2011年10月10日

「男たちの絆、アジア映画」

男たちの絆、アジア映画 ホモソーシャルな欲望 [単行本] / 四方田 犬彦, 斉藤 綾子 (編集); 平凡社 (刊)

ホモソーシャルって言葉を初めて知った。

ちなみに定義もどきを引用すれば「ホモソーシャルとはホモフォビア(同性愛嫌悪)とミソジニー(女性嫌悪)を基本的な特徴とする、男性同士の強い連帯関係のこと。それ自体同性愛的なものながら、異性愛者同士で閉鎖的な関係を築く」というものであります。

宗教的に同性愛への忌避が強い米国の英文学者が提唱した概念です。儒教や武士道などの精神的な背景があるアジアの社会では、そのままこの論理を援用するのは難しいかなと思ったのですが、蓋然性は高いみたい。この本の中に所収の論の筆者たちは日本、中国、香港、韓国と各国の映画を題材に、俗に体育会系と言われる人間関係や家父長制、義理人情といった観念の背景を説明しています。

中でも編者の四方田犬彦、斉藤綾子の論が小生にはわかりやすかった。
日活アクション路線と言われた、赤木圭一郎&宍戸錠の「拳銃無頼帳」シリーズの結構の解説、高倉健と鶴田浩二の顔合わせによる「人生劇場 飛車角と吉良常」がエディプス的なライバル、高倉健と中村錦之助による「日本俠客伝」を兄弟分的な同志、さらに高倉健と池部良による「昭和残俠伝」をホモソーシャル的な構造と読み解くのは非常に興味深いものです。

邦画をこんな言葉で構造解析するというのは実に新鮮でした。ただ難点を言えば、ホモフォビアだのミソジニーだのと再三出てきても、自分の頭の中で用語の意味が定着せず、非常に生硬いものであったのは残念でした。

本の読み方として、序論の「男たちの絆」(四方田)を読み、次に末尾の「ホモソーシャル再考」(斉藤)を読んでから、上記の2論に進む方が読みやすいかもしれません。

基本的な認識として、「ホモソーシャル」と「ホモセクシュアル」は実に紙一重であり、後者が秘匿されてしまえば、前者に見えるということです。


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2011年09月19日

「非常時とジャーナリズム」

非常時とジャーナリズム (日経プレミアシリーズ) [新書] / 井上 亮 (著); 日本経済新聞出版社 (刊)

筆者は宮内庁の富田メモ(昭和天皇のA級戦犯の靖国神社合祀不快発言)を特報した記者。今もメモは公開されていないが、後に侍従の日記から、その発言が裏付けられたとされている。

そんな筆者が戦前の報道の体制を問い直した本。

「非常時」は戦前の一時期の流行語だった。週刊朝日の名編集長といわれた扇谷正造は、朝日の入社試験の作文の題として、この言葉だったことを振り返っている。その書き出しは「非常時には相撲が流行るという」というものだったそうだ。

1931年の満州事変に始まった日本の非常時。その時に冷静に次の世界を見据えていた報道人と、反面教師として国民を煽動した人と、計5人を取り上げる。

メンバーは東洋経済新報の石橋湛山、信濃毎日の桐生悠々、福岡日々の菊竹六皷、中外商業新報の清沢冽。そして国民新聞〜毎日新聞の徳富蘇峰。

いずれも評伝のつまみ食いのようなスタイルで紹介していく。
最近は忘れかけられている人物だけに、有益な手がかり書ではある。いわゆる満州国を初めとする植民地は放棄してしまえと論じた石橋湛山。その論拠は数字だ。放棄して貿易立国としての道を探れと説く。戦後の日本そのものだ。桐生悠々の「関東防空大演習を嗤う」。防空演習に励むより、爆撃を受けないことの方が大切で、そのための対策こそ大切と説いた内容。数年後、関東大震災の火災を手本に人工的な火災を起こしたアメリカ。今読めば、何も不思議はない。でも行きがかり上、誰も舵を切れなかった。

一方、徳富蘇峰。明治時代から輿論を煽り続けた。今、この人の本は講談社学術文庫くらいにしかないだろう。この人を取り上げることで、この本の「ワサビ」がきく。

ただ、惜しむらくはその原典(例えば「関東防空大演習を嗤う」)の原文を転載してほしかった。それと時代背景を知るために、年表がついていればもっとよかった。

ただ。入門書として上々。 筆者は客観報道の美名も下に、情報を垂れ流すだけの報道機関になってはいけないと戒める。考えること多、である。
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2011年09月01日

2011年8月に読んだ本。

8月の読書メーター

読んだ本の数:8冊
読んだページ数:2074ページ
ナイス数:43ナイス


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時刻表タイムトラベル (ちくま新書)時刻表タイムトラベル (ちくま新書)
「点と線」の犯人ではないが、時刻表は読むものです。で、それはそれでいいのですが、先行の類書から一歩でも二歩でも踏み出すところがないと。物価の比較に、シューマイ弁当をつかっているのが結構妥当かもしれないと思ったくらいかな。でもこの本に出てくる長距離急行に乗ってみたかったなあ。
読了日:08月31日 著者:所澤 秀樹
弔辞―劇的な人生を送る言葉 (文春新書)弔辞―劇的な人生を送る言葉 (文春新書)
本物の葬式での追悼の挨拶というのはやったことがないし、これからもすることはないだろう。でも、仕事では何人も追悼してきた。先輩に習ったこと。追悼のコツは2つ3つ、生前の本人ならではという逸話を見付けることだと。その点でしゃべることが商売の政治家の弔辞で、浅沼稲次郎を追悼した池田勇人と、橋本龍太郎をおくった小泉進一郎と、その質が大きく劣化しているのを知るだろう。お義理の弔辞まで1冊の本の中に収容したのは、この本の編集者の腕、なのだろうか。優れものは宿沢広朗への奥正之のものかな。規矩に則った一文です。
読了日:08月31日 著者:
男の絆 明治の学生からボーイズ・ラブまで (双書Zero)男の絆 明治の学生からボーイズ・ラブまで (双書Zero)
同性愛の問題は社会がどう受け入れるか、という視点が欠かせない。その点で本書はいま一つもの足らない。なぜか。戦国主従の気風を残した薩摩人の東京への流入が見逃せない理由になる。先行の講談社現代新書の本の方が立体的な解明になっている。この本は鶏姦条例とか、そういう文書に残っているところを手がかりにしているのが、非常に間怠い。何か、物足りない展開であるのは否めない。
読了日:08月23日 著者:前川 直哉
宝塚ファンの社会学―スターは劇場の外で作られる (青弓社ライブラリー)宝塚ファンの社会学―スターは劇場の外で作られる (青弓社ライブラリー)
本というのは人それぞれに読み解き方がある。小生はこの本は「ファン」という心理と、それを興行という枠組みの中でどう生かし、統御していくのか、という問題を解決する方法として、宝塚歌劇が伝える姿は興味深い。切符の捌き方という1点を見ても分かることだ。大相撲や歌舞伎といった興行の世界と比較するとき、宝塚歌劇の今の姿は先行の原初形なのか、あるいは進化形なのか。宝塚歌劇というのはいずれにせよすこぶる作為的、あるいは不作為的に、興行の枠組みとして完成しているのだなと。何より生きている組織という点で。
読了日:08月23日 著者:宮本 直美
青函連絡船ものがたり (朝日文庫)青函連絡船ものがたり (朝日文庫)
昔、朝日イブニングニュース社から単行本で出て、その後、朝日文庫に収まり、今は品切れなのかな。1954年の洞爺丸台風当時は、筆者は石狩丸の通信に携わり、洞爺丸遭難の第1報を受信した経験の持ち主。冷静な筆致と自身の経験と見聞に裏打ちされた親近感はえも言われぬ情趣をこの本に生み出しています。青函連絡船の誕生から廃止まで。その中でもエポックとなった洞爺丸台風の問題。単に交通手段の顚末記に収まらず、今の原発の問題などにも比すべき、組織の問題をも教えてくれているような気がします。実は再読。でも面白かった。
読了日:08月10日 著者:坂本 幸四郎
へうげもの(13) (モーニングKC)へうげもの(13) (モーニングKC)
気が付けばもう13巻。個人的にこのマンガとの出会いははっきりしている。2008年6月17日に放送されたNHKのBSマンガ夜話で取り上げられたからで、翌日、本屋に買いに走ったのであった。営々と続いてきたこと自体、奇跡だろう。13巻は豊臣秀吉死後から関ケ原前夜まで。最後が直江状で終わっている。織部の周囲に徘徊する人の立ち位置がいよいよ複雑怪奇になっている。どう収束させるのか。マンガという手段を通じて、この時代の空気を描くことに成功しているのが長続きしている理由だろう。あと数巻か。山田流の捌きが愉しみである。
読了日:08月03日 著者:山田 芳裕
セックスメディア30年史欲望の革命児たち (ちくま新書)セックスメディア30年史欲望の革命児たち (ちくま新書)
大学時代は1980年代前半。社会人になってポケベルを持たされ、ポケベルに文字が出るようになり、仕事の現場では肩から提げる携帯電話が登場。ケータイとインターネットの時代に。情報ツールはつねに性風俗と裏表で、アメーバの触手のよう。第1線につねにいたであろう筆者の体験記。泣かせるインタビュー記事もあります。ともかく、筆者の体験が行間ににじんでいるのは味ですな。再版という本ではないけど、今の時代で切り取った1冊であります。
読了日:08月03日 著者:荻上 チキ
地図で読む戦争の時代地図で読む戦争の時代
筆者と小生は1歳違い。小生も国土地理院発行の5万分の1地形図を一時、買いまくった時代があったので懐かしい。当時は地形図の基本が2万5千分の1に変わり、5万分の1はまだ墨版、3色、4色の3種類があった時代。墨版の手作り感が本当に懐かしかった。あんな地形図はもうないですね。戦時改描の件。岩波写真文庫にある「地図の知識」という本を見れば、職人芸であったことが分かります。稚拙な改描は意図的であるにせよ、職工不足という側面がつよかったのではないでしょうか。ペンに烏口なんて遠い昔。でも忘れてはいけない歴史の一コマです
読了日:08月01日 著者:今尾 恵介

読書メーター
posted by 曲月斎 at 01:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年08月03日

「へうげもの」第13服。

へうげもの(13) (モーニングKC) [コミック] / 山田 芳裕 (著); 講談社 (刊)
気が付けばもう13巻である。

このマンガとの出会いははっきりしている。
2008年6月17日に放送されたNHKのBSマンガ夜話で取り上げられたからで、翌日、焼津の谷島屋だったか、藤枝の本屋かに買いに走ったのであった。まだ、4巻くらいまでだったか。

ともかく営々と続けてきたこと自体、今となっては奇跡だろう。山田芳裕氏は作品を途絶してしまうので有名な作家だったから。

で、13巻は豊臣秀吉死後から関ケ原前夜まで。最後が直江状で終わっている。
相変わらず古田織部は織部なのだけど、その周囲に徘徊する人との立ち位置がいよいよ複雑怪奇になっている感じ。そして、どう収束させるのか。

時にこの本について岩波の月刊誌「読書」にも1番目の随筆でこのマンガが取り上げられていたのだけど、マンガという手段を通じて、この時代の空気を描くことに成功しているのがやはり長続きしている理由ではないだろうか。

あと1巻か2巻か。最後までどうなるのか。山田流の捌きが愉しみである。
posted by 曲月斎 at 23:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「セックスメディア30年史」

大学時代は1980年代前半。社会人になった時が1984年で改正風営法直前。
いきなりポケベルを持たされ、いつの間にか鳴るだけだったポケベルに文字が出るようになり、仕事の現場では肩から提げる携帯電話が登場。
そうこうするうちに2度目の風営法の改正があり、世の中はケータイとインターネットの時代に突入していく。

セックスメディア30年史欲望の革命児たち (ちくま新書) [単行本] / 荻上 チキ (著); 筑摩書房 (刊)
これらの情報ツールはつねに性風俗産業と裏表で、アメーバが常に触手を伸ばしていく感じで広がっていく。
その第1線につねにいたであろう筆者の体験記でもある。

ただ、テレクラ。ありましたねえ。出会い系サイト。これもありました。ま、この辺は同時代だったけど利用の経験はない。ともかく電話ボックス(これも今はないね)がビラでいっぱいだった。
大学時代にかぶるビニ本。今はもう定年まで指折りの先輩が「おお、裏本だぁ」って、持ってきましたな。芳賀書店。今でも神保町を通るたびに懐かしく見上げております。

この辺までですね。分かるのは。アダルト動画。最近、外為先物取引とか、ビデオの貸し出しとかをやっているDMMが出てきたり、新たなビジネスとして確立していく姿にはたくましいものを感じますな。そして最後の方に出てくる自慰用の商品開発の話。実に泣かせるインタビュー記事であります。

ともかく、筆者の体験が行間ににじんでいるのは味ですな。

再版という本ではないけど、今の時代で切り取った1冊であります。
posted by 曲月斎 at 18:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「地図で読む戦争の時代」

地図で読む戦争の時代 [単行本] / 今尾 恵介 (著); 白水社 (刊)
筆者と小生は1歳違い。
小生も国土地理院発行の5万分の1地形図を一時、買いまくった時代があったので懐かしい。
当時は地形図の基本が2万5千分の1に変わり、5万分の1はまだ墨版、3色、4色の3種類があった時代。2万5千分の1の発行が順次進められていた時代。航空測量に基づく等高線の美しさと同時に、墨版の手作り感が本当に懐かしかった。
あんな地形図はもうないですね。

で、この本で取り上げられている戦時改描の件。
岩波写真文庫にある「地図の知識」という本を見れば、職人芸であったことが分かります。
稚拙な改描は意図的であるにせよ、職工不足という側面がつよかったのではないでしょうか。
ペンに烏口なんて遠い昔。でも忘れてはいけない歴史の一コマです

この本を探しに出掛けたら、古今書院の雑誌「地理」がまだ健在であったのが驚きだったこと。そして

地図を歩く (1974年) [−] / 堀 淳一 (著); 河出書房新社 (刊)

地図を歩く (1974年) [−] / 堀 淳一 (著); 河出書房新社 (刊)
の2冊の本を思い出した。
posted by 曲月斎 at 00:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年08月02日

2011年7月に読んだ本。

7月の読書メーター
読んだ本の数:13冊
読んだページ数:3654ページ
ナイス数:42ナイス


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戦前日本の「グローバリズム」 一九三〇年代の教訓 (新潮選書)戦前日本の「グローバリズム」 一九三〇年代の教訓 (新潮選書)
講談社現代新書で、新鮮な切り口を提示してくれた筆者なのだが、本篇はあまり妙味を感じなかった。軍部一辺倒の時代にもこんな人がいて、こんなことを考えていたという点綴に過ぎない感じがするから。筆者は新書や続刊も含めて3部作仕立てでの構成というのだが。「日本はなぜ戦争を始めたか」とか「石橋湛山評論集」を読んだ時のような、知的な興奮には欠ける気がします。「がんばりましょう」印かな。ちなみに各章の末尾に要旨が太字で印刷してあります。これを読んで納得したら購入してはどうでしょうかね。
読了日:07月17日 著者:井上 寿一
夕映え天使 (新潮文庫)夕映え天使 (新潮文庫)
表題作の「夕映え天使」と「切符」「琥珀」の3篇は従来からの浅田次郎風の人情短編。「泣かせの浅田」の本領だろう。セピア色の東京を描かせたら天下一品、舞台の選び方も上手い。それより、筒井康隆風というか、星新一風の展開になる「特別な一日」が新鮮。随筆での筆の躍りが乗り移ったような仕立てで楽しい。「丘の上の白い家」は井上ひさしの「十二人の手紙」を連想させるような落とし方。体験と創作の虚実皮膜の間を行き交う話の展開となる「樹海の人」は一番滋味豊かな感じ。この3篇、いかにも手練れの筆捌きと相俟って結構でした。
読了日:07月17日 著者:浅田次郎
知的シングルになるためのゴルフ語源辞典 (日経プレミアシリーズ)知的シングルになるためのゴルフ語源辞典 (日経プレミアシリーズ)
あとがきにある最後の1文がすごく気になります。「久しぶりにゴルフの本を書いたわけだし、誘いも多くなるだろうから、真剣に4回目(のシングルハンディキャップ)を狙おうかとも考えている」。別に悪意がある訳でもない。でも何かゴルフに寄生(パラサイト)してきた筆者の底意が見えるようで好感が持てない。ゴルフィングというのはそういうものではないのではないかなあ。語源自体は示唆に富むものもあり、改めて原書に当たってみたくなる内容。この手で品のいい読み物がゴルフには少ないことが寂しい。
読了日:07月14日 著者:田代 靖尚
海軍くろしお物語―温故知新ちょっといい話 (光人社NF文庫)海軍くろしお物語―温故知新ちょっといい話 (光人社NF文庫)
ある読者層を想定して、その読者向けに書いた原稿というのは、部外者が読むと違和感をぬぐい切れぬ時がある。この本もそんな1冊。筆者は52期海兵卒のエリートで、任官の経歴は空母「瑞鶴」の運用長として乗り組み。終戦は舞鶴鎮守府副司令官で迎えた。原稿は「東郷」なる雑誌に寄稿したもの。読者層は当然のことながら想像できる。だからという訳ではないけど、読んでいて何か肌触りが違う、という感覚が拭いきれなかった。別にその書きぶりが鼻につく、という訳ではないのだけど。
読了日:07月14日 著者:福地 周夫
原色 日本島図鑑―日本の島433有人島全収録原色 日本島図鑑―日本の島433有人島全収録
島と言ってもさまざまござる。1つの島で半ページ〜4ページ。写真に地図に原稿にと、山盛りだくさんの内容だ、といいたいけれど、索引に使うにはいい本かも。地図で見付けたり、ふと出会ったり。そんな時にどんな島、という手がかりを探す……。みたいな感じの利用法かなあ。ただ致命的な欠陥を。本土ないし、陸地との位置関係が分かる図がないと、一つひとつの島のイメージがわきません。ま、今後もちょこちょことは眺めると思いますが。
読了日:07月14日 著者:加藤 庸二
レコード・コレクターズ 2011年 07月号 [雑誌]レコード・コレクターズ 2011年 07月号 [雑誌]
「レココレ」なる雑誌を初めて買いました。正直に言うと。この雑誌はいわばレコード、CDの書誌学誌のような本なのですね。すこぶる興味深く読みました。けど、日常的に想定している読者はどんな人なのだろう。突然、横組みのページが始まっていたり、巻の後ろの方には「藤山一郎生誕100周年記念CD」の解説があったり。次号はYMO特集らしいです。毎月買う方という層が今ひとつ、想定できないままに終わりました。もちろん、雑誌の内容は文句なぞありませんが。
読了日:07月13日 著者:
月夜の記憶 (講談社文芸文庫)月夜の記憶 (講談社文芸文庫)
吉村昭という人はやはり戦争体験と結核を患ったという体験が文学を志す柱になっていたんだということがよく分かる本です。「見物人」のように戦争を見てきて、終戦後に価値観の大きな変動があったとき、あの時は何だったのだろうという疑問、そして結核。昭和20年代には死の病であったわけで、肋骨切除術というすこぶる野蛮な方法で切り抜けた体験。これをどう総括していくのか。その自問自答が営々と随筆という形で展開されます。やはり興味深いのは5部構成の1〜3。解説の秋山駿が「吉村昭の代表作」とまで言っていますが首肯できます。
読了日:07月11日 著者:吉村 昭
私家版 差別語辞典 (新潮選書)私家版 差別語辞典 (新潮選書)
「私家版」と銘打つ意味がよく分かる本です。筆者の識見の範囲でどういう意味なのかを説いています。以前に「被差別の食卓」という本でこの著者には接していますが、少し今回は「薄味」です。1部が様々な呼称で呼ばれた被差別の実態と意味、2部が身体障碍者や精神疾患の方々への差別用語、3部が民族的な差別の用語の3部立てです。ただ1項目ごとが短すぎて、短絡的な差別用語の理解を生まないかを危惧します。ただ救いは筆者の添える「ミニルポ」です。差別用語ということで蓋をすることが問題の解決には直結しない事を教えてくれます。
読了日:07月07日 著者:上原 善広
対談集「気骨」について対談集「気骨」について
読了日:07月03日 著者:城山 三郎
渡辺保の歌舞伎劇評渡辺保の歌舞伎劇評
読了日:07月03日 著者:渡辺 保
数学の考え方 (講談社現代新書 15)数学の考え方 (講談社現代新書 15)
読んだ本に仕分けますけど、やはり「チャート式」のトラウマは脱することができません。横組みの細かい活字はそれだけで畏怖を覚えます。死してなお脱帽するに如かず。
読了日:07月03日 著者:矢野 健太郎
戦国誕生 中世日本が終焉するとき (講談社現代新書)戦国誕生 中世日本が終焉するとき (講談社現代新書)
面白い本です。ある意味で体面や前例を重視する枠組みに対し、事実の方が先に進んでしまう。そんな社会のひずみを一生懸命謎解きしている1冊です。それも室町時代で。今の日本文化の骨格が北山文化に起源を持つと言われますが、今の国家の意思決定もその辺りに淵源を持つような気がしてきました。たぶん、筆者の書きたかったことも、そういう前例や習慣に基づいた意思決定ではダイナミックに動く現実には対処できないということを書きたかったのでは。とてもではないですが、日本系譜辞典とか、尊卑分脈がなければ読めない本ですけど。そう読めば。
読了日:07月03日 著者:渡邊 大門
ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)
見たことがあるでしょう。街角で。「イエスは我々の罪を背負って天に召されたのです」みたいな回答宣伝を。大いなる疑問。なぜイエスは磔刑に処せられたことで人類の罪が消えたのか? なぜイエスは神の子であり、神と精霊と一体なのか。一神教の神とはどんな存在なのか。当たり前の日本人が持つ疑念をある意味で解明してくれる良著です。全部の疑念が解明されている訳ではないし、日本の浄土真宗辺りの教義の方がよほど一神教だったりするのも興味深いのですが。ともかくいいホンです。対話形式でボケと突っ込みの役割分担よろしきを得ています。
読了日:07月03日 著者:橋爪 大三郎,大澤 真幸

読書メーター
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2011年07月19日

「夕映え天使」

夕映え天使 (新潮文庫) [文庫] / 浅田次郎 (著); 新潮社 (刊)

浅田次郎は長編小説もさることながら、短編の妙手である。
この作品集は2008年新潮社刊。文庫まで下りてくるのを待ってよかったかな。
さて表題作の「夕映え天使」と「切符」「琥珀」の3篇は従来からの浅田次郎風の人情短編。
「泣かせの浅田」の本領だろう。
特に「切符」にあるように、セピア色の東京を描かせたら天下一品、舞台の選び方も上手い。
あと「夕映え天使」の後半の舞台が軽井沢。
東京からの距離感が上手い、んだな。

それより、筒井康隆風というか、星新一風の展開になる「特別な一日」が新鮮。
随筆での筆の躍りが乗り移ったような仕立てで楽しい。
途中まではどうでもいい話のように見せて、土壇場でその構成が分かる。
それまでの小さな出来事がすべてつじつまが合ってくる。
井上ひさしの「十二人の手紙」を連想させるような落とし方だ。

「丘の上の白い家」はその不気味さ、どこか夢野久作の「少女地獄」を連想させる。
末尾の手紙文の部分、どうつなげるのかが、今ひとつな気がするのだけど。

「樹海の人」は一番滋味豊かな感じ。体験と創作の虚実皮膜の間を行き交う話の展開となる。
東山魁夷の日本画みたいな感じ。湿度の高い日本、朦朧体というのは日本画の手法だけど、この1篇はそんな感じ。

上記の3篇、いかにも手練れの筆捌きと相俟って結構でした。

ただ、年月を隔てて読み直して感じるものが変わるかと言われれば、そういうことはあるまい、という感じも残ります。
posted by 曲月斎 at 00:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年07月04日

6月に読んだ本。

6月の読書メーター
読んだ本の数:17冊
読んだページ数:4167ページ


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新・高野百景〈其の3〉訪れるごとに新しい高野山に出会う新・高野百景〈其の3〉訪れるごとに新しい高野山に出会う
読了日:06月28日 著者:山口 文章,藤原 重夫
新・高野百景〈其の2〉世界遺産・高野山の歴史と美しさにふれる新・高野百景〈其の2〉世界遺産・高野山の歴史と美しさにふれる
読了日:06月28日 著者:山口 文章,藤原 重夫
新・高野百景―四季折々の高野山の風景を歩く新・高野百景―四季折々の高野山の風景を歩く
読了日:06月28日 著者:山口 文章,藤原 重夫
あっと驚く船のリサイクル―船舶再利用のための知られざるプロセス (光人社NF文庫)あっと驚く船のリサイクル―船舶再利用のための知られざるプロセス (光人社NF文庫)
読了日:06月22日 著者:大内 建二
あっと驚く船のリサイクル―船舶再利用のための知られざるプロセス (光人社NF文庫)あっと驚く船のリサイクル―船舶再利用のための知られざるプロセス (光人社NF文庫)
船というものは、時に生命体のような動きをする。戦時標準船が戦後の世界を巡り、また、かつては造船王国、海運王国とも自称した日本が歩んだ道。最後はリサイクルされる船の話を再提起することで、船のもつ不可思議さを説いている。雑駁なのはこの筆者の特色。逆さ柱と諦めるしかない。
読了日:06月22日 著者:大内 建二
地震の日本史―大地は何を語るのか (中公新書)地震の日本史―大地は何を語るのか (中公新書)
古文書に残る地震、あるいは地層、地形に残る地震。それぞれに地震列島と言われる日本の歴史の一部である。日本の歴史学はどちらかといえば、法制史中心の歴史観である。しかし、官がどうであれ、法律がどうであれ、現実に起こっていることを受け止める民がいるわけで、この視点に基づいて話の進め方が得心できる。ただ、最後の方はかなり駆け足。火事場働きの感もある。大地は動乱期に入ったという結論なら、別に目新しいところはないのである。
読了日:06月22日 著者:寒川 旭
「富士見」の謎――一番遠くから富士山が見えるのはどこか?(祥伝社新書239)「富士見」の謎――一番遠くから富士山が見えるのはどこか?(祥伝社新書239)
よい子の「羅列本」の典型。富士山か可視できるエリアを地図処理ソフト「カシミール」に掛けて、どこなら見える、どこからは見えないとやっている本です。何が一番の不満か。強いていえば、各写真の撮影者らの協力を得て、しっかり写真を掲載すること、そしてえもっと正確細密な地図を掲載すること。漠然とした出来では羅列本の体もなしてはいないような気がします。もう少し、丹念にフィールドワークを報告するテクニックが欲しいですね。もっとも今はなき「岩波写真文庫」のような構成だったら面白かったかも。
読了日:06月20日 著者:田代 博
途中下車の愉しみ (日経プレミアシリーズ)途中下車の愉しみ (日経プレミアシリーズ)
日経の夕刊連載を1冊にまとめた本だそうだが、新聞の紙幅なら目立たず、味を残したような構成が、いざ本になると、何とも物足りない。何で途中下車して何を見聞したかったのか、何が楽しかったのか。全く分からない。駅の紹介も物足りないし、途中下車する動機も不明。書籍化するのなら、きちんと加筆するべきである。非常に残念。そもそもが「途中下車の愉しみ」の書名にある、愉悦がまったく分からず独りよがりなのが口惜しい。
読了日:06月17日 著者:
鉄道と日本軍 (ちくま新書)鉄道と日本軍 (ちくま新書)
鉄道が軍の輸送の主力であったことは自明の理で、明治に入って富国強兵を急いだ当時の日本政府の思いも当然一致する。この視点で鉄道の話を読み解いているのだけど、類書「鉄道ゲージが変えた現代史−−列車は国家権力」(中公新書、井上勇一)の方が出来が良かった気がする。この本はこの本を骨にその隙間に当たる国内事情を各種文献や記録で埋めていった本、という感じ。
読了日:06月17日 著者:竹内 正浩
「大相撲八百長批判」を嗤う「大相撲八百長批判」を嗤う
読了日:06月16日 著者:玉木正之
暴力団追放を疑え (ちくま文庫)暴力団追放を疑え (ちくま文庫)
筆者の「近代ヤクザ肯定論」は非常に興味深く読んだ。なぜなら地に足のついた話の展開ぶりだったからだ。だが、この本も同じ論調ながら、論理の展開が少し批判のための批判になっている気がする。確かに「正論」であり、文句はないのだけど、正論をぶつ時こそ、肩の力を抜くべきタイミング、というのがよく分かる。「セイロンは紅茶だけにしておけ」というのは我が師匠の教えである。
読了日:06月16日 著者:宮崎 学
昭和の藝人 千夜一夜 (文春新書)昭和の藝人 千夜一夜 (文春新書)
昭和の藝人のゴシップ集。吝嗇だったり、好色だったり、あるいは気っ風が良かったり。どれも紹介している逸話が小気味いい。ページにしてわずか2〜3ページなのだが。過不足感なく、視線もやさしい。と同時に筆者の見聞、好奇心を持った分野の広さを改めて思う。あまり好きな評論家ではなかったのだけど。嫌なヤツを嫌と書くにしても、厭みが残らないのが不思議である。
読了日:06月16日 著者:矢野 誠一
芸と人―戦後歌舞伎の名優たち芸と人―戦後歌舞伎の名優たち
筆者は国立劇場の元関係者。全くの別世界から梨園に入った訳で、その視点はどこか覚めている。言ってみれば身内の視点。個人的には渡辺保の論調、というか口調の方がなじみやすい。役者のエピソードを知りたい、幕の内側の逸話を、という向きには向いているかも。ただ、実川延雀とか、先々代の三津五郎、勘弥など、ほかの本では読めなかった逸話が出てきたのは楽しかった。
読了日:06月15日 著者:織田 紘二
江戸のお金の物語 (日経プレミアシリーズ)江戸のお金の物語 (日経プレミアシリーズ)
読了日:06月07日 著者:鈴木 浩三
江戸のお金の物語 (日経プレミアシリーズ)江戸のお金の物語 (日経プレミアシリーズ)
すこぶる刺激に富んだ本です。お勧め。江戸時代は「江戸の金遣い、上方の銀遣い」という言葉以上に、金、銀、銅の三本位制の金融制度であったこと、その取引には各都の両替商の株仲間が大きな役割を果たしていたこと、そして金貨の改鋳は単に幕府の貨幣切り下げではなく、長崎や幕末の開国後の貿易に伴う内外格差の是正の意味もあったということ−−などなど、非常に筋立てが面白いです。話の展開も妙で、素人でも追い付いていける構成。筆者の力量に感心。と昨今話題の相撲の親方株の意識を一つ説明してくれる本かも知れません。
読了日:06月07日 著者:鈴木 浩三
沈黙の宗教――儒教 (ちくま学芸文庫)沈黙の宗教――儒教 (ちくま学芸文庫)
筆者の言いたいことは一つ。仏教徒といっても日本や朝鮮半島、中国の仏教の中には儒教に基づく先祖崇拝の儀礼があり、これはインドで生まれた時の仏教、輪廻転生を繰り返すとする仏教の考え方とは異質なものであることをこれでもかというくらい、繰り返し説いている。日本では儒教色した仏教がさらにアミニズムの色どりを受けて変質していったこともよくわかる。抑えた口調ながら、ふふーんと思うところの多かった1冊。
読了日:06月07日 著者:加地 伸行
死体入門 (メディアファクトリー新書)死体入門 (メディアファクトリー新書)
死体入門という題名はおどろおどろしいけど、法医学、病理学などなどの分野に関連する学問であることを教えてくれます。記述はまあ穏当。際どい写真などはない品の良さです。ただこういう基礎系の学問を修める医師が減っていることも事実で、それはそれでこの筆者が一生懸命啓蒙したい部分でしょう。個人的にはミイラの話が多すぎ、という感じも。あと「ハエ」という生き物は実にすごいものだということも改めて思い出しました。
読了日:06月07日 著者:藤井 司

読書メーター

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2011年06月02日

5月に読んだ本。

いや、ひどいもんです。激減。というか、読んだけど書き込むのがおっくうで書いていない本も数冊はあるのだけど。本が読めないと何か生活が荒む感じがする。

5月の読書メーター


読んだ本の数:5冊
読んだページ数:1495ページ

国鉄/JR列車編成の謎を解く―編成から見た鉄道の不思議と疑問 (交通新聞社新書)国鉄/JR列車編成の謎を解く―編成から見た鉄道の不思議と疑問 (交通新聞社新書)
ま。よくある系統の本です。でも列車を編成して運行するということは、プラレールのおもちゃとは違い、ブレーキのかかる車両、あるいは電源器のある車両をうまく組みあわせ、なおかつ路盤のこと、動力源のことを考えながら、編成しなくてはいけないというのがよくわかりました。筆者が冒頭に指摘している通り、鉄道が新橋〜横浜で開業してこの方、先の寝台特急の富士・はやぶさの廃止で、東京駅から機関車が客車を引っ張るという編成が消えたという指摘は面白いです。
読了日:05月26日 著者:佐藤 正樹
国鉄列車ダイヤ千一夜―語り継ぎたい鉄道輸送の史実 (交通新聞社新書)国鉄列車ダイヤ千一夜―語り継ぎたい鉄道輸送の史実 (交通新聞社新書)
再三の事故や事件が起こった組織ほど、その再発に懸命になるもんです。その点で船舶と鉄道はミスの集大成みたいなものです。その中でどう鉄道輸送を安全に進め、大量に速く、旅客や荷物を移送するのかというテーマに取り組んだ人々の苦闘の歴史です。勿論、コンピューターなんてなかった時代の。当時、鉄道電報や鉄道電話が果たしていた役割、各指令が藝のように捌いていたサマを見ると。頭が下がります。ただ、今日の経済優先の世の中にあって、時間のかかる長距離列車の復活はぜひ果たして欲しいことであります。かつての京都〜下関のような。
読了日:05月25日 著者:猪口 信
近代ヤクザ肯定論 山口組の90年 (ちくま文庫)近代ヤクザ肯定論 山口組の90年 (ちくま文庫)
山口組を題材にヤクザ稼業100年史みたいな感じの内容。前半は港湾荷役前史から終戦後の混乱から顔役としての存在を確率するまで。正業としての港湾荷役業と芸能興行が成功した時代から、警察というか「反社会的勢力」として追放され、地域社会との結びつきを失うと同時に、情報のネットワークを生かしての資本主義社会での「掃除屋」稼業に転身していく様子を。そして暴対法以降の「企業舎弟」からの進化を。さらに在日朝鮮人や被差別部落民と暴力団の関係まで言及して余すところなし。実によく出来た本です。お勧め!!。★★★★★。
読了日:05月24日 著者:宮崎 学
「清張」を乗る―昭和30年代の鉄道シーンを探して (交通新聞社新書)「清張」を乗る―昭和30年代の鉄道シーンを探して (交通新聞社新書)
視点は面白いのだけど、どこからどこまでが引用なのか、話が次に進んでいるのかがすごく分かりづらい。連載だったのか、話に重複感もある。いい狙いなのだけど、すごく読みづらい本です。企画自体は面白いし、作者の視点には拍手。
読了日:05月19日 著者:岡村 直樹
日本史再発見―理系の視点から (朝日選書)日本史再発見―理系の視点から (朝日選書)
個々の数字を元にして推論していく。この手法は去年ベストセラーになった「デフレの正体」に通じるものがあります(というかこの本の方が先なのだけど)。前半は車の文化に就いての論考、後半は磐城相馬藩の人口動向をカギに米の収穫高との相関関係の論考。どちらも実数を根拠にしての立論なので、非常に説得力があります。特に後段の人口動向と年貢の増減の考察は、今の少子化社会の問題とも共通するものがあり、ちょっと前の本ですけど、今でも示唆に富んでいると思います。良著。
読了日:05月18日 著者:板倉 聖宣

読書メーター
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2011年05月25日

「日本史再発見」

日本史再発見―理系の視点から (朝日選書) [単行本] / 板倉 聖宣 (著); 朝日新聞 (刊)

個々の数字を元にして推論していく。

この手法は去年ベストセラーになった「デフレの正体」に通じるものがあります(というかこの本の方が先なのだけど)。

前半は車の文化に就いての論考です。なぜ平安時代には牛車の文化がありながら、江戸時代には大八車やベカ車(上方の大八車)が普及しえなかったのか。これは馬借を中心とした既得権益を持つ職業層への幕府の配慮だった、という論考はとても面白いです。
そして車の生産台数を対数グラフで調べ、日、米、韓の比較をする。飛躍的に生産量が伸びる時期は実は世間の常識よりずっと前にその萌芽があるという指摘は興味深いものです。

後半は磐城相馬藩の人口動向をカギに米の収穫高との相関関係の論考。どちらも実数を根拠にしての立論なので、非常に説得力があります。新田開発が行き着くところまで行くと、生産量は頭打ち、まして人口増が止まり、耕作放棄地が生まれる、さらには人口の減少。つまりは労働力の減少につながるわけで、特に後段の人口動向と年貢の増減の考察は、今の少子化社会の問題とも共通するものがあり、ちょっと前の本ですけど、今でも示唆に富んでいると思います。

表題の西南雄藩との比較の部分は少し食い足りないのですけど、それ以外、実数を使って目の前の現象を分析していくという手法は本当に「デフレの正体」と同じ手法で説得力があります。
ちょっと古い本で版元品切れみたいだけど、すこぶる良著。
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「近代ヤクザ肯定論」

山口組を題材にヤクザ稼業100年史みたいな感じの内容。

近代ヤクザ肯定論 山口組の90年 (ちくま文庫) [文庫] / 宮崎 学 (著); 筑摩書房 (刊)

前半は港湾荷役前史から終戦後の混乱から顔役としての存在を確立するまで。

戦後に正業としての港湾荷役業と芸能興行が成功した時代から、海上輸送の形態変化(機械化、コンテナ化)により荷役専門の労務者が不要になっていく、港の革命と同時に、警察というか資本側からの「反社会的勢力」という烙印とともに、表舞台から追放され、地域社会との結びつきを失うのが高度成長期。

バブル経済へ社会が歩み始めると、情報のネットワークを生かしての資本主義社会での「掃除屋」稼業に転身していく様子を描く。そして暴対法、改正暴対法以降の「企業舎弟」からの進化を追う。

ある意味で、「ドロップアウトした人間の受け皿がない」=「セーフティネットのない社会」ということもできる。で今日的な暴力団の存立基盤と、NPOなど簇生する諸団体の発想が類似しているとの指摘は見事だろう。

さらに長年にわたって暴力団への人材供給源として在日朝鮮人や被差別部落民があったが、暴力団の関係まで言及して余すところなし。

裏の社会の論理だけで話を進めるのではなく、西欧の社会学用語や、一般社会の動きとリンクさせてきちんと考察が進められているので、単なる仁俠の本ではないことも、お勧めする理由です。
実によく出来た本です。お勧め!!。
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2011年05月04日

4月に読んだ本。

4月の読書メーター
読んだ本の数:10冊
読んだページ数:3079ページ

戦前昭和の社会 1926−1945 (講談社現代新書)戦前昭和の社会 1926−1945 (講談社現代新書)
今の世間を見回すと既視感にとらわれる。いつの風景なのか。それは大正末期から太平洋戦争開戦前まで。今の姿と瓜二つに見える。筆者は3点を指摘する。1にアメリカ化、2に格差社会、3に大衆民主主義である。3つのキーワードに収斂される種々の現象を点綴していく。デパート、アパート、映画、モガ・モボの出現、家の光やひとのみち(現PL教団)の出現などなど。カリスマの出現(戦前に於いては近衛文麿首相誕生)を待ち望む空気。今の日本はこの段階まで来ている気がする。この相似形ぶりにある種の危惧を覚えるのは小生だけではあるまい。
読了日:04月23日 著者:井上 寿一
あの戦争と日本人あの戦争と日本人
幕末から日清、日露の両戦役を経て太平洋戦争に突入していく日本。司馬遼太郎は軍部の「統帥権」を「魔法の杖」と呼んだ。半藤は掘り下げて、「軍部大臣現役武官制」「帷幄上奏権」の2つにスポットを当てる。統帥権は天皇の大権とされた一方、前者は気に入らない内閣なら陸、海軍は大臣を推薦しなかったり、辞任させさえすれば内閣は総辞職に陥る。また後者も参謀本部や軍令部は天皇に直接裁可を仰げば、陸海軍大臣に事後報告で可、とする制度です。確かにこの3振りの宝刀は実に有効とよくわかります。さてどこかで空気が今、似てはいませんか
読了日:04月20日 著者:半藤 一利
料理のお手本 (中公文庫―BIBLIO (B18-24))料理のお手本 (中公文庫―BIBLIO (B18-24))
「きょうの料理」で「お塩は大さじ何杯ですか」と聞かれて「そりゃ加減ですわ」とこたえていたような記憶が。うまいと思う舌のそれぞれを認めつつ、ひとつの物差しも示していたように思う。口調をそのまま文章にしたような1冊。読み直してもおいしそうに思う。
読了日:04月19日 著者:辻 嘉一
料理歳時記 (中公文庫)料理歳時記 (中公文庫)
タケノコをゆでるのに、再読。そのつもりが余計なところまで読み進んでしまう。口調の歯切れのよさ、所作、立ち居振る舞いの品。筆者のようなああいう人はいなくなってしまったなあ。
読了日:04月19日 著者:辰巳 浜子
能ナビ ~誰も教えてくれなかった能の見方~能ナビ ~誰も教えてくれなかった能の見方~
今までにない能の解説書でしょう。能を演劇として見るという立場は観世寿夫が提唱して以来の考え方ですが、他の演劇の見聞やテキスト(能本)の読み込みに依って生まれる見識などを具体的に案内してくれる本はなかったからです。総合藝術という言葉に踊って観ることが難しくなってしまいがちな能を芝居として読み解いています。文章は「渡辺節」なのですけど、自身が能ににじり寄っていった軌跡、経験が生きています。専門用語を遣わないで、明快にドラマを分解してくれれば作者の世阿弥や元雅、金春禅竹、観世小次郎信光も泉下で喜んでいるのでは。
読了日:04月12日 著者:渡辺 保
センセイの書斎---イラストルポ「本」のある仕事場 (河出文庫)センセイの書斎---イラストルポ「本」のある仕事場 (河出文庫)
書斎を覗いてみたい、というのは今に始まった好奇心ではない。山藤章二登場前の週刊朝日には各界の方々の仕事場をグラフで紹介するコーナーがあった。アサヒグラフの「我が家の夕めし」と並ぶ名物だった。そして観察とリアリズムの極地、妹尾河童の「河童の覗いた××」シリーズもあった。その系統に属する1冊。イラストは柔らかい調子、文章は基本的には「へえ、すごい」と驚きの連続で、ちょっと綾が欲しいかなあ。でももっとこのシリーズは続けてくれたらいいなあ。
読了日:04月11日 著者:内澤 旬子
大日本地名辞書〈第1巻〉汎論・索引 (1971年)大日本地名辞書〈第1巻〉汎論・索引 (1971年)
よくできた「工具書」です。通読する本じゃないけど、拾い読みも楽しい。
読了日:04月08日 著者:吉田 東伍
括弧の意味論括弧の意味論
筆者は週刊誌の中吊り広告に必要以上の括弧があるのに気付き、意味を考え始める。アプローチの仕方たるや、論理学、数学と大手搦手から総掛かり。でも正直に言う。話の展開が疲れる。引用例の浅田彰らに代表されるポストモダンの書き様はだれが読んでも韜晦的だし、””(爪カギ)は今の日本語表記からは消えた。筆者提唱の「括弧率」=括弧が文中にどの頻度で登場するか=の言いは面白いけど、読み間違いや字面のリズムを作る上で括弧が今や欠かせない、の1点に収斂されるのではないか。むしろ例にある「こそあど言葉」の思索が面白い。
読了日:04月08日 著者:木村 大治
江戸の気分 (講談社現代新書)江戸の気分 (講談社現代新書)
何か物足りない。江戸時代の論理は落語の世界だけではなく、重層的なはず。それを落語の間尺だけで推し量ろうとするのには無理がある。拾い読みを繰り返して読了したが、通読するには脳裏で補わなくてはいけないものが多すぎる。落語の解説本として読むのなら差し支えないとは思うけど。
読了日:04月07日 著者:堀井 憲一郎
夜中の薔薇 (講談社文庫)夜中の薔薇 (講談社文庫)
筆者の没後に出された随筆集。ベルギーの旅行記、アマゾンの旅行記(アマゾン川のさまを仙台味噌と八丁味噌に例えるのが、らしい)が、そして人物評が、と、軽く読めて滋味が豊かなものが多い。最後の方に並ぶPHP掲載分はちょっと心学の先生みたいな感じだけど。同じ文といっても脚本と随筆は違うはず。手練れになってきたんだな、と思った時には遺稿集、という感じ。改めて惜しい人物である。
読了日:04月05日 著者:向田 邦子

読書メーター

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posted by 曲月斎 at 20:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月23日

「戦前昭和の社会」

戦前昭和の社会 1926−1945 (講談社現代新書) [新書] / 井上 寿一 (著); 講談社 (刊)

今の世間を見回すと既視感にとらわれる。
いつの風景だったなのか。
それは大正末期から太平洋戦争開戦前までの日本だ。今の姿と瓜二つに見える。

筆者は3点を指摘する。
1にアメリカ化、2に格差社会、3に大衆民主主義である。
3つのキーワードに収斂される種々の現象を点綴していく。

デパート、アパート、映画、モガ・モボの出現、家の光やひとのみち(現PL教団)の出現などなど。
カリスマの出現(戦前に於いては近衛文麿首相誕生)を待ち望む空気。
今の日本はこの段階まで来ている気がする。

もちろん、「日本はなぜ戦争を始めたか」のような政治経済の流れを追ってはいない。
一連の半藤一利の著作のような語り口もない。
山本夏彦の「だれか戦前を知らないか」という本のようなこともない。

あくまでも一覧性、入門篇としての1冊である。
それでも多彩な視点からの昭和初期の案内だ。

今の世上と昭和初期のこの相似形ぶりにある種の危惧を覚えるのは小生だけではあるまい。
posted by 曲月斎 at 22:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月20日

「あの戦争と日本人」

あの戦争と日本人 [単行本] / 半藤 一利 (著); 文藝春秋 (刊)
幕末から日清、日露の両戦役を経て太平洋戦争に突入していく日本。

「坂の上の雲」を目指していたはずの國が夜郎自大に陥っていくのは承知の通りです。
その路線に舵を切っていく時の力として、司馬遼太郎は軍部の「統帥権」を「魔法の杖」と呼びました。

しかし、半藤はこの視点を掘り下げて、「軍部大臣現役武官制」「帷幄上奏権」の2つにスポットを当てています。

統帥権は天皇の大権とされた一方、軍部大臣現役武官制は軍部が気に入らない施策を行おうとする、あるいは意向に反する内閣ならば陸、海軍は大臣を辞任させ、あるいは組閣の際に選出を拒めば、内閣は総辞職に陥るか、組閣の大命を返上するしかなくなる―ということです。

帷幄奏上権も本来は有事の際の制度であったはずが、参謀本部や軍令部は天皇に直接裁可を仰げば、彼らの上司であるはずの陸海軍大臣にも事後報告で可、総理大臣にはその後、各大臣から報告すればいいとする制度です。軍部の思うこと通りにことを運ぶのには実に便利な手段です。

統帥権のみならず、計3振りの宝刀は実に有効とよくわかります。

ただ、筆者は文官の浮かれも指摘しています。
日中戦争のさなか、ドイツを仲介とする和平工作に、参謀本部は乗り気ながら、折しも南京陥落のころ。
内閣の側が強気になって、この和平工作は瓦解します(いわゆる近衛内閣の「国民党政府は交渉相手とせず」っていう声明を出したころですな)

軍部は日本の国民、多くの無辜の民を巻き込んでの惨禍を招いた一義的な責任があるにせよ、その裏で文官も、軍部の力をこざかしく利用しようとたくらみ、自身の墓穴を掘った歴史があったことがよく分かります。

昔陸軍、今国家公務員上級職、なのかな。
ともあれ、語り下ろしなので文章は平易だし、日本史の授業でスルリと通り過ぎてしまうような事項が実は大切だったということを教えてくれる本です。戦争への軌道を顧みる上で、すてきな1冊です。
posted by 曲月斎 at 10:59| Comment(1) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月09日

「大日本地名辞書」

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「工具書」という言い方があるのを最近知った。
要は図書館でいうレファレンスである。
この本を見れば、こういうことが分かるであろう、という手がかりにする本のたぐいを言う。

この写真にかかげた本はその類である。
1900年に刊行が始まって初版が完結したのが1907年。日本の六十余州の地名をくまなく拾い、それを整理しようという意図で作られた日本で初の本といっていい。
その後、大正、昭和と版を改めつつ、繰り返し刊行され、一番近いものは1969〜71年に刊行された8冊本。

その1巻目は推薦文と索引が大半を占めるという珍しい構成。2巻以下は第二巻:上方(京都府、奈良県、大阪府、滋賀県、三重県、和歌山県、兵庫県)、第三巻:中国・四国(京都府、兵庫県、岡山県、鳥取県、島根県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県)、第四巻:西国(大分県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、宮崎県、鹿児島県)、第五巻:北国・東国(福井県、石川県、冨山県、新潟県、岐阜県、愛知県、長野県、山梨県[神奈川県]、静岡県[東京都])、第六巻:坂東(神奈川県、東京都、埼玉県、千葉県、群馬県、栃木県、茨城県)、第七巻:奥羽(福島県、宮城県、岩手県、山形県、秋田県、青森県)、第八巻:(続編)北海道・樺太・琉球・台湾(北海道、沖縄県、鹿児島県)。

確かにこの本を嚆矢としてその後の日本の地誌研究は大きく進んだのは事実で、その点でも記念碑的な本です。国語辞典という範疇の中で、同じ冨山房を版元に発行された「言海」(今はちくま学術文庫で見られます)と似たような立場かもしれません。

こういう本は通読する本ではありませんが、つい欲しくなってしまう範疇のなのです。

ちなみに今回ももちろん古本ですが、図書館の除籍本でした。収納印とかは丹念に消してあるのですが、印影をよく見ると「文部省の補助金で購入した本である」という判子と「明治大学図書館」みたいな文字が見えます。そんな来歴なのでしょう。

本の来歴はさておき、こういう本を買うと、次にどこへ流していくのがいいのか。たぶん、造本はすこぶる丈夫なので、私の命以上に生命を持つでしょう。本とは本来、そういうものなのですから。

本の山を見ながら、そんなことを考えています。
posted by 曲月斎 at 03:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月01日

3月に読んだ本。

3月の読書メーター
読んだ本の数:34冊
読んだページ数:9019ページ

日本の鉄道 乗り換え・乗り継ぎの達人 (光文社新書)日本の鉄道 乗り換え・乗り継ぎの達人 (光文社新書)
当たり前の話だけど、鉄道はドアトゥードアの移動手段ではない。まして乗り換えがあるとなると余計だ。今や新幹線優先のダイヤ編成。地方は幹線でも切り捨てられる。交通弱者にとっての鉄道という観点からもひとひねり欲しかった。ただ、近鉄伊勢中川駅や、阪神尼崎駅での乗り換えの妙や、JR四国の松山駅での工夫など、指摘は興味深い。ただ、連結や分離を日常的に繰り返すダイヤ編成の京急や小田急もあり、JR各社にできれば幹線を貫いて乗り換えなしで長距離を移動できる列車の復活を筆者ともども願いたい。
読了日:03月29日 著者:所澤 秀樹


三陸海岸大津波 (中公文庫)三陸海岸大津波 (中公文庫)
すこぶる吉村昭の小説らしい丹念さと緻密さで構成されているので、素晴らしい1冊なのではあるけれど、その想定を超えるような津波が現実に襲ってしまった後になると、これもまた、一つの過去のように思えてしまう。筆者の筆致と目の前で知悉させられる現実の間に、もだしがたいものを感じる。
読了日:03月28日 著者:吉村 昭


完本 日本語のために (新潮文庫)完本 日本語のために (新潮文庫)
単行本で出た当時は、丸谷の主張する「歴史的仮名遣い(定家仮名遣い)」にもフムフムとうなずける初々しさがあったものだが、今となっては単なる独りよがりに見える。本当に日本語のためになることは何か。単に守旧的な態度で臨んではいられないことはいうまでもない。斉藤美奈子が指摘するように。
読了日:03月28日 著者:丸谷 才一


都市対抗野球に明日はあるか―社会人野球、変革への光と闇都市対抗野球に明日はあるか―社会人野球、変革への光と闇
社会人野球の面白さを知り得た人間というのは少ないだろう。大の大人が真剣になってやる野球、多くは1本勝負ゆえにプロ野球以上の真剣さかも知れない。ただ、現実には社会人野球は世間の注目から外れて久しい。一つには毎日新聞社という後ろ盾があることも新たな展開を阻害していると思う。この本に期待したこと、何か処方箋はあるのかということだった。でもその期待は無為だった。企業チームの撤退が相次ぎ、基本財産もないクラブチームが叢生しても大会の運営さえままならぬ。前途遼遠にして暗中模索なることを改めて認識させてくれた。
読了日:03月28日 著者:横尾 弘一


私は真犯人を知っている―未解決事件30 (文春文庫)私は真犯人を知っている―未解決事件30 (文春文庫)
事件関係者の回想録、あるいは取材心覚えとでもいう内容。1事件3〜4ページの記述が延々と続く。ただ、大阪地検特捜部の作り上げた冤罪として記憶に新しい村木厚子女史の供述を江川紹子が構成したものと、最後にある保阪正康の「事件から貌が消えた」という論考は示唆に富む。謀略を推測させる事件が消えて内向きの国に、バラバラ殺人は怨恨の強い者の犯行だったが今は単なる証拠隠滅の手段に、梅川昭美と加藤智大の共通性−−などなど。この2編を読むだけで十分に価値はあるかもしれない。
読了日:03月28日 著者:


へうげもの(12) (モーニングKC)へうげもの(12) (モーニングKC)
何かひさしぶりに、本来の剽げた味わいの巻になっている。この巻の中心はいよいよ天下人秀吉の死。ここまでキレイに話を展開していると、本当に力量を感じてしまう。時代の流れの転換点をこういう風に「へうげて」描けるのはさすが。ただ、超細密画をページ一杯に開く藝風は維持して欲しかったなあ。例えば伏見城山里丸の櫓からの大坂方面の眺めとか。秀吉の死相が最期に付け髭が取れておねのひざ枕で円寂するのはいい幕切れだったなあ。
読了日:03月28日 著者:山田 芳裕


総員起シ (文春文庫 よ 1-6)総員起シ (文春文庫 よ 1-6)
もはや、時代の要求から離れてしまったのか、Amazonでは中古品しかない。でも、広く勧めておきたい1冊。太平洋戦争まで最前線でのyたたかいの外に「銃後の戦い」と呼ばれるものがあり、樺太大平炭礦病院での集団自決事件を記者が追う「手首の記憶」や留萌沖3船撃沈事件の「鳥の浜」など、表題作以上に読後感に響くことの多い掌編が並ぶ。版元品切れには惜しい並んだ。
読了日:03月25日 著者:吉村 昭


異体字の世界―旧字・俗字・略字の漢字百科 (河出文庫 こ 10-1)異体字の世界―旧字・俗字・略字の漢字百科 (河出文庫 こ 10-1)
異体字は悩ましい。なぜなら固有名詞に多いからだ。人名、地名には愛着がある。「この字が正しい」という意地とプライドが膨大な文字の山を生む。実際には書きクセ程度の形の差なのだが。字の本来の成り立ちから語る本質的な議論は少ない。この本もJISの拡張に関わった人物として、必死にコード採用の基準の説明を尽くそうとするのだが、結果として漠然、乱脈な説明にならざるを得ない。書き文字と活字は違うという1点を周智徹底すれば問題は解決するはずなのだが。と言う間に、技術の進歩の方が早かったというのがこの本のオチ。
読了日:03月23日 著者:小池 和夫


柳田國男集 幽冥談―文豪怪談傑作選 (ちくま文庫)柳田國男集 幽冥談―文豪怪談傑作選 (ちくま文庫)
この1冊もその中身を吟味してから買えば佳かった。別に柳田先生には何も落ち度はないのだけど。遠野物語やら一目小僧など、よく見掛けた文が収められている。初見の人には興味深いだろうし、読んだことのある人にはしまった、ということになる1冊。一度目次をよく確認せられたい。
読了日:03月21日 著者:柳田 國男


折口信夫集 神の嫁―文豪怪談傑作選 (ちくま文庫)折口信夫集 神の嫁―文豪怪談傑作選 (ちくま文庫)
「怪談傑作選」というノリに、「死者の書」とかは適切なのだろうか。何か、この編者の意図がはっきりしない。申し訳ないがAmazonも何を掲載しているのか、もっと詳細に載せてほしかった。中公文庫の折口信夫全集が見当たらなくなった昨今の事情からすれば、この才人を知る糸口の1冊となるのかも知れないけど。
読了日:03月21日 著者:折口 信夫


小津安二郎美食三昧 関西編 (朝日文庫)小津安二郎美食三昧 関西編 (朝日文庫)
関西となると旅行で行く地。特に京都。鰻ぞうすいのわらじや、朝粥の瓢亭、すき焼きの三嶋屋。言ってみたいと思っても敷居の高い店をまたいでくれているのが妙に嬉しい。今度、行った時には雄を鼓して玄関の戸を敲いてみようかという気にさせてくれる本です。
読了日:03月21日 著者:貴田 庄


小津安二郎美食三昧 関東編 (朝日文庫)小津安二郎美食三昧 関東編 (朝日文庫)
おいしいものを「おいしい」と書くのは実に難しい。たぶん、脂の乗り切った時期の丸谷才一が試みた「食通知ったかぶり」がその最右翼だと思う。その点、この本はある意味で淡旨。上手でその店に行ってみたいなと思うのは事実だけど、各店の項の最後にある値段を見て判断してしまう自分もいる。文章に引き込まれた訳ではない。ただ、横浜の中華街で安楽園、太田なわのれんが取り上げられているのは興味津々。渋いところを小津は突くなあ、と妙な関心もしてしまった。あの映画の中の「若松」は絶対どこかにあった気がしてくるのも不思議だが。
読了日:03月21日 著者:貴田 庄


元素111の新知識 第2版 (ブルーバックス)元素111の新知識 第2版 (ブルーバックス)
本棚に置いたままになっていた本。Zr、U、I、Cs。最近話題の元素ですな。文系育ちのおよそ門外漢には何のことか分からん。例えばジルコニウムは最も中性子線を吸収しにくい元素−−ふむふむ、それで被覆材につかっていたんだとか、セシウムは半減期の長い放射能物質でカリウムに科学的性質が似ているから人体では筋肉に蓄積されやすい、などなど、昨今の原発事故を理解する上で手がかりとなるいい本です。通読というより、拾い読みが楽しい。スイヘイリーベボクノフネ
読了日:03月20日 著者:


街のはなし (文春文庫)街のはなし (文春文庫)
何か勿体なくてもう一度、読み直し始めた。そこでいい読書法を発見した。吉村昭と向田邦子の随筆を交互に読むのだ。吉村がカミソリなら、向田は羅紗バサミといった味わい。向田は続けて読むとしんどいが、1冊ずつ交互だと味わいが増す。ちょっとうれしい発見。
読了日:03月19日 著者:吉村 昭


平成日本タブー大全 (宝島SUGOI文庫)平成日本タブー大全 (宝島SUGOI文庫)
こちらは週刊誌のつなぎ合わせ本。タブーというが、その内容は巷間、話題に上るものでしかない。新鮮味には欠ける。ジャニーズ、同和、暴力団、朝鮮総連関係など、すでに語り尽くされた分野が多く、その先の内容を期待するのは無理だった。
読了日:03月18日 著者:溝口 敦


戦後重大事件プロファイリング (宝島SUGOI文庫)戦後重大事件プロファイリング (宝島SUGOI文庫)
ちょっとひどいよ、宝島社。以前は新しい知見が少しはあったけど、この作者は当時の切り貼りだけで本を作っているのだから。大宅壮一文庫のファイリング以下だね。読むに値しないし、プロファイリングという仰々しい名前など、恥ずかしくて。よく付けたもんだと思う。駄本。期待を少しでもした小生が馬鹿でした。
読了日:03月18日 著者:本橋 信宏


オリエント急行の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)オリエント急行の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
読書という作業は多くの場合、本に書かれていることを頭の中で画像化する作業を言うのであろうけど、やはりシドニー・ルメット監督作の映画の印象が強烈で、それを補完するように、文章を読んでしまう。でもその作業は十分に楽しい。それだけの綾がこの本にはある。さて、中村訳は長沼訳に比べて、古風な物言いは少ないものの、やはり今様ではない気がする。あと列車の見取り図が中にあるのは如何かと思う。創元推理文庫版のように、扉の後ろ辺りにある方が親切ではないかなぁ。
読了日:03月17日 著者:アガサ クリスティー


街のはなし (文春文庫)街のはなし (文春文庫)
すでに読んだことがあったと思う。でも本棚に見当たらないので買って、読み直した。氏の随筆の犀利さにいつも感服する。書きすぎない、筆足らずのことはない。ご自身の瘦軀そのままに、ぎりぎりまでそぎ落とした文章の綾にいつも感心するばかり。自分で書くとなると……。絶対に贅肉だらけになりそうな気がする。さて、文は人なり、か。澄んだスープに例えたくなるような味わい。残してくれた随筆はもうないのかな、と思う。
読了日:03月17日 著者:吉村 昭


オリエント急行の殺人 (創元推理文庫)オリエント急行の殺人 (創元推理文庫)
訳が少し古風。奥付けを見ると、1959年初版で改版しているもの。確かに犯人を「下手人」と訳してみたり。長沼訳はあの時代としては見事なものだし、素晴らしいけど、坪内訳の沙翁劇のようなもので、装丁は新しくなっても中身はクラシック。それゆえ、同時代の空気を吸った人間ならではの味わいがあるのは事実だけど。
読了日:03月17日 著者:アガサ クリスティ


あなたが知らない太平洋戦争の裏話 (新人物文庫)あなたが知らない太平洋戦争の裏話 (新人物文庫)
ちょっと期待はずれ。それは自分の視点がすべてだと思ってしまいがちなこと。例えば航空母艦。だれも実はすべてを分かっている人はいない訳で、飯炊き担当は炊飯施設のことしか分からないし、艦長だってエンジンルームの実態は分からない。それと同じで筆者が妙な自信をもってしまっているのが、残念。歴史の1証人としての謙虚な姿勢を保っていれば、もっとちがう読み物になった気がする。
読了日:03月17日 著者:新名 丈夫


コーヒーが廻り世界史が廻る―近代市民社会の黒い血液 (中公新書)コーヒーが廻り世界史が廻る―近代市民社会の黒い血液 (中公新書)
西欧人にとっての東洋文化への憧れというのは、紅茶の伝播史と好一対。イスラム文化圏で生まれたコーヒーがやがて欧州に渡って、コーヒーハウスの文化を生み、また植民地のプランテーションとして発達していく。確かに筆者の命名するところの「黒い血液」というたとえは非常に妙を得ていると思います。読み物として面白いのですが、結構、途中から話に膠着感があります。でも同新書の紅茶本と併せて読むと面白いでせう。
読了日:03月17日 著者:臼井 隆一郎


吉原徒然草 (岩波文庫)吉原徒然草 (岩波文庫)
何か熟読する気分でないので斜め読みになりましたが、本自体は面白いです。吉原の風俗、習俗を徒然草に見立てて書きつづっています。一種のパロディ。吉原の基礎知識があると、ヘヘンとそのもじりがよく分かるんでしょうけど。軽い読み物として面白いです。
読了日:03月17日 著者:上野 洋三


訳注聯珠詩格 (岩波文庫)訳注聯珠詩格 (岩波文庫)
かつては藝者も袖珍本の論語を愛読したという。そんな空気が伝わってくるような名訳です。連想したのは会津八一がその随筆で試みている漢詩の訳や、井伏鱒二が「サヨナラダケガ人生ダ」と訳した「厄除け詩集」の試み。漢詩を読み解き、自在に日本語を操る境地の人ならではの書き下しです。脚注も親切で、江戸時代の人に返った心境で漢詩を読めます。しかし、当時の人の力量、畏るべし。
読了日:03月17日 著者:柏木 如亭,揖斐 高


下弦の月 (文春文庫)下弦の月 (文春文庫)
読了日:03月16日 著者:吉村 昭


ゴルゴ13 131 (SPコミックス)ゴルゴ13 131 (SPコミックス)
読了日:03月10日 著者:さいとう たかを


B‐29日本爆撃30回の実録―第2次世界大戦で東京大空襲に携わった米軍パイロットの実戦日記B‐29日本爆撃30回の実録―第2次世界大戦で東京大空襲に携わった米軍パイロットの実戦日記
空の要塞と呼ばれたB29を操縦していたクルーたちの話をまとめた1冊です。もちろん、飛行機が敵領空を侵犯して爆撃するのですから、安全なはずはありません。日本人が抱いている感覚以上に被害はでていたというのが新鮮。でもそれ以上に空から見た戦闘員に取ってみれば、火災による急激な上昇気流であったり、人間や物が燃える時にでる焦げた匂いだったり。地上で何が起きていたのか、本当に想像しているのか、という気になります。もちろん、欧州戦線でも空襲はありました。でもその視点とは違い過ぎる何かが残っている、と思うのであります。
読了日:03月09日 著者:チェスター マーシャル


昭和二十年五月二十九日―横浜大空襲の記録 (1973年) (講談社現代新書)昭和二十年五月二十九日―横浜大空襲の記録 (1973年) (講談社現代新書)
この本は見掛けなくなりましたね。でも横浜の大空襲の記録です。東京のような夜間爆撃ではなく、横浜は真っ昼間に空襲を受けました。避難しやすいようでも却って難しい面も多い。まだ身近に体験者がいる今、読んで置いてもいい1冊です。そういえば、大きな犠牲を出した京急黄金町のガード下。今はお気に入りの名物屋というラーメン店がありますが、ここで惨劇が起きたとはちょっと想像しにくいくらいです。町並みが変わると記憶も薄れる。でも忘れてはいけないこともあると思います。
読了日:03月09日 著者:東野 伝吉


東京大空襲―昭和20年3月10日の記録 (岩波新書 青版 775)東京大空襲―昭和20年3月10日の記録 (岩波新書 青版 775)
最初に読んだのは小学生のころだったろう。オヤジの書棚の岩波新書の中から引っ張り出して読んだ。焼死体の写真が怖かった。いくつかの体験談をまとめての本。今、東京大空襲の惨劇を地面から見た本としては一番目に上げられてしかるべきだろう。非戦闘員の無差別殺戮というのは、国際法上許されるものではないはずなのだが。これは1945年3月、日本の東京で起こった事実なのである。
読了日:03月09日 著者:早乙女 勝元


町長選挙 (文春文庫)町長選挙 (文春文庫)
有名人に仮託してストーリーを展開するというのは姑息な手段です。ナベツネにしてもホリエモンにしても、実在の人物の行状にある程度寄り掛かって話が進む。申し訳ないが枠は既製品で障子紙に絵を描いてごまかされたような気がする。せっかく好個の主人公を前作で確立したのに、また元に戻ってしまった感あり。こういう作品は息が短い。2005年の作だがもう古い感じがしてしまう。作品としての寿命を縮める愚作である。唯一、表題作の「町長選挙」は救いがある。もっとも村の選挙も過去の風景になりつつあるのだけども。
読了日:03月09日 著者:奥田 英朗


空中ブランコ (文春文庫)空中ブランコ (文春文庫)
例えば。「鬼平犯科帳」は第1巻から絶筆まで、筆の運びに違和感はない。それでも巻をおうごとにこなれてくるのを感じるだろう。それと異なり、前作の「イン・ザ・プール」は大人の読み物の体をなしていないと思った。だが、この1冊は楽しめる。何でなのか。人物の過剰な描写が抜け、動詞で物語りを綴るようになったからだ。十分に「直木賞」の資格はある。筆者の経歴に裏打ちされたプロットが顔を出すのは仕方ないとして、見え透いたドタバタ喜劇から本当の喜劇に近づいた境地を示した1冊。中でも表題作の「空中ブランコ」と「ハリネズミ」が
読了日:03月07日 著者:奥田 英朗


イン・ザ・プール (文春文庫)イン・ザ・プール (文春文庫)
「笑える」という言葉にちょっと心動かされ、「東京物語」の延長線上で手にした1冊だけど、正直のところ食傷してしまった。主人公の造形があざとい。いかにもバブル期に青春を過ごした人間ならではの価値観がどこかにのぞく。病院の跡取りの若先生、という造形が、ある意味でホイチョイの発想と通底する。描写はうまいんだけど、上質な笑いに結びついていなんだな。後味に残るものも少ない、というかないし。2001年の直木賞の候補作ではあるが、当時渡辺淳一(大嫌いなのだけど)、黒岩重吾、阿刀田高らが選から外した時の選評が納得できる。
読了日:03月07日 著者:奥田 英朗


漢字と日本人 (文春新書)漢字と日本人 (文春新書)
肩に力が入ると、ろくなことはないという1冊です。随筆での筆さばきはどこへやら、すこぶる四角四面、教条主義的な話題に終始するのは残念なことです。漢字制限や表音主義の新仮名遣いの話を蒸し返しても、仕方のないことです。言語の表記として不可逆的なことだと思うから。もっと肩の力を抜いた上で、こういう話ができる人物がいないかなぁ。
読了日:03月06日 著者:高島 俊男


東京大空襲―B29から見た三月十日の真実 (光人社NF文庫)東京大空襲―B29から見た三月十日の真実 (光人社NF文庫)
日本人が忘れてはいけない日の一つに、3月10日があると思う。別に陸軍記念日だからではない。米陸軍航空隊本部第21爆撃軍司令部のカーチス・ルメイという人が作戦の実行を決めた日本本土の焼夷弾による無差別空襲の端緒として、東京の下町が空襲された日だ。その死者は10万人という説もあるが、一夜にしてこんな惨劇が繰り広げられたのだ。この本は被災誌ではない。実験を繰り返し、よく燃えるのを確認した上で、実行されたこの攻撃。もちろん日本は平和への加害者でもある。ただ、アメリカも大いなる加害者であることを忘れてはいけない。
読了日:03月05日 著者:E.バートレット カー


幻視の座―能楽師・宝生閑聞き書き幻視の座―能楽師・宝生閑聞き書き
読了日:03月04日 著者:土屋 恵一郎

読書メーター
追記
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2011年03月06日

「東京大空襲 B29から見た3月10日の真実」

東京大空襲―B29から見た三月十日の真実 (光人社NF文庫) [文庫] / E.バートレット カー (著); E.Bartlett Kerr (原著); 大谷 勲 (翻訳); 光人社 (刊)
日本人が忘れてはいけない日の一つに、3月10日があると思う。

「坂の上の雲」でおなじみの奉天大会戦勝利を記念して制定された陸軍記念日だからではない。
米陸軍航空隊第21爆撃軍司令部のカーチス・ルメイという人が作戦の実行を決めた日本本土の焼夷弾による無差別空襲の端緒として、東京の下町が空襲された日だ。

その死者は10万人という説もあるが、一夜にしてこんな惨劇が繰り広げられたのだ。

この本は海抜ゼロメートルからの視点による被災誌ではない。

日本の建築に大きな影響を与えたアントニン・レーモンドが設計した木造家屋で燃焼実験を繰り返し、よく燃えるのを確認した上で、実行されたこの攻撃。ルメイが就任するまでは、高高度からしかも軍事目標を精密に攻撃することを本旨としていた。しかし、である。ルメイ就任後は、爆弾を山のように積み込むために、低高度での攻撃。しかも「日本の軍需産業を支えるのは市井にある住宅である」という名のもとに、無差別の絨毯爆撃が行われた。

もちろん、その犠牲になるのは非戦闘員である一般市民だ。当時の督励をルメイはこういう。「君が爆弾を投下し、そのことでなにかの思いに責めさいなまれたとしよう。そのときはきっと、何トンものがれきがベッドに眠る子供の上に崩れてきたとか、身体中を日に包まれ、『ママ、ママ』と泣き叫ぶ3歳の少女の悲しい視線を、一瞬思い浮かべてしまっていたに違いない。正気を保ち、国歌が君に希望する任務を全うしたいなら、そんなものは忘れることだ」と。

ルメイは機銃座を外し、最大限の焼夷弾が積載できるようにした上で発進を命じる。自国の搭乗員ですら、単なる道具、パーツとしか思えなかった人物になにをか言わんや、なのではあるが。

非戦闘員への陵虐はもちろん日本も加害者である。ただ、アメリカも大いなる加害者であることを忘れてはいけない。

何より、腹立たしいことは、かのカーチス・ルメイに対して「航空自衛隊の育成に寄与した」という名の下に、勲章、しかも最高位の勲章を授与されているのである。何も勲章がありがたい訳ではない。でも、そんな人間に勲章を授与してしまう日本という国の「もの忘れ」ぶりが非常になさけない。


この後、昼間の空襲を実施した5月29日の横浜大空襲、そして終戦前日に敢行された大阪造兵工廠への空襲まで続く。

もの忘れの激しい国に生まれ、忘れてはいけないことをもういちど、思い返した方がいいと思う。

以前、江國滋酔郎の句「大いなる繁栄ここに日本忌」を本歌取りして「大いなる忘却ここに日本忌」という句を投句したことがある。忘れるまじ
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2011年03月01日

2011年2月に読んだ本。

2月の読書メーター
読んだ本の数:25冊
読んだページ数:6268ページ

暮しの手帖2010年1月号別冊 シネマの手帖 昭和篇 2010年 01月号 [雑誌]暮しの手帖2010年1月号別冊 シネマの手帖 昭和篇 2010年 01月号 [雑誌]
実にいい本です。書き手が映画を要約し、なおかつ見どころを指摘し、今の意味を提示……。こういう本はなかなか得難いものです。DVDで映画を観るのが当たり前になった今だからこそ、逆に意味があるように思います(たとえ名画でもDVD化されていないと選から外されていることでもあるし)
読了日:02月28日 著者:
畜生道の地球 改版 (中公文庫 R 25)畜生道の地球 改版 (中公文庫 R 25)
読了日:02月28日 著者:桐生 悠々
無名仮名人名簿 (文春文庫 (277‐3))無名仮名人名簿 (文春文庫 (277‐3))
筆者の随筆というと、父親の影、そして死の影がどこか陰影として行間ににじんでくるのだけど、この1冊はその色合いが薄い。やはり元が週刊文春の連載だったこともあるのだろう。その分、人間観察の比重が高くなっている。筆者の本の中で軽めのものを選ぶのなら、この1冊なのかもしれない。
読了日:02月27日 著者:向田 邦子
15歳の東京大空襲 (ちくまプリマー新書)15歳の東京大空襲 (ちくまプリマー新書)
読了日:02月23日 著者:半藤 一利
おおげさがきらい (講談社文庫)おおげさがきらい (講談社文庫)
未刊行だった随筆を集めた1冊。ここにはごく若い時代、新國劇の座付作家状態だったころのものが収められています。未刊だというのですが、どこかで読んだ気がする。既刊の随筆集や筆者の作品の中にから、その匂いをかいでいるからなのでしょうか。不思議な1冊です。
読了日:02月23日 著者:池波 正太郎
東京物語 (集英社文庫)東京物語 (集英社文庫)
青春小説というと、集英社、というイメージがあるのはなぜだろう。原田宗彦のエッセーを数多くだしていたからだろうか。談はさておき、短編小説集という体裁だが、完全に主人公は作者自身。中京圏から上京して駿河台の大学の文学部に入ってから、仕事をしている20代最後までの話。キーになっているのは日付や歌にまつわる思い出が基調低音に流れているので、たぶん、読者も独善的になりやすい青春記ながら、何とか伴走してくれるだろう。携帯電話のない時代。電話も下宿なら「呼び出し」だった時代。PCのない時代。でも時間だけはあって、矢鱈に
読了日:02月23日 著者:奥田 英朗
六つのひきだし―「森繁の重役読本」より (文春文庫)六つのひきだし―「森繁の重役読本」より (文春文庫)
その昔のラジオ番組の台本集。森繁久弥の声を知っている世代には活字なのだけど、その声音が行間から聞こえてくるような気がする。向田の筆さばき。話言葉として書かれたものゆえ、時代を経ていささか古めかしいが、プロットの取り回し方、実に間然とするところがない。たぶん、この本の命も「日曜名作座」を知っている世代までだろうか。でも、いい軽妙な1冊です。それと昔の重役さんは偉かったんだな、と。今時、お手伝いさんも迎えの運転手もいるところは少ないでしょうから。
読了日:02月23日 著者:向田 邦子
ラクガキ・マスター 描くことが楽しくなる絵のキホンラクガキ・マスター 描くことが楽しくなる絵のキホン
簡単にラクガキができるようになるといいますが、実はとても精進が必要なことが改めてよく分かりました。人間を描くときに6パターンに分けて説明していたり、つなぎ目(ものの接点)をきちんと描くことで、まともな絵に見えるなど、実に示唆に富んでいるのですが、自分にはやはり絵心がないのだ、ということを実感しました。
読了日:02月20日 著者:寄藤文平
一杯の紅茶の世界史 (文春新書)一杯の紅茶の世界史 (文春新書)
銀座三越で出会ったラプサンスーチョン。大いなるイギリス人の誤解の下に、賞味されたというのがよく分かった。「伝統を感じさせる味」という評価が実にいい。そしてトワイニングとリプトンという2人の人間が紅茶を今日の普及に至らしめるのに、絶大なる活躍をしたことも。結局、ムード、なんでしょうな。お茶を飲むということは。
読了日:02月20日 著者:磯淵 猛
父の詫び状 <新装版> (文春文庫)父の詫び状 <新装版> (文春文庫)
向田邦子が自身の本質を書いた言葉がlこの本にある。曰く。「思い出というのはねずみ花火のようなもので、いったん火をつけると、不意に足許で小さく火を吹き上げ、思いもかけないところへ飛んでいって爆ぜ、人をびっくりさせる。何十年も忘れていたことをどうして今この瞬間に思い出したのか。そのことに驚きながら、顔も名前も忘れてしまった昔の死者たちに束の間の対面をする」。この行為の繰り返しが女史の筆運びの妙、間合い、呼吸につながっていると思うのである。
読了日:02月20日 著者:向田 邦子
かなづかい入門―歴史的仮名遣vs現代仮名遣 (平凡社新書)かなづかい入門―歴史的仮名遣vs現代仮名遣 (平凡社新書)
元・文科省国語教科書検定官らしい「かなづかい」の解説本。上代特殊仮名遣の話から、定家仮名遣、契沖仮名遣と変遷を遂げてきた歴史を振り返る辺りは面目躍如。ただ、後半になって戦後の新仮名遣いの辺りになると、結構、威圧的な感じの説明が増えてきます。確かに個人の仮名遣いと、遍く一般的に通用することを求められる「規範仮名遣」は性格が異なるものであるのは理解できるのですけどね。最も印刷物がかくも当たり前になり、それがWeb上でも通用するようになったのは、長い仮名遣いの歴史の中でもつい最近のことですから。
読了日:02月18日 著者:白石 良夫
向田邦子 映画の手帖 (徳間文庫)向田邦子 映画の手帖 (徳間文庫)
丁寧な口調、いってみれば小津映画のような口調は今の人間が読み返すと、非常に違和感がある。レース編みのような。妙に丁寧で妙に得たり顔に見える。もちろん、向田邦子らしさも垣間見えるのだけど、全体のトーンとしては結構、読み手に齟齬が生まれたままに終わる感じ。ちょっと雑誌の記事の再録という致命傷があった気がする。
読了日:02月15日 著者:向田 邦子
『薔薇族』の人びと その素顔と舞台裏『薔薇族』の人びと その素顔と舞台裏
三島由紀夫が匿名で書いた短編が所収されているので購入。伊藤文学はそれとなく明かしているが、軍隊経験と同性愛の受容の関係はあるような気がする。で肝心の三島の短編自体はそれほどの内容ではなく、申し訳ないが肩すかし。この点でもちょっと個人的な興味とはずれた内容の1冊だった。いずれにしても「薔薇族の時代」=「クローゼットの時代」ということになるのだろう。
読了日:02月15日 著者:伊藤 文學
女には向かない職業1 (創元ライブラリ)女には向かない職業1 (創元ライブラリ)
2巻目の方がデキがいいです。この巻は「27の瞳」はさておき、途中からワンテーマ化します。センセイ二日酔い、という話が続くのであります。ちょっと順列組み合わせ、考えて欲しかったな。1篇1編は面白いのに。
読了日:02月12日 著者:いしい ひさいち
温泉をよむ (講談社現代新書)温泉をよむ (講談社現代新書)
温泉のハウツーものではないです。温泉の享受史、温泉の民俗学というか。日本の歴史の中で温泉が果たしてきた役割を解き明かしているというか、糸口を付けています。例えばレプラの患者の扱い。受け入れてきたものが徐々に隔てる方向に動いたり、草津温泉に残る大量の無縁墓の存在など、温泉文化の一風景をよく示している例だと思うのです。単にいい湯だな、では済ませたくないヒトのために、この1冊を。
読了日:02月10日 著者:日本温泉文化研究会
女には向かない職業2 なんとかなるわよ (創元ライブラリ)女には向かない職業2 なんとかなるわよ (創元ライブラリ)
いしいワールドで重要なキャラクター、藤原センセのスピンアウトもの。あっちにもこっちにも出ている訳で、編集者が1冊の本にまとめるのは大変だったと思う。でも、違和感なく読めてしまい、面白いのがやはりいしいワールドたる所以。
読了日:02月10日 著者:いしい ひさいち
平家物語大事典平家物語大事典
こういう本を読んだ本、というのかどうか分からないけど、大判、大活字。時代の流れを感じさせる内容。ひと昔前の平家物語観を一新してくれる内容であることは間違いありません。関心があるなら座右にあってもいいし、読む事典と思って1項目ずつ追い掛けるのもいいかもしれません。
読了日:02月08日 著者:
京都 冬のぬくもり (光文社新書)京都 冬のぬくもり (光文社新書)
さらりと筆を進めているのだけど、肝心なところは書いていないのだろうな、と思う。老舗で10年修業して独立、それじゃ1人前とは言えない、という論理も分かるのだけど、どうもすっきり腑に落ちない、ペダンチックな感じが残る。そも京都というのは地方人にそういう思いを抱かせる仕掛け、なのではなるけど。
読了日:02月05日 著者:柏井 壽
古語の謎―書き替えられる読みと意味 (中公新書)古語の謎―書き替えられる読みと意味 (中公新書)
このところ、中公新書に当たりが多い。この本もそんな1冊。「ひむがしののにかぎろひのたつみえて」という万葉集・柿本人麻呂の歌の訓読の変遷を手がかりに、日本での文献学、あるいは国文学研究というのはどういう道を歩んできたのか、という道筋を再考する本です。古学(古文辞学)という分野が果たした実証的な研究と同時に、生きている文学としての享受の差が生まれることを実に明快に説いてくれます。結構刺激の多い本です。
読了日:02月04日 著者:白石 良夫
最新2011年度版 図解 パッとわかる業界地図 (宝島SUGOI文庫)最新2011年度版 図解 パッとわかる業界地図 (宝島SUGOI文庫)
今はWeb上で簡単に有価証券報告書を読むこともできるし、各社の決算についても知ることができます。でもそれを横に並べていくのは結構面倒な作業です。概観を知るには結構、便利な本かも。きょうの新聞紙面を飾った新日鉄と住金の統合も約4兆円の企業と1兆3千万円の会社がくっついて、国内の高炉メーカーは残りは神鋼とJFE(未だに川鉄と日本鋼管という気がする)に集約さるんだな、と分かるといった具合。手がかり本としては面白いです。
読了日:02月04日 著者:
日本の植民地建築―帝国に築かれたネットワーク (河出ブックス)日本の植民地建築―帝国に築かれたネットワーク (河出ブックス)
日本の植民地(台湾、朝鮮、満州)で建築された建物に関連して、人、ものの動きや意思を追跡した本です。いい本だとは思うのですが、余りにも図版(写真)が少なすぎる。国内の建築でも見ることなかなかできぬのに、まして旧植民地。もっと図版を入れて、読者の想像を喚起して欲しかった。要は植民地経営には「見栄え」のいい建築は必須、ということに尽きるのですが、東洋の1帝国として日本が少しずつ成長した姿が建築でも追跡されています。でも筆者の意図に反し、ボリュームが足りなかった感じ。
読了日:02月04日 著者:西澤 泰彦
一勝九敗 (新潮文庫)一勝九敗 (新潮文庫)
せかせかとした本です。申し訳ないが、ちょっと価値観が違う感じです。もし、考え方を知りたいと思うのなら、本人へのインタビューで構成された「一流たちの修業時代」の方がまだすっきりと読めます。言ってみればギトギトの豚骨ラーメンと鶏ガラスープのあっさり醬油の差、というか。
読了日:02月03日 著者:柳井 正
一流たちの修業時代 (光文社新書)一流たちの修業時代 (光文社新書)
この筆者の力量は、ユニクロの柳井某の項を読むとよく分かる。柳井某自身の自伝風読み物「一勝九敗」と比べて、本人が熱心にしゃべりたいことと、読み手にとって関心のある事項とは違うということ。よくインタビューをまとめていると思います。それと良く読むと分かるのですが、筆者自身の地の文が時々混じる。これが薬味になっているんですな。インタビューものとしてはまずまずです。
読了日:02月03日 著者:野地 秩嘉
最新調査 日本の“珍々”踏切最新調査 日本の“珍々”踏切
前著に続いての踏切ワールド。ただ、意外感が少し減った気がするのはその独自の世界観をすでに承知していたからだろうか。この人の本2冊を読んでから、通勤の電車の中からどこに踏切があるのか、気になって仕方ない。ちなみにつかっているのは東海道線。横浜〜品川間には何カ所かの踏切が今でも現役で活躍しているのであります。再々「踏切内に人が立ち入ったため、安全確認のため、運転を見合わせています」という目に遭っているのだけど。
読了日:02月02日 著者:伊藤 博康
<とんぼの本>向田邦子 暮しの愉しみ<とんぼの本>向田邦子 暮しの愉しみ
向田邦子の日常の一コマを紹介する1冊。食べることに重心を置いた内容で、自身の手料理、或いは常備菜。遣っていた器の紹介などなど。この人の文章には「耳のうしろを、薄荷水でスーとなでられたような」といったハッとするような表現がある。本人の暮らしぶりもさることながら、向田邦子の随筆を改めて読みたくなる1冊。
読了日:02月02日 著者:向田 邦子,向田 和子

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posted by 曲月斎 at 02:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年01月28日

最近読んだ本。

最近は濫読できるのがうれしいような寂しいような。
にっぽん入門 (文春文庫) [文庫] / 柴門 ふみ (著); 文藝春秋 (刊)
漫画家&随筆家の柴門ふみが書いた日本紀行。スルッと読みやすいし、筆者独特の視点、表現があるのは楽しいのだけど、どこか「そりゃおまえだから言えることでしょ」って突っ込み返したくなるのはなぜなのだろう。女性にも総合職への道が拓かれた、と騒がれた時代に伸び盛りを迎えることができた人間の特性なのか。それと祭りに燃える男、特に裸の男を見ると、モエになってしまうのがストレートに伝わってくる。こういう感性が後の世代には「BL」指向につながっているのかもしれないなどと思う。解説の林真理子が一番、きれいにまとめている、ってのが印象。

同性愛と異性愛 (岩波新書) [新書] / 風間 孝, 河口 和也 (著); 岩波書店 (刊)
本の表題としては「現代の同性愛」という方が適切かもしれない。先途、ある執筆業の方の書棚の結構目立つ位置に置いてあったので、読んでみたのだが。どうも自分の感性とはずれている気がする。というか、同性愛というのは差別の対象であってはならないけど、どこまでいっても「クローゼット」な案件、という気がしてならないから。

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21) [新書] / 藻谷 浩介 (著); 角川書店(角川グループパブリッシング) (刊)
分かりやすい1冊。数字を元にして文章を書くときに、ダマシのテクニックとしてありうるよな、というのが一つ。相対的な比率より、絶対的な実数を見なさい、ということだ。
たとえば、先途、中国は日本のGDPを抜いた、というニュースが世上に流れたけど、総体の数字でみれば日本を上回ったにせよ、人口の差を考えたら、どちらが豊かなのか、ということは一目瞭然だ。世の中、悲観論の方が予想としては安全策なのだから。
それと2点目。むしろ、こちらの方がテーマなのだが、人口はすべての根源、ということ。
人口の世代間の変動が実は経済を動かしている、という話がこの本の通底しているテーマ。確かにホホーッと思ってしまう。そういう見方もあるよね。そういえば昔、「マルサスの人口論」なんて習ったっけ。
それともう一つ。こういう実数を重んじる考え方で似ているのは、フリードマンが主張したマネタリズムだけど、それを連想したのは、少しひねた考え方なのだろうか。もっともらしく見える数字を遣った言説ほど、疑ってかかった方がいい。
posted by 曲月斎 at 23:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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