者の取り上げるエポックが今の時代に問いかけるものは多い。今に引き付ける力が興趣の原動力である。
読了日:6月7日 著者:磯田道史
どちらとも言えません (文春文庫)どちらとも言えません (文春文庫)感想
スポーツをネタに縦横無尽に筆を進めた随筆集。元々はナンバーの連載だったという。時期とすれば前回のW杯前後。奥田が一番言いたいことは、最後の1篇、スポーツはやって楽しく、見て楽しく、話して楽しい--それを実践したのがこの1冊である。北の湖や江川に見る悪役の存在感、野球には向いてもサッカーには向かない(と筆者はいう、僕もそう思う)という立論、あるいはプロ野球の選手権試合が国民的行事だった時代の話など、昭和の匂いをどこかに身にまといながら、単なる思い出話に終わらせないところが技だろう。真夏の剣道部の叙述は出色。
読了日:6月5日 著者:奥田英朗
日本語スケッチ帳 (岩波新書)日本語スケッチ帳 (岩波新書)感想
1篇2〜3ページほどの掌編が続く。拾い読みもよし、通読もよし。個人的には「米を炊く、大根を炊く」「米を炊く、大根を煮る」「米を煮る、大根を煮る」という地域別の使い分けにみる言葉の伝播の話や、ポツダム宣言発表時の鈴木貫太郎内閣の発言が「黙殺する→無視する→拒絶する」と変じた翻訳の綾であったり、「カード、カルタ、カルテ」と用途によって変じる日本語の不思議であったり。筆者の視点が単に国内にとどまらず、海外から見た時の「日本語」であることがスケッチに陰影を与えている。何冊か読んでみたいと思った本も出てきた。
読了日:6月2日 著者:田中章夫
日本語の考古学 (岩波新書)日本語の考古学 (岩波新書)感想
国文専攻の授業のような内容です。定家本土左日記を題材にした授業を思い出してしまった。中で「最終章のテキストの完成とは」という項目が一般的に受け入れられる題材かも。たとえ版本でも書き込みをすることで初めて完成するし(謡本なんてつい最近までそう)、今の活字本でも表記の変化が続いている訳で、文字の大きさや行が揃っているという状態は長い歴史の中ではほんの短いことでしかないのだという指摘。今はテキストファイルが原初形になり、電子化が進むとなれば、どう享受されていくのだろう、と思ってしまいます。形が残らないのだから。
読了日:6月1日 著者:今野真二

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2014年06月01日

5月に読んだ本。

2014年5月の読書メーター
読んだ本の数:12冊
読んだページ数:2888ページ
ナイス数:223ナイス

鉄道でゆく凸凹地形の旅 (朝日新書)鉄道でゆく凸凹地形の旅 (朝日新書)感想
私見です。ひどい本です。散漫で、書いてある内容が印象批評の域、もっといえば見たまま聞いたままの取材メモの域を出ていないようなものだからです。東京都内の地下鉄(丸ノ内線、大江戸線)や山手線の高低比較をするのなら、それで1冊きちっと作ればいい。そうでもなく、メモ書きのような高低図を書き、説明もいささか手抜き。で、それ以外の部分も、ササッとしたメモ書きを項目立てしているので読みにくい上に軽薄。既出のものも地図をきちっと掲載して説明する良心を失ったのなら、こういう本は上梓すべきではない。筆者、編集者の見識を疑う。
読了日:5月30日 著者:今尾恵介
能楽研究講義録―六十年の足跡を顧みつつ能楽研究講義録―六十年の足跡を顧みつつ感想
参った。表章は横道萬里雄と共に旧大系本の謡曲集の筆者であり、戦後の能楽研究の第一人者なのは誰も認めるところ。横道が音楽的側面を含めて天才肌とすれば表は努力型である。史料を読み込み、底本を確かめ、読み解き、立論する。一つの業績が胎蔵曼荼羅のように広がっていく。一編の原稿でも凡俗なら大業績になるのに。本書は講義録なので執筆当時考えたこと、周囲の人の月旦や自身の業績への評価、後の展開など、率直に言及しているのが興味深い。この分野に限らず、研究者の矜恃とは、を示す1冊でもある。表は鬼籍に入ったが猶、畏怖べきか。
読了日:5月28日 著者:表章
ウはウミウシのウ―シュノーケル偏愛旅行記 (白水uブックス)ウはウミウシのウ―シュノーケル偏愛旅行記 (白水uブックス)感想
シュノーケリングが趣味の筆者が東南アジアを中心に経巡る旅行記。所謂、スキューバではないので深度も潜水時間も限られる中、好みの生き物を見つけて、その面白さを説く。曰くウミウシ、アメフラシ、エイ、イカ、イソギンチャク………。その挿絵も秀逸だし、楽しみ方が生き方の範とするに足る。ウラヤマシイ。ぜひ、私も本を買ったところによって発生する印税を有効に活用されんことを祈る。
読了日:5月24日 著者:宮田珠己
日本一周3016湯 (幻冬舎新書)日本一周3016湯 (幻冬舎新書)感想
統計には標本調査と全数調査(悉皆調査)と2手法がある。筆者は後者の手法を選んだ。章が進んでいくにつれ、書くことに自信が漲る。本書は、本文と脚注からなる。脚注は経巡った温泉の全数の記述。本文は1泉は4〜5行ほど。1日8泉を目標に過ごした生活リズムが伝わってくる。挙げている好きな温泉の条件「ぬるめ、掛け流し、硫黄臭、泡」というのも納得がいく。温泉街の公衆浴場を勧めているのもいい。会社を辞めてまで取り組んだ温泉制覇の旅。3016湯に入って、経費は449万円余だったそうだ。数で温泉を語る。新しい試みである
読了日:5月21日 著者:高橋一喜
旅の理不尽 アジア悶絶編 (ちくま文庫)旅の理不尽 アジア悶絶編 (ちくま文庫)感想
筆者の処女作。若書きとも思えるけど、何か新鮮。何が一番秀逸と思うのは「あとがき」と解説。自費出版の後、小学館文庫に入った時と、ちくま文庫に入った時のが付いていて、猶且、2度の蔵前仁一の解説が付いている。宮田珠己の作家としての生い立ちから、今に至るまでの経緯がよくわかる部分であります。「これまでの旅行記が海外の真実の姿をとらえ、真摯な姿勢で伝えなければならないという使命を帯びていたのに比べ、そういうところからかるがると解き放たれている」という蔵前の一文が全てだ。ステロタイプの台本を脱却したのが価値なのだ。
読了日:5月18日 著者:宮田珠己
一揆の原理 日本中世の一揆から現代のSNSまで一揆の原理 日本中世の一揆から現代のSNSまで感想
「一揆」というと暴力革命という印象ながら「体制を維持した上での契約履行を求める運動」との見立てが新鮮。初期の土一揆、国人一揆、土一揆、国一揆、一向一揆の如き宗教一揆に至るまで説明がつくというのは明快だ。ただ「御用組合」のように事前の了解があってすべて説明がつくというのは??? 一方FBの「いいね!」と一揆の連署は同じ心情という説明は面白いし当たっている。ただここまで明快に切り捌かれるとかつて素敵と思った日高晋の「日本経済のトポス」を思い出す。この本、マル経学者の1冊。律令制から日本を読み解いた本だったが。
読了日:5月16日 著者:呉座勇一
憲法遺言 憲法随想 憲法うらおもて 私の履歴書 (金森徳次郎著作集)憲法遺言 憲法随想 憲法うらおもて 私の履歴書 (金森徳次郎著作集)感想
明治憲法の解釈の根本資料としては伊藤博文の「憲法義解」がある。その点で、現行憲法の生みの親の一人である筆者の解釈注釈は制定当時の人間の意を汲む上で参考になる。現憲法は旧憲法の「改正」という意識を繰り返しているのは興味深い。昨今課題の9条絡みではこう記している。抄記すると「もし再軍備をするとなれば、統帥権の所在が明記されることが好ましい。内閣に属するよりほかの道はないと思うが、政治の波に変化する内閣ではなく、露骨に変化することのない内閣に属さしめねばならない」と。政治の波に翻弄されぬ行政府など望蜀の嘆、か。
読了日:5月14日 著者:金森徳次郎
天皇と葬儀: 日本人の死生観 (新潮選書)天皇と葬儀: 日本人の死生観 (新潮選書)感想
天皇の葬送儀礼を綴っていくことで、日本という国のある一面をプレパラートに載せることに成功した本。蘇生を期待する儀礼があった時代、火葬なのか土葬なのか、天皇が「不在」となることがないように腐心した時代。天皇制を利用することを意図しながら逆の目がでた徳川幕府と江戸時代。本の半分を占めるのは明治以降の儀礼。皇室の伝統のように言われる部分がこの時代の創造であることを示している。象徴天皇制が定着して約70年。なお整理しきれないものもある。家父長、家の文化が消滅しつつある今、その答えを見つけるのは難しいかも。
読了日:5月10日 著者:井上亮
戦争の日本中世史: 「下剋上」は本当にあったのか (新潮選書)戦争の日本中世史: 「下剋上」は本当にあったのか (新潮選書)感想
日本史の教科書で習った知識で言えば元寇から応仁の乱までの間、かく国内が激動していたのかと蒙を啓かれる思い。筆者の言うように「階級闘争史観」を通して考えていたから、という部分もるけど、戦で武士が東奔西走していたのか、と。権謀術数に明け暮れた時世に「無為」という妥協の立場をとることが意外や安穏を齎すことを今の世の相似形と見るのは一理。「猛きに逸る」者が闊歩する一方、実は兼好や長明のような人物が出たり、能が成立したり、営々と二十一代集が編纂されたり。本書が挙げる文書では読み切れない何かがあるのだろうけど。上々!
読了日:5月8日 著者:呉座勇一
煙管の芸談煙管の芸談感想
歌舞伎の舞台に登場するタバコ、酒、水の名場面を取り上げ一篇の随筆に仕立てた作品集。「たばこと塩の博物館」関係の雑誌連載で、紫煙に何かと五月蠅い昨今、こう堂々と賛美の原稿となるとこの向きの媒体しか書けないかも。版元も大手ではない。原稿の中では、「村芝居は嫌い」という筆者が豊田市郊外の地芝居で「熊谷陣屋」を見て驚く話がいい。そこには古い歌舞伎の型が残っていたからだ。地方巡業を打った役者の型がそのままに伝えられたということになるのだけど、都会の芝居だけ見ていては分からぬこともある。一種の「蝸牛考」なのかも。
読了日:5月6日 著者:渡辺保
四次元温泉日記四次元温泉日記感想
会社の元上司、仕事仲間の3人で出掛ける温泉紀行。風呂に入るのが面倒なので温泉に興味がないと言う筆者が温泉に目覚めるまでの道のりが綴られる。おっさんの旅行故、目的地で勝手に合流し分かれていく。途中はメールのやりとりをするそうだが「人間、おっさんともなれば寂しさと自己顕示欲が制御しきれないのか、自由行動のおっさん三人旅は現状報告メールがどかどか飛び交う不思議な展開になっている」と記しているのがこの本の本質かもしれない。言うように、温泉に行きたいと思っても湯に浸かりっぱなしではない。何もしないのが値打ちなのだ。
読了日:5月3日 著者:宮田珠己
日本全国津々うりゃうりゃ日本全国津々うりゃうりゃ感想
最初から書籍になることを想定した書き方と、Webで連載の書き方とは自ずと異なる。その点でこの本は元々廣済堂よみものWebの連載、後者であるということを如実に示した本なのかもしれない。テーマは一連の旅随筆というか珍道中ものである。ネタに飽かして自宅の庭や故郷千里ニュータウンをルポするのは蛇足だが、エボックの切り出しとしてしまなみ海道や名古屋の造形美を訪ねる旅は楽しい。ただ、文章が活字になっていると、語尾に続く「だった」が気になり出したり、「である」という語尾が妙に浮いて見えたり。なぜなのか分からぬけど……。
読了日:5月1日 著者:宮田珠己

読書メーター
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2014年05月01日

4月に読んだ本。

2014年4月の読書メーター
読んだ本の数:12冊
読んだページ数:3763ページ
ナイス数:232ナイス

辞書になった男 ケンボー先生と山田先生辞書になった男 ケンボー先生と山田先生感想
見坊豪紀と山田忠雄。三省堂発行の2種の国語辞典の作成に関わる話である。NHK番組の活字化。東大国文科の同級生が方や辞書作りに関わり、もう一方は誘われるままに同じ世界に。見坊は客観・短文・現代的を旨とする「三国」を、山田は主観・長文・規範的を特徴とする「新解」を作った。学者たるもの一国一城の主、主張はあるし、見識を世に問いたいと思うのは当たり前だし、版元との関係で印税や原稿料などの報酬の問題もある。我欲に由来する確執を「お話」に仕立てた訳だけど下世話に堕さなかったのが救い。国語辞典はやはり工具書だと思う。
読了日:4月29日 著者:佐々木健一
日本全国もっと津々うりゃうりゃ日本全国もっと津々うりゃうりゃ感想
本篇より先に続篇を読んでしまった。でも何も齟齬を来すところはない。編集者とともに全国を経巡り歩く話である。例え自分が行ったことがある土地でも目の付けどころが違い過ぎて、目から鱗状態である。長崎編に出てくる出島の懐旧−−オランダ人は小さい空間に閉じ込められ暇だったろうし。奄美大島のスノーケリングは楽しそうであります。楽しくて面白いことを書くのに、読者にもそう思わせるためには並外れた筆力やリズムが必要な訳で、見事に巻き込まれてしまう快感は格別。ただ編集者という存在が筆者の本来の「詰め」を甘くしている気もする。
読了日:4月27日 著者:宮田珠己
ときどき意味もなくずんずん歩く (幻冬舎文庫)ときどき意味もなくずんずん歩く (幻冬舎文庫)感想
宮田珠己という作家には習慣性と言うか、中毒性がある。 「だいたい四国……」を読んでからというもの、立て続けにハマっている。全編通して横溢するのは「それあるある」と「そこまではせんぞ、オレは」という心境が入り混じる。意味もなく奈良を目指したり、次々とアウトドアスポーツに挑戦したり、道楽で始めたジェットコースター巡りから評論家にされたり。ただ、この饒舌に過ぎる文体は真似をしようがないし、本当に自分の望むことを追求してそれが本になるというこの人の僥倖(多分努力も)を妬ましく思うばかりであります。脱力と脱帽と。
読了日:4月27日 著者:宮田珠己
へうげもの(18) (モーニングKC)へうげもの(18) (モーニングKC)感想
「一読三嘆」という言葉があるけど、この本は「一読三?」である。大筋の話が大団円に向かう中、あれもこれもと道具立てが多くなるし、プロットも仕掛けなければならない。でもそれはそれ。1巻からの読者としては???の連続なのである。これは漫画を読む力が年齢的に衰えたとしかいいようがない事実をこの作者は言外に教えてくれているのかもしれぬ。それにつけても???というプロットが多すぎる。どうまとめていいのか分からない。
読了日:4月25日 著者:山田芳裕
蔦重の教え蔦重の教え感想
勧奨退職となった会社員が江戸時代の吉原のお歯黒ドブに転生する。出会ったのが版元として知られた蔦屋重三郎。出会いから現世に戻って、第2の人生を歩き出すまでを書く。で、気になったのが巻末の「蔦重の教え」なる1章。自分の小説で「ここが教訓になりますよ」といちいち書くか。それこそ無粋だ。筋立て、小道具等々、オッと思うことあるのに。小説? ビジネス書? 「おまえに教えてやるよ。人生の勘どころってやつを。」と帯にあるのだけど、大きなお世話だと言いたくなるのは小拙の臍曲がりの性のゆえか。「九仞の功を一簣に欠く」、か。
読了日:4月24日 著者:車浮代
創作の極意と掟創作の極意と掟感想
筒井康隆はすごいと思う。ここまで自己分析をしながらものを書いているということに対して。ただ、個人的な印象を言えば「文学部唯野教授」の読後感の方が遥かに衝撃的だったような気がする。それは時代性なのか? 戯画化するべき対象が脆弱化しているゆえか。種種の切り口で小説を分析するのだけど、作例が自身かヘミングウェイに戻ってしまうのはそんな限界を示している気がする。読み、分析し、書いて見せてきた文筆業の成果がこれである、というのはかなり違う気がしてならない。何かを企んでいるのではないか? 訝る自分が既に術中にあるか。
読了日:4月21日 著者:筒井康隆
有次と庖丁有次と庖丁感想
有次といえば京都の調理器具店。打ち出しの鍋、網、おろし金、そして包丁が名高い。プロの料理人が愛用するというその包丁は確かに切れ味が抜群、素人でも振るうのが楽しくなる。ただ、手入れは丹念にしないとすぐ錆びるし、切れ味も鈍る。それでもなお、魅力的なのはその背後に人を感じるからだろう。この本はその包丁を取り巻く人々を点描することで日本の手仕事、精神性、人間関係の機微を書いていく。京都のものづくりに限らず、教えてくれるところは大きい。ただ、茫漠とした筆運びはややまどろこしい、が。元は新潮社の雑誌「波」の連載。
読了日:4月17日 著者:江弘毅
ジェットコースターにもほどがある (集英社文庫)ジェットコースターにもほどがある (集英社文庫)感想
筆者のジェットコースター道中記。長年のマニアという筆者が日本はもとより、世界を駆け巡り、乗り倒す。好きなものを追究し、知見を広めるためには、世界を目指さなくてはいかん、狭隘なナショナリズムは捨てよ、と示唆をしている。狭い日本にゃ住み飽きた、という訳ではないが、実に若者への教訓に満ちた1冊といえよう。巻末の座談会がまた好事家のオフミらしく秀逸。熱意と見識は分かるのだけど、何を言っているのか分からないのが楽しい。唐突ながら、坪内稔典の「カバに会う 日本全国河馬めぐり」にもこの本と似た匂いがしたのを思い出した。
読了日:4月14日 著者:宮田珠己
実録テレビ時代劇史 (ちくま文庫)実録テレビ時代劇史 (ちくま文庫)感想
テレビの放送が始まって60年余。時代劇という分野が生まれ、発展し、衰えていった歴史を追う。筆者はCXの制作者。東京、京都という制作現場や、東映、東宝、大映、日活といった映画会社の系列の問題などを絡めながら振り返る。同業他社への目配りも行き届いていて、通史としては上々の出来だ。スターがいて、景気の変動があって、視聴環境の変化があって……。時代劇は変遷、進化を重ねてきたのがよく分かる。今や大河くらいしか残っていない中、専門チャンネルが生まれ、一方韓国時代劇が垂れ流しの昨今。日本の手業が一つ消えるのが分かる。
読了日:4月13日 著者:能村庸一
わたしの旅に何をする。 (幻冬舎文庫)わたしの旅に何をする。 (幻冬舎文庫)感想
やっぱり本業の分野は生き生きとしてますな。サラリーマン時代からその後にかけてのものを収めています。文体としては椎名誠とか、好調時の原田宗典というか。でも、荷造りで荷物を減らせない、海外の空港からのタクシーが不安な心境、選んだホテルが外れだった時の空しさ、などなど、あるあるネタが続く。一方、鳥葬、ネパールやバリの火葬を見たり。パキスタンの核実験で亜欧横断の旅が迂回させらりたり。旅先で起こる珍事(後になれば些末なのだけど)をネタに綴っていく、膨らませていく、地口の連発に、タマキワールドに巻き込まれるのである。
読了日:4月6日 著者:宮田珠己
なみのひとなみのいとなみ (幻冬舎文庫)なみのひとなみのいとなみ (幻冬舎文庫)感想
文句なく面白かった。筆者の愛読者にしてみればスピンアウト企画の1冊なのだろうけど、随筆として十二分に楽しめました。たとえば高校野球の全国優勝の選手、いつの間にか自分より年下になっている訳で、特撮のヒーローものを見ても、特捜隊の隊長が自分より年下になっているなんていう指摘や、個人と法人との関係の考えなどなど。ただ、最後の章「悩みなんてスベスベマンジュウガニの糞の如し」は少し観念論が多い気もして、やはり随筆は難しいと思ったり。あ、最後の有村海運の運航している那覇行きの貨客船話。いいです。改めて乗ってみたい。
読了日:4月4日 著者:宮田珠己
なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか 最強11神社―八幡・天神・稲荷・伊勢・出雲・春日・熊野・祗園・諏訪・白山・住吉の信仰系統 (幻冬舎新書)なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか 最強11神社―八幡・天神・稲荷・伊勢・出雲・春日・熊野・祗園・諏訪・白山・住吉の信仰系統 (幻冬舎新書)感想
正直に言えば羅列本、点綴本です。ありとあらゆる本の記述をつなぎ合わせているに過ぎない。だから本に奥行きがない。一昔前のスピリチュアル本なみの内容です(すこしは学術的な体裁をとっているけど)。たとえば、出雲国造の話。明治以降、千家が独占的に役割を担いました。でも同時に北島家という家もありました。この両者の名はあってもそこからの掘り下げがない。伊勢神宮に神宮寺が設けられた→でもなぜ遠ざけられたのか。朝熊山との関係はどうなるのか、などなど、言葉足らずの部分が目立ちすぎます。八幡神や牛頭天王の成立も。物足りない。
読了日:4月2日 著者:島田裕巳

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2014年04月02日

☆3月に読んだ本。

2014年3月の読書メーター
読んだ本の数:8冊
読んだページ数:2848ページ
ナイス数:155ナイス

サバイバル宗教論 (文春新書)サバイバル宗教論 (文春新書)感想
臨済宗相国寺派の僧侶100人を相手に開いた講演の講義録。話言葉なので論旨は実に錯綜する。神学と宗教学の違い、中世の実念論と近代文明につながる唯名論の差、日本の哲学で今も影響を残す京都学派、日本共産党内での講座派と労農派の話。その合間にシリア、イラン、ロシア、イスラエルなどの陰謀論めいた内輪話。はては沖縄独立論まで。話は七転八倒、正直に言えば理屈は局面では分かるけどどう繋ぎ合わせたらいいのか? という感じ。終わってみれば野良猫を1匹飼って18年飼うと約250万円かかる、という話が頭に残ったりして……。
読了日:3月27日 著者:佐藤優
増補版 歌舞伎手帖 (角川ソフィア文庫)増補版 歌舞伎手帖 (角川ソフィア文庫)感想
この本とも長い付き合いになる。駸々堂の新書版で出たものを愛用してきたのだが、増補版のひとことに惹かれて買い直し。ただ、版組が大まかになった気分でハンディではなくなってしまった。この本のよろしさは、狂言ごとに来歴やあらすじ、見所がコンパクトにまとめられて、役者の藝談の抜き書きがつくという体裁にある。歌舞伎座の桟敷で、明日は芝居かという夜にでもささっと読めるのがいいのだが。内容についてはなんの文句もありません。
読了日:3月27日 著者:渡辺保
直木賞物語直木賞物語感想
正直のところ、飽きました。というのは、直木賞という文学賞はその性格が明確ではないゆえに、銓衡基準が揺れ動いているという話を繰り返し繰り返し叙述している本であるからです。まず何を対象に賞を与えるのか。作品なのか、作者なのか、履歴なのか。それすら定まることもなく、年に2度ずつ、賞が授与されてきた、というのは逆に言えば驚愕すべきことです。この本では賞を逸した人々の短信もついています。それを読んで楽しいと思うかどうか。権謀術数であったり、選考委員の好みであったり。思わぬ人物が登場してくるのは楽しかったけど。
読了日:3月19日 著者:川口則弘
ご先祖さまも被災した――震災に向きあうお寺と神社ご先祖さまも被災した――震災に向きあうお寺と神社感想
ルポという本の性格上、物足りなさが残る。事実を提示され、最後を判断するのは自分自身だからだ。だが、この書き方が適切だったように思う。内容は東日本大震災の被災地の寺社が再建や離散した檀徒の世話、被災者の心の拠り所たらんと苦闘する群像を描く。それぞれに直面する困難は違う。でも寺社が地域社会の拠点であるのは間違いない。しっかりせねばという僧侶や神官の使命感、職業観に頭が下がる。番外で扱う海龍王寺と歌う尼さんやなせ氏の話が興味深かった。有事に当たって神仏、宗旨の垣根を越え、宗教界が出来ることは大きいと思う。
読了日:3月16日 著者:小滝ちひろ
知の格闘: 掟破りの政治学講義 (ちくま新書)知の格闘: 掟破りの政治学講義 (ちくま新書)感想
言って見れば口述記録を歴史史料に活用するのが御厨政治学。それを振り返ったのがこの1冊。筆者は仕事ごとに本を出しているのでそれを読んでいないと実感が湧いてきにくいかも。中で小泉純一郎はオーラルヒストリーの対象にならぬ、という指摘は興味深い。内容としては後段の方が読みやすい。邸宅を活用した吉田、鳩山、岸らの総理と、庭の見識すらなくなった池田、佐藤。そして新官邸の中で孤立した最近の首相との指摘のある建物と政治、あと書評と時評、映像とWEB、この3章を先に読むといいかも。歴史を語ることが難しい時代ではあるが。
読了日:3月8日 著者:御厨貴
昭和怪優伝 - 帰ってきた昭和脇役名画館 (中公文庫)昭和怪優伝 - 帰ってきた昭和脇役名画館 (中公文庫)感想
俎上に上がっている俳優を列記すれば。岸田森、佐々木孝丸、伊藤雄之助、天知茂、川地民夫、渡瀬恒彦、成田三樹夫……。専属契約の時代のこと、系列が新東宝に重心がある恨みは残るものの、よくぞ取り上げてくれました、という俳優ぞろい。しかも筋立てが決まっていて後は手を変え品を変えの映画作りだった時代に、その連作の裏の要素を読み解くのはさすが。実悪の丹波哲郎に対し色悪の天知、とか、内田朝雄に対する伊藤雄之助とか、系列があったが故の見比べができるのも興味。正当任侠映画には真の男のエロスが必要という指摘は当たっていますな。
読了日:3月5日 著者:鹿島茂
一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教 (集英社新書)一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教 (集英社新書)感想
企画した集英社の編集者に拍手。ムスリムの立場からの発言と引き出す聞き手と。二物衝撃が見事。イスラムの成り立ちから始まって、宗教というより生活に近いという感覚を説く。流浪の民の宗教であったイスラム、ユダヤ教と定住者の宗教のキリスト教という見立ては妙手。紙幣、あるいは仮想空間を飛び交う現代の通貨と常にリアルな金貨の違いも。ただ、対談という形式である以上、飛び交う言葉に酔ってしまう気味もある。個人的には「ユダヤ教 キリスト教 イスラーム:一神教の連環を解く」(ちくま新書)を読んでからだったので踏み止まれた気も。
読了日:3月4日 著者:内田樹,中田考
47都道府県別 日本の地方財閥 (平凡社新書)47都道府県別 日本の地方財閥 (平凡社新書)感想
全国47都道府県にいた「お金持ち」の中から、お話を選んで綴った1冊。元データは1934年の「帝国興信所調査筆者50万円以上全国金満家大番附附全国多額納税者一覧」(大日本雄弁会講談社刊)。筆者曰く地方財閥は1)地主系 2)老舗系 3)工業系 4)商業・金融系の4タイプに分かれるという。どれも第1次世界大戦後の世界恐慌&金融恐慌で自前の中小銀行は破綻、次に戦時下の統制経済下で企業統廃合で退場、とどめが農地改革と、ほとんどが今に残らぬ形というのがすごい。ただ1都道府県約4ページ、よく言えば網羅、悪くいえば羅列。
読了日:3月1日 著者:菊地浩之

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2014年03月01日

2014年2月に読んだ本。

2014年2月の読書メーター
読んだ本の数:13冊
読んだページ数:4163ページ
ナイス数:237ナイス

だいたい四国八十八ヶ所 (集英社文庫)だいたい四国八十八ヶ所 (集英社文庫)感想
四国遍路をすると本が書きたくなる。でも多くは駄作である。だがこれは秀逸。自分の経験ともほぼ重なる(僕は歩いた訳ではないけど)。思い立ったが吉日と旅立つしかないのがこの旅。良さはというと、筆者が最後の最後に書いている通り、「お遍路しているときはな、何も考えんでええから、それがええねん。今日の宿どうするか、それだけ考えとったらええわけやから」という一言に尽きる。そして23〜24番の「室戸岬無補給ロード」が頂点という感覚も。肩肘張った遍路記より正直でいい。ただ筆者なかなかの手練れのようだ。嘗めてはいけない。
読了日:2月26日 著者:宮田珠己
都名所図会〈下巻〉 (1968年) (角川文庫)都名所図会〈下巻〉 (1968年) (角川文庫)感想
角川文庫でこの本を刊行しているのを知ったのは遙か昔。 文庫川村で買えば、いくらしたことだろう。 今となればリアルで存在する本の価値などなきに等しい。 ということで、今回巡り合う僥倖、である。 上下併せて1500円。 活字本なんてこんな程度なのかもね、今の値打ちは。
読了日:2月25日 著者:秋里籬島,竹原春朝斎,竹村俊則
都名所図会〈上巻〉 (1968年) (角川文庫)都名所図会〈上巻〉 (1968年) (角川文庫)感想
この時代の文庫本は本当に活字が小さい。読むのがつらい。 さはさておき、江戸名所図会と違って、名所が多すぎるのが都の難、なのかもしれない。 読んでいて、何かつらい。
読了日:2月25日 著者:秋里籬島,竹原春朝斎,竹村俊則
日本軍と日本兵 米軍報告書は語る (講談社現代新書)日本軍と日本兵 米軍報告書は語る (講談社現代新書)感想
一言で言えば物量で負ける相手と戦争をしても無益、ということ。米軍内で配布されていた「諜報公報」なる資料を基に米軍が日本陸軍の戦いぶりをどうみていたかを解析した本です。「日本陸軍は機械に支えられた人間の部隊であり、米軍は戦闘機械を用いる部隊である」という定義付けが象徴的です。水際防御、突撃といった餓島、ビルマ辺りでの戦闘から、比島での戦いを経て硫黄島、沖縄と専守抵抗を続ける策に転じて米軍が苦戦するというのは皮肉。衛生面(性病も含む)の配慮や捕虜の取り扱いなど、日米両軍彼我の差を考えざるをえない事実続きです。
読了日:2月24日 著者:一ノ瀬俊也
絵本江戸風俗往来 (東洋文庫 (50))絵本江戸風俗往来 (東洋文庫 (50))感想
筆者は4代目広重。直接の血縁はないものの、初代が売れない時分から縁のある家で、4代自身は火事の絵を出したりしていたよし。扨置、年初から大晦まで江戸という町の年中行事、習俗を綴る。実に梅見に花見、芝居に相撲まで拾い出しているのが上中巻。下巻は門付藝のあれこれや物売りの話など。所謂考証好きの随筆とは異なり、自分が見聞きしたものを無作為に綴っているのが面白い。失火した商家が譬え蔵が焼け残っても1ト前は態と火を入れて世間への詫びにする習慣があったなど書いてあるのは何でもないようなことだけど当時の空気を感じさせる。
読了日:2月23日 著者:菊池貴一郎,鈴木棠三
アメリカ様 (ちくま学芸文庫)アメリカ様 (ちくま学芸文庫)感想
虚構新聞の記事(http://kyoko-np.net/2013101101.html)の元ネタを披露し、活字版のモンティ・パイソンのような存在だった外骨の戦後の著作。外骨が長年戦ってきた軍閥や大出版社、特権階級など、進駐軍=アメリカ様によって取り払われたことを綴っていく。書けなかったことを書いておく、という性根。1編3ページほど。ただこの本もGHQの検閲に遭う。褒め殺しの手法。アメリカ様の存在の2面性を誰より自覚していたのは外骨だ。1946年5月3日、東京裁判開廷日に刊行。「筆禍史」を併せて抄録。
読了日:2月19日 著者:宮武外骨
増訂 工芸志料 (東洋文庫)増訂 工芸志料 (東洋文庫)感想
織物、石工、陶工、革、金、漆などの工芸について、国内での起源や主な事績を歴史資料の中から拾い集めた1冊。中身とすれば広文庫とか、古事類苑を連想していただくといいかもしれない。書かれた頃は明治の殖産興業の時代。パリ万博などで日本の工芸が注目された頃に、再認識の資料を作ろうという意気に満ちていた時代。今と違って考古資料や海外の情報がなく、史料といえば記紀や群書類従くらいだったことは考慮しなくてはいけないけど、何か意気軒昂という言葉が似合う1冊。本の扉には一誠堂のタグや前の持ち主の感慨が墨書してあるのも味。
読了日:2月18日 著者:黒川真頼
京都民俗志 (東洋文庫)京都民俗志 (東洋文庫)感想
「そうだ京都へ行こう」ではないけど、どこか行ってみたくなる時がある。しかも蘊蓄を知った上で。というのは彼の地に住まいする人々は堆積してきた知識の上での立ち居振る舞いをしている。何気ない挙措に奥行きを承知していたら楽しいだろう。京都の民俗を綴ったものというより、井戸、石、植物、動物。その名所旧跡を記した部分が大半を占める。冒頭にある暮らしのルポ部分、祇園祭の屏風祭が実は婿捜しの方便を含んでいたとは驚きの話。今も残る祭りや習俗も時代とともに姿を変える。この本は昭和初頭のその姿のよき記録でもある。拾い読み向き。
読了日:2月13日 著者:井上頼寿
日本経済の故郷を歩く(上)日本経済の故郷を歩く(上)感想
上巻が後になった。蓮如から始まって、利休、信長、秀吉、家康と続く文はいささか食い足りない。なぜならわずか8ページ内外で旅行見聞記を書き、取り上げた人物の事績を書き、著書や言葉を引用し、とやっていたのではなんとも虻蜂取らずになるのは自明ではござらぬか。そんな肩の力が抜けた後半に入ってこそ、この本の妙味でござる。視線が市井に近く、取り上げる人物が1件のテーマで収まるようになると、この筆法で収拾がつく。曰く合理性、曰く勤勉、曰く節約。何かそうばかりでもない気もしつつ読了。そも昔の中公文庫のカラーではないなあ。
読了日:2月13日 著者:舩橋晴雄
教科書には載っていない!戦前の日本教科書には載っていない!戦前の日本感想
コンビニでの思いつきで買う本は当たりが少ない。中でこの1冊は合格点かも。「仰天必至」は大げさだけど内容は「切り貼り本」としてはまずまず。例えば白系ロシア人の存在。日本に新しい文化を持ち込んだのは事実だ。カフェの女給、遊郭の遊女と貸座敷制度、戦前こそ今以上に苛烈だった受験戦争とその裏にある徴兵回避、大日本雄弁会講談社の「キング」、「足入れ婚」制度の存在、などなど、稗史ゆえに書き込まれることの少ない事項を拾っている。巻末に引用図書の膨大な羅列あり、興味を持てばそれを見ればいい。入門書としては好適。一覧性あり。
読了日:2月10日 著者:武田知弘
近世菓子製法書集成〈2〉 (東洋文庫)近世菓子製法書集成〈2〉 (東洋文庫)感想
2冊目も3種「南蛮料理書」「鼎左秘録」「古今新製名菓秘録」。多くの本で取り上げているのが「かすていら」の製法。曰く。「卵10個に砂糖160匁、麦の粉160匁。此の三色をこねて、なへに紙をしき、粉を振り、その上にいれ、上下に火を置いて焼き申也。口伝有」。作れたらすごい。「はんの事 麦の粉、甘酒にてこね、ふくらかしてつくり、布団に包み、ふくれ申す時、焼き申也。口伝有」。要はイースト菌なんてないから、酒種パンを作る、ということね、などと考えながら。と同時に南蛮、出島から入ってきた文物が多く流布していたのに驚く。
読了日:2月8日 著者:
近世菓子製法書集成〈1〉 (東洋文庫)近世菓子製法書集成〈1〉 (東洋文庫)感想
江戸時代の菓子製法を記した本4種。「古今名物御前菓子秘伝抄」「古今名物御前菓子図式」「餅菓子即席手製集」「童子話船橋」の書き下し、および解説からなる。本文の内容がこんなものもあったのか、と思うと同時に秀逸なのは解説文。「こんな作り方では固まらないと思うが」などの実作者としての見識や、「××にはこんな名前で掲載されているが」みたいな解説が実に軽妙にして的確。読んでいて何の役に立つというものではないだろうけど、読んでいる時間が結構貴重なように思う。
読了日:2月8日 著者:
ユダヤ教 キリスト教 イスラーム: 一神教の連環を解く (ちくま新書)ユダヤ教 キリスト教 イスラーム: 一神教の連環を解く (ちくま新書)感想
バビロン捕囚に始まるユダヤ人の歴史。地縁を切り離されたところから、絶対神を想定する一神教が始まったという言説から説き起こし、父親のない境涯から無縁の都会に住まざるをえなかったモハメットに始まるイスラム、そして「割礼」「律法」という枠を外して世界的に広がったキリスト教。この三つの相関を描いていく。シャネルやアリといった人物像から、平等の考え、博愛思想などの淵源を探っていく。内容の比重はユダヤ教、イスラムに傾いているけれど、皮膚感覚を持ちにくい分野だけに、Godを想定する感覚、論理展開の跳躍ぶりが逆に楽しい。
読了日:2月4日 著者:菊地章太

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posted by 曲月斎 at 00:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする