2015年10月01日

☆2015年9月に読んだ本。

2015年9月の読書メーター
読んだ本の数:25冊
読んだページ数:7167ページ
ナイス数:759ナイス

番線―本にまつわるエトセトラ (ウンポコ・エッセイ・コミックス)番線―本にまつわるエトセトラ (ウンポコ・エッセイ・コミックス)感想
Twitterで本屋さんの陳列関連のつぶやきを見つけ、「番線印」という言葉を知り、画像検索を掛けたらこの本が登場。コミックエッセイという形式でしかできない芸かもしれません(写真にしたら本の単価はいくらになることか)。本への愛に充ち満ちています。国立国会図書館のルポ、写植の話などなど。「1日の終わり ふとんの中で読む本は格別です」という書き出しの「おやすみ本」の章や「本棚戦線異状なし」の章など、身につまされるばかり。ということで、この本はキンドルで済ませたので本棚に負荷をかけることないのが吉だったか。
読了日:9月29日 著者:久世番子
近世の仏教―華ひらく思想と文化 (歴史文化ライブラリー)近世の仏教―華ひらく思想と文化 (歴史文化ライブラリー)感想
近世の宗教というより、日本人の宗教観についてまとめた1冊と受け止めたい。GODのいる世界は人間の世界と絶対神だけで中間はない。無神論の世界になると神が消える。対して日本は人間の世界の「顕」とそれ以外の「冥(みょう)」があってそこには神も仏も死後の世界も住まっていると考え、その遙か彼方に無の世界があると見立てる。柳田国男のいう年数が経てば祖霊も神になるという論で分かるか。また江戸幕府が長きに渡って葬送儀礼を仏教に限ったことが日本の仏教の変質に寄与したという指摘、その反動の平田神道の出現と構図が分かりやすい。
読了日:9月28日 著者:末木文美士
日本風景論 新装版 (講談社学術文庫)日本風景論 新装版 (講談社学術文庫)感想
明治27年、日清戦争の頃に刊行された本。というよりも個人的には講談社学術文庫が刊行され始めて間がなく上下2冊で出た本の再刊で、たぶん高校1年の時に読んで以来の再読になります。明治時代の青年を啓発すること多、であったらしい。当時、有隣堂本店は中2階(いまの2階)に機関紙「有隣」の編集部があって、そこで顔見知りになったK川さんという大学の先生にあれこれと教示してもらった思い出につながる1冊です。「日本風景論、ああ、志賀重昂ね」と即座に返答された。たぶん、明治生まれの方だったと思うけど。内容は特に記すことなし。
読了日:9月28日 著者:志賀重昂
大江戸商い白書――数量分析が解き明かす商人の真実 (講談社選書メチエ)大江戸商い白書――数量分析が解き明かす商人の真実 (講談社選書メチエ)感想
江戸期の商業を探る1冊。長期に亘る史料が残っていることから三井文庫中心の叙述が多い一方で、町方の残した「小間付」や「沽券帳」、天保の改革後、株仲間復活に際しての「諸問屋名前帳」等々のデータを元に実態を推計する。「狭いけど深いケーススタディより浅いけど広い数量分析」が合言葉である。ただ土台にした「江戸商家・商人名データ総覧」の実像が分からず、表計算ソフトの結果を次々と挙例していくような書きぶり。躍動感と同時に少々荒っぽさを感じる。そも史料が残っていない期間をどう見るか。隙間を埋めるだけのものだったか……。
読了日:9月25日 著者:山室恭子
九相図をよむ 朽ちてゆく死体の美術史 (角川選書)九相図をよむ 朽ちてゆく死体の美術史 (角川選書)感想
実物を見たことがない読者に、絵のことを書いて想像してくれ、というところが難しい。九相図というのは人間が死んで腐敗し、白骨が散乱するまでの様を描いた図絵で、人間は不浄のものであり、美人も一皮むけば白骨に過ぎない、という無常観を画像化したもの。今の時代だから、本で印刷写真製版するのは難しいにせよ、Web上で絵を見られるような仕掛けがあれば良かったかな。それと、無常の諦念と大上段に振りかぶっているけど、こりゃ落語の「野ざらし」の世界でもある訳で堅苦しくなりすぎな気も。「野を肥やす骨を形見に芒哉」と手向けて。
読了日:9月25日 著者:山本聡美
自然災害と民俗自然災害と民俗感想
気象衛星も近代的な水防施設もなかった時代。島国で荒ぶる自然に向き合ってきたのは、今も昔も同じ。どう被害を最小限にしてきたのか。例えば農地を拡大するにも、防砂と津波の被害を意図して、松林や照葉樹林を活かしたり(静岡・浜岡)、堤防内の滞水を防ぐために敢えて本流沿いに堤防を築かない京都・木津川の例など示唆に富む。「蛇(じゃ)」という地名が土砂災害の地域に残るとの指摘があるけど、確かに深層崩壊を起こした様態は「大蛇が抜けた」ようだ。同じ造林でも尾根筋に照葉樹(シイ、カシなど)を残す知恵は今も残っているだろうか。
読了日:9月24日 著者:野本寛一
川を巡る―「河川塾」講演録―川を巡る―「河川塾」講演録―感想
旧建設省と旧文部省が所管した財団法人建設技術研究所から、1963年に分離された(株)建設技術研究所が会社創立50周年を記念して発行した「説明本」というところか。国内の1級河川(国が所管)と主な河川を概説したもの。都道府県界を跨がって流れるのが川であるのに対し、章立ては都道府県別。あくまでも行政単位からの視点に立っての構成なので、不自然なところも出てくる。とはいえ、「日本海側の河川は河口に砂丘を作る」とか「東西に流れる川で文化を興したのは中国の黄河・長江以外にない」とか、独特の語りがあるのはいいのだけど。
読了日:9月23日 著者:宮村忠
新宿二丁目の文化人類学: ゲイ・コミュニティから都市をまなざす新宿二丁目の文化人類学: ゲイ・コミュニティから都市をまなざす感想
「性欲の研究 東京のエロ地理」(井上章一ほか)に詳しい内容だが、「2丁目」という土地の重ねてきた歴史(江戸時代の内藤新宿以来の)がゲイのコミュニティを生んだ背景にある。新宿という街の「エッジ」で「ディストリクト」なのだ。筆者がこの博士論文を執筆した2008年以降でも、ゲイの置かれている立場が変わった部分、変わらない部分がある。周囲の建前論とその一方に今も「クローゼット」な部分はあるし、東京メトロ副都心線の開業に伴う土地利用の変化など都市計画的な外的要因もある。ゲイにとっての「アジール」の記録といえる。
読了日:9月22日 著者:砂川秀樹
世界の辺境とハードボイルド室町時代世界の辺境とハードボイルド室町時代感想
数年来随一の本。「探検家・作家」でエンタメノンフの旗手・高野と日本中世民衆史研究者の清水が自在に語り合う。ここまで見事に2人の興味を噛み合わせることを思いついた集英社の編集者に拍手。きっかけはツイッターだそうだ。両者の本の愛読者にはソマリアと室町時代の日本がつながるという感覚は「天晴れ」というしかない。1冊の本を読んだだけでは断片的だった興味がここで体系付けされるというか、金胎両曼荼羅の関係のように収斂しまた発散していく。学問的な興味のみならず、ものを考える、書くという作業の話も興味深い。装丁は山口晃。
読了日:9月21日 著者:高野秀行,清水克行
坊さん、父になる。坊さん、父になる。感想
四国札所58番栄福寺住職、38歳時点の3冊目の本。処女作が住職になるまでなら、この本では住まいを建て、結婚し、子を授かるという過程が題材。読者には見せなかった自画像もみえる。ただ読者は「筆者が僧侶」というだけなら3冊も読む興味は続くまい。でも面白い。謎は日本中世史学者の清水克行が夏目房之介に言われたという言葉で解けた気がする。「ものを書いて生きていくには自分の中に特殊な核となるものがないと食べていけない」と。ミッセイさんにとって「自分の核」は密教であり、空海であり、仏教であり、信仰のありようなのだと。
読了日:9月20日 著者:白川密成
恋するソマリア恋するソマリア感想
人間集団を形作る内面的要素は「言語・料理・音楽(踊りを含む)」ーーという「高野の推論」を証明していく1冊。前著を承け、前半は北部ソマリランドを舞台に、氏族社会の機序、食生活、そして詩の朗唱に起源を持つと推定する歌を説く。後半は南部ソマリアでイスラム過激派と戦闘まだやまぬ中、中東とアフリカの文化の接点を見、イスラム教と都市化、豊かになることへの疑問を浮かべる。筆者の視点は、体験したことを必ず自分の頭の中で位置づけし直すところが上手い。司馬遼太郎の「人間の集団について」や開高健の著作をどこか連想させる1冊。
読了日:9月19日 著者:高野秀行
放送禁止歌 (知恵の森文庫)放送禁止歌 (知恵の森文庫)感想
放送禁止歌という「自主規制」を追ったドキュメンタリー番組の活字版。この一括りの言葉の中には実は、猥褻、公序良俗に反すると判断されたものあり、ポリティカルコレクトの考えを当てはめたものあり、「竹田の子守唄」「手紙」「赤いアップリケ」のような背景を忖度して姿を消したものあり。本は最後の一項を追って進む。全ては自身の意思、判断に戻り、無思考・脊髄反射的な反応を繰り返していてはいけないということ。「人の世に熱あれ、人間に光あれ」という水平社宣言。「にんげん」という読み以外に「ジンカン」という読みもあるよし。
読了日:9月18日 著者:森達也
男の絆の比較文化史――桜と少年 (岩波現代全書)男の絆の比較文化史――桜と少年 (岩波現代全書)感想
T・マンの「ヴェニスに死す」、夏目漱石の「坊ちゃん」、三島由紀夫の「仮面の告白」から萩尾望都の「風と木の詩」まで、比較文学という学問の手法を使って、日本の「男の絆」という言葉の分析をする。とはいえ印象批評の域を出ない感じ。まず「桜」と「美少年」というイメージが中世の稚児物語に起源を持つという説は断定の材料が十分提示されていない。「男の絆」という言葉は少年愛に源を持つ「男色」と男性間の感情としての「ホモセクシャリティ」に因数分解できるという見立ては興味深いが。特に少女漫画、BL小説に関する最終章が駆け足。
読了日:9月14日 著者:佐伯順子
ゲイ性愛辞典 GAY SEXUAL LOVE DICTIONARY (もう一つの文化を知るバイブル)ゲイ性愛辞典 GAY SEXUAL LOVE DICTIONARY (もう一つの文化を知るバイブル)感想
研究社の「アメリカ俗語辞典」かつてあり。その四つ文字の豊富なること、圧巻でありました。本書はそのゲイ版。こういう辞典が編まれること自体、時代の変化を感じるし、多彩な語彙を誇っているのがすごいというか。辞典類は高島俊夫センセは「工具書」というと書いていますが、工具書好きとしてはつい買ってしまいました。はしがきに曰く「この辞典は多くの文献からの引用で成り立っている。引用した文献、参考とした資料には心より謝意を表する。この辞典から引用する際は『ゲイ性愛の辞典』である旨、明記していただきたい」。意気やよし。
読了日:9月13日 著者:いけだまこと
知って役立つ民俗学 現代社会への40の扉知って役立つ民俗学 現代社会への40の扉感想
この本の種明かしは最終章、筆者自身の文にある。庶民の生活を調査研究することで、その意味するところを探り出そうとするのが20世紀の民俗学だった。今は地方の人口減少、地域社会の崩壊が深刻化する一方で、都市に集積した人々の行動様式についての考察は京都、江戸を除き、少ない。何とか身近なテーマとして取り上げようというのがこの1冊。「出る杭は打たれ」「贈答の習慣」は続く。身内が減る中、どう生きるか。考え始めるきっかけをこの本は作ってくれる。できれば、社会人1年の新卒の人々に読んで欲しい気がした。特に公務員ならば。
読了日:9月13日 著者:福田アジオ
弔いの文化史 - 日本人の鎮魂の形 (中公新書)弔いの文化史 - 日本人の鎮魂の形 (中公新書)感想
随筆なのか、論文なのか。一般の読者に分かりやすい形で学問の最先端を提示するのがこの手の新書ではないかと思います。この本は随筆寄り。筆者は東北大で学びを始め、長年、日本の宗教に関わる民俗学に関わってきた碩学。だから、鴨長明から折口信夫、柳田国男、南方熊楠に飛び、イタコから巫女、殯(もがり)の話と自由自在に移り動いても自在なのかもしれないのですが、ちょっと読者はついていくのが大変かも知れません。
読了日:9月9日 著者:川村邦光
カレーライスと日本人 (講談社学術文庫)カレーライスと日本人 (講談社学術文庫)感想
1989年、講談社現代新書の補筆再刊。筆者はカレーの淵源を尋ねて、インド亜大陸に赴き、大英図書館で史料を博索し、カレー粉製造の元祖と言われる「C&B社」で調査を重ねる。インドではスパイスを入れた料理がカレーであり、英国では日曜に焼いたローストビーフの残り肉を食べるシチュー風のものがカレーであるという結論に至る。さて日本では。魚柄仁之助が見立てたように「インド風+英国風」に日本伝来の「あんかけ」が重なったのではないか、というのが当たっている気がする。確かにカレー粉がなければ「カレー味」の食品は成立しないし。
読了日:9月9日 著者:森枝卓士
食べかた上手だった日本人――よみがえる昭和モダン時代の知恵 (岩波現代文庫)食べかた上手だった日本人――よみがえる昭和モダン時代の知恵 (岩波現代文庫)感想
2008年の本の再刊。昭和10年代に日本の料理に変革が起きた。原因は戦役など外地との交流で中華料理などを覚えた人が増えたこと、熱源がガスに変わったこと、欧風料理を換骨奪胎する技術の確立。電気冷蔵庫の存在と物流の点で、食品を保存する技術が一般的だったこと。漬ける、干す、燻す等々、加工して保存。今の人間にこの手間がかける時間が欲しい気も。電気冷蔵庫の普及が人間の感覚を鈍磨させているのか。氷冷蔵庫は夏だけ使うものとは知らなかった。賞味期限も含め、表示ではなく自分の舌と感覚で。とまれ、当時のレシピは美味そうな。
読了日:9月8日 著者:魚柄仁之助
二〇世紀の歴史 (岩波新書)二〇世紀の歴史 (岩波新書)感想
日清、日露の戦役から盧溝橋事件に至るまでの本を読み進める中で、実はあそこで起きていたことは辺境で起きていた植民地の獲得競争であることが改めて分かる。本書では定点ポイントとしてアイルランド、南ア、琉球の3カ所の動きを綴っているけど、それが効いている。戦いのベクトルは18世紀は内向きに、19世紀は外向きに働き、アフリカ、中東での戦いに広がる。極東のある国の動きもそれに乗ったもので、距離感故に、手出しがなかったり、融和策だったり。権力のエアポケットが生まれた。実は今もきちんと精算できていないのかもしれない。
読了日:9月7日 著者:木畑洋一
戦国乱世から太平の世へ〈シリーズ 日本近世史 1〉 (岩波新書)戦国乱世から太平の世へ〈シリーズ 日本近世史 1〉 (岩波新書)感想
前半は「信長の野望」を活字化したような展開。ただ「天下」という概念や「惣無事令」の意味が教科書で習った頃よりかなり限定的な概念であったという読みの面白さから始まって、文禄・慶長の役の捉え方(これだけやれば戦場にされた国は恨みを残すし、冊封制との関連は後の日清日露戦争前夜を連想させる)とか、幕藩体制の確立とか、一朝にして成立した訳ではないのが詳述されています。中世は太閤検地により終了したように認識していたけど、実はもう少し時代が下がったところかも、と考えたくなりました。時代の感覚を掴むにはいい本です。
読了日:9月6日 著者:藤井讓治
日本ザンテイ世界遺産に行ってみた。日本ザンテイ世界遺産に行ってみた。感想
この本を読んで分かったこと。宮田珠己さんは男前であるということ。口絵写真に登場するし、筆者近影が奥付の向かいにでていたのがステキであった。何か肌合いが違うと思って読んだのだけど、あとがきで謎が解けた。従来の本は筆者が行きたいところにいく企画を立てて出掛けていっていたのに対し、この本は編集部が行きませんかという企画を立てたところにのった、という仕掛け。元は裏千家系出版社の淡交社「なごみ」に連載されたものらしい。同じ仕掛けで山口晃&藤森照信の「日本建築集中講義」があるけど、何か「パッション」が違う感じ。
読了日:9月5日 著者:宮田珠己
四國遍禮道指南 全訳注 (講談社学術文庫)四國遍禮道指南 全訳注 (講談社学術文庫)感想
今、ツアーではなく個人で四国霊場を廻っている遍路はたいてい手にしているのは「四国遍路ひとり歩き同行二人地図編」という本です。地図のほかに、宿泊施設、距離が一覧できるので手放せない1冊です。2015年4月にこの本の第10版が刊行されましたが、たぶん、江戸時代のこの本もそういう意図を持って版行されたものでしょう。翻刻した原文、現代語訳、地図という構成になっています。地元に住んでいると改めて思うのは高知県東部は昔も今もそう変わっていないなぁと思うばかり。今でも辺地行道なのです。
読了日:9月4日 著者:眞念
日露戦争の世紀―連鎖視点から見る日本と世界 (岩波新書 新赤版 (958))日露戦争の世紀―連鎖視点から見る日本と世界 (岩波新書 新赤版 (958))感想
1903〜1904年の日露戦争を中心に前後100年間を概観した本で「キメラ−満洲国の肖像」の著者。本は2005年刊。その後に旧ロシア、旧ソ連の史料の発掘など研究の進展があった分、10年間の時の流れを感じさせる部分もあるものの、日露戦争に至るまでの視点、出来事を概括的に見るには好個の1冊。「ハルビン駅へ」の指摘や「李鴻章」などの指摘と考え合わせると面白い。特に戦争後の「アジアの解放者」「文明化の示範」であったはずの日本が「欧米と共に侵略者」に変わっていく様や、非戦論、文化的波及などへの言及は興味深い。
読了日:9月3日 著者:山室信一
ヒトラーとナチ・ドイツ (講談社現代新書)ヒトラーとナチ・ドイツ (講談社現代新書)感想
「戦争が廊下の奥に立つてゐた」とは渡辺白泉の句。異常事態が起こったと認識される以前に小さな「歪み」が積み重なっていた、ということが分かる1冊。1兵卒が戦争と虐殺を指導するまでの過程を探る。部品を組み立てるように話は進む。ナチ入党、議席確保、大統領緊急令を利用しての政敵の拘束、授権法によるワイマール憲法の実質的な改正。職業官吏再建法による人種差別、安楽死政策に始まる人種的優生主義……。絶滅収容所に至るまでの道は実は長い。責任の所在が分からないままになる日本と機構が複雑過ぎて独裁がまかり通るドイツの怖さと。
読了日:9月3日 著者:石田勇治
李鴻章――東アジアの近代 (岩波新書)李鴻章――東アジアの近代 (岩波新書)感想
今も世界一の人口の中国。対外貿易活動をすると、挙措が巨体なるが故に影響は波及する。乾隆帝の世の入超から収支改善を計る列強の介入を招き、その世に登場したのが主人公。銀地金、銅貨を流通させる政権では生産・経済政策は民間の「幇・会・団」と呼ばれる組織が支え、武力は地方の私兵に頼る形。主人公か科挙及第者ながら地方官として私兵・淮軍を率い、上海を押さえて西欧と直面、外交の表舞台に立つことになる。朝貢関係こそ安全保障と考えた旧制の中で、満州人が漢民族を治めるという統治体制の矛盾を糊塗弥縫したと見立てるのが新鮮。
読了日:9月1日 著者:岡本隆司

読書メーター
posted by 曲月斎 at 00:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年09月01日

☆2015年8月に読んだ本。

2015年8月の読書メーター
読んだ本の数:15冊
読んだページ数:4506ページ
ナイス数:408ナイス

軍隊と地域社会を問う: 地域社会編軍隊と地域社会を問う: 地域社会編感想
隣に普通に暮らしていた兵隊さんの存在は記憶の彼方に消えつつある。衣食住、支える民間組織、組織の中での兵の立身出世につながる意識など、戦争の歴史をたどるだけでは見えにくくなっている部分を掘り下げたのがこの1冊。軍都には不可欠とされた遊郭(慰安所)の存在や輸送手段としての鉄道の意味など既刊の本で取り上げられているテーマもある一方、国防婦人会と兵の側からの視線、戦死者の公葬という事柄や、軍内部の統計すら正確性が戦いと共に劣化していったという指摘、戦史の編纂過程など、当時の「空気」をトレースする意図は実っている。
読了日:8月31日 著者:
帝国支配の最前線: 植民地 (地域のなかの軍隊 7)帝国支配の最前線: 植民地 (地域のなかの軍隊 7)感想
日本が植民地経営をした時代、その最前線での軍隊の姿を綴った1冊。台湾、朝鮮、南満州では武力を背景にした統治を続けざるを得ず、元々住民が少なかった南樺太では進出、引き揚げを繰り返す度に犠牲を生み、南洋群島でも戦闘に巻き込まれる住民を生んだ。一等地が本州、四国、九州、二等地が北海道、沖縄(共に今でも内地という言葉が生きている)、そしてそれ以外の外地は三等地というランク付け意識が根底にあるだろう。勿論、欧州列強も武力を背景に植民地経営をしたのだけど、それと比較しても日本の植民地政策は武骨に見えて仕方ない。
読了日:8月29日 著者:
アジア・太平洋戦争史――同時代人はどう見ていたか(下) (岩波現代文庫)アジア・太平洋戦争史――同時代人はどう見ていたか(下) (岩波現代文庫)感想
最後まで通貨戦争の色合いが残る。日本銀行券=朝鮮銀行券=満州中央銀行券=中国聯合準備銀行券=中国儲備銀行券=蒙彊銀行券、とつなぐことで「円ブロック経済圏」を作るはずが、英ポンド、米ドルとリンクしているか否かの1点で、国民党政府の法幣に敗れ去る。決済用資金の欠如する中、近代戦に必要な3つの「M(Money、Men、Material)」のうち、第1、第3を欠いたのを認識したまま、戦いを始めてしまった結果である。落語の「素人鰻」のような様にしか見えないが、当時は真面目にやっていたのかと思うと、空恐ろしくなる。
読了日:8月28日 著者:山中恒
アジア・太平洋戦争史――同時代人はどう見ていたか(上) (岩波現代文庫)アジア・太平洋戦争史――同時代人はどう見ていたか(上) (岩波現代文庫)感想
あの戦いを考える時、手に取ってみるべき1冊。「十万の英霊、二十億の国帑」で購った旧満州の権益をどう生かすか。折しも清朝の滅亡に伴う大陸の混乱、第1次大戦後の経済の混乱で欧米が東アジアに手を出しかねていた等々の事情が重なって、日本の一人相撲ぶりがよく分かる。もし、日本も誘われた英主導の「法幣改革」に参画し、石橋湛山の主張した貿易立国を目指す態度をしめしていたら……。日比谷焼打事件以来、感情論に振り回された結果があの戦いの根本だと思う。満州国自体、インフラの整備に経費が掛かり、赤字の植民地だったのだから。
読了日:8月26日 著者:山中恒
日本海軍はなぜ過ったか――海軍反省会四〇〇時間の証言より (岩波現代文庫)日本海軍はなぜ過ったか――海軍反省会四〇〇時間の証言より (岩波現代文庫)感想
海軍反省会という1次史料を読みこなした3人の鼎談。1)予算獲得のために組織という存在は生命体となる。2)人数が限られていると手が回り切らない。冷静に考えれば分かることが分からなくなる。3)組織では失敗をどう次に繋げるかが大事、の3点に要約されよう。福島の原発事故も東京五輪の一連の問題も、企業の不祥事も同根ではないかと思う。そして海軍という道具を使う組織故の特殊性。戦時中の特攻作戦も人間を道具の一部と考えられる人間がいるからこそできた発想であり、真珠湾攻撃を立案した黒島亀人が関わったというのは新知見。
読了日:8月22日 著者:澤地久枝,半藤一利,戸高一成
もの食う話 (文春文庫)もの食う話 (文春文庫)感想
アンソロジーは日頃縁のない筆者、疎遠になった筆者の文も楽しめるのが妙味。この1冊は序章・食前酒の大岡昇平「食慾について」という一文が圧巻で、食い意地が張っていることと命への感覚の連環を説く。武田百合子、吉行淳之介、向田邦子、筒井康隆……。手練れの文が手際よく続くのが楽しい。巻末の中島敦の「幸福」なる掌編が、掉尾を飾るにふさわしい軽みが残す。あとペットのウサギを食う夫人の話。確か阿川弘之が随筆のネタにしていたと思うが近藤紘一という産経の記者の話が元であったか、ということを知る。編集者の手腕や見事也。
読了日:8月18日 著者:文藝春秋
東西ミステリーベスト100 (文春文庫)東西ミステリーベスト100 (文春文庫)感想
読者投票で本邦と翻訳もののミステリーベスト100を選ぶというのが趣向。日頃、ほとんど読まない分野なので発見も多かった。本邦では1位に獄門島、2位に虚無への供物、3位に占星術殺人事件。今でも横溝正史や松本清張が入ってるのがちょっと意外。ただ孤島での事件、密室での事件と古典的な道具立てが復活しているのも不思議な感じ。洋物では1位がそして誰もいなくなった、2位がYの悲劇、3位がシャーロック・ホームズの冒険。相変わらず、クリスティ、エラリー・クイーンが強いのが印象的。評者によると前回と大きな変動がないともいうが。
読了日:8月18日 著者:
玉の井という街があった (ちくま文庫)玉の井という街があった (ちくま文庫)感想
関東大震災の後、浅草十二階下の銘酒屋(という名の私娼窟)が集団移転したのが隅田川の東・玉の井。「濹東綺譚」で知られる街について同時代に生きた筆者が自身の見聞を含めて綴る等身大のルポ。廃娼運動側でもなく店主側でもない。視点が中立なのに好感。娼婦が搾取といっても実は店の家主、大家が一番の黒幕だったという指摘や、永井荷風が身長175cmの偉丈夫でコンドームを必ず利用する合理主義であったとか、高見順と従兄弟の関係であったとか、太宰治がここに流連したエノケンの座付作家菊谷栄の助手をしていた話とか。興趣漫々。好著。
読了日:8月16日 著者:前田豊
玉の井という街があった玉の井という街があった感想
関東大震災の後、浅草十二階下の銘酒屋(という名の私娼窟)が集団移転したのが隅田川の東・玉の井。「濹東綺譚」で知られる街について同時代に生きた筆者が自身の見聞を含めて綴る等身大のルポ。廃娼運動側でもなく店主側でもない。視点が中立なのに好感。娼婦が搾取といっても実は店の家主、大家が一番の黒幕だったという指摘や、永井荷風が身長175cmの偉丈夫でコンドームを必ず利用する合理主義であったとか、高見順と従兄弟の関係であったとか、太宰治がここに流連したエノケンの座付作家菊谷栄の助手をしていた話とか。興趣漫々。好著。
読了日:8月16日 著者:前田豊
根来寺を解く 密教文化伝承の実像 (朝日選書)根来寺を解く 密教文化伝承の実像 (朝日選書)感想
同じ空海を宗祖と仰ぎながら、新義と古義が違うのか。疑問を解く鍵がこの本にあった。浄土教の要望が高まった時代、覚鑁が阿弥陀と大日は一体という教義を立て、高野山上に大伝法院を構えた。パトロンの交代で山内で騒乱があったが、両者の交流は覚鑁が根来に退去した後も続いた。だが独立。頼瑜が教学を継ぎ、文書の形で流布していく。地方に根を張った理由だ。戦国時代は寺の事務を仕切った行人方が騒乱に身を投じ、寺が荒廃したが、法統は続いた。醍醐寺、葛城を主に山岳修験の道に伸びていた。そんな多重的な寺の再確認はもっとされてもいい。
読了日:8月15日 著者:中川委紀子
天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災 (中公新書)天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災 (中公新書)感想
元は朝日新聞Beに連載された「磯田道史の備える歴史学」。新聞の連載なので文の運びはスピード感重視というか、氏のリズムというか。何よりもテレビに多数ご出演で、その謦咳に接しているという部分が大きいのかもしれない。内容に関しては、過去の史料や口碑口伝、実地の踏査などを織り交ぜて、日本を襲った災害(といっても津波、地震、高潮がメイン)と防災の心得を説く内容。実地の面白さが売りの1冊。
読了日:8月11日 著者:磯田道史
明治開化 安吾捕物帖 全21巻合本版明治開化 安吾捕物帖 全21巻合本版感想
古くは角川文庫版、ちくま文庫版で読んでいるのだけど、電子媒体で読むとまた味わいが変わる。何より活字が大きくなるのがありがたい。勝海舟の伝法な口ぶりなど、浅田次郎の「天切り松」につながるような歯切れの良さがある一方、くどくどしい文体、面妖なカタカナの遣い方など、読み手を幻惑しながら話が進む。元々は青空文庫版をまとめて売り出したもの。惜しむらくはたとえば「石の下」の一篇、紙媒体だと碁の「石の下」の手順表がついているけど、そういう部分がかけてしまうのであります。でも坂口安吾の独特な捕物帖もの、再認識されていい。
読了日:8月9日 著者:坂口安吾
応仁の乱に就て応仁の乱に就て感想
言葉遣いはともあれ、「時代の空気」をどう捕まえたらいいのか、ということを教えてくれる1冊。どうしても歴史教育というと、政権(朝廷、あるいは武家政権)などの上から目線になるけど、実は下から見上げた方がわかりやすいということを平明に説いています。今読み返しても、あ、この講演を粉本にして書いている本があるな、と思うほど。ぜひ、機会があればご一読を勧めたいところであります。
読了日:8月6日 著者:内藤湖南
フォト・ストーリー 沖縄の70年 (岩波新書)フォト・ストーリー 沖縄の70年 (岩波新書)感想
同じ著者の「四国八十八カ所」と同じ読後感。声高に訴える訳ではないけど、身近で起こったこと、聞いたこと、見たことを積み上げていく。当時の写真を添えていく。長い時間をかけて定点観測するように見つめ続ける。例えば、本土への疎開児童を乗せた対馬丸を撃沈した潜水艦は米・真珠湾に潜水艦博物館になっていたり、南洋諸島の戦禍には移住した沖縄の人々が巻き込まれていたり。「これから犯しますといいますか」と暴言を吐いた沖縄防衛局長の発言は辺野古の環境アセスの件だった。点の記憶はあってもそれを、線、面と広げていく努力が必要、と。
読了日:8月4日 著者:石川文洋
かわいい自分には旅をさせよ (文春文庫)かわいい自分には旅をさせよ (文春文庫)感想
随筆集とはいえ、「アサヒ芸能」の連載、朝日、読売、産経などの新聞への寄稿から岩手医科大の年史までいろんな媒体に書いたものを集めた1冊。作家という仕事は実に大変だと思う。往年の「勇気凜々ルリの色」のような軽みというより、年輪を重ねた味わいがにじむ作が多い。森鷗外に始まる漢文脈、夏目漱石以来の和文脈、昨今の翻訳に由来する文体などの分析から、清朝末を題材にした「蒼穹の昴」の余滴。挟み込んである一篇「かっぱぎ権左」が一服の妙薬。筆者の三島由紀夫への愛憎相半ばする感情の揺れが興味深い。そして肉体と思想の連環を思う。
読了日:8月2日 著者:浅田次郎

読書メーター
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2015年08月01日

☆2015年7月に読んだ本。

2015年7月の読書メーター
読んだ本の数:21冊
読んだページ数:5572ページ
ナイス数:478ナイス

袁世凱――現代中国の出発 (岩波新書)袁世凱――現代中国の出発 (岩波新書)感想
孫文らの仕立てた中華民国の総統に収まり、「対華二十一箇条要求」を受諾した人物という認識だったけど、本質は「対外的には承認されていても、地方を統治する能力がない中央政府」と「中央政府の支援なしでも自立していける地方政府」という二項対立の上で、この人物は中央に君臨しようとしたという見立てで納得がいく。トップに立っても地方が施策に着いてこなければ其迄。その後、諸外国と結んだ地方軍閥(張作霖と日本が好例)の簇生が毛沢東の現・中国建国まで続いたということ。北一輝の月旦「奸雄の器に非ずして堕弱なる俗吏」が確かに適切。
読了日:7月31日 著者:岡本隆司
日本に古代はあったのか (角川選書)日本に古代はあったのか (角川選書)
読了日:7月31日 著者:井上章一
英語教科書は〈戦争〉をどう教えてきたか英語教科書は〈戦争〉をどう教えてきたか感想
最初の英語の教科書は人種の優劣を説く「ミッチェルの地理書」や「ハーレー万国史」から始まった。戦争の影が忍び寄ってくるにつれ、教材の中にも戦争のテーマが増える。北朝鮮を嗤えないし、僕らが大学で習った時の中国語の教科書(北京語言学院が文革当時、英米人向けに出した教科書の邦訳)を思い出しても、想像がつくというものだ。ただそれ以上に、1988年の英語の教科書で「戦争は人間を残酷にする」という話題を東南アジア人との話する章が、一部与党議員の抗議で削除されたという。気を抜くと今でも今の日本でも何があるか分からない。
読了日:7月28日 著者:江利川春雄
源平合戦の虚像を剥ぐ 治承・寿永内乱史研究 (講談社学術文庫)源平合戦の虚像を剥ぐ 治承・寿永内乱史研究 (講談社学術文庫)感想
イイクニ作ろう鎌倉幕府で終わらない、源頼朝の存在意義をかけた葛藤史である。清和源氏の嫡流であることを示しつつ、桓武平氏というブランドと戦いつつ。書状一本、官位の付与だけでは権力は確立しえないのであって、内幕を古文書史料を読み解くことで示した1冊。たぶん、治承寿永の乱は早い時期から「物語化」されているので(それは武門の家々が正統性を示すためでもあろうが)、薄皮が何枚も懸かっている状態で享受されてきた訳で、その薄皮を剥いでいく筆者の手際は快感でもある。末章に挙がる奥州藤原氏追討の見立て、お見事というほかない。
読了日:7月22日 著者:川合康
戦下のレシピ――太平洋戦争下の食を知る (岩波現代文庫)戦下のレシピ――太平洋戦争下の食を知る (岩波現代文庫)感想
戦時下の食料不足は生産力と輸送力の低下による。室町時代の京の飢饉と同じ構図だ。米食が普及したのが大正期、節米から代用品、糧物等と旧に戻したのだから食文化の歴史の退行現象である。あるときは生大豆粉、フスマ、くず米、魚粉等々、飼料のような代物を滋養があるといって食べさせる政策、つまりは戦争状態を招いてしまう政治の貧困が本当の原因である。真面目な顔で婦人雑誌が記事を掲載していたのに敬意を表するし、こんなものをありがたがって食べるような生活に成らぬよう、まず以て政治を健全に保つ努力を国民が続けていく大事さ。
読了日:7月21日 著者:斎藤美奈子
春画のからくり (ちくま文庫)春画のからくり (ちくま文庫)感想
日本の文学と美術は「過剰な装飾」というキーワードで読み解けるという。春画も例外ではない。隠し、見立て、周囲の道具立てで、衣服に含意する世界を見せる。前期の浮世絵からモロに描くことで別の世界を開いた後期の作品まで。「覗き見」も、日本では明治まで性的興奮の対象たり得なかったかもしれぬ(だって家の構造がそうでしょ)。また手淫が宗教的戒律として存在してきた西欧文化からは春画も別の視点から見えると説く。ともあれ、着衣のこだわりは、どこかフェティシズムへの連環を感じさせる。誰が春画を見ていたのかへの関心も興味深い。
読了日:7月19日 著者:田中優子
居酒屋の誕生: 江戸の呑みだおれ文化 (ちくま学芸文庫)居酒屋の誕生: 江戸の呑みだおれ文化 (ちくま学芸文庫)感想
江戸という町は職人や江戸詰めの武士など男性シングル者の多い町。必然的に外食産業、居酒屋が発達する訳で背景を探った1冊。当時常用していた日本酒は池田、伊丹等の上方の酒が船で江戸まで運ばれる間に美味くなることを見つけた人々は余計に酒に親しむ機会が増えた。ただその肴は「切らず汁(おからの味噌汁)」であったり、薬食いだったり。タコが店先に下がっているのが看板代わりとは。最初はチロリで燗をつけていたものが徳利になり、いよいよ安直になっていく訳で。個人的には本を読んでいて、鶯谷の居酒屋鍵屋の風情を思い出しました。
読了日:7月18日 著者:飯野亮一
教授の異常な弁解 (文春文庫)教授の異常な弁解 (文春文庫)感想
週刊文春の連載。軽い読み物という点からいうと、同じく文春に連載していた高島俊男の「お言葉ですが」を連想していたのですが、ちょっと味わいが足りない感じ。それはそれで独自のツチヤ・ワールドなのですが。
読了日:7月17日 著者:土屋賢二
少年と少女のポルカ (講談社文庫)少年と少女のポルカ (講談社文庫)感想
個人的な感想です。最後まで文体への違和感がぬぐえず、筋を追うのがやっと。作者との年齢の差を感じてしまったなぁ。学園ものなのですが、脳の中で絵が描けない感じでした。読解力、想像力不足かぁ。
読了日:7月17日 著者:藤野千夜
日本の軍隊を知る: 基礎知識編 (地域のなかの軍隊)日本の軍隊を知る: 基礎知識編 (地域のなかの軍隊)感想
今年は戦後70年、旧日本陸海軍という機構やその習慣、法令規則自体が記憶の彼方に消えようとしている中、実際はどうなのかという説明を試みた1冊。徴兵制という仕掛けから、徴兵忌避、陸軍の駐屯地、海軍の鎮守府の分布や性格、在郷軍人という存在、軍事郵便、軍隊生活全般に至るまでまとめている。従軍僧や神官、軍馬、演習等にも言及している。先行研究の論文紹介も行き届き、入門書としては手頃だと思う。色んな分野で述べられていることは多岐に渉るが、やはり15年戦争が始まって以降というのはそれ以前と際だって異なるのが印象的。
読了日:7月17日 著者:
昭和の洋食 平成のカフェ飯―家庭料理の80年昭和の洋食 平成のカフェ飯―家庭料理の80年感想
国内の映画、ドラマ、漫画などに登場する食卓の様子を分析することで、背景にある世界を描き出すことを試みた1冊。基調低音は他の著作と同じで「戦前生まれの母親は戦中戦後に育ち、料理を覚えられず、その子供世代に料理が苦手という図式が引き継がれた」という見立てだ。加えて地域社会、大家族制の崩壊や住空間(台所)、家族構成の変化も加わった。ただ筆者は「飯は誰かと一緒に食べた方が美味しい」というテーマを論証し続けているといえる。そして危惧するように「料理を作って食べる、食べさせる文化」は今、脆弱になっているのも事実。
読了日:7月16日 著者:阿古真理
昭和育ちのおいしい記憶 (単行本)昭和育ちのおいしい記憶 (単行本)感想
「小林カツ代と栗原はるみ」を読んでの転進だったので少し期待はずれ。というのは随筆漫筆であり、何か切れ味も薬味も欲しい方だから。多分、料理の随筆でも辰巳浜子の「料理歳時記」や四方田犬彦の「ひと皿の記憶」みたいな内容なら違ったかも。それでも家計調査や農産物調査のデータに人口動態を絡めて、料理の変化に時代相を絡めて考えるのは筆者ならでは。面白い。さらに「食文化は結局刷り込みと慣れだ」とか、「人と親しくなるのは体験を共有すること、手っ取り早いのは同じ物を食べることだ」など、筆者らしい切口上が心地よい。
読了日:7月13日 著者:阿古真理
夢野久作全集〈8〉 (ちくま文庫)夢野久作全集〈8〉 (ちくま文庫)感想
この中に所収の「キチガイ地獄」のみをキンドルで読了。言わぬが花のどんでん返し、こういう展開の小説もあるもんですね。北海道・大雪山から樺戸監獄、さらには九州へと話が展開するのですが。一人称独白形式の小説ながら、その手際にはお見事というしかない鮮やかさ、です。
読了日:7月12日 著者:夢野久作
ふしぎなイギリス (講談社現代新書)ふしぎなイギリス (講談社現代新書)感想
筆者は毎日新聞の外報記者。俎上に載るのは主にサッチャー以降の英国の有り様だ。合理主義者の英国民が何で王室という存在の存続を認めているのか、議会と国民(納税者としての辛辣な視点も含めて)の関係であったり、看板はどうあれ実を取る国民性であったり。視座が多角的だ。1976年、木村治美が「黄昏のロンドンから」でルポした後の様変わりぶりが分かる。「アングロサクソンの国」という米国との対等な立ち位置から「ジュニアパートナー」という表現への変容、超大国を如何に扱うか。愚直な日本と彼我の差を感じざるを得ない。
読了日:7月11日 著者:笠原敏彦
例外状態例外状態感想
市民の危急が迫った場合、法の規定がない場合、法の執行停止が宣言されることがある。そんな状況を「例外状態」と呼ぶ。古代ローマからこの問題は存在した。今もグアンタナモ基地があるように「例外状態」はある。西欧での例外状態の由来や変遷を論考する。今次国会の安保法制も事前にこの間隙を埋めるため、というのが一つの理屈ながら、誰が強権を振るうのか? 日本で行政府の長が振るうことを認めるとすれば危い。間接民主制で議院内閣制。そこまでの信認を付与していないというのが実感ではないか。戦時と平時は同時に存在しうるが。
読了日:7月9日 著者:ジョルジョアガンベン
支那米の袋 (青空文庫POD(ポケット版))支那米の袋 (青空文庫POD(ポケット版))感想
1人称小説、夢野自家薬籠中の独白体小説。浦鹽なんて言葉(ウラジオストックのこと)が出てきたり、被虐趣味の女性が出てきたり。筋立てはご存じどんでん返し。でも読んでいて江戸川乱歩(1894年生)とか横溝正史(1902年生)とかを連想していました。ちなみに夢野は1889年生、でした。
読了日:7月9日 著者:夢野久作
少女地獄 (1976年) (角川文庫)少女地獄 (1976年) (角川文庫)感想
最初に読んだ時はこの文庫本。再読したのは先日届いたキンドル。昭和の文庫本は活字が小さいので老眼にはつらいと思っていた矢先に、電子書籍を薦められて、ついに手を出す。Amazonで書籍検索をしているはずがいつの間にか青空文庫につながっていて、代金は0。確かに著作権切れだから当たり前なのだけど、何か不思議な感じもする。電子書籍、まだ使い慣れていないので何ともいえないけど、数ページすっ飛ばして読むこともあるので、愚直に指で送るのが何か億劫。まさか夢野久作にこんな形で再会するとは思っていなかった。相変わらず新鮮。
読了日:7月9日 著者:夢野久作
「皇国史観」という問題―十五年戦争期における文部省の修史事業と思想統制政策「皇国史観」という問題―十五年戦争期における文部省の修史事業と思想統制政策感想
「国体」という特殊な価値を体現している国家に対する絶対的優越感=観を「皇国史観」。文部省の役割が大きいことが分かる。1935年の天皇機関説事件を契機に2度に渡る国体明徴声明、満州国、北支への進出に関連しての田中智学による「八紘一宇」の提唱等々。「国体の本義」「臣民の道」の発行、高文試験での国史必須化と官製歴史書「国史概説」の登場……。すべて帰納されるのは当時の歴史学界の空気になかったか。「近代に於ける学問=『純正史学』と教育=『応用史学』」という二重構造、つまり「密教と顕教」の関係を受容してきたことに。
読了日:7月8日 著者:長谷川亮一
英国二重スパイ・システム - ノルマンディー上陸を支えた欺瞞作戦英国二重スパイ・システム - ノルマンディー上陸を支えた欺瞞作戦感想
偵察衛星も、インターネットや携帯電話の傍受も存在しなかった時代の話。第二次世界大戦の欧州戦線の一つの転換点だったノルマンディー上陸作戦に関しての情報戦の裏話である。英情報網の優秀さを裏付けるような話で、今は米がそんな覗き見の仕事を一手に担っているのだろうな、と。本書に出てくるのだけど、駐独大使であった大島浩陸軍中将が日本向けの外交電がほとんど連合国側に筒抜けだったという逸話は国内の有様を示すようなエピソードだ。独中枢の意向を知らせることとなった情報は詳細で多岐だったという。日本陸軍の性格を示すようだ。
読了日:7月6日 著者:ベン・マッキンタイアー
小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代 (新潮新書)小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代 (新潮新書)感想
戦後家庭料理史、日本の女性史である。昭和前半生まれの世代は家の伝統料理や知恵を知らずに育った。家事を覚える時期が戦中戦後の混乱と飢餓の時代。家事負担の煩わしさから開放を意図して子の世代に教えなかった、られなかった。で、昭和後半生まれの世代も料理に苦手意識を抱き、「オレンジページ」などに依った。高度成長期を挟んで家族構成、住環境が変わった。バブル期を挟んで家計構造が変わる。伝統的な調理法は残せないのだ。そこで旗手として現れたのは小林と栗原。2人に限らず多くの料理研究家を紹介し、内容を充実させた好著!!
読了日:7月3日 著者:阿古真理
山賊ダイアリー(6) (イブニングKC)山賊ダイアリー(6) (イブニングKC)感想
相変わらずの「山賊暮らし」ぶり。だいぶ板に付いてきたというか。ハト、ウサギ、カモ、たまにシカ、川にコイを釣りにいく話まで。ストレートに話が展開していかないのが、らしいといえばらしくて、いいのかも。筆者が住んでいるのがやはり岡山。中国山地はやはりこの辺とは少し、山の様相が違うのかもしれません。今、住んでいる辺りでは狩猟期間に入ると、イノシシを狙うハンターが結構います。害獣駆除でシカも対象になります。もっとイノシシが話に出てくるかなと思いつつ……。この巻はDVD付きverもあるのですが、通常版です。
読了日:7月2日 著者:岡本健太郎

読書メーター
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2015年07月01日

★2015年6月に読んだ本。

2015年6月の読書メーター
読んだ本の数:28冊
読んだページ数:7777ページ
ナイス数:684ナイス

人物で語る数学入門 (岩波新書)人物で語る数学入門 (岩波新書)感想
高校時代、三角、微積、数列、行列式と続いた辺りで挫折した記憶の下、この本を読み始め、頭から読解は無理と判断。ただ、古代ギリシアでピタゴラスやユークリッドに始まった数学は、16世紀のデカルト、17世紀のフェルマ、デカルト、ライップニッツ、18世紀のオイラー、18世紀のガウスと才能と好奇心を繫ぐように発展したことだけは分かった。さらに特に中世の数学者の多くは大学では哲学や法律学、神学などを修めた訳で、高校時代の恩師に「数学は理解することではなく、考え方を学ぶことが大事なのだ」と後にいわれたことを思い出した。
読了日:6月30日 著者:高瀬正仁
時代を刻んだ貌―田沼武能写真集時代を刻んだ貌―田沼武能写真集感想
金高堂本店で見付けた。人物写真というのは難しい。表情、構図、カメラのレンズと被写体との間の空気も写る。言動や言葉が写真から聞こえてくるような1枚が続いている。背景の絞り込み加減まで緻密に神経が行き届く。更に編集も見事だ。1人1ページ、志賀直哉〜永井荷風〜谷崎潤一郎〜佐藤春夫〜里見クと続く。ページをめくるのが本当に楽しくなる。向かい合わせに載っている三島由紀夫と石原慎太郎。被写体が本の中で語り合っている如く。中でも向坂逸郎と吉田健一。見事だ。写真家という職業に就いて人生が豊かになったと結ぶ氏。続編に期待。
読了日:6月28日 著者:田沼武能
きのう何食べた?(10) (モーニング KC)きのう何食べた?(10) (モーニング KC)感想
月1度のペースで連載して単行本はほぼ年に1回。そのペースに乗って主人公のシロさんとケンジというカップルの生活は少しずつ変わっていく。親の老い、勤め先での立場や役割分担の変化、そして何より自身の身体。そのわずかな変化を1話に仕立て上げていく上手さ。同時に生活のリズムを自然に見せていくのが料理。季節の移ろいと共に取り上げられるメニューが変わり、1年が過ぎていく。時の流れを読む愉悦というべきか。日々の生活で節目になるのが2人の食事。相変わらず段取り、手際の良さには感服するばかり。食べることって大事だな、と思う。
読了日:6月27日 著者:よしながふみ
へうげもの(20) (モーニング KC)へうげもの(20) (モーニング KC)感想
BSマンガ夜話で取り上げられたのがきっかけで読み始めたこのマンガも早20巻。この巻では大久保長安、高山右近が舞台から退場し、古田織部の身辺は本当に寂しくなってきた。登場人物が円熟してくるにつれて、筆致も内容も一緒に成熟している気がする。もうすぐ大阪冬の陣。最期の時が近づいている。
読了日:6月26日 著者:山田芳裕
世論調査とは何だろうか (岩波新書)世論調査とは何だろうか (岩波新書)感想
筆者はNHK放送文化研究所世論調査部副部長。世論調査とは何かを易しく解説した本。統計の専門的な知見や論理、解析が大きな比重を占める分野だが、報道記者から現職に移って「参与観察」したルポである。週刊こどもニュースの3代目おとうさんの面目躍如。調査の意味、起源から方法、調査の実態、将来の姿まで縦覧する。偏差、調査の母数、無作為抽出、RDD等々用語説明も明解。就中重要な部分は分析の手法。常に調査には誤差があり、調査者のバイアスが掛かる、ビッグデータの読み誤りがあるという謙虚さを強調する姿勢は筆者ならではの視点。
読了日:6月26日 著者:岩本裕
選書日本中世史 2 自由にしてケシカラン人々の世紀 (講談社選書メチエ)選書日本中世史 2 自由にしてケシカラン人々の世紀 (講談社選書メチエ)感想
所謂、南北朝から室町時代という区分に関しての本。摘まみ食い感はあるけど、先行研究を紹介していく。例えば日本の「公」という言葉は「小宅(おやけ)」に対しての「大宅(おおやけ)」という概念から生まれたと説いたり、太平記を土台に「公」と普通の人の関係が変動した時期を分析したり。中で京都で起こった飢饉が流通システムの破綻に起因するものから、流入人口増で供給が間に合わなくなった原因に分かれるとか、尊氏が見物した田楽と義満が見物した猿楽での観客の差とか。ある意味で旧世代と新世代の確執が時世を動かすのかもしれない。
読了日:6月26日 著者:東島誠
昭和陸軍全史 3 太平洋戦争 (講談社現代新書)昭和陸軍全史 3 太平洋戦争 (講談社現代新書)感想
日米開戦について「中国市場の争奪戦というより、英国とその植民地の帰趨を巡って始まった」と説く。この巻での視座は、日米開戦当時の武藤章陸軍省軍務局長と田中新一参謀本部作戦部長の2人。知性があり、適切な判断をする時もあれば、居丈高になって決断を誤る時もあり。満州事変以降、同じ人間が、時間軸の中で揺れるのが不思議。ただ日、中、独伊、ソ、米英と各々思惑があり、力関係があり、状況判断がある。一局面を見て結論は出せない。日本の力の実態を把握すれば、誰も米国相手の戦いに勝機を見いだせていなかったことは確かに明白だが。
読了日:6月26日 著者:川田稔
草原からの使者―沙高樓綺譚 (文春文庫)草原からの使者―沙高樓綺譚 (文春文庫)感想
先ず以て有川浩の解説が秀逸!! 下ネタは作家にとって禁じ手なのだけど、書き手によってはファンタジーとして成立しうると説く。確かに最後の1篇「星条旗よ永遠なれ」は男性が「打ち止め」になると旗が飛び出すという逸話だ。米退役軍人と日本人妻の人情話に仕立てているのが何ともすごい。表題作「草原からの使者」は浅田にとっては自家薬籠中、お手のものの話だ。ただ当時の競馬場で特券を大量に刷り出す話や、「星条旗〜」で「米国では隠居ができない」という主人公のつぶやきなど、洒落た警句に満ちているのが、この人ならでは。続編を期待。
読了日:6月23日 著者:浅田次郎
選書日本中世史 1 武力による政治の誕生 (講談社選書メチエ)選書日本中世史 1 武力による政治の誕生 (講談社選書メチエ)感想
中世日本の枠組みを考える上で黒田俊雄が提唱した「権門体制論」は斯界で支持されているそうだ。だが筆者は異議を唱える。単純化すると、天皇であれ、寺社であれ、武力の前には無力なのだと。論証のために手紙(綸旨、御教書、直状等々)の遣り取りを追跡したり、「取次」等の役職(中枢と地方を繋ぐ役目)の人物を詮索したり。実証的で説得力があります。また戦前の皇国史観の影響を清算しきっていない、という指摘は興味深い。唯物史観でも尚武の気風は続き、網野善彦の出現が別の時流を形成したという。社会科学の学徒たらんとする筆者に拍手。
読了日:6月22日 著者:本郷和人
選書日本中世史 3 将軍権力の発見 (講談社選書メチエ)選書日本中世史 3 将軍権力の発見 (講談社選書メチエ)感想
日本史の教科書ではさらりと済ます南北朝時代。混乱の極みでした。兄弟で足利政権を作ったかと思えば離反して南朝に合流したり、北朝の血統が絶えかかったり。武力による政権は源頼朝(或いは平清盛)以降に成立したとされつつも、「太政官符」「官宣旨」といった朝廷由来の文書の効力が有効だったことから権力構造の複雑さを読み解きます。南都北嶺といった宗門勢力もいる。最初は為す術なかった武家政権も3代義満の後半になって武力鎮圧という手を発見するまでの話です。最終章の「公家と武家」を最初に読むとよろしい。ま、古文書の鬼の本。
読了日:6月20日 著者:本郷恵子
ナチスの財宝 (講談社現代新書)ナチスの財宝 (講談社現代新書)感想
ルポは新聞記者にとって入門編です。藝として確立するのは難しい。あったこと、見たことをそのままに書いていては成立しないから。その点、この本は至芸の一つかもしれない。旧ソ連レニングラードの宮殿にあったモザイク画が旧独軍に略奪され、戦後摘発されることから話が始まります。琥珀の間の財宝の追跡がナチスの残党が南米に逃れた話に転じ、ロンメル将軍の財宝(山下将軍の財宝の話に似てます)になり、最後はヒトラーの美術館建設の野望まで一気に進んでいきます。昨今評判のフェルメールもその中の1枚。確かに戦後ドイツの裏面史です。
読了日:6月20日 著者:篠田航一
ぼくらの近代建築デラックス! (文春文庫)ぼくらの近代建築デラックス! (文春文庫)感想
共同筆者の門田慶喜曰く「建築は建築家だけではなく施主、大工、政治家、華族、軍人、小説家……。建物の周りには様々な人がいる。逸話と物語の宝庫。自動車評論家の徳大寺有恒が言うように『車の楽しみは結局は人間の楽しみ』」と。そこに尽きる。辰野金吾の3大万歳、大阪で活躍した渡辺節、宮廷建築に活路を見出した片山東熊、妖怪の主伊藤忠太、傍流の王妻木頼黄などなど草創期のメンバーから多くの職人上がりの建築家まで。2人の談論風発つきることなく楽しい。嘗ての藤森照信の「建築探偵シリーズ」に続く文脈。2人の異能の作家に拍手。
読了日:6月19日 著者:万城目学,門井慶喜
幕末から維新へ〈シリーズ 日本近世史 5〉 (岩波新書)幕末から維新へ〈シリーズ 日本近世史 5〉 (岩波新書)感想
教科書の日本史とはひと味違う立体感が楽しい本。11代将軍家斉の時代から話は始まる。16人の妻妾から男児26人・女児27人を作ったこの方は寛政の改革の一方、財政的な窮乏と権威低下を招く。川越藩、庄内藩、長岡藩を同時に転封する三方領地替えは継嗣家慶が取り消さざるを得なくなり、天保の改革も失敗。ナポレオン戦争や毛皮用のラッコ猟で北辺に外国船が近づく。金と力がない中で頼った天皇の権威にいつか将軍家側も振り回されるようになる。国内と国外、江戸と京都、地方。学問の進捗と貨幣経済等々。同時代を輪切りにしてみせる愉悦。
読了日:6月17日 著者:藤田覚
しをんのしおり (新潮文庫)しをんのしおり (新潮文庫)感想
2005年刊。弟や友人との日常生活の中で妄想を膨らませ、文字化していく。明晰な文章であるにも関わらず、自由奔放な乙女の心は追いかけるのが大変だ。ただ時に見せる才が恐ろしい。古今集の凡河内躬恒の口語訳(乙女訳というべきか)は見事だし、BUCK-TICKの追っかけをし、宝塚歌劇に心を躍らせる姿にはまた掬すべきものがある。これらの随筆(というか雑文の分類という方がふさわしい)は筆者の「小説」という創作活動の余技という範疇ではなく、大いなるジャンピングボードになっているのが分かる気がする。文の落差がすごい。
読了日:6月16日 著者:三浦しをん
日本の名作住宅の間取り図鑑 (エクスナレッジムック)日本の名作住宅の間取り図鑑 (エクスナレッジムック)感想
一般庶民の家は別としても、家というものが常に「来客」を想定して作られてきた歴史と読み解けると思います。客と家人の動線を別にするために「中廊下」ができたり、「表」と「奥」の区別や、店と奥の別であったり。便所が2カ所になったり、洋館風の建物がくっついたり。ただ時代が下がると、家の敷地としての広さを確保することが難しくなること、家族の単位が核家族化することなどから、家がプライベート空間としての意味が強くなっていく過程が見えます。この本は江戸〜昭和の住宅を取り上げているのが一種の生活史となっています。
読了日:6月15日 著者:大井隆弘
空海はいかにして空海となったか (角川選書)空海はいかにして空海となったか (角川選書)感想
正直に言います。すこぶる学術的でありまして、広汎な史料を博索して、そのわずかな断片から佐伯真魚から空海へと変身していく過程を探ろうとしているのですが、いささかに全体像が見えにくい。個別の挙証がどう本体に繋がっていくのか、博学の士には何も苦にならないのであろうと拝察しますが、ちょっと選書という形態では難解に過ぎる気がしています。行間から実に篤学の士である様子は伝わってくるのですが。
読了日:6月13日 著者:武内孝善
道路の日本史 - 古代駅路から高速道路へ (中公新書 2321)道路の日本史 - 古代駅路から高速道路へ (中公新書 2321)感想
筆者は1925年生の元建設官僚。日本道路公団などを経て関連法人の道路歴史研究所理事長。古代の駅制に始まる道の概念と現代の高速道網の発想が近いとか、移動手段が古代の馬から近世の徒歩に変わると道も姿を変えたという指摘や、名神高速を開通させる際に世界銀行から招いたワトキンス、道路計画のドルシュ、土質・舗装のソンデレガーという「お雇い外国人」の教えを受けた世代である筆者の感慨は興味深い。また国交省、農水省、各地方自治体と管理主体がばらばらな道の規定を一元化する「道路総合法」の制定提唱は正論だけど実現するかな。
読了日:6月12日 著者:武部健一
桃色トワイライト (新潮文庫)桃色トワイライト (新潮文庫)感想
大河ドラマの「新撰組」が登場しているから、2004年ごろの連載なのだろうか。掲載誌は分からないけど。この方の随筆はすこぶる楽しいので手を伸ばしたけど、本書では筆者のスピード感について行けなかった。ニヤッとしている間に対象物は遠くに走り去っているような感じ。残るは真抜けた己が顔ということになる。このスピード感(というかものを事柄を省いていく感覚)について行ける人にはおもしろいし、共感できる1冊なのだろうけど。「爆笑の大人気エッセイシリーズ」という売り文句に取り残された自分が……。
読了日:6月11日 著者:三浦しをん
日本木造遺産 千年の建築を旅する日本木造遺産 千年の建築を旅する感想
これも木造建築か、と思う。就中佳いのが、菅の舟頭小屋。のべ床面積約1坪。畳1畳と土間。生活ができるのだ。川崎の日本民家園にあるらしい。福井・大瀧神社、岩国・錦帯橋等々、写真に惹かれて買った1冊。藤塚光政の写真がいい。で、巻頭を飾るのが播州小野の浄土寺浄土堂。実に素敵な堂内なのだが今は撮影禁止なのだそうだ。昔の写真を所収しているけど、それがまたいい。空撮(たぶんドローン)写真があるのだけど、氏のこの写真の類の方はまだ練度が低い気もする。藤森照信センセイの説明文、腰原幹雄氏による構造説明と、行き届いた1冊。
読了日:6月11日 著者:藤森照信
小説を、映画を、鉄道が走る (集英社文庫)小説を、映画を、鉄道が走る (集英社文庫)感想
連想に任せて、鉄道が出てくる映画、小説を綴っていく。随筆だから仕方ないけど、読み進めると発想について行くのにちょっと疲れる。でも映画「張込み」、小説「オリンピックの身代金」の夜行列車、林芙美子の「房州白浜海岸」、吉村昭の「東京の戦争」などを含む一篇は心に残る。映画に当時の風景が残っていることの意味を説かれて成程と。「砂の器」再読したくなった。個人的に印象的だったのは旧制一高時代の芥川龍之介が外房での海水浴について書いた一文。「海水浴と云うのは名ばかりで実は波にぶんなぐられにはいるのだから堪りません」
読了日:6月11日 著者:川本三郎
ハルビン駅へ 日露中・交錯するロシア満洲の近代史ハルビン駅へ 日露中・交錯するロシア満洲の近代史感想
ロシアの根底に流れる汎スラブ主義。欧州からアジアまで制覇するのが歴史的使命感と遅れてきた帝国主義国としての現実。東清鉄道を創設し、資金的な裏付けを担った露清銀行を設立して話が始まる。中心がハルビンという新しい町。鉄道が荒蕪の地を開発の拠点に変えた。利権が生まれればロシアの大蔵省と外務省、陸軍省との主導権争いが生まれる。軍人、旧教徒やユダヤ人の入植、満州の大豆輸出が経済活動を生み、日清、日露の戦争を経る間に力関係が変わっていく。ユーラシア大陸の西から満州、朝鮮を観るを視点が新鮮。結論を先に読む方が楽かも。
読了日:6月9日 著者:ディビッド・ウルフ
メディアの苦悩――28人の証言 (光文社新書)メディアの苦悩――28人の証言 (光文社新書)感想
わずか1年余ほど前の本だけど、中身の一部はもう古くなっている気がする。活字媒体というか、テレビというか、既存のメディアのありようというのはいよいよ分からなくなっている気がする。そして重心が偏った時にどうするのか……。
読了日:6月6日 著者:長澤秀行
侍従長の回想 (講談社学術文庫)侍従長の回想 (講談社学術文庫)感想
元・中公文庫所収。1944年8月から1946年5月まで、侍従長として昭和天皇に仕えた人の随筆。1次史料として読む場合には注意が要る。第1に旧海軍出身であること。畢竟旧陸軍系統の人物評は辛口になる。第2自身の見聞を見極めること。8月15日の記述、朝日新聞を引用している。多分、二重橋前の光景を見ていない。ともあれ動乱の時期に日本の中枢にいた者が記憶を基に綴った文という点で値打ちがある。映画「日本のいちばん長い日」の描写に色濃く反映している。また、学術文庫版の価値は保阪正康の解説の部分。先に読んだ方がいい。
読了日:6月6日 著者:藤田尚徳
満州事変から日中戦争へ―シリーズ日本近現代史〈5〉 (岩波新書)満州事変から日中戦争へ―シリーズ日本近現代史〈5〉 (岩波新書)感想
加藤陽子は分かりやすい本を書く人ですが、この本の内容を平明にするためには3分冊くらいにしないと無理です。読者は観覧車に乗ったつもりが、昨今流行のジェットコースターに乗せられていたようなものです。書いてある内容は理性的、中立的で学術的ですが、新書で1冊という体裁、分量に、このいくつもの補助線(外交、世界情勢、財政金融、陸海軍と各国の軍事力、国民の生活などの統計資料などなど)が必要な事象を収めていくのは無理です。満州事変以後を書いたいい本ですが、教科書から1歩進んだところで、という時にはおすすめできないです。
読了日:6月4日 著者:加藤陽子
満鉄調査部 (講談社学術文庫)満鉄調査部 (講談社学術文庫)感想
国策会社の満鉄で植民地経営の企画立案を担ったのが同社の調査部。赤化するロシアとの関係の研究が入ってきたり、世界が中国大陸の権益に注目する中で始まる15年戦争の中、満州に留まらず広く日本の権益を探る機関に変貌していく。今日考えている以上に共産主義的な考え方は魅力的に映った部分があり、左傾する者もいたり、関東軍を中心とした軍部に阿る部分もあったり。ただ、この時に身に付けた感覚は戦後、自民党を中心とした政治体制の中でも大きな影響を残したのは事実。例えば椎名悦三郎。概説的な内容。なお本書は平凡社新書の再編版。
読了日:6月3日 著者:小林英夫
沙高樓綺譚 (文春文庫)沙高樓綺譚 (文春文庫)感想
前回勧めた2篇を再読。「小鍛治」の方は読み返すと、探偵小説の鉄則「ノックスの十戒」にあるとおり、前半に登場した人物が最後に鍵を握っているという仕掛けであり、モデルの人物をだれに想定するかも楽しい。蒼風か太郎か? 「雨の中の刺客」の方は何でもない別れが最後の引き金になっていく。日常生活にはそんな瞬間があちこちに転がっているのだと改めて思う。 そして全編。沙楼のモデルというか、イメージには、華道家の栗アfが2000年代初頭までやっていたという六本木の高級ゲイバー「西の木」のイメージが投影している気がする。
読了日:6月2日 著者:浅田次郎
沙高樓綺譚 (文春文庫)沙高樓綺譚 (文春文庫)感想
1編目の「小鍛治」と5編目の「雨の中の刺客」がいい。前者は刀剣鑑定を家業とする友人が主人公を秘密の会合に誘うことから話が始まる。自然な展開で刀剣の「折紙」を付ける鑑定作業、また出自不明の名刀が現れ、話が展開していく。後者は高度成長期に博徒系ヤクザに入り込んだ男が綾なすままに斯道の真ん中を歩く羽目になった回顧談。「天切り松」の口調に近く、話の流れが自然だ。「誇張や飾りを申されますな、聞いたら夢にも他言なさいますな」という女装の主人の台詞は、濃いビロードのような世界を作り出す決め台詞か。解説の百田尚樹が蛇足。
読了日:6月1日 著者:浅田次郎
増補 八月十五日の神話: 終戦記念日のメディア学 (ちくま学芸文庫)増補 八月十五日の神話: 終戦記念日のメディア学 (ちくま学芸文庫)感想
第2次大戦が終結して今年で70年。日本で終戦記念日といえば8月15日になる。だが歴史的には昭和天皇の降伏詔書が公表された日であり、ポツダム宣言受諾は8月14日、降伏文書の正式締結は9月2日になる。1945年からしばらくは、8月14日や9月2日の記憶が残っていたものの、記憶が8月15日に収斂された過程を記した本。政府の戦没者追悼式典や昔からの旧盆の習俗が重合した結果ながら、筆者の言う如く、8月15日は戦場銃後や敵味方の別ない慰霊の日とし、無条件降伏した9月2日を敗戦の日と分けた方が昨今の議論が明解になる。
読了日:6月1日 著者:佐藤卓己

読書メーター
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2015年06月01日

☆2015年5月に読んだ本。

2015年5月の読書メーター
読んだ本の数:11冊
読んだページ数:2987ページ
ナイス数:331ナイス

選挙の民俗誌―日本的政治風土の基層選挙の民俗誌―日本的政治風土の基層感想
津軽選挙に甲斐選挙、奄美全島区……。この本は衆院選旧山梨全県区で12期当選した金丸信を題材に、選挙運動の話を点綴する。これも柳田国男以来の民俗学の姿ではあるのですが。地縁血縁、さらには後援会の顔をした無尽(頼母子講)などなど。ただ、こんな形態が残っているのは地方の町村議選、市議選くらいではないか。衆院選の小選挙区制がもたらした弊は少なからずあるような気がする。ま、金が動くことは地域の活性化であるのは事実なのですが。この本は飛ばし読みでした。
読了日:5月31日 著者:杉本仁
江戸商家と地所―江戸草分け町家の存続と守成江戸商家と地所―江戸草分け町家の存続と守成感想
東京都中央区日本橋2丁目に所在の柳屋ビルディングは、徳川家康が1584(天正12)年に中国人に浜松で与えた屋敷の土地が江戸に移転後も引き継がれてきたことを文書を読み解くことで示した1冊。途中、近江商人出身の養子が嗣子に入って今のポマードの柳屋の始まりとなる。「拝領屋敷」という制度、江戸期は町役の下で営々と更新されている訳で、ある意味で驚異的な事務能力の累積だ(例えば佃島は漁師連名の拝領地だったそうな)。ただこの筆者の奔放な筆捌きがさすがにこのテーマではあまり発揮されず、ご自身の興奮ほど興奮できなかった。
読了日:5月24日 著者:鈴木理生
江戸のみちはアーケード江戸のみちはアーケード感想
土地と道路の関係を下水を鍵に読み解く。「雨だれ落ち」という言葉がある如く、今も雨水を隣家の敷地に落とす訳にはいきません。江戸時代の江戸の町の多くは歩道部分3尺に庇を出し、雨だれの落ちる下水から下水までの間が公道になっていた訳です。物流の拠点南伝馬町では庇が1間、そのうち3尺が公儀の土地でした。で、町の間口が課税基準。江戸の中心街だった万世橋〜日本橋〜京橋〜新橋は僅かの勾配を利用した自然流下式の下水の配管を考えての整備だった、と説きます。元々千代田区図書館の職員が郷土史を編む余技で書き綴った本。好著です。
読了日:5月23日 著者:鈴木理生
人生激場 (新潮文庫)人生激場 (新潮文庫)感想
小説の面白さで定評のある筆者だが、どうも随筆の方を選びたくなる自分の性癖。この本は元々は週刊新潮の連載らしい。で、「乙女心」という表現が適切かどうかは別にして、さりげない日常を大袈裟に、客観的に、戯画化する、というのは並々ならぬ才気を感じさせてやまぬ。エンターテインメント作として読者の心をとらえて話さない手練手管。浅田次郎の「勇気凜々ルリの色」とか、遠藤周作の狐狸庵ものを連想させるようなサービス精神の横溢した作品が並ぶ。ふざけるだけではなく、時々文明批評が混じるので笑ってばかりいられないのが味噌。
読了日:5月17日 著者:三浦しをん
江戸っ子歳事記江戸っ子歳事記感想
現代版三田村鳶魚。歳事記仕立てで、江戸・東京のしきたりを振り返り、資料(といっても随筆が中心)を引き、論を展開する。門松を立てることで町内の鳶職が生活し、呉服太物の謂いは「お蚕ぐるみ(絹)とそれ以外」の意味であるとか、深川佐賀町の米市場が庶民向け、神田米市場が外米、蔵前が武家向けの別とか、山王祭・神田祭の主役が山車が江戸城内(皇居)に入らなくなった明治になってから神輿が祭りの主役になったという分析などなど、ひたすら博覧強記。ただ大正15年生まれの筆者、江戸の暮らしはほんのつい最近まで残っていたのか、と。
読了日:5月15日 著者:鈴木理生
能・狂言 謡の変遷―世阿弥から現代まで能・狂言 謡の変遷―世阿弥から現代まで感想
能は伝統芸能で室町時代から伝わっているとはいえ、上演内容は大きく変化している。秀吉の時代には強吟と弱吟は分化していないし、音階も拍子当たりも違う。古い謡本の書き込み(直しという)にある中国の五音(宮・商・ 角・徴・羽)の注や諸本の胡麻点(謡の符号)の校勘で音を再現していく研究を綴る。レコードもCDもない時代の音の再現、すごく興味深い。狂言の小謡の拍子合、拍子不合(リズムに乗るか乗らないか)の研究も流儀諸家の謡ぶりから復元していく。伝統は1対1で、身体にのせて伝えられるものだ。能狂言の研究は進化している。
読了日:5月11日 著者:高桑いづみ
多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)感想
憲法改正論議が盛んな今、衆参両院の議員の3分の2が賛成すれば国民投票では過半数の賛成でいいことになっている。だが、衆院は小選挙区制、参院も第2院のとしての性格を失い、小選挙区制に近づいている今、多数派政党の出現は不思議ではなく、この条文の危うさを筆者は指摘する。そもそも民意を多数決で決めることがいいのか。民意?の反映は投票結果だけであってそれを民意ということの危うさを説く。本の中身は統計学のような話の展開だが、決して難解ではない。より民意を反映させるための思索は「私」ではなく「私たち」の問題なのだから。
読了日:5月7日 著者:坂井豊貴
都市――江戸に生きる〈シリーズ 日本近世史 4〉 (岩波新書)都市――江戸に生きる〈シリーズ 日本近世史 4〉 (岩波新書)感想
浅草寺を中心とした寺内町、宿場町としての品川、5街道の宿場や輸送ターミナルとしての南伝馬町。この3所に伝わった史料を読み解き、日々の生活の姿を探る。身分の転落があったり、利権の奪い合いがあったり、統治機構の一部としての株仲間の存在の意味であったり。数学の微積は同じ現象を分析する手法だが、その感覚に近いです。執筆姿勢は学術的ですけど、鈴木理生の本と好一対、という感じ。終章の生活物資としての薪炭を素材に物流網の仕掛けを探る手法も新鮮。PCの進化で、古文書というビッグデータが解析されていくのが楽しみになる。
読了日:5月6日 著者:吉田伸之
性欲の研究 東京のエロ地理編性欲の研究 東京のエロ地理編感想
「東京のエロ地理編」の副題の通り、前半部分が興味深い。皇居前広場に公団住宅、交通(鉄道や路面電車)の発達と都市計画と遊郭の関係等々。中でも新宿に関しての項が面白い。内藤新宿の飯盛女から始まって、2丁目の赤線(公娼地域)、外側の花園町、三越裏の青線(非合法の集娼店舗地域)、白線(不分明な売春施設)と西へ西へと移動しながら進化したこと、旧赤線の跡地が売防法施行以降、所有者が再開を信じているうちに取り残され、性的マイノリティーの地となっていった話。土地の歴史を見直す意味を教えてくれる。ゴールデン街の由来も。
読了日:5月3日 著者:
鉄道技術の日本史 - SLから、電車、超電導リニアまで (中公新書 2312)鉄道技術の日本史 - SLから、電車、超電導リニアまで (中公新書 2312)感想
世界初の商用鉄道が誕生したのは1825年、日本で鉄道開業が1872年。船の往来だった時代に極東の一島国で欧米で発達した舶来の技術を自前の技術と生産に50年もたたぬうちに切り替えていったのは大したものです。そんな歴史を多角的に分析します。測量、製鉄、車両の生産、制御システム等々。この本の何より優れているところ、図、表、写真が適切に挿入されていること。門外漢にも鉄道というのは産業革命以降、工業技術の集大成であったことがよく分かります。東京駅丸ノ内口にあった銅像・井上勝の功罪も、安全技術の集積であることも。
読了日:5月3日 著者:小島英俊
近藤乾之助 謡う心、舞う心近藤乾之助 謡う心、舞う心感想
訃報を聞き、書架から取り出して再読。家元制の制約が最後まで強かった宝生流で、他の流儀、他の世界との交流を通じて藝の幅を広げた人だった。流儀全曲の口伝を残すところがこの人らしい。野口兼資、兼資に私淑した観世寿夫。この2人を脳裏に描きながらの舞台だった。本の中で「藝は紆余曲折を経て伝わっていく」や「役者は死ぬまで冒険野郎」と言う言葉が鮮烈。伝統藝能といわれる能ではあるけど常に革新を続け、解釈、研究にいそしむ。そんな姿が舞台から伝わってくる役者だった。その中身を文字に残しておいてくれたのは今となっては財産。
読了日:5月2日 著者:藤沢摩彌子

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2015年05月01日

☆2015年4月に読んだ本。

2015年4月の読書メーター
読んだ本の数:11冊
読んだページ数:3121ページ
ナイス数:590ナイス

日本の「運命」について語ろう日本の「運命」について語ろう感想
浅田が言いたいことは「人間は時代とともに進歩ではなく変容し、退行しているのだという謙虚な認識をもたなければ時代小説どころかほんの一昔前の舞台すらも正しく描くことはできない。戦争というものなどはその重大な錯誤と認識の不足のせいで繰り返されると思われる」(あとがき)という一句に尽きる。連想したのは司馬遼太郎の「この国のかたち」か。話が雑駁に過ぎる。そこに食い足りぬものが残る。余談ながら、高校時代の日本史の授業、2人の教師に同時進行で習った。一人は石器時代から、一人は寛政の改革から。あの教え方には今でも感謝。
読了日:4月24日 著者:浅田次郎
『平家物語』の再誕―創られた国民叙事詩 (NHKブックス No.1206)『平家物語』の再誕―創られた国民叙事詩 (NHKブックス No.1206)感想
「平家物語」といえば叙事詩という枠組みに嵌め込んで理解し、されてきたこの作品。この言説は実は噓である。江戸時代の儒学に基づく大義名分論、あるいは欧米の文化に曝された明治に、雄渾な大和民族像を希求するがゆえの「叙事詩」化論、先の大戦に於ける「武士道」論に基づく読み込み、そして戦後の階級史観に基づく読みと、元のテキストはどうあれ、時代の要求に応えて「読み」が生まれていく。「平家物語」という作品の融通無碍さというべきか。「平家は享受史こそ本線」と言い残して夭逝した高校時代の恩師の言葉が改めて思い浮かぶ。
読了日:4月22日 著者:大津雄一
神道集 (東洋文庫 (94))神道集 (東洋文庫 (94))感想
中世に各地の神社の由来を集めた1冊。神仏混淆の色彩濃厚で、天台宗系の唱導という語り藝によって伝播されてきた。聴衆を意識している文学であり、ドラマチックである。特にこの本の一番最初に載っている「熊野権現の事」。印度の王の側室の胎内に宿った子は出産直後に母が無実の罪で首を切られながらも乳を含ませてもらって育ち、肉を食べに来た虎に養ってもらい育つというプロットは当時の民衆ならずともオオッと思ってしまうのである。その後、熊野三所権現として定着していく話以上に、こんな不思議な世界を想像した無名の人々はすごい。
読了日:4月13日 著者:
山岳信仰 - 日本文化の根底を探る (中公新書)山岳信仰 - 日本文化の根底を探る (中公新書)感想
日本で独自に育まれてきた山岳信仰。多くは行を主体に師匠と弟子の間で面授されてきた実践が主なので、文字に残っていないものの方が多い。ではどう全体像を求めるのか。筆者は大峯山、出羽三山、富士山、英彦山、恐山、御嶽山、石鎚山と各地を丹念に調査していく。共通項を括りだし、各地で独自に生まれたものを見極める。五来重の「修験道入門」と比較すると、中身は駆け足ではあるけど、学問が如何に進歩してきたかがよく分かる1冊。どの山への信仰も少子高齢化の波の中、変容を迫られているのが現在。山への信仰は将来、どうなるか興味津々。
読了日:4月13日 著者:鈴木正崇
日本戦後史論日本戦後史論感想
「安倍首相はインポのマッチョ」の惹句で読み始めた1冊。それ以上に興味深かったのは東西冷戦終結以降の日米安保体制の制度劣化と気がつかないふりをし続ける自民党政権という構図が興味深い。米にとっては今や日本以上にパートナーとなっている中国。尖閣の有事には加担はしてもらえないだろう。と同時に軍事費に喘ぐ米にとっては「集団的自衛権の容認と法制化」をしてしまえば現内閣は用済みということになる。所謂TPPもそう。吞んでくれればOKなのだから。「日米外交基軸」という言葉は追従ではなく同盟国としての意思を持つことである。
読了日:4月8日 著者:内田樹,白井聡
非常民の民俗文化―生活民俗と差別昔話 (ちくま学芸文庫)非常民の民俗文化―生活民俗と差別昔話 (ちくま学芸文庫)感想
同文庫所収の本と重複が多い。ただ欠点以上に掬すべき点がある。例えば「住民になること」だ。住民票を居住地の役所に届け出ればいい。都会の論理だ。地方はそうではない。居住者独自の社会、規則があり、草分け、本家、分家、別家などの区別があり、自作、小作の別や、鎮守での序列等々、独自の規範がある。本当に地域の一員になるとは地域社会に迎え入れられてこそなのだ。勿論、時代は変わっている。分母が減った。でも一方でこういう染みついた感覚は否定し切れない。今時流行の「地方創生」「地域協働」といった言葉が如何に銀流し、であるか。
読了日:4月5日 著者:赤松啓介
ジャーナリストの生理学 (講談社学術文庫)ジャーナリストの生理学 (講談社学術文庫)感想
新聞には政論を主とした大新聞、三面記事やゴシップを主体とした小新聞、その中庸を狙った中新聞があります。日本では実質的には3番目しか発達しなかったのですが、仏国ではなお大新聞が元気です。バルザック先生、自身も小説とジャーナリズムの間を揺れた訳で、風刺を効かせているつもりかもしれないけど、戯画化しすぎの観も。話柄から連想したのは宮武外骨ですが、その鋭さにも欠ける気がします。解説で「パリ 19世紀の首都」(ベンヤミン)から引用している「ジャーナリズムは精神価値の市場を編制した」の一句がこの本の登場意義なのかも。
読了日:4月3日 著者:バルザック
マネキン 美しい人体の物語マネキン 美しい人体の物語感想
日本に於いてのマネキン人形製作の始まりは京都の理科学機械製作会社の島津製作所にあり、伝統的な京人形の技法の発展形として進化したとは知らなかった。マネキンも仏像同様、目が彫心鏤骨の一点で、玉眼にしてしまうと味わいが欠けたり、新味を出したりと変化するとは。筆者は美大の彫刻科からマネキン人形制作会社に転じて、長年、その原型創作に携わってきた方。欧米はマネキンが買い取り制なのに日本はレンタル制とは知らなかった世界。彫刻として成立し、しかも商品を売るための道具であるという要素の並立。独自の世界観、価値観がある。
読了日:4月3日 著者:欠田誠
毒薬としての文学―倉橋由美子エッセイ選 (講談社文芸文庫)毒薬としての文学―倉橋由美子エッセイ選 (講談社文芸文庫)感想
土佐山田町の生まれ。「土佐人について」との一文で「イゴッソウ氏の本領はしばしばタテマエを盾にとって正義の権化となる」と書く。名人に介錯されたようなもので切られたことに気付かないのではないか。「田舎暮らし」では「田舎町に住んでいると孤独であるということはおよそ不可能。自分と呼べる強固な実体もありえない」と書く。快感を覚える。書き手としての才は勿論、後半にある全集の月報、文庫の解説などで見せる読み手としての確実さも。就中「坂口安吾論」、三島由紀夫についての「英雄の死」、「吉田健一の文章」等々、いとおしくなる。
読了日:4月3日 著者:倉橋由美子
震災画報 (ちくま学芸文庫)震災画報 (ちくま学芸文庫)感想
震災が1923年9月1日、1輯目が刊行されたのが25日。混乱続く中でまとめ上げたのは、「石巻日日新聞」の存在を連想させる。尋ね人の貼紙が町に溢れる中で「逝去」の2文字が書き加えられた話を紹介したり、流言蜚語に基づく朝鮮人虐殺を「最も痛恨事」と評したり。逓信省の郵便振替貯金課は震災後60日経ても業務を正常化できぬことを糾弾したり、「地震計は官権のようなものか。危害もない微動には敏感だが、人の圧死するような時には役に立たない」と言った警句があったりと縦横無尽。時に筆誅を、時に愛惜の視線がある。根性に敬意。
読了日:4月3日 著者:宮武外骨
秋の日本 (角川文庫)秋の日本 (角川文庫)感想
ちょっと引用。「長さ二、三百bの十段になった階段座席、聖殿、天上界から抜け出してきた神々の一軍団が黙示録にあるような光景を目撃するためとでもいったように整列している」。何の描写か分かりますか。A:三十三間堂。1885(明治18)年に来日した仏海軍将校の日本旅行記。東京、京都など回ります。気に入らぬことには上から目線になりますけど、彼には当時の日本がどんな風に見えたのか、表現を追うだけで楽しいし、日光で去り際に子供から花束を贈られた場面など性根が見えるようで、微笑ましくもあります。謎解きの心境も楽しめます。
読了日:4月2日 著者:ピエール・ロチ

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2015年04月29日

★2015年3月に読んだ本。

2015年3月の読書メーター
読んだ本の数:20冊
読んだページ数:5500ページ
ナイス数:681ナイス

日本映画 隠れた名作 - 昭和30年代前後 (中公選書)日本映画 隠れた名作 - 昭和30年代前後 (中公選書)感想
日本映画というと黒澤明に小津安二郎、と名が挙がる。でも年に1本2本しか撮影しない監督ばかりでは興業は成立しない。「プログラムピクチャー」と呼ばれる量産型の低予算、短期間の撮影で市場に送り出す映画の監督も必要だった。筆者のいう「日本人の暮らしに卓袱台があった時代」はまさにその活躍の場だった。すべてが名作という訳ではない。でも例えば「張込み」。普段は量産していた野村芳太郎がこれと決めて撮った1作だという。佐伯清の「大地の侍」滝沢英輔の「六人の暗殺者」など歴史に埋もれた作品が浮かぶ。炭鉱にダムが背景にある時代。
読了日:3月31日 著者:川本三郎
戦国武将の明暗 (新潮新書)戦国武将の明暗 (新潮新書)感想
真面目なのだけど「張扇」が釈台を叩く音、講談師風の口調。名調子と取るか否か。元原稿が週刊新潮の連載らしいので仕方ないか。さておき、譬えが今様で興味深い本です。関ヶ原の帰趨を決めたもの、論功行賞、江戸開幕以降の当主の好み(家康〜秀忠)の変化等々。例えば関ヶ原の合戦に遅参した秀忠はそれが一生のトラウマになったとか、井伊直政はガチムチのロリコン好きではないか、という見立ての妙味。ただ惜しむらくは、編集の際にせめて系図や地図を挿入すべきでした。というのは同じような名の人物が登場しての話の展開が続くのですから。
読了日:3月30日 著者:本郷和人
江戸の町は骨だらけ (ちくま学芸文庫)江戸の町は骨だらけ (ちくま学芸文庫)感想
前半と後半が分かれる本。前半は江戸という土地の成立のために寺院(墓)が果たした役割を語り、後半は宗教政策全般についての論究。実は前半部分の方が面白い訳で、骨というものが今のように執着すべきものかどうかを考えさせられる部分。埋地の材料とは一半信じられぬ気もする。葬礼の部分まで言及しており、黄金餅とからくだの世界を連想させる。後半はちょっと間怠い。なぜかと言えば筆者独特の実証的な部分が薄れてしまうからで、実は江戸幕府の宗教政策が今に及ぼす影響は大きいので、この部分を雑駁に解説してしまうのは勿体ない気がする。
読了日:3月27日 著者:鈴木理生
江戸はこうして造られた―幻の百年を復原する (ちくま学芸文庫)江戸はこうして造られた―幻の百年を復原する (ちくま学芸文庫)感想
「幻の江戸百年」の改題。江戸には荘園があり、約270年余も鎌倉・円覚寺が領有した。坂東の野の河川が戦国時代の勢力圏の境となった通り、川と台地が錯綜する関東平野で江戸が物流の拠点となり、日比谷入江の埋め立てなど大規模に改修していったのが徳川幕府の天下普請という見立て。利根川、荒川などの瀬替えはダイナミックでぜひ、Web上でも見てみたいくらい。江戸前史から成立までを追ったこの1冊、時に推断が過ぎるかと思う面もある一方で、史料を駆使して大胆に展開するさまは読んでいて心地よいくらい。後の震災被害にも繋がる話だ。
読了日:3月25日 著者:鈴木理生
犬たちの明治維新 ポチの誕生犬たちの明治維新 ポチの誕生感想
明治以前、飼い犬はなく「里犬」として集落や町内で養い、番犬の役割を果たしていた。開国して以降、座敷犬として愛玩されてきた「狆」がいよいよ珍重された一方、元来の日本犬は飼い主がいない野良犬として撲殺される犬が続出したそうな。何で犬の名は「ポチ」になったのか−−。筆者は斑を意味するブチはpatches(パッチ)から転じ、ポチになったと推測する。明治のころ、横浜語といわれたピジン英語の影響を指摘する。さらに西郷隆盛が猟犬を連れて西南戦争を転戦した話……。ともかくまとまりはないけど、日本犬の命運を追った1冊。
読了日:3月22日 著者:仁科邦男
書庫を建てる: 1万冊の本を収める狭小住宅プロジェクト書庫を建てる: 1万冊の本を収める狭小住宅プロジェクト感想
本と仏壇。妙な取り合わせだが、引用の言葉で得心。「古い図書館にある書物の著者の大半は死者である。書物という名の死者の遺言が集められた場だ。書物とは記録の道具ではなく記憶の道具だった」と。生家の仏壇と自身の万巻の書を収めることに通底するものがある。家とは、本とは、仕事とは、住むとは、などという問いへの答えでもある。8坪の土地にこんな建物。本をため込んでしまった人間には理想というか、憧憬のような、羨望のような。自分には一生かかってもできないことではなかろうか、と思いつつ、何とかしてみたい気も起きるのが邪か。
読了日:3月21日 著者:松原隆一郎,堀部安嗣
壇蜜日記 (文春文庫 た 92-1)壇蜜日記 (文春文庫 た 92-1)感想
1行32文字、項目は短ければ1行、だいたい7行から10行ほど。身辺雑記である。書き下ろしだそうで、ブログの内容とは違うような。でもどこかでブログとかTwitterを読んでいるような。中身は猫と熱帯魚を飼い、電車と自転車を愛用し、コンビニと薬局と銭湯を愛する生活。虚像と実像の落差を見せることを意識しているような気がする。あと雨が降る話が多い。すこぶる落ち着いたというか、地に足がついている書きぶりなのだけど、今の立場に至るまでの経験がそうさせるのか。文章の展開が直感的、ご教訓めいた1句。魅せることが巧みだ。
読了日:3月20日 著者:壇蜜
地図が隠した「暗号」 (講談社+α文庫)地図が隠した「暗号」 (講談社+α文庫)感想
実業之日本社刊「地図を楽しむなるほど辞典」の改題再編本。国土地理院が今や紙ではなく電子情報として主に提供するようになった時代。でも地図は紙媒体の方がいい。図上に隠れている土地の歴史や生活を読み込み、等高線をトレースしたり、谷線をなぞったり。作業を加えることで楽しさが倍増するのだから。この本は地図を弄り倒すことで味わえる愉悦を教える1冊ではある。中身は広汎、散漫に渡っているけども。本当は地図自体を紙面に収容してくれていたら、と思う。そういえば国土地理院のHPでは紙時代の図幅名から地図を検索しにくくなった。
読了日:3月18日 著者:今尾恵介
自治体職員のための文書起案ハンドブック自治体職員のための文書起案ハンドブック感想
地方自治体で仕事の第1歩が起案書。起案書を作らないと話が始まらない。法務的な背景を解説したのが本書。法令例規と訓令通達要綱要領の差、協議の意味するもの、組織規範に適合しているか、根拠規範があるか、制約規範を満たしているか、といった点検から公告、公示、告示の手続き、或いは行政不服審査、行政訴訟への対応まで、法令例規の考えでどう対処したらいいのか、書いてあります。本職ではなくても、行政職の考え方を知る上で興味深い1冊であると思います。行政の世界はやはり独特で、合議を「あいぎ」と読むとは知らなかった……。
読了日:3月16日 著者:澤俊晴
東方旅行記 (東洋文庫 (19))東方旅行記 (東洋文庫 (19))感想
14世紀に書かれた中近東からアジアに至る旅行記。というか、見聞録を切り貼りしたものというべきか。でも当時の読者の需要、好奇心に合わせるとこういう本ができる訳で、さらにオリエントのイメージを形作った1冊です。前半は四国遍路の霊験記の匂い。一杯聖人が出てきて、聖遺物が見つかって、聖跡を巡って……。きっと楽しいのだろうな。想定をしにくいのだろうけど、今のどの地名を想定しているのか、もっと簡単に分かれば。なお地図は真ん中辺にあります。それにしても小人の国、巨人の国、女護が島……。荒唐無稽さを喜ぶしかないです。
読了日:3月15日 著者:J・マンデヴィル
東京大空襲―昭和20年3月10日の記録 (岩波新書 青版 775)東京大空襲―昭和20年3月10日の記録 (岩波新書 青版 775)感想
何度読み返しても、この空襲は不条理だと思う。あと、改版する機会があれば、筆者の逃げた道、あるいは取り上げている方々の逃げた道がわかりやすく表示された地図がほしい。基本的には下町は碁盤目なのだけど、その広がりが実感できると思うのだが。今ならWeb上の情報とリンクさせると理解が進むかも。
読了日:3月9日 著者:早乙女勝元
大いなる助走 <新装版> (文春文庫)大いなる助走 <新装版> (文春文庫)感想
主人公が直艸賞の候補作となるところから急展開する。筒井の文章だから戯画調に見えるけど、同人誌についてこう書く。「小説書いて自腹切って安くない印刷代を払って同人雑誌を出して、仲間以外にほとんど誰も読んでくれず、屑箱行きだ。日本の文化に貢献しているとは思えないんだよ。自殺者を出したり、精神の荒廃した無頼漢を出したり、生活無能力者を出したり、はては殺人者を出したり、反社会的傾向の強い人間ばかり育てている。反社会的行為がいくら文学の実践活動だといっても、小説そのものさえ認められていないのじゃ意味ないしねえ」。
読了日:3月9日 著者:筒井康隆
綾とりで天の川綾とりで天の川感想
アラン定義集、まだ買っていなかったなあ。
読了日:3月8日 著者:丸谷才一
8月17日、ソ連軍上陸す―最果ての要衝・占守島攻防記 (新潮文庫)8月17日、ソ連軍上陸す―最果ての要衝・占守島攻防記 (新潮文庫)感想
戦後70年だという。日本では8月15日で戦争終結したように思っているけど、実は9月2日の降伏文書調印こそ記憶される日である。「日本のいちばん長い日」で鈴木貫太郎が「今を逃してはソビエトが侵攻してくる」とつぶやくシーンがあったけど。樺太であれ、北千島であれ、ソ連の侵攻は8月15日を過ぎて続いていたのだから。ちょっと読みにくいけど抑えた筆致はノンフィクションとして適切。それと北海タイムスという今はなき北海道の地方紙がこの手の連載をしていたという。何かで読めるようにしてほしいなあ。浅田次郎も小説化しているけど。
読了日:3月8日 著者:大野芳
地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減 (中公新書)地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減 (中公新書)感想
竹中平蔵に続き、人口の推計値を恫喝の種にしながら、「選択と集中」の論理を振りかざしているように思えてならぬ。極端な話を言えば、東京以外は消滅する訳で、その東京も直下型地震などの災害に弱い。どう考えても悲観主義に基づく論理である。本書で取り上げている出産可能な女性の人口動態以外に、地元の意欲とか、市民性みたいな変数が町の盛衰を占う上で加わっている気がする。数量化できない部分なので、煽るだけでは不適切な気がする。確かに人口1万人を切り、地域の共同体の崩壊が始まっているのも事実。でも高知など元から過疎地だ。
読了日:3月8日 著者:増田寛也
災害復興の日本史 (歴史文化ライブラリー)災害復興の日本史 (歴史文化ライブラリー)感想
ちょっと虻蜂取らずの感あり。古代、中世、近世、近現代の4区分で地震や風水害、旱魃、大火、疫病など災害を網羅しようという試みの1冊。悉皆的な入門書を目指したのだろうけど、どれも内容が今一つ薄い感じが否めない。地震の項で「理科年表によると」という話が繰り返されるのが典型にて、今の災害に対する姿勢は、史料に基づくのか、あるいは口碑に基づくのか、科学的知見に依拠するのか。何かがほしい。具体名を挙げれば磯田道史の著作のような手応えがもう少しほしかった。ちょと残念。
読了日:3月7日 著者:安田政彦
軍隊を誘致せよ: 陸海軍と都市形成 (歴史文化ライブラリー)軍隊を誘致せよ: 陸海軍と都市形成 (歴史文化ライブラリー)感想
建軍以来、師団や鎮守府となった都市は多くの兵員が住むことになり、廃藩置県以後の格好の地方創生策となった。城跡に多くの軍隊が入ったのは象徴的だ。鉄道や水道の敷設、遊郭の設置、門前の商工業発達など、インフラの整備が進み、地域経済が活性化し、災害出動もあって治安維持のためにも好個と受け止められた。今も地方では自衛隊誘致合戦があるように当時とすれば無理からぬことで、軍隊が駐屯することによる社会資本の整備という観点が面白かった。師団−旅団−聯隊という構成で約9192人、鎮守府−要港部という組織論がら説き平明。
読了日:3月7日 著者:松下孝昭
幻獣ムベンベを追え (集英社文庫)幻獣ムベンベを追え (集英社文庫)感想
筆者の処女作。将に栴檀は双葉より芳し。当初「早大探検部」の名で刊行された。アフリカ・コンゴ奥地の湖に怪獣探しに出掛ける話。1988年に探検に行った話と2002年に書かれた文庫本あとがきの部分がついているのが秀逸。文庫化当時の回顧に「着実に退化の道をたどった」と記す気分。分かる気もする。一番受けたのは隊員が脳性マラリアになり、黄疸症状が出た時に「学食のカレーと同じくらい黄色い」という譬えは実に得心。アフリカの水を飲んだ者は再びアフリカに帰るというけど、ソマリア話につけ、その通りになっているというべきか。
読了日:3月2日 著者:高野秀行
墓と葬送のゆくえ (歴史文化ライブラリー)墓と葬送のゆくえ (歴史文化ライブラリー)感想
火葬すると後に遺骨が残る。習慣の中で骨は扱われてきたけど、僧侶の登場、地域共同体(世間)に代わって葬儀業者の出現で変質してきたと説く。さらに墓の維持管理も一族や集落等で担っていたが明治以降の近代家族制の登場、戦後の核家族化、未婚者の増加、少子化などが重なって崩壊中だと指摘する。昨今の樹木葬や散骨、合葬墓も依拠すべき法令条規(墓埋法、民法など)が未整備という。地域や家族の道徳的・倫理的義務感も失われた今、葬送や死者の尊厳を福祉の一部として考え、墓地の有期限化、共同化、脱墓石化を計れとの指摘。含意を翫味中。
読了日:3月2日 著者:森謙二
江戸の政権交代と武家屋敷 (歴史文化ライブラリー)江戸の政権交代と武家屋敷 (歴史文化ライブラリー)感想
徳川幕府の臣下(大名から旗本、御家人まで)にとって、屋敷は宛がわれるものであり、移動や召し上げも当たり前。古地図や証文を手がかりに変遷を読み解き、人間関係を重ね合わせていくと、表向きの理屈とは異なる本音の論理が読み解けるというのが本書の興。特に西ノ丸下(今の皇居外苑)、吹上(今の皇居内)は世の流れで変転を重ねた。甲府中納言忠長、館林から転じた綱吉、甲府から来た家継、紀伊からの吉宗と代替わり、幕閣の交代で様変わりする。移動は江東、新宿方面等への都市の膨張、員数増など体制の歪みを示す証となっている。好著。
読了日:3月2日 著者:岩本馨

読書メーター
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2015年03月01日

☆2015年2月に読んだ本。

2015年2月の読書メーター
読んだ本の数:12冊
読んだページ数:3295ページ
ナイス数:407ナイス

三四郎はそれから門を出た (ポプラ文庫)三四郎はそれから門を出た (ポプラ文庫)感想
活字なしの人生なんて考えられないという点で、自分にもその自覚はある。筆者と同じく寝転がって右半身を下にして読み耽るのが常。でも書畜の中でも上手が居るものだ。言えば段違い。本の紹介はどれも面白そうでポチってしまいそうになる。本への偏執、分かる分かる。中でも紀伊國屋のPR誌への寄稿をまとめた「本のできごころ」など、本の始末の仕方を除けば我が身、我が家を覗かれているような心境になる。そして身辺雑事。すべてが活字につながっていく。スピード感があって軽妙だけど浅薄ではない。別の著書にも手を伸ばしたくなる。実に才媛。
読了日:2月26日 著者:三浦しをん
古典注釈入門――歴史と技法 (岩波現代全書)古典注釈入門――歴史と技法 (岩波現代全書)感想
日本の古典文学は営々と享受されてきた。ただ前の時代の物は読みにくい。本文を定め、読み手に意味を正確に伝え、今日的に見た上での時代的な批評も加える。この作業が「注釈」である。中世の「秘儀」から戦国期の「合理性、一般性の追究」になり、江戸時代に「科学的」な批評態度になる。儒学、博物学の影響もある。長い流れの一つの頂点が岩波の旧、新大系本、小学館の古典全集本、角川の全注釈、新潮の古典集成本と指摘する。個人的には紙媒体を捨てられない身ゆえ、電子書籍の世には校注にはどんな事が求められるか、筆者同様に気になる處だ。
読了日:2月23日 著者:鈴木健一
定本 日本の秘境 (ヤマケイ文庫)定本 日本の秘境 (ヤマケイ文庫)感想
1955年頃、人が行かない地を訪ねた紀行文。元は雑誌「旅」に連載されたものだ。同時代の岩波写真文庫のような視点が見えるのが面白い。筆者が睨んでいた地図は旧陸地測量部以来の墨刷り1色の5万分の1地形図であったろう。青森・酸ヶ湯では若き日の三浦雄一カが出てきたり、もう廃絶したかと思う上州の浜平温泉、越後の逆巻温泉、白山の中宮温泉はそれぞれに今も栄えているようだし。高度成長期ですべてが変わってしまう前のルポ、という感興はある。ただ、筆者の書きぶりはどこか「日本百名山」の深田久弥に似て高踏的、上から目線のような。
読了日:2月18日 著者:岡田喜秋
教養としての宗教入門 - 基礎から学べる信仰と文化 (中公新書)教養としての宗教入門 - 基礎から学べる信仰と文化 (中公新書)感想
宗教学の入門書として書かれたこの本の一番のポイントは「濃い宗教」と「薄い宗教」という見立てを取り入れたこと。前者にはユダヤ教を源に持つキリスト教、イスラムが連なる。後者には仏教、儒教、道教、神道などアジアに広がる多神教系を指す。筆者は前者は篤い信仰や奇跡の祈願のような「信仰のための宗教」といい、後者を人々に共有される宗教的知識、習慣の集積として「文化としての宗教」と捉える。兎角教義や用語の解説に陥りがちな本が多い中、概括的、かつ平明、普遍的に宗教というものの現在の姿を要約したのは見事。教科書もできる1冊。
読了日:2月16日 著者:中村圭志
やきとりと日本人 屋台から星付きまで (光文社新書)やきとりと日本人 屋台から星付きまで (光文社新書)感想
やきとりクロニクル。料理関係の取材を重ねてきた経歴ゆえか、丹念に書いている本です。先行文献を博索して適切な引用をし、店を巡って聞き書き(これが上手い)。本の中で紹介されている店はどこも魅力的です。鶏に限らず、牛や豚の肉やモツもこの料理法で対応できる。串を打って焼くだけなのですが。素人料理では難しいことがよく分かります。また野鳥から鶏、さらにブロイラーの出現で一気に大衆料理化したこと、料理方法次第では美味しいことなど、示唆に富みます。備長炭の活用法や酒などの品揃えも含め業態の工夫、在来種の活用など内容多岐。
読了日:2月10日 著者:土田美登世
夢を見ない、悩まない 市川左團次夢を見ない、悩まない 市川左團次感想
市川左団次丈の人生相談。中身は肩の力を抜いて生きよ、自分の仕事を大事にしろ、ということか。お悩み相談よりも面白かったのは弟子の左升、蔦之助が話す左団次像。2人とも門閥の出身ではなく、檀那を裏で支えるのが仕事。左団次に惚れ込んでいるのがよく分かる。例えば助六の意休。大松島を始め、名優が務めてきたこの役を高島屋以上に務められる役者は今の舞台にはいない。腹もニンもある名優である。一方、SMが趣味でスッポンポンになるのも、照れ隠しなのかもしれないと。「いい加減、人生録」も読んでみたくなる。藝談のない藝談かも。
読了日:2月9日 著者:四代目市川左團次
中空構造日本の深層 (中公文庫)中空構造日本の深層 (中公文庫)感想
記紀神話の構造から日本民族が無意識の下で抱いてきた「安定感」の姿を探る。神話でアメノミナカヌシ−ツクヨミ−ホスセリと役目のよく分からない神様が中心にいる、という指摘から、日本人は決断のできない父親と、母性的家族集団に挟まれ、何でも異界の概念をこの中空構造の中に取り込んでいくという仕掛け。中空もさることながら、日本的父性と母性社会の概念がおもしろい。憲法改正論議で、改憲派は実は革新的であり、護憲派が保守的であるというネジレの指摘は、後の「リベラル保守宣言」(中島岳志)などにつながる冷静な思索につながる。
読了日:2月8日 著者:河合隼雄
雨のことば辞典 (講談社学術文庫)雨のことば辞典 (講談社学術文庫)感想
おもしろいとは思ったけど、それ以上でもない気もする。評価は微妙。読む辞典としては内容がもう少しほしいし、検索する辞典としては物足りないような。
読了日:2月8日 著者:倉嶋厚,原田稔
早稲田大学 (岩波現代文庫)早稲田大学 (岩波現代文庫)感想
岩波現代文庫がこの本を今、出版する意味が分からない。尾崎の小説3編。1は大学草創期の大隈重信が外相時代に関わった条約改正問題と騒擾。2には1916年の早稲田騒動(大隈夫人の銅像建立を発端に総長人事の騒乱に発展)の話、3に大隈侯の暗殺未遂犯の話。「冀望は学の独立」といっても私塾なのか、文部省の大学令に基づく学校となるのかは自明の理。尾崎は早稲田騒動の当事者であり、騒動を機に校風が変わったとしているが今や何人がそれに共感できるか。そして今、尾崎がいう「明るさ、叛骨、額縁のない自由さ」は存続しているのだろうか。
読了日:2月6日 著者:尾崎士郎
満蒙 日露中の「最前線」 (講談社選書メチエ)満蒙 日露中の「最前線」 (講談社選書メチエ)感想
日清、日露の戦役から15年戦争の終結まで、日本が常に進出、支配を試みた地域が「満蒙」である。日本の歴史書の多くは東から見た姿を語るが、実は西から(つまり露側)から見た景色も大切である。本書はシベリア鉄道から分かれ、ウラジオに向かう「中東鉄道」を舞台回しに日露、国共、赤軍と白系ロシアや軍閥同士の相剋まで視野に覇権争いを描く。外交だから相互に利害があり、欧亜のバランスもある。帝政ロシアの崩壊、辛亥革命の余波など日中露の「歪み」が溜まる場所と、この「鉄路」を見立てた点が卓見。戦後70年の今年、ぜひお勧めの1冊。
読了日:2月4日 著者:麻田雅文
武士の奉公 本音と建前: 江戸時代の出世と処世術 (歴史文化ライブラリー)武士の奉公 本音と建前: 江戸時代の出世と処世術 (歴史文化ライブラリー)感想
江戸時代の泰平の世と今は似ているのかもしれない。槍働き本位で切り取り次第だった世ならは評価は簡単であり、雇う側も財源が増えることが期待できる。だが石高が固定し、裁量の余地がなくなった時、どう「やる気」を生むのか。筋目(家格)の評価を元に勤務態度をで人材評価をし、石高を増減する。結局はパイの大きさは同じなので逼塞する。事務処理能力の高い新参を抱えたくても古参の周囲の怨嗟も生まれる。「加役」などの職能給を出すか、或いは雇われる側が別の生き甲斐を見出すか。流れ奉公が増えるようでは安定しないのは言うまでもないが。
読了日:2月2日 著者:高野信治
日本海軍と政治 (講談社現代新書)日本海軍と政治 (講談社現代新書)感想
旧憲法の欠陥は天皇が唯一絶対の存在で、内閣は輔弼し、軍部は輔翼という形で統帥権を行使する。内閣内でも首相が閣僚の任免権がなく、軍部内でも軍政機関(海軍省、陸軍省)と軍令機関(参謀本部、軍令部)の齟齬が起きる。陸軍より海軍は蹉跌が少なかったとはいえ、機構の欠陥が最後まで尾を引く。陸軍に統制派と皇道派があったように、海軍内にも条約派と艦隊派が存在し、自分らの権益のため政党と結んで予算確保で策動するし、自分の担当、専門分野に立て籠もることもできる。相互のチェックが働かない組織の脆さ。日本株式会社の母型かも。
読了日:2月1日 著者:手嶋泰伸

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2015年02月01日

☆2015年1月に読んだ本。

2015年1月の読書メーター
読んだ本の数:33冊
読んだページ数:7741ページ
ナイス数:727ナイス

よしながふみ対談集 あのひととここだけのおしゃべりよしながふみ対談集 あのひととここだけのおしゃべり感想
同業との対談が収められている。自分の知らない世界(沃野なのかもしれない)が広がっていた。「BL=やおい」程度の認識しかなかったのだけど、どの作者も膨大な知見、先行作品を踏まえての創作活動であるというのがよく分かる。コミケ、少女漫画出版社、編集者……。で、「きのう……」について筆者は「恋愛の『わーっ!』ていう気持ちが暮らして3年過ぎてて全部なくなってしまった後、家族として生きてくっていう話をわたしは描きたかった」と別の場所で述べているけど、自分の読みが実は浅かったことへの驚きと、漫画を読み込む不思議さと……
読了日:1月29日 著者:よしながふみ
きのう何食べた?(9) (モーニング KC)きのう何食べた?(9) (モーニング KC)感想
本巻刊行時点で、主人公の年齢が50歳。老眼鏡をかけるとものがよく見える、みたいな話は確かに日々の生活の点景ではあるけど、漫画になっても不思議がないと受け止められている今の時世が不思議。永遠に年老いることないデューク東郷とは違う世界です。あと親の大病の話題も出現。事件は日常にあるのですね。料理で気になったのは黒豆。我が家のは丹波黒豆ではなく雁喰豆という平べったい黒豆。この煮方、一応覚えておきたいな、と確かに思う。あとバターは冷蔵庫の中で匂いを吸ってしまうので小分けにして冷凍、ってのは確かにありかもしれない。
読了日:1月28日 著者:よしながふみ
きのう何食べた?(8) (モーニング KC)きのう何食べた?(8) (モーニング KC)感想
親との関係、身近な人の出産、親の死やら。話のネタがどうも自分の身辺に近い。前巻で「ニッチ」な読者層を想定した漫画というものが存在できる今の時代を知り、ちょっと安心したような気分。どんな展開でも驚かなくなりました。で、本巻では一番気になったのは「塩麹」。自分で作ってみたくなる。でも塩レモンを作ってはみたものの、使い道が思いつかない今を思うと手を出すのは如何、なのかな。あと、同一人物ながら細密な絵とラフな絵が場面に応じて出てくるのが却っていいのかも。全面緻密だと「へうげもの」みたいに圧迫感満載になるから。
読了日:1月28日 著者:よしながふみ
きのう何食べた?(7) (モーニング KC)きのう何食べた?(7) (モーニング KC)感想
主人公の弁護士と美容師の他、登場人物が増えてくる。職業からにじみ出るものあるし、分からないと筋が面白くなくなる。「へうげもの」もそうだが筋がややこしくなると、個人的には画像だけでは脳内が整理できず、読み返す場面が増える。ただ料理の手際というもう一本の軸があるので読みこなせているのか。チキンライスとアールグレーのソルベっぽいのは美味そう。この漫画の読者層ってどんな人なんだろう、って。掲載誌の編集長曰く「出会い頭の面白さを追う週刊誌派と情報読解能力の高い単行本派がいる」と。「少し難解で通好みな漫画」、成程。
読了日:1月27日 著者:よしながふみ
きのう何食べた?(6) (モーニング KC)きのう何食べた?(6) (モーニング KC)感想
巻数も進んできたけど、パステル画のような(もちろんペン画ですよ)筆致、ストーリーの展開は変わらない。小さな事件→感情の行き違い→飯→仲直り、という、水戸黄門ばりの計算し尽くされた展開とも言える。ゲイのカップルという基礎があるから、それもまた可、と受け止められるのかもしれない。で、横糸の料理編。鯖の味噌煮、ピーマンの煮浸し、ひじきとトマトのツナ煮が気になった。これなら作れそうな気がする。それにしても毎度のことながら、手際の良さには敬服。「主夫」です。この位段取りがイイというのはやはり場数の賜物なのだろうが。
読了日:1月27日 著者:よしながふみ
朝日新聞 日本型組織の崩壊 (文春新書)朝日新聞 日本型組織の崩壊 (文春新書)感想
読みました。
読了日:1月26日 著者:朝日新聞記者有志
きのう何食べた?(5) (モーニングKC)きのう何食べた?(5) (モーニングKC)感想
本巻で気になったレシピは長芋とトマトの味噌汁。トマトが味噌に合うのかどうか、不可思議。登場人物の会話では「ジルベール」なる人物名が??? 後でネタ明かしとして「風と木の詩」が本説であったのに、大学のころ、これを話柄にしていた「パタリロ」が大好きな先輩がいたなあ、と思い出す。巷間、「ゲイは捨てどころがない」という言葉があるそうだ。ともあれ、あばたも笑窪、それぞれお幸せに、と願う。同趣向の料理を横糸にした漫画は「深夜食堂」を始め数多あれど、この作品の妙味は2人の主人公に焦点を絞っている点にあるのではないか。
読了日:1月26日 著者:よしながふみ
復路の哲学ーーされど、語るに足る人生復路の哲学ーーされど、語るに足る人生感想
63歳の筆者、読書についてこう言う。「自然過程で成長している間はどんな読書でも何らかの役には立つだろうと思って乱読する。しかしある年齢を過ぎると生きている間に読める本の数がみえてきてしまう」と。で、まだ自分は復路に入っている自覚がないのだろうか。属人的な暗黙知を形式知に変える社会の奔流の中で「便器をまたいだ回数が多いということはそれだけで敬うに値する」と言えるか……。右肩上がりを脳裏に描きながら、1995年から生産年齢人口が減少に転じたこの国で確かに「振り返る」ことは大事だと思う。ま、分かっちゃいるが。
読了日:1月26日 著者:平川克美
きのう何食べた?(4) (モーニング KC)きのう何食べた?(4) (モーニング KC)感想
今回の料理ではナポリタンが気になった。ナポリタンとチキンライス、なかなか上手くいかないものだから。で、主人公が一人で食卓に向かう日、「パスタカレー丼チャーハンのローテーション」とかつての食生活を振り返っているけど、料理はだれかに作る張り合い、ってあるものです。あと読み終わった後、映画「Brokeback Mountain」を思い出しました。ゲイのカップルが抱える思い、周囲との関係……。主人公はきっとこの映画の終末のように内に秘めたままの思いを抱いて生きていくのだろうな、と。社会の中のカップルだから。
読了日:1月26日 著者:よしながふみ
衝動買い日記 (中公文庫)衝動買い日記 (中公文庫)感想
衝動買い、というのは何なのだろう。所有欲、知識欲、自惚れ、蒐集癖……。いろんな要素が混じっていると思う。取り上げる素材が「ああ、分かる」と思えてしまうし、共感をするものもある。本の洪水は身近に迫っている危機。サハラ砂漠の辺りでは砂に埋もれていく集落があると聞くけど、そういう景色になりつつある。本が1990年代に出されたものなので、どこか時代のずれは感じるけど、時世は変わってもこういう本性は変わらないのだろうな。仏文学者という属性を超えて普遍性がある。あ、結局、この本を買ったということが「衝動買い」だった。
読了日:1月25日 著者:鹿島茂
きのう何食べた? 3 (モーニング KC)きのう何食べた? 3 (モーニング KC)感想
そう、味噌ラーメンは「サッポロ一番」に止めを刺すのですよ。どこまでいっても(ちなみに塩もサッポロ、醤油はチャルメラの昔味が好き)。こういう年越しの姿もあるなあ、と。確かに少ない事例かもしれないけど、年越しをどうするか、っていうのは年老いた親を抱える身としては結構、考える問題。単に料理の話だけではない、バックグラウンドがあれこれと思索を巡らす契機になる本だなぁ。もちろん、レンコンのきんぴらとか、作ってみたいと思いますね。何より、主菜に何か副菜を添えるという習慣、できそうでできないことで見習わなくては、と。
読了日:1月25日 著者:よしながふみ
きのう何食べた?(2) (モーニング KC)きのう何食べた?(2) (モーニング KC)感想
料理の段取り、レシピもさることながら、大いなる面積を占める吹き出しの裏側で進むストーリーが淡々としているけどいい。ゲイの2人の出会いから始まって、一方の父親が癌になってからの展開、弁護士として離婚の後の片親の希望を叶えるための奮闘などなど、ヒーローでもスーパーマンでもないけど、日常の姿が見える。と、同時に主婦目線、思わず作ってしまおうかと思うのはポテトサラダあり、ホタテと大根のサラダ、インゲンとちくわのサラダあり。どうせなら、各話の冒頭にでも作る料理を柱立てておいてくれるといいなあ。後から探すのが面倒な。
読了日:1月24日 著者:よしながふみ
続法窓夜話 (岩波文庫 青 147-2)続法窓夜話 (岩波文庫 青 147-2)感想
前半50話が穂積重陳の遺稿、後半50話が息重遠の撰。通読しても違和感はない。中で「学者の真勇は怯懦に似たり」とか「骨董屋の論法と肴(魚)屋の論法」(古ければいいのか、新しければいいのか)など学者としての姿勢の話や「憲法」「臣民」「会社」などの用語の成立に関しての考察、或いは江戸時代の判決の「咎め言葉」(重々不届至極−不届至極−不届−不埒−不束や不調法、不念、不行届、不慎、不心掛など)の使い分けなどの昔話あり、洋の東西を問わない法学の小咄が満載である。大学の基礎教養の「法学」で使ったら面白いだろうな。
読了日:1月24日 著者:穂積陳重
猫 (中公文庫)猫 (中公文庫)感想
半世紀以上も昔に編纂された短編集。有馬頼義、大佛次郎、谷崎潤一郎などなど。中で井伏鱒二の一篇が印象的だ。山場は猫と蝮の対決である。助太刀を得た猫が一瞬に皮を切り裂いてしまう。最後に鳶口の話で締めるなど切れ味のいい短編小説。国語読本向きかもしれない。どの筆者も人智を超えて独自の挙措、行動を貫き、発情期ともなれば思うがままに交尾し、また死期を悟れば自ら家を出て行く−−相手が不可解な行動をとるとなればこちらが考え込むしかない。その振り回されっぷりが何ともいい。嗚呼また猫が飼いたい、と。真っ黒で尻尾の短い雄を。
読了日:1月24日 著者:大佛次郎,有馬頼義,尾高京子,谷崎潤一郎,井伏鱒二,瀧井孝作,猪熊弦一郎
おやじがき 絶滅危惧種中年男性図鑑 (講談社文庫)おやじがき 絶滅危惧種中年男性図鑑 (講談社文庫)感想
自他共に認めざるをえないおやぢの一人として、お説、ご高覧ご尤も、重々至極としかいいようがござりませぬ。でも何か愛がないなあ、という感じ。
読了日:1月24日 著者:内澤旬子
きのう何食べた?(1) (モーニング KC)きのう何食べた?(1) (モーニング KC)感想
珍しい漫画です。1コマの中で、料理の説明がどどっと入るので吹き出しが4分の3、絵が4分の1なんていう部分もある。でも作っているものが生活感あふれる内容で、日々の生活の中で献立を考える姿がいい。秀逸です。男前の絵とポンチ絵とが同一人物で登場するのはパタリロや軽井沢シンドローム以来の手法なのかな。登場人物が主婦以上の感覚を持つやり手弁護士の筧と美容師の矢吹というゲイのカップルの生活風景を基調に料理を取り合わせる趣向が新鮮で楽しいです。作ってみようかと思ったものが出てくるのは向田邦子の本以来かもしれない。
読了日:1月23日 著者:よしながふみ
法窓夜話 (岩波文庫)法窓夜話 (岩波文庫)感想
博覧強記を地で行くような1冊。でも嫌みがない。社会経験を広汎に身につけた法曹者が求められる昨今、明治の先学は既にして自然にその域にあったと言わねばならぬ。旧民法を起草した法哲学者であるが、内容は英、独、仏といった当時の列強だけに限らず、ハンムラビ法典からマヌの法典、或いは世界各地の民俗的審判法から伝記にまで及び、国内も上古から近世まで。恐れ入りましたとしかいいようがない筆捌きである。用語の案出(統計、憲法、民法、自由……)から始めなければいけなかった時代の人は強い、というべきかもしれない。興趣尽きぬ1冊。
読了日:1月19日 著者:穂積陳重
星新一時代小説集〈人の巻〉 (ポプラ文庫)星新一時代小説集〈人の巻〉 (ポプラ文庫)感想
天の巻が固有名詞を排除した時代小説なら、人の巻は、視点をずらすことの妙味を見せる1冊。「ある吉良家の忠臣」は忠臣蔵の1編ながら浅野家家中ではなく吉良家家中の話を書き、「城の中の人」は豊臣秀頼の視点から現れては去って行く人を描き、武士の本性を探る。「正雪と弟子」では山田風太郎の明治小説のような奇想天外な味わい、「はんぱもの維新」は小栗忠順の視点。切れる人間には周りはすべて半端に見えるだろうな、と思う。記者会見の写真で会見している本人を見せるのが正攻法なら質問する側を写すのは変化球。その楽しさといえるかも。
読了日:1月16日 著者:星新一
星新一時代小説集〈地の巻〉 (ポプラ文庫)星新一時代小説集〈地の巻〉 (ポプラ文庫)感想
6編収録。中で「厄よけ吉兵衛」は落語「小言幸兵衛」を連想させる。「藩医三代記」は家業の医業って何を求められているのか、を考えさせる一編。時代小説の体をとっているけど、実は今に通じる意識です。「かたきの首」は江戸時代ならありそうだな、という話。どの一編も時代小説の体裁をとっているのですが、骨法としては筆者の得意とするショートショートです。斬新な時代小説ととるのか、時代小説という体裁をとる意味があるのか……。個人的には微妙な線もあるような気がします。ただどの1編も映像化したらおもしろいだろうなあと思います。
読了日:1月16日 著者:星新一
星新一時代小説集〈天の巻〉 (ポプラ文庫)星新一時代小説集〈天の巻〉 (ポプラ文庫)感想
元本は「殿さまの日」「城のなかの人」という2冊の文庫本を再編集しています。で、不思議な時代小説です。具体的に言えば固有名詞の部分がない。風土や歴史、時代相まで朧化している点です。「時は元禄15年」といえば忠臣蔵だし、「特別機動警察・火付盗賊改を置いた」なら鬼平。絞りを開放している写真のよう。ピントが合う点は1作目「殿さまの日」ならお殿様である「私」の1人称小説だし、2作目「江戸から来た男」も松蔵という植木職を巡る騒動。肩の力を抜けているようでショートの名手が書いた1冊。間然とするところがないのは流石。
読了日:1月14日 著者:星新一
喧嘩両成敗の誕生 (講談社選書メチエ)喧嘩両成敗の誕生 (講談社選書メチエ)感想
喧嘩両成敗と言えば、戦国時代の分国法で示された概念。本性を言えばハムラビ法典と大差ない。だがその背後にある思考を解き明かして行くと別の姿が見える。元々は自己防衛を専らとする時代からの公権力に事態の裁断権を委ねていく過程で生まれた概念だったという絵ときである。日本人は穏やかで争いを好まないなんていう固定観念を卓袱台返しするような展開。最終的に赤穂浪士の討ち入りまで話を敷衍していくとその残虐性がよく分かる。日本人の根底に流れる「正当性」を教えてくれる1冊。今でも1人死んだら相手も1人という相殺の感覚がある。
読了日:1月12日 著者:清水克行
ちょっと本気な千夜千冊虎の巻―読書術免許皆伝ちょっと本気な千夜千冊虎の巻―読書術免許皆伝感想
読書の先達(っていう言い方は変かな、と思いつつ)の1冊。ただWebで本を紹介し、近縁を紹介していくというあの読み物は好きだけど、活字になるとどうもひっかかる気がする。この違和感は何の故なのか、自分では分からないままなのだけど。セイゴー先生のように本を汚さないからなのだろうな。傍線を引いたり、書き込みをしたり。そんな作業を重ねることと読書とはまた違う気がしている。とんでもないところに飛躍するのがたぶん読書の楽しさなのだけど、それを自分の脳内で完結させるところにもおもしろさがある訳で。免許皆伝より秘事口伝。
読了日:1月8日 著者:松岡正剛
日本史の森をゆく - 史料が語るとっておきの42話 (中公新書)日本史の森をゆく - 史料が語るとっておきの42話 (中公新書)感想
淮陰生(中野好夫)が「一月一話」という随筆を岩波書店の「図書」に連載していた。掌編だけど未だに随筆の範とするに足る素敵な1冊。随筆を書こうと思えば新書数ページという寸法は十分な長さである。で、この本読んでいくにつけても、大学時代に4月に科目登録をする際に配布された講義一覧を思い出すような内容。自分の研究を紹介するのが精一杯で読み手を意識していない文章が目立つ(勿論、例外はありますよ)。東大史料編纂所が大変なお仕事をしているのは分かりますが、何か虻蜂取らずになった1冊じゃないか? 編集者の力量や如何。
読了日:1月6日 著者:東京大学史料編纂所
粘菌 偉大なる単細胞が人類を救う (文春新書)粘菌 偉大なる単細胞が人類を救う (文春新書)感想
粘菌というと、中学時代の生物の恩師を思い出す。この著者がやったようにシャーレの濾紙の上を這い回らせていた。餌は同じくオートミール。不可思議な形を描いていた。その粘菌が最短の経路を辿って餌を食べに行ったり、不具合が起きた時のバイパスができたり。車の渋滞もそうですが複雑系の現象を解明して行くと単純化できるという思考回路が面白い。で、ちょっと顔を出すのが冪級数とか、テイラー展開の話。最終章は粘菌の話からかなり飛躍しています。読み手としては粘菌並みの知性が必要かも知れません。
読了日:1月4日 著者:中垣俊之
早稲田1968 (廣済堂新書)早稲田1968 (廣済堂新書)感想
知る人ぞ知るという範疇ではないけど、筆者はコピー機で一時代を画した三田工業の御曹司であり、姉は三田和代。固有名詞を代入してこの本を読むと、何か違っては見えないか(それが良い悪いではなく)。単に大阪・大手前高校時代から学生運動の本質を見知っていたというだけではない高等な次元に見える。一方で独特のほの緩い筆捌きはたぶん、あの時代の早稲田の学生闘争の空気を写して余すところあるまい。内ゲバで潮目が変わったという見立ても。早大は無限に第二次だったわけで、筆者の感慨深い第二学生会館の廃墟は知る世代は何か懐かしい。
読了日:1月4日 著者:三田誠広
永続敗戦論――戦後日本の核心 (atプラス叢書04)永続敗戦論――戦後日本の核心 (atプラス叢書04)感想
2013年3月の初版。東日本大震災と原発事故に触発されての執筆された1冊だけど、忘れかかっている自分がいる。1945年に日本が経験した犠牲と結果の対価を率直に見直すことなしに(敗戦を終戦、占領軍を進駐軍と呼ぶ類)進んできたことを筆者は考え直せと提起する。書中、福田恒存が提示した「親米保守派から見れば米国は日本をどんなことがあっても見捨てないという希望的観測であり、反米的進歩派から見れば米国は国益のために日本なしではやっていけないという絶望的観測への反感」という設問は猶思考停止の儘の今、答えが出ていない。
読了日:1月3日 著者:白井聡
日本の民俗 祭りと芸能 (角川ソフィア文庫)日本の民俗 祭りと芸能 (角川ソフィア文庫)感想
1952年から1997年までの間に撮影したものであるという。当然のことながら、今も継承されている祭礼もあるだろうし、廃絶転退したものもあるだろう。ただあとがきに筆者自身が書いている通り、その祭礼を継承してきた根底にある思い、思考回路は時代が変わってもそうそう変化するものではない。姿を変えて何らかの形で受け継がれていくはずである。ただそれを一気に封じて了うものがあるとすれば、急減な人口の収縮であり、それはすでに日本中で起こっていることでもある。この写真を見るにつけ、急激な変革期にいる自分を感じる。
読了日:1月3日 著者:芳賀日出男
差別の民俗学 (ちくま学芸文庫)差別の民俗学 (ちくま学芸文庫)感想
民俗学では「常民」という概念を振りかざす。貴賤を除いた庶民の意味で使われるのだが、世の中そんなに単純ではない。同和を始め、種々の階層(例えば、本家と分家、外来者、職業による貴賤などなど)が生活の中には存在している訳で、それを「スジ」といったり「ミチ」といったりする。筆者の説くように、故郷播州での体験を元に全国的に敷衍かするのは適切かどうかは別として、日本の地方にはそういう意識が現存することは事実だと感じる。移動や人口減少によってそんな意識、概念が薄れてきたとはいえ、今でも「根っこ」に座っているのを感じる。
読了日:1月3日 著者:赤松啓介
変格探偵小説入門――奇想の遺産 (岩波現代全書)変格探偵小説入門――奇想の遺産 (岩波現代全書)感想
直木賞の中で推理小説の一群が受賞作となっていることにかねてからどこか違和感があった。その点で個人的にはこの疑問を解明する一助になった。所謂、「純文学」の枠を超えた異界を描き出すためにはかつてこういう「変格探偵小説」の骨法を借りることが大いに役立ったのだ、と。谷崎潤一郎から江戸川乱歩、横溝正史を鼻祖としてエログロ、或いは耽美的な、機械的な、幻想的な、或る意味で不自然な世界を展開するためには有効なのだ。能の背骨を持つ夢野久作を経て、医学者の山田風太郎、さらには今の京極夏彦まで続く創作の群れを通観する1冊。
読了日:1月2日 著者:谷口基
なぜ時代劇は滅びるのか (新潮新書)なぜ時代劇は滅びるのか (新潮新書)感想
時代劇というコンテンツが衰亡に瀕しているのは周知の通り。筆者はその理由を視聴率競争だけに帰するのではなく、映画全盛期に粗製濫造したツケ、テレビの番組として魅力を失っていった理由、京都での製作現場の衰退、そして演じ手の減少、など縷々分析を試みる。その様は従来からの日本型組織が危殆に直面する姿と相似形になっている。滅びるべくして滅びるのか、はたまた目先の実利を優先する時代がそうさせるのか。筆者が具体的に役者名を挙げつらってまで、直言しようと奮闘する姿はどこかドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャを連想させる。
読了日:1月2日 著者:春日太一
短歌レトリック入門―修辞の旅人短歌レトリック入門―修辞の旅人感想
筆者は毎日歌壇選者、俵万智と同世代という。本書は元々はNHK出版の「短歌」の連載。直喩、隠喩、音喩(オノマトペ)などの説明は新鮮だった。それ以上に堂上和歌の時代の遺物かと思っていた枕詞、序詞、歌枕などの手法が今も生きているのが発見だった。本歌取り、翻案という項目に象徴されるように修辞には先行文芸の下敷きが必要な訳で、豊饒な世界を見るためにはそれなりの訓練が必要ということになる。本書はそんな世界を知る手がかりを見せてくれているように思える。言葉を生かした冒険にはなお無限の沃野が広がっているのを信じたい、と。
読了日:1月2日 著者:加藤治郎
画題で読み解く日本の絵画画題で読み解く日本の絵画感想
所謂、「お約束」の解説書です。寒山拾得も虎溪三笑も蝦蟇鉄拐も瀟湘八景も、商山四皓、三酸、四君子……。一定の規矩に基づいて描かれる訳で、その基礎知識がないと、無垢の隠人、文殊・普賢菩薩の化身もむさ苦しいただの妖怪のようにしか見えない訳です。写実とは別の世界ですが、日本の美を形作ってきたのも事実であります。堅苦しいようですが、基本が分かっているとパロディも分かる。本歌取りが分かる。そういう基礎知識を分かりやすく説明されている1冊です。ただもう少し、作例の充実をしてくれた方がWebの時代には親切だった気がする。
読了日:1月1日 著者:佐藤晃子
九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響感想
関東大震災後、朝鮮人(中国人)の虐殺があった。極限まで乾燥した木材が自然発火したような事態。東京という町で、否、その周辺も含めて、そういう歴史を秘めている地であることを忘れてはいけない。で、根源にあるのは人種差別だと筆者は説く。それ以上に改めて軽躁の気があることは自戒せねばなるまい。折口信夫は「平らかな生を楽しむ国びと」だと見ていた日本人が実は「一旦ことがあるとすさみきってしまう」といい、善良な市民の自覚がある芥川龍之介が野蛮な菊池寛を評して「真に善良なる市民であるのは兎に角苦心を要する」――と言う様に。
読了日:1月1日 著者:加藤直樹

読書メーター
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2015年01月01日

2014年12月に読んだ本

2014年12月の読書メーター
読んだ本の数:14冊
読んだページ数:4749ページ
ナイス数:306ナイス

地図で読み解く日本の戦争 (ちくま新書)地図で読み解く日本の戦争 (ちくま新書)感想
同じ方向の本に「外邦図」(中公新書、小林茂)があるものの、この本のよさはきちんと江戸時代末から終戦後まで縦覧している点。途中で何度も「鹵獲」という言葉が出てくるのが象徴的です。日露戦争の劈頭、鴨緑江渡河でも奉天会戦でも、露軍将校の死体から奪った地図がその後の作戦行動で如何に役立ったかが示される。逆に太平洋戦争中、南洋の島々の地図は未完成で餓島など敗退後に完成したという。地図というのは軍事行動をとる上で不可欠のものながら、旧軍の認識は低かった証しである訳で、この国の機構に通底する何かが隠れている気がします。
読了日:12月31日 著者:竹内正浩
四国遍路 - 八八ヶ所巡礼の歴史と文化 (中公新書 2298)四国遍路 - 八八ヶ所巡礼の歴史と文化 (中公新書 2298)感想
四国の遍路、自身の実感と今の諸相との間で違和感があった。中でこの本は丹念に享受史というか信仰の姿を丹念に追うことで、今の遍路の姿が何処から来たものかを示している。今でこそ当地では「お接待」という言葉が大手を振って歩いているが、実相は違う。ハンセン病への蔑視に代表されるように「ヘンド」は招かざる客という受け止めだったからだ。土佐新聞1886年5月8日付で植木枝盛が書いた「遍路拒斥すべし、乞丐逐攘すべし」と3日間に渡って論陣を張った姿の方が地元(というか高知)の本心に近い気がする。落差を埋める試みである。
読了日:12月31日 著者:森正人
世界国勢図会〈2014/15〉世界国勢図会〈2014/15〉感想
無味乾燥。でも安直な本のネタなのがすぐわかる。例えば少子高齢化の問題。「人口動態」の自然増加率がマイナスを示しているのは日本だけではない。伊、独や東欧諸国は人口が減少傾向だ。ブルガリアなんて−5.5。ただ、年齢別人口構成みると特異さが分かる。高齢者とされる65歳以上の比率は日本は25.1%。伊20.3%、独20.6%が目立つくらい。また都市人口割合。日本は93%と高い。都市と地方の差がかくも大きい国なのです。金融、財政などの指数をみると今の経済政策が適切なのか考えさせられる数字ばかり。考えながら読む1冊。
読了日:12月31日 著者:
お世継ぎのつくりかた 大奥から長屋まで 江戸の性と統治システム (ちくま学芸文庫)お世継ぎのつくりかた 大奥から長屋まで 江戸の性と統治システム (ちくま学芸文庫)感想
学術書ではないのでデータ的な裏付けが希薄な感は拭えないのだけど「お世継ぎ」作りという視点から社会を見た1冊。「地域と住民」(後には商工業活動者を含む)を指す「封」を継承するための「一夫多妻制」を旨とした武士階級と商工業の権益を相互に維持するための「株」を持続するためには「女系相続」の方が都合がいいと割り切った農工商階級と。特に前者の話題を縦軸にしながら、三都の経済的力学の遷移、大奥と表の差、大奥女性に支持された日蓮宗(不受不施派まで)の話、享保・天保の改革の意味などなど。派生するトリビアの部分がいい。
読了日:12月28日 著者:鈴木理生
へうげもの(19) (モーニング KC)へうげもの(19) (モーニング KC)感想
へうげものも気が付けばもう19巻でござる。遙けくも来たりつるものかは。この巻では加藤清正が物故。史実では1611年。主人公織部が死んだのが1615年。この漫画、この残り4年分をどう展開していくのか……。増えに増えてきた登場人物も少しずつ減っていく時期になったみたいで。中でやはり清正の描き方が秀逸。あと遠州の訣別の茶会、大人になったのだなぁ。
読了日:12月24日 著者:山田芳裕
夜這いの民俗学・夜這いの性愛論夜這いの民俗学・夜這いの性愛論感想
共産党講座派の元闘士が播州に潜行する中で、地域に沈潜、見て聞いてやった体験を元にした民俗学記。柳田國男が埓外においてきた分野に切り込んでいる。調査対象と目線の高さを同じにしているからこそ、書ける1冊である。フィールドワークもまさにこの域に達すれば以て銘ずべき。前段が農村なら後段では商家での実情が明かされる。今日、断片的に残っている習俗の原型を考える時に、欠け落ちてしまったパーツを補うことができる気がした。戦後の農地改革、高度成長期前までの社会とその後の間には大きな隔絶があるのを教えてくれる貴重な資料。
読了日:12月23日 著者:赤松啓介
「地元」の文化力: 地域の未来のつくりかた (河出ブックス)「地元」の文化力: 地域の未来のつくりかた (河出ブックス)感想
生煮えの米、みたいな本です。外側は柔らかいようで、芯が硬い。サントリーの賞典を受けた現場を調査しました、みたいな内容の本なのですが。文章をわかりやすく書く、という概念がない1冊でした。たぶん、言っていることはそう複雑ではないと思うのですが。職域に基づく社会だけではなく、地元の人との関係など、他者との関係を持った方がいいし、そういうのが地域の活性化には欠かせないよね、というような内容と理解したのですが。もう少し丁寧なフィールドワークがほしい気がしました。
読了日:12月23日 著者:苅谷剛彦,玄田有史,渡辺靖,小島多恵子,熊倉純子,神門善久,狭間諒多朗,吉川徹
昭和陸軍全史 2 日中戦争 (講談社現代新書)昭和陸軍全史 2 日中戦争 (講談社現代新書)感想
陸軍内の皇道派と統制派の権力抗争は2・26事件で後者が制することになるものの、今度は派内の抗争が続く。永田鉄山没後、ソ連との緊張関係を考え、国民党政権との妥協を模索する石原完爾と一撃屈服を目指す武藤章の対立だ。陸軍内の不一致のまま、内閣を巻き込み、事態は泥沼化する。ただいずれの局面でも資源を持たぬ国日本が帝国主義的に振る舞うにはどうしたら都合がいいか、得手勝手の論理が拭えない。行き着くところが大東亜共栄圏構想なのだけど。狂気と正気は紙一重。戦術的に勝てても戦略的に勝てない姿がどこか日本の当今に重なる。
読了日:12月22日 著者:川田稔
旧日本陸海軍の生態学 - 組織・戦闘・事件 (中公選書)旧日本陸海軍の生態学 - 組織・戦闘・事件 (中公選書)感想
旧軍の行動様式は日清戦争前に確立されていた。閩妃暗殺で現地が独断専行〜本省が追認、という姿が見える。満州事変の時と同じ図式ではないか。あと人事の恐ろしさ。旅順攻撃の第3軍、無能さを露呈した参謀連は軒並み最終的には将官に昇進。ノモンハン事件からインパール作戦へと転身した辻政信よろしく、復権した無為の人材が流す害毒は恐ろしい。あと、日本軍の戦死者の半分以上は餓死、栄養失調、海没死だったという数字。無為無策という言葉がこれに勝る証左はあるまい。ただ、川田捻の著作と比べると些か感性の古さを感じてしまったのも事実。
読了日:12月21日 著者:秦郁彦
血と薔薇コレクション 3 (河出文庫)血と薔薇コレクション 3 (河出文庫)感想
最後に巌谷國士が解説で書いていることが、かつて存在したこの雑誌の空気をよく伝えている。まず澁澤自身が離婚をし、独身であったこと。サッポロ一番をすすりながらの暮らしの一方でこういう文章が生まれた。第2に70年安保前夜だったこと。60年安保とは違い、高度成長期を挟んだ後のこの騒擾の季節にはまだ、戦争の記憶も残っていたと思う。第3に三島由紀夫の存在。戦後の文化の中である象徴的存在だったのだが、百尺竿頭なお一歩進んでしまう寸前だった時の空気を反映している。堂本正樹の男色演劇史についてはすでに取り上げたので割愛。
読了日:12月12日 著者:
血と薔薇コレクション 1 (河出文庫)血と薔薇コレクション 1 (河出文庫)感想
最初の方に収録されている三島由紀夫の「All Japanese are perverse」の一篇が出色。「意味論の森にさすらひながら、つひにはもつとも下劣で卑賤な分析家になるのである」との一文あり。最期を承知していれば何とか自身の中で収斂したいとの思いがにじむような気がしてならぬ。あと写真のモデルでは土方巽がいいなあ。
読了日:12月12日 著者:
血と薔薇―コレクション〈2〉 (河出文庫)血と薔薇―コレクション〈2〉 (河出文庫)感想
拝読しました。頭の中を仏文、耽美主義、自然主義、衒学的……という漢語が飛び交いました。中で稲垣足穂の一文は少し気になりました。
読了日:12月12日 著者:
ねこの秘密 (文春新書)ねこの秘密 (文春新書)感想
農耕文化が始まれば収穫物を荒らすネズミが人間の身近に出現し、それを追ってネコが生活圏に現れる。リビアヤマネコから「家畜」としてのイエネコに進化するまでの話が興味深い。福岡県新宮町の相島でネコの生態観察を重ねたという筆者らしく、知見や意見が何処か納得できる。この本を読みながら、久しぶりにネコを飼いたくなってしまった。真っ黒な尻尾の短いオスネコが。イカンイカン。そういえば今や「完全室内飼い」のネコが結構主流なのを知り、それにも驚く。凡百のネコ本の中では出色。
読了日:12月3日 著者:山根明弘
戦場の精神史  ~武士道という幻影 (NHK出版)戦場の精神史 ~武士道という幻影 (NHK出版)感想
伝統だと思っていることの多くが実は明治以降、あるいは戦後に形作られたということは多い。「武士道」もまた、そういう幻想の下に美化された概念だということを解き明かす1冊。中世の軍記文学を繙けば分かる通り、騙し撃ちだろうが、謀略だろうが、寝返ろうが勝った方が善である、という概念はごく自然である。争乱から縁遠くなった江戸時代に入って、「葉隠」のような記述が出現し、明治になって新渡戸稲造の「武士道」で決定的に作られた概念としての「武士道」。西欧の騎士道と重合することで実在したかのように見える。既製の通念は危うい。
読了日:12月3日 著者:佐伯真一

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