2015年06月01日

☆2015年5月に読んだ本。

2015年5月の読書メーター
読んだ本の数:11冊
読んだページ数:2987ページ
ナイス数:331ナイス

選挙の民俗誌―日本的政治風土の基層選挙の民俗誌―日本的政治風土の基層感想
津軽選挙に甲斐選挙、奄美全島区……。この本は衆院選旧山梨全県区で12期当選した金丸信を題材に、選挙運動の話を点綴する。これも柳田国男以来の民俗学の姿ではあるのですが。地縁血縁、さらには後援会の顔をした無尽(頼母子講)などなど。ただ、こんな形態が残っているのは地方の町村議選、市議選くらいではないか。衆院選の小選挙区制がもたらした弊は少なからずあるような気がする。ま、金が動くことは地域の活性化であるのは事実なのですが。この本は飛ばし読みでした。
読了日:5月31日 著者:杉本仁
江戸商家と地所―江戸草分け町家の存続と守成江戸商家と地所―江戸草分け町家の存続と守成感想
東京都中央区日本橋2丁目に所在の柳屋ビルディングは、徳川家康が1584(天正12)年に中国人に浜松で与えた屋敷の土地が江戸に移転後も引き継がれてきたことを文書を読み解くことで示した1冊。途中、近江商人出身の養子が嗣子に入って今のポマードの柳屋の始まりとなる。「拝領屋敷」という制度、江戸期は町役の下で営々と更新されている訳で、ある意味で驚異的な事務能力の累積だ(例えば佃島は漁師連名の拝領地だったそうな)。ただこの筆者の奔放な筆捌きがさすがにこのテーマではあまり発揮されず、ご自身の興奮ほど興奮できなかった。
読了日:5月24日 著者:鈴木理生
江戸のみちはアーケード江戸のみちはアーケード感想
土地と道路の関係を下水を鍵に読み解く。「雨だれ落ち」という言葉がある如く、今も雨水を隣家の敷地に落とす訳にはいきません。江戸時代の江戸の町の多くは歩道部分3尺に庇を出し、雨だれの落ちる下水から下水までの間が公道になっていた訳です。物流の拠点南伝馬町では庇が1間、そのうち3尺が公儀の土地でした。で、町の間口が課税基準。江戸の中心街だった万世橋〜日本橋〜京橋〜新橋は僅かの勾配を利用した自然流下式の下水の配管を考えての整備だった、と説きます。元々千代田区図書館の職員が郷土史を編む余技で書き綴った本。好著です。
読了日:5月23日 著者:鈴木理生
人生激場 (新潮文庫)人生激場 (新潮文庫)感想
小説の面白さで定評のある筆者だが、どうも随筆の方を選びたくなる自分の性癖。この本は元々は週刊新潮の連載らしい。で、「乙女心」という表現が適切かどうかは別にして、さりげない日常を大袈裟に、客観的に、戯画化する、というのは並々ならぬ才気を感じさせてやまぬ。エンターテインメント作として読者の心をとらえて話さない手練手管。浅田次郎の「勇気凜々ルリの色」とか、遠藤周作の狐狸庵ものを連想させるようなサービス精神の横溢した作品が並ぶ。ふざけるだけではなく、時々文明批評が混じるので笑ってばかりいられないのが味噌。
読了日:5月17日 著者:三浦しをん
江戸っ子歳事記江戸っ子歳事記感想
現代版三田村鳶魚。歳事記仕立てで、江戸・東京のしきたりを振り返り、資料(といっても随筆が中心)を引き、論を展開する。門松を立てることで町内の鳶職が生活し、呉服太物の謂いは「お蚕ぐるみ(絹)とそれ以外」の意味であるとか、深川佐賀町の米市場が庶民向け、神田米市場が外米、蔵前が武家向けの別とか、山王祭・神田祭の主役が山車が江戸城内(皇居)に入らなくなった明治になってから神輿が祭りの主役になったという分析などなど、ひたすら博覧強記。ただ大正15年生まれの筆者、江戸の暮らしはほんのつい最近まで残っていたのか、と。
読了日:5月15日 著者:鈴木理生
能・狂言 謡の変遷―世阿弥から現代まで能・狂言 謡の変遷―世阿弥から現代まで感想
能は伝統芸能で室町時代から伝わっているとはいえ、上演内容は大きく変化している。秀吉の時代には強吟と弱吟は分化していないし、音階も拍子当たりも違う。古い謡本の書き込み(直しという)にある中国の五音(宮・商・ 角・徴・羽)の注や諸本の胡麻点(謡の符号)の校勘で音を再現していく研究を綴る。レコードもCDもない時代の音の再現、すごく興味深い。狂言の小謡の拍子合、拍子不合(リズムに乗るか乗らないか)の研究も流儀諸家の謡ぶりから復元していく。伝統は1対1で、身体にのせて伝えられるものだ。能狂言の研究は進化している。
読了日:5月11日 著者:高桑いづみ
多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)感想
憲法改正論議が盛んな今、衆参両院の議員の3分の2が賛成すれば国民投票では過半数の賛成でいいことになっている。だが、衆院は小選挙区制、参院も第2院のとしての性格を失い、小選挙区制に近づいている今、多数派政党の出現は不思議ではなく、この条文の危うさを筆者は指摘する。そもそも民意を多数決で決めることがいいのか。民意?の反映は投票結果だけであってそれを民意ということの危うさを説く。本の中身は統計学のような話の展開だが、決して難解ではない。より民意を反映させるための思索は「私」ではなく「私たち」の問題なのだから。
読了日:5月7日 著者:坂井豊貴
都市――江戸に生きる〈シリーズ 日本近世史 4〉 (岩波新書)都市――江戸に生きる〈シリーズ 日本近世史 4〉 (岩波新書)感想
浅草寺を中心とした寺内町、宿場町としての品川、5街道の宿場や輸送ターミナルとしての南伝馬町。この3所に伝わった史料を読み解き、日々の生活の姿を探る。身分の転落があったり、利権の奪い合いがあったり、統治機構の一部としての株仲間の存在の意味であったり。数学の微積は同じ現象を分析する手法だが、その感覚に近いです。執筆姿勢は学術的ですけど、鈴木理生の本と好一対、という感じ。終章の生活物資としての薪炭を素材に物流網の仕掛けを探る手法も新鮮。PCの進化で、古文書というビッグデータが解析されていくのが楽しみになる。
読了日:5月6日 著者:吉田伸之
性欲の研究 東京のエロ地理編性欲の研究 東京のエロ地理編感想
「東京のエロ地理編」の副題の通り、前半部分が興味深い。皇居前広場に公団住宅、交通(鉄道や路面電車)の発達と都市計画と遊郭の関係等々。中でも新宿に関しての項が面白い。内藤新宿の飯盛女から始まって、2丁目の赤線(公娼地域)、外側の花園町、三越裏の青線(非合法の集娼店舗地域)、白線(不分明な売春施設)と西へ西へと移動しながら進化したこと、旧赤線の跡地が売防法施行以降、所有者が再開を信じているうちに取り残され、性的マイノリティーの地となっていった話。土地の歴史を見直す意味を教えてくれる。ゴールデン街の由来も。
読了日:5月3日 著者:
鉄道技術の日本史 - SLから、電車、超電導リニアまで (中公新書 2312)鉄道技術の日本史 - SLから、電車、超電導リニアまで (中公新書 2312)感想
世界初の商用鉄道が誕生したのは1825年、日本で鉄道開業が1872年。船の往来だった時代に極東の一島国で欧米で発達した舶来の技術を自前の技術と生産に50年もたたぬうちに切り替えていったのは大したものです。そんな歴史を多角的に分析します。測量、製鉄、車両の生産、制御システム等々。この本の何より優れているところ、図、表、写真が適切に挿入されていること。門外漢にも鉄道というのは産業革命以降、工業技術の集大成であったことがよく分かります。東京駅丸ノ内口にあった銅像・井上勝の功罪も、安全技術の集積であることも。
読了日:5月3日 著者:小島英俊
近藤乾之助 謡う心、舞う心近藤乾之助 謡う心、舞う心感想
訃報を聞き、書架から取り出して再読。家元制の制約が最後まで強かった宝生流で、他の流儀、他の世界との交流を通じて藝の幅を広げた人だった。流儀全曲の口伝を残すところがこの人らしい。野口兼資、兼資に私淑した観世寿夫。この2人を脳裏に描きながらの舞台だった。本の中で「藝は紆余曲折を経て伝わっていく」や「役者は死ぬまで冒険野郎」と言う言葉が鮮烈。伝統藝能といわれる能ではあるけど常に革新を続け、解釈、研究にいそしむ。そんな姿が舞台から伝わってくる役者だった。その中身を文字に残しておいてくれたのは今となっては財産。
読了日:5月2日 著者:藤沢摩彌子

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2015年05月01日

☆2015年4月に読んだ本。

2015年4月の読書メーター
読んだ本の数:11冊
読んだページ数:3121ページ
ナイス数:590ナイス

日本の「運命」について語ろう日本の「運命」について語ろう感想
浅田が言いたいことは「人間は時代とともに進歩ではなく変容し、退行しているのだという謙虚な認識をもたなければ時代小説どころかほんの一昔前の舞台すらも正しく描くことはできない。戦争というものなどはその重大な錯誤と認識の不足のせいで繰り返されると思われる」(あとがき)という一句に尽きる。連想したのは司馬遼太郎の「この国のかたち」か。話が雑駁に過ぎる。そこに食い足りぬものが残る。余談ながら、高校時代の日本史の授業、2人の教師に同時進行で習った。一人は石器時代から、一人は寛政の改革から。あの教え方には今でも感謝。
読了日:4月24日 著者:浅田次郎
『平家物語』の再誕―創られた国民叙事詩 (NHKブックス No.1206)『平家物語』の再誕―創られた国民叙事詩 (NHKブックス No.1206)感想
「平家物語」といえば叙事詩という枠組みに嵌め込んで理解し、されてきたこの作品。この言説は実は噓である。江戸時代の儒学に基づく大義名分論、あるいは欧米の文化に曝された明治に、雄渾な大和民族像を希求するがゆえの「叙事詩」化論、先の大戦に於ける「武士道」論に基づく読み込み、そして戦後の階級史観に基づく読みと、元のテキストはどうあれ、時代の要求に応えて「読み」が生まれていく。「平家物語」という作品の融通無碍さというべきか。「平家は享受史こそ本線」と言い残して夭逝した高校時代の恩師の言葉が改めて思い浮かぶ。
読了日:4月22日 著者:大津雄一
神道集 (東洋文庫 (94))神道集 (東洋文庫 (94))感想
中世に各地の神社の由来を集めた1冊。神仏混淆の色彩濃厚で、天台宗系の唱導という語り藝によって伝播されてきた。聴衆を意識している文学であり、ドラマチックである。特にこの本の一番最初に載っている「熊野権現の事」。印度の王の側室の胎内に宿った子は出産直後に母が無実の罪で首を切られながらも乳を含ませてもらって育ち、肉を食べに来た虎に養ってもらい育つというプロットは当時の民衆ならずともオオッと思ってしまうのである。その後、熊野三所権現として定着していく話以上に、こんな不思議な世界を想像した無名の人々はすごい。
読了日:4月13日 著者:
山岳信仰 - 日本文化の根底を探る (中公新書)山岳信仰 - 日本文化の根底を探る (中公新書)感想
日本で独自に育まれてきた山岳信仰。多くは行を主体に師匠と弟子の間で面授されてきた実践が主なので、文字に残っていないものの方が多い。ではどう全体像を求めるのか。筆者は大峯山、出羽三山、富士山、英彦山、恐山、御嶽山、石鎚山と各地を丹念に調査していく。共通項を括りだし、各地で独自に生まれたものを見極める。五来重の「修験道入門」と比較すると、中身は駆け足ではあるけど、学問が如何に進歩してきたかがよく分かる1冊。どの山への信仰も少子高齢化の波の中、変容を迫られているのが現在。山への信仰は将来、どうなるか興味津々。
読了日:4月13日 著者:鈴木正崇
日本戦後史論日本戦後史論感想
「安倍首相はインポのマッチョ」の惹句で読み始めた1冊。それ以上に興味深かったのは東西冷戦終結以降の日米安保体制の制度劣化と気がつかないふりをし続ける自民党政権という構図が興味深い。米にとっては今や日本以上にパートナーとなっている中国。尖閣の有事には加担はしてもらえないだろう。と同時に軍事費に喘ぐ米にとっては「集団的自衛権の容認と法制化」をしてしまえば現内閣は用済みということになる。所謂TPPもそう。吞んでくれればOKなのだから。「日米外交基軸」という言葉は追従ではなく同盟国としての意思を持つことである。
読了日:4月8日 著者:内田樹,白井聡
非常民の民俗文化―生活民俗と差別昔話 (ちくま学芸文庫)非常民の民俗文化―生活民俗と差別昔話 (ちくま学芸文庫)感想
同文庫所収の本と重複が多い。ただ欠点以上に掬すべき点がある。例えば「住民になること」だ。住民票を居住地の役所に届け出ればいい。都会の論理だ。地方はそうではない。居住者独自の社会、規則があり、草分け、本家、分家、別家などの区別があり、自作、小作の別や、鎮守での序列等々、独自の規範がある。本当に地域の一員になるとは地域社会に迎え入れられてこそなのだ。勿論、時代は変わっている。分母が減った。でも一方でこういう染みついた感覚は否定し切れない。今時流行の「地方創生」「地域協働」といった言葉が如何に銀流し、であるか。
読了日:4月5日 著者:赤松啓介
ジャーナリストの生理学 (講談社学術文庫)ジャーナリストの生理学 (講談社学術文庫)感想
新聞には政論を主とした大新聞、三面記事やゴシップを主体とした小新聞、その中庸を狙った中新聞があります。日本では実質的には3番目しか発達しなかったのですが、仏国ではなお大新聞が元気です。バルザック先生、自身も小説とジャーナリズムの間を揺れた訳で、風刺を効かせているつもりかもしれないけど、戯画化しすぎの観も。話柄から連想したのは宮武外骨ですが、その鋭さにも欠ける気がします。解説で「パリ 19世紀の首都」(ベンヤミン)から引用している「ジャーナリズムは精神価値の市場を編制した」の一句がこの本の登場意義なのかも。
読了日:4月3日 著者:バルザック
マネキン 美しい人体の物語マネキン 美しい人体の物語感想
日本に於いてのマネキン人形製作の始まりは京都の理科学機械製作会社の島津製作所にあり、伝統的な京人形の技法の発展形として進化したとは知らなかった。マネキンも仏像同様、目が彫心鏤骨の一点で、玉眼にしてしまうと味わいが欠けたり、新味を出したりと変化するとは。筆者は美大の彫刻科からマネキン人形制作会社に転じて、長年、その原型創作に携わってきた方。欧米はマネキンが買い取り制なのに日本はレンタル制とは知らなかった世界。彫刻として成立し、しかも商品を売るための道具であるという要素の並立。独自の世界観、価値観がある。
読了日:4月3日 著者:欠田誠
毒薬としての文学―倉橋由美子エッセイ選 (講談社文芸文庫)毒薬としての文学―倉橋由美子エッセイ選 (講談社文芸文庫)感想
土佐山田町の生まれ。「土佐人について」との一文で「イゴッソウ氏の本領はしばしばタテマエを盾にとって正義の権化となる」と書く。名人に介錯されたようなもので切られたことに気付かないのではないか。「田舎暮らし」では「田舎町に住んでいると孤独であるということはおよそ不可能。自分と呼べる強固な実体もありえない」と書く。快感を覚える。書き手としての才は勿論、後半にある全集の月報、文庫の解説などで見せる読み手としての確実さも。就中「坂口安吾論」、三島由紀夫についての「英雄の死」、「吉田健一の文章」等々、いとおしくなる。
読了日:4月3日 著者:倉橋由美子
震災画報 (ちくま学芸文庫)震災画報 (ちくま学芸文庫)感想
震災が1923年9月1日、1輯目が刊行されたのが25日。混乱続く中でまとめ上げたのは、「石巻日日新聞」の存在を連想させる。尋ね人の貼紙が町に溢れる中で「逝去」の2文字が書き加えられた話を紹介したり、流言蜚語に基づく朝鮮人虐殺を「最も痛恨事」と評したり。逓信省の郵便振替貯金課は震災後60日経ても業務を正常化できぬことを糾弾したり、「地震計は官権のようなものか。危害もない微動には敏感だが、人の圧死するような時には役に立たない」と言った警句があったりと縦横無尽。時に筆誅を、時に愛惜の視線がある。根性に敬意。
読了日:4月3日 著者:宮武外骨
秋の日本 (角川文庫)秋の日本 (角川文庫)感想
ちょっと引用。「長さ二、三百bの十段になった階段座席、聖殿、天上界から抜け出してきた神々の一軍団が黙示録にあるような光景を目撃するためとでもいったように整列している」。何の描写か分かりますか。A:三十三間堂。1885(明治18)年に来日した仏海軍将校の日本旅行記。東京、京都など回ります。気に入らぬことには上から目線になりますけど、彼には当時の日本がどんな風に見えたのか、表現を追うだけで楽しいし、日光で去り際に子供から花束を贈られた場面など性根が見えるようで、微笑ましくもあります。謎解きの心境も楽しめます。
読了日:4月2日 著者:ピエール・ロチ

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2015年04月29日

★2015年3月に読んだ本。

2015年3月の読書メーター
読んだ本の数:20冊
読んだページ数:5500ページ
ナイス数:681ナイス

日本映画 隠れた名作 - 昭和30年代前後 (中公選書)日本映画 隠れた名作 - 昭和30年代前後 (中公選書)感想
日本映画というと黒澤明に小津安二郎、と名が挙がる。でも年に1本2本しか撮影しない監督ばかりでは興業は成立しない。「プログラムピクチャー」と呼ばれる量産型の低予算、短期間の撮影で市場に送り出す映画の監督も必要だった。筆者のいう「日本人の暮らしに卓袱台があった時代」はまさにその活躍の場だった。すべてが名作という訳ではない。でも例えば「張込み」。普段は量産していた野村芳太郎がこれと決めて撮った1作だという。佐伯清の「大地の侍」滝沢英輔の「六人の暗殺者」など歴史に埋もれた作品が浮かぶ。炭鉱にダムが背景にある時代。
読了日:3月31日 著者:川本三郎
戦国武将の明暗 (新潮新書)戦国武将の明暗 (新潮新書)感想
真面目なのだけど「張扇」が釈台を叩く音、講談師風の口調。名調子と取るか否か。元原稿が週刊新潮の連載らしいので仕方ないか。さておき、譬えが今様で興味深い本です。関ヶ原の帰趨を決めたもの、論功行賞、江戸開幕以降の当主の好み(家康〜秀忠)の変化等々。例えば関ヶ原の合戦に遅参した秀忠はそれが一生のトラウマになったとか、井伊直政はガチムチのロリコン好きではないか、という見立ての妙味。ただ惜しむらくは、編集の際にせめて系図や地図を挿入すべきでした。というのは同じような名の人物が登場しての話の展開が続くのですから。
読了日:3月30日 著者:本郷和人
江戸の町は骨だらけ (ちくま学芸文庫)江戸の町は骨だらけ (ちくま学芸文庫)感想
前半と後半が分かれる本。前半は江戸という土地の成立のために寺院(墓)が果たした役割を語り、後半は宗教政策全般についての論究。実は前半部分の方が面白い訳で、骨というものが今のように執着すべきものかどうかを考えさせられる部分。埋地の材料とは一半信じられぬ気もする。葬礼の部分まで言及しており、黄金餅とからくだの世界を連想させる。後半はちょっと間怠い。なぜかと言えば筆者独特の実証的な部分が薄れてしまうからで、実は江戸幕府の宗教政策が今に及ぼす影響は大きいので、この部分を雑駁に解説してしまうのは勿体ない気がする。
読了日:3月27日 著者:鈴木理生
江戸はこうして造られた―幻の百年を復原する (ちくま学芸文庫)江戸はこうして造られた―幻の百年を復原する (ちくま学芸文庫)感想
「幻の江戸百年」の改題。江戸には荘園があり、約270年余も鎌倉・円覚寺が領有した。坂東の野の河川が戦国時代の勢力圏の境となった通り、川と台地が錯綜する関東平野で江戸が物流の拠点となり、日比谷入江の埋め立てなど大規模に改修していったのが徳川幕府の天下普請という見立て。利根川、荒川などの瀬替えはダイナミックでぜひ、Web上でも見てみたいくらい。江戸前史から成立までを追ったこの1冊、時に推断が過ぎるかと思う面もある一方で、史料を駆使して大胆に展開するさまは読んでいて心地よいくらい。後の震災被害にも繋がる話だ。
読了日:3月25日 著者:鈴木理生
犬たちの明治維新 ポチの誕生犬たちの明治維新 ポチの誕生感想
明治以前、飼い犬はなく「里犬」として集落や町内で養い、番犬の役割を果たしていた。開国して以降、座敷犬として愛玩されてきた「狆」がいよいよ珍重された一方、元来の日本犬は飼い主がいない野良犬として撲殺される犬が続出したそうな。何で犬の名は「ポチ」になったのか−−。筆者は斑を意味するブチはpatches(パッチ)から転じ、ポチになったと推測する。明治のころ、横浜語といわれたピジン英語の影響を指摘する。さらに西郷隆盛が猟犬を連れて西南戦争を転戦した話……。ともかくまとまりはないけど、日本犬の命運を追った1冊。
読了日:3月22日 著者:仁科邦男
書庫を建てる: 1万冊の本を収める狭小住宅プロジェクト書庫を建てる: 1万冊の本を収める狭小住宅プロジェクト感想
本と仏壇。妙な取り合わせだが、引用の言葉で得心。「古い図書館にある書物の著者の大半は死者である。書物という名の死者の遺言が集められた場だ。書物とは記録の道具ではなく記憶の道具だった」と。生家の仏壇と自身の万巻の書を収めることに通底するものがある。家とは、本とは、仕事とは、住むとは、などという問いへの答えでもある。8坪の土地にこんな建物。本をため込んでしまった人間には理想というか、憧憬のような、羨望のような。自分には一生かかってもできないことではなかろうか、と思いつつ、何とかしてみたい気も起きるのが邪か。
読了日:3月21日 著者:松原隆一郎,堀部安嗣
壇蜜日記 (文春文庫 た 92-1)壇蜜日記 (文春文庫 た 92-1)感想
1行32文字、項目は短ければ1行、だいたい7行から10行ほど。身辺雑記である。書き下ろしだそうで、ブログの内容とは違うような。でもどこかでブログとかTwitterを読んでいるような。中身は猫と熱帯魚を飼い、電車と自転車を愛用し、コンビニと薬局と銭湯を愛する生活。虚像と実像の落差を見せることを意識しているような気がする。あと雨が降る話が多い。すこぶる落ち着いたというか、地に足がついている書きぶりなのだけど、今の立場に至るまでの経験がそうさせるのか。文章の展開が直感的、ご教訓めいた1句。魅せることが巧みだ。
読了日:3月20日 著者:壇蜜
地図が隠した「暗号」 (講談社+α文庫)地図が隠した「暗号」 (講談社+α文庫)感想
実業之日本社刊「地図を楽しむなるほど辞典」の改題再編本。国土地理院が今や紙ではなく電子情報として主に提供するようになった時代。でも地図は紙媒体の方がいい。図上に隠れている土地の歴史や生活を読み込み、等高線をトレースしたり、谷線をなぞったり。作業を加えることで楽しさが倍増するのだから。この本は地図を弄り倒すことで味わえる愉悦を教える1冊ではある。中身は広汎、散漫に渡っているけども。本当は地図自体を紙面に収容してくれていたら、と思う。そういえば国土地理院のHPでは紙時代の図幅名から地図を検索しにくくなった。
読了日:3月18日 著者:今尾恵介
自治体職員のための文書起案ハンドブック自治体職員のための文書起案ハンドブック感想
地方自治体で仕事の第1歩が起案書。起案書を作らないと話が始まらない。法務的な背景を解説したのが本書。法令例規と訓令通達要綱要領の差、協議の意味するもの、組織規範に適合しているか、根拠規範があるか、制約規範を満たしているか、といった点検から公告、公示、告示の手続き、或いは行政不服審査、行政訴訟への対応まで、法令例規の考えでどう対処したらいいのか、書いてあります。本職ではなくても、行政職の考え方を知る上で興味深い1冊であると思います。行政の世界はやはり独特で、合議を「あいぎ」と読むとは知らなかった……。
読了日:3月16日 著者:澤俊晴
東方旅行記 (東洋文庫 (19))東方旅行記 (東洋文庫 (19))感想
14世紀に書かれた中近東からアジアに至る旅行記。というか、見聞録を切り貼りしたものというべきか。でも当時の読者の需要、好奇心に合わせるとこういう本ができる訳で、さらにオリエントのイメージを形作った1冊です。前半は四国遍路の霊験記の匂い。一杯聖人が出てきて、聖遺物が見つかって、聖跡を巡って……。きっと楽しいのだろうな。想定をしにくいのだろうけど、今のどの地名を想定しているのか、もっと簡単に分かれば。なお地図は真ん中辺にあります。それにしても小人の国、巨人の国、女護が島……。荒唐無稽さを喜ぶしかないです。
読了日:3月15日 著者:J・マンデヴィル
東京大空襲―昭和20年3月10日の記録 (岩波新書 青版 775)東京大空襲―昭和20年3月10日の記録 (岩波新書 青版 775)感想
何度読み返しても、この空襲は不条理だと思う。あと、改版する機会があれば、筆者の逃げた道、あるいは取り上げている方々の逃げた道がわかりやすく表示された地図がほしい。基本的には下町は碁盤目なのだけど、その広がりが実感できると思うのだが。今ならWeb上の情報とリンクさせると理解が進むかも。
読了日:3月9日 著者:早乙女勝元
大いなる助走 <新装版> (文春文庫)大いなる助走 <新装版> (文春文庫)感想
主人公が直艸賞の候補作となるところから急展開する。筒井の文章だから戯画調に見えるけど、同人誌についてこう書く。「小説書いて自腹切って安くない印刷代を払って同人雑誌を出して、仲間以外にほとんど誰も読んでくれず、屑箱行きだ。日本の文化に貢献しているとは思えないんだよ。自殺者を出したり、精神の荒廃した無頼漢を出したり、生活無能力者を出したり、はては殺人者を出したり、反社会的傾向の強い人間ばかり育てている。反社会的行為がいくら文学の実践活動だといっても、小説そのものさえ認められていないのじゃ意味ないしねえ」。
読了日:3月9日 著者:筒井康隆
綾とりで天の川綾とりで天の川感想
アラン定義集、まだ買っていなかったなあ。
読了日:3月8日 著者:丸谷才一
8月17日、ソ連軍上陸す―最果ての要衝・占守島攻防記 (新潮文庫)8月17日、ソ連軍上陸す―最果ての要衝・占守島攻防記 (新潮文庫)感想
戦後70年だという。日本では8月15日で戦争終結したように思っているけど、実は9月2日の降伏文書調印こそ記憶される日である。「日本のいちばん長い日」で鈴木貫太郎が「今を逃してはソビエトが侵攻してくる」とつぶやくシーンがあったけど。樺太であれ、北千島であれ、ソ連の侵攻は8月15日を過ぎて続いていたのだから。ちょっと読みにくいけど抑えた筆致はノンフィクションとして適切。それと北海タイムスという今はなき北海道の地方紙がこの手の連載をしていたという。何かで読めるようにしてほしいなあ。浅田次郎も小説化しているけど。
読了日:3月8日 著者:大野芳
地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減 (中公新書)地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減 (中公新書)感想
竹中平蔵に続き、人口の推計値を恫喝の種にしながら、「選択と集中」の論理を振りかざしているように思えてならぬ。極端な話を言えば、東京以外は消滅する訳で、その東京も直下型地震などの災害に弱い。どう考えても悲観主義に基づく論理である。本書で取り上げている出産可能な女性の人口動態以外に、地元の意欲とか、市民性みたいな変数が町の盛衰を占う上で加わっている気がする。数量化できない部分なので、煽るだけでは不適切な気がする。確かに人口1万人を切り、地域の共同体の崩壊が始まっているのも事実。でも高知など元から過疎地だ。
読了日:3月8日 著者:増田寛也
災害復興の日本史 (歴史文化ライブラリー)災害復興の日本史 (歴史文化ライブラリー)感想
ちょっと虻蜂取らずの感あり。古代、中世、近世、近現代の4区分で地震や風水害、旱魃、大火、疫病など災害を網羅しようという試みの1冊。悉皆的な入門書を目指したのだろうけど、どれも内容が今一つ薄い感じが否めない。地震の項で「理科年表によると」という話が繰り返されるのが典型にて、今の災害に対する姿勢は、史料に基づくのか、あるいは口碑に基づくのか、科学的知見に依拠するのか。何かがほしい。具体名を挙げれば磯田道史の著作のような手応えがもう少しほしかった。ちょと残念。
読了日:3月7日 著者:安田政彦
軍隊を誘致せよ: 陸海軍と都市形成 (歴史文化ライブラリー)軍隊を誘致せよ: 陸海軍と都市形成 (歴史文化ライブラリー)感想
建軍以来、師団や鎮守府となった都市は多くの兵員が住むことになり、廃藩置県以後の格好の地方創生策となった。城跡に多くの軍隊が入ったのは象徴的だ。鉄道や水道の敷設、遊郭の設置、門前の商工業発達など、インフラの整備が進み、地域経済が活性化し、災害出動もあって治安維持のためにも好個と受け止められた。今も地方では自衛隊誘致合戦があるように当時とすれば無理からぬことで、軍隊が駐屯することによる社会資本の整備という観点が面白かった。師団−旅団−聯隊という構成で約9192人、鎮守府−要港部という組織論がら説き平明。
読了日:3月7日 著者:松下孝昭
幻獣ムベンベを追え (集英社文庫)幻獣ムベンベを追え (集英社文庫)感想
筆者の処女作。将に栴檀は双葉より芳し。当初「早大探検部」の名で刊行された。アフリカ・コンゴ奥地の湖に怪獣探しに出掛ける話。1988年に探検に行った話と2002年に書かれた文庫本あとがきの部分がついているのが秀逸。文庫化当時の回顧に「着実に退化の道をたどった」と記す気分。分かる気もする。一番受けたのは隊員が脳性マラリアになり、黄疸症状が出た時に「学食のカレーと同じくらい黄色い」という譬えは実に得心。アフリカの水を飲んだ者は再びアフリカに帰るというけど、ソマリア話につけ、その通りになっているというべきか。
読了日:3月2日 著者:高野秀行
墓と葬送のゆくえ (歴史文化ライブラリー)墓と葬送のゆくえ (歴史文化ライブラリー)感想
火葬すると後に遺骨が残る。習慣の中で骨は扱われてきたけど、僧侶の登場、地域共同体(世間)に代わって葬儀業者の出現で変質してきたと説く。さらに墓の維持管理も一族や集落等で担っていたが明治以降の近代家族制の登場、戦後の核家族化、未婚者の増加、少子化などが重なって崩壊中だと指摘する。昨今の樹木葬や散骨、合葬墓も依拠すべき法令条規(墓埋法、民法など)が未整備という。地域や家族の道徳的・倫理的義務感も失われた今、葬送や死者の尊厳を福祉の一部として考え、墓地の有期限化、共同化、脱墓石化を計れとの指摘。含意を翫味中。
読了日:3月2日 著者:森謙二
江戸の政権交代と武家屋敷 (歴史文化ライブラリー)江戸の政権交代と武家屋敷 (歴史文化ライブラリー)感想
徳川幕府の臣下(大名から旗本、御家人まで)にとって、屋敷は宛がわれるものであり、移動や召し上げも当たり前。古地図や証文を手がかりに変遷を読み解き、人間関係を重ね合わせていくと、表向きの理屈とは異なる本音の論理が読み解けるというのが本書の興。特に西ノ丸下(今の皇居外苑)、吹上(今の皇居内)は世の流れで変転を重ねた。甲府中納言忠長、館林から転じた綱吉、甲府から来た家継、紀伊からの吉宗と代替わり、幕閣の交代で様変わりする。移動は江東、新宿方面等への都市の膨張、員数増など体制の歪みを示す証となっている。好著。
読了日:3月2日 著者:岩本馨

読書メーター
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2015年03月01日

☆2015年2月に読んだ本。

2015年2月の読書メーター
読んだ本の数:12冊
読んだページ数:3295ページ
ナイス数:407ナイス

三四郎はそれから門を出た (ポプラ文庫)三四郎はそれから門を出た (ポプラ文庫)感想
活字なしの人生なんて考えられないという点で、自分にもその自覚はある。筆者と同じく寝転がって右半身を下にして読み耽るのが常。でも書畜の中でも上手が居るものだ。言えば段違い。本の紹介はどれも面白そうでポチってしまいそうになる。本への偏執、分かる分かる。中でも紀伊國屋のPR誌への寄稿をまとめた「本のできごころ」など、本の始末の仕方を除けば我が身、我が家を覗かれているような心境になる。そして身辺雑事。すべてが活字につながっていく。スピード感があって軽妙だけど浅薄ではない。別の著書にも手を伸ばしたくなる。実に才媛。
読了日:2月26日 著者:三浦しをん
古典注釈入門――歴史と技法 (岩波現代全書)古典注釈入門――歴史と技法 (岩波現代全書)感想
日本の古典文学は営々と享受されてきた。ただ前の時代の物は読みにくい。本文を定め、読み手に意味を正確に伝え、今日的に見た上での時代的な批評も加える。この作業が「注釈」である。中世の「秘儀」から戦国期の「合理性、一般性の追究」になり、江戸時代に「科学的」な批評態度になる。儒学、博物学の影響もある。長い流れの一つの頂点が岩波の旧、新大系本、小学館の古典全集本、角川の全注釈、新潮の古典集成本と指摘する。個人的には紙媒体を捨てられない身ゆえ、電子書籍の世には校注にはどんな事が求められるか、筆者同様に気になる處だ。
読了日:2月23日 著者:鈴木健一
定本 日本の秘境 (ヤマケイ文庫)定本 日本の秘境 (ヤマケイ文庫)感想
1955年頃、人が行かない地を訪ねた紀行文。元は雑誌「旅」に連載されたものだ。同時代の岩波写真文庫のような視点が見えるのが面白い。筆者が睨んでいた地図は旧陸地測量部以来の墨刷り1色の5万分の1地形図であったろう。青森・酸ヶ湯では若き日の三浦雄一カが出てきたり、もう廃絶したかと思う上州の浜平温泉、越後の逆巻温泉、白山の中宮温泉はそれぞれに今も栄えているようだし。高度成長期ですべてが変わってしまう前のルポ、という感興はある。ただ、筆者の書きぶりはどこか「日本百名山」の深田久弥に似て高踏的、上から目線のような。
読了日:2月18日 著者:岡田喜秋
教養としての宗教入門 - 基礎から学べる信仰と文化 (中公新書)教養としての宗教入門 - 基礎から学べる信仰と文化 (中公新書)感想
宗教学の入門書として書かれたこの本の一番のポイントは「濃い宗教」と「薄い宗教」という見立てを取り入れたこと。前者にはユダヤ教を源に持つキリスト教、イスラムが連なる。後者には仏教、儒教、道教、神道などアジアに広がる多神教系を指す。筆者は前者は篤い信仰や奇跡の祈願のような「信仰のための宗教」といい、後者を人々に共有される宗教的知識、習慣の集積として「文化としての宗教」と捉える。兎角教義や用語の解説に陥りがちな本が多い中、概括的、かつ平明、普遍的に宗教というものの現在の姿を要約したのは見事。教科書もできる1冊。
読了日:2月16日 著者:中村圭志
やきとりと日本人 屋台から星付きまで (光文社新書)やきとりと日本人 屋台から星付きまで (光文社新書)感想
やきとりクロニクル。料理関係の取材を重ねてきた経歴ゆえか、丹念に書いている本です。先行文献を博索して適切な引用をし、店を巡って聞き書き(これが上手い)。本の中で紹介されている店はどこも魅力的です。鶏に限らず、牛や豚の肉やモツもこの料理法で対応できる。串を打って焼くだけなのですが。素人料理では難しいことがよく分かります。また野鳥から鶏、さらにブロイラーの出現で一気に大衆料理化したこと、料理方法次第では美味しいことなど、示唆に富みます。備長炭の活用法や酒などの品揃えも含め業態の工夫、在来種の活用など内容多岐。
読了日:2月10日 著者:土田美登世
夢を見ない、悩まない 市川左團次夢を見ない、悩まない 市川左團次感想
市川左団次丈の人生相談。中身は肩の力を抜いて生きよ、自分の仕事を大事にしろ、ということか。お悩み相談よりも面白かったのは弟子の左升、蔦之助が話す左団次像。2人とも門閥の出身ではなく、檀那を裏で支えるのが仕事。左団次に惚れ込んでいるのがよく分かる。例えば助六の意休。大松島を始め、名優が務めてきたこの役を高島屋以上に務められる役者は今の舞台にはいない。腹もニンもある名優である。一方、SMが趣味でスッポンポンになるのも、照れ隠しなのかもしれないと。「いい加減、人生録」も読んでみたくなる。藝談のない藝談かも。
読了日:2月9日 著者:四代目市川左團次
中空構造日本の深層 (中公文庫)中空構造日本の深層 (中公文庫)感想
記紀神話の構造から日本民族が無意識の下で抱いてきた「安定感」の姿を探る。神話でアメノミナカヌシ−ツクヨミ−ホスセリと役目のよく分からない神様が中心にいる、という指摘から、日本人は決断のできない父親と、母性的家族集団に挟まれ、何でも異界の概念をこの中空構造の中に取り込んでいくという仕掛け。中空もさることながら、日本的父性と母性社会の概念がおもしろい。憲法改正論議で、改憲派は実は革新的であり、護憲派が保守的であるというネジレの指摘は、後の「リベラル保守宣言」(中島岳志)などにつながる冷静な思索につながる。
読了日:2月8日 著者:河合隼雄
雨のことば辞典 (講談社学術文庫)雨のことば辞典 (講談社学術文庫)感想
おもしろいとは思ったけど、それ以上でもない気もする。評価は微妙。読む辞典としては内容がもう少しほしいし、検索する辞典としては物足りないような。
読了日:2月8日 著者:倉嶋厚,原田稔
早稲田大学 (岩波現代文庫)早稲田大学 (岩波現代文庫)感想
岩波現代文庫がこの本を今、出版する意味が分からない。尾崎の小説3編。1は大学草創期の大隈重信が外相時代に関わった条約改正問題と騒擾。2には1916年の早稲田騒動(大隈夫人の銅像建立を発端に総長人事の騒乱に発展)の話、3に大隈侯の暗殺未遂犯の話。「冀望は学の独立」といっても私塾なのか、文部省の大学令に基づく学校となるのかは自明の理。尾崎は早稲田騒動の当事者であり、騒動を機に校風が変わったとしているが今や何人がそれに共感できるか。そして今、尾崎がいう「明るさ、叛骨、額縁のない自由さ」は存続しているのだろうか。
読了日:2月6日 著者:尾崎士郎
満蒙 日露中の「最前線」 (講談社選書メチエ)満蒙 日露中の「最前線」 (講談社選書メチエ)感想
日清、日露の戦役から15年戦争の終結まで、日本が常に進出、支配を試みた地域が「満蒙」である。日本の歴史書の多くは東から見た姿を語るが、実は西から(つまり露側)から見た景色も大切である。本書はシベリア鉄道から分かれ、ウラジオに向かう「中東鉄道」を舞台回しに日露、国共、赤軍と白系ロシアや軍閥同士の相剋まで視野に覇権争いを描く。外交だから相互に利害があり、欧亜のバランスもある。帝政ロシアの崩壊、辛亥革命の余波など日中露の「歪み」が溜まる場所と、この「鉄路」を見立てた点が卓見。戦後70年の今年、ぜひお勧めの1冊。
読了日:2月4日 著者:麻田雅文
武士の奉公 本音と建前: 江戸時代の出世と処世術 (歴史文化ライブラリー)武士の奉公 本音と建前: 江戸時代の出世と処世術 (歴史文化ライブラリー)感想
江戸時代の泰平の世と今は似ているのかもしれない。槍働き本位で切り取り次第だった世ならは評価は簡単であり、雇う側も財源が増えることが期待できる。だが石高が固定し、裁量の余地がなくなった時、どう「やる気」を生むのか。筋目(家格)の評価を元に勤務態度をで人材評価をし、石高を増減する。結局はパイの大きさは同じなので逼塞する。事務処理能力の高い新参を抱えたくても古参の周囲の怨嗟も生まれる。「加役」などの職能給を出すか、或いは雇われる側が別の生き甲斐を見出すか。流れ奉公が増えるようでは安定しないのは言うまでもないが。
読了日:2月2日 著者:高野信治
日本海軍と政治 (講談社現代新書)日本海軍と政治 (講談社現代新書)感想
旧憲法の欠陥は天皇が唯一絶対の存在で、内閣は輔弼し、軍部は輔翼という形で統帥権を行使する。内閣内でも首相が閣僚の任免権がなく、軍部内でも軍政機関(海軍省、陸軍省)と軍令機関(参謀本部、軍令部)の齟齬が起きる。陸軍より海軍は蹉跌が少なかったとはいえ、機構の欠陥が最後まで尾を引く。陸軍に統制派と皇道派があったように、海軍内にも条約派と艦隊派が存在し、自分らの権益のため政党と結んで予算確保で策動するし、自分の担当、専門分野に立て籠もることもできる。相互のチェックが働かない組織の脆さ。日本株式会社の母型かも。
読了日:2月1日 著者:手嶋泰伸

読書メーター
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2015年02月01日

☆2015年1月に読んだ本。

2015年1月の読書メーター
読んだ本の数:33冊
読んだページ数:7741ページ
ナイス数:727ナイス

よしながふみ対談集 あのひととここだけのおしゃべりよしながふみ対談集 あのひととここだけのおしゃべり感想
同業との対談が収められている。自分の知らない世界(沃野なのかもしれない)が広がっていた。「BL=やおい」程度の認識しかなかったのだけど、どの作者も膨大な知見、先行作品を踏まえての創作活動であるというのがよく分かる。コミケ、少女漫画出版社、編集者……。で、「きのう……」について筆者は「恋愛の『わーっ!』ていう気持ちが暮らして3年過ぎてて全部なくなってしまった後、家族として生きてくっていう話をわたしは描きたかった」と別の場所で述べているけど、自分の読みが実は浅かったことへの驚きと、漫画を読み込む不思議さと……
読了日:1月29日 著者:よしながふみ
きのう何食べた?(9) (モーニング KC)きのう何食べた?(9) (モーニング KC)感想
本巻刊行時点で、主人公の年齢が50歳。老眼鏡をかけるとものがよく見える、みたいな話は確かに日々の生活の点景ではあるけど、漫画になっても不思議がないと受け止められている今の時世が不思議。永遠に年老いることないデューク東郷とは違う世界です。あと親の大病の話題も出現。事件は日常にあるのですね。料理で気になったのは黒豆。我が家のは丹波黒豆ではなく雁喰豆という平べったい黒豆。この煮方、一応覚えておきたいな、と確かに思う。あとバターは冷蔵庫の中で匂いを吸ってしまうので小分けにして冷凍、ってのは確かにありかもしれない。
読了日:1月28日 著者:よしながふみ
きのう何食べた?(8) (モーニング KC)きのう何食べた?(8) (モーニング KC)感想
親との関係、身近な人の出産、親の死やら。話のネタがどうも自分の身辺に近い。前巻で「ニッチ」な読者層を想定した漫画というものが存在できる今の時代を知り、ちょっと安心したような気分。どんな展開でも驚かなくなりました。で、本巻では一番気になったのは「塩麹」。自分で作ってみたくなる。でも塩レモンを作ってはみたものの、使い道が思いつかない今を思うと手を出すのは如何、なのかな。あと、同一人物ながら細密な絵とラフな絵が場面に応じて出てくるのが却っていいのかも。全面緻密だと「へうげもの」みたいに圧迫感満載になるから。
読了日:1月28日 著者:よしながふみ
きのう何食べた?(7) (モーニング KC)きのう何食べた?(7) (モーニング KC)感想
主人公の弁護士と美容師の他、登場人物が増えてくる。職業からにじみ出るものあるし、分からないと筋が面白くなくなる。「へうげもの」もそうだが筋がややこしくなると、個人的には画像だけでは脳内が整理できず、読み返す場面が増える。ただ料理の手際というもう一本の軸があるので読みこなせているのか。チキンライスとアールグレーのソルベっぽいのは美味そう。この漫画の読者層ってどんな人なんだろう、って。掲載誌の編集長曰く「出会い頭の面白さを追う週刊誌派と情報読解能力の高い単行本派がいる」と。「少し難解で通好みな漫画」、成程。
読了日:1月27日 著者:よしながふみ
きのう何食べた?(6) (モーニング KC)きのう何食べた?(6) (モーニング KC)感想
巻数も進んできたけど、パステル画のような(もちろんペン画ですよ)筆致、ストーリーの展開は変わらない。小さな事件→感情の行き違い→飯→仲直り、という、水戸黄門ばりの計算し尽くされた展開とも言える。ゲイのカップルという基礎があるから、それもまた可、と受け止められるのかもしれない。で、横糸の料理編。鯖の味噌煮、ピーマンの煮浸し、ひじきとトマトのツナ煮が気になった。これなら作れそうな気がする。それにしても毎度のことながら、手際の良さには敬服。「主夫」です。この位段取りがイイというのはやはり場数の賜物なのだろうが。
読了日:1月27日 著者:よしながふみ
朝日新聞 日本型組織の崩壊 (文春新書)朝日新聞 日本型組織の崩壊 (文春新書)感想
読みました。
読了日:1月26日 著者:朝日新聞記者有志
きのう何食べた?(5) (モーニングKC)きのう何食べた?(5) (モーニングKC)感想
本巻で気になったレシピは長芋とトマトの味噌汁。トマトが味噌に合うのかどうか、不可思議。登場人物の会話では「ジルベール」なる人物名が??? 後でネタ明かしとして「風と木の詩」が本説であったのに、大学のころ、これを話柄にしていた「パタリロ」が大好きな先輩がいたなあ、と思い出す。巷間、「ゲイは捨てどころがない」という言葉があるそうだ。ともあれ、あばたも笑窪、それぞれお幸せに、と願う。同趣向の料理を横糸にした漫画は「深夜食堂」を始め数多あれど、この作品の妙味は2人の主人公に焦点を絞っている点にあるのではないか。
読了日:1月26日 著者:よしながふみ
復路の哲学ーーされど、語るに足る人生復路の哲学ーーされど、語るに足る人生感想
63歳の筆者、読書についてこう言う。「自然過程で成長している間はどんな読書でも何らかの役には立つだろうと思って乱読する。しかしある年齢を過ぎると生きている間に読める本の数がみえてきてしまう」と。で、まだ自分は復路に入っている自覚がないのだろうか。属人的な暗黙知を形式知に変える社会の奔流の中で「便器をまたいだ回数が多いということはそれだけで敬うに値する」と言えるか……。右肩上がりを脳裏に描きながら、1995年から生産年齢人口が減少に転じたこの国で確かに「振り返る」ことは大事だと思う。ま、分かっちゃいるが。
読了日:1月26日 著者:平川克美
きのう何食べた?(4) (モーニング KC)きのう何食べた?(4) (モーニング KC)感想
今回の料理ではナポリタンが気になった。ナポリタンとチキンライス、なかなか上手くいかないものだから。で、主人公が一人で食卓に向かう日、「パスタカレー丼チャーハンのローテーション」とかつての食生活を振り返っているけど、料理はだれかに作る張り合い、ってあるものです。あと読み終わった後、映画「Brokeback Mountain」を思い出しました。ゲイのカップルが抱える思い、周囲との関係……。主人公はきっとこの映画の終末のように内に秘めたままの思いを抱いて生きていくのだろうな、と。社会の中のカップルだから。
読了日:1月26日 著者:よしながふみ
衝動買い日記 (中公文庫)衝動買い日記 (中公文庫)感想
衝動買い、というのは何なのだろう。所有欲、知識欲、自惚れ、蒐集癖……。いろんな要素が混じっていると思う。取り上げる素材が「ああ、分かる」と思えてしまうし、共感をするものもある。本の洪水は身近に迫っている危機。サハラ砂漠の辺りでは砂に埋もれていく集落があると聞くけど、そういう景色になりつつある。本が1990年代に出されたものなので、どこか時代のずれは感じるけど、時世は変わってもこういう本性は変わらないのだろうな。仏文学者という属性を超えて普遍性がある。あ、結局、この本を買ったということが「衝動買い」だった。
読了日:1月25日 著者:鹿島茂
きのう何食べた? 3 (モーニング KC)きのう何食べた? 3 (モーニング KC)感想
そう、味噌ラーメンは「サッポロ一番」に止めを刺すのですよ。どこまでいっても(ちなみに塩もサッポロ、醤油はチャルメラの昔味が好き)。こういう年越しの姿もあるなあ、と。確かに少ない事例かもしれないけど、年越しをどうするか、っていうのは年老いた親を抱える身としては結構、考える問題。単に料理の話だけではない、バックグラウンドがあれこれと思索を巡らす契機になる本だなぁ。もちろん、レンコンのきんぴらとか、作ってみたいと思いますね。何より、主菜に何か副菜を添えるという習慣、できそうでできないことで見習わなくては、と。
読了日:1月25日 著者:よしながふみ
きのう何食べた?(2) (モーニング KC)きのう何食べた?(2) (モーニング KC)感想
料理の段取り、レシピもさることながら、大いなる面積を占める吹き出しの裏側で進むストーリーが淡々としているけどいい。ゲイの2人の出会いから始まって、一方の父親が癌になってからの展開、弁護士として離婚の後の片親の希望を叶えるための奮闘などなど、ヒーローでもスーパーマンでもないけど、日常の姿が見える。と、同時に主婦目線、思わず作ってしまおうかと思うのはポテトサラダあり、ホタテと大根のサラダ、インゲンとちくわのサラダあり。どうせなら、各話の冒頭にでも作る料理を柱立てておいてくれるといいなあ。後から探すのが面倒な。
読了日:1月24日 著者:よしながふみ
続法窓夜話 (岩波文庫 青 147-2)続法窓夜話 (岩波文庫 青 147-2)感想
前半50話が穂積重陳の遺稿、後半50話が息重遠の撰。通読しても違和感はない。中で「学者の真勇は怯懦に似たり」とか「骨董屋の論法と肴(魚)屋の論法」(古ければいいのか、新しければいいのか)など学者としての姿勢の話や「憲法」「臣民」「会社」などの用語の成立に関しての考察、或いは江戸時代の判決の「咎め言葉」(重々不届至極−不届至極−不届−不埒−不束や不調法、不念、不行届、不慎、不心掛など)の使い分けなどの昔話あり、洋の東西を問わない法学の小咄が満載である。大学の基礎教養の「法学」で使ったら面白いだろうな。
読了日:1月24日 著者:穂積陳重
猫 (中公文庫)猫 (中公文庫)感想
半世紀以上も昔に編纂された短編集。有馬頼義、大佛次郎、谷崎潤一郎などなど。中で井伏鱒二の一篇が印象的だ。山場は猫と蝮の対決である。助太刀を得た猫が一瞬に皮を切り裂いてしまう。最後に鳶口の話で締めるなど切れ味のいい短編小説。国語読本向きかもしれない。どの筆者も人智を超えて独自の挙措、行動を貫き、発情期ともなれば思うがままに交尾し、また死期を悟れば自ら家を出て行く−−相手が不可解な行動をとるとなればこちらが考え込むしかない。その振り回されっぷりが何ともいい。嗚呼また猫が飼いたい、と。真っ黒で尻尾の短い雄を。
読了日:1月24日 著者:大佛次郎,有馬頼義,尾高京子,谷崎潤一郎,井伏鱒二,瀧井孝作,猪熊弦一郎
おやじがき 絶滅危惧種中年男性図鑑 (講談社文庫)おやじがき 絶滅危惧種中年男性図鑑 (講談社文庫)感想
自他共に認めざるをえないおやぢの一人として、お説、ご高覧ご尤も、重々至極としかいいようがござりませぬ。でも何か愛がないなあ、という感じ。
読了日:1月24日 著者:内澤旬子
きのう何食べた?(1) (モーニング KC)きのう何食べた?(1) (モーニング KC)感想
珍しい漫画です。1コマの中で、料理の説明がどどっと入るので吹き出しが4分の3、絵が4分の1なんていう部分もある。でも作っているものが生活感あふれる内容で、日々の生活の中で献立を考える姿がいい。秀逸です。男前の絵とポンチ絵とが同一人物で登場するのはパタリロや軽井沢シンドローム以来の手法なのかな。登場人物が主婦以上の感覚を持つやり手弁護士の筧と美容師の矢吹というゲイのカップルの生活風景を基調に料理を取り合わせる趣向が新鮮で楽しいです。作ってみようかと思ったものが出てくるのは向田邦子の本以来かもしれない。
読了日:1月23日 著者:よしながふみ
法窓夜話 (岩波文庫)法窓夜話 (岩波文庫)感想
博覧強記を地で行くような1冊。でも嫌みがない。社会経験を広汎に身につけた法曹者が求められる昨今、明治の先学は既にして自然にその域にあったと言わねばならぬ。旧民法を起草した法哲学者であるが、内容は英、独、仏といった当時の列強だけに限らず、ハンムラビ法典からマヌの法典、或いは世界各地の民俗的審判法から伝記にまで及び、国内も上古から近世まで。恐れ入りましたとしかいいようがない筆捌きである。用語の案出(統計、憲法、民法、自由……)から始めなければいけなかった時代の人は強い、というべきかもしれない。興趣尽きぬ1冊。
読了日:1月19日 著者:穂積陳重
星新一時代小説集〈人の巻〉 (ポプラ文庫)星新一時代小説集〈人の巻〉 (ポプラ文庫)感想
天の巻が固有名詞を排除した時代小説なら、人の巻は、視点をずらすことの妙味を見せる1冊。「ある吉良家の忠臣」は忠臣蔵の1編ながら浅野家家中ではなく吉良家家中の話を書き、「城の中の人」は豊臣秀頼の視点から現れては去って行く人を描き、武士の本性を探る。「正雪と弟子」では山田風太郎の明治小説のような奇想天外な味わい、「はんぱもの維新」は小栗忠順の視点。切れる人間には周りはすべて半端に見えるだろうな、と思う。記者会見の写真で会見している本人を見せるのが正攻法なら質問する側を写すのは変化球。その楽しさといえるかも。
読了日:1月16日 著者:星新一
星新一時代小説集〈地の巻〉 (ポプラ文庫)星新一時代小説集〈地の巻〉 (ポプラ文庫)感想
6編収録。中で「厄よけ吉兵衛」は落語「小言幸兵衛」を連想させる。「藩医三代記」は家業の医業って何を求められているのか、を考えさせる一編。時代小説の体をとっているけど、実は今に通じる意識です。「かたきの首」は江戸時代ならありそうだな、という話。どの一編も時代小説の体裁をとっているのですが、骨法としては筆者の得意とするショートショートです。斬新な時代小説ととるのか、時代小説という体裁をとる意味があるのか……。個人的には微妙な線もあるような気がします。ただどの1編も映像化したらおもしろいだろうなあと思います。
読了日:1月16日 著者:星新一
星新一時代小説集〈天の巻〉 (ポプラ文庫)星新一時代小説集〈天の巻〉 (ポプラ文庫)感想
元本は「殿さまの日」「城のなかの人」という2冊の文庫本を再編集しています。で、不思議な時代小説です。具体的に言えば固有名詞の部分がない。風土や歴史、時代相まで朧化している点です。「時は元禄15年」といえば忠臣蔵だし、「特別機動警察・火付盗賊改を置いた」なら鬼平。絞りを開放している写真のよう。ピントが合う点は1作目「殿さまの日」ならお殿様である「私」の1人称小説だし、2作目「江戸から来た男」も松蔵という植木職を巡る騒動。肩の力を抜けているようでショートの名手が書いた1冊。間然とするところがないのは流石。
読了日:1月14日 著者:星新一
喧嘩両成敗の誕生 (講談社選書メチエ)喧嘩両成敗の誕生 (講談社選書メチエ)感想
喧嘩両成敗と言えば、戦国時代の分国法で示された概念。本性を言えばハムラビ法典と大差ない。だがその背後にある思考を解き明かして行くと別の姿が見える。元々は自己防衛を専らとする時代からの公権力に事態の裁断権を委ねていく過程で生まれた概念だったという絵ときである。日本人は穏やかで争いを好まないなんていう固定観念を卓袱台返しするような展開。最終的に赤穂浪士の討ち入りまで話を敷衍していくとその残虐性がよく分かる。日本人の根底に流れる「正当性」を教えてくれる1冊。今でも1人死んだら相手も1人という相殺の感覚がある。
読了日:1月12日 著者:清水克行
ちょっと本気な千夜千冊虎の巻―読書術免許皆伝ちょっと本気な千夜千冊虎の巻―読書術免許皆伝感想
読書の先達(っていう言い方は変かな、と思いつつ)の1冊。ただWebで本を紹介し、近縁を紹介していくというあの読み物は好きだけど、活字になるとどうもひっかかる気がする。この違和感は何の故なのか、自分では分からないままなのだけど。セイゴー先生のように本を汚さないからなのだろうな。傍線を引いたり、書き込みをしたり。そんな作業を重ねることと読書とはまた違う気がしている。とんでもないところに飛躍するのがたぶん読書の楽しさなのだけど、それを自分の脳内で完結させるところにもおもしろさがある訳で。免許皆伝より秘事口伝。
読了日:1月8日 著者:松岡正剛
日本史の森をゆく - 史料が語るとっておきの42話 (中公新書)日本史の森をゆく - 史料が語るとっておきの42話 (中公新書)感想
淮陰生(中野好夫)が「一月一話」という随筆を岩波書店の「図書」に連載していた。掌編だけど未だに随筆の範とするに足る素敵な1冊。随筆を書こうと思えば新書数ページという寸法は十分な長さである。で、この本読んでいくにつけても、大学時代に4月に科目登録をする際に配布された講義一覧を思い出すような内容。自分の研究を紹介するのが精一杯で読み手を意識していない文章が目立つ(勿論、例外はありますよ)。東大史料編纂所が大変なお仕事をしているのは分かりますが、何か虻蜂取らずになった1冊じゃないか? 編集者の力量や如何。
読了日:1月6日 著者:東京大学史料編纂所
粘菌 偉大なる単細胞が人類を救う (文春新書)粘菌 偉大なる単細胞が人類を救う (文春新書)感想
粘菌というと、中学時代の生物の恩師を思い出す。この著者がやったようにシャーレの濾紙の上を這い回らせていた。餌は同じくオートミール。不可思議な形を描いていた。その粘菌が最短の経路を辿って餌を食べに行ったり、不具合が起きた時のバイパスができたり。車の渋滞もそうですが複雑系の現象を解明して行くと単純化できるという思考回路が面白い。で、ちょっと顔を出すのが冪級数とか、テイラー展開の話。最終章は粘菌の話からかなり飛躍しています。読み手としては粘菌並みの知性が必要かも知れません。
読了日:1月4日 著者:中垣俊之
早稲田1968 (廣済堂新書)早稲田1968 (廣済堂新書)感想
知る人ぞ知るという範疇ではないけど、筆者はコピー機で一時代を画した三田工業の御曹司であり、姉は三田和代。固有名詞を代入してこの本を読むと、何か違っては見えないか(それが良い悪いではなく)。単に大阪・大手前高校時代から学生運動の本質を見知っていたというだけではない高等な次元に見える。一方で独特のほの緩い筆捌きはたぶん、あの時代の早稲田の学生闘争の空気を写して余すところあるまい。内ゲバで潮目が変わったという見立ても。早大は無限に第二次だったわけで、筆者の感慨深い第二学生会館の廃墟は知る世代は何か懐かしい。
読了日:1月4日 著者:三田誠広
永続敗戦論――戦後日本の核心 (atプラス叢書04)永続敗戦論――戦後日本の核心 (atプラス叢書04)感想
2013年3月の初版。東日本大震災と原発事故に触発されての執筆された1冊だけど、忘れかかっている自分がいる。1945年に日本が経験した犠牲と結果の対価を率直に見直すことなしに(敗戦を終戦、占領軍を進駐軍と呼ぶ類)進んできたことを筆者は考え直せと提起する。書中、福田恒存が提示した「親米保守派から見れば米国は日本をどんなことがあっても見捨てないという希望的観測であり、反米的進歩派から見れば米国は国益のために日本なしではやっていけないという絶望的観測への反感」という設問は猶思考停止の儘の今、答えが出ていない。
読了日:1月3日 著者:白井聡
日本の民俗 祭りと芸能 (角川ソフィア文庫)日本の民俗 祭りと芸能 (角川ソフィア文庫)感想
1952年から1997年までの間に撮影したものであるという。当然のことながら、今も継承されている祭礼もあるだろうし、廃絶転退したものもあるだろう。ただあとがきに筆者自身が書いている通り、その祭礼を継承してきた根底にある思い、思考回路は時代が変わってもそうそう変化するものではない。姿を変えて何らかの形で受け継がれていくはずである。ただそれを一気に封じて了うものがあるとすれば、急減な人口の収縮であり、それはすでに日本中で起こっていることでもある。この写真を見るにつけ、急激な変革期にいる自分を感じる。
読了日:1月3日 著者:芳賀日出男
差別の民俗学 (ちくま学芸文庫)差別の民俗学 (ちくま学芸文庫)感想
民俗学では「常民」という概念を振りかざす。貴賤を除いた庶民の意味で使われるのだが、世の中そんなに単純ではない。同和を始め、種々の階層(例えば、本家と分家、外来者、職業による貴賤などなど)が生活の中には存在している訳で、それを「スジ」といったり「ミチ」といったりする。筆者の説くように、故郷播州での体験を元に全国的に敷衍かするのは適切かどうかは別として、日本の地方にはそういう意識が現存することは事実だと感じる。移動や人口減少によってそんな意識、概念が薄れてきたとはいえ、今でも「根っこ」に座っているのを感じる。
読了日:1月3日 著者:赤松啓介
変格探偵小説入門――奇想の遺産 (岩波現代全書)変格探偵小説入門――奇想の遺産 (岩波現代全書)感想
直木賞の中で推理小説の一群が受賞作となっていることにかねてからどこか違和感があった。その点で個人的にはこの疑問を解明する一助になった。所謂、「純文学」の枠を超えた異界を描き出すためにはかつてこういう「変格探偵小説」の骨法を借りることが大いに役立ったのだ、と。谷崎潤一郎から江戸川乱歩、横溝正史を鼻祖としてエログロ、或いは耽美的な、機械的な、幻想的な、或る意味で不自然な世界を展開するためには有効なのだ。能の背骨を持つ夢野久作を経て、医学者の山田風太郎、さらには今の京極夏彦まで続く創作の群れを通観する1冊。
読了日:1月2日 著者:谷口基
なぜ時代劇は滅びるのか (新潮新書)なぜ時代劇は滅びるのか (新潮新書)感想
時代劇というコンテンツが衰亡に瀕しているのは周知の通り。筆者はその理由を視聴率競争だけに帰するのではなく、映画全盛期に粗製濫造したツケ、テレビの番組として魅力を失っていった理由、京都での製作現場の衰退、そして演じ手の減少、など縷々分析を試みる。その様は従来からの日本型組織が危殆に直面する姿と相似形になっている。滅びるべくして滅びるのか、はたまた目先の実利を優先する時代がそうさせるのか。筆者が具体的に役者名を挙げつらってまで、直言しようと奮闘する姿はどこかドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャを連想させる。
読了日:1月2日 著者:春日太一
短歌レトリック入門―修辞の旅人短歌レトリック入門―修辞の旅人感想
筆者は毎日歌壇選者、俵万智と同世代という。本書は元々はNHK出版の「短歌」の連載。直喩、隠喩、音喩(オノマトペ)などの説明は新鮮だった。それ以上に堂上和歌の時代の遺物かと思っていた枕詞、序詞、歌枕などの手法が今も生きているのが発見だった。本歌取り、翻案という項目に象徴されるように修辞には先行文芸の下敷きが必要な訳で、豊饒な世界を見るためにはそれなりの訓練が必要ということになる。本書はそんな世界を知る手がかりを見せてくれているように思える。言葉を生かした冒険にはなお無限の沃野が広がっているのを信じたい、と。
読了日:1月2日 著者:加藤治郎
画題で読み解く日本の絵画画題で読み解く日本の絵画感想
所謂、「お約束」の解説書です。寒山拾得も虎溪三笑も蝦蟇鉄拐も瀟湘八景も、商山四皓、三酸、四君子……。一定の規矩に基づいて描かれる訳で、その基礎知識がないと、無垢の隠人、文殊・普賢菩薩の化身もむさ苦しいただの妖怪のようにしか見えない訳です。写実とは別の世界ですが、日本の美を形作ってきたのも事実であります。堅苦しいようですが、基本が分かっているとパロディも分かる。本歌取りが分かる。そういう基礎知識を分かりやすく説明されている1冊です。ただもう少し、作例の充実をしてくれた方がWebの時代には親切だった気がする。
読了日:1月1日 著者:佐藤晃子
九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響感想
関東大震災後、朝鮮人(中国人)の虐殺があった。極限まで乾燥した木材が自然発火したような事態。東京という町で、否、その周辺も含めて、そういう歴史を秘めている地であることを忘れてはいけない。で、根源にあるのは人種差別だと筆者は説く。それ以上に改めて軽躁の気があることは自戒せねばなるまい。折口信夫は「平らかな生を楽しむ国びと」だと見ていた日本人が実は「一旦ことがあるとすさみきってしまう」といい、善良な市民の自覚がある芥川龍之介が野蛮な菊池寛を評して「真に善良なる市民であるのは兎に角苦心を要する」――と言う様に。
読了日:1月1日 著者:加藤直樹

読書メーター
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2015年01月01日

2014年12月に読んだ本

2014年12月の読書メーター
読んだ本の数:14冊
読んだページ数:4749ページ
ナイス数:306ナイス

地図で読み解く日本の戦争 (ちくま新書)地図で読み解く日本の戦争 (ちくま新書)感想
同じ方向の本に「外邦図」(中公新書、小林茂)があるものの、この本のよさはきちんと江戸時代末から終戦後まで縦覧している点。途中で何度も「鹵獲」という言葉が出てくるのが象徴的です。日露戦争の劈頭、鴨緑江渡河でも奉天会戦でも、露軍将校の死体から奪った地図がその後の作戦行動で如何に役立ったかが示される。逆に太平洋戦争中、南洋の島々の地図は未完成で餓島など敗退後に完成したという。地図というのは軍事行動をとる上で不可欠のものながら、旧軍の認識は低かった証しである訳で、この国の機構に通底する何かが隠れている気がします。
読了日:12月31日 著者:竹内正浩
四国遍路 - 八八ヶ所巡礼の歴史と文化 (中公新書 2298)四国遍路 - 八八ヶ所巡礼の歴史と文化 (中公新書 2298)感想
四国の遍路、自身の実感と今の諸相との間で違和感があった。中でこの本は丹念に享受史というか信仰の姿を丹念に追うことで、今の遍路の姿が何処から来たものかを示している。今でこそ当地では「お接待」という言葉が大手を振って歩いているが、実相は違う。ハンセン病への蔑視に代表されるように「ヘンド」は招かざる客という受け止めだったからだ。土佐新聞1886年5月8日付で植木枝盛が書いた「遍路拒斥すべし、乞丐逐攘すべし」と3日間に渡って論陣を張った姿の方が地元(というか高知)の本心に近い気がする。落差を埋める試みである。
読了日:12月31日 著者:森正人
世界国勢図会〈2014/15〉世界国勢図会〈2014/15〉感想
無味乾燥。でも安直な本のネタなのがすぐわかる。例えば少子高齢化の問題。「人口動態」の自然増加率がマイナスを示しているのは日本だけではない。伊、独や東欧諸国は人口が減少傾向だ。ブルガリアなんて−5.5。ただ、年齢別人口構成みると特異さが分かる。高齢者とされる65歳以上の比率は日本は25.1%。伊20.3%、独20.6%が目立つくらい。また都市人口割合。日本は93%と高い。都市と地方の差がかくも大きい国なのです。金融、財政などの指数をみると今の経済政策が適切なのか考えさせられる数字ばかり。考えながら読む1冊。
読了日:12月31日 著者:
お世継ぎのつくりかた 大奥から長屋まで 江戸の性と統治システム (ちくま学芸文庫)お世継ぎのつくりかた 大奥から長屋まで 江戸の性と統治システム (ちくま学芸文庫)感想
学術書ではないのでデータ的な裏付けが希薄な感は拭えないのだけど「お世継ぎ」作りという視点から社会を見た1冊。「地域と住民」(後には商工業活動者を含む)を指す「封」を継承するための「一夫多妻制」を旨とした武士階級と商工業の権益を相互に維持するための「株」を持続するためには「女系相続」の方が都合がいいと割り切った農工商階級と。特に前者の話題を縦軸にしながら、三都の経済的力学の遷移、大奥と表の差、大奥女性に支持された日蓮宗(不受不施派まで)の話、享保・天保の改革の意味などなど。派生するトリビアの部分がいい。
読了日:12月28日 著者:鈴木理生
へうげもの(19) (モーニング KC)へうげもの(19) (モーニング KC)感想
へうげものも気が付けばもう19巻でござる。遙けくも来たりつるものかは。この巻では加藤清正が物故。史実では1611年。主人公織部が死んだのが1615年。この漫画、この残り4年分をどう展開していくのか……。増えに増えてきた登場人物も少しずつ減っていく時期になったみたいで。中でやはり清正の描き方が秀逸。あと遠州の訣別の茶会、大人になったのだなぁ。
読了日:12月24日 著者:山田芳裕
夜這いの民俗学・夜這いの性愛論夜這いの民俗学・夜這いの性愛論感想
共産党講座派の元闘士が播州に潜行する中で、地域に沈潜、見て聞いてやった体験を元にした民俗学記。柳田國男が埓外においてきた分野に切り込んでいる。調査対象と目線の高さを同じにしているからこそ、書ける1冊である。フィールドワークもまさにこの域に達すれば以て銘ずべき。前段が農村なら後段では商家での実情が明かされる。今日、断片的に残っている習俗の原型を考える時に、欠け落ちてしまったパーツを補うことができる気がした。戦後の農地改革、高度成長期前までの社会とその後の間には大きな隔絶があるのを教えてくれる貴重な資料。
読了日:12月23日 著者:赤松啓介
「地元」の文化力: 地域の未来のつくりかた (河出ブックス)「地元」の文化力: 地域の未来のつくりかた (河出ブックス)感想
生煮えの米、みたいな本です。外側は柔らかいようで、芯が硬い。サントリーの賞典を受けた現場を調査しました、みたいな内容の本なのですが。文章をわかりやすく書く、という概念がない1冊でした。たぶん、言っていることはそう複雑ではないと思うのですが。職域に基づく社会だけではなく、地元の人との関係など、他者との関係を持った方がいいし、そういうのが地域の活性化には欠かせないよね、というような内容と理解したのですが。もう少し丁寧なフィールドワークがほしい気がしました。
読了日:12月23日 著者:苅谷剛彦,玄田有史,渡辺靖,小島多恵子,熊倉純子,神門善久,狭間諒多朗,吉川徹
昭和陸軍全史 2 日中戦争 (講談社現代新書)昭和陸軍全史 2 日中戦争 (講談社現代新書)感想
陸軍内の皇道派と統制派の権力抗争は2・26事件で後者が制することになるものの、今度は派内の抗争が続く。永田鉄山没後、ソ連との緊張関係を考え、国民党政権との妥協を模索する石原完爾と一撃屈服を目指す武藤章の対立だ。陸軍内の不一致のまま、内閣を巻き込み、事態は泥沼化する。ただいずれの局面でも資源を持たぬ国日本が帝国主義的に振る舞うにはどうしたら都合がいいか、得手勝手の論理が拭えない。行き着くところが大東亜共栄圏構想なのだけど。狂気と正気は紙一重。戦術的に勝てても戦略的に勝てない姿がどこか日本の当今に重なる。
読了日:12月22日 著者:川田稔
旧日本陸海軍の生態学 - 組織・戦闘・事件 (中公選書)旧日本陸海軍の生態学 - 組織・戦闘・事件 (中公選書)感想
旧軍の行動様式は日清戦争前に確立されていた。閩妃暗殺で現地が独断専行〜本省が追認、という姿が見える。満州事変の時と同じ図式ではないか。あと人事の恐ろしさ。旅順攻撃の第3軍、無能さを露呈した参謀連は軒並み最終的には将官に昇進。ノモンハン事件からインパール作戦へと転身した辻政信よろしく、復権した無為の人材が流す害毒は恐ろしい。あと、日本軍の戦死者の半分以上は餓死、栄養失調、海没死だったという数字。無為無策という言葉がこれに勝る証左はあるまい。ただ、川田捻の著作と比べると些か感性の古さを感じてしまったのも事実。
読了日:12月21日 著者:秦郁彦
血と薔薇コレクション 3 (河出文庫)血と薔薇コレクション 3 (河出文庫)感想
最後に巌谷國士が解説で書いていることが、かつて存在したこの雑誌の空気をよく伝えている。まず澁澤自身が離婚をし、独身であったこと。サッポロ一番をすすりながらの暮らしの一方でこういう文章が生まれた。第2に70年安保前夜だったこと。60年安保とは違い、高度成長期を挟んだ後のこの騒擾の季節にはまだ、戦争の記憶も残っていたと思う。第3に三島由紀夫の存在。戦後の文化の中である象徴的存在だったのだが、百尺竿頭なお一歩進んでしまう寸前だった時の空気を反映している。堂本正樹の男色演劇史についてはすでに取り上げたので割愛。
読了日:12月12日 著者:
血と薔薇コレクション 1 (河出文庫)血と薔薇コレクション 1 (河出文庫)感想
最初の方に収録されている三島由紀夫の「All Japanese are perverse」の一篇が出色。「意味論の森にさすらひながら、つひにはもつとも下劣で卑賤な分析家になるのである」との一文あり。最期を承知していれば何とか自身の中で収斂したいとの思いがにじむような気がしてならぬ。あと写真のモデルでは土方巽がいいなあ。
読了日:12月12日 著者:
血と薔薇―コレクション〈2〉 (河出文庫)血と薔薇―コレクション〈2〉 (河出文庫)感想
拝読しました。頭の中を仏文、耽美主義、自然主義、衒学的……という漢語が飛び交いました。中で稲垣足穂の一文は少し気になりました。
読了日:12月12日 著者:
ねこの秘密 (文春新書)ねこの秘密 (文春新書)感想
農耕文化が始まれば収穫物を荒らすネズミが人間の身近に出現し、それを追ってネコが生活圏に現れる。リビアヤマネコから「家畜」としてのイエネコに進化するまでの話が興味深い。福岡県新宮町の相島でネコの生態観察を重ねたという筆者らしく、知見や意見が何処か納得できる。この本を読みながら、久しぶりにネコを飼いたくなってしまった。真っ黒な尻尾の短いオスネコが。イカンイカン。そういえば今や「完全室内飼い」のネコが結構主流なのを知り、それにも驚く。凡百のネコ本の中では出色。
読了日:12月3日 著者:山根明弘
戦場の精神史  ~武士道という幻影 (NHK出版)戦場の精神史 ~武士道という幻影 (NHK出版)感想
伝統だと思っていることの多くが実は明治以降、あるいは戦後に形作られたということは多い。「武士道」もまた、そういう幻想の下に美化された概念だということを解き明かす1冊。中世の軍記文学を繙けば分かる通り、騙し撃ちだろうが、謀略だろうが、寝返ろうが勝った方が善である、という概念はごく自然である。争乱から縁遠くなった江戸時代に入って、「葉隠」のような記述が出現し、明治になって新渡戸稲造の「武士道」で決定的に作られた概念としての「武士道」。西欧の騎士道と重合することで実在したかのように見える。既製の通念は危うい。
読了日:12月3日 著者:佐伯真一

読書メーター
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2014年12月01日

☆2014年11月に読んだ本。

2014年11月の読書メーター
読んだ本の数:25冊
読んだページ数:6173ページ
ナイス数:570ナイス

陰陽師たちの日本史 (角川選書)陰陽師たちの日本史 (角川選書)感想
陰陽師の消長を綴る。陰陽道は中国の陰陽五行思想や、密教系の宿曜経、神道などを混合して成立。泰山府君祭、河臨祓等の儀礼をしたり、牛頭天王の考えを飲み込んだり。安倍家(後の土御門家)の生業になり、江戸時代には占師の家元として免許発行権を確立する。家業・天文観測では中国の暦法や西洋から伝来した地動説などの影響を受け、1684年の貞享暦採用以降に至る改暦に関わり、明治に入っての太陽暦採用でその命脈が尽きる。話は流れていくものの、陰陽道自体に馴染みがないので、論じている根幹がよく分からないままなのだが。
読了日:11月30日 著者:斎藤英喜
地図に見る日本―倭国・ジパング・大日本地図に見る日本―倭国・ジパング・大日本感想
「圖書」という言葉は「左図右書」という言葉があり、学問の要諦としているそうだ。出典が分からないから伝聞形で書いたが、ものの理解には字だけではなく絵も見よう、ということ。この本は右ページに地図、左ページに解説という版組。図をよく見てから文を読んでくれと筆者は言う。さて形は千差万別、それにつけても海沿いというのは外部の人間には見聞が広めやすいのか、土佐の大きさが今でいう太平洋いっぱいになった図まである。京都から見れば南の果てなのだけど。行基図を扱った岩波新書の「竜の棲む日本」の元ネタ本。良心的な入門書です。
読了日:11月29日 著者:海野一隆
地図から消えた島々: 幻の日本領と南洋探検家たち (歴史文化ライブラリー)地図から消えた島々: 幻の日本領と南洋探検家たち (歴史文化ライブラリー)感想
「島を見つけた」となると海図に記載、領有宣言がでる。繰り返している内に「幻の島」が生まれる。日本の周辺で欧米の艦船は頻繁に往来を繰り返し、こんな島々を次々と見つけていたらしい。日本人もアホウドリの羽毛と糞を目当てに殺戮と収奪を繰り返していた。欧州の植民地支配のミニ版だ。就中、有りもしない「中ノ鳥島」をでっち上げ、地図を作り、借用権の申請までした元教育者の存在は本当に不可解。今風に言えば「クラウドファウンディング詐欺」を目指した? いっそウェーク島、ミッドウエー島まで明治政府が領有を宣言していたら……。
読了日:11月28日 著者:長谷川亮一
おかしなジパング図版帖 -モンタヌスが描いた驚異の王国-おかしなジパング図版帖 -モンタヌスが描いた驚異の王国-感想
銅版画の描線というのは細密で真面目腐っている。ただ描写がトンチンカンだと絵は当然のことながら変になる。一度も来日したことのないモンタヌスというオランダ人が日本の見聞記を元に空想を膨らませた結果がこの図版集である。今、NHKで「妄想ニホン料理」という番組をやっているけど、まさに同じテースト。21世紀の今となっても遠く異国の人間にとってみれば、中国だろうが、インドだろうが、一緒くたになるのは仕方ないところ。ただ岩波文庫のビゴー、ワーグマン、パンチらの素描集に比べて何か読みにくい。タマキングワールドのゆえか。
読了日:11月26日 著者:宮田珠己
男色演劇史 (1970年)男色演劇史 (1970年)感想
Amazonの奸計に引っ掛かった1冊。刊行は70年安保前夜。筆者のナルシズムが表紙近くの紋付袴姿で横浜港の船をバックにユウケンをする姿、後書きは線路で左腕を撃たれ倒れているポーズ。流石、三島由紀夫の「腹切りごっこ」仲間だ。中身は特になし。別のものでも筆者が書いていることの域を出ず、仰々しい題名の割に散漫。ただ本題と無縁ながら口絵に入っている写真がいい。友枝喜久夫、梅若六郎、金剛巌、本田秀男、野村万蔵に三宅藤九郎。歌舞伎なら実川延若に森田勘弥と玉三郎の共演姿など。1枚の写真にも物語るものが多いのを知る。
読了日:11月25日 著者:堂本正樹
世界ボーイズラブ大全―「耽美」と「少年愛」と「悦楽」の罠 (文春文庫)世界ボーイズラブ大全―「耽美」と「少年愛」と「悦楽」の罠 (文春文庫)感想
切り貼り羅列本。内容空疎。以上。お勧め本に乗った私が馬鹿でした。
読了日:11月24日 著者:桐生操
男色の民俗学 (歴史民俗学資料叢書・第二期)男色の民俗学 (歴史民俗学資料叢書・第二期)感想
世の中には如何に先行の文献を引用するだけで構成する本が多いかを思い知らされる1冊。編者の見解は序文部分だけで、あとは男色に関する先行文献の引用が続く。いわば「広文庫」のような感じ。知見として新たなものはとほほな位少ないものの、本に挙げている文献を元にあれこれ書いている御仁が多いのに驚く。中にあって、1957年に「第三の性」なる雑誌に掲載された伊藤晴雨と比企雄二なる人物の対談が面白かった程度。文献民俗学という分野があるそうだが、文字資料だけではなく、「聞き書き」こそ事実の再現に生彩を与えると実感した次第。
読了日:11月24日 著者:
戦国武将と男色―知られざる「武家衆道」の盛衰史 (歴史新書y)戦国武将と男色―知られざる「武家衆道」の盛衰史 (歴史新書y)感想
筆者の指摘通り、男色の研究は僧侶や公家を中心とした上古、武士や町人まで広く流布した江戸期以降の研究はあるものの、中間は丁寧な研究史はなかった。前後の時代の推定から、男色=傾国という図式が出来上がったという指摘は当たっているかもしれない。巷間に名高い武田信玄、上杉謙信などなどの人物の行状を裏付けるとされる文書は別の読みも成立しうるという解釈を披露する。もう一つの筋、平安時代の公家・僧侶から始まった男色が武家にも伝播〜「武士+喝食、稚児」から「武士+小姓」という組み合わせに変わるという変遷史は興味深い。
読了日:11月22日 著者:乃至政彦
江戸端唄集 (岩波文庫)江戸端唄集 (岩波文庫)感想
「奴さんどちらへ」と唄うのは「奴さん」、「兄哥や宅かと姐御に問へば兄哥や二階で木遣りの稽古」と唄うのは「木遣りくずし」。江戸から明治にかけての俗謡俗曲端唄を集めた1冊。美空ひばりの歌でその一節が登場して伝法で仇な空気を感じるが、源を示すような1冊。文句が連想のキーになる。Webのページに演奏例が載っている。編者が底本に使った根岸登喜子の稽古用音源を転載しているのだけど、岩波文庫が、と新鮮。URLはhttp://www.iwanami.co.jp/moreinfo/3028310/top.html#03
読了日:11月19日 著者:
グランドスラム 44: アマチュアベースボールオフィシャルガイド’14 (小学館スポーツスペシャル)グランドスラム 44: アマチュアベースボールオフィシャルガイド’14 (小学館スポーツスペシャル)感想
読んだ本というほどではないのですが。社会人野球に関わった経験から創刊号からずっと購読してきました。でも久しぶりに目を通してみてびっくり。野球の記録の体裁がなっていないんです。いわゆる「テーブル」という部分。盗塁、失策、残塁の記録がない。バッテリー間の暴投、捕逸、打撃妨害、ボークの記録もない。長打も本塁打のみ。こんなずさんな雑誌をすくなくとも日本野球連盟の公認雑誌としている神経を疑います。何かこういうことを書いていると因業親父みたいで厭なのですけどね。原稿の上手い下手は好みもあるけど。こういうことが実は大事
読了日:11月19日 著者:小学館
はるか南の海のかなたに愉快な本の大陸があるはるか南の海のかなたに愉快な本の大陸がある感想
今年たぶん一番読んでいる宮田珠己が書いた本だからなのか、この人の本の嗜好と思考のベクトルが同じになるのか。この本は実に悩ましい本で、取り上げている本を次から次へとポチリたくなってしまうのであります。軽妙なノンフィクションの書き手は即ち素敵な読み手であるということです。気になった本の部分は付箋紙をつけたり、隅を折ったりするのですが、この本はそんなことをする箇所が多すぎて。副題にある「墨瓦蠟泥加」とは南方海上にあると夢想されていた大陸の名だそう。こんな本が並んでいる書架があれば夢であるのは間違いないですが。
読了日:11月18日 著者:宮田珠己
宮本常一の写真に読む失われた昭和宮本常一の写真に読む失われた昭和感想
診療所の待合室で読了。宮本常一の写真は何気ないから、説得力がある。写真は1枚で見せるのが基本だが。
読了日:11月17日 著者:佐野真一
味なもの (1953年)味なもの (1953年)感想
1953年のお江戸美味いもの名店巡り。明神下神田川、空也もなか、村上開新堂、泰明軒、いせ源などの老舗もあれば、長命寺桜餅、駒形どぜう、船橋屋、羽二重だんご、舟和など発展した店あり、当時の高名にも関わらず跡形もない店もあり。生々流転。面白いのは筆者に俳画風の挿絵を描かせている点。読売巨人軍一塁手の川上哲治氏も煎餅屋の壺の絵を描いている。後、東京は都電の町だったのだなということ。店の紹介欄は都電・××下車という案内がほとんど。高度成長期の交通渋滞を考えると仕方なかったのかもしれないけど、勿体ない気がする。
読了日:11月16日 著者:読売新聞社社会部
共謀者たち 政治家と新聞記者を繋ぐ暗黒回廊共謀者たち 政治家と新聞記者を繋ぐ暗黒回廊感想
大切なのは取材相手と記者自身との距離感、なのだと思う。そして知識、経験、体力−−。福島第一原発の事故では国内にいる記者より、海外にいる優秀な記者の方が事実を書いていたという。当今、考えることの多い出来事の前に、有意な1冊だった。「オフレコとリークに頼るスクープ至上主義」「政策より政局に重心」「地域コミュニティーの段階で、市政など権力を監視するローカルレポーティング」などなど。気になる言葉が次々と出てくる。振り返ってみれば「記者クラブ」という存在がないのなら、それはそれであり。その分、足で稼げばいい。
読了日:11月15日 著者:河野太郎,牧野洋
男色の日本史――なぜ世界有数の同性愛文化が栄えたのか男色の日本史――なぜ世界有数の同性愛文化が栄えたのか感想
新聞の書評欄はちょっとした本屋さんがないエリアでは重要な情報源。確かこの本はそんな選択だったけど、ちょっと相性が合わなかった。なぜかといえば「隔靴掻痒」の感が否めないから。外国から見た日本の男色史なのだけど、興味の重心が微妙にずれている気がして仕方ない。本の背骨とすれば「本朝男色考・男色文献書志」に則っているのが透けているのだけど、枝葉末節へのこだわり方が何か違う。何か無修正のポルノがこれでもかと羅列されているような感じかなぁ。類書なら「男色の景色」などの本邦の本の方が読みやすい気がする。
読了日:11月14日 著者:ゲイリー・P・リュープ
言論抑圧 - 矢内原事件の構図 (中公新書)言論抑圧 - 矢内原事件の構図 (中公新書)感想
帝大経済学部の矢内原忠雄が辞職に追い込まれた1937年12月の出来事が題材。大学外の外圧(帝国議会、キングなどの雑誌メディア、国粋主義的な団体、文部省)は勿論、学内の紛擾(教授会内の派閥抗争)や信仰していた無教会派の集団内での立場の対立、大学の独立性など、重層的に解き明かす。言論弾圧というと外圧の側面が短絡的に注目される。しかし、それ以上に自身の足元が崩れていくような構図が浮かんでくる。マイクロヒストリーという手法はとまれ、無批判な大衆の軽躁と学内の教授陣の権謀術数こそが一番の陥穽となるのがよく分かる。
読了日:11月13日 著者:将基面貴巳
味―天皇の料理番が語る昭和 (中公文庫BIBLIO)味―天皇の料理番が語る昭和 (中公文庫BIBLIO)感想
これは筆者の処女作。新鮮で内容豊富、面白い。前半は筆者の半生記、後段は料理に関する漫筆。料理人の中でも宮中の主厨長、しかも大正、昭和の両天皇の大典を仕切り、日本が一等国と自認した時代からの話は、余人が経験できるところではない。中でも宮中の伝統的な食べ物用語の蒐集や、終戦前後の台所事情などはこの人ならでは書き残し得なかったことだろう。大隈重信が毎日メロンを食べていたり、GHQのホイットニー(民政局長ですな)の奥さんがわがままだったり。巻末の「完全な食卓作法」も佳品、これはこれで筆者の性格がよく出ています。
読了日:11月10日 著者:秋山徳蔵
〈役割語〉小辞典〈役割語〉小辞典感想
話者と人物像を結びつける言葉を「役割語」と言う。例えば1人称。あたい、あたくし、あっし、おいら、おいどん、おら、おれ、じぶん、それがし、わがはい、わし、わたくし、わちき、わて、わらわ。性差に由来する男ことば、女ことばの2項対立を始め、地域に由来する田舎ことばや方言(大阪弁・関西弁、京言葉、九州弁、土佐弁、沖縄言葉)、時代に由来する武士ことば、公家ことばなどなど、話し方の個性が社会でステレオタイプとして固定すると、創作(仮想現実)でひとり歩きを始めるという仕掛け。用例の抽出がユニークで拾い読みが楽しい1冊。
読了日:11月9日 著者:
料理歳時記 (1955年)料理歳時記 (1955年)感想
著者は「きょうの料理」などで講師役を務めた料理研究家。今、活躍している柳原一成の父であり、売り出し中の尚之の祖父に当たる。東京農大を出た後、この本を書いたころは熱海で割烹を開いていた。さて中身。一番興味深いのは「畫(画)餅の詩」の部分。江戸前の割烹の仕事をさりげなく書いている。鰹の「たたき膾」や、アワビと山芋をすり下ろして寒天で寄せた「山芋豆腐」など、凝った料理の紹介がある一方、何げないものをより美味く食べる工夫もあって楽しい。その後、改訂を繰り返しているようだけど、今風に仕立て直せば文庫化も可、な本。
読了日:11月9日 著者:柳原敏雄
舌―天皇の料理番が語る奇食珍味 (中公文庫)舌―天皇の料理番が語る奇食珍味 (中公文庫)感想
著者は「天皇の料理番」として知られ、竹の園生で司厨長を1913~1972年、務めた人物。ただ、この肩書きが多くの人にとっては忘却の彼方に去った今となってしまうと、本としての価値が著しく減じていることを感じざるを得ない。料理番として数多の経験を積み、正統派の道を歩み、そのために多くの典籍を紐解いて修業に励んだのは痛いほどよく分かるのだけど。同じ宮中ものでも入江相政の随筆の端々に今も精彩を失わない物があるのとは対蹠的な気がする。筆者がよく引く「随園食単」との違いとも言えるのだけど。本の寿命、かな。
読了日:11月8日 著者:秋山徳蔵
高野山 (岩波新書)高野山 (岩波新書)感想
高野山は開創1200年だそうだ。聖俗が混在しながらも何度訪れても神韻とした空気は得難い。で、今のこの教団にあって一番の学識が書いた密教の入門書でもある。中で高野山の開創の章と高野山の歴史の部分が筆者の面目躍如。教学の難解さは残るものの、新義真言宗を開いた覚鑁の評価の高さを示したり、真言教学を伝える信念を伝えたり。念仏を奉じた高野聖(時衆)の存在の大きさや運営を担った行人方への言及、徳川幕府による宗門改、本山末寺制度の確立への言及が足りないのは残念。高野山霊宝館の「高野山よもやま記」を補完で読むといいかも。
読了日:11月7日 著者:松長有慶
川はどうしてできるのか (ブルーバックス)川はどうしてできるのか (ブルーバックス)感想
川についての入門書。印象的だったのはプレートテクトニクス理論やパンゲア大陸(大陸移動説)を含めての解説ぶり。諏訪湖が水源とされる天竜川は実は中央分水嶺を越えて古くはウスリー川まで源流を遡れるのでは、という仮説。プレートの移動と造山運動で強ち空論ともいえまい。たまたま搭乗した飛行機で眼下の雲海を見ていたら、かつてはこんな世界が広がっていたいたかな、と思った。それと太平洋側の川は遠く海溝まで続いているという指摘。関東地方の川は海の底の盆地に集まり、日本海溝に向かっていくそうだ。不思議なものです。
読了日:11月6日 著者:藤岡換太郎
関西鉄道遺産 (ブルーバックス)関西鉄道遺産 (ブルーバックス)感想
関西は私鉄王国だ。近鉄を筆頭に阪急、阪神、南海、そして国鉄が覇を競い合った歴史を持つ。資本が集積していたから鉄道も発達した。関東とは違い、険阻な山脈に隔てられることもない。地理的条件に加えて、古来王城の地、文化の中心であったことが独自の美意識を生む。鉄道の遺構にも風土が生きているのがよく分かる。橋梁では当初の英国式から米国式に変化したり、アールデコが入ってきたり、日本風の木造の駅舎が登場したり。橋梁、隧道、高架、駅舎など項目ごとに時系列で読みやすい。あと「マンボウ」の説明が個人的には興味深かった。
読了日:11月4日 著者:小野田滋
ロッパ食談 完全版 (河出文庫)ロッパ食談 完全版 (河出文庫)感想
食道楽・古川緑波が雑誌に連載をしたものをまとめた1冊。昭和20年代の外食事情が伝わる。東京生まれで気性は江戸前ながら、魚がダメで洋食好き。ありとあらゆる食にまつわる月旦あり、追憶あり。東京、大阪、京都、神戸がよく登場するのは大都会であった証だろう。谷崎潤一郎や菊池寛、草野心平、久保田万太郎らとの交流でも食卓が挟まる。軽妙で歯切れのいい書きぶりは終戦後のものとは思えない。「美味いものを自由に食える身分になりたい」という性根に経緯。こんな本は以前なら中公文庫の得意分野だったけど、今は河出文庫に移ったのだな。
読了日:11月4日 著者:古川緑波
ふしぎな国道 (講談社現代新書)ふしぎな国道 (講談社現代新書)感想
酷道であり、兎道・吐道(都道)、獰道(道道、獰猛のドウ)、腐道・怖道(府道、恐怖のフ)、険道(県道)、跳道(町道、凹凸が激しく跳ねる道)・懲道などなどの愛情いっぱいの宛字が生まれてきた。そんなマニアの入門書として書かれた1冊である。と、同時に日本には「グランドデザイン」などという発想が絶えて存在せず、我田引鉄以来の伝統をひく地元陳情に基づく利益供与とご都合主義の集積が今の道路行政ともいえ、その皮肉を綴っているともいえる。さて、何事によらず、マニアが公認される存在になると対象物は姿を消していく。難しい。
読了日:11月1日 著者:佐藤健太郎

読書メーター
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2014年11月01日

☆2014年10月に読んだ本。

2014年10月の読書メーター
読んだ本の数:16冊
読んだページ数:4854ページ
ナイス数:484ナイス

腰痛探検家 (集英社文庫)腰痛探検家 (集英社文庫)感想
転んでも只は起きないという見本のような1冊、さすが高野秀行である。腰痛に苦しんだことをネタに整体、鍼、PNF、整形外科などなど、ありとあらゆる施術を試みていく。ウモッカを探す時より、ムベンベを訪ねるのと同じ体力と気力を傾注しているのだからすごい。たとえ様が密林の探検家だったり、ダメ女子だったり、ダメ男子だったり、会社再建だったり。絶妙軽妙。間に入る地の文はまた哲学的で思索に富む。最終的には元々親しんでいた水泳に戻って、がむしゃらに遣っていたら、それで腰痛が軽快したという、めでたしめでたし、なのだけど。
読了日:10月31日 著者:高野秀行
日本劣化論 (ちくま新書)日本劣化論 (ちくま新書)感想
安倍首相が実際にやっていることは米国の第2次世界大戦での成果の否定であり、米国の都合と何事も一致するか分からないという見立ては過去にもあった。ただ本書は自民党内のハト派とタカ派の関係から、社会主義の変遷、受容史、19世紀の戦争と20世紀の戦争の違いまで、ありとあらゆる分野に言及しているのが特徴。「反知性主義の否定」ということをこういう形で表現しているというか。武芸百般、博覧強記、百家争鳴……。黒門町の文楽風に言えば「奥の方に何かキラッと光る物がございます」。広汎過ぎて読了後もどう書いていいか分からない。
読了日:10月29日 著者:笠井潔,白井聡
日本史の謎は「地形」で解ける【環境・民族篇】 (PHP文庫)日本史の謎は「地形」で解ける【環境・民族篇】 (PHP文庫)感想
読みました。昔、阿川弘之は「だ」「だった」ばかりで止める原稿のことを「安物の軽機関銃」といって馬鹿にしたように記憶しています。まさに、その感じ。信濃川の大河津分水も偉大な工事のように言いますが、今は砂浜の浸食など大きな禍根も残しています。評価が一面的に過ぎる気がして。それを補うような軽機関銃の音。
読了日:10月26日 著者:竹村公太郎
日本史の謎は「地形」で解ける【文明・文化篇】 (PHP文庫)日本史の謎は「地形」で解ける【文明・文化篇】 (PHP文庫)感想
読みました。
読了日:10月26日 著者:竹村公太郎
ユリイカ 2014年9月 臨時増刊号 総特集◎イケメン・スタディーズユリイカ 2014年9月 臨時増刊号 総特集◎イケメン・スタディーズ感想
「イケメン」という言葉をくくりに、見る側、見られる側、見せる側と論を広げていく。かつての「2枚目」「男前」という言葉は確かに経験のある人間が選び出して磨いていく存在だったけど、今は「ジュノンボーイズ」に代表されるように、集合知が見つけ出し、育てていく存在になっている。最後の伝統的な藝系を示しているのがジャニーズ事務所であるという位置づけはわかりやすい。現に同事務所でも、アイドルが変質しているのだから。久しぶりに「ユリイカ」を読んだけど、こういう活字媒体(何せ1カ所の広告がない雑誌)というのはうれしいな。
読了日:10月24日 著者:小越勇輝,鈴木拡樹,高杉真宙,小野賢章,坂口健太郎,國島直希,飯伏幸太,阿久津愼太郎,千葉雅也,星野太,柴田英里
検証 長篠合戦 (歴史文化ライブラリー)検証 長篠合戦 (歴史文化ライブラリー)感想
長篠合戦といえば甲州武田の騎馬軍団が織田徳川の鉄砲隊に敗れ去った戦いと教科書では習った。でも実際は別のところに敗因があったとの分析がこの本。筆者の見立ては物流の中心か否か、動員が可能であったかなどを挙げる。鉄砲を重視してもそれを調達できる製造工場があるか、硝煙、特に弾丸に使う鉛を調達できたかなど。信長記や甲陽軍鑑、手紙や命令書といった文書の読み解きに留まらず、鉛の鉄砲玉を発掘して成分分析をし、産地を同定するなど、歴史学も大きく進歩したものだ。中国産やインドネシア産の鉛まで入っていたというのだから。面白い。
読了日:10月24日 著者:平山優
日本史の謎は「地形」で解ける (PHP文庫)日本史の謎は「地形」で解ける (PHP文庫)感想
戦後、日本の地形は大きく変わった。その点でかつての地形や地勢を見落としていると、歴史的な出来事の分析を見誤ることになるというのは事実です。ただ、この方の本は思い込みが激しい気がします。下部構造(地形や河川などの自然地理学の領域)に関しての記述に徹していればおもしろい本だったと思うのですが、生半可な知識と結びつけようとしているのが残念。3冊買っちゃったけど、ちょと2冊目以降はつらいかな。例えば濃尾平野の木曽三川と東海道の関係なら「中世の東海道をゆく」の方が良書。PHP文庫風というか。生兵法は事故の元。
読了日:10月20日 著者:竹村公太郎
二〇世紀の歴史 (岩波新書)二〇世紀の歴史 (岩波新書)感想
出来事の羅列になるのが歴史の教科書、でもこの本は時代に横串を通して20世紀を概観していく。ロシア革命から共産主義体制の崩壊までと捉える「短い20世紀論」に対し、世界全体に視野を広げて帝国主義の領土分割が進んだ1870年代から1990年代までの動きを分析する、結構の大きな1冊。アフリカ大陸や中東の植民地化、極東での動きと、宇宙から眺めたような視点で見ると、歴史の因果がよく分かります。と同時に「謎の独立国ソマリランド」が微分ならこの本は積分。日本という国が遅れてきた帝国主義国として近視眼的だったこともまた。
読了日:10月18日 著者:木畑洋一
四人組がいた。四人組がいた。感想
元村長、元助役、元郵便局長に老婆。元郵便局舎に集まって日毎に繰り返す話を綴ったファンタジー。狸や熊、駝鳥まで登場してのお伽話である。ただ、どの辺にピントを合わせたのかが計り兼ねた。写真で言えば「被写界深度」のようなもの。近景を見れば痛快娯楽の話、遠景を見れば現下の少子高齢化から社会風刺。近景で見えている話は地方では現実であり、遠景はまた抱えている悩みの実像。虚実皮膜の間に仕立ててすべてを包含しようとしたのだろうけど、使い捨てカメラの画像のように、結局はどこにも焦点が合っていない、ということではないかな。
読了日:10月14日 著者:高村薫
昭和陸軍全史 1 満州事変 (講談社現代新書)昭和陸軍全史 1 満州事変 (講談社現代新書)感想
永田鉄山と石原完爾。2人とも日本史の教科書には余り登場しない。でも15年戦争の端緒となった満州事変の立役者である。本の妙味は時の政権がこの2人にどう引き摺られていったのかを詳述している点にある。九カ国条約、四カ国条約といったワシントン体制、国際協調路線からどう逸脱していったか。旧憲法下での内閣制度の限界や参謀本部の位置づけ、海外派兵に対しての内閣の責任等々。政府が執った一つずつの手続きは2人の策謀の前に糊塗弥縫を繰り返したのが分かる。惜しむらくは索引、年表がなく、地図も不十分な点。人物索引は特に欲しい。
読了日:10月13日 著者:川田稔
誰も調べなかった日本文化史: 土下座・先生・牛・全裸 (ちくま文庫)誰も調べなかった日本文化史: 土下座・先生・牛・全裸 (ちくま文庫)感想
「パオロ・マッツァリーノの日本史漫談」(二見書房)の改題。仮面の作者は誰か分からない(いじめ問題を専門にした社会学者という説もあるそうだ)が、論理は合理的に見えて結構専断的。朝日と読売のデータベースを活用とあるものの、1980年代以前のデータベースは十全ではないのは承知の通り。土下座の習慣、先生という呼び名、牛はどこにいた?、牛乳臭いの由来などなどを考証して見せる文です。確かに誰も書かなかったろうけど、逆に価値があったか否か。新聞の一面広告の章は天野祐吉の本を一度目を通した方がよさそうな内容。戯作ですな。
読了日:10月9日 著者:パオロマッツァリーノ
馬鹿について―人間-この愚かなるもの馬鹿について―人間-この愚かなるもの感想
「勤勉は馬鹿の埋め合わせにはならない。勤勉な馬鹿ほど、はた迷惑なものはない」。人生の愚かさについての格言集(巻末)についている一文である。今日、ゼークトの言葉として喧伝され、ビジネス本に時々登場するこの言葉「有能な怠け者は司令官に、有能な働き者は参謀にせよ。無能な怠け者は連絡将校か下級兵士にすべし。無能な働き者はすぐに銃殺刑に処せ」の元ネタである気がしている。阿川弘之がこの本を随筆で紹介していたので読み始めたけど、ナチスの優性政策の影響が色濃い感じが違和感につながる。今は出版も難しい1冊かもしれない。
読了日:10月8日 著者:ホルスト・ガイヤー
第一次世界大戦 (ちくま新書)第一次世界大戦 (ちくま新書)感想
サラエボでの1発の銃弾がなぜ欧州全体の戦争に発展したかという第1章と第4章の「おわりに」に妙味がある。大戦後、他民族国家の崩壊し、民族自決権と政治への民衆参加で国民国家の成立し、多国間の安全保障体制への移行、女性の社会進出など。今につながる結果が出たこと。ドイツを中心とした総力戦体制が実は国力を問われるこという結果。資源、人口などなど、日本は第二次大戦に向けて何も学ばなかったのだろうか。15年戦争で日本兵の死亡率は約3割3分といわれるが、この大戦の主要国より高く、総力戦の末路もご存じの通りなのだが。
読了日:10月6日 著者:木村靖二
カラー版 国芳 (岩波新書)カラー版 国芳 (岩波新書)感想
浮世絵といえば歌麿、北斎、広重、写楽が既成概念だけど、忘れてはいけないのが国芳。大胆な構図と機知に富む題材、西洋画の技法を取り入れる進取の気性。概観する本がなかったのだが、この1冊は入門書として好個である。こういう企画展があったら楽しいだろう。「猫好き」の浮世絵師であると同時に、弟子思いであり弟子に慕われる一面、総身に彫物をした鳶のような気っ風のよさ、江戸っ子気質が渾然一体となって生まれた絵なのだ。筆者はフリーのキュレイター。ボストン、大英の両博物館蒐集の国芳作品がWebで見られる時代ならではの1冊。
読了日:10月5日 著者:岩切友里子
鞆ノ津茶会記 (講談社文芸文庫)鞆ノ津茶会記 (講談社文芸文庫)感想
織豊時代に生きた外交僧安国寺恵瓊を一応の主人公に、その周辺にいた架空の人物が鞆ノ津辺りで茶会を開いたという舞台設定、道具立てやもてなしを記して置くのが茶会記。小早川家やその周縁の人々の話を聞き書きしたという体裁で話は進む。話の中身は石山合戦のころから関ケ原の合戦前夜まで。登場人物の何気ない会話から、秀吉の時代の空気を写し取ろうという試みは蕪村の絵を見ているような感じで、淡い中に何が心に残る。小田原征伐のこと、朝鮮出兵のこと、権力者という立場の狂気が浮かび上がる。巧い。軽い読後感と同時に残るもの多々。
読了日:10月5日 著者:井伏鱒二
お言葉ですが…〈別巻6〉司馬さんの見た中国お言葉ですが…〈別巻6〉司馬さんの見た中国感想
原稿の執筆年代が支離滅裂で、内容に基づいて、とりあえず部立てをしてまとめましたみたいな1冊。1990年代のものが多く、時代を感じてしまう。2014年6月の新刊ということで期待をしたけど、ちょっと裏切られた感じです。落ち穂拾いみたいな。さすがに本の紹介をする下りはこの筆者ならではの筆捌き(この書き方の影響は受けているのを自覚)だけど、前後は如何かな。週刊文春に連載をしていた頃の筆鋒の鋭さがないのが残念。ちなみにこの本には巻末に詳細な索引(別巻の分だけですが)がついていて、筆を擱くことを考えているのかな。
読了日:10月2日 著者:高島俊男

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2014年10月01日

☆2014年9月に読んだ本。

2014年9月の読書メーター
読んだ本の数:24冊
読んだページ数:6838ページ
ナイス数:520ナイス

高野聖 (角川選書 79)高野聖 (角川選書 79)感想
再読。真言密教の聖地のように今は映る高野山ではあるけれど、歴史を振り返ればそう単線的な歴史ではない。兵火にかかり、宗派内の権力抗争があり、衰微した時期も長い。中で念仏聖が住み着き、全国を経巡り、骨のぼせ(納骨)を進め、高野山の名を広めていった歴史がある。高野三方といわれ、純粋な真言教学を伝持する学侶方、法会や諸堂舎の管理から、炊事や雑用、年貢や出納管理の仕事を担当した行人方も居て、本書の主役は聖方。唱道や勧進をしながら全国に信仰を説いて廻った。日本総菩提所といった信仰を作った陰の功労者に焦点を当てた名著。
読了日:9月28日 著者:五来重
修験道入門 (1980年)修験道入門 (1980年)感想
再読。最初に読んだ時は新鮮だった記憶がある。今でもこの本以上の入門書は探すのが難しい。というのは、修験の信仰面だけではなく、広く民俗学や社会学などの範疇にまで視野が及んでの著作だから古びることがない。逆に事例研究は進んでいるかもしれないけど、この時代に筆者が聞き取り調査や自分でフィールドワークしたことはその後に絶えている可能性が高いものも多い。だから今でも修験道という日本独自の自然信仰に関して概括的にとらえることのできる貴重な1冊といえると思う。手に入れた古本は意味のない傍線だらけで読みにくかったが。
読了日:9月28日 著者:五来重
泉光院江戸旅日記: 山伏が見た江戸期庶民のくらし (ちくま学芸文庫)泉光院江戸旅日記: 山伏が見た江戸期庶民のくらし (ちくま学芸文庫)感想
原文を読んだら、おもしろいのだろうなあ、という感じ。となると、三一書房の「日本庶民生活史料集成」に当たるしかないのかな。現代語に意訳してあるようなので、味わいはどうかな。「日本九峰修行日記」という本は五来重の本で知ってはいたのだけど、ま、こういう修行者がいたというのはすごいことです。積読から手に取ったのは御嶽山の噴火がきっかけ。御嶽山に行っていないかなと思ったら、御嶽山は九峰に入っていなかった……。
読了日:9月28日 著者:石川英輔
中国絵画入門 (岩波新書)中国絵画入門 (岩波新書)感想
「気」というのは風水でも漢方医学でも出てくる概念だが、絵画の中に流れている。気品を賞翫するのが値打ちであるという命題に沿って展開していく。丹念に時代順に追いかけていく。どちらかと言えば馴染みが薄い作家も多いのだけど、画例をなるべく口絵やページに掲載しながら進める。文人画、士大夫という階層が生まれる中で独自の発展を遂げていくことが分かる。模写であっても「気」が生きていれば本物と同じ評価が得られるのに対し、作者が高名であっても「気」が備わっていなければ評価が得られないとする視点。筆者の書きっぷりは歯切れいい。
読了日:9月27日 著者:宇佐美文理
知の訓練 日本にとって政治とは何か (新潮新書 578)知の訓練 日本にとって政治とは何か (新潮新書 578)感想
題名に難。せめて「日本のまつりごと」くらいにすべきでしょ。明治学院大国際学部の「比較政治論」講義録です。筆者が言いたいことは日本の政治は「まつりごと=祀りごと」と一体化していて、それは日本の大和系と出雲系の対立までさかのぼるのではという分析が登場したり、創価学会の存在、靖国神社の宗教観、東京と大阪の比較論などなどと次々と登場するのですが、すべてで何か食い足りない。それは講義録の限界なのかもしれません。講義は学生にとっての「知の訓練」であるにせよ、余りに大風呂敷であると思いますし、傲岸にも思えるのですが。
読了日:9月26日 著者:原武史
列島の歴史を語る (ちくま学芸文庫)列島の歴史を語る (ちくま学芸文庫)感想
網野善彦の歴史のとらえ方、歴史学とか民俗学とか、社会学の境界を探る姿勢がよく分かる。文献を読み込むこと、史料を博索すること、現地を踏査すること。これを繰り返して思索を巡らし、その結論を探る姿勢。日本列島を単一の時間軸の年表で語ることの難しさを説く。最終章の一遍上人絵伝を読み解く部分が興味深かった。ただ、1980年代の講演会の分が4篇あり、ここではまだ、皇国史観の後に日本を席捲したマルクス史観の時代を思い返させてくれるような質問があり、今となってはちょっと価値を見いだしがたいやりとりもあるのが残念。
読了日:9月26日 著者:網野善彦
日本映画史110年 (集英社新書)日本映画史110年 (集英社新書)感想
今日的な意味での「映画」が成立する以前、つまり無声であった時代に、日本映画に通底する特徴を見出している点が興味深い。識字率の高さ、出版文化の爛熟が映画に原作を提供するばかりでなく、物語の映像化という輻輳した影響を生んだ点、弁士という饒舌な存在が前説、後説といった習慣を生み、ロングショットを受け入れる素地になったこと、さらには能の地謡、歌舞伎の浄瑠璃といった説明が入る演劇が背景にあったこと。松竹、日活など東京と京都の2極で制作が進んだ影響の指摘も興味深い。筆者の古典映画、先行作品への造詣が生んだ1冊である。
読了日:9月23日 著者:四方田犬彦
向田邦子の手料理 (講談社のお料理BOOK)向田邦子の手料理 (講談社のお料理BOOK)感想
作れそう、作ってみたくなる料理ばかりであるところが悩ましい。決して気取ったものではないのだけど。でも、いざ作るとなると難しいかな。あと、こんな料理を出せる相手はある程度年齢を重ねた、味の分かる相手でないと成立しえない感じも。でも参考になりました。こういう料理をちょっと出して酒を酌み交わせるような宴を開きたいものです。
読了日:9月20日 著者:向田和子
欲望の図像学欲望の図像学感想
今となっては内容が古すぎる気がします。日本のプロパガンダ誌フロントを始め、旧ソ連、アメリカでの写真を利用した煽情的な発行物を題材に論じているのですが、写真はもちろん、動画ですらここまで流通してしまう時代になると、紙媒体という存在はいささか軽微であることを思い知らされます。つまり、写真を題材にあれこれと論じても、その基盤が紙媒体を前提とした立論であるので、いささか時代錯誤という感じがするのです。1980年ごろに流行した、論理に、何か懐かしさも覚えましたが。逆に今をみるための視座として読めば好材料かも。
読了日:9月20日 著者:柏木博
昭和ごはん 作れる思い出レシピ昭和ごはん 作れる思い出レシピ感想
料理の本ではありません。人間の本性を解き明かすような本です。たぶん、味覚と嗅覚が行動の記憶という部分と深くつながっているような気がします(何を食べたか思い出せれば、行動がよみがえるでしょ)。東京周辺の手に職を持った方々のインタビューが主、その記憶のキーになる料理を紹介、といった体裁の本です。でも、取り上げている料理が実に美味そうでありまして、この本を参考にして料理を作ってみようか、と思うくらい。あ、書き手の狙い通りか。聞き手の時代の空気のとらえ方、話の引き出し方が絶妙。ただし、対話の部分が妙に寸足らず。
読了日:9月19日 著者:瀬尾幸子
作家のごちそう帖: 悪食・鯨飲・甘食・粗食 (平凡社新書)作家のごちそう帖: 悪食・鯨飲・甘食・粗食 (平凡社新書)感想
大半が羅列本、切り貼り本。筆者の生年は1958年?で自分の生きてきた年代が重なり、実際に食べられるものに関連しての引用、考察は生気にあふれ、筆遣いも闊達だのだけど、世代的に隔絶していたり、当時を振り返るよすががないであろう作家(章立てで言えば森鷗外から吉田健一以前の人々)は今一つ。ま、言えば、最後の向田邦子、開高健の2章がお値打ちというところ。帯にある「食の饗演」は看板倒れか。「経験がないと感知できないことが厖大にある。経験していても感知できないこと、これまた厖大である」と引用している開高の言葉が嵌まる。
読了日:9月18日 著者:大本泉
だから日本はズレている (新潮新書 566)だから日本はズレている (新潮新書 566)感想
「このままでは2040年の日本はこうなる」の章が印象的。人口減少、就労人口の高齢化、階級格差の拡大、財政赤字の拡大などなど、行き着く先を考えれば絵空事ではない。「地域創生」なんて4文字熟語の標語が闊歩する時世が続くとは思えないし。財源が限られれば選択と集中が進み、東京と福岡が生き残るとの見立て。政府権限の委譲に伴う特区もできるとの予想だ。その頃にはこの筆者も今の自分と大差ない年になっているだろうな。「正しいではなくもっともらしいこと」を尊重していけば確かにそうなるだろう。唐突だが真鍋博の名を思い出した。
読了日:9月18日 著者:古市憲寿
すみだ川気まま絵図 (ちくま文庫)すみだ川気まま絵図 (ちくま文庫)感想
1982,3年ごろの隅田川遊覧記。というより先学の名を借りれば、永井荷風 今和次郎 妹尾河童、辺りか。当時、国技館は蔵前にあり、両国に青果市場があった時代。さらにはリバーサイドに超高層マンションが立ち並んではいないし、深更の橋に立てば漆黒の闇が広がる町ではあった。時移り、大川端も様変わりした。水質は良くなったかもしれないけど、失った人気、風情が多いのに驚く。筆者の好奇心に任せたスケッチルポ。貴重である。名所巡りにも橋巡りにも役立たないけど、幾星霜を経て版型、版元を変えて復刊されたのは慶賀にたえない。
読了日:9月16日 著者:松本哉
金田一家、日本語百年のひみつ (朝日新書)金田一家、日本語百年のひみつ (朝日新書)感想
河竹黙阿弥からの3代。繁俊−登志夫と続き、3代目が「作家の家」を書いた1冊を連想した。で、筆者は金田一京助、春彦に続く3代目の日本語学者。とはいえ、初代が言語学者、2代目が国語学者であったと筆者の弁。家職の継承を目指したものではなく、生まれ育った環境の産物であろう。本に親しみ、日本語について考える空気が身辺にあったからこそ3代目が生まれた。身辺雑記が楽しいし、父との対談や思い出の記は身近にいた者ならではだ。面白いと思うものを追う暮らしである。親の収入と子の学歴に相関関係があるという社会調査も思い出した。
読了日:9月16日 著者:金田一秀穂
「外食の裏側」を見抜くプロの全スキル、教えます。「外食の裏側」を見抜くプロの全スキル、教えます。感想
外食店の裏側を見抜くと言ってもごく当たり前のことです。値段相応、なら少しでも美味いと思える店を選ぶ、だけのこと。それが大戸屋であり、吉野家であり、ケンタであり、ココイチであり。量をこなしつつ、何処かで一線を守っている、ということです。確かに植物性タンパクだったり、リン酸塩だったり。外食の場合は細かな表示が不要というルールもありますが、やはり値段相応ということになるのではないかなあ。店の評判はやはりネットより口コミだと思うなあ。
読了日:9月16日 著者:河岸宏和
一遍と時衆の謎: 時宗史を読み解く (平凡社新書 748)一遍と時衆の謎: 時宗史を読み解く (平凡社新書 748)感想
時宗というのは今も続いている浄土系の仏教宗派ではあるけど、馴染みが薄い。「決定往生六十万人 南無阿弥陀仏」の札を配り、浄不浄、信不信を問わず、従来の日本の神祇を拝まずという姿勢を貫いた鎌倉新仏教(日蓮、親鸞など)とは違い神仏習合をも認める教義で、合戦ともなれば「陣僧」として戦場を駆け回り遺体を回収したというのだから。後に親鸞系の教団に信徒が流れるのだが、江戸時代以前までの独自性は見逃せない。前段は一遍と時衆の解明、後段は一遍聖絵を使っての生涯の俯瞰。阿弥号の問題や係累縁故も論述の範囲に。いい入門書である。
読了日:9月16日 著者:桜井哲夫
日本の軍歌 国民的音楽の歴史 (幻冬舎新書)日本の軍歌 国民的音楽の歴史 (幻冬舎新書)感想
極論すれば日本の軍歌は明治期と昭和期の2層構造で、方や唱歌や演歌、寮歌の延長線上だったのに対し、後者は新聞社、レコード会社、映画、NHKの思惑と陸海軍の嚮導が一致してできた産物。人が歌うのか、歌わせるのか。質が違うのは自明。先行の数々の資料でもわかることで本の新味はない。最終章の北朝鮮のルポは印象批評の域を出ず、内容空疎。web上の音源まで利用した「世界軍歌全集」の著者とは思えぬ平板さ。難解な軍歌の歌詞にルビもなく引用も何か釈然としない。今、軍歌を享受する新しい層が出現しているなら掘り下げて欲しいところ。
読了日:9月14日 著者:辻田真佐憲
あの頃ぼくらはアホでした (集英社文庫)あの頃ぼくらはアホでした (集英社文庫)感想
1958年生まれの筆者。3学年上になる。筆者が夢中になる怪獣物の映画やウルトラマンなどほぼ同時代感覚であり、住んでいた環境こそ違え、アホなことはしていたなあとの感慨に耽るのである。大学受験も浪人生活も大差なし。大学もバリバリの文系に進んだ自分と理系に進んで悩む筆者。結局は大差ない。でも悩みを何らかの形で「形」に仕上げていく才能の有無が大きな岐路になるのだなぁ、と、改めて悩んだり自省したり。途中捨てるに捨てられぬスキーウエアの話。分かるなあ。そんなものばかりが身近に残っているのだから。今も自分はアホなのだ。
読了日:9月11日 著者:東野圭吾
歴史人口学の世界 (岩波セミナーブックス (65))歴史人口学の世界 (岩波セミナーブックス (65))感想
歴史人口学の入門書。岩波が開いた講座が下敷きで、要諦部分である序章、第1章の部分が平明に書かれているので、初学には好個の1冊。本は1997年の刊行で「少子高齢化」なんていう言葉が大手を振っていなかった時代。ではあれ、人口が遠からず減少していくことを含んでおり、それも江戸時代の宗門改帳や過去帳、明治期に入って以降の戸籍制度などを駆使しての考察は面白い。終章の歴史人口学と家族史の部分は日本を東北日本、中央−西日本、西南日本に分けて考察しているのも興味深い。先の日本語の本であれ、この考えの証左は色々あるかも。
読了日:9月11日 著者:速水融
趣味は何ですか?趣味は何ですか?感想
趣味という言葉をどう理解するか。鑑定眼でも玩物でも素人藝でも蒐集癖でもなく「Pass Time」即ち、時間潰しであると分析した結論がすべてだ。エコ、防災もそう。この見極めがあれば「趣味」の解明は進む。就活のため履歴書の趣味欄をどう書くかから始まって、遍路から切手の消印収集、蕎麦打ちからヨガと、部立ての中の変転が面白い。終わり近く「趣味は○○と●●と▲▲」と三つずつ挙げる人々の例を示している。自分の体調、生活環境が変わっても何かしらの「暇つぶし」ができるようにという経験則だろう。で、我が趣味は何だろう。
読了日:9月8日 著者:高橋秀実
からくり民主主義からくり民主主義感想
違和感のある言葉の一つに「国民の声」がある。多くの人の声を代弁するかのような言葉だが実はどうなのだろう。世界遺産の白川郷、諫早湾干拓、オウムの施設があった上九一色村、米軍基地移設問題の辺野古、若狭湾の原発、自殺の名所青木ケ原などなど。どこでも本音と建前が交錯する。本音をなおざりにする姿勢では戦争責任を自問した伊丹万作の文章と同じだ。よくよく調査をし、正当な弱り方をし、できるだけ親切な文章にする。そう簡単にルポは書けない。後書きで村上春樹が書いている通り、自分が生きている社会の実像なのだから。筆者に敬意。
読了日:9月7日 著者:高橋秀実
彼のオートバイ、彼女の島〈2〉 (角川文庫)彼のオートバイ、彼女の島〈2〉 (角川文庫)感想
不思議な本です。自著を映画化したら、その映画を活字にしたら、という試みです。エンドロールが上がっていくまで書いてあるのも筆者の意図か。半組では紙面の天の部分が広く余白があり、活字は下寄せて組んであるのですが、角川文庫もこんな本を作っていたのだなとちょっと感慨。
読了日:9月3日 著者:片岡義男
辺境中毒! (集英社文庫)辺境中毒! (集英社文庫)感想
この本はいわゆる旅行記系の読み物も所収されてはいるけど、「冒険に持って行く本はどんなものがいいか」という視点で書いた書評の部分の方がおもしろい。サクサクと読めてしまう本は燃費が悪く、じっくり読み進めざるを得ない本が燃費がいいそうだ。確かに荷物が限られる中、この表現は妙。そして何より、最後の対談で出てくるのだけど、冒険に持参する本はどんな本がいいかといえば、よく燃えるものだという結論もいい。本って燃え上がるまでなかなか燃えないものですからねえ。遠い異境で読む日本趣味横溢の本というのはどんな味わいなのだろう。
読了日:9月3日 著者:高野秀行
謎の独立国家ソマリランド謎の独立国家ソマリランド感想
民主主義が生まれるまでの実証実験を見るような国ソマリランド。ソマリアというとアデン湾に出没する海賊と内戦のイメージが強いが違うところもある。丹念にルポした1冊。党の数を3つとし、選挙で選ぶ下院と氏族社会の伝統を反映する長老による上院で国政を動かすというのは日本より上出来な気さえする。この本の優れているところはソマリアという氏族社会をどう見立てたかという点。理解しやすくするために、源氏、平家、北条家など氏族に「あだ名」をつけて話を進めたり、「本家〜分家〜分分家〜分分分家」という表記をしたり。取材+表現の妙。
読了日:9月2日 著者:高野秀行

読書メーター
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2014年09月01日

★2014年8月に読んだ本。

2014年8月の読書メーター
読んだ本の数:17冊
読んだページ数:4542ページ
ナイス数:335ナイス

被差別部落の暮らしから (朝日文庫)被差別部落の暮らしから (朝日文庫)感想
被差別部落の問題は地域差がある。都市化の進捗でほとんど痕跡を残さぬまでになったエリアもあれば今も色濃く残っている地方もある。この1冊は長野での日々の暮らしはどう営まれてきたのか、ということを淡々と綴った1冊である。心に響く。言葉、食べるもの、衣類、仕事などなど。中でも貧困故に着たきりにならざるをえなかった暮らし、あるいは小学校で弁当を持参できない児童の話は胸が痛む。敬虔な仏教徒でありながら、逆に寺側が「差別戒名」や処遇の面で差別の淵源になっていたのには驚く。最終章は信州出身の小林一茶の句の解説。
読了日:8月29日 著者:中山英一
日本霊性論 (NHK出版新書 442)日本霊性論 (NHK出版新書 442)感想
一箇の生命体として感知できる感性を磨きましょうというのが内田の論点。人間が生き延びるために「裁き、学び、癒し、祈り」の4項目が大事であるとか、危険なものは大切なものと類似しているとか、あえて「空位」を作ることによって生まれるものの指摘など示唆に富む。ただレヴィナスが出てくると正直手に負えない感も。この感覚は一種の内田自身の法悦につながるから。釈は鈴木大拙の「日本的霊性」をテキストに「日本の宗教は空気が教義」と絵解きする。ただ個人的には阿部謹也の言う「世間論」に比べて狭い気も。あと法然&親鸞に傾きすぎ?
読了日:8月28日 著者:内田樹,釈徹宗
怨霊とは何か - 菅原道真・平将門・崇徳院 (中公新書)怨霊とは何か - 菅原道真・平将門・崇徳院 (中公新書)感想
恨みを残して死んだ人は祟る、という御霊信仰の入門書。具体的には菅原道真、平将門、崇徳院の3人を詳述し、後は後鳥羽院や後醍醐帝などを順次列挙していく。ただ新書である恨みが残る。御霊の発動の仕方とその対策を追うことが本旨であろうけど、時宗の僧が「陣僧」として戦場での回向を担当し、本来は霊魂の存在を教義に持たない禅宗が「怨親平等」と掲げて敵味方を同時に供養する宗旨となっていったことなどにもう少し筆を割いてほしかった。さらには島津氏の「高麗陣敵味方供養塔」の存在が明治期以降の忠霊塔や興亜観音につながるという点も。
読了日:8月28日 著者:山田雄司
ものの言いかた西東 (岩波新書)ものの言いかた西東 (岩波新書)感想
方言は語彙や発音の違いではなく、発想の違いであるという指摘が新鮮。人口密度、物の流通、北日本の同族組織型に対し南日本の年齢階梯型の社会組織等。背景の下に話し方が原初型から進化して社会性を帯びていく。発想が変わるから言葉も変わる。中でも時代によって変わる人口密度が大きな影響を残している気がします。というのは人口の集積の有無で、人との接触頻度が変わっていく訳ですから。筆者らが着眼点として挙げたのが次の7項目。発言性、定型性、分析性、加工性、客観性、配慮性、演出性−−委細は本を。第8章を先に読む方がいいかも。
読了日:8月27日 著者:小林隆,澤村美幸
山賊ダイアリー(5) (イブニングKC)山賊ダイアリー(5) (イブニングKC)感想
狩猟を続けていくことの難しさを感じます。結婚であったり、転居であったり。自然と身近な環境で生きるということは決して楽しいことばかりではないのですから。それと生活感に満ちた1冊になっている気がします。山菜、アメリカザリガニ、ヌートリア、ミドリガメ……。食べようとするものがだんだん陸自のレンジャー部隊のような感じになってきている気も。それとこの漫画の魅力である「地の文」が哲学的になっているような気もします。一方、身近にいる猟をするおんちゃんたちはもっと楽天的であるような。この冬の猟期もどんな経験をするのか?
読了日:8月27日 著者:岡本健太郎
愛唱歌ものがたり (岩波現代文庫)愛唱歌ものがたり (岩波現代文庫)感想
所謂「愛唱歌」の出自を探り、その作詞作曲歌手の遍歴とそのゆかりの人の証言を点綴していく、という手法を繰り返している本。新聞に連載しているときにはなかったけど、本という形になると、何ともいえない鬱屈感、違和感が募る。同じ手法を毎度踏襲していく所為だろうか。1篇1篇に込められた思いはよく分かるのだけど。まとめて読むという行為となるとつらい手法なのかもしれない。少し考えてしまった。
読了日:8月26日 著者:読売新聞文化部
完本 酔郷譚 (河出文庫)完本 酔郷譚 (河出文庫)感想
いろんなものを想起させられる。新古今集の本歌取り、能の数々「定家」「黒塚」「菊慈童」……、唐宋代、江戸時代の文人趣味、ひいては沼正三の「家畜人ヤプー」まで。数え切れないほどの先行作品や民俗学を下敷きにすることで、あたかも「文章のカクテル」が生まれる。少し囓っていれば何かの折に詞章は脳裏を駆け巡るものだ。文中で九鬼さんが慧君に振る舞うカクテルのように、読み手を別世界に誘う。本書は筆者の絶筆であると聞く。本の後半より前半の陶酔感こそこの1冊の身上だと思う。久しぶりに読んだ小説の世界、十二分に歓を尽くした。
読了日:8月25日 著者:倉橋由美子
あんこの本 何度でも食べたいあんこの本 何度でも食べたい感想
上品で美味しいあんこが食べたい。薄紫色になったような。あるいはねっとりとした黒糖の風味もいい。そんな日常的に起きている渇仰感を刺激、促進するような1冊。気軽にこういう菓子が食べられる環境にいる、というのが都会であると思う。本所一つ目の越後屋若狭、そして南青山の菊屋。ああ本当の水羊羹が變しい變しい。あと、アンパンマンの中身は粒あんであるとやなせたかしが定義しているのは初耳であったことよ。
読了日:8月24日 著者:姜尚美
学問と「世間」 (岩波新書)学問と「世間」 (岩波新書)感想
一連の「世間」の概念について、高等教育機関に於いての人文科学の発展ではどう考えればいいのかを説いた1冊。折しも大学での一般教養が廃止され、独法化がされた時期に重なる。欧州の研究を導入しても思考の停止があり、別世界の出来事のように論じられる現実を説く。打開のためには「現場主義」「生涯学習」などのキーワードを最後に提示している。日本人が本来生きている「世間」と公的な場所での「社会」。二重の世界構成が生む落差は今でも生きている。筆者はフッサールの著作を紹介しているが、個人的には佐藤直樹という人物が気になった。
読了日:8月24日 著者:阿部謹也
鮎の宿 (講談社文芸文庫)鮎の宿 (講談社文芸文庫)感想
師匠の志賀直哉葬送記を冒頭に据え、獅子文六、内田百ケンなどの作家の月旦を導入に、主に日経の文芸欄に書いた雑文を並べ、末尾は奈良京都の紀行文という結構。個人的におもしろかったのは、水交なる雑誌に寄せた一文。趣旨はサイレントネービーを旨とした旧日本海軍が時世時節の移ろうままに、妙に美化されすぎてはいないか、という戒めの一文。「アングルバー(鉄棒)でなにができる、フレキシブルワイヤー(鋼索)でなくてはいけない」と教えたことをネタに話が進むのですが、戦争体験を冷静に見る目に好感を持ちます。所謂、雑文の名手です。
読了日:8月23日 著者:阿川弘之
戦国大名の「外交」 (講談社選書メチエ)戦国大名の「外交」 (講談社選書メチエ)感想
知的な愉悦を刺激してくれる本。戦国大名というと戦に明け暮れ、粗野な人々というような先入観がある。でも実は他の領国との境界地域の人間を仲介に、自分の信頼できる部下を正使に、同盟を結んだり、中立地帯で話し合ったり、仲裁をしてもらったり。筆者の専門は甲州武田氏とのことですが、広く全国の戦国大名に目配りをして、蓋然性の高い立論を展開しています。在判か花押かという区別や書札礼という書式の様式、起請文の文言に至るまで、細かく気を配り、大義名分が立つように振る舞う。ウィーン会議で確立した欧州の外交様式にも似ています。
読了日:8月22日 著者:丸島和洋
桃の宿 (講談社文芸文庫)桃の宿 (講談社文芸文庫)感想
日経に連載した「私の履歴書」の抄録、長年の友人だった吉行淳之介、遠藤周作や、志賀直哉門下の先輩に当たる尾崎一雄の謦咳を綴ったものからなる。惜別の文章は難しい。臨終のスケッチになったり、葬式の段取りであったりと、親しいが故の難しさもあるがけど、これもまた記録文学なのかもしれない。むしろ交誼は深くないものの、向田邦子が事故死した時の感懐の味わいがいい。元々は多くの随筆集から再編してこの1冊が編まれた。単行本の頃に読んだ何編かは含まれているけど再読しても楽しい。編集者の力である。気がつけば筆者現在93歳だった。
読了日:8月18日 著者:阿川弘之
森の宿 (講談社文芸文庫)森の宿 (講談社文芸文庫)感想
淡々とした筆致と諧謔。50歳ごろに書いた文章には歯切れがいいし剽味がある。「論語知らずの論語読み」からの転戦。冒頭にある里見クの全集刊行祝賀会の逸話。案内された卓で宇野千代、小林秀雄、横山隆一ら鎌倉文士の長老らと居合わせた話や、今はなき東洋活性白土の機関車の話、船便で戦時中に赴任した上海を再訪する話などなど。そして師匠と思慕する志賀直哉への敬意が背筋を貫いているのが1冊の支えになっている気がする。説教臭と昔はよかった系が強い最近の作は性に合わないのだけど、このころの随筆は自分も影響を受けたのかと再認識。
読了日:8月17日 著者:阿川弘之
日本人の歴史意識―「世間」という視角から (岩波新書)日本人の歴史意識―「世間」という視角から (岩波新書)感想
断層のある1冊。日本文学回顧の部分と西欧の歴史の学徒のしての部分と。後者に引き摺り込むために前段がある。6〜9章を読めばよろしい。就中、9章を先に読むことをお勧めする。回りくどい筆者の論法をかなり回避できるから。言わんとするところは所謂西洋史学的「社会」という概念と、日本の民俗学的「世間」という概念は似て非なるものであるということに尽きる。後出しで被差別階層の話を持ち出してくるけど、違和感以外の何物でもない。「世間」という視角は根強いものだ。この1冊を読むにも「世間」を知りたいのが第一の動機である。
読了日:8月12日 著者:阿部謹也
論語知らずの論語読み (講談社文芸文庫)論語知らずの論語読み (講談社文芸文庫)感想
初版の再読。この版を選ぶ自分が悲しい。でも、この本と丸谷才一の「男のポケット」が我が身に及ぼした影響を考えると絶大で何も言えない。「徳ハ孤ナラズ、孤ハ徳ナラズ」と言い習わす遠藤周作をはじめ、筆者の交遊録の浩瀚さに思いをいたすしかないからだ。この文芸文庫のよろしさは解説と年譜の充実。さもなくはこの版を買う意味はない。でも(逆接が続くのは不愉快だが)この本が教えてくれたことはあまりに多すぎる。非カク三原則はさておき、今の安倍内閣に対して何で阿川は発言しないのか。「軽躁を嫌う」というのはこの人に教わったのだが。
読了日:8月8日 著者:阿川弘之
世にも奇妙なマラソン大会 (集英社文庫)世にも奇妙なマラソン大会 (集英社文庫)感想
表題作は真夜中に突如、西サハラで開催されるマラソン大会に出場を決意し、顛末をルポしたもの。むしろ、名前変更物語での悪戦苦闘ぶりに飄逸な味がある。タイから国外退去処分を受けている身ながらもう一度入国したくて奸計を巡らす話である。名前の読みを変更する、妻の姓に帰るなどなど、いろいろと取り組むものだ。最後の「謎のペルシア商人」は7編の掌編からなる。どれも読後感がサラッとしていて、なかなかの随筆に仕上がっているのがうれしい。中でも「ペルシャ商人」と「二十年後」はなかなかにホワッしている。さすがエンタメノンフ。
読了日:8月4日 著者:高野秀行
ヤバい日本経済ヤバい日本経済感想
日本を代表するエコノミストの鼎談による経済趨勢の分析本。3人がかなり高い水準(というか門外漢の私にはそう思える)で共通認識を持っているので、話のテンポについて行けない。対談本で取り残された感を味わうというのも久しぶりの経験。話は断片的な理解ながらすこぶる面白く、東洋経済の出す本は違うと思うのだけど、編集者が脚注か頭注を入れてくれないとついていけません。話し合っている方々は違和感がないのだろうけど。一つよく分かったのは経済というとすこぶる計量的に見えるけど、実は人間的な要素が左右している、のだというと。
読了日:8月4日 著者:山口正洋,山崎元,吉崎達彦

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