3月の読書メーター
読んだ本の数:34冊
読んだページ数:9019ページ
日本の鉄道 乗り換え・乗り継ぎの達人 (光文社新書)当たり前の話だけど、鉄道はドアトゥードアの移動手段ではない。まして乗り換えがあるとなると余計だ。今や新幹線優先のダイヤ編成。地方は幹線でも切り捨てられる。交通弱者にとっての鉄道という観点からもひとひねり欲しかった。ただ、近鉄伊勢中川駅や、阪神尼崎駅での乗り換えの妙や、JR四国の松山駅での工夫など、指摘は興味深い。ただ、連結や分離を日常的に繰り返すダイヤ編成の京急や小田急もあり、JR各社にできれば幹線を貫いて乗り換えなしで長距離を移動できる列車の復活を筆者ともども願いたい。
読了日:03月29日 著者:
所澤 秀樹
三陸海岸大津波 (中公文庫)すこぶる吉村昭の小説らしい丹念さと緻密さで構成されているので、素晴らしい1冊なのではあるけれど、その想定を超えるような津波が現実に襲ってしまった後になると、これもまた、一つの過去のように思えてしまう。筆者の筆致と目の前で知悉させられる現実の間に、もだしがたいものを感じる。
読了日:03月28日 著者:
吉村 昭
完本 日本語のために (新潮文庫)単行本で出た当時は、丸谷の主張する「歴史的仮名遣い(定家仮名遣い)」にもフムフムとうなずける初々しさがあったものだが、今となっては単なる独りよがりに見える。本当に日本語のためになることは何か。単に守旧的な態度で臨んではいられないことはいうまでもない。斉藤美奈子が指摘するように。
読了日:03月28日 著者:
丸谷 才一
都市対抗野球に明日はあるか―社会人野球、変革への光と闇社会人野球の面白さを知り得た人間というのは少ないだろう。大の大人が真剣になってやる野球、多くは1本勝負ゆえにプロ野球以上の真剣さかも知れない。ただ、現実には社会人野球は世間の注目から外れて久しい。一つには毎日新聞社という後ろ盾があることも新たな展開を阻害していると思う。この本に期待したこと、何か処方箋はあるのかということだった。でもその期待は無為だった。企業チームの撤退が相次ぎ、基本財産もないクラブチームが叢生しても大会の運営さえままならぬ。前途遼遠にして暗中模索なることを改めて認識させてくれた。
読了日:03月28日 著者:
横尾 弘一
私は真犯人を知っている―未解決事件30 (文春文庫)事件関係者の回想録、あるいは取材心覚えとでもいう内容。1事件3〜4ページの記述が延々と続く。ただ、大阪地検特捜部の作り上げた冤罪として記憶に新しい村木厚子女史の供述を江川紹子が構成したものと、最後にある保阪正康の「事件から貌が消えた」という論考は示唆に富む。謀略を推測させる事件が消えて内向きの国に、バラバラ殺人は怨恨の強い者の犯行だったが今は単なる証拠隠滅の手段に、梅川昭美と加藤智大の共通性−−などなど。この2編を読むだけで十分に価値はあるかもしれない。
読了日:03月28日 著者:
へうげもの(12) (モーニングKC)何かひさしぶりに、本来の剽げた味わいの巻になっている。この巻の中心はいよいよ天下人秀吉の死。ここまでキレイに話を展開していると、本当に力量を感じてしまう。時代の流れの転換点をこういう風に「へうげて」描けるのはさすが。ただ、超細密画をページ一杯に開く藝風は維持して欲しかったなあ。例えば伏見城山里丸の櫓からの大坂方面の眺めとか。秀吉の死相が最期に付け髭が取れておねのひざ枕で円寂するのはいい幕切れだったなあ。
読了日:03月28日 著者:
山田 芳裕
総員起シ (文春文庫 よ 1-6)もはや、時代の要求から離れてしまったのか、Amazonでは中古品しかない。でも、広く勧めておきたい1冊。太平洋戦争まで最前線でのyたたかいの外に「銃後の戦い」と呼ばれるものがあり、樺太大平炭礦病院での集団自決事件を記者が追う「手首の記憶」や留萌沖3船撃沈事件の「鳥の浜」など、表題作以上に読後感に響くことの多い掌編が並ぶ。版元品切れには惜しい並んだ。
読了日:03月25日 著者:
吉村 昭
異体字の世界―旧字・俗字・略字の漢字百科 (河出文庫 こ 10-1)異体字は悩ましい。なぜなら固有名詞に多いからだ。人名、地名には愛着がある。「この字が正しい」という意地とプライドが膨大な文字の山を生む。実際には書きクセ程度の形の差なのだが。字の本来の成り立ちから語る本質的な議論は少ない。この本もJISの拡張に関わった人物として、必死にコード採用の基準の説明を尽くそうとするのだが、結果として漠然、乱脈な説明にならざるを得ない。書き文字と活字は違うという1点を周智徹底すれば問題は解決するはずなのだが。と言う間に、技術の進歩の方が早かったというのがこの本のオチ。
読了日:03月23日 著者:
小池 和夫
柳田國男集 幽冥談―文豪怪談傑作選 (ちくま文庫)この1冊もその中身を吟味してから買えば佳かった。別に柳田先生には何も落ち度はないのだけど。遠野物語やら一目小僧など、よく見掛けた文が収められている。初見の人には興味深いだろうし、読んだことのある人にはしまった、ということになる1冊。一度目次をよく確認せられたい。
読了日:03月21日 著者:
柳田 國男
折口信夫集 神の嫁―文豪怪談傑作選 (ちくま文庫)「怪談傑作選」というノリに、「死者の書」とかは適切なのだろうか。何か、この編者の意図がはっきりしない。申し訳ないがAmazonも何を掲載しているのか、もっと詳細に載せてほしかった。中公文庫の折口信夫全集が見当たらなくなった昨今の事情からすれば、この才人を知る糸口の1冊となるのかも知れないけど。
読了日:03月21日 著者:
折口 信夫
小津安二郎美食三昧 関西編 (朝日文庫)関西となると旅行で行く地。特に京都。鰻ぞうすいのわらじや、朝粥の瓢亭、すき焼きの三嶋屋。言ってみたいと思っても敷居の高い店をまたいでくれているのが妙に嬉しい。今度、行った時には雄を鼓して玄関の戸を敲いてみようかという気にさせてくれる本です。
読了日:03月21日 著者:
貴田 庄
小津安二郎美食三昧 関東編 (朝日文庫)おいしいものを「おいしい」と書くのは実に難しい。たぶん、脂の乗り切った時期の丸谷才一が試みた「食通知ったかぶり」がその最右翼だと思う。その点、この本はある意味で淡旨。上手でその店に行ってみたいなと思うのは事実だけど、各店の項の最後にある値段を見て判断してしまう自分もいる。文章に引き込まれた訳ではない。ただ、横浜の中華街で安楽園、太田なわのれんが取り上げられているのは興味津々。渋いところを小津は突くなあ、と妙な関心もしてしまった。あの映画の中の「若松」は絶対どこかにあった気がしてくるのも不思議だが。
読了日:03月21日 著者:
貴田 庄
元素111の新知識 第2版 (ブルーバックス)本棚に置いたままになっていた本。Zr、U、I、Cs。最近話題の元素ですな。文系育ちのおよそ門外漢には何のことか分からん。例えばジルコニウムは最も中性子線を吸収しにくい元素−−ふむふむ、それで被覆材につかっていたんだとか、セシウムは半減期の長い放射能物質でカリウムに科学的性質が似ているから人体では筋肉に蓄積されやすい、などなど、昨今の原発事故を理解する上で手がかりとなるいい本です。通読というより、拾い読みが楽しい。スイヘイリーベボクノフネ
読了日:03月20日 著者:
街のはなし (文春文庫)何か勿体なくてもう一度、読み直し始めた。そこでいい読書法を発見した。吉村昭と向田邦子の随筆を交互に読むのだ。吉村がカミソリなら、向田は羅紗バサミといった味わい。向田は続けて読むとしんどいが、1冊ずつ交互だと味わいが増す。ちょっとうれしい発見。
読了日:03月19日 著者:
吉村 昭
平成日本タブー大全 (宝島SUGOI文庫)こちらは週刊誌のつなぎ合わせ本。タブーというが、その内容は巷間、話題に上るものでしかない。新鮮味には欠ける。ジャニーズ、同和、暴力団、朝鮮総連関係など、すでに語り尽くされた分野が多く、その先の内容を期待するのは無理だった。
読了日:03月18日 著者:
溝口 敦
戦後重大事件プロファイリング (宝島SUGOI文庫)ちょっとひどいよ、宝島社。以前は新しい知見が少しはあったけど、この作者は当時の切り貼りだけで本を作っているのだから。大宅壮一文庫のファイリング以下だね。読むに値しないし、プロファイリングという仰々しい名前など、恥ずかしくて。よく付けたもんだと思う。駄本。期待を少しでもした小生が馬鹿でした。
読了日:03月18日 著者:
本橋 信宏
オリエント急行の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)読書という作業は多くの場合、本に書かれていることを頭の中で画像化する作業を言うのであろうけど、やはりシドニー・ルメット監督作の映画の印象が強烈で、それを補完するように、文章を読んでしまう。でもその作業は十分に楽しい。それだけの綾がこの本にはある。さて、中村訳は長沼訳に比べて、古風な物言いは少ないものの、やはり今様ではない気がする。あと列車の見取り図が中にあるのは如何かと思う。創元推理文庫版のように、扉の後ろ辺りにある方が親切ではないかなぁ。
読了日:03月17日 著者:
アガサ クリスティー
街のはなし (文春文庫)すでに読んだことがあったと思う。でも本棚に見当たらないので買って、読み直した。氏の随筆の犀利さにいつも感服する。書きすぎない、筆足らずのことはない。ご自身の瘦軀そのままに、ぎりぎりまでそぎ落とした文章の綾にいつも感心するばかり。自分で書くとなると……。絶対に贅肉だらけになりそうな気がする。さて、文は人なり、か。澄んだスープに例えたくなるような味わい。残してくれた随筆はもうないのかな、と思う。
読了日:03月17日 著者:
吉村 昭
オリエント急行の殺人 (創元推理文庫)訳が少し古風。奥付けを見ると、1959年初版で改版しているもの。確かに犯人を「下手人」と訳してみたり。長沼訳はあの時代としては見事なものだし、素晴らしいけど、坪内訳の沙翁劇のようなもので、装丁は新しくなっても中身はクラシック。それゆえ、同時代の空気を吸った人間ならではの味わいがあるのは事実だけど。
読了日:03月17日 著者:
アガサ クリスティ
あなたが知らない太平洋戦争の裏話 (新人物文庫)ちょっと期待はずれ。それは自分の視点がすべてだと思ってしまいがちなこと。例えば航空母艦。だれも実はすべてを分かっている人はいない訳で、飯炊き担当は炊飯施設のことしか分からないし、艦長だってエンジンルームの実態は分からない。それと同じで筆者が妙な自信をもってしまっているのが、残念。歴史の1証人としての謙虚な姿勢を保っていれば、もっとちがう読み物になった気がする。
読了日:03月17日 著者:
新名 丈夫
コーヒーが廻り世界史が廻る―近代市民社会の黒い血液 (中公新書)西欧人にとっての東洋文化への憧れというのは、紅茶の伝播史と好一対。イスラム文化圏で生まれたコーヒーがやがて欧州に渡って、コーヒーハウスの文化を生み、また植民地のプランテーションとして発達していく。確かに筆者の命名するところの「黒い血液」というたとえは非常に妙を得ていると思います。読み物として面白いのですが、結構、途中から話に膠着感があります。でも同新書の紅茶本と併せて読むと面白いでせう。
読了日:03月17日 著者:
臼井 隆一郎
吉原徒然草 (岩波文庫)何か熟読する気分でないので斜め読みになりましたが、本自体は面白いです。吉原の風俗、習俗を徒然草に見立てて書きつづっています。一種のパロディ。吉原の基礎知識があると、ヘヘンとそのもじりがよく分かるんでしょうけど。軽い読み物として面白いです。
読了日:03月17日 著者:
上野 洋三
訳注聯珠詩格 (岩波文庫)かつては藝者も袖珍本の論語を愛読したという。そんな空気が伝わってくるような名訳です。連想したのは会津八一がその随筆で試みている漢詩の訳や、井伏鱒二が「サヨナラダケガ人生ダ」と訳した「厄除け詩集」の試み。漢詩を読み解き、自在に日本語を操る境地の人ならではの書き下しです。脚注も親切で、江戸時代の人に返った心境で漢詩を読めます。しかし、当時の人の力量、畏るべし。
読了日:03月17日 著者:
柏木 如亭,揖斐 高
下弦の月 (文春文庫)読了日:03月16日 著者:
吉村 昭
ゴルゴ13 131 (SPコミックス)読了日:03月10日 著者:
さいとう たかを
B‐29日本爆撃30回の実録―第2次世界大戦で東京大空襲に携わった米軍パイロットの実戦日記空の要塞と呼ばれたB29を操縦していたクルーたちの話をまとめた1冊です。もちろん、飛行機が敵領空を侵犯して爆撃するのですから、安全なはずはありません。日本人が抱いている感覚以上に被害はでていたというのが新鮮。でもそれ以上に空から見た戦闘員に取ってみれば、火災による急激な上昇気流であったり、人間や物が燃える時にでる焦げた匂いだったり。地上で何が起きていたのか、本当に想像しているのか、という気になります。もちろん、欧州戦線でも空襲はありました。でもその視点とは違い過ぎる何かが残っている、と思うのであります。
読了日:03月09日 著者:
チェスター マーシャル
昭和二十年五月二十九日―横浜大空襲の記録 (1973年) (講談社現代新書)この本は見掛けなくなりましたね。でも横浜の大空襲の記録です。東京のような夜間爆撃ではなく、横浜は真っ昼間に空襲を受けました。避難しやすいようでも却って難しい面も多い。まだ身近に体験者がいる今、読んで置いてもいい1冊です。そういえば、大きな犠牲を出した京急黄金町のガード下。今はお気に入りの名物屋というラーメン店がありますが、ここで惨劇が起きたとはちょっと想像しにくいくらいです。町並みが変わると記憶も薄れる。でも忘れてはいけないこともあると思います。
読了日:03月09日 著者:
東野 伝吉
東京大空襲―昭和20年3月10日の記録 (岩波新書 青版 775)最初に読んだのは小学生のころだったろう。オヤジの書棚の岩波新書の中から引っ張り出して読んだ。焼死体の写真が怖かった。いくつかの体験談をまとめての本。今、東京大空襲の惨劇を地面から見た本としては一番目に上げられてしかるべきだろう。非戦闘員の無差別殺戮というのは、国際法上許されるものではないはずなのだが。これは1945年3月、日本の東京で起こった事実なのである。
読了日:03月09日 著者:
早乙女 勝元
町長選挙 (文春文庫)有名人に仮託してストーリーを展開するというのは姑息な手段です。ナベツネにしてもホリエモンにしても、実在の人物の行状にある程度寄り掛かって話が進む。申し訳ないが枠は既製品で障子紙に絵を描いてごまかされたような気がする。せっかく好個の主人公を前作で確立したのに、また元に戻ってしまった感あり。こういう作品は息が短い。2005年の作だがもう古い感じがしてしまう。作品としての寿命を縮める愚作である。唯一、表題作の「町長選挙」は救いがある。もっとも村の選挙も過去の風景になりつつあるのだけども。
読了日:03月09日 著者:
奥田 英朗
空中ブランコ (文春文庫)例えば。「鬼平犯科帳」は第1巻から絶筆まで、筆の運びに違和感はない。それでも巻をおうごとにこなれてくるのを感じるだろう。それと異なり、前作の「イン・ザ・プール」は大人の読み物の体をなしていないと思った。だが、この1冊は楽しめる。何でなのか。人物の過剰な描写が抜け、動詞で物語りを綴るようになったからだ。十分に「直木賞」の資格はある。筆者の経歴に裏打ちされたプロットが顔を出すのは仕方ないとして、見え透いたドタバタ喜劇から本当の喜劇に近づいた境地を示した1冊。中でも表題作の「空中ブランコ」と「ハリネズミ」が
読了日:03月07日 著者:
奥田 英朗
イン・ザ・プール (文春文庫)「笑える」という言葉にちょっと心動かされ、「東京物語」の延長線上で手にした1冊だけど、正直のところ食傷してしまった。主人公の造形があざとい。いかにもバブル期に青春を過ごした人間ならではの価値観がどこかにのぞく。病院の跡取りの若先生、という造形が、ある意味でホイチョイの発想と通底する。描写はうまいんだけど、上質な笑いに結びついていなんだな。後味に残るものも少ない、というかないし。2001年の直木賞の候補作ではあるが、当時渡辺淳一(大嫌いなのだけど)、黒岩重吾、阿刀田高らが選から外した時の選評が納得できる。
読了日:03月07日 著者:
奥田 英朗
漢字と日本人 (文春新書)肩に力が入ると、ろくなことはないという1冊です。随筆での筆さばきはどこへやら、すこぶる四角四面、教条主義的な話題に終始するのは残念なことです。漢字制限や表音主義の新仮名遣いの話を蒸し返しても、仕方のないことです。言語の表記として不可逆的なことだと思うから。もっと肩の力を抜いた上で、こういう話ができる人物がいないかなぁ。
読了日:03月06日 著者:
高島 俊男
東京大空襲―B29から見た三月十日の真実 (光人社NF文庫)日本人が忘れてはいけない日の一つに、3月10日があると思う。別に陸軍記念日だからではない。米陸軍航空隊本部第21爆撃軍司令部のカーチス・ルメイという人が作戦の実行を決めた日本本土の焼夷弾による無差別空襲の端緒として、東京の下町が空襲された日だ。その死者は10万人という説もあるが、一夜にしてこんな惨劇が繰り広げられたのだ。この本は被災誌ではない。実験を繰り返し、よく燃えるのを確認した上で、実行されたこの攻撃。もちろん日本は平和への加害者でもある。ただ、アメリカも大いなる加害者であることを忘れてはいけない。
読了日:03月05日 著者:
E.バートレット カー
幻視の座―能楽師・宝生閑聞き書き読了日:03月04日 著者:
土屋 恵一郎読書メーター追記