2017年11月01日

☆2017年10月に読んだ本

10月の読書メーター
読んだ本の数:12
読んだページ数:2810
ナイス数:439

出羽三山――山岳信仰の歴史を歩く (岩波新書)出羽三山――山岳信仰の歴史を歩く (岩波新書)感想
山岳信仰は日本の宗教観の中で、特異な位置を占める。2度の変化(江戸時代の宗門改と明治時代の神仏分離)を経て、大きく変容している。中で出羽三山の信仰は今猶、古体を残している。そんな信仰の姿を総まくりした入門書。歴史に始まり、四季の峰入り、古絵図から探る三山の信仰の姿、一世行人と山麓に残る即身仏信仰、そして修行者、参詣者のための食、そしてツーリズムの発展まで目配りの行き届いた1冊になっている。信仰は広く関東地方にまでその跡を残す。2度の破壊を経て、分かり難くなっている元の姿をトレースする試みは成功している。
読了日:10月29日 著者:岩鼻 通明
日本史の内幕 - 戦国女性の素顔から幕末・近代の謎まで (中公新書)日本史の内幕 - 戦国女性の素顔から幕末・近代の謎まで (中公新書)感想
新聞連載の漫筆。森羅万象、見識を蓄積して繋ぎ合わすというのはやはり才能だと思う。本書で面白かったのは第4章の「この国を支える文化の話」の項。能、香道、生花に落語、そして出版。実際に体験してみたからこその随想がおもしろかった。出版の話の中で「本が作った国に生きている」という表現は将に当たっていると思う。江戸時代には「往来」物から、今に至るまで続く「日本外史」の歴史観、そして「養生訓」。ほかにも太平記や謡本など、紙で見聞を広め、知識を積み重ねてきた歴史を改めて思う。筆者ならずとも、Webの時代、如何にせんと。
読了日:10月29日 著者:磯田 道史
十五歳の戦争 陸軍幼年学校「最後の生徒」 (集英社新書)十五歳の戦争 陸軍幼年学校「最後の生徒」 (集英社新書)感想
先の戦争を体験した世代が物故していく中、陸軍幼年学校最後の生徒だった筆者が当時を回顧し、自身の歩みを振り返った等身大の部分には発見がある。俸給を貰うようになって兵として組み込まれた自分の発見、空襲で死んだ学友の屍衛兵のこと、陸幼に同性愛の気風があり、阿南惟幾を評して「陸幼始まって以来の美少年」との言葉をして、その証左という。空気を体験した人ならではだ。「鬼畜米英といっても顔が浮かばない」というのもまた実感で興味深い。終章は「なぜ戦争に進んだか」を筆者なりに謎解きした部分でこの時代を生きた人ならではの解釈。
読了日:10月29日 著者:西村 京太郎
江戸の小判ゲーム (講談社現代新書)江戸の小判ゲーム (講談社現代新書)感想
寛政の改革の際の棄捐令や猿楽町会所の施策、数次に渉る貨幣の改鋳を例に、一連の施策が商人が蓄える金銀を市中に流通させる幕府の金融政策と解釈し直すのが本書の眼目。経済活動を刺激する、と読み替えるのは新鮮。筆者が経済学のゲーム理論に出会い、史料を読み解いたのが面白い。ただ、ここまで劇的だったのだろうか。確かに「支配−被支配」という二項対立という視点だけに縛られていては窮屈だが、ここまで自由闊達であり得たか。江戸三年寄の奈良屋・樽屋・喜多村や大坂の三郷惣年寄の権能、株仲間制度など考慮すべき変数は多い気がする。
読了日:10月29日 著者:山室 恭子
カラー版 地図にない駅 (宝島社新書)カラー版 地図にない駅 (宝島社新書)感想
筆者の本は「秘境駅に行こう」が最初。藤枝に住んでいて、大井川鐵道の奥大井湖上駅が紹介されていたので手に取ったのを思い出した。本書も京成本線の駒井野信号所が出ていたので手を伸ばした。信号所、臨時駅、仮乗降場の一覧がついているので、何かの時?の索引用に手元に置くような。車窓から眺めていてもそれと知らなければ気がつくことはないだろう。でもそこにはなにがしかの物語がある。年に1度の体育祭、あるは祭礼のため、工事の従事者のため、など鉄道が今よりも身近な存在であった証なのかも知れない。函館本線張碓をふと思い出した。
読了日:10月28日 著者: 
折口信夫 - 日本の保守主義者 (中公新書)折口信夫 - 日本の保守主義者 (中公新書)感想
碩学・折口信夫の考えを社会全体の中で位置づけてみたら、という1冊。心の動きを折口の「歌」と「発言」を元に分析する。関東大震災後の朝鮮人虐殺、2・26事件など、心動かすものがあるものの、基調としては日本人の心に与える潤いこそ大事であり、国学で教示するのが仕事と思っていたと説く。社会への関心がありながら、要路への交渉が薄く、WWUでは沖縄戦や養子の春洋の戦死まで実感として戦争を受け止めていたのか……。平泉渉や阿南惟幾など、対照として登場する。ただ、ねっとりとした読み心地がこの本からは感じられない。どうだろう。
読了日:10月27日 著者:植村 和秀
トラクターの世界史 - 人類の歴史を変えた「鉄の馬」たちトラクターの世界史 - 人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち感想
1892年に内燃機関搭載のトラクターが登場した。筆者に指摘される迄、この機械が人間の世界に齎した影響力に気付かなかった。農耕の牛、馬に代わる存在という以上に、収穫量増の代償に、農家の中での肥料の循環が崩れ、化学肥料が浸透、深く耕す影響で進んだ土壌の乾燥化を招き、同時に農家の自給自足が崩れた。中小農家の衰退と工業への労働力移動の20世紀だった。と同時に戦争の世紀でもあり、WWIでの戦車の登場にも繫がる。本書は米、ソ、中、そして日本など世界各地での影響を追う。躍動的で立体的。20世紀を考察する視点として痛快。
読了日:10月22日 著者:藤原 辰史
享徳の乱 中世東国の「三十年戦争」 (講談社選書メチエ)享徳の乱 中世東国の「三十年戦争」 (講談社選書メチエ)感想
1455年から1483年まで続いた関東での内乱「享徳の乱」に就いての筆者執心の1冊。室町殿の東国の出店・鎌倉公方とNo.2の関東管領の覇権争い。前提として守護領国制が明確に確立していた西国と違い、関東はどうだったのだろうとの疑問が残る。関東管領を誅した鎌倉公方・成氏(4代持氏の子)が起こした争乱の間に、国人層の自立が高まり、戦国大名化が進み、地頭、領家、本家という階級や寺社領での力関係が変わる。肝腎の「応仁の乱の前哨」説は筆者のいうのも一理あろう。だが、相似形であるものの今一つ得心がいかない気もしている。
読了日:10月18日 著者:峰岸 純夫
全体主義の起原 3――全体主義 【新版】全体主義の起原 3――全体主義 【新版】感想
テーマはナチドイツとスターリン下のソ連の体制。どちらも全てを巻き込むシステムであったことに変わりはなく、本書では両者を比較対照しながら全体主義についての分析が続く。個人的には現下の状況を代入し、反芻ながら読む、という形になった。その中で、10章「階級社会の崩壊」、11章「全体主義運動」の章は特に興味深く読んだ。というのは「よもや」と思いつつも今の日本社会の姿にどこか相似形にも思えるからだ。「政党制度の枠内で政党が議会に多数を占めたとしてもそれは決して国の現実を反映などしていない」など心に残る表現が続く。
読了日:10月16日 著者:ハンナ・アーレント
帝国の昭和  日本の歴史23 (講談社学術文庫)帝国の昭和 日本の歴史23 (講談社学術文庫)感想
「君主無答責」という明治憲法の原則が生んだ権力の空白は、誰も修正不可能な結果を招いた。ナチスドイツの授権法のような強権的な手法ではなく、官僚と現場、政党と財界、無産階級と資本家等々、WWT後の国際化の波の中で累積した矛盾を合法的に手直ししようとした末の結末は承知の通り。どこに修正すべきことがあったのか。今でも答えは明確にできまい。状況の違いはあるものの、昨今の国内の出来事の構造に類似点を見付けるのが恐いくらいだ。戦前と戦後の連続性を思う。特に大政翼賛会発足のころの感覚は。終章の「戦時とモダニティ」は上々。
読了日:10月14日 著者:有馬 学
空のプロの仕事術―チームで守る航空の安全 (交通新聞社新書)空のプロの仕事術―チームで守る航空の安全 (交通新聞社新書)感想
JALの元・名機長が経験、見聞から飛行機の運航に関わる人々の紹介をしていく。機体の運行から、整備、運行管理、機内サービスもすべて経済効率が優先する今の時代。言えばパンナムが世界中の空にジャンボ機を飛ばしていた時代は優雅ではあっても2度と戻ってはこない。そんな時代に育った敢えて筆者が記しておきたいのは、如何にハイテク機になったとしても、それぞれの経験した事例をどう共有化するのか、という点に尽きるだろう。安全運航技術の蓄積は船>鉄道>空、であると思う。空はなお発展途上の分野。プロという一語に込めた思いを想う。
読了日:10月10日 著者:杉江 弘
斎宮―伊勢斎王たちの生きた古代史 (中公新書)斎宮―伊勢斎王たちの生きた古代史 (中公新書)感想
源氏物語の秋好中宮の逸話か、伊勢物語の「君や来し我や行きけむおもほえず夢かうつつか寝てかさめてか」の歌で知られる話程度しか、斎宮の存在は認識されていないだろう。でも実は奈良、平安期の天皇にとっては祖神を斎き祀る大事な役職で国家管理の役所であったことが説かれる。数人の斎王を点描することが生活ぶりや存在感を生み出す効果を生んでいる。その後、両部神道や度会神道の成立や、役目役職は変質。制度自体は南北朝期に絶えてしまうのだけど、上古期には宮中の意思決定に大きな影響を与える存在であったことが描かれる。一種の裏面史。
読了日:10月04日 著者:榎村 寛之

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posted by 曲月斎 at 23:42| Comment(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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