2018年01月08日

★2017年に読んだ本。

2017年の読書メーター
読んだ本の数:119
読んだページ数:31454
ナイス数:4955

炎の牛肉教室! (講談社現代新書)炎の牛肉教室! (講談社現代新書)感想
土佐あかうし、の話が登場するので読了。好きこそ物の上手なれ、というけど、本当に牛肉LOVEの筆者が体を張って書いたルポ、です。ただ、肉を相応に評価してくれる枠組みができてこそ、すべては始まる訳で、第4章の「土佐あかうし」の事例紹介は、担い手確保が難しくなっている日本の農業の中で、一つの好事例であるのがよく分かります。消費者の嗜好は変わりますが、相対的な評価ではなく、絶対的な価値を畜産農家が持ち続けられるかどうか。行間にあかうし王子こと高知県の公文喜一君や、世話になった室戸の信吾さん、拓也くんの顔が……。
読了日:12月15日 著者:山本 謙治
戦争調査会 幻の政府文書を読み解く (講談社現代新書)戦争調査会 幻の政府文書を読み解く (講談社現代新書)感想
幣原喜重郎を中心に、終戦直後に組織された「戦争調査会」。本書では経緯、人選などに触れ、結局、GHQの意向で尻切れ蜻蛉になるまでが前段。後段は議事録をいくつか拾い読みして、興味深い部分の紹介、という構成。なにぶん、知名度の低い調査会の存在を書くのだから仕方ないとはいえ、組織の経緯よりも、証言集の内容の方に興味がある。ただ、この組織が辿った道は今の「もり・かけ」にも通底するような行政組織の記録の残し方、歴史の検証に耐えうるものかという好個の例であったのは間違いない。忘れるに加え、燃やす、消去では困るのだから。
読了日:12月09日 著者:井上 寿一
わたしが生きた「昭和」わたしが生きた「昭和」感想
1995年。戦後50年に刊行された1冊。手元に残った写真、家族と一緒に移住した満州の吉林での体験、また釜山の沖合にある加徳島に駐在し、一家全滅した叔父一家などが綴られる。五族共和、王道楽土という看板だった満州の実像こそ、貴重な記録といえる。食事や物資の配給、住居など、厳然とした差別が横たわる世界。朝鮮に渡る祖母との永久の別れとなった場面で「おかめ蕎麦」が羨ましかったという筆致が妙に印象的。結局、国籍法のなかった満州国。筆者のいう無数の無名な歴史を掘り起こすことこそ、歴史を確認するために必要な作業になる。
読了日:12月08日 著者:澤地 久枝
兼好法師 - 徒然草に記されなかった真実 (中公新書)兼好法師 - 徒然草に記されなかった真実 (中公新書)感想
小机に肘を付いている姿が浮かぶ兼好法師。でも実に執着に富んだ人生を送った様が描かれる。金沢貞顕、高師直の所に出入りしたり、二条良基の下、頓阿らと歌人としての地歩を築いたり。閑居というより、器用に目端利かせて立ち回った人、という印象になる。文書と残っているものが少ない時代ゆえ、筆者の立論は推定、比定の部分が多いとはいえ、作者像の認識を一新させられる。そして「徒然草」自体が随筆というより、事例集としての「大草子」という分類に属するもの、という見立てが興味深い。本書自体が紙背に徹する読みを披露してくれている。
読了日:12月04日 著者:小川 剛生
日本の夜の公共圏:スナック研究序説日本の夜の公共圏:スナック研究序説感想
スナック、というと大人の空気。そんな空間に就いての考現学。法務、社会学、民俗学、歴史学……etc、各々の世界の専門家が真面目に論じる。読み進めて、この手法は「ウルトラマン研究序説」でも採られた手法であったと気付く。各章も興味深く、二次会の起源から探る日本での酒の飲み方や宴会の慣行、昭和初期のカフェー文化との縁等々。題名にある「日本の夜の公共圏」とは蓋し見事な見立てである。統計的手法による分析も興味深いし、スナックという装置を正面から論じて日本の社会規範の一側面を活写することに成功している。真面目で面白い。
読了日:11月16日 著者:谷口 功一,スナック研究会
愛と狂瀾のメリークリスマス なぜ異教徒の祭典が日本化したのか (講談社現代新書)愛と狂瀾のメリークリスマス なぜ異教徒の祭典が日本化したのか (講談社現代新書)感想
フランシスコ・ザビエルの来日以来のクリスマスに特化した日本史である。最初は教会が担い手だったのが、子供の行事になり、乱痴気騒ぎに続く。戦時中の中断を挟んでまた復活。中で紹介している萩原朔太郎の「今の日本には国民的祭日がない。浮かれるのは『失われた祭日』への郷愁」と評が鋭い。この習俗から日中戦争の勃発が落とした影の大きさが分かる。自身のクリスマスの思い出を振り返ると、狂瀾の後に位置していたことが分かる。「サザエさん」の一コマへの違和感の由来だったか。バブル期も経験し、今は遠い思い出。ただし終章は一寸蛇足。
読了日:11月09日 著者:堀井 憲一郎
同性愛は「病気」なの? 僕たちを振り分けた世界の「同性愛診断法」クロニクル (星海社新書)同性愛は「病気」なの? 僕たちを振り分けた世界の「同性愛診断法」クロニクル (星海社新書)感想
同性を愛する行為は一定程度自然な行為であったろう。宗教的な背景から、18世紀に成立したドイツ刑法の143条で、男性同士の性交、獣姦を包括して公序良俗に反すると定めたことを端緒に様々な「判定法」が出現する。脳、ホルモンバランス等々、珍奇な似非医学が登場した。興味本位で日本でも変態性慾という受け止めが生まれた。その後、精神疾患ではないと医学界での見解が成立したのは1990年、日本の文科省の性非行から除外されたのは94年。長い日陰の歴史を「診断法」という切り口で追跡した1冊。さて衆道の歴史のあった日本では如何?
読了日:11月04日 著者:牧村 朝子
天皇家のお葬式 (講談社現代新書)天皇家のお葬式 (講談社現代新書)感想
盛り込み過ぎた部分もあるか。前段が仏式で営まれた葬送の説明で、後段が神式で進められた明治天皇以降の大葬についての説明。でも一番肝心なところは、仁孝天皇までの仏式と国学思想の入ってきた孝明天皇の葬儀、そして国家神道の色彩で統一された明治以降の葬送へと「変形」した部分にある。神仏分離令であり、神道の国家管理化の道である。ここを焦点に詳述して欲しかった。一方、天皇の棺に題目や名号を紙片に書いて納める習俗が残っていたという。表と奥の意識の差が覘く。竹のカーテンの奥には、皇室の私的な信仰は今も残っているのだろうか。
読了日:11月03日 著者:大角 修
全体主義の起原 3――全体主義 【新版】全体主義の起原 3――全体主義 【新版】感想
テーマはナチドイツとスターリン下のソ連の体制。どちらも全てを巻き込むシステムであったことに変わりはなく、本書では両者を比較対照しながら全体主義についての分析が続く。個人的には現下の状況を代入し、反芻ながら読む、という形になった。その中で、10章「階級社会の崩壊」、11章「全体主義運動」の章は特に興味深く読んだ。というのは「よもや」と思いつつも今の日本社会の姿にどこか相似形にも思えるからだ。「政党制度の枠内で政党が議会に多数を占めたとしてもそれは決して国の現実を反映などしていない」など心に残る表現が続く。
読了日:10月16日 著者:ハンナ・アーレント
帝国の昭和  日本の歴史23 (講談社学術文庫)帝国の昭和 日本の歴史23 (講談社学術文庫)感想
「君主無答責」という明治憲法の原則が生んだ権力の空白は、誰も修正不可能な結果を招いた。ナチスドイツの授権法のような強権的な手法ではなく、官僚と現場、政党と財界、無産階級と資本家等々、WWT後の国際化の波の中で累積した矛盾を合法的に手直ししようとした末の結末は承知の通り。どこに修正すべきことがあったのか。今でも答えは明確にできまい。状況の違いはあるものの、昨今の国内の出来事の構造に類似点を見付けるのが恐いくらいだ。戦前と戦後の連続性を思う。特に大政翼賛会発足のころの感覚は。終章の「戦時とモダニティ」は上々。
読了日:10月14日 著者:有馬 学
空のプロの仕事術―チームで守る航空の安全 (交通新聞社新書)空のプロの仕事術―チームで守る航空の安全 (交通新聞社新書)感想
JALの元・名機長が経験、見聞から飛行機の運航に関わる人々の紹介をしていく。機体の運行から、整備、運行管理、機内サービスもすべて経済効率が優先する今の時代。言えばパンナムが世界中の空にジャンボ機を飛ばしていた時代は優雅ではあっても2度と戻ってはこない。そんな時代に育った敢えて筆者が記しておきたいのは、如何にハイテク機になったとしても、それぞれの経験した事例をどう共有化するのか、という点に尽きるだろう。安全運航技術の蓄積は船>鉄道>空、であると思う。空はなお発展途上の分野。プロという一語に込めた思いを想う。
読了日:10月10日 著者:杉江 弘
斎宮―伊勢斎王たちの生きた古代史 (中公新書)斎宮―伊勢斎王たちの生きた古代史 (中公新書)感想
源氏物語の秋好中宮の逸話か、伊勢物語の「君や来し我や行きけむおもほえず夢かうつつか寝てかさめてか」の歌で知られる話程度しか、斎宮の存在は認識されていないだろう。でも実は奈良、平安期の天皇にとっては祖神を斎き祀る大事な役職で国家管理の役所であったことが説かれる。数人の斎王を点描することが生活ぶりや存在感を生み出す効果を生んでいる。その後、両部神道や度会神道の成立や、役目役職は変質。制度自体は南北朝期に絶えてしまうのだけど、上古期には宮中の意思決定に大きな影響を与える存在であったことが描かれる。一種の裏面史。
読了日:10月04日 著者:榎村 寛之
天皇の戦争宝庫: 知られざる皇居の靖国「御府」 (ちくま新書1271)天皇の戦争宝庫: 知られざる皇居の靖国「御府」 (ちくま新書1271)感想
皇居の中に今も残る(と推定される)御府と呼ばれた施設に就いてのルポ。日清戦争の戦利品と戦没者名簿、遺影を納めた振天府に始まり、北清事変の懐遠府、日露戦争の建安府と明治期に続き、大正天皇の時代のWWI、シベリア出兵の惇明府、昭和の戦役を対象とした顕忠府の5棟。天皇が身近で戦没者を慰霊していることを宣撫するための施設に変容し、終戦と共に姿を消す。鹵獲品の行方はともあれ、多くの写真等歴史資料が残る可能性があるという。竹のカーテンの奥、まだこういう存在があったことに驚く。記憶と記録は尚、封じ込められて……。
読了日:09月10日 著者:井上 亮
絶滅危急季語辞典 (ちくま文庫)絶滅危急季語辞典 (ちくま文庫)感想
本書は東京堂出版で出された1冊が親本。あの事典の東京堂が版元なのだが、寧ろ歳時記の体裁を取った随筆、漫筆という方がいい。筆者の謂う「絶滅の虞がある季語」を拾い上げ、俎上に載せて捌いていく。絶滅危惧といっても、「佐竹の人飾」のように、実態を失っているもの、「われから」のように疎遠になっていたもの。面白がるのか、素っ気ないか、それも俳味ということになるのだけど。「綾取」の項でふっと覘く心根や、「霹靂(はたた)神」の項で欣喜している筆者と青ざめる憧れの君の落差とか。句の背後に描かれる世界が面白い1冊。
読了日:09月07日 著者:夏井 いつき
字幕屋の気になる日本語字幕屋の気になる日本語感想
映画の字幕翻訳に生涯を捧げた筆者の最後の随筆。まず字幕が台詞1秒4文字という制約の下で成立しているとは知らなかった。プロ意識に関わる部分は「字幕屋・酔眼亭の置き手紙」の章に詳しい。"You didn't know?"が「知らなかった?」になり、秒数の制限から「初耳?」に置き換えていく。言葉への感覚が研ぎ澄まされるのはなるほど、と思う。それと1章目の「気になる日本語」も成程の連続。自分の言葉への感覚に近いのにちょっと安堵したり、膝を打ったり。制約の下で意を尽くす。字幕翻訳で身に着けた圧縮技術、畏るべし。
読了日:09月06日 著者:太田 直子
鎌倉幕府滅亡と北条氏一族 (敗者の日本史)鎌倉幕府滅亡と北条氏一族 (敗者の日本史)感想
鎌倉殿の屋台骨を支える北条氏が執権、得宗となり、滅亡していく過程から、権門体制論に対する「東国国家+西国での軍事勢力」という構図を見立てる。北条氏は実質的に政権を掌握した後、元寇を機に全国支配を目指すものの内部抗争から破綻していく。一門で鎌倉殿+六波羅、鎮西探題と切り回すのは人材的に厳しかった。それ以上に事務方の根強さが際立つ。実務を担った官僚は室町殿の時代になっても、或いは徳川殿の時代になっても(今も?)生き残る。角田文衛の「平家後抄」ではないが、「鎌倉殿後抄」みたいな本を読んでみたいなぁ、と。
読了日:09月02日 著者:秋山 哲雄
ノーサイド成田闘争―最後になった社会党オルグ (ふるさと文庫)ノーサイド成田闘争―最後になった社会党オルグ (ふるさと文庫)感想
旧社会党オルグの加瀬勉を主人公に据えた成田闘争史。空港開港に向けて国の執った方策、手段は憲法に抵触するものであったと思う。開港40年を迎えようかという今、空港自体が一番の地域にとっての産業であり、雇用先であり、立地要件になっている。都市近郊農業で生活基盤を確保していたかつてとは異なり、「空港があるからこそ」の町なら、空港との共生共栄を考えるしかない。空港周辺で人口の増加が見込めるエリアと少子高齢化+人口減少の続くエリアに二分化している昨今、歴史と現実との間の清算が一層、自覚的に必要ではないか。
読了日:08月18日 著者:桑折 勇一
新・中世王権論 (文春学藝ライブラリー)新・中世王権論 (文春学藝ライブラリー)感想
本郷先生の権門体制論批判。謂わば「東国国家論」の改良版。「王権」という言葉が適切かは別にして、北条家が執権から得宗専制への移行を通じて、東の武門、西の朝廷の関係を読み解いていく。筆者は「将軍と首頂」という概念を提唱している。寧ろ武力政権が統治の手法を習得する過程と受け止めると分かりやすいかも。勿論、その延長線上に後醍醐天皇の建武の新政、また足利高氏、直義の太平記の時代を挟んで、義満に至って文字通りの「王権」が確立するのだが、頻りに2項対立的に見立てる手法には時に違和感があるものの、見立てとしては興味深い。
読了日:08月14日 著者:本郷 和人
日本史の快楽―中世に遊び現代を眺める (角川ソフィア文庫)日本史の快楽―中世に遊び現代を眺める (角川ソフィア文庫)感想
元原稿は1994年から週刊現代に連載された1ページの〈漫筆〉。1ページという紙幅と週刊という時間的制約。当然ながら、文章にコクがあるかと言われれば、普くその水準を維持するのは厳しい。江戸期に多く書かれた随筆を連想する。数篇は成程と思うものもあったが、舌足らずの感が拭えない。余談ながら、この手の随筆というと、その昔、岩波書店の「図書」に連載された「一月一話」(淮陰生=英文学者の中野好夫の筆名)が思い出される。時事ネタを取り上げても古びない。文章の運びがよく、切れ味がいい。こんな水準こそ〈随筆〉であると思う。
読了日:08月05日 著者:上横手 雅敬
歴史力で乱世を生き抜く (中央公論 Digital Digest)歴史力で乱世を生き抜く (中央公論 Digital Digest)感想
呉座本「応仁の乱」ベストセラー記念の特集号2017年4月号の中央公論の抜き刷り。日本中世史学者の呉座が言う「WWIに似ている応仁の乱」説をイギリス外交史学者の細谷雄一との対談で肉付けしていく。均衡・協調・共同体、という秩序の体系が破れ、戦時と平時の区別がなくなる時代になっていく、という見立てが浮き彫りになる。これは「応仁の乱」が改版になるなら是非解説代わりに巻末に欲しい対談。清水克行と古代オリエント学者の小林登志子の対談「神は紛争をどう解決してきたか」も興味深い。この2篇の対談だけで十分にお勧めです。
読了日:08月03日 著者:呉座勇一,細谷雄一,池田嘉郎,佐藤賢一,出口治明,小林登志子,清水克行,原田眞人,宇野重規,瀧井一博
人民元の興亡 毛沢東・ケ小平・習近平が見た夢人民元の興亡 毛沢東・ケ小平・習近平が見た夢感想
紙幣とは不思議なもの。たとえば日本円。外貨準備としてかつては金、今は米ドルの保有が信用の裏付けになる。今の人民元もバスケット制があり、米国債を保有が信用の源だ。大陸では多くの発券銀行が存在し、統一的な紙幣がなかった。日米英ソなどが瓜分を試みた時期に重なる。筆者はそんな時代から読み解き始め、人民元をIMFのSDR構成通貨まで育て上げた苦闘を読み解く。この先、米ドルとならぶ基軸通貨になり得るかと言えば、中国自身の体制が抱える弱点ゆえに限界があるとの指摘、ビットコインの登場まで目配りする視野が広くて楽しい1冊。
読了日:07月08日 著者:吉岡 桂子
バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史 (中公新書)バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史 (中公新書)感想
オスマン帝国の西端、バルカン半島の来歴をまとめた1冊。旧ユーゴ諸国が分離独立した後の出来事は記憶に残る。決して昔の話ではない。何で「火薬庫」になってしまったのか、を読み解くのが眼目。民族、宗教(イスラム、ギリシャ正教などなど)という「違い」を意識するきっかけとなったのは西欧から来た「ナショナリズム」の故であり、露、独、墺、仏、英といった周囲の国々の影響、思惑が覘く。一概に「国民国家」の成立が近代化なのか、と考え込む。現在進行形である中東での混乱を見るにつけても……。巻末の訳者外題から読む方が分かりやすい。
読了日:07月05日 著者:マーク・マゾワー
東京昭和百景―山高登木版画集東京昭和百景―山高登木版画集感想
たぶん戦後、1964年の東京五輪前後までの風景の版画。安藤広重を初め、多くの浮世絵師が手がけてきた素材だが、どこか、新版画の旗手、川瀬巴水の感性とか、川上澄生の色づかいの影響も感じられる。小、中学生のころ、背伸びして出かけた東京にあった風景。もう残っているところは少ないが。ちょと知人がいいねをしているので、手を伸ばした1冊。
読了日:07月03日 著者:山高 登
ノモンハン事件―機密文書「検閲月報」が明かす虚実 (平凡社新書)ノモンハン事件―機密文書「検閲月報」が明かす虚実 (平凡社新書)感想
ノモンハン事件の概要、国内での報道、現地での検閲ぶり、そして戦中戦後に亘る享受史を概説した1冊。新書という判型、入門書という制約があるので仕方ないのだけど、力点を絞って欲しかった気がする。抑も日本側、旧ソ連側の記録が詳細になっているという状況になく、なお先方の秘密文書が次々発見されているのが現状では事件についての記述も得心のいく内容を提示しにくいのは承知だが。個人的には本書は副題にもある「検閲資料」の部分と戦中戦後の当事者の執筆に懸かる戦記、そして藤田嗣治の絵が2枚あったという逸話を膨らませて欲しかった。
読了日:07月02日 著者:小林 英夫
謎の漢字 - 由来と変遷を調べてみれば (中公新書)謎の漢字 - 由来と変遷を調べてみれば (中公新書)感想
肩肘張らずに読むと楽しい。漢字に魅せられて、享受の歴史を辿れば、という随筆だからだ。中国に発し、日本に渡ってきた文字体系がどう受け止められてきたのか。地名に残る国字、或いは作字の山。JIS水準漢字のコードを決める作業に携わった筆者には感慨深いものがあろう。また、5代目團十郎が名乗った「鰕蔵」のエビの字。海老でも蝦でも蛯でもない。江戸期の爛熟した文化が背景にある。そして科挙の制を通じて筆記の際に変転する字形、書体で甲乙を付ける愚かしさ。研究というのはこういう風に目線を上げたら楽しい、と説いている1冊。
読了日:06月09日 著者:笹原宏之 著
陰謀・暗殺・軍刀―一外交官の回想 (岩波新書 青版 38)陰謀・暗殺・軍刀―一外交官の回想 (岩波新書 青版 38)感想
初版は1950年。世上では真相を記す貴重な書であったのだろうけど、今、読み返してみると、果たしてどうだろうか。例えば文中に、奉天総領事時代の吉田茂について「現総理」という記述が出てくる。当時はあからさまなことを書けないほどに生存者はいただろうし、筆者が先を急ぐあまり、書いていることが散漫になっている気がする。頭の中でかなりの事項を補いつつ読むしかない1冊で、当事者の記録としての価値は見いだし得るものの、今となっては隔靴掻痒、馬耳東風の感が強い。彼も東大法科を出た一流官僚。視点は一角からしか、でない。
読了日:06月05日 著者:森島 守人
習近平の中国――百年の夢と現実 (岩波新書)習近平の中国――百年の夢と現実 (岩波新書)感想
読み終えて感じること。「歴史は2度繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」という言葉だ。この国は2度目どころか、この警句を何回も繰り返してきた訳で、今の習近平もまた軛から逃れることはない。「士庶の別」と「華夷の別」。本書を通じて、この2つの概念を乗り越えることはかなり難しいのを実感した。と同時に時代はこの国に別の役割を求め始めている現実。一強だったはずの米国が漂流を始めた中、党の下に国家があるという体制がどこまで維持できるのか。事実を積み上げた書きぶりならではの説得感が残る。大丈夫なのか、と。
読了日:06月03日 著者:林 望
列島を翔ける平安武士: 九州・京都・東国 (歴史文化ライブラリー)列島を翔ける平安武士: 九州・京都・東国 (歴史文化ライブラリー)感想
「一所懸命」という言葉に引き摺られる訳でもないが、武士=土着、という印象が強い。実は京の兵家貴族が地方へ下り、地元の豪族と結びついて勢力を広げていった様を読み解く。全国を股にかけての展開だ。本書の話題の舞台の中心は九州。京から、関東から下った武士が頭角を現していく様を書く。立論に蓋然性は高いとは思うものの、推定形の結論が一寸目立つのが気になった。伊勢を基盤にした平氏、東国を基盤にのし上がった源氏と、一朝一夕に表舞台に躍り出た訳ではないのが分かる。物資も自給自足ではなく、薩摩〜京〜陸奥と結んだ。興味深い。
読了日:06月01日 著者:野口 実
80時間世界一周 格安航空乗りまくり悶絶ルポ (扶桑社新書)80時間世界一周 格安航空乗りまくり悶絶ルポ (扶桑社新書)感想
80時間、13万円台で西周りで世界一周(茨城〜上海〜モスクワ〜デュッセルドルフ〜チューリッヒ〜NY〜LA〜羽田)する話。2012年刊。就航していない所に住んでいたので実感がなかったが、実はLCCが空の世界を大きく変えているのを実感する。旅の大半が旅客機の中という旅行記なので、J・ヴェルヌのような波瀾万丈の中身にはならないのだけど、手続きと出入国審査と乗り継ぎを繰り返すのが現代的な波乱劇なのかも。小さな出来事からお国柄の見立てはなかなかに巧者。ともあれ今、世界の空はLCCだらけだったんだ、と。
読了日:05月09日 著者:近兼 拓史
和食の歴史 (和食文化ブックレット5)和食の歴史 (和食文化ブックレット5)感想
和食の歴史を概観した1冊。卓上に備えた塩や醬で自分で調味しながら食べた大饗料理の時代から、醱酵調味料の登場で味付けまでした形で供される形へ。実質的には鎌倉期の精進料理(粉食文化も)、室町期の本膳料理が茶道の懐石料理、江戸期の会席料理を節目に進化する。根幹にあるのは主食の米。モンスーン地域に適合した作物だったのが幸い。で、興味深かったのは、戦前の水準に米作の量が戻ったのが1955年。高度成長期前夜。進学率、集団就職、いろんなことに繫がっていそう。副菜の中で、肉食が魚食を上回ったのが1988年だったとは意外。
読了日:05月06日 著者:原田 信男
「天皇機関説」事件 (集英社新書)「天皇機関説」事件 (集英社新書)感想
美濃部達吉が貴族院で追及された「天皇機関説」。立憲主義を守るために必要であったものが、「天皇主体説」を奉じる面々に駆逐されていった。端緒は箕田胸喜や菊池武夫らながら、政争の具にした鈴木喜三郎、枢密院議長の座を巡っての平沼騏一郎、陸軍内の主導権争いの梃子にした真崎甚三郎と、有象無象が群れていき、混迷を深める。しかも「国体」という実態のない概念を奉じての行動に振り回される。勿論、世上に正常な情報を与えるべき報道機関も含め、呆れるばかりの軽躁の様に、情けなくさえある。さて歴史の彼方と嗤っていられるか否か……。
読了日:05月05日 著者:山崎 雅弘
天下泰平の時代〈シリーズ 日本近世史 3〉 (岩波新書)天下泰平の時代〈シリーズ 日本近世史 3〉 (岩波新書)感想
江戸時代でも、4代家綱から10代家治の頃までを視野に入れた1冊。外は明から清への王朝交代に始まって、露国の蝦夷地への来訪まで。内は武力による統治から権威を利用した治世に、江戸と京の関係では融和、統制から幕末への胎動まで。版図の言葉通り、地図を作り、戸籍を作り、修史をし、貨幣の改鋳から経済政策まで。天下泰平の大筋を網羅していく。今に続く統治機構、官僚制度の根幹が作られ、確立した体制は盤石に見えても格差の拡大によって揺らいでいく。時代区分で言えば中世から近世への移行期。小さな変化を紡いでいく書きぶり、良書。
読了日:05月04日 著者:高埜 利彦
昭和の歌舞伎 名優列伝 (淡交新書)昭和の歌舞伎 名優列伝 (淡交新書)感想
本文269頁の本で169頁までが筆者の未見の役者の話。列伝体ではあっても筆者の知識の集積を編輯した体裁。1次資料といいづらく、出典の明記も少ない。1955年生まれの筆者が取り組む主題としては厳しい気がする。75年以前が没年の役者になると、実際に見ていても運びが弱い。勢い文末を丸めるような文体で上品だけど、全体的に歯切れが悪い。同趣向の1冊として1960年生まれの中川右介「歌舞伎 家と血と藝」(講談社現代新書)の方が見立ての藝が行き届いていて出来がいいと思う。役者同士の聯関の説明が分かりにくいのも残念。
読了日:04月17日 著者:石橋 健一郎
張作霖:爆殺への軌跡一八七五‐一九二八張作霖:爆殺への軌跡一八七五‐一九二八感想
日本史の教科書なら1行にも満たない出来事が約350ページの本になった。1875年に奉天海城で生まれた張作霖を主人公に、日清、日露の戦役から清朝崩壊、軍閥の割拠、国民党の北伐を前に躍動した跡を辿る。2000年代以降に主に刊行された中国側の資料を読み込み、日本側の資料と付き合わせて描き出した物語、前半は講談を聞くような快感があり、後段はソ、日など外国勢力の思惑と各軍閥の絡み合いを描いて倦むことない展開。1928年の爆殺まで、精緻な細工ものを見るような楽しさがある1冊。行間にひとかどの人物像が浮かび上がる。
読了日:04月09日 著者:杉山 祐之
プロ野球・二軍の謎 (幻冬舎新書)プロ野球・二軍の謎 (幻冬舎新書)感想
田口はプロ生活を始めた頃を知っているし、その後のMLBでの経験談も愛読してきた。書きぶりには一目どころか井目風鈴くらい置いているものの、本書はちょっと物足りない。テーマはファーム制度の話か、日米の比較なのか、2軍監督1年生としての経験談なのか。焦点が絞り切れていない感じが残った。もっと自在に書いていいのだし、筆者ならできるはず。何しろ、あの仰木彬やT・ラルーサの下でプレーした選手なのだから。もっと歯切れ良く書けたはず。プロの世界を一般社会まで敷衍しようという試みが本書の内容を半煮えにしたような気がする。
読了日:04月08日 著者:田口 壮
世界のなかの日清韓関係史-交隣と属国、自主と独立 (講談社選書メチエ)世界のなかの日清韓関係史-交隣と属国、自主と独立 (講談社選書メチエ)感想
冊封制度は中国に臣下の礼はとっても、内政外交は自主的にできる「属国自主」の概念。植民地とは東アジアでは似て非なるものと受け止められてきた。礼を基本とする儒教を国教とした朝鮮は中国本土の王朝が明から清にと変わった中、自身が正統で天朝を引き継ぐものとしての自負が膨らむ。一方、18世紀にこの地を訪れた帝国主義を掲げる西欧列強には不可解な慣習だったろう。本書は朝鮮のそんな歴史的背景を踏まえた上で19世紀以降の変化を解析した点が今に続く事情の理解に役立つ。筆者の一連の著作を併読すると立体的に見えてくるものがある。
読了日:04月05日 著者:岡本 隆司
ブッダと法然 (新潮新書)ブッダと法然 (新潮新書)感想
釈迦と法然。「0」から「1」を生んだ宗教者という視点で読み解いていく。縁起を説いた人と念仏往生を説いた人。先行する考えを否定することで次の段階に進んでいく。「空亦復空」であり、悟りを開いたと思った瞬間に次の考えを生んでいかざるをえない。キリスト教は公会議で教義を1本に絞ってきたのとは対照的に絶対者・阿弥陀を想定しながら、そこで止まることがなかった点に筆者は仏教の特色を見る。読み終わって感じること。法然のという人はやはり叡山の人で、持戒清浄、大原問答に勝てる学識、もっと認識が改められていい宗教者である。
読了日:03月05日 著者:平岡聡
ロシア革命――破局の8か月 (岩波新書)ロシア革命――破局の8か月 (岩波新書)感想
帝政ロシアの2月革命から10月革命に至る間の動きを追った1冊。混迷の構図の原因は「2分法」の思想にあるという。資本家、支配者などの「あいつら」と農民、兵士、労働者などの「われわれ」という構図だ。相手を考える余裕がなければ双方の理解と交渉と妥協が成立するはずもない。結局、ボルシェビキは結局、力で圧倒することで政体を確立したのだから。同じく共産主義革命が起きた中国を見れば根底には「士庶」「華夷」の別があり、本書で取り上げられた崩壊にも似る。で、日本では……。中世くらいのイメージかなぁ。さらに今の世相も……。
読了日:03月04日 著者:池田 嘉郎
中世の声と文字 親鸞の手紙と『平家物語』 シリーズ<本と日本史>3 (集英社新書)中世の声と文字 親鸞の手紙と『平家物語』 シリーズ<本と日本史>3 (集英社新書)感想
本来の本書の趣旨は、人が意図を伝える手段としての手紙や物語が書き言葉の漢文ではなく、仮名交じりになったという事象をきちんと分析、紹介することにあったはず。親鸞の手紙や和讃を取り上げるが表層的な感じ。後段の平家物語の部分は兪々表層。語り本系から読み本系へ発展したとする嘗ての説を筆者は奉じているが、最近の研究では逆。延慶本辺りに古態を見るのが定説だ。保元、平治物語もそう。昨今の国文学研究の進展を理解していないように見える。むしろ、本書は慈圓はなぜ愚管抄を漢字仮名交じりで書いたかを説く方が大切ではなかったか。
読了日:03月03日 著者:大隅 和雄
〈麻薬〉のすべて (講談社現代新書)〈麻薬〉のすべて (講談社現代新書)感想
痲薬という字面の禍々しさ。「規制薬物=麻薬」なら中枢神経を抑制するモルヒネ類も興奮させる覚醒剤類も幻覚を催すLSDの類いも同じ範疇になる。寧ろ「血液脳関門通過物質」であることが共通項になる。罌粟、麦角といった植物を生かす古代からの知恵と、モルヒネの単離、尿素合成に始まる近現代の有機化学の技術が出会った時に、別方向へのベクトルが働いた気がする。南北戦争や普仏戦争でのモルヒネ、WWUでの覚醒剤、ベトナム戦争時のコカイン。薬用だけとはいかない。ただ薬も麻薬も結局は使い方次第という結論では肩透かしの感もある、が。
読了日:03月01日 著者:船山 信次
親鸞の信仰と呪術: 病気治療と臨終行儀親鸞の信仰と呪術: 病気治療と臨終行儀感想
「浄土真宗とは何か」の底本。今の認識では高僧であった法然も親鸞も平安〜鎌倉期に生き、比叡山で修行し、往生を願う人であったという素朴な背景の設定を読み解く。病気の時には呪術を使って快癒を願い、臨終に臨んでは奇瑞の顕現に願う。本人は元より、門弟や家族もそう願う。子弟も天台、真言の寺に学んでいる人。本書はごく当たり前の当時の風景が、後の信者の偏向で歪められた姿を補正する。新書版と梗概は同じながら、専門書として骨格が明解。浄土教の教えの「揺れ」がむしろ自然であり、後に「聖人」として固定化する前の姿に力を感じる。
読了日:02月12日 著者:小山 聡子
ことばの地理学: 方言はなぜそこにあるのかことばの地理学: 方言はなぜそこにあるのか感想
方言と謂えば「蝸牛考」。京を中心に同心円状に伝わるという柳田国男の周圏説だ。本書は視点を変えて区画説の立場で論が進む。例に否定形の語尾が「〜ない」か「〜ん」か。原因理由の接続助詞が「〜から」か「〜さかい」「〜きん」「〜よって」か。東西で分布が分かれると同時に、人の行き来で影響が拡散していることを分析する。そんな学問を「言語地理学」というそうだ。海陸の交通網、家族制度、人口密度、社会組織が東日本の同族的な番か西日本の地域単位の年齢階梯組織の衆か−−種々の要素を考えつつ、調査結果を記した地図を見るのは楽しい。
読了日:02月07日 著者:大西 拓一郎
柳田国男と今和次郎 (平凡社新書)柳田国男と今和次郎 (平凡社新書)感想
筆者は今和次郎のことが書きたかったのだと思う。そこで「民俗学とは」を書くためには柳田国男が必要になり、紙幅を割いたことで焦点が合いにくくなってしまったか。日本の民俗学の系譜で、柳田の「弟子」の今和次郎の仕事を探るはずが、登場人物が多くてエピソード集みたいになってしまった感がある。多彩な人脈を書くことより、今和次郎の存在を今の時点で掘り下げて欲しかった気がする。人物群の中で黒岩忠篤(終戦時の農水大臣。映画「日本の一番長い日」では「昭和8年以来の凶作が見込まれ……」みたいな台詞を言う)の存在は興味深かったが。
読了日:02月06日 著者:畑中 章宏
日本列島100万年史 大地に刻まれた壮大な物語 (ブルーバックス)日本列島100万年史 大地に刻まれた壮大な物語 (ブルーバックス)感想
この風景はどう出来上がった? という疑問に今の時点での知見で解説した1冊。日本列島は花崗岩質で密度の低いユーラシアプレートに玄武岩質で密度の高い太平洋、フィリピン海プレートが沈み込む現象が続いているのは周知だが、気候変動で海水面の上下が起き、浸蝕や堆積が繰り返されたという視点を繋げたところが興味深い。まさか濃尾平野と近江盆地、京都盆地に大阪平野が繋がった動きであったとか、御前崎、潮岬、室戸岬、足摺岬の生成が関連があったとか。機序は頗る力学的なのだけど、組み合わせた時の面白さ。門外漢も楽しめる1冊でした。
読了日:02月03日 著者:山崎 晴雄,久保 純子
「大日本帝国」崩壊―東アジアの1945年 (中公新書)「大日本帝国」崩壊―東アジアの1945年 (中公新書)感想
1945年8月15日は日本では終戦記念日。だが朝鮮、台湾、中国本土、南方、樺太、千島は同じ時期に別の事態が進展した。不可侵条約を破ってソ連軍が南下した北方では後のシベリア抑留や居留民の放置が起こり、朝鮮では南北分割の基礎が固まった。台湾も本省人と外省人の対立は残った。日本は国として戦争終結がやっとで、民間人の保護と統治の引き継ぎすら満足にできなかった。政府の責任や大である。当時、大東亜省は「居留民はできうる限り定着の方針を執る」との指示しかなかったと言う。統治者の責任放棄に近く、戦後の禍根を残した日々だ。
読了日:01月04日 著者:加藤 聖文
SMAPと平成 (朝日新書)SMAPと平成 (朝日新書)感想
筆者には「歌舞伎 家と血と藝」という秀逸な1冊がある。梨園を愛憎、欲望、虚実入り乱れて描いたその本の印象があり、期待を持ってSMAP本2冊目と選んだものの、正直のところ期待外れだった。平成という時代区分(が一般化するかどうか分からないけど)、今上天皇、歴代内閣、世上の出来事をSMAPというグループの動向と繋ぎ合わせることで時代の空気感を描こうという意図なのだけど、結構、牽強付会のような気もして、総体にまとまりに欠ける。話の重心はグループとして世に出て第一人者になっていくまでに重心がある。話が流れ過ぎる。
読了日:01月03日 著者:中川右介
日本はなぜ開戦に踏み切ったか―「両論併記」と「非決定」 (新潮選書)日本はなぜ開戦に踏み切ったか―「両論併記」と「非決定」 (新潮選書)感想
1941年の日米開戦に至る官僚(近衛文麿を除けば大臣も官僚の一種)の動向を跡付けした1冊。意思決定というより、筆者の言う「非(避)決定」と「両論併記」、自己矛盾の繰り返しの記録である。資源を目指して南方に進出しても輸送手段が不如意、工業生産の目算もなく、先方の意向すら牽強付会。この論法は満州事変、日中戦争を通じて現場専行を周囲が追認する構図と相似である。明治憲法下で天皇は無答責の存在で、建前論と御都合主義を制止する権能がどこにもないという制度上の欠陥はあるにせよ。今でもこの行動様式への危惧が拭い切れない。
読了日:01月02日 著者:森山 優
軍艦と装甲―主力艦の戦いに見る装甲の本質とは (光人社NF文庫)軍艦と装甲―主力艦の戦いに見る装甲の本質とは (光人社NF文庫)感想
「攻めるも守るも鐵の」という存在の軍艦。砲弾の威力と防禦の装甲は矛と盾。本書は木造帆船の時代、船首の衝角で体当たりという戦法の頃から40サンチ砲を備えたビッグ7の登場とワシントン条約で海軍の休日に入るまでの試行と結果を淡々と綴っていく。装甲鈑の質的な改良がある一方、砲撃や水中攻撃の進化で耐えられても人的被害が防げなくなる。1dの砲弾が音速の2倍で命中する世界は戦艦を巨大化させ、建艦費の高額化を招き、時代の遺物化を進めることになる。理詰めの書きぶりで納得。なぜ日本がこの妄想から抜け出せなかったか。不思議だ。
読了日:01月01日 著者:新見 志郎

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posted by 曲月斎 at 23:41| Comment(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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