2017年01月01日

☆2016年に読んだ本。

2016年の読書メーター
読んだ本の数:208冊
読んだページ数:55686ページ
ナイス数:6915ナイス

近代はやり唄集 (岩波文庫)近代はやり唄集 (岩波文庫)感想
不思議な本です。別に歌ったことがあるわけではないけど、どこか知っている。記憶の奥底にあるのかもしれません(といっても世代的な隔絶はあるのを承知、ですが)。要は口伝え、実演で広まっていった唄です。自由民権運動の場面で、映画、演歌師、寄席、宴席。部立てがなかなかに巧いので、ひとかたまりで摑むのにはいい1冊です。方言があり、歌唱力がなかった日本人が唄を、歌を歌うという力を身につけてきた歴史の一部を綴った1冊とも言えるのかもしれません。パイノパイノパイとか、春はうれしや、とか、ダンチョネ節とか。
読了日:12月31日 著者:
勝負の極意 (幻冬舎アウトロー文庫)勝負の極意 (幻冬舎アウトロー文庫)感想
初期の作品ゆえ、今のねっとりした書きぶりではないが、「蒼穹の昴」が世に送り出されるまでの世過ぎ見過ぎを綴った1冊。前半は特に生業の傍らで、作家になるという一念で書くことを続けてきた執念。努力は凡才を天才にするとはいえ、本当に大した物だと改めて思う。競馬の方は余り親しくないので佳く分からない。でも随筆を頼まれて、最初は自衛隊のことを書き、次に自身の来し方を書き、本篇を書く機会を待ったという。日々6時間の執筆を続けるとは。畳のあちこちに座り込んでいたことで出来た窪みができていたという逸話がこの方らしく思えた。
読了日:12月31日 著者:浅田次郎
横浜港の七不思議―象の鼻・大桟橋・新港埠頭 (有隣新書 (65))横浜港の七不思議―象の鼻・大桟橋・新港埠頭 (有隣新書 (65))感想
日本の都市としては横浜は特異な街だ。貿易港が寒村に出来たことで一気に変貌した。砂浜だったところに港を造るのだから大変。石詰みの岸壁がやっとだった時代。今の大桟橋は、米に支払った下関戦争の賠償金がこの頃、返還されることで財源を確保できた訳で、鉄製の桟橋ができたのは知らなかった。「我が日の本は島国よ」の横浜市歌も、東京音楽学校の斡旋宜しきを得ての誕生とか、この街の成立には多くの僥倖があったのが知れる。精いっぱいのやりくりと、生糸輸出港での外貨獲得と。如何にもふるさとに矜恃という筆者の書きぶりが気になるが。
読了日:12月31日 著者:田中祥夫
日米開戦と情報戦 (講談社現代新書)日米開戦と情報戦 (講談社現代新書)感想
昨今「インテリジェンス」という言葉が独歩している。理解力、知性といった意味が本旨だが、情報や諜報という意味に重きを置いている感がある。暗号化情報でも自分が読めていれば相手も読んでいると考えるのが冷静な考えだろう。正確に把握できている保証もない。本書は"1次情報"と内向きの体面に振り回され、陸海軍、外務省、米英側と各々が予断を持ち、真意を摑みかねた揚げ句の失敗の来歴である。巻末に幣原喜重郎や米英駐日大使が公開情報と経験、人脈で適切な判断をした例を挙げる。今でも本当の意味で求められるインテリジェンス、である。
読了日:12月30日 著者:森山優
通州事件 日中戦争泥沼化への道 (星海社新書)通州事件 日中戦争泥沼化への道 (星海社新書)感想
北京郊外の通州で、日本の傀儡政権・冀東防共自治政府の守備隊が、駐屯していた日本軍や民間人を殺害したのが「通州事件」の骨子。華北分離工作の中で、冀東政府と国民党側の冀察政務委員会の対立、中国共産党の工作等の指摘、冀東密貿易や阿片の移動を黙認する体制など、本書は時代背景を完結にまとめている。シベリア出兵に際しての「尼港事件」同様、民間人が巻き込まれたことで、日本軍の統制下で対外宣伝工作の材料となったとの推論も示される。結論が明示されている訳ではないが、当時醸成されていた「抗日」の空気を十二分に理解できる1冊。
読了日:12月29日 著者:広中一成
最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常感想
行ってみたいけど実現していないことの一つに「藝祭」がある。東京藝大の学園祭。毎年9月、上野の山。音楽系、美術系混成の1年生8チームが作る神輿の見事さは写真で知れる。真剣に遊ぶ見事さの象徴に思えた。そんなギモンに答えてくれる1冊。筆致はルポの常道で、丹念に学生に話を聞き、紡いだ書きぶり。取材はこの何倍も重ねているのだろう。この学校の素顔を等身大で写す。「ニッポンの文化芸術を背負うのは、お前らじゃあァ」と言い切れる学長。読み終わってなおカオス。でも本当の姿を知ろうと思うのは「渾沌に目鼻を空ける」ようなものか。
読了日:12月28日 著者:二宮敦人
戦国大名: 政策・統治・戦争 (平凡社新書)戦国大名: 政策・統治・戦争 (平凡社新書)感想
自力救済の時代にあって、地域の単位である村・郡に注目し、戦国大名との関係を解析した1冊。支配構造、徴税、流通、軍役と話を進める。常に近隣との紛争が起こる中で、村という単位が果たした機能を説き起こし、下からの目線の像を描くことになる。史料が多く残る後北条氏が中心。今も残る「村」起源はこの時代にある。貫高制から石高制への移行だったり、大名同士の戦の契機となるのは周縁部の領域争いであったり。織豊時代、いや徳川殿の前期まで続く母型が見えるのが明解。中世と近世の境は軍事費を社会投資に回せる社会への変革だったのかも。
読了日:12月26日 著者:黒田基樹
ノモンハン 1939――第二次世界大戦の知られざる始点ノモンハン 1939――第二次世界大戦の知られざる始点感想
WWUで二正面作戦を勝ち抜けたのは米だけである。外蒙古と満洲の国境(というか口伝の境界線)を巡って関東軍と赤軍が衝突したのがノモンハン事件。本書は拡張を続けるナチスと英仏、ソの均衡と野心収攬の結果が独ソ不可侵条約成立、西部戦線の一時的静穏であり、その裏の東部戦線ではノモンハン事件が起きたのではないか、と筆者は読み解く。スペイン内乱も絡んで、英仏が植民地支配する余力がなくなっていた時代状況を前段で説明、関東軍内の暴走は中段で、日ソ不可侵条約とソの動きは後段で展開。旧日本軍の夜郎自大ぶりには頭を抱えるばかり。
読了日:12月23日 著者:スチュアート・D・ゴールドマン
ゴルゴさんち 全1巻ゴルゴさんち 全1巻感想
昔、別冊ゴルゴ13に連載されていた掌編。ある時期から突然消えたように記憶していたので不思議に思っていたが、実は離婚していたんですね。ゴルゴ13の作者さいとうたかお氏の元夫人が描いたこの漫画。一家の日常を描くもので、どこか昭和の香りのする作品です。巻末に「当時の空気を懐かしみつつ大らかに楽しんでほしい」と後記をいれるほど。でも何か懐かしいような。「将棋の渡辺くん」に刺激されて思い出した本。2009年に単行本として刊行されているのは日本の漫画文化の懐の深さを感じるというか。夫婦に娘2人、そんな生活は今は昔?
読了日:12月21日 著者:セツコ山田
犯罪の大昭和史 戦前 (文春文庫 編 6-18)犯罪の大昭和史 戦前 (文春文庫 編 6-18)感想
本書は「犯罪の昭和史1・戦前」(作品社、1984年)の再編集、文庫化。旧版3冊本を読んでいるので再読になる。戦前の説教強盗や玉ノ井バラバラ事件、阿部定事件など巷間を騒がせた事例から、北原二等兵天皇直訴事件、九大生体解剖事件まで多岐に渉る。今となっては忘れかけた事件も多い。本書の面白いところは当事者が登場する例あり、当時の知識人が分析したものあり。一種のアンソロジーになっている点。週刊誌的な興味だけではない。今、読み返しても事案の骨格と裏面を窺うことができる仕立てになっているのは類書の及ばぬ点だ。好復刊。
読了日:12月21日 著者:
ジャニーズと日本 (講談社現代新書)ジャニーズと日本 (講談社現代新書)感想
騒動の中で改めて、と手にした1冊。戦中戦後を生き抜いたジャニー喜多川という人物が作り上げたこの世界。巷間言われる通り、闇市世代の体験と米西海岸で見たというショービジネスの感覚とが渾然一体となった世界は再現不可能だ。本書の焦点は前半の音楽的な系譜を辿った部分にある。自家薬籠中。後段になって、戦後史の系譜の話になると一寸如何か。確かにバブル後の「失われた10年」は一面的に見れば筆者の所説になるものの、本当は人口減少時代を迎えたところでの安定成長期に切り替えられる契機でもあった。筆者1983年生、まだ若書きか。
読了日:12月20日 著者:矢野利裕
将棋の渡辺くん(2) (ワイドKC 週刊少年マガジン)将棋の渡辺くん(2) (ワイドKC 週刊少年マガジン)感想
この漫画も2年に1冊くらいのペースで単行本が出ているらしい。間遠である。でも何か、プロ棋士という普通には想像しがたい生活ぶりを垣間見ることができて、おもしろい。大タイトル戦だと和服が多くて、順位戦だと背広、意外に大事なのが靴下などなど。中学生でプロ入りした渡辺明のどこか純粋無垢なところが、将棋という藝を支えている気がした。
読了日:12月17日 著者:
将棋の渡辺くん(1) (ワイドKC 週刊少年マガジン)将棋の渡辺くん(1) (ワイドKC 週刊少年マガジン)感想
キンドルで読了。かつて、ゴルゴ13の別冊に「ゴルゴさんち」(セツコ山田)を連想させる内容。棋士という方々はもちろん常識的な方々が多いとは聞くが、渡辺明氏は、なかなかに取捨選択の上手い生活をしているようだ。ぬいぐるみ好き、虫嫌い、考え抜く理論派……。テレビの画面でご尊顔を拝する程度ではあるけど、本当にこの人はすごいんだろうな、と思わせる何かが画面が伝わってくる。いい1冊です。
読了日:12月17日 著者:
1941 決意なき開戦: 現代日本の起源1941 決意なき開戦: 現代日本の起源感想
「ディマジオの奇跡」とか「山田風太郎の明治小説」を連想させる筆致。筆者の管見に入った資料を換骨奪胎して複数の視点、思惑の錯綜を1篇の物語に織り上げた。主役級は近衛文麿、松岡洋右、東条英機。授権法で突っ走った独、ファシスト党独裁をつくった伊とは違い、すべて法手続に基づいて日米開戦への道をひた走るのが怖ろしい。結局「十万の英霊、二十億の国帑」と同じ論理展開が進んでいく。本書は細部が命、長身の近衛、キャビアとウオッカで赤い松岡、生者より死者のメンツを重んじる能吏東条。確かにこの3人に焦点があっているのはいい。
読了日:12月15日 著者:堀田江理
一冊でつかむ日本中世史: 平安遷都から戦国乱世まで (平凡社新書)一冊でつかむ日本中世史: 平安遷都から戦国乱世まで (平凡社新書)感想
帯にある通り、「図版満載 一目瞭然」の部分に惹かれて読んだ。だが、内容は高校の教科書に毛が生えたかな、くらい。「1冊でつかむ」という書名の方に重点を見て選択か。物足りなさが残った。日本の中世という激動期(というか自力救済が徹底していた時代)を俯瞰するHow To本しては佳いのかもしれないけど、事実関係が最新の主流の意見とは異なるものがそのまま定説として掲載されている箇所が散見するし、重要な変化と思われる箇所が簡素な表現で止まっているし。手を伸ばすなら岩波新書の中世シリーズの方が可。模式図化は上手いが。
読了日:12月7日 著者:
修行と信仰――変わるからだ 変わるこころ (岩波現代全書)修行と信仰――変わるからだ 変わるこころ (岩波現代全書)感想
宗教者ルポ本。登場するのは密教、修験道、念仏、神道、カソリック等々。今の日本で「魅力がある」と筆者が考えた人々が登場する。修行の過程でトランス(変性意識状態)になった体験が語られる。最終章のカソリック・本田哲郎氏を除いては個人的には一寸肩透かしの感。というのは取材相手と自分の距離感、あるいは周囲の状況、筆者が基礎に置いている立ち位置がいま一つはっきりしないし、点綴していく手法が某かの結論を導き出せていないように思ったから。勿論、修行を否定しないし、入神、脱魂、恍惚……という境地があるのは重々分かるのだが。
読了日:12月6日 著者:藤田庄市
村上春樹はノーベル賞をとれるのか? (光文社新書)村上春樹はノーベル賞をとれるのか? (光文社新書)感想
往年の井上靖、当今の村上春樹。毎年、ノーベル文学賞候補として話題になる。本書は逆にノーベル文学賞とはどんな賞なのかを分析した1冊と言って佳い。1章は過去の日本作家、川端康成と大江健三郎のほかに、数多くの候補が浮かんでは消えしていたと跡づける。本書の眼目。三島由紀夫はこの栄誉を逃したことを二重に苦しんだのでは、との見立てだ。又、候補に挙がっていたという賀川豊彦や西脇順三郎が受賞していたら、というifを逆に考える。2章は過去の受賞者、非受賞者の分析(名の羅列が続く)、3章で世界文学としての村上春樹を記述する。
読了日:12月3日 著者:川村湊
電通と原発報道――巨大広告主と大手広告代理店によるメディア支配のしくみ電通と原発報道――巨大広告主と大手広告代理店によるメディア支配のしくみ感想
「海軍めしたき物語」(1979年、高橋孟)という本を思い出しました。戦艦霧島に乗務した主計兵の回顧談です。乗り組んでいても炊事場の周囲の出来事しか見えない−−。筆者は博報堂出身の元広告マンで、業界としての客観性を積み上げようとするのですが、視線が広告代理店寄りになっている気がします。利益率が実はどれほど高いか分からないものを商うのは不思議な気がします。電通が得意としたテレビ中心の枠をすべて制御する営業方法はWeb広告が伸びている中で業態自体が変わらざるを得ないし変わっている時期に来たのを改めて感じました。
読了日:12月3日 著者:本間龍
原発プロパガンダ (岩波新書)原発プロパガンダ (岩波新書)感想
プロパガンダは揉み手笑顔で、或時は世間話の様に近寄る。原発関連広告を回顧する1冊。新聞、テレビ、ラジオに雑誌に出稿し、広告主の意図とは反する内容になれば引き揚げる手法で、飴と鞭を繰り返してきたと説く。歯切れのいい書きっぷりで一気に読了。さてどうなのだろうか。今までの電通、博報堂を中心にきた日本の広告界の体制は。して、今やWebの時代。となると、Googleなどのサイトに左右されることになるが、どこまで信頼できるのか……。いずれにせよ、広告代理店はいる。情報は自分の頭と目で精査せよ、ということなのだが。
読了日:12月1日 著者:本間龍
喪失の戦後史喪失の戦後史感想
帰納的日本社会の分析。自身が生まれ育った蒲田での日常生活を土台に、日本社会がどう変わってきたのかを読み解く。筆者は家族制度を権威主義的か自由主義か、兄弟関係が平等か不平等かをXY軸にして考えると、日本は権威主義的不平等から自由主義的不平等に移行したと分析する。つまり家族の崩壊です。契機をエンゲル係数を指標に食べること=生きることという時代からの変化に見ます。結果が人口動態調査に出た日本では有史以来の減少傾向。筆者のいうように不可逆的である以上、静的平衡を探すのが一番だと思います。見事に絵解きされた心境。
読了日:12月1日 著者:
SNS時代の写真ルールとマナー (朝日新書)SNS時代の写真ルールとマナー (朝日新書)感想
銀塩カメラからデジカメへ。メディアが変わり、愛好家は増えた。さらに今は携帯端末、Webの時代。写真や動画を撮るのは簡単になった。でもマナーは逆に問い直されている。撮影した人間にある著作権と、被写体の側の肖像権、プライバシーの保護など。日常的に写真を撮っていて、アマチュアカメラマンの傍若無人ぶりに愕然とする一方で、自身の撮影でも改めて法的な側面、公正性の確保の大事さを考える内容。冒頭から8章まではQ&A形式ながら、要点は末尾の2章。手短に読むならここを先に。ぜひ写真教室でもこの本、教材にして欲しい。
読了日:11月30日 著者:
たのしいプロパガンダ (イースト新書Q)たのしいプロパガンダ (イースト新書Q)感想
「プロパガンダ」というと声高なものというイメージが先に立つ。北朝鮮のアナウンサーのように。でも本当に怖いのは耳元で囁くような話だ。手もみしながら笑顔で近付いてくる者だ。戦前の日本では宝塚歌劇が、浪曲が、琵琶が。あらゆる娯楽に紛れ込ませてあった訳で、旧ソ連、ナチス、中国、IS、そして聖林を擁する米国。かつてのオウムもそう。実は今の日本でも百田尚樹の「永遠の0」であったり、荒巻義雄の仮想戦記「紺碧の艦隊」であったり。いつかそういう価値観が身近になっていく部分はないか。筆者はその危惧を指摘する。さも、と思う。
読了日:11月27日 著者:辻田真佐憲
中東鉄道経営史 -ロシアと「満洲」 1896-1935-中東鉄道経営史 -ロシアと「満洲」 1896-1935-感想
筆者の著作の脊梁となった1冊。帝政ロシアが露仏銀行を元に敷設した中東鉄道(満州里〜ハルビン〜綏芬河、ハルビン〜大連)は植民地化会社であった。ただ物資の消費先の開発というより、大豆などの穀物を露側に輸出する道になったこと、日本、清(後に中華民国)との勢力争いの中で、投資額に対して利が生まれない形だったことを浩瀚な資料から分析する。他国に鉄道を通して利権を生もうというのは如何にも帝国主義的な手法だが、無理筋であることを示す。ただ日露の交渉でここでも相手は一枚上手、武力の背景なしに進んだことがない歴史が見える。
読了日:11月24日 著者:麻田雅文
元老―近代日本の真の指導者たち (中公新書)元老―近代日本の真の指導者たち (中公新書)感想
英国型立憲君主制を目指し、天皇機関説を奉じながら、安定した実務のために生まれた元老制度。議会や官僚、藩閥が補完できない部分を調整していく。大久保利通〜伊藤博文〜山県有朋〜西園寺公望と流れを追い掛けた1冊。少人数で清貧だったことが当初は「黒幕会議」と呼ばれた仕掛けを「元老」という名に変えていったのは興味深い。ただ昭和史でも出てくる天皇への「内奏」、宮内省や宮中の支配という点。元老の匙加減が一歩間違うと軍部が振るった帷幄奏上権となる歴史もある。時代と共に、単なる安全弁としての機能に限定されていく気がする。
読了日:11月21日 著者:伊藤之雄
巨大地震の科学と防災 (朝日選書)巨大地震の科学と防災 (朝日選書)感想
著者の人柄+座談を編集構成した2人の力量=好著、の1冊ですね。地震の波形の解析を重ねることで、地震の姿を明らかにすることを自身の仕事にした科学者の最新地震学です。「分かっていることと分からないこと」を明確にし、何のための研究かを示す。「地震職人」を自称する筆者の姿勢に好感が持てます。加えて学術的な内容も平易。マグニチュードって何、地震波、地震の予測は、といった話が続きます。しかも筆者の考えてきた順に話が展開するので読みやすい。末尾の「あとがきにかえて」まで本当に読ませる1冊になっています。お勧めの1冊。
読了日:11月19日 著者:金森博雄(著),瀬川茂子/林能成(構成)
断片的なものの社会学断片的なものの社会学感想
聞き取り調査の手法を元に沖縄や在日を手がかりに今を描くのが生業の筆者。その聞き取りの合間に、理屈の付けようがなく、付ける気もない断片的な話が残る。それを整序して取り合わせた1冊。「私たちは生まれつきだれも孤独だ」という筆者、自分の場所から出ていく人に惹かれ、帰る人に惹かれ。独りでいることが好きだけど接触することは好まない。二律背反ながら、よく分かる感覚ではある。筆者は言う。「どこかに移動しなくても出口を見付けることができる。外に向かって開いている窓がある。私の場合は本だった」と。オチがないのがオチの1冊。
読了日:11月16日 著者:岸政彦
人口と日本経済 - 長寿、イノベーション、経済成長 (中公新書)人口と日本経済 - 長寿、イノベーション、経済成長 (中公新書)感想
富の源は人口だった時代から、技術革新がもたらしたものは今日の富が富を生む時代である。となれば人間が不要になる。となると人口が減少する。確かに人口が減少すること自体は悪ではない。個々人の単位を見れば所得が向上するかに見えるからだ。筆者は高度成長期は個人が貯蓄し、企業が投資をする構図だったが、今は企業が内部留保をする時代になったと見立てる。となれば、富が富を生む時代に、内部留保は咎め立てできない。加えて人口が減少することによって、人間の営みが変容せざるを得ない。人口の偏在は確実に地域を変えているのだから。
読了日:11月12日 著者:吉川洋
読書と日本人 (岩波新書)読書と日本人 (岩波新書)感想
こうやって本を読んでいる。何故だろう。筆者は日本での本と読み手の関係を分析する。筆致は随筆風。写本から版本、活字本、電子書籍と本の形態が変わる。黙読か音読か、識字率と読書の習慣の定着、照明の変化、書斎(個室)の成立、図書館の存在、用紙の需給等々、種々の断面で分析する。結句、読書も大量生産大量消費の20世紀に変貌したことを読み解く。本の内容の硬軟、年代による本への感覚の変遷の指摘も興味深い。個人的には「多読で博識な人(ex丸谷才一)」を手本にして、どこかで憧れて育ったことが今も影を落としているのかも……。
読了日:11月10日 著者:津野海太郎
桂太郎 - 外に帝国主義、内に立憲主義 (中公新書)桂太郎 - 外に帝国主義、内に立憲主義 (中公新書)感想
大正政変と第1次護憲運動の中の登場人物としてだけの認識は改めなくてはなるまい。長州藩上士の出、陸軍内で山県有朋の下、長州閥の一員として出世。1901年に1次内閣で総理に就任すると日英同盟の締結、日露戦争の指導とで約5年半、国政を切り盛りし、2次内閣では日露協約、日韓併合。で、根底に緊縮財政主義があったのは意外。伊藤博文、山県ら元老第1世代を「あしらう」術を披露したのはこの人であった。「外に帝国主義、内に立憲主義」とは徳富蘇峰の評。後者はとまれ、大正期の政治への繋ぎ役として欠かせぬ人物であるのは間違いない。
読了日:11月9日 著者:千葉功
寺社勢力―もう一つの中世社会 (岩波新書 黄版 117)寺社勢力―もう一つの中世社会 (岩波新書 黄版 117)感想
筆者は日本中世史で画期的とされた権門体制論の提唱者。公家と武家という二項対立から脱し、寺社という宗教勢力を権門の一角としてみることで社会体制を見直した。本書は宗教権力について平安期に遡る勃興期から事実上の終焉を迎える織豊時代まで通観した1冊。目配りが行き届いていて、抑えた筆致で書き進む。顕密体制のありよう、今となっては意識しにくい兼学が当たり前だった時代の姿、中で起こった浄土教の動きと抑えていく。ただ民衆に近い部分(周縁部なのかもしれないが)の動きがもう少し欲しいところ。中世を考える上で押さえたい1冊。
読了日:11月7日 著者:黒田俊雄
江戸名所図屏風を読む (角川選書)江戸名所図屏風を読む (角川選書)感想
出光美術館所蔵で出自由来が不明なこの屏風。筆の謎解きシリーズの1点の俎上に上がった。注目したのは江戸湊の繁華。徳川殿の水軍を管掌した向井将監の一門に目をつける。猿若町の賑わいが描かれていることからこの絵の注文主として一門の傍流を歩んだ五郎左右衛門正俊なる人物を挙げるに至る。絵画は作者の創意ではなく注文主の裁量で描かれる時代だったことを思い出す。ただ、本シリーズの豊国祭屏風2本、舟木本洛中洛外図屏風、神護寺の三像(頼朝、重盛など)の分析に比べて、一般読者の興味をつなぎきれるかな。研究とはそういうものだけど。
読了日:11月5日 著者:黒田日出男
戦争の社会学 はじめての軍事・戦争入門 (光文社新書)戦争の社会学 はじめての軍事・戦争入門 (光文社新書)感想
本書の大半が原爆の出現以前の事象に割かれている。歴史を綴ろうという意識のゆえか。然し最早牧歌的な戦闘は起こりえない(という建前に)のであるから無駄だ。本当に紙幅を割くべきなのはナポレオンでもクラウゼビッツでもマハンでもない。国対国ではなく国と非対称的な戦闘行為である。原爆の出現以降、対する相手はゲリラでしかない。「参った」がない暴力行為になる。人類は確かに戦闘行為と共に歩んできた。だが19世紀までの戦闘行為と20世紀に入ってからのものとは峻別されなければならない。その区別を見極める視点、示唆がかけた1冊。
読了日:11月3日 著者:橋爪大三郎
神々の明治維新―神仏分離と廃仏毀釈 (岩波新書 黄版 103)神々の明治維新―神仏分離と廃仏毀釈 (岩波新書 黄版 103)感想
日本会議の一件にも繋がる、単純化した国家観、宗教観の淵源は実はこの神仏分離、廃仏毀釈にある気がする。平田国学や水戸学の面々が力づくで進めようとした奇矯な形の神道の横行は、日本中の村々に続いてきた信仰、社会を歪めた。爾来約150年。度会、荒木田の両家が支えてきた伊勢信仰を始め、修験道系の山岳信仰や本書には出てこないが時衆の存在などを抹殺した。神職は國學院、皇學館の2機関に今も管理されている。一方、仏教側も寺領上知の前に、独自の資金力で踏ん張れたのは本願寺系のみ。今に続く歪んだ伝統の第1歩というべきか。
読了日:11月3日 著者:安丸良夫
弘法大師空海と出会う (岩波新書)弘法大師空海と出会う (岩波新書)感想
筆者は四国霊場28番の住職。新書1冊のサイズで、空海の生涯、遺跡、大師の姿と唐から招来した美術、著作と網羅することを目指した1冊。空海の実像に近い部分を提示する試みだ。ただ、初学を相手に網羅しようとすると、駆け足になる。読者の需要は、2章の遺跡の部分を生かした1冊にした方が良かったかも。最近読んだ手法では高村薫の「空海」が説く鎮護国家の宗教家、日本総菩提所の祖霊信仰の象徴、そして大師個人への信仰の三点倒立が気になる。。四国遍路する人はたぶん、札所よりも札所を繋ぐ路次、小径で大師と出会うのではないだろうか。
読了日:11月2日 著者:川崎一洋
兵隊たちの陸軍史 (新潮文庫)兵隊たちの陸軍史 (新潮文庫)感想
筆者の訃報に接して再読。吉川弘文館で「地域の中の軍隊」というシリーズ本9冊が昨年までに出ているけど、この1冊は筆者自身が当事者、1兵卒の視点で見て、聞いたことを書いているのが強み。新兵の教育から慰安所の話まで、俸給、上下関係や考え方まで筆は及ぶ。巻末の解説で保阪正康が「軍隊経験を持たない人にとっての必読書」といい、初年兵教育の冊子「内務の躾」から「国民が国家の要求に服従すること、とりもなほさず、国民自身の精神生活に満足を與ふる」と言いつつ、「人間の扱いを綴ることで国家の欺瞞を示している」との評が重い。
読了日:11月1日 著者:伊藤桂一
住友銀行秘史住友銀行秘史感想
1991年のイトマン事件をメーンバンクの側から描いた1冊。その多くには住友銀行内部の権力闘争がある。筆者は行内で大蔵省担当(MOF担)を務めた人物。MOF担といえばノーパンしゃぶしゃぶ程度しか連想できない頭には、荷が勝った1冊だった。登場してくる人物に誰ひとりとしてカタルシスがない(ま、必要ないのだけど)。内部告発者としての仮面を脱いだという1点に意味のある1冊だから。とまれ、大変な業界ではあるな、と。この後、山一証券の破綻が97年、拓銀の破綻、大蔵省接待汚職事件が98年。封じ込まれた物は大きかったのか。
読了日:11月1日 著者:國重惇史
鉄道ミステリーの系譜 (交通新聞社新書)鉄道ミステリーの系譜 (交通新聞社新書)感想
鉄道ミステリーの系譜を書くとなると、全部を書けばネタバレになる。だから以て廻った書きぶりになってしまう。筆者が情熱を傾ければ傾けるほどに、読み手は隔靴掻痒になるという自己撞着。正直に言えば、鮎川哲也なりの編んだ鉄道ミステリーのアンソロジーを読んだ方が良かったかもしれない。それと「変革探偵小説入門」(谷口基、岩波書店)が説くような、小説では書けない世界を探偵小説で構築してみせるという側面もこの分野の小説にはある気がした。現に当時の風俗を映す古典となっているのだから。本書はキンドルで読了。
読了日:11月1日 著者:原口隆行
応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)感想
筆者の視点は「応仁の乱」を室町殿6代義教が謀殺された「嘉吉の変」と10代義材(義稙)が廃された「明応の政変」の間の変化の事象として捉える点にある。定点観測点を大和の興福寺に据え、2人の別当の日記を軸に、畿内の出来事を整理することで本書は成立している。従来は諸大名や室町殿の動きの傍証に使われてきた史料を土台にする試みは興味深い。ただ、日記とはいえ、登場人物が多く、空間の移動が激しい。この時代を描く手法として、新鮮だが、新書という体裁では複雑ではないか。1篇の叙述の中で、主語が錯綜するのが取っ付きにくかった。
読了日:10月29日 著者:呉座勇一
きのう何食べた?(12) (モーニング KC)きのう何食べた?(12) (モーニング KC)感想
珍しく再読。自分が好まないサツマイモとカボチャが登場していたことが熟読を妨げていたことがちょと判明。本巻はちょと2人の関係が割合、円滑に進んでいることが、薬味不足かと思わせる要因なのかも。ただ、「へうげもの」もそうだけど、面白いと入れ込んだ作家の描線が目に慣れてくると自分の中に別の反応が起きているのも事実な気がする。何が原因なのだろう? ただ本書のもう一つのテーマ、老いという点では、アクシデントが減っていくものなのかもしれない。
読了日:10月26日 著者:よしながふみ
通貨の日本史 - 無文銀銭、富本銭から電子マネーまで (中公新書)通貨の日本史 - 無文銀銭、富本銭から電子マネーまで (中公新書)感想
副題にある無文銀銭から当今の電子マネーまで。本邦の通貨を主眼に置いた通史。面白い。というのは「1円は1円」という今の感覚(計数貨幣で法定貨幣)という概念が定着するには長い時間がかかったからだ。物々交換の経験を挟んで、金・銀・銅の産出量と市況による変動、対外貿易を管理した江戸時代ですら、貿易決済通貨としての銀があり、不足する少額貨幣の代わりとしての紙幣(藩札)があり、改鋳される度に品位による区別が起きる。勿論、財政経済政策としての操作がある。金銀銭の3貨体制といっても単純ではない。確かに「悪銭苦闘」である。
読了日:10月26日 著者:高木久史
本当に偉いのか あまのじゃく偉人伝 (新潮新書)本当に偉いのか あまのじゃく偉人伝 (新潮新書)感想
帯の惹句はとまれ、この人は偉いのだろうかという懐疑は誰にでもある。個人的には坂本龍馬のごときはその最たるもので、田中光顕が居なければ存在すらしなかった人物になっていたろう。裸の王様と一緒で世間が金襴玉褸であると言っている以上、何となく同調しておかなくてはいけないという気分になるもの。その筆法で歴史上の人物から近接する人物まで、俎上に上げては切りまくる。出自や人間関係等々、博引旁証、手練手管を使っての文章は軽快。博覧強記此処に有りという感じ。一種の快感は覚えつつ。所謂雑文の1冊、後に何が残るか振り返りつつ。
読了日:10月24日 著者:小谷野敦
きのう何食べた?(12) (モーニング KC)きのう何食べた?(12) (モーニング KC)感想
正直にいうと、ワクワク感が薄れていました。この漫画の面白さというか、魅力は、白黒のペン画ながら、匂い立つようなおいしさ(美味しそうというか)が魅力だったのですが。何か理屈が先に立っているような気がして。12巻を待たされた感が導くものなのか、何が原因なのか分析しきれないのですが。とまれ、スタイリッシュな表紙に比べて、自分の中では得心のいく展開ではなかったです。以上。
読了日:10月23日 著者:よしながふみ
憲法の無意識 (岩波新書)憲法の無意識 (岩波新書)感想
幣原の意思だった日本国憲法9条(戦争の放棄)を成立させたGHQの主意は1条(天皇)を成立させるためにあったことを読み解く。日本人にとって太平の世の記憶「pax Tokugawa(徳川の平和)」が蘇り、WWUの鮮烈な記憶と結びついて、9条の改正の意思を持たなくなったのではないか、と読み解く。碩学が先学の考察を読み解く構造。話が次々と展開して楽しい。フロイトから中江兆民、カントにヘーゲル、マルクスまで登場して、筆者の読み解きを追う形。講演録だけに口調が柔らかく、読みやすい1冊。昔の記憶は確かに根強く影響する。
読了日:10月22日 著者:柄谷行人
銀の世界史 (ちくま新書)銀の世界史 (ちくま新書)感想
通史を書くのは難しい。各々の分野の専門家の研究を横串に刺していくからで、粗さはやむを得ないのかもしれないが。本書のテーマは銀。冒頭に提示される2004年の東大世界史の問題「銀が果たした経済の国際化について」の説明が展開されていく。視点はどうしても英、蘭に傾きがちで、銀が決済通貨として世界中を一つに結んでいった様を描くことに力点がある以上、何処か「どうするどうする」とでも合いの手を入れたくなるような筆致。焦点を押さえることは大学受験的な知識プラスアルファならよいのだろうが。個人的には満足に欠ける内容だった。
読了日:10月21日 著者:祝田秀全
アメリカ政治の壁――利益と理念の狭間で (岩波新書)アメリカ政治の壁――利益と理念の狭間で (岩波新書)感想
要旨は「利益の民主制」と「理念の民主制」の相剋。題名にある「壁」は両者を隔てるものの意。大きな政府か小さな政府かの選択をx軸、軍事介入か不介入かをy軸に採って絵解きしていく。4章の相関図を手引きにすると理解しやすい。民主党か共和党か、リベラルか保守というような二項対立ではなく、2大政党制下の有権者の合従連衡は多元方程式の解法並みに展開する。本書はルポの体裁に近く、手がかりの概念図を元に整理しながら読んだ方がいいかも。TV番組のフリップを連想させる図の出来がいいのでもっと挿入してくれた方が有り難いが……。
読了日:10月19日 著者:渡辺将人
ヒトラーに抵抗した人々 - 反ナチ市民の勇気とは何か (中公新書)ヒトラーに抵抗した人々 - 反ナチ市民の勇気とは何か (中公新書)感想
「公益のために民衆共同体に一体化し、総統国家の下、国民同胞となる」。仕事とパンが配られる社会。本書には印象深い数字がいくつか引用されている。終戦時のナチ党員850万人超。1951年の輿論調査ながら「今世紀ドイツが一番うまくいった時期は」との問いに、@第三帝国期44%A帝政期43%Bワイマル期7%。こんな大衆の中で良心に基づく反ナチ行動を執った人がいたこと、無私の行動に頭が下がる。それ以上に戦後の独、EUの体制まで考えた「クライザウ・サークル」の人々がいたことが驚きであり、日本と彼我の差を考え込んだ。重い。
読了日:10月16日 著者:對馬達雄
帰郷帰郷感想
子供のころ、まだあった景色である。白衣姿の傷痍軍人がアコーディオン片手に奏でる傍ら、義手の男が正座をして頭を下げる。日常のように繁華街で見かけていた裏側にある(あっただろう)思いを綴った短編集。サラッと読めば、それなりの音だけど、引っ掛かって読むと別の顔を見せる。短編だけに寸景を切り取った形のものが多い。でも前後の余白をどう想像するのか、その余白の美を感じさせる1冊。普通の人が普通ではなくなる戦争という仕掛けへの穏やかな抗議でもある。浅田自身の年齢と経験が書かせる1冊であると思うし、余人では書けない。
読了日:10月14日 著者:浅田次郎
謎のアジア納豆: そして帰ってきた〈日本納豆〉謎のアジア納豆: そして帰ってきた〈日本納豆〉感想
お見事。現場に勝る知見なし。語学の天才とは本当にうらやましい。納豆菌による大豆醗酵食品を訪ねての旅はタイ、ミャンマーなどの東南アジアに、中国南部に、ネパール、インドにと続く。豆を醗酵させた食品は実は「出汁」であり、魚醤や醤油、味噌(醤)などの調味料と競合する味であった発見。日本に戻れば広く分布した「納豆汁」が東北地方にのみ残る景色もあり。筆者のルポを読むと、思わず納豆が作ってみたくなるし、各地の料理を試してみたくなる。ワクワク感と驚愕と知の喜びと。高野ワールドはこの1冊でも爆発している。今年の5指に入る。
読了日:10月13日 著者:高野秀行
「国史」の誕生 ミカドの国の歴史学 (講談社学術文庫)「国史」の誕生 ミカドの国の歴史学 (講談社学術文庫)感想
「ミカドの国の歴史学」改題。歴史といえば国学、儒学、そして水戸学が果たした役割が大きい。一つの到達点として「大日本史」を挙げられよう。だが明治になって西欧の歴史学研究手法が導入される。文明としてか、文化としてか、両者の相剋を描く1冊。中で転換点となったのが久米邦武筆禍事件(「神道は祭天の古俗」)や喜田貞吉が巻き込まれた南北朝正閏論争だ。この2件は社会科学者としての学問の見識か、国民教育の問題かを争うものであったけど、筆者は日本独自の「中世」を描くことで、後の皇国史観に繫がるような土壌が生まれたと見立てる。
読了日:10月7日 著者:関幸彦
戦国と宗教 (岩波新書)戦国と宗教 (岩波新書)感想
起請文に見えるように、人倫五常を守り,神仏への帰依を誓う者に加護がある一方、他人の信仰には関与しないという姿勢=「天道」という絶対的な是非を想定する。中で信長と本願寺の関係については、実は宗祖親鸞の教団内での争いに、応仁の乱以降の室町殿の内紛が絡んだのではないかという読み解きや、九州のキリシタン大名の分析も新鮮。寺社というと俗世の権力ではないように今日的には先入観を持つが、中世では領地を持つ守護大名と同様の領主であることが伺える。ただ庶民に葬送儀礼が定着したこの時期、書中で時衆への言及が少ないのは残念。
読了日:10月7日 著者:神田千里
ひさしぶりの海苔弁 (文春文庫)ひさしぶりの海苔弁 (文春文庫)感想
最近、海苔弁にはまっているのでつい、買ってしまったが。最後のオチまで行かない感じの文が続くのが……。
読了日:10月6日 著者:平松洋子,安西水丸
日本陸軍と中国: 「支那通」にみる夢と蹉跌 (ちくま学芸文庫 ト 16-1)日本陸軍と中国: 「支那通」にみる夢と蹉跌 (ちくま学芸文庫 ト 16-1)感想
「支那通」−−旧陸軍で中国大陸の情報収集を旨とした専門家を謂う。 軍備兵站を調べ、時に政治工作もする。「日本は東亜の盟主。西欧列強から独立するために指導するのが役目」みたいな自惚れも。「アラビアのロレンス」と似た立場ながら、大局観がないセクト主義の一介の武弁だった。情報は偏向し、傲慢の誹りを免れぬ振る舞い。WWI以後の民族自決の流れを認められないままに。結果が張作霖の謀殺から始まる15年戦争である。中国大陸での抜き差しできない戦いをした揚げ句の日米開戦。少数のエリートが日本の進路を誤らせた歴史は重い。
読了日:10月6日 著者:戸部良一
日本経済のトポス 文化史的考察日本経済のトポス 文化史的考察感想
この本が刊行されたのは1980年代。筆者は著名なマルクス経済学者。まだ「マル経」が現役だった時代の本。丸谷才一がこの本を随筆で褒めていて、読んだ記憶がある。何度もの引っ越しでも、本棚の中でしかるべき位置に置いてきた。読んだ当座、班田収受法から説き起こすなんて、新鮮なのだろうと思ったからだ。あれから約40年、読み直してみたけど、あの当時の驚きはなかった。日本史への科学的研究の進歩のゆえか。権門体制論が生まれ、農民は搾取される存在という訳でもないことが明らかになった今、時代の使命はもう終えた1冊なのかも。
読了日:10月5日 著者:日高普
興亡の世界史 大日本・満州帝国の遺産 (講談社学術文庫)興亡の世界史 大日本・満州帝国の遺産 (講談社学術文庫)感想
岸信介の顕密構造を読み解く。内に国家社会主義、統制経済への志向や反米感情を抱きつつ、米国の覇権の下に自分の権力の扶植と拡大に努める姿は、一介の農業国だった韓国で高度成長を成し遂げた朴正煕と相似形なのかもしれない。2人の指向を培ったのが満州国ではなかったかと読み解く。時に満州事変後の大陸に、或いは5・16軍事クーデターの中にと話が展開していく。顕密構造である以上、主権者である国民の前に本心の部分を明かし切れないのは仕方ないところ。とまれ、祖父の遺訓を顕彰するに足らんと思っている坊ちゃんとは違う次元の話だが。
読了日:10月4日 著者:姜尚中,玄武岩
日本震災史: 復旧から復興への歩み (ちくま新書)日本震災史: 復旧から復興への歩み (ちくま新書)感想
「復旧から復興への歩み」という副題の方が本書の内容に相応しい。震災そのものの被害への言及より、その後についての方に重点がある。特に史料の多くなる江戸期以降、大名普請(被災地の住民への雇用対策の意味も持つ)から、請負普請へと変遷する様を、また火山噴火に関連して幕府が執った施策についての言及。明治期以降は備荒儲蓄金法、罹災救助基本法といった法整備に基づく体制へと引き継がれる。関東大震災に際し、当時の内務官僚がインフラの再建と併行して住民が帰還するか否かへの配慮があったのは興味深い。復興はやはり民間主導である。
読了日:9月30日 著者:北原糸子
ユダヤとアメリカ - 揺れ動くイスラエル・ロビー (中公新書)ユダヤとアメリカ - 揺れ動くイスラエル・ロビー (中公新書)感想
米国の人口比で2%のユダヤ系は政治的に影響力を持ってきた。政治意識の高さ、献金、ロビイスト活動が活発……。米国の「戦略的資産」とまで言われたイスラエルという存在だが、本土と米国在住民との間には意識の乖離が生まれていることをきれいにトレースした1冊。「中東唯一の民主国家」という決まり文句が今も惹き付けるのか、旧約聖書の「約束の地」であるからか(ここには福音派の信者の動きもあるという)。イスラエル本土での右傾化と米国内でのホロコーストを身近に見聞きした世代の高齢化が意識のギャップを生むという見立ては興味深い。
読了日:9月29日 著者:立山良司
無縁所の中世 (ちくま新書)無縁所の中世 (ちくま新書)感想
前著に続き、公、武家ではなく、寺院を中心とした中世文化を想定する。生活に困窮した庶民が流動化して都会に流入する世、移民が発生する世。移民のいない大集落は大きなムラだが、旧住民と移民がいる風景は都市だ。移民が発生するところ、無縁所あり(ま、京都に対する叡山)。「人類普遍の無縁を考察する場合、参考になるのはアメリカ史」なんていう分析は首肯できるのだけど。あらゆる局面の史料を繋ぎ併せての立論ぶりは豪快だが、展開について行き切れなかった。史料を読み込んでいない上、時空座標が組み立てられないのに過ぎないのだろうが。
読了日:9月27日 著者:伊藤正敏
寺社勢力の中世―無縁・有縁・移民 (ちくま新書)寺社勢力の中世―無縁・有縁・移民 (ちくま新書)感想
日本の中世で一番の権力者は寺社(特に比叡山)であるという命題提起の1冊。特に延暦寺末の祇園社が京の経済面で特権を与える一方で寺銭を稼いでいた、警察司法権に対しての検断不入権を誇り、鴨川以東は勿論、洛中にも勢力を伸ばしていた様を描く。祇園社の祭りが洛中の町衆に支えられているのは確かに証左だ。前著「日本の中世寺院」でも叡山の他、南都、高野山、根来寺などを挙げていて、本書でも挙例の事象があちこちに展開し、年代も交錯するので追い掛けるのが大変ではあるが。要は公権力の行使(徴税も含め)が普くことが近世化なのだ、と。
読了日:9月23日 著者:伊藤正敏
シベリア出兵 - 近代日本の忘れられた七年戦争 (中公新書)シベリア出兵 - 近代日本の忘れられた七年戦争 (中公新書)感想
地図を逆さに見た時のような驚きがある。シベリア出兵が後の15年戦争の姿と相似であること、後の戦争を指導する立場にいた人物が関わっているのに、当時の経験が生かせていないこと。鮮満の権益を守り、あわよくば更に北辺を狙う妄想が膨らんだ結果としての出兵。終結への構想がない戦いが広がる。現地と参謀本部、政府の思惑の食い違いが広がるまま、糊塗弥縫が続く。一般には点(尼港事件等)の知識だが、実は19世紀から続く歴史の一齣、面であるのが分かる。兎も角、兵戈を政府が収められたのは元老(山県有朋)という錨の有無でしかない。
読了日:9月20日 著者:麻田雅文
情報参謀 (講談社現代新書)情報参謀 (講談社現代新書)感想
自民党を支えた広告代理店とその周囲に存在するマーケティング会社の話。その中心にいたという筆者がこういう話を書いているということは、既に次の段階に進んでいるということだ。「政策本位の政治」という建前は別にして、「政治家」が「政治屋」になっているということを端なくも提示した形ではある。中身はWeb上やテレビを監視して、対応策を立てていく。果敢な対策を立てられるだけの資金力(これも政党交付金の一部である)。内容自体はさもありなむ、の水準ながら、「情報は発信しないと存在しないのに等しい」ということ。ちょっと引く。
読了日:9月19日 著者:小口日出彦
鳥獣害――動物たちと、どう向きあうか (岩波新書)鳥獣害――動物たちと、どう向きあうか (岩波新書)感想
本書は街の人の視点である。鳥獣害の話は地方に住んでいれば日常生活の一部である。鹿、猪、猿は日常的にいる。(夜、道を走っていて気付くのが遅れて車にぶつかってこられたら、被害は免れないところ。こういう場合は警察は事故証明を出してくれるのだろうか、保険は、と不安になる)。本書は鳥獣害のルポ部分と、日本人が生み出してきた殺生観の考察の2部構成。個人的には思惟的な部分よりも、実例をきちんと紹介してくれた方がよかった。人口減少、過疎化、耕作放棄と続く連環や荒蕪の地になっても自分の土地と手放せない精神性への言及とか。
読了日:9月19日 著者:祖田修
昭和史講義2: 専門研究者が見る戦争への道 (ちくま新書)昭和史講義2: 専門研究者が見る戦争への道 (ちくま新書)感想
全20講の中で9、10講の「日中戦争における和平工作」、12講の「天皇指名制陸相の登場」は読ませる内容だった。以外は厳しいかも。学会機関誌の「研究往来」みたいな欄を思い出す。新書という体裁で一般に向けて本を書くなら、1)先行論文の引用と論文名の提示ではなく、筆者が知見を咀嚼して記述するべきで、文章がぎこちない篇が多いのが気になる。2)参考文献を挙げる欄を作れるのなら、注釈(特に人名)を入れた方がいい。3)活字版にはあるのかもしれないけど、索引が必要な本ではないか−−てな難点を挙げておく。捷径はないな、と。
読了日:9月19日 著者:
孫文――近代化の岐路 (岩波新書)孫文――近代化の岐路 (岩波新書)感想
華夷の別を立てる伝統的な世界観から、孫文は終生脱し切れなかったのではないか。生涯59年のうち、通算19年に及ぶ亡命生活。筆者は二面神ヤヌスに例えているけど、むしろ「キメラ」のような存在を想う。江南から興った明の朱元璋、太平天国の洪秀全のような姿を念頭に描きつつ、目的のためには手段を選ばない手法。白くても黒くても鼠を捕る猫はいい猫、という論理に繫がる。実力はないので「収」(中央集権)を目指しつつ、「散」(地方分権)を呑まざるを得ない。国共双方の国父という偶像になる前の姿を考える。日本史なら足利義昭……。
読了日:9月18日 著者:深町英夫
近代中国史 (ちくま新書)近代中国史 (ちくま新書)感想
快著。中国の宋〜明〜清と続く中で「眠れる獅子」は欧米流とは全く違う統治、財政構造を築いてきた。欧米が予算主義なら、中国は現額主義。地域貨幣の銭と地域間流通貨幣の銀の二本建て。加えて貿易代金として流入する銀に依存する経済。資本が育たず、関税を抵当にした外資頼りの経済。アヘンすら通貨として経済に組み込んできた歴史はすごい。穀物の増産から人口爆発、そして辺境・海外への流出、流氓化と、清末から国民政府、共産党政府にまで続く民間の感覚をトレースしている。この本を読んでから枝葉の本に読みすすめば、理解は数倍違うはず。
読了日:9月16日 著者:岡本隆司
昭和史講義: 最新研究で見る戦争への道 (ちくま新書 1136)昭和史講義: 最新研究で見る戦争への道 (ちくま新書 1136)感想
編者自身が「得難い本」と記したことに失笑を禁じ得ない。「最先端の専門研究者によってまとめられた」と称する15講で構成されているものの、1)時系列の中で事件や出来事ごとでまとめられているので、前後の講との間で、文脈、扱いに齟齬が出る。2)中央官庁や軍関係、中国の中枢にいた人物の記録に依存している部分が多く、記述内容が政治外交軍事に偏重していて、従来の書物での知見の域を出ない。3)最近で言えば加藤陽子の「戦争まで」や、山中恒の「アジア・太平洋戦史」の方が視野が広い−−等々。研究者はやはり自惚はいかんな、と。
読了日:9月14日 著者:
中国の論理 - 歴史から解き明かす (中公新書)中国の論理 - 歴史から解き明かす (中公新書)感想
史記以来の正史は理非の判断を下した上で記録されてきたという感覚が新鮮。「経・史・子・集」という4部の別に基づき、歴史は儒教的解釈第一、今の考証学や史実第一主義の産物ではない。裏付けになっているのは縦方向の士庶の別、横方向の華夷の差。過去の史実に付会するなど、想定外の思考回路。儒教に深く親しんでいるが故に攘夷思想が生まれ、和魂漢才ならぬ「中体西用」の考えが起こる。清朝後は「三国史」で、毛沢東は「士庶の別」を排して新時代を開いたとしつつも、今は長年の中華思想に回帰してはいないか。嫌いでも面白い、の評が的確。
読了日:9月12日 著者:岡本隆司
天下と天朝の中国史 (岩波新書)天下と天朝の中国史 (岩波新書)感想
血統に裏付けされた皇帝と天の指名に基づく天子。両概念が重なった存在こそが東アジアの支配者たりえる。と同時に漢民族を中心とした中華と周囲の異民族を含めた天下を併せてこそ真の天朝を担うものになる。北方の異民族と南方に逃げた漢族の争覇が王朝の交代になるのだが、易姓革命が起きても信仰、思想的な根幹として儒教が横たわる。中華の国の統治する大天下と日本、朝鮮、越などの小天下が構成する世界。逆に言えば双方とも中華の存在を常に意識せざるをえない世界観を示す。冊封体制や現中国の海洋進出もこの論理の延長線上という読み解き。
読了日:9月10日 著者:檀上寛
昭和芸人 七人の最期 (文春文庫)昭和芸人 七人の最期 (文春文庫)感想
残酷な本である。喜劇の世界に生きる限り、旬がある。旬が過ぎれば老い、寂寞が立ちこめる。そういう風を感じさせなかったのは巻末の伊東四朗の聞き語りに出てくる三木のり平ぐらいかもしれない。筆者が俎上に取り上げた7人(生で記憶があるのはそのうち4人だが)はこんな晩年を過ごしていたのか、と思う。ダメなのは分かっていてもなお残る自負と執着。昭和の喜劇役者の雰囲気、戦前戦後の空気、興行界の出来事など、登場人物の姿を通して描き出してみせる。読み物ではあるけど研究論文風。なかなかに畳の上での大往生というのは難しい。好著。
読了日:9月5日 著者:笹山敬輔
地域再生の失敗学 (光文社新書)地域再生の失敗学 (光文社新書)感想
至極真っ当。でも、こんな建前論では追いつかない気がする。広島での原爆投下後、被爆直後の広島赤十字病院で、放射線障害が何かも分からぬまま、手探りで治療に当たった医師らが、当時の数少ない検査方法で、血球数を顕微鏡下で数えたという話を思い出しています。白血球が一定数を割り込むと回復が困難になる、という治療経験が生まれたという思い出の記を思い出した。。確か「爆心」(朝日新聞広島支局)で読んだと思うのだけど。白血球 も人口も同じなんじゃないか、と。漠然とした気分になる。地方創生とは所得の増加がゴールなのは確かだが。
読了日:9月4日 著者:飯田泰之,木下斉,川崎一泰,入山章栄,林直樹,熊谷俊人
日本の中世寺院―忘れられた自由都市 (歴史文化ライブラリー)日本の中世寺院―忘れられた自由都市 (歴史文化ライブラリー)感想
中世の寺院(山門、寺門、興福寺、東大寺、高野山、根来寺)が実は宗教施設ではなく、軍産学複合体の都市だった、という解釈は豪快。学侶、行人、聖という3階層のうち、教学を専らにする学侶は約1割、残りは荘園の管理、商工業の統括をする行人が占め、聖は遊行しているので、掌握不可能という姿を高野山の記録から見立てる。顕密体制とはいえ、教義上最高位の大日如来への信仰は影が薄く、実態は大師信仰、太子信仰を中心に「呪術的」な信仰と死者の供養が中心であったとする言説は今の実態を見ても納得がいく。権門体制論を補完する内容に納得。
読了日:9月3日 著者:伊藤正敏
中世京都と祇園祭: 疫神と都市の生活 (読みなおす日本史)中世京都と祇園祭: 疫神と都市の生活 (読みなおす日本史)感想
同題の中公新書の改版。人口が集積すれば当然、疫病の流行が起こる訳で、京都でどうして長年に亘って続けられてきたかがよく分かる。祭神の牛頭天王が抑も最初は疫病を齎す神であったはずが、蘇民将来と出会って疫病除けを約束した神に変身してしまうのがすごい。最初は官や寺社が主催した祭りで、種々の役銭の収入や名誉が祭りの執行者に付随していたのが、室町期から変化。下京に住む町衆主体の祭りに変わっていく。住民自治の精神の発露と見るか、権門の弱体化とみるか。今に続く祭りが全国で都市の生活に不可欠な神祭として享受された不思議も。
読了日:9月1日 著者:脇田晴子
EU騒乱: テロと右傾化の次に来るもの (新潮選書)EU騒乱: テロと右傾化の次に来るもの (新潮選書)感想
極東の島国では見えないことがある。欧州での異変だ。2度の戦争を基に生まれたEU。国境の撤廃、通貨の統合と、民主主義の先進地域として実験を続けてきたはずが、軋みが目立つ。ギリシャの財政破綻、中近東などからの難民の流入、治安の悪化など。英国の国民投票も記憶に新しい。そんな疑問を解く糸口を示している。フランスに在住し、軸足を置き、地面に近い視線から社会の見た姿の点綴だ。「日常生活で吸った空気、肌で感じたことを大切にしながら、事実から出発して個別事例を考察する」という筆者の姿勢は研究論文にはないルポの強みがある。
読了日:8月30日 著者:広岡裕児
ベストセラーなんかこわくないベストセラーなんかこわくない感想
ベストセラーというとつい背を向ける。旬日を俟たずブックオフでごく安価で流通しているさまを見る。古書店の値付けというのは本の値打ちを正直に示すもので、本書で取り上げられている本の多くはその類いになる。ただ、ノストラダムスの大予言を愛読したという筆者の手にかかると、通り一遍では済まないのも数冊出てくるからおもしろい。香合わせ、歌合わせよろしく、2冊の本を見立てで合わせるのが特に妙手。「なんとなくクリスタル」と「太陽の季節」、「砂の器」と「人間の証明」等々。ただ「どくとるマンボウ航海記」に読み解く手練、中々。
読了日:8月28日 著者:入江敦彦
三浦一族の中世 (歴史文化ライブラリー)三浦一族の中世 (歴史文化ライブラリー)感想
「三浦介、上総介両人に綸旨を与えつつ」と殺生石の謡に出てくる「三浦介」。東国の武士団の代表格の一家である。とはいえ、常に順風満帆であった訳ではなく、和田合戦で和田氏が滅んだり、宝治合戦で本家筋が滅亡したり。ただ「三浦」という家名は分流に伝えられていく訳で、武士団の中ではブランドであったということだろう。本書は別書にあるような足利氏の通史と違って物足りないものが残る。鎌倉殿の時代の盛衰に重きをおかず、中央との関係がある前史や、家名を変えながら全国各地に散らばって行った様を丁寧に追う方が重点にしてほしかった。
読了日:8月27日 著者:高橋秀樹
都と京都と京感想
一篇一篇は面白かったけど、通読した後に何も残らない。例えれば「長生殿・越の雪・山川」みたいな。舌の上に甘みだけが残る感じ。いけずと意地悪、ダサいとモッサイなど、意思を明示することで東京は人付き合いをし、京都は相手の腹を探りながら、意思を悟らせることに重点を置くなど、二分法で論理を進めていくのだけど、確かにそういう世界もおますなぁ、という印象が拭えない。掌編の随筆は「箸休め」であり、一冊の本に仕立てるにはこの論法を使うのが都合がいいのだろうけど、並べると諄くなる。鷲田清一の「京都の平熱」を読後だから余計か。
読了日:8月25日 著者:酒井順子
ふしぎな部落問題 (ちくま新書)ふしぎな部落問題 (ちくま新書)感想
同和の今、これからを紹介したいと考える筆者のルポ。中でも4章の箕面市北芝での取り組みの紹介が精彩を放つ。1969年の同対法施行以後、生活や環境の改善が進んだと同時に、住民の間に行政への「待ち」と「もらい」の姿勢が生まれたと分析。2002年の同法廃止を見据えての努力を続けてきた人々の話が綴られる。内部の人間が「閉じていたから同質のコミュニティで安定している」状態から「部落解放は周辺とのつながりの中で達成される」という次元にどう移行するのか。この話は昨今の「都会対地方」の構図に似てはいないかとふと思うのだが。
読了日:8月24日 著者:角岡伸彦
あたらしい憲法草案のはなしあたらしい憲法草案のはなし感想
憲法の主語が「国民」から「国」に変わるとどういう解釈が成り立ちうるのか、「公共の福祉」が「公益及び公の秩序」に換言されると何が変わるのか。「緊急事態条項」をもうけるということの例外性も。「国民が司法、立法、行政の三権を縛るのが憲法」という立場から「国が国民を縛るための憲法」という立場へ。とまれ、こんな皮肉が、皮肉ときちんと受け止めていられる世の中であって欲しいと思う。
読了日:8月23日 著者:自民党の憲法改正草案を爆発的にひろめる有志連合
戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗感想
ジュンク書店での中高生向け講演会が下敷きの1冊。リットン報告書(国際連盟への対応)、日独伊三国同盟、日米交渉の3点に焦点を合わせて読み解く。俗に日本はブロック経済圏から弾き出されて満州進出を図ったように喧伝されてきたが、実は経済統計から虚偽であることが示される。リットン報告書も蒋介石側に有利な内容とされているが、実は国際協調で日本の主張も認めていたことを読み解く。三国同盟では政府部内の不一致と目的の不明確さが尾を曳くさまも。石橋湛山の評論ではないが、冷静な目で史料を読み解き判断する姿勢の涵養を痛感する。
読了日:8月22日 著者:加藤陽子
戦艦武蔵 - 忘れられた巨艦の航跡 (中公新書)戦艦武蔵 - 忘れられた巨艦の航跡 (中公新書)感想
基準排水量6万4千トンもの戦艦は必要だから造ったはずが、途中で無用の長物と化していたのを承知の上で運用した訳で、筆者の指摘通り、現実と幻想の間に浮かんでいる。本書の真骨頂は「戦艦武蔵の享受史」ともいうべき部分。技術立国日本の先駆とされたり、主計官にとっては愚昧な査定への戒めだったり、天皇制の見方だったり。歴史の常として、「体験した」と称する話者によって「事実」が異なる以上、個人的には吉村昭が「戦艦武蔵」で採った手法が蓋然性が高いように思う。で、吉村が「なぜ」を自身に問うために書いたという読みは正鵠だろう。
読了日:8月22日 著者:一ノ瀬俊也
大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争 (幻冬舎新書)大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争 (幻冬舎新書)感想
途中で引用されている戦争末期の昭和天皇の述懐が印象的。「(米空母の)サラトガが沈んだのは今度で確か4回目だったと思うが」と。組織防衛のために情報軽視が起き、常態化する。追従する新聞社、ラジオがいる。陸軍記者倶楽部、黒潮会(海軍)の存在は記者クラブ制度の1典型でしかない。広報担当が資料を配布し、説明する。今は「ペーパー」であり「レク」と呼んでいるだけである。間違いを探す、矛盾を突くことは、当時の発表資料を詳細に詰めればできたことだし、当時の国民の方が冷静である。原発事故や安保関連法案の報道を見れば自明だが。
読了日:8月20日 著者:辻田真佐憲
高校野球を100倍楽しむ ブラバン甲子園大研究高校野球を100倍楽しむ ブラバン甲子園大研究感想
丹念なルポです。甲子園球場のアルプス席では吹奏楽団の演奏が付き物。風景と言ってもいい。元々は東京六大学の応援に淵源を持つのだろうと想像しつつも、京都二中(現鳥羽)が鼻祖との話や、千葉の市習志野と拓大紅陵との因縁や、PL学園、智弁和歌山などなどの強豪校が刻んできた歴史をひもといてくれる。これば文化だなぁと実感。「美爆音」なる言葉を初めて知った。それと「屋外の演奏で音を太くしてストレートでキレのある音にする」っていう効用、「野球応援を通じて人間付き合いの場になっている」という言葉も感慨深い。さて明日は生音。
読了日:8月15日 著者:梅津有希子
イランの野望 浮上する「シーア派大国」 (集英社新書)イランの野望 浮上する「シーア派大国」 (集英社新書)感想
ペルシア文明を伝える国イラン。日本に伝えられるニュースでは反米デモが盛んで、イスラム革命以降の偏向が印象付けられる。当のイラン自身もそういう姿勢を見せる(見せたい?)ものの、性根は穏健な国であるというのが特派員だった筆者の視線。自然、第5章の「等身大のイラン社会」の章が出色。アラブの2大国サウジとどちらが穏健なのか……。ただ閉塞感から海外への頭脳流出が続き、宗教的な規範に囚われることが今後も続けられるのか。確かにグローバル化に一線を画すのは間違いだとは思えないのだが。兎も角書題の「野望」の2文字が不適切。
読了日:8月15日 著者:鵜塚健
ペリー来航 - 日本・琉球をゆるがした412日間 (中公新書)ペリー来航 - 日本・琉球をゆるがした412日間 (中公新書)感想
連想したのは中世末期に南蛮船の来航、後期倭寇の存在が近世への序章となったこと。相似形で米艦隊の来航が近世から近代への第一歩となったこと。第2に、異文化との遭遇はこういう対応になるのだろうなぁ、と。というのは実家は横浜。米軍進駐前夜に若い女性は兎も角縁故を頼って疎開、でも闇市での横流し物資の取引で町が潤う、民の竈の煙も立つという経験。そして今、こういう目に見える形での遭遇ではなく、無意識的な侵攻を受けているのかも、とも。ま、こういうことをWeb上に書き込んでいることも一翼なんですが。ワンテーマ新書上々。
読了日:8月13日 著者:西川武臣
京都の平熱――哲学者の都市案内 (講談社学術文庫)京都の平熱――哲学者の都市案内 (講談社学術文庫)感想
本圀寺近くで育った筆者の京都考。京都市バス206番東周りの道行きは道具立てだ。自身の経験と知見を元にした都市論である。千年の伝統の都という装いの奥では人が生活している訳で、閉鎖的との指摘は「お上」の交代が激しい経験をした町が、実は人と人との結び付きを重んじてきただけであり、糸口さえあれば異端も受け入れる度量(しなやかさ)が営みを支えてきたと説く。入れ子で柔構造の町も、仕事が変質し、人口が減少すると共に、今は変化しているとの指摘。アブラムシが一番繁殖するのはヒゲが接する距離くらいの環境との引用が示唆に富む。
読了日:8月12日 著者:鷲田清一
分裂から天下統一へ〈シリーズ日本中世史 4〉 (岩波新書)分裂から天下統一へ〈シリーズ日本中世史 4〉 (岩波新書)感想
新書という体裁らしい1冊。応仁の乱から徳川殿の御代まで、東アジアの中の日本という位置づけを見せながら説いていく。日明間の貿易、東シナ海に出没した南蛮船、アイヌとの窓口となった蠣崎氏(松前氏)、朝鮮との間の宗氏、琉球王国の存在と窓口になった島津氏。国内の歴史の歯車を動かす「蝶の羽ばたき」が見えてくる面白さ。秀吉の朝鮮出兵を「16世紀末の大東亜戦争」と見立てた手際の鮮やかさはこの本の中でも出色。壬辰・丁酉の倭乱があれば丁卯・丙子の胡乱もある訳で、松前、対馬、鹿児島と長崎という「四つの口」論にもつながる。明解。
読了日:8月11日 著者:村井章介
坊ちゃんの時代 第5部 凛冽たり近代なお生彩あり明治人 不機嫌亭漱石 アクションコミックス坊ちゃんの時代 第5部 凛冽たり近代なお生彩あり明治人 不機嫌亭漱石 アクションコミックス感想
修善寺大患の漱石。大吐血の後、約30分間意識を失っていたと言われる間に夢を見た。夢の中にはここまで登場してきた多くの人物が出現し、物語を完結にと導く。ただ。夢、という体裁を取ることは多くの構成を無役にする。黒沢明の「夢」が茫洋とした一作になったように、筆者は蓋然性が高いと信じることを融通無碍に繋げられるから。夏目という存在で明治という時代に通底したもの(今も続いているのかも知れないが)を謎解きするカギに仕立てるのは分かるのだが。絵はいいのだけど、本の方がここまで4巻とは違い過ぎる気がする。個人的には。
読了日:8月9日 著者:関川夏央,谷口ジロー
『坊っちゃん』の時代 第4部 明治流星雨―凛冽たり近代なお生彩あり明治人 (第4部)『坊っちゃん』の時代 第4部 明治流星雨―凛冽たり近代なお生彩あり明治人 (第4部)感想
本巻の主題は「大逆事件」。芽生えたばかりの社会主義運動を徹底弾圧するための冤罪事件であります。幸徳秋水を始め、当事者が大逆罪という意識がないままに話がでっち上げられていく。筆者は1945年の敗戦に向けて、日本の近代史の中でエポックにとらえているのですが。個人的には日比谷焼き討ち事件だと思っているから、ちょっと見解の相違かな。ただ、読んでみるに社会主義運動が本当に生硬いままで動き出してしまった不幸は、今でも続いていることかもしれないし、リベラルな動きが未だに円滑にならぬのもここの辺に一因があるのかも。
読了日:8月9日 著者:関川夏央,谷口ジロー
『坊っちゃん』の時代(第3部) 【啄木日録】 かの蒼空に ―凛烈たり近代なお生彩あり明治人  アクションコミックス『坊っちゃん』の時代(第3部) 【啄木日録】 かの蒼空に ―凛烈たり近代なお生彩あり明治人 アクションコミックス感想
啄木と漱石、滝山町の社屋で出会うことがあったかも。啄木石川一に関しては、特に作品、その生活ぶりに共感をすることはないし、感懐を持つことはできないのだけど。この時代の俸給人の一人として、この作品の中で飛び回ることは意味があるのかもしれない。太宰と並ぶダメダメ系だけど、南部の人をはじめ、支えてしまうんだよなぁ。ある意味で全力を尽くした人生だったのかも、と思えてくる。あと、キンドル版で読んでいますが、活字本よりも読み飛ばしがしやすい。過去に得ている知識で埋め合わせるところは筆者のペースにつきあうことはないから。
読了日:8月9日 著者:関川夏央,谷口ジロー
『坊っちゃん』の時代(第2部) 秋の舞姫―凛烈たり近代なお生彩あり明治人  アクションコミックス『坊っちゃん』の時代(第2部) 秋の舞姫―凛烈たり近代なお生彩あり明治人 アクションコミックス感想
「早石炭をば積み果てつ」という書き出し。今は高校国語の教科書に「舞姫」は採用されていないだろうな。でも、僕の頃はまだ教材でした。そんな思い出と共に。以下余談。今、こういう形式の本が出るということは、すでに若い世代にはこれらの文字を脳内で図像化することが難しいのだな、と思います。関川の文章だけなら、ここまでイメージを膨らませることができない。僕の世代はまだ明治百年の祝があったり、明治生まれが身近に居たり。どこかあの時代の空気が残っていた。今、それを求めるのは無理です。黒電話すら想像つかなくなっている時代に。
読了日:8月9日 著者:関川夏央,谷口ジロー
御家騒動―大名家を揺るがした権力闘争 (中公新書)御家騒動―大名家を揺るがした権力闘争 (中公新書)感想
良著。御家騒動の顛末を追うというよりは、主従関係(換言すれば上下関係)の変化を追究した1冊。双務的・契約的な関係の家礼型、権門の庇護を得るための一方的・隷属的な家人型、戦闘要員が従者化した郎党型等の主従関係が、鎌倉殿の時代は片務的に、室町殿は双務的に傾きながら進化し、江戸時代になって固定化する。御家への帰属意識が生まれる。自律性のある家老型から、主君との一体感を絆にする出頭人型への変化は、御家騒動という極限の場面でも変化を見せる。江戸時代に入って御家の上にある「公儀」という概念の成立が与えた影響は大きい。
読了日:8月8日 著者:福田千鶴
『坊っちゃん』の時代―凛冽たり近代なお生彩あり明治人 (アクションコミックス)『坊っちゃん』の時代―凛冽たり近代なお生彩あり明治人 (アクションコミックス)感想
知己に勧められてキンドルで入手。山田風太郎の明治物小説のような風体で、時代の空気を絵にしてみたら、という作意がおもしろい。原作の関川夏央の力もさることながら、こういう企画に谷口ジローの絵が合っているのがいい。初版刊行は1987年。約20年目にして巡り会ったけど、味わい深い1冊です。神は細部に宿る、という感じで。
読了日:8月8日 著者:関川夏央
蕩尽する中世 (新潮選書)蕩尽する中世 (新潮選書)感想
受領が専横を極めた時代から、戦国期の分国体制まで「蕩尽」の一語で読み解く試み。後三条帝の記録荘園券契所設置を契機に日本の文書主義(或いはフェチ)が始まるという見立ては面白い。為替決済にも似た制度の登場から、受領の行き着いた果てが六波羅政権であると説く。下って守護地頭の時代、足利殿の時代と銭貨の流入が齎す影響が増えていく。荘園領主に代表される商品経済と商品を扱う業者の貨幣経済の並列が悪党の存在を生んでいく。諸国の事例個々は興味深いが、徐々に「蕩尽」から後段は離れていくようで、散漫になる恨みを残した。
読了日:8月5日 著者:本郷恵子
このマンガがすごい! comics 翔んで埼玉 (Konomanga ga Sugoi!COMICS)このマンガがすごい! comics 翔んで埼玉 (Konomanga ga Sugoi!COMICS)感想
同僚からの流浪本で読了。サークルには西武池袋線、常磐線の先輩多々いた中で、あの当時の酒宴の雑談を絵画化すればこうなるよねえ、というのが実感。別に何のストーリーもなく、当時の埼玉県、茨城県に対する揶揄をテーマにしただけのこと。小学生の落書きの域。今では自主規制で描けないとすれば、息苦しい監視社会になっているとしかいいようがないし、筆者自身が所沢から横浜に転居したため、表題作は未完のままというのも乙。さて一読して、この本をどこへ流すかが問題である気がしてきた。手元に置いて置くには煩わしい感が満ち満ちているし。
読了日:8月4日 著者:魔夜峰央
北の富士流北の富士流感想
本書の得手を挙げれば、姿を社会相の中に置いて読み解いていること。ルポでも評伝でもない村松の感想文。北の富士の人生での波瀾万丈の出来事は偶然か、必然か判然としない。でも竹沢勝昭という人物はいる訳で、合間を描きたかったか。昔、北の富士氏が相撲協会を去る時、後任の広報部長に長く巡業畑で知られた親方が就いた。人柄を承知の上で「老い花咲かせたな」と呟いたのを覚えている。もし玉の海が健在だったら、とは思うけど、今の姿が必然なのだろう。将に自身が今や花盛り。育ての親・出羽ノ花の武蔵川が描いた力士の理想像である気がする。
読了日:8月2日 著者:村松友視
京“KYO”のお言葉 (文春文庫)京“KYO”のお言葉 (文春文庫)感想
正確に言えば筆者は西陣が出自。でも京での生活を骨の髄まで染み込ませている筆者ならではの文の数々。婉曲表現を遣いつつ、直截的。逆裏対偶のような論理の駆使。とても及ぶところではない。でもそんな嫌みな部分を軽妙な文体で読ませてしまう。同趣向の「京都ぎらい」(井上章一)よりもずっと読みやすい気がする。各項の末尾に店の紹介が2軒ずつ載っているけど、これこそ蛇足。ない方がいいのだが、元々「Hanako West」の連載だったというから仕方ないか。でも常に蹂躙され続け、新入者を受け入れてきた街のしたたかさが言葉に覗く。
読了日:7月31日 著者:入江敦彦
植民地時代の古本屋たち―樺太・朝鮮・台湾・満洲・中華民国 空白の庶民史植民地時代の古本屋たち―樺太・朝鮮・台湾・満洲・中華民国 空白の庶民史感想
台湾、朝鮮、満洲、樺太と戦前の日本の植民地での古本屋業界を展望した1冊。同業者間の通信物であったり、懐旧記であったりを元に当時を振り返る。挿入されている都市市街図で、奉天、真岡、京城、台北などの町の様子が分かる方が個人的には興味深かった。本が知性と比例した時代。教科書が古本の主力商品だった町、あるいは渡海した人の旧蔵本が出る町など。そんな土地でも、内地の古書業者が「せどり」に出向いていること、本屋商売が花形であった時代の懐旧譚。文は地域別に進んでいるのだけど、総集編部分の充実を他日に俟ちたい。
読了日:7月28日 著者:沖田信悦
都市鎌倉の中世史―吾妻鏡の舞台と主役たち (歴史文化ライブラリー)都市鎌倉の中世史―吾妻鏡の舞台と主役たち (歴史文化ライブラリー)感想
中世史の研究とはこういう風にやるという方法論を一般書にしている1冊。文献学出身の筆者が考古学と出会い、考察を進めていく。吾妻鑑の断片的な記述を元に遺跡、出土品との突き合わせ。北条義時の邸宅跡、大倉御所の後等々。また私的な持仏堂であったり、境界に置いた寺、鎮魂の寺など今に寺院の残る理由を解いたり。一番面白かったのは町の背骨は東西に走る六浦道で、若宮大路に対して約87度で交わる街路が発達していたという考察や、巷間に伝わる城塞都市としての機能はなかったとの見立て、京と並ぶ物流拠点だったことなど。東国国家論?
読了日:7月28日 著者:秋山哲雄
兵隊になった沢村栄治: 戦時下職業野球連盟の偽装工作 (ちくま新書)兵隊になった沢村栄治: 戦時下職業野球連盟の偽装工作 (ちくま新書)感想
読んでいて、悔しくなってきた。前川八郎、坪内道典、川上哲治、千葉茂に会っていた。鈴木龍二の書生にも。腰を据えて聞いていれば色々な話が聞けたに違いない。辛うじて思い出話を聞いた近藤貞雄、近藤をモデルにした新東宝の映画「人生選手」のこと。読んでいてありとあらゆる場面が思い出されて、オレならこう書いたと思うこと屡々。本書には出ていないが、1945年春、阪神間の空襲直前までやっていた職業野球の話がある。当時、出場した選手も取材したっけか。リーグ運営者の立場もさることながら、選手の話を盛り込んで見たかったな、と。
読了日:7月21日 著者:山際康之
代議制民主主義 - 「民意」と「政治家」を問い直す (中公新書)代議制民主主義 - 「民意」と「政治家」を問い直す (中公新書)感想
政策を実行する「執政」と民意を反映する「議会」と。人間の集団には代議制民主主義が登場する。ただ、執政を大統領のように直接国民が選ぶか、議員内閣制にするかの違いがあり、また、議会も小選挙区のような民意との比例性が低い選挙制度か、大選挙区や比例代表制のような制度か。この執政と選挙制度の組み合わせによって行政の有り様が変わるというのが本書の指摘。記述している内容は示唆に富むのだけど、頭の中で「代入(具体的なイメージの連想)」が必要な記述が続く。と同時に日本の現状を鑑みると議員の資質低下に憂慮せざるを得ない。
読了日:7月21日 著者:待鳥聡史
パックス・チャイナ 中華帝国の野望 (講談社現代新書)パックス・チャイナ 中華帝国の野望 (講談社現代新書)感想
書名は「Pax Romana(ローマの平和)」に由来する。ローマ帝国時代の5賢帝時代のことだ。以来、ブリタニカであれ、アメリカーナであれ、その背後には権謀術数がある。習近平の動静をどう見立てるのか。AIIBであれ、一路一帯であれ、19世紀に欧米と日本に席捲された経験を持つ中国の指導者が対米で「同等のパートナー」、対露では主従の関係を逆転させたと見立てる。細部にわたる描写が生々しさを感じさせるのだけど、逆に何がネタ元なのか? という胡散臭さも生んでいる。事実か陰謀論の類いなのか。どこかに夕刊紙の風合いが。
読了日:7月15日 著者:近藤大介
イラストで見る昭和の消えた仕事図鑑イラストで見る昭和の消えた仕事図鑑感想
説明文1頁、イラスト1頁。見開きで1項目。挿絵が秀逸。画風とすれば遠藤ケイか、今和次郎か。昭和の時代のホワッした気分をよく写していると思う。仕事別に文章は綴られていく。本当に消えちゃった仕事って多い。機械化で消えたもの、省力化で消えたもの……。身近に考えればコンピュータの出現で「○○の名手某さん」とか「△△なら某さん」という人々が消えていったなぁ。おまけにコンプライアンスという名の下に、縁故や人脈が忌避され、公明正大一辺倒になった。大切なことだけど、消えちゃったものもあるような気がする。委細は本書を。
読了日:7月15日 著者:澤宮優
足利義稙-戦国に生きた不屈の大将軍- (中世武士選書33)足利義稙-戦国に生きた不屈の大将軍- (中世武士選書33)感想
波瀾万丈を絵に描いたような主人公。世上に知られぬ人物を取り上げた筆者に拍手。同じ「将軍」職でも徳川殿には直轄地(財力)も兵力もあったが、足利殿には2要素がなく、守護大名連合の事務局長程度の力だったという見立てを基盤に「流れ公方」の人生を辿る。父と共に逃れた美濃から上京して10代将軍義材に。細川京兆家に追われて将軍廃立、越中に逃れ、越前、周防で13年余の雌伏を経て将軍義稙として返り咲き。だがまた追われて阿波に逃れた処で没する58年の生涯。大河ドラマには向かないけど、中世という時代を象徴する人物だ。秀逸。
読了日:7月12日 著者:山田康弘
角川映画 1976-1986(増補版) (角川文庫)角川映画 1976-1986(増補版) (角川文庫)感想
角川書店&角川春樹の歩みを振り返った1冊。角川映画というと犬神家の人々、悪魔の手鞠歌、人間の証明等を連想するけど、抱える作家が少なかった書店が、横溝正史、森村誠らの発掘と、自社専属の女優(薬師丸ひろ子、原田知世ら)の育成等々、元々は本を売るためのメディアミックスが変貌していく。映画興行界の習慣を破る形であれ。日本の出版界、いやマスコミの先端的な動きだったのかもしれない。ただ角川書店も結局、旧来の体制に組み込まれていく過程であった気もする。アニメ、Webへの進出と挑戦は続いているが。鵺のような姿かも。
読了日:7月9日 著者:中川右介
裸はいつから恥ずかしくなったか―日本人の羞恥心 (新潮選書)裸はいつから恥ずかしくなったか―日本人の羞恥心 (新潮選書)感想
内容散漫、事実の認識不足。読者をこの問題に誘う切っ掛けに、豆州下田の公衆浴場のスケッチを引いているのだけど、絵柄として別に奇異に見えない。柘榴口があり、流し場がある江戸時代までの風呂の絵。西欧人にとって混浴が珍しいなら、そも入浴自体が珍しい人々相手のこと。青森の酸ヶ湯にでも行けば認識は改まるかも。明治時代初頭に出された政令で意識の変化が生まれたというが、その後長く裸の庶民はいた。羞恥心とは違うレベルが続いた。今和次郎先生の本を玩味熟読せられたいくらい。後段は井上章一の「パンツが見える。」を読んだ方がまし。
読了日:7月7日 著者:中野明
【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛 (新潮選書)【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛 (新潮選書)感想
今日に至る中東紛争の起源とも言われる英仏露によるこの協定。実は後のセーブル、ローザンヌの両条約を経て、今の枠組みが完成した。勝手な領土分割を批判するのは易しい。だが、近代化の中で1)オスマン帝国が自壊 2)露の南進策−−が相俟って不安定になったのが原因と説く。この構図の読み解きが本書の眼目。中東からバルカン半島にかけて、クルド人に限らず民族が混住してきた地域。一歩間違うと「民族浄化」の悲劇に繫がる。現実的には米露を始め、中東の大国も含めての解決が必要だが、WWI後の状況にも似る今、良識が問われている。
読了日:7月5日 著者:池内恵
香港 中国と向き合う自由都市 (岩波新書)香港 中国と向き合う自由都市 (岩波新書)感想
「自治のない自由」な地域である香港。英国の租借地であれ、中国の行政特別区であれ、所謂民主的な手続きで行政が行われるのではなく行政長官(総督)が権力を握る形態である。でも対英国、対大陸であれ、住民が「不自由であること」を自覚した分、「自由」への希求、抑制への危機感が発露する。先の「雨傘運動」が記憶に新しい。この本を読んでいて彼の地の知見が改まったのと同時に、今の日本国憲法下で定められている自由すら、制限する動きに鈍感であるような気がして仕方ない。偖、抑圧するものを民衆に意識させない今の統治を称揚すべきか。
読了日:7月3日 著者:倉田徹,張ケ暋(チョウイクマン)
昭和の戦争 日記で読む戦前日本 (講談社現代新書)昭和の戦争 日記で読む戦前日本 (講談社現代新書)感想
今ならTwitterやFBなどのビッグデータを解析なのかもしれないなと思いつつ読了。とまれ昔の人は筆まめでした。ただ日記は読まれることを想定して書いている部分があり、本書のように時系列で対比することで史料的な価値が生まれる。中で印象的だった人物2人。広田弘毅の下で外務省東亜局長だった石射猪太郎、明治生命企画課の山中宏。犀利な目線が光る。と同時に宮沢喜一に繋がる小川平吉と床次竹二郎の2人の政治屋が残した影響の大なるを思う。民主主義と全体主義は紙一重、戦争は体制変革と体制破壊を齎すという結びの言葉が今に響く。
読了日:6月29日 著者:井上寿一
増補 大江戸死体考: 人斬り浅右衛門の時代 (平凡社ライブラリー)増補 大江戸死体考: 人斬り浅右衛門の時代 (平凡社ライブラリー)感想
処刑&刀剣の試し切り&生薬の製造を家業とした山田浅右衛門の話を縦軸に、横軸はそれを必要とした社会の話を以て組み上げた1冊。土壇場という言葉も実は生きた人間を据物切りした名残との見立て。人の胆嚢を乾した家伝薬(万能薬だったそう)も1家独占だったでしょう。江戸末期には武士が切腹の始末も難しくなっていたこと(山田家にアルバイトを頼む)や、技藝を持つ切り手の育成、刑死者の遺骸確保(蘭学者の解剖希望に死体の管理は山田家の独占事項という旧例の遵守)等々「御様(おためし)御用」の家を続けるのは中々に大変だったようで。
読了日:6月28日 著者:氏家幹人
へうげもの(22) (モーニング KC)へうげもの(22) (モーニング KC)感想
大阪冬の陣。真田丸登場。内堀埋立。俵屋宗達、岩佐又兵衛、桂離宮……。大団円ももうすぐ、ですな。久しぶりにすっきりした読後感。
読了日:6月26日 著者:山田芳裕
中国近代の思想文化史 (岩波新書)中国近代の思想文化史 (岩波新書)感想
新書とは言いがたい難解書。とにかく登場してくる人名が多い。人物の略歴が分からない。分からない出自の同一人物があちこちで活躍する。相関が分からない(清朝崩壊から国共内戦の終了までは戦国時代同様、知識人の移動が激し過ぎる)−−。ということであります。ただ本書の特色として、性差の話や女性の地位向上など従来の書にない視点や、戦火の下、疎開しながら存続したほどの高等教育機関(北京大、清華大ほか)や出版社(商務印書館ほか)の果たした役割の解説など新鮮な視点がある。組版や註記でもっとわかりやすくできたのではないかな。
読了日:6月25日 著者:坂元ひろ子
おすもうさんおすもうさん感想
角界には「よかた」という言葉がある。狭義は力士、親方、OB、広義は相撲記者やその出入り業者までを含めた境界認識である。身内が嘲笑すれば激怒するけど、外界人が揶揄しても決して体力的に優位にある彼らは手を挙げることはない。で、筆者はどこまで行っても「よかた」である。文献を紐解き、新聞紙面を博索し、引用しても、実像には近づけない。「のんびり」「あいまい」という言葉に集約してしまうけど、実は彼らはすごく繊細で目端が利く。分かりやすく言えば、関取と付け人の関係を観れば分かってもらえるかな。ありがちな相撲ルポ本。
読了日:6月23日 著者:高橋秀実(たかはし・ひでみね)
キリスト教と戦争 (中公新書)キリスト教と戦争 (中公新書)感想
最初に取り上げられる素材がチャプレン(従軍司祭、従軍牧師)の話。戦闘に参加しつつ平和を祈る存在。というきっかけから、自分の脳裏では日本の中世の陣僧、聖の存在との比較を考えながら読み進めていた。確かに戦いを否定すれば宗教は生き残っていなかったろう。ただ一方で暴力を肯定する訳でもなし、死者の成仏というか、死の除穢というか、戦場を駆け巡った僧がいたのが不思議に思えてならなくなった。聖書の読み解きからアメリカ教を生んだ世界最大の軍事大国などとは何かが違う。島国で発達してきた日本の宗教観が逆に謎めいて思える。
読了日:6月19日 著者:石川明人
絵巻物に見る日本庶民生活誌 (中公新書 (605))絵巻物に見る日本庶民生活誌 (中公新書 (605))感想
元々は中公が出版した「日本絵巻大成」(全26巻別1)の月報に綴った文章を再構成したものであるという。絵巻に登場する生活の風俗を細々と拾い、注釈を入れていく。ふと文章の裏側にある「採集カード」の存在を想定したくなるような1冊。古式ゆかしい。首を打つのは死者を怨霊にしないためで、戦場では顔の皮を剥いで人の識別をさせないようにする(そりゃ逃げる側を首を何個も抱えては大変)とか、衣食住すべてに及ぶ内容。ただ絵巻物資料が写真で見られるようになった時代の本。今は電子情報化され、検索が速い。今の学徒の新版を待ちたい。
読了日:6月19日 著者:宮本常一
戦いの日本史 武士の時代を読み直す (角川選書)戦いの日本史 武士の時代を読み直す (角川選書)感想
治承・寿永の内乱から小牧長久手の戦いまで、8件の合戦の意味をどう歴史の中に位置づけるかという試みの掌編集。曰く攻守の確認、目的の確認、目的達成の成否を元に、勝敗を判定していく理論。見立ての妙が生きる。中でも鎌倉殿の中での「霜月騒動」(安達泰盛と平頼綱)は「統治派対権益派」の内紛と、「応仁の乱」は「形式より実力重視」と、三好長慶と織田信長での「日本S(五畿)」「日本A(糸魚川静岡構造線以西、中国四国まで)、日本B(それ以外)」と区分けて考える法など。領国の石高、銭の蓄積から兵の動員可能数を勘案も一興。
読了日:6月18日 著者:本郷和人
妄想かもしれない日本の歴史      (角川選書)妄想かもしれない日本の歴史     (角川選書)感想
初出が新聞、或いはWebマガジンという媒体の故か、どうも中身が軽い。随筆、漫筆という風情の1冊。筆者が書かんとしていることは、後書きに挙げた沢村栄治の逸話に尽きている。曰く、復員後、投手として能力の落ちた彼を解雇し、彼自身は南海へのトライアルをしようとしていた、という話だ。今は「巨人の伝説の名投手が戦線に散った」みたいな美談になっているが、実は巨人は真っ先に沢村を見限っていたという話。歴史はある部分が隠され、ある部分は語られる。書き方が左右に揺らぐ中、勘所を見極めるのが歴史を味わう醍醐味、と。確かに然り。
読了日:6月18日 著者:井上章一
天皇はなぜ生き残ったか (新潮新書)天皇はなぜ生き残ったか (新潮新書)感想
長く続いてきた東大対京大の史観論争の中で、黒田俊雄が提唱した権門体制論に対して佐藤進一譲りの本郷は武力の重みを説く東国国家論を説く。何を以て王権と考えるかという問いかけだ。この本では書札礼から宮廷の位階など読み解きの基本から宮廷、武門の機構に目を配る。基本的なことを押さえているので好著なのだけど、筆者が思っているほど読者は専門家ではない。例えば「畏友新田一郎」という記述。知っている人間なら東大大学院法学政治学研究科教授で中世法制史の泰斗と知れるが、筆の運びが性急。ススッと読み進められた人は何人いたか。
読了日:6月13日 著者:本郷和人
記憶の歴史学 史料に見る戦国 (講談社選書メチエ)記憶の歴史学 史料に見る戦国 (講談社選書メチエ)感想
あとがきに拠れば本郷和人に煽られて書いた1冊だという。学者のジレンマのような気分が書かせたのか。取り上げているのは本能寺の変、細川忠興夫人の死、佐竹殿統治下の修史作業等々。史料、記録として残っているものを分別し、系統だて、対比して、事実に近いと今の時点で探る作業の妙味を語る。ただ、膨大な歴史史料の前に如何な碩学といえど1人の人間。詳細に調査を極めたことが日本史として敷衍できるかどうか、研究手法が歴史を研究することにつながることかどうか、筆者の懊悩が覗く。典籍を元に記述すればいい時代は終わったのだから。
読了日:6月11日 著者:金子拓
戦国の食術: 勝つための食の極意 (学研新書)戦国の食術: 勝つための食の極意 (学研新書)感想
講談本。名将言行録などをネタ本に食事の点景を綴った1冊。元ネタが元だけに、1件のエピソード当たりの行数が短く、ぶち切れ、細切れの感が否めないのは残念。読んでいて連想したのは1974年にベストセラーとなった樋口清之の「梅干と日本刀」。カリウムだ、ナトリウムだ、アミノ酸だと、お説が並ぶのだけど、裏付けとなるようなデータに乏しい。読んでいる時は一種の快感もあるのだけど、読み終わってみると何が残ったのだろうと思い返そうと思っても思い出せない、っていうか。味噌大好きのそういう方向性の筆者であったのを見逃していた。
読了日:6月8日 著者:永山久夫
日本会議の研究 (扶桑社新書)日本会議の研究 (扶桑社新書)感想
書いてあること=椛島有三の「日本会議」、伊藤哲夫「日本政策研究センター」はともに生長の家原理主義者の安東巌に帰一するというのが本書の読み。70年安保の学園紛争での民族派系学生の動きや「元号法制定」を通して運動は地下水脈のように続いていた。左派学生の多くが転向したのとは対照的に。権勢の淵源は「動員力」だ。君が代に一体感を持ち、宗教的な差異は感じさせない運営能力、事務能力。組織力は票である。議員、特に小選挙区制の下の議員には確実な票になるという点で魅力だ。民主的を装う手段で民主主義が歪んでいく不思議。
読了日:6月8日 著者:菅野完
室町幕府と地方の社会〈シリーズ日本中世史 3〉 (岩波新書)室町幕府と地方の社会〈シリーズ日本中世史 3〉 (岩波新書)感想
今の生活にまで繋がる部分が多いもののイメージが湧きにくいのが室町時代。室町殿は15代とはいえ、歴代将軍の中で名が5人挙がれば上々なのではないか。そんな時代の空気を概説する好著。天皇を中心とする権力構造の中、武門も利用し利用されつつ王権を確立していく。何より興味深い指摘はこの時代に「村」が確定したのではないかという分析。灌漑や水防工事の技術が確立し、今に続く日本の集落、風景が確定してきたとみる。筆者自身があとがきで触れているように今に続いてきた景色(居住地、生業、信仰……)が急激に変化、崩壊している現実。
読了日:6月6日 著者:榎原雅治
夜明けあと (新潮文庫)夜明けあと (新潮文庫)感想
キンドルで購入。店頭でもしパラパラとやった後だったら、買ったかなぁ。安政5年から明治45年まで、新聞記事などの拾い書き。1項目3行ほど。時に寸評が入る。文章の調子は木村荘八とか、宮武外骨のようなにおいがする。時代の空気を示すものではあるだろうけど。
読了日:6月3日 著者:星新一
名前と権力の中世史: 室町将軍の朝廷戦略 (歴史文化ライブラリー)名前と権力の中世史: 室町将軍の朝廷戦略 (歴史文化ライブラリー)感想
偏諱というと堅苦しいけど、子供の名に父や祖先の名の一字を遣ったりするのは今でも身近な習慣。社会的な関係構築に援用された風習から権能の在処を探る。一字を賜る、貴顕の名に憚って改名する等々。猶子の話も取り上げているがテーマを名前に絞った方がよかったかも。主要な部分は足利殿の話だが、名を授ける側、受ける側に当然利益があるからの習慣。都合がいい時には利用し、悪くなれば知らんふりをする貴族のしたたかさが印象的。名前、諱への言霊信仰というか、礼儀というか。今は本名を呼ぶのが当たり前で感覚として分かりにくい話だけど。
読了日:6月2日 著者:水野智之
雨と生きる住まい-環境を調節する日本の知恵 (INAXライブミュージアムブック)雨と生きる住まい-環境を調節する日本の知恵 (INAXライブミュージアムブック)感想
温帯の中でも降水量が多い日本。そこで暮らすためには知恵がいる。雨をどうしのぐか、だ。茅葺き、檜皮葺、瓦葺き。切妻、寄棟、入母屋。水を早く流し切ってしまう、通気をよくして湿気を室内に籠もらせないようにする工夫の成果が日本の伝統建築であることが分かる。写真をふんだんに使い、小さな図録のような仕立ての1冊。レイアウトも丁寧で、写真もいい。いい本ではあるけど、1500円という価格をどうみるかなぁ。展覧会の図録と思えば決して高い訳ではないけど。
読了日:5月31日 著者:INAXライブミュージアム企画委員会
食魔 谷崎潤一郎 (新潮新書)食魔 谷崎潤一郎 (新潮新書)感想
作品から食事の場面を抜き出して考察したり、日記や関係資料から谷崎の食生活をトレースしたり。ただ、色と食慾ともに、個人的には谷崎に親和性を持てない故なのか、読んでいてリズムがつかめず、ぶつりぶつりと小分けしたような文章に乗り切れなかった。末尾の陰影礼讃に出てくる柿の葉鮨のレシピ、高校時代に同書を読んで、一時かぶれたことがあったことを思い出した。杉の葉を敷き詰めたアサガオの小便器の話とともに。
読了日:5月29日 著者:坂本葵
北条氏と鎌倉幕府 (講談社選書メチエ)北条氏と鎌倉幕府 (講談社選書メチエ)感想
烏帽子親、諱、氏族ごとの通字、長子と庶子、本家と庶家、官位など武家社会の常識を押さえつつ、鎌倉殿に於ける北条氏の存在を探る1冊。謎解きが面白い。登場するのは承久の乱の際の義時と元寇の際の時宗。義時は時政にとっては跡継ぎではなく、結果的に後継者になっていたという見立てや、「頼朝が八幡、義時が武内宿彌」の生まれ変わりという説話集の逸話に時代の空気を掬ったり、時宗がモンゴルの襲来もあって独裁的な体制を築くために身内を討ち、皇位継承にまで介入する。吾妻鑑や増鏡などの史料で見事な口語訳ぶりが秀逸。筆者の才気をみる。
読了日:5月28日 著者:細川重男
戦国大名の正体 - 家中粛清と権威志向 (中公新書)戦国大名の正体 - 家中粛清と権威志向 (中公新書)感想
教科書から専門書への階梯を開く意図の1冊。端書きに挙げている「戦国大名」の中の世代差、「天下」の概念、「下剋上」の意味などを事例別に説く。数ページが吉川弘文館などで1冊の本となっている内容なのだから、読者は駆け足を覚悟せねばなるまい。僕は逆の順番で読んでしまったけど、この本を手がかりに次の関心の項目に進めば理解が深まると思うし、入門書としては悪くない。特に外国人宣教師の書簡を手がかりにしているのは新しい試みか。元々は郷村単位の集団が国単位にと進化する中での権力闘争であり、権威付けであり、近世の母胎であり。
読了日:5月26日 著者:鍛代敏雄
コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか (ブルーバックス)コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか (ブルーバックス)感想
流石「ブルーバックス!!」。1杯の珈琲から自然科学の花が咲く。まず植物学的手法でコーヒーノキについて語り、エチオピアの奥地で生まれた豆が全世界に伝播し、広まった歴史を述べる。「おいしさと香り」の相関やら、ガスクロマトグラフィーで味、香りを分析し、DNA解析で系統を探り、さらには鉱石の浮遊選鉱の話で淹れ方を探る。この1杯にどう取り組んでみるかという遊び心と真剣さがどこまでいっても面白い。抽出した香り成分、苦み成分で人造コーヒーを試みたりも。これまでの経験則への科学者としての相対的な評価案とみたてた。
読了日:5月25日 著者:旦部幸博
トウガラシの世界史 - 辛くて熱い「食卓革命」 (中公新書)トウガラシの世界史 - 辛くて熱い「食卓革命」 (中公新書)感想
コロンブスが南米大陸から持ち帰ったことで、主食になる素材でもないのに爆発的に世界中に伝播していった唐辛子。そのスピードたるやすごいものです。胡椒を席捲し、遥か東海の小島まで至るのですから。個人的には第1章が難物でした。農学的な観点から起源を探る部分ですが、ここを乗り越えるとあとは一気呵成。元々は何年も収穫できる木本性の植物であったというのはちょっと驚きでした。今も微妙に欧州の北側では普及せず、多様な品種が続いている。入門書であり専門書の風を押さえた素敵な1冊。今の方が味覚が保守化しているのかもしれない。
読了日:5月23日 著者:山本紀夫
中世社会のはじまり〈シリーズ日本中世史 1〉 (岩波新書)中世社会のはじまり〈シリーズ日本中世史 1〉 (岩波新書)感想
日本に古代はあったのかという議論は扨置、中世と呼ばれる時代の始まりを白河からの3代の院政の間に見て、社会の変化を探った1冊。「家」「身体」「職能」の3つの視点からの読み解きが興味深い。この時期に上は五摂家から始まって家という概念が成立したと見る。加えて武門が西に東にと移動し、攪拌された時代であったのが分かる。身体という視点は宗教でみると分かりやすいか。教学を旨とした平安仏教から禅、念仏聖と行を主体にした鎌倉仏教へ。家が成立することで家職、家藝が成立する訳で。和歌、随筆など文学も史料に時代の空気を探る試み。
読了日:5月20日 著者:五味文彦
鎌倉幕府と朝廷〈シリーズ日本中世史 2〉 (岩波新書)鎌倉幕府と朝廷〈シリーズ日本中世史 2〉 (岩波新書)感想
高校教科書ではほとんど登場しない摂家将軍、親王将軍の存在が鎌倉殿の政権維持と帰趨に影響していた。天皇家内での遺産相続、皇位継承の問題と北条家内の執権、得宗の権力確立との関わりを書札礼や古文書から読み解く。筆者の面目躍如。持明院統と大覚寺統に分かれ、南北朝の因をなした萌芽まで。ただ惜しむべし。筆者は通史の叙述は緑色で、史料の解釈・考察は銅色で書いてみたいと「はてしない物語」の顰みに倣いたい旨をあとがきで述べているけど、この意図が全体を読みにくくしている気がする。権門体制論への一つの反証の標榜を狙っているが。
読了日:5月17日 著者:近藤成一
こんなに変わった歴史教科書 (新潮文庫)こんなに変わった歴史教科書 (新潮文庫)感想
学界で定説になるのには30年間は必要というのが文科省教科書検定官の見解だそうだ。歴史学も社会科学の一分野、研究が深化すれば記述が変わるのもまた宜なる哉。技術の進歩もある。鎌倉殿の権力確立を何時にみるか、肖像画の主の変遷くらいは論争として分かるけど、近代史の部分はどう記述するのか、しうるのか。文科省と執筆者の間でどういうやりとりがあるのか、気になるところ。「〜の役」が{〜戦争」になるのは規模や影響を勘案してのことで済むが、歴史的な意義付けも改変が可能であり、恣意的にプラスにもマイナスにも振れうる気がした。
読了日:5月12日 著者:山本博文
段取りの“段”はどこの“段”? 住まいの語源楽 (新潮新書)段取りの“段”はどこの“段”? 住まいの語源楽 (新潮新書)感想
住まいの用語から派生した言葉を拾い集め、簡単な解説をつけた1冊。トリビア集みたいなものが読みたいのならいいかも。ちょと面白そうに思えたのだけど、中身が薄いかなぁ。広辞苑と逆引き広辞苑片手に書いたような。週刊新潮誌上で広告と抱き合わせの短文ゆえなのか。ふと連想したのが同じ新潮社の1冊、新潮選書「住まいと暮らしの質問箱」(室内編集部)。山本夏彦の「室内」に連載されたコラムをまとめたものですけど、どうせなら質、量とも後者の本の方をおすすめしたいなぁ。
読了日:5月11日 著者:荒田雅之+大和ハウス工業総合技術研究所
キメラ―満洲国の肖像 (中公新書)キメラ―満洲国の肖像 (中公新書)感想
増補版の方を再読。巻末に書き足された約70ページの補章の部分を先に読むとよい。Q&A形式で24問、初学の階梯となるような質疑応答が続く。本文を読み返すに付け、「満州国」とは、関東軍(石原莞爾とも言える)の、溥儀の、思惑の上に築かれた「王道楽土」という看板の掛かった砂上の楼閣であったということが緻密に語られる。溥儀は最初は皇帝ではなく執政であったこと、国内官界から出向した岸信介らの官僚がその体制を創り上げたこと、「弐キ参スケ」が跳梁跋扈したこと等々。「満洲は日本の生命線」という偏執が招いた禍殃というか。
読了日:5月9日 著者:山室信一
カストロとフランコ: 冷戦期外交の舞台裏 (ちくま新書)カストロとフランコ: 冷戦期外交の舞台裏 (ちくま新書)感想
公式的な発言と実際の行動は違って当たり前、「したたか」という言葉で括られるのかもしれないスペインのフランコとキューバのカストロ。「米国眼鏡」を通してみると「独裁者」であるけど。父祖の地を同じくし、カソリックという共通した宗教を持つ、しかもイエズス会系の教育を受け、母語がスペイン語。東西対立が厳しかった時代にも自国の利益を追求し、成果を挙げる、大使は召還しても国交断絶はしない等々−−米国中心の安保体制と言い続けて疑わない日本に比べ、成熟した大人の振るまいに見えて仕方ない。東アジアに据え替えてみても……。
読了日:5月8日 著者:細田晴子
戦国夜話 (新潮新書)戦国夜話 (新潮新書)感想
週刊新潮連載の記事、回を重ねる毎に熟れ、和人節ともいうようなリズムが心地よい。古老の聞書のようでもあり。縦横無尽に人名が連射されても怯まず読み進めること。京大系の権門体制論に異議を立てる東大系の中世史学者の雄(孤塁?)なのかもしれないけど。後書きがこの弾幕の内輪話。文科省が人文系の学問は不要と言い出し、哲・文学と歴史は大変だと言われる中、日本中世史の研究志望者の現状は本当にひどいと嘆く。老年に差し掛かったと悟った1960年生まれの筆者は歴史の面白さを社会に紹介し、後学の役に立ちたいと呟く。その意気や佳し。
読了日:5月7日 著者:本郷和人
殺生と往生のあいだ: 中世仏教と民衆生活 (歴史文化ライブラリー)殺生と往生のあいだ: 中世仏教と民衆生活 (歴史文化ライブラリー)感想
最初にあとがきを読むと筆者の意図が把握しやすい。というのは狩猟の話から始まって仏教での殺生戒、往生要集からの地獄観という風に話が進み、ようよう殺生の話に入っていく葛籠折れ。宇治川の網代木(川魚漁)を主に破却され、再建され、禁止しながら一方で贄は要求するということを繰り返す。最大の殺生者ともいえる武士にとっての戦いに関しての記述で終わる。通底しているのは天台浄土教がいろいろな面で顔を出し、価値判断の基準になっている根深さ。筆者言う処の「少数と隙間の方」を追求した研究の振り返り。忍性はあるが、一遍への言及は?
読了日:5月6日 著者:苅米一志
下り坂をそろそろと下る (講談社現代新書)下り坂をそろそろと下る (講談社現代新書)感想
PCとWebが出現した社会となって以降、何が知性なのか。包み込むような文体で諭していく1冊。脊髄反射のような速度、辞書を食べながら暗記するような知識は不要で、むしろ自分が何に拠って自立するのかを確かめることこそ大事であると説く。鍵になるのは自身の文化なのかを直視すること。今の任地に赴任して、或いは来し方行く末を考える時、必ず浮かぶ何か纏め切れない「曖昧模糊としたもの」を端正に因数分解されたような気分になる本。筆者は言う。「寛容と包摂」と−−。だが同時にガロアの言葉が浮かんでいる。「僕にはもう時間がない」
読了日:5月5日 著者:平田オリザ
習近平の権力闘争習近平の権力闘争感想
習は1953年生まれ、花のニッパチである。文化大革命の余波をもろに被った世代。でも彼には父で元国務院副総理・習仲勲の存在があり、つながる人脈「紅二代」がある。習が2012年に党・軍の中央書記を経て2013年には国家主席に成り上がった。この間の権力闘争について短信を繫ぎ合わせて「陰謀の」物語に仕立てたのがこの1冊。面白いのだけど、逆にどうも説得力に欠ける気がする。中国の為政者として目線は国内8、海外2と言われるが、ほぼ権力の掌握を終え、今後はどうするのか。そう毛、ケの再来と言える程の道を目指すのは隘路だが。
読了日:5月5日 著者:中澤克二
殴り合う貴族たち (角川ソフィア文庫)殴り合う貴族たち (角川ソフィア文庫)感想
能「葵上」では六条御息所の生霊が後妻打ちをする。彼女が何で悔しがったか、車争いとはどんなものなのかを想定させるような出来事が実は頻発していたとする。記述は藤原実資の日記「小右記」を中心に、貴族や宮中の実力行使の実態を点綴していく。巻末の「王朝暴力事件史年表」を本文と一緒に見ながら読み進めると頭が整理できると思う。慈圓は保元・平治の乱を以て武者の世になったと言ったが、公権力が不十分で、私的制裁せざるをえなかった平安中期。既に素地は整っていたような気がする。清少納言も紫式部も書かなかった実際の世相がある。
読了日:5月4日 著者:繁田信一
豊国祭礼図を読む (角川選書)豊国祭礼図を読む (角川選書)感想
秀吉の死から豊国社の成立、大阪&江戸の二極化の中の7回忌の大祭(1604年)の盛儀から生まれた屏風3雙。筆者はイエズス会の記録に従来からの日記類などの史料で背景を読み込み、推定した成立順に、豊国神社本→妙法院模本→徳川美術館本と制作依頼者を淀殿、北政所、蜂須賀家政とし、時期、意図を読み解いていく。先行研究を丹念に紹介し、自説を展開していく。就中、徳川本にある歌舞伎者の喧嘩を秀頼と秀忠と見立てて読み解いたのは妙味。今、山口晃や山田芳裕が「分かる奴には分かる」と隠喩をちりばめた仕掛けを自作に描くのにも似て。
読了日:5月4日 著者:黒田日出男
足利尊氏と関東 (人をあるく)足利尊氏と関東 (人をあるく)感想
尊氏とはと問われて足利幕府の初代将軍と答えるのは教科書レベル。でもこの時代に日本史が変わったと実感するような人物であるのが分かる。たぶん鎌倉で生まれて京都への往復は茶飯事、時に中国地方まで下り、また鎌倉に戻って……と実に動き回る。家族の営みより家や一族を重視、その間に鎌倉幕府を倒し、後醍醐天皇を追い出し、実子・弟との諍いもあり……。太平記のように主語が変わるのではなく、尊氏を主語にした視座での叙述が続くので分かりやすい。後段は関東に根を下ろした源家足利氏の振り返りとその遺跡の考古学的ルポ。立体的な本です。
読了日:5月2日 著者:清水克行
中国革命を駆け抜けたアウトローたち―土匪と流〓の世界 (中公新書)中国革命を駆け抜けたアウトローたち―土匪と流〓の世界 (中公新書)感想
今風に言えば、ISがつい隣の国を支配していたという話。義民風の緑林であれ、地縁を力で繋いだ土匪であれ、職域や生国を基盤にした紅幇、青幇などの幇会であれ……。呼称、遣り口は違えど、本質的には力次第で動いていたということ。日本で言えば法治が及ばなかった戦国時代を想定するしかないか。省境の山や低湿地で跳梁跋扈する訳で。中国共産党の聖地井崗山も蒋介石が立て籠もった重慶もそんな土地、民衆の記憶の上に成り立つという見立て。「三大紀律八項注意」「没有共産党就没有新中国」なんていう革命歌が今も歌われているのも示唆的かも。
読了日:4月29日 著者:福本勝清
江戸諸國四十七景 名所絵を旅する (講談社選書メチエ)江戸諸國四十七景 名所絵を旅する (講談社選書メチエ)感想
「名所」「名物」を名乗るためには「構成要件」が必要である、という概念が整理されたのが江戸時代である、ということ。それが製版の技術進化に伴い、図画化され、視覚情報となって定着した、ということ。古くは古今集、源氏物語、能などを通じて土地の伝承として定着していたものを再構成したものであり、換言すれば「歌枕」。と同時に近代的な百科事典的興味も生まれ、名所である上、特産、名産にも関心が広がったと説く。要件を下敷きにした読本、歌舞伎、浄瑠璃など江戸時代の文化も開花したとする。というか淡々とした内容で漫筆に近い。
読了日:4月28日 著者:鈴木健一
入門 国境学 - 領土、主権、イデオロギー (中公新書)入門 国境学 - 領土、主権、イデオロギー (中公新書)感想
国境の概念の淵源をヴェストファーレン条約の成立に見ているがどうだろうか。時に1648年=慶安元年。3代将軍家光の時代。別の概念もあった気がする。物理的な境界というより、社会的・精神的境界の方が実質的な効力としては大きいのではないだろうか。亜欧も接している訳で西欧的な概念に汎用性を求めるのは如何? 6章の多国間関係を考える上で国境を接しているか否か、海か陸か、という模式化は興味深いものの、全体に話の内容が広汎、抽象的な気がする。「入門」と銘打つ以上仕方がないのかもしれないが。扨々、国境はフェンスか壁か砦か。
読了日:4月27日 著者:岩下明裕
中南海――知られざる中国の中枢 (岩波新書)中南海――知られざる中国の中枢 (岩波新書)感想
浅田次郎の小説の舞台が13億余の人口を誇る中国の中枢たり得ているということがイメージしにくい。国内に当て嵌めて強いて想像すれば赤坂御用地か。中の様子は分からないけど、生活している人がいる、プロトコルの舞台装置たりえる等々。本書の前段はベールに包まれたこの中南海のルポである。筆者2度の体験と膨大な文献情報から築き上げた世界。1800年落成のホワイトハウス同様、古蹟に居住することは正統性の証なのかも。後段は中国共産党のシステムの読み解き。結党以来の支配制度「幹部等級別待遇制」と「檔案」は健在なのだな、と。
読了日:4月27日 著者:稲垣清
石油・武器・麻薬 中東紛争の正体 (講談社現代新書)石油・武器・麻薬 中東紛争の正体 (講談社現代新書)感想
プロテスタンディズムの上に資本主義が成立したとは古人の説くところ。ムスリムの説くところの上に安定した社会が成立しても不思議はない。多様な価値観が認められる社会といいつつ、エネルギー資源を巡る利権争い、社会の不安定化に乗ずるような軍産複合体の闊歩。テロルが終わらないのではなく、見識の欠如がテロルを生み出していることを示す。瞬時に巨万の富が飛び回る今に至っては、従前の文化の墨守だけでは対処しきれない部分もある気がするが。何より情報が平均かつ平準に享受できることの大切さも。メルカトル図法ではない世界観が必要。
読了日:4月26日 著者:宮田律
国宝神護寺三像とは何か (角川選書)国宝神護寺三像とは何か (角川選書)感想
作品を美術品として見る立場=印象批評は指標作品との比較に留まるに対して歴史学の傍証の一分野として観る立場の筆者。3図の読み解きをする。鍵になるのが「足利直義願文」。像が三幅対でなければならなかった理由、絵絹の異例の幅から見えるもの、夢窓疎石と直義の対話による「夢中問答」の読み解き。黒田節が全開する。歴史科学は新資料が出れば変わるにせよ、今の時点での最高の読み解きを示すものがこういう形で出るのが興味深い。歴史の頼朝像(筆者のいうョ義像)は江戸時代に徳川家の外護の都合で寺が変身させたという読みまで興味津々。
読了日:4月25日 著者:黒田日出男
明治政府と英国東洋銀行(オリエンタル・バンク) (中公新書)明治政府と英国東洋銀行(オリエンタル・バンク) (中公新書)感想
印度のムンバイで生まれ、日本に4番目に乗り込んできた銀行が日本の明治政府の財政面での牽引役を引き受けてくれた歴史。曰く旧幕からの横須賀造船所接収に当たっての抵当解除資金、曰く新橋〜横浜の鉄道資金、大阪での造幣寮設立、秩禄公債の処理用資金。そして貿易決済に使った洋銀券の流通、三井組の救済も。この銀行がなかったら、日本はどうなっていたことやら。ただこの銀行自体も1880年代にはセイロンやセーシェルへの投資失敗などが響き退場していくのだが。極東の小国の明治初頭の一つの裏面史である。横浜の雑踏が聞こえるようだ。
読了日:4月22日 著者:立脇和夫
日本陸軍とモンゴル - 興安軍官学校の知られざる戦い (中公新書)日本陸軍とモンゴル - 興安軍官学校の知られざる戦い (中公新書)感想
モンゴルの独立運動を描いた1冊。民族自決の機運の中で、日本が先導役になることを期待しながら、日本の陸士を出たエリートは興安軍官学校やモンゴル少年学校の設立を通して独立を窺う。満州国成立時も王道楽土という耳良い標語で誤魔化された。日本が抱いた野心(というか利用した)、蒙古聯合自治政府〜蒙彊聯合自治政府と民族自決の本意とは遠ざかる結果に、狭間の民族の悲哀がある。内蒙古、外蒙古一体となった民族国家を作る目標がWWIIのヤルタ協定で崩れ、日本に協力した者として共産党中国では追われる身に。軍官学校の存在の大きさよ。
読了日:4月21日 著者:楊海英
第一次世界大戦史 - 諷刺画とともに見る指導者たち (中公新書)第一次世界大戦史 - 諷刺画とともに見る指導者たち (中公新書)感想
筆者の「戦争の帰趨には偶然の要素も入り込む余地があるが、戦争を起こすのも遂行するのも終わらせるのも最終的には人である」という視点に基づいての記述が連なる。あの人がここに、みたいな驚きが処々にあったり、寸土も敵国に占領させず降伏した独の話等々、日本的には遠い戦争が実は結構身近な問題と関連があるのを教えてくれる1冊となっている。高校日本史の教科書では青島占領くらいしか出てこないが、WWIがWWIIへの芽を胚胎していることがよく分かる。日本人にかけてきた知見に関する良書。写真ではなく風刺画を入れたのも効果的。
読了日:4月21日 著者:飯倉章
寺院消滅寺院消滅感想
人が減れば寺も減る。当然だ。全国で約3〜4割の寺が無住になり、消えていくとの見立てだ。需要と供給のバランスが崩れるから淘汰されるのは仕方ないかもしれない。寺が消えることで、地域社会で寺や神社が担ってきた人と人を「紐帯」のような役割を果たす場も消える。家族関係も薄れる。住侶にも檀家にも1960年代以降の社会変化は想定してきたものではないにせよ。ただ人間は死だけは絶対であり、人質ならぬ「骨質」を持つ寺院がどう再生の道を探るか、家ではなく個人と寺の結びつきを生み出していくのか。むしろその点が興味深い気がした。
読了日:4月18日 著者:鵜飼秀徳
気まぐれコンセプト 完全版気まぐれコンセプト 完全版感想
1981年からの35年分、より抜きの1冊です。前のクロニクルも厚かったけど、これも厚い。この35年間は、日本という国が「Japan as No.1」と持ち上げられて浮かれ、「失われた20年」を味わって、震災もあって今に至る時間に当たります。この年月、ある意味で空気を上手く切り取っている気がします。漫画というより、おじさん向けの年鑑という感じ。このページにはないけど、本に付いている帯が秀逸。曰く「第1位」(売れないとホイチョイが困る本ランキング)、「おかげさまで満足度No.1」(著者の印税に対する)……。
読了日:4月16日 著者:ホイチョイ・プロダクションズ
当確師当確師感想
選挙の「裏面」を描いた小説ということになるのだろうけど、現場を少し知っている身にはちょっと違うかな、という気が。小説に仕立てるために劇的に盗聴だ、裏切りだ、二重スパイだと情報戦風の味を効かせているのだけど、実際はそんなものではない。特に後段というか、メインの市長選の話は道具立てがあまりに荒唐無稽。ちょっと鼻白む感じ。世論調査の結果や選管の書類風のものをはさみ込むことでリアリティを持たせているつもりだろうが、井上ひさしの「十二人の手紙」にある道具立てほどの効果はない。面白いテーマを飾り、作り込みすぎた感じ。
読了日:4月16日 著者:真山仁
アマチュア・ベースボールオフィシャルガイド’16 グランドスラム47 (小学館スポーツスペシャル)アマチュア・ベースボールオフィシャルガイド’16 グランドスラム47 (小学館スポーツスペシャル)感想
創刊号からもう腐れ縁のように購読している。昔懐かしい顔がちらほら。明治安田生命の監督に日石の林さんが就任していたり、横製や金港倶楽部の部長に懐かしい顔があったり。チーム紹介号でありますが、体裁が統一していないのが残念。広告の出稿の都合なのは分かるのですけど、対向面に記事がなくて広告しか載っていないとなると寂しい。今、社会人野球に進むのは本当に難しいのだな、と。あ、四国銀行のページは白黒でした。
読了日:4月14日 著者:小学館
金(ゴールド)が語る20世紀―金本位制が揺らいでも (中公新書)金(ゴールド)が語る20世紀―金本位制が揺らいでも (中公新書)感想
金融システムの枠組みから金は今でこそ外れたが、その存在は長く「等価」を示す指標だった。筆者は国力(という抽象的なもの)を探るために金の当時の価格を利用して外貨準備などを金換算して見せる。外募国債のためにも、輸出入の決済にも結局は金が不可欠であった訳で、金の現送、勘定の移し替えなどなど。何よりWWIに突入していく独で保有の金がかなり少なめだったこと、食料の確保も。WWIIでも同じだ。日本も開戦前夜、横浜正金銀行や日銀の面々がぎりぎりの為替、金操作をして軍需物資の輸入に努めたとは。見事な裏面史になっている。
読了日:4月13日 著者:鯖田豊之
フジテレビはなぜ凋落したのか (新潮新書)フジテレビはなぜ凋落したのか (新潮新書)感想
筆者は1986年入社。本書は入社以前の社の歴史が前半部分。後段、1980年代後半のバブル期の思い出話は入社間がない時代になる。平成不況、企業統治が重視され、法令遵守が当たり前となる今。CXは株式上場に伴うTOBも経験した。後半の要点「なぜ凋落」の部分は一介の元社員の叙述であり、蓋然性が薄い。「企業の老化」という点で片付けられないし、目指したという「敗因」の分析について十二分に目が行き届いているとは思えない。市谷河田町時代の、バブル期の経験があり、その体験から筆者自身も離れられないのではないだろうか。
読了日:4月10日 著者:吉野嘉高
世界の名前 (岩波新書)世界の名前 (岩波新書)感想
1編が2ページ前後。掌編随筆ながら、「名前」という素材で描かれたお国ぶり、伝統、来歴が見えるのが興味深い。筆者はその国語や文学の専門家。ドストエフスキーのような文豪の名の読み解きあり、本人+父+祖父の名を連ねるアラビアのような父系の伝統を重んじる国もあり、古代インドのサンスクリット語+近世のイスラム文化+近代の西洋文化と重なったインドネシアのような国あり……。日本の明治維新の時同様、適当に作った姓があったり、新生児の死亡率が高かった時代に名付けに気を配ったり。国や民族を問わず通底する人間の思いが見える。
読了日:4月10日 著者:
和食はなぜ美味しい――日本列島の贈りもの和食はなぜ美味しい――日本列島の贈りもの感想
虻蜂取らず、かなぁ。「マグマ学者」が和食についての蘊蓄を、専門の地球物理学に絡めて解説している本です。でもどちらの要素に関しても説明不足の感が否めないです。入門書、という括りの中で書かれたのだと思うのですが、初学への本こそきちんと正対した姿勢で書くべきではないか、と思うのです。専門の地球物理学に関する事項の模式図がちょっと雑駁で丁寧ではありません。取っつきにくい分野の話ですから崩して書こうという意欲は買うのですが。同じ趣向の本で「物理の散歩道」というシリーズがありました。あのレベルはやはりほしいところ。
読了日:4月8日 著者:巽好幸
洛中洛外図屏風: つくられた〈京都〉を読み解く (歴史文化ライブラリー)洛中洛外図屏風: つくられた〈京都〉を読み解く (歴史文化ライブラリー)感想
洛中洛外図屏風の出現から衰退までを概説した1冊。要は注文主が誰に贈るのかで画像は決まるという読み解きだ。歴博甲本、上杉本、舟木本と話が展開する。美術史の立場からの観る研究と日本史の立場からの読む研究の間合いを縫う。ただ読み終えて思うのはこの一連の屏風の面白さは、表象というか、隠喩というか、「分かる人に分かる」という自己満足を写す鏡である点が伏せてあるのが面白いのだ。紋所、有職故実に基づく装束や装具の分別などなど。それを逆手にとったのが今様なら山口晃だろう。彼の作品が今、最前線の読み解きの姿かもしれない。
読了日:4月6日 著者:小島道裕
大日本帝国の海外鉄道大日本帝国の海外鉄道感想
戦前、日本が「外地」(旧満洲を含めて)と呼んだ地域の旅客向け概説書。亜欧連絡運輸があり、下関〜釜山〜新京〜満洲里〜倫敦が15日かかった時代の話です。長崎〜大連、敦賀〜浦塩などのルートもありました。鉄路への実感が今と違うのを感ずる。台湾、樺太、南洋諸島の鉄道事情も。個人的には日銀券と朝鮮銀行券、満洲中央銀行券、法幣とのリンクの話(関釜間、安東での税関、山海関での日銀券持ち出し制限等)、時差の話(朝鮮時間、満洲時間、哈爾浜時間など)や年の表記など、鉄道の話よりも旅にまつわる話が興味深かった。とまれ不思議な本。
読了日:4月4日 著者:小牟田哲彦
日本歓楽郷案内 (中公文庫)日本歓楽郷案内 (中公文庫)感想
濹東綺譚のような描き方の対極にある一冊。当時はエログロの風靡した時代、歓楽街のガイドブックの体裁で実はルポ。満州事変が勃発した1931年に刊行されたと知って読むと戦地とは別の生活が続いていたのがわかる。吉原のような伝統的な色街が衰退する一方、新興の街玉ノ井や亀戸などの話、一方で大阪・道頓堀の芝居茶屋の利用のような古典的な姿や、横浜のチャブ屋のような戦後は絶滅した業態にも、筆が及ぶ。独特の文体に少々戸惑うものの、当時のウケ狙いはこんな感じなのかな?とも。モガモボの時代、乱歩の時代、こんな世界もあったのかな。
読了日:4月1日 著者:酒井潔
ドキュメント 銀行 金融再編の20年史─1995-2015ドキュメント 銀行 金融再編の20年史─1995-2015感想
国内の銀行の盛衰史。まだ歴史が近い分、民衆史までは降りていない。でも人の判断という部分に焦点を当てることで厚みを生み出した1冊。13行の都銀、7行の信託専業、3行の長期銀と計23行もあった。今、その名を諳んじることは最早、鉄道唱歌を覚えている程度の価値もないが、やってきたことは人々の暮らしを左右してきたことばかり。最初の長期銀の精算、3大メガバンクの出現、UFJ銀行を巡る綱引きなどなど、当時の断片的な知識が繫がっていく快感がある。仕事の枠組みは中世から変わらない一方、「護送船団方式」は外れた今はどう???
読了日:3月31日 著者:前田裕之
首都直下地震 (岩波新書)首都直下地震 (岩波新書)感想
かつては「69年周期説」という説があった。まだ身近に関東大震災の経験者も生きていた。そんな時代とは違う首都圏で起こりうる地震についての本。プレート境界型と沈み込んだプレート(スラブ)内で起こる直下型とがあり、結局のところ、分からないことが多いということが分かる1冊。相模プレートが3・11の後、動いても不思議がなかったという学者としての印象は分かるのだけど、被害想定とか、対策にまで話が及んでいるのは広汎に過ぎる気も。せっかく碩学の書いた1冊。首都直下地震の機序と知見を整理してくれた方がよかったかも。
読了日:3月27日 著者:平田直
南海トラフ地震 (岩波新書)南海トラフ地震 (岩波新書)感想
平明な本。北米プレートにのった東日本とユーラシアプレートにのった西日本。それぞれに東や南から太平洋、フィリピン海と2枚のプレートが沈み込んできています。南海トラフ地震はこのフィリピン海プレートの沈み込みに由来する巨大地震で、震源域が実は陸地に近く、津波もさることながら激しい揺れが想定されることを説きます。東海道ベルト地帯から四国の太平洋側、九州西部に至る範囲です。休止中の富士山にも影響が出て噴火するかも。被害想定をどう考えるべきか(浸水高30aと2b)など、怖がるだけでも開き直るでもない智恵があります。
読了日:3月26日 著者:山岡耕春
鉄道忌避伝説の謎―汽車が来た町、来なかった町 (歴史文化ライブラリー)鉄道忌避伝説の謎―汽車が来た町、来なかった町 (歴史文化ライブラリー)感想
鉄道という仕掛けは勾配・傾斜に弱く、隧道・橋梁が増えれば金がかかる。路線の通過地は経済的な判断に基づく訳で、どうしても必要なところではないと、碓氷峠のような仕掛けは作らないのである。しかし、市街地から外れたところに駅が作られると、なぜか旧来の街道筋の人々から鉄道が忌避されたという伝説が喧伝されてきた。この一事を丹念に論破していったのがこの1冊。鉄道の果たしてきた役割が変わってしまった今となっては(小口の貨物輸送なんてもうない)この本が熱心に掘り起こした当時の熱意は朧化し伝説を生む素地ができているのだけど。
読了日:3月23日 著者:青木栄一
完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込 (角川文庫)完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込 (角川文庫)感想
NHKでの羽田圭介との対談を観て手を伸ばした1冊。自意識過剰、俯瞰的等々、自画像を見立てているけど、実は犀利な視線と挙措を持っている人物ではないかな。個人的には中、高の恩師の言葉を思い出した。「何か一生懸命やっている自分を斜め上から見下ろしているもう一人の自分がいる」と師は言っていたけど。そこで止まれば次がないのだけど、筆者は「感動」という形で止揚しているんじゃないかな。決して冷笑的に捕らえる必要はないことだし。「結果より、自己ベストを求める」なんて泣かせる一言じゃないか。悩む時には「応援の1冊」かも。
読了日:3月22日 著者:若林正恭
海の武士団 水軍と海賊のあいだ (講談社選書メチエ)海の武士団 水軍と海賊のあいだ (講談社選書メチエ)感想
だいぶ前に読んだ記憶があるが、記録していなかったので備忘。武士の統制の下にある「水軍」とソマリア沖のような「海賊」、そして海の上を生業の場として生きていた武士団がいたという説明。どうしても陸路の攻防をメインに語ってきた従前の歴史(例外は毛利氏の厳島合戦、本願寺の救援くらいかな)とは違う視点を提示するという意味で新鮮な1冊。ただこの1冊で筆者の提唱する概念がカバーしきれているかというとそうでもない気がする。大本にあるのは明の海禁策であり、冊封体制であり、筆者得意の東と西の戦国大名の異質性があるのだから。
読了日:3月21日 著者:黒嶋敏
琉球王国と戦国大名: 島津侵入までの半世紀 (歴史文化ライブラリー)琉球王国と戦国大名: 島津侵入までの半世紀 (歴史文化ライブラリー)感想
筆者の論を全部を是とする訳ではないのですが、南シナ海の自由な通商の展開と海上の状況の変化に伴って、明と琉球の冊封体制が変化していき、2次尚氏王朝が存立基盤を揺るがすような事態だったという見立ては新鮮。冊封使が明から来るときには内地からの準備をしなくてはいけない、そのための琉球と薩摩、日本との関係が変化するのが一様ではないことが自然に読める。と同時に、戦国大名と言いつつ、中央集権的な体制が整っていた東国と土豪の支配を認めつつ、臣下に組み入れるという形で領国を広げた西国では事情が違うことが背景への指摘が新鮮。
読了日:3月21日 著者:黒嶋敏
鉄道への夢が日本人を作った 資本主義・民主主義・ナショナリズム (朝日選書)鉄道への夢が日本人を作った 資本主義・民主主義・ナショナリズム (朝日選書)感想
鉄道への「信仰(というか憧憬)」が日本を近代国家たらしめた、というのが本書の論。巨大な投資を必要とする鉄道事業の成立には資本主義の発展は必要だし、我田引鉄的な地方の要望を通すためには政友会原敬を代表とする代議士が必要になり、民主主義? が成立する。そして大喪と大典、行幸、お召し列車の運行で天皇の存在が見えなくても形になるという仕掛けを見立てる。個人的には1の部分をきちんと書くべきだった気がする。2の部分、今の国政でも同じ構図は続いているのかと、当時を嗤う気分にはなれなかった。解説の小熊英二の一文が秀逸。
読了日:3月18日 著者:張ケ暋
丸谷才一 (文藝別冊)丸谷才一 (文藝別冊)感想
高知・金高堂本店でKAWADE夢ムックのフェアをやっていて見付けた1冊。小説は疎遠だったけど(というか取り組んだけど駄目でしたね)、随筆はずっと好きで読み継いできた作家。巻末の評論とエッセイはほとんど読んでいた。「古典と外文と作家・批評家」というサブタイトル通りの筆業。採録されている網野善彦との御霊信仰の話、小島吉雄との「新古今と後鳥羽院」など丁々発止、面白かった。巻頭の岡野弘彦の随筆が地味豊か。自分の文体に、面白がり方に大きな影響を残した作家だったな、と改めて思うことしきり。
読了日:3月17日 著者:
社会主義への挑戦 1945-1971〈シリーズ 中国近現代史 4〉 (岩波新書)社会主義への挑戦 1945-1971〈シリーズ 中国近現代史 4〉 (岩波新書)感想
「等身大の中国を知る努力」として書かれた1冊。抗日という大義を失った国共が終戦を機に分かれていく。蒋介石は信を失い、百家騒鳴の時代を挟んで共産党の一党独裁へと変わる中、スターリンの影が大きくなったり、小さくなったり。土法高炉・深耕密植などを試みた大躍進、毛沢東の権力欲の末の文化大革命と錯誤を繰り返すさまは喜劇にすら見える。ただ現政権は反汚職を重要な課題に据えるのが現状。正確な情報、統計を開示することの大切さを思う。と同時に、史料が公開されてきたとはいえ、なお隔靴掻痒の感が残る。近現代史ゆえの難しさ、か。
読了日:3月15日 著者:久保亨
革命とナショナリズム――1925-1945〈シリーズ 中国近現代史 3〉 (岩波新書)革命とナショナリズム――1925-1945〈シリーズ 中国近現代史 3〉 (岩波新書)感想
日中戦争に就いて種々理由を並べ立てることはできるだろうけど、筆者の言う「中国人を屈服させる」ためという日本側の根源的な動機は一連の不可思議な決断の連続を解明する点で分かりやすい。もう一つの鍵は「ねじれ」だ。南京政府内(第一次国共合作から国民党内の内部抗争)、国民党と共産党の間(囲剿戦から西安事変、第二次国共合作)、重慶政府と英米ソ、コミンテルンの存在、WW2全体の中での中国大陸の位置づけ、日本が降伏した後の戦後処理(国共内戦に向けての兵器の鹵獲)……。新たに公開された史料を基にした著述は新鮮で明快だった。
読了日:3月13日 著者:石川禎浩
近代国家への模索 1894-1925〈シリーズ 中国近現代史 2〉 (岩波新書)近代国家への模索 1894-1925〈シリーズ 中国近現代史 2〉 (岩波新書)感想
日清戦争〜孫文の死までの時代を描く。日本側から見ると、礼に縛られ、近代的な国家としての体をなさない清は「眠れる獅子」であるという見方に偏りがちだ。しかし内側から見れば諸外国の圧力と地方分権のうねりの中で行政が機能しなくなってきたのは当事者こそ百も承知で、何とか変革の道を探るものの失敗を繰り返す。真っ当過ぎるくらいに一生懸命な指導者の姿の一方、皇帝という重しを外した後は袁世凱から始まる北京政府、孫文から始まる広東政府、そして長江流域の「省人省治」という指向。混乱の2文字で済ませきれない歴史の綾を綴った好著。
読了日:3月9日 著者:川島真
BL進化論 ボーイズラブが社会を動かすBL進化論 ボーイズラブが社会を動かす感想
そもそも関心の外にあるこの本を読むきっかけは、「きのう何食べた?」(よしながふみ)というゲイカップルの料理漫画を読み、スピンアウト版がコミックマーケットで発売されたというので、取り寄せて読むとまた驚愕吃驚。筆致は穏やかなものの、BL(ボーイズラブ)とは何じゃと思い、この本を読み通した。BLという分野は広大で無辺なのだなぁ、と思う。最後のBLの視点から見た映画評ってのは興味深かった。ホモフォビア(同性愛に対する恐怖感・嫌悪感・拒絶・偏見)の視点とか、意外に自分でも見落としている部分があるものだ、と感じたり。
読了日:3月5日 著者:溝口彰子
時代の正体――権力はかくも暴走する時代の正体――権力はかくも暴走する感想
キンドルで読了。
読了日:3月4日 著者:神奈川新聞「時代の正体」取材班
洛中洛外図・舟木本を読む (角川選書)洛中洛外図・舟木本を読む (角川選書)感想
屏風の筆者は岩佐又兵衛、荒木村重の息。筆者の出自は扨置、舟木本を取り巻く環境はこの20年で変わったな、と思う。屏風に描き込まれた世界を読み解くこの1冊、断片的な史料を繋ぎ合わせていく筆捌きはここまで断定調で書き込んでいいのかと思いつつ、肯んじている自分がいる。豊国祭の能の演目、内裏に向かう武者行列を家康と見立て、御所で密会する男女に猪熊事件の寓意を見、二条城に向かう公家から禁中公家法度制定前夜の人間関係など当時の出来事を画像化しているという解釈は、たぶん屏風の注文主の視線と重なっている気がする。面白い。
読了日:3月4日 著者:黒田日出男
乱舞の中世: 白拍子・乱拍子・猿楽 (歴史文化ライブラリー)乱舞の中世: 白拍子・乱拍子・猿楽 (歴史文化ライブラリー)感想
音も映像も残っていない中世の藝能。本の読み手の想像力如何となる世界だ。専門家には脳裏に音が再現されるのだろうけど、素人には能や歌舞伎、民俗藝能といった今まで見聞きしてきたことを総動員して読み進める。断片的な記憶が繋がっていく。正しい理解か否かは別にして、楽しい作業ではあった。音源として残る越天楽今様から能の「融」の小書の笏拍子、「道成寺」の乱拍子、「安宅」の延年ノ舞、室戸・吉良川の御田祭の演目や静岡の志太榛原で見た数々の神楽や田遊びなどなど。本論の蓋然性は別にして、文字記録からの脳内での復元作業は一興。
読了日:2月28日 著者:沖本幸子
戦国の陣形 (講談社現代新書)戦国の陣形 (講談社現代新書)感想
軍談という藝能が成立したり、軍学に流儀が成立して甲州流だ、越後流だ、北条流だと、威勢を張り合う中で、魚鱗鶴翼、車懸の陣備えという伝説が生まれたのが「陣形」の淵源だと思う。太平の世に実際の戦いの場では生まれ得なかったような概念が闊歩したのではないか。力説する兵科の分離や兵農分離の成立を以て「陣形」が生まれたと見る説を筆者は立てているのだけど、何か張扇の音がするような内容。唯一、成程と思ったのは戦場の地形、道や川、池沼などに配慮したという三方原合戦図の読み解きくらい。帯にある「快作」という惹句に惑わされた感。
読了日:2月25日 著者:乃至政彦
清朝と近代世界――19世紀〈シリーズ 中国近現代史 1〉 (岩波新書)清朝と近代世界――19世紀〈シリーズ 中国近現代史 1〉 (岩波新書)感想
「東アジア」という視点から歴史を語ることが増えた。だが勘違いの基ともなることを教えてくれる1冊。日本から見ると中国(清朝)も東アジアだけど、中国は実は大陸国家で多民族国家。内政的には人口増があった上、欧米の進出に伴う交易や銀の流出、信仰宗教に由来する内乱と、内憂外患に晒されることになる。内陸と沿岸部の格差、少数民族の問題など、今に続く問題の萌芽が既に現れている。国って何だろう? 最初に結構をつかんだ方が理解しやすいと思うので、「おわりに」から読むことと同じ岩波新書の「李鴻章」を併読することをお勧めします。
読了日:2月23日 著者:吉澤誠一郎
昭和史(下)昭和史(下)感想
1945年の敗戦から1989年の昭和天皇の崩御までの叙述。同時代を生きた1箇の人としての叙述で、筆者自身が「田中内閣以降は面白くない」と後書きで記しているけど、まだ歴史として客観的に書くのが難しかったことと、影響を与える間もなく政権が次々交代していくことと……。戦後の経済成長と共に進む社会の叙述に、獅子文六の小説「大番」を個人的には思い重ねた。株屋の牛ちゃんが成功を収めていくまでの大衆小説だが、厳格な中村の本と「大番」が好一対の本に思える。あと「右傾化する日本政治」を重ねると丁度読み物として三幅対か。
読了日:2月15日 著者:中村隆英
増補版 誤植読本 (ちくま文庫)増補版 誤植読本 (ちくま文庫)感想
誤植という言葉が手書き原稿と活字の時代の遺物である。ワープロ(パソコン)が出現し、DTPが当たり前になった今も校正刷りの制度は残っている訳だから、印刷物に誤りがあり、それを見逃したとなれば、それは文選工の誤りでも編集者の錯誤でもなく、筆者自身の誤謬になる。印刷物であれ、Webであれ、文字を扱う以上、誤りが生まれるのはどこかで覚悟をしなくてはいけない。このアンソロジーは「Good Old Day」の昔噺に見えてならない。文士さまであり、活字への信仰があった時代の。坪内稔典、吉村昭の一文が光っているけど。
読了日:2月14日 著者:高橋輝次
京都の歴史を歩く (岩波新書)京都の歴史を歩く (岩波新書)感想
江戸時代の俳諧師秋里籬島が書いた「都名所図会」と今の「ブラタモリ」を合体したような風合い。単に名所旧跡を巡るというよりも、土地が刻んできた歴史を振り返ることに重点がある(この様式は全国でも成立しうる町は少ないということ)。例えば江戸期の繁栄の基礎となった高瀬川についての項で、物流の動脈という視点だけではなく、都市化の結果として六条界隈の被差別集落が移転したり、明治期に角倉家が所有権回復を申請したり、と通り一編の読み物にはない面白さが売りだ。ただ現地の地理が頭に入っていないと興趣の減衰は間違いないけど。
読了日:2月14日 著者:小林丈広,高木博志,三枝暁子
籤引き将軍足利義教 (講談社選書メチエ)籤引き将軍足利義教 (講談社選書メチエ)感想
4代義持の死後、4人の弟から籤引きで選ばれたのが6代義教。この本の縦糸が義教の選定に至るまでの話と後継指名を受けた後の義教の治政で「籤引き大好き」だった話になる。横糸が卜占のあれこれ。宮中でも紫宸殿の東廊下での「軒廊御卜」の伝統があり、後白河院が皇位継承で頻りに遣っていたという話が加わる。「凡慮として定め難し」「神慮覚束なし」と思考停止し湯起請にと及ぶ義教の話が本筋のはずなのだが、途中から盛り沢山過ぎて「神判」の話なのか。虻蜂取らずの気もする。「神判」のみ掘り下げた清水克行の「日本神判史」の方が好著。
読了日:2月13日 著者:今谷明
右傾化する日本政治 (岩波新書)右傾化する日本政治 (岩波新書)感想
右に左にと振れる振り子の支点自体が右にスライドしてきた結果が今の安倍政権の行動に反映している。ここがよく分かる。憲政の危機が急に訪れた訳ではない。本書の面白いところは「日本政治」とは銘打っているものの、序盤で諸外国の事例も引き、日本の右傾化が特異ではないことを説いている点。もう一つは官主導の開発主義と補助金を核とする恩顧主義の融合した旧右派が衰退の一方、国際協調主義の中から生まれた新右派が偏狭な国家主義に変質しつつある実態を跡づけした点。無条件に多数党が生まれる今からリベラルの再建は難しいのか……。
読了日:2月11日 著者:中野晃一
街頭から見た新東京の裏面 (青空文庫POD(シニア版))街頭から見た新東京の裏面 (青空文庫POD(シニア版))感想
関東大震災後の東京のルポ。九州日報記者時代の作品でしょうか。震災以前の東京にあった風紀が消えた、と嘆きます。日本論とも読めるのですが、何か話題が堂々巡りをしているのと、時代相の違いと。何となくしっくり読後感はしっくりこなかった感じです。キンドルで読んだ所為もあるのかな。
読了日:2月10日 著者:夢野久作
東京の風俗 (1978年) (富山房百科文庫)東京の風俗 (1978年) (富山房百科文庫)感想
青空文庫版で出ているのは本の一部のみ。別編も通して読むと滋味深い。素っ気ない文章ながら哀惜が伝わってくる。筆者は明治中期に牛鍋チェーンを展開した「いろは大王」こと木村荘平の息。妾を構える度に店を持たせたことから筆者は両国広小路の第8いろはに育つ。後に画家・文筆家となり、「濹東綺譚」の挿絵でしられる。江戸の残り香、関東大震災前に育った人ならではの感覚が小気味よく語られる。就中、洲ア遊郭訪問記や東両国回向院の相撲場や生家のいろは牛鶏肉店の風景などこの人でなければという内容が多い。冨山房百科文庫って小体でいい。
読了日:2月9日 著者:木村荘八
権力の館を歩く: 建築空間の政治学 (ちくま文庫)権力の館を歩く: 建築空間の政治学 (ちくま文庫)感想
毎日新聞への連載を元に刊行されたこの本。今、読むと何か違和感が拭えない。森喜朗首相のころまではルポの世界があったろう。だが「劇場政治」といわれた小泉内閣以降(民主党政権の鳩山首相、小沢幹事長の時代を例外として)、私邸であれ、派閥事務所であれ、「権力の館」「政治劇場」が廃れてしまったのではないか。政治家の変成、変節というか、「館」をはみ出してしまった気がする。後書きで藤森照信が筆者を政治劇場の座付き役者に見立てているけど。今は情報公開されているように見せているけど以前より不可視化が進んでいる気がする。
読了日:2月7日 著者:御厨貴
朝鮮王公族―帝国日本の準皇族 (中公新書)朝鮮王公族―帝国日本の準皇族 (中公新書)感想
清の冊封国・朝鮮が日本から「冊立」され、西欧的な概念では保護国化したのが日韓併合。朝鮮王室は存続している訳で、日本の国内法的には「皇族≧王族>華族」という序列で扱ってきた歴史を分析する。2世代目になると「臣民」「日本国民」としての生活に同化していく。朝鮮半島が当時、累卵の危にあったのは分かるものの、歴史の評価としてどういう対処をするのが最善だったのか。王族の死に伴う国葬、宮廷費の問題、戦後の処遇などなど、考えることが多すぎる。ただ筆者の土台、テーマになる部分が著述がニッチな感じ。手法自体は緻密なのだけど。
読了日:2月3日 著者:新城道彦
戦国時代の足利将軍 (歴史文化ライブラリー)戦国時代の足利将軍 (歴史文化ライブラリー)感想
中央集権的だった鎌倉幕府の得宗体制に対し、室町幕府は地方分権的である。有力守護大名と将軍家の相互補完で成立していたからで、鎌倉府の存在もある。「上の権威」より「下の支持」があればこそ成立する領国経営である。当時の幕府を政治学の「リアリズム」「リベラリズム」「コスモポリタニズム」の視点で分析し、「上なる権威」として将軍家の価値を秀吉の登場まで残したと見立てる。だが幕府の役割は畿内にすら威勢は及ばず、宮廷の武力部門の長という程度ではなかったか。筆者が見立てているほど、武威も権威のなかったように見えるのだが。
読了日:1月30日 著者:山田康弘
江戸時代の遊行聖 (歴史文化ライブラリー)江戸時代の遊行聖 (歴史文化ライブラリー)感想
一遍を宗祖とする時宗。中世以来、藤沢遊行寺にいる藤沢上人と廻国する遊行上人の2トップ制で、後者は出歩くことが特徴。江戸幕府から全国で通用する伝馬朱印状(馬人足の徴発許可状)と天皇から貰う「他阿上人」号を背景に「生き仏」が町に出前する形。ただ本で取り上げている江戸期には「南無阿弥陀仏、決定往生六十万人」という賦算の札が民衆からの篤い信仰を集めていた一方、どこか「金」の臭いもする体制だったような。明治になって後ろ盾を失うと一気に宗門としての勢いを失ったのも成程と思うばかり。宗教として興味深いのだけど……。
読了日:1月29日 著者:圭室文雄
江戸の武家名鑑―武鑑と出版競争 (歴史文化ライブラリー)江戸の武家名鑑―武鑑と出版競争 (歴史文化ライブラリー)感想
武鑑とは大名や幕府の役人を網羅した本。紋や行列の道具、屋敷の位置、家系図などを記している。改版を重ねる実用書であり、時代の人にとっては都市の賑わいを感じさせてくれる1冊だったろう。当時は本屋の株仲間があり、出版・販売できる店が限られていたうえ、仲間内でも著作権保護のため、版木の保有、項目やレイアウトの独自性の確保が「株」という表現で守られていたという。版木は転売され、抵当に入り、版元間で係争の対象ともなる。当時の出版に対する統制や版元の権利意識も今に通じるものがある。現に「版権」という言葉は今も残る。
読了日:1月29日 著者:藤實久美子
辻調が教えるおいしさの公式 西洋料理 (ちくま文庫)辻調が教えるおいしさの公式 西洋料理 (ちくま文庫)感想
和、中と読んで洋。西洋料理と一括りにはできない分、素材別の章立てになっています。基本的には仏、伊も西も出てきます。豚ロース肉のシャルキュティエール風では豚肉は筋切りをし、小麦粉をまぶしたらすぐ焼くとか、煮込むにしても具材の加減で鍋から取り出すという工程とか。その辺がこのシリーズの本らしい「突っ込み」です。ただ料理名から完成の絵が即座に連想できない点で写真のない料理本の限界も感じつつ。ちなみに挿絵が入っているのは「ニョッキの生地のまとめ方」「手打ちパスタの生地の練り方」「プレーンオムレツの作り方」の3カ所。
読了日:1月28日 著者:
江戸城が消えていく―「江戸名所図会」の到達点 (歴史文化ライブラリー 239)江戸城が消えていく―「江戸名所図会」の到達点 (歴史文化ライブラリー 239)感想
江戸の名所案内、古地図を題材に、筆者は「絵」から「図」への進化を説く。扁平だった区画表示が実測に近くなる。江戸の象徴として画面に登場していた城が消え、市井の姿が主役となる。一つの到達点が神田の町名主斎藤長秋・莞斎・月岑の3代が書き、長谷川雪旦・雪堤親子が挿絵を描いた「江戸名所図会」。その分析から「江戸城が消える」というのだがさて? ガイドブック、地誌の類と絵は違うとはいえ、広重の江戸百景には城は登場する。何か筆者の立論に無理がある気がする。古来地図であれガイドであれ、関心のあるものは大きくなるのだから。
読了日:1月27日 著者:千葉正樹
比叡山と高野山 (読みなおす日本史)比叡山と高野山 (読みなおす日本史)感想
最澄の開いた比叡山と空海が開いた高野山。日本を代表する山岳宗教拠点だろう。比叡山寺はその教学の広汎なるが故に、禅、法華、浄土などの諸宗祖を生んだ。一方、高野山寺の方は弘法大師の尊格化と高野聖が全国を行脚することで広めた祖霊信仰の根強さだろう。本書は山の骨格、歴史、そこに残る伝統、文化、美術など拾いまくる。筆者は1916年生まれ、まだ歩いて研究をせざるを得なかった時代の人としての目線の高さが改めて新鮮に映る。叡山の「宗徒:堂衆:山徒」の階級差が野山でも「学侶方:行人方:聖方」の3方となるのも興味深い。
読了日:1月25日 著者:景山春樹
辻調が教えるおいしさの公式 中国料理 (ちくま文庫)辻調が教えるおいしさの公式 中国料理 (ちくま文庫)感想
こちらは一転、中華料理の神髄は下準備にあると説く。下味を付け、粉をはたいて揚げたり、そのまま油通ししたり。炒めるには火の通り加減を適切にする必要があるので、加熱する時間をどう調整するのか、素材に水分をどの程度残すかが肝要であると説く。日本料理編よりはかなり枝葉に及んだ説明ながら、読んでいて違和感はない。もう一手間、の部分を明快に示しているからだろう。缶入りの中華スープの素で何でもごまかしては美味しいものは作れない、というところになるのだろうか。素材への味の含ませ方に腐心があるのがよく分かる1冊です。
読了日:1月22日 著者:
辻調が教えるおいしさの公式 日本料理 (ちくま文庫)辻調が教えるおいしさの公式 日本料理 (ちくま文庫)感想
「割主烹従」という言葉があるそうだ。切っただけという刺身を例に分析をする。単純だから切ることを丹念にせよ、という。きんぴらゴボウでも冷奴でも切ることを疎かにすれば味にも響くのは間違いない。調味料についても興味深い。塩について「非常にストライクゾーンの狭い調味料」、酒は「けちらずたっぷり使うこと」、味噌は「値段の差が出やすい。合わせてつかうこと」が「公式」の例として挙がっているのですが、上手いと思います。レシピの部分よりもその間に挟まっている小文(公式の部分)が小気味いい本です。文字ばかりですが、簡潔。
読了日:1月21日 著者:
ロンリのちから: 「読み解く・伝える・議論する」論理と思考のレッスン (単行本)ロンリのちから: 「読み解く・伝える・議論する」論理と思考のレッスン (単行本)感想
テレビで観ている時はおもしろいな、と思ったのですが、イラスト入りの活字本となると、さてどうなのだろう……、って感じです。説いていることはごく当然至極で、論理的なのですが。
読了日:1月21日 著者:NHK『ロンリのちから』制作班
見果てぬ日本: 司馬遼太郎・小津安二郎・小松左京の挑戦見果てぬ日本: 司馬遼太郎・小津安二郎・小松左京の挑戦感想
過去に遡るのが大好きな歴史小説家・司馬遼太郎、日常現在を描くのが大好きな映画監督・小津安二郎、未来へと大風呂敷を広げるのが大好きなSF作家・小松左京。筆者がこの3人をして、日本の姿を描いた慧眼に敬服。左翼・ブルジョア民主主義・右翼の3点倒立の妙。小松左京語るに〈日本は失敗者を全否定する。素人には失敗者を叩くのが一番分かりやすい。一方失敗に広い意味で関係する専門家筋は責任の追及を恐れて触らぬ神に祟りなしを決め込む。失敗の内容を細かくつつくような面倒なことを不撓不屈の信念で遂行する気風がこの国にはない〉と。
読了日:1月20日 著者:片山杜秀
されど鉄道文字―駅名標から広がる世界されど鉄道文字―駅名標から広がる世界感想
今のJR系列で使用している字体(フォント)について論じた1冊。ゴチック体の中でも「すみ丸ゴチ」についての論考。元々、駅名表示板や行先表示板は筆文字だったし(変態仮名の中で語頭にくる「し」だけ「志」と表記していたなんて知らなかった)、高度成長期に切り替わって行き、最終的に国鉄分割の後もフォントが生き残ったという経緯を綴る。琺瑯引きの駅名板、機関車の砲金製ナンバープレートなどの話や営団地下鉄時代の字体の話も。面白いネタだけど、何か抄き込みが足りない気もする。あと貨物車に書いてあった隷書体、知らないのかな。
読了日:1月18日 著者:中西あきこ
その後の東国武士団: 源平合戦以後 (歴史文化ライブラリー)その後の東国武士団: 源平合戦以後 (歴史文化ライブラリー)感想
基本的知識が必要な1冊。読み進めるには付箋紙と赤ペンが必要です。地図と系図に紙を貼り、事件に傍線。教科書を読むような加工をすると非常に明解な本になります。前半部分で通史を、後半部分で関八州の国ごとの動向を説いていきます。日本史の教科書では鎌倉・室町の両幕府に焦点が集まり、東国の状況が語られる部分は少ないだけに新鮮です。と同時に新領地の獲得や遠征、縁戚関係の結果として、人間が東に西にと大移動していたことが分かるのが驚きです。現状維持を目指した族は衰亡し、新天地を目指した族が存続する傾向があるのが興味津々。
読了日:1月18日 著者:関幸彦
潜水艦の戦う技術 現代の「海の忍者」――その実際に迫る (サイエンス・アイ新書)潜水艦の戦う技術 現代の「海の忍者」――その実際に迫る (サイエンス・アイ新書)感想
筆者「せとしお」元艦長。普段は情報が開示されることの少ない潜水艦についての基本的な解説本。日本は三菱重工と川崎重工が潜水艦を建造する技術を有しており、日常的な情報収集活動を続けている。一方、現実の問題として潜水艦を利用しての自衛行動というのが想定しにくい気がする。筆者は「日本が海を自由に利用することを邪魔しようとしたり、侵略を企てるものによる海の利用を拒否する役割を果たす」と力説するのだが。なお、潜水隊では今でも攻撃をすることを「襲撃」と称するそう。何か秋山真之の能島流海賊古法の伝統でもあるまいが。
読了日:1月18日 著者:山内敏秀
うらやましい人生うらやましい人生感想
読み終わったものの感想が書きにくい。ご本人が記しているように「クラゲ」のような生き方ゆえ、に。もし読後感というものが砂のようなものなら、指の間から抜け落ちていく感じ。元から普通などということはクラゲのようなもので定まらないものではあるけれど。それと「女装家」という呼び名は人気アイドルグループの不祥事で「メンバー」という肩書きが登場したけど、そんな違和感と当たり障りのなさと。本当は自分という存在が当たり障りないなんてことはないのを一番ご自身が承知しているのに、というか。なお、この本はキンドルで読了。
読了日:1月17日 著者:ミッツ・マングローブ
戦国大名の兵粮事情 (歴史文化ライブラリー)戦国大名の兵粮事情 (歴史文化ライブラリー)感想
ゆるキャラの「かつ江さん」で話題となった鳥取城の飢え殺しではないけど、兵糧=食料と考えがちだ。でも通貨の用途もある。「兵糧」を巡って後北条氏の事例を中心に叙述した1冊。銭と米の換算で当時の経済が成り立っていたことを考えれば、簡便な交易手段であり、運搬に不便だけど必要不可欠な軍需物資とも見られる。貸借や権利の輻輳なども起きる。兵糧を戦国大名が一括管理しようとする計画経済的な発想への発展は興味深い。ただ、惜しむらくは戦国時代の貫高制から江戸期の石高制への移行で、兵糧の概念が変わる姿をもう少し読みたかった。
読了日:1月13日 著者:久保健一郎
そして生活はつづく (文春文庫)そして生活はつづく (文春文庫)感想
これも年末年始のテレビ番組の連想から衝動買い。面白いとの評判だったけど、個人的には酢豆腐状態。星野の言説がきっと面白いと思える年頃があるような気がする。たまたま自分はそれからずれているのだろう。確かに遠藤周作の狐狸庵ものや北杜夫のどくとるマンボウものにうつつを抜かしていた自分を思い返せば、不思議はないのかもしれない。何よりも本書のテーマである「くそして生活はつづく」という現実が堆積してきたのかもしれないが。独特の極端な言い回しについつい「何の何の」と突っ込みたくなって仕方ない。これも年頃なのかもしれない。
読了日:1月9日 著者:星野源
メタモルフォシス (新潮文庫)メタモルフォシス (新潮文庫)感想
個人的に小説は滅多に読まないが、NHKの「SWITCH インタビュー 達人たち」の再放送で筆者とオードリー若林正恭の対談を見て、思いついてポチる。普段は読まない分野なのでどう書いていいのか分からないけど、精緻な叙述なので飛ばし読みができる。2つの顔を持つ男、公私で立場の逆転がある、などの道具立ては、特異で非日常であればあるほど、戯画化しやすい分野なのではないかな。そこから先がどうなの、という部分については個人的には読み込み切れない感じがした。安易な結論に帰着させれば人間の心の闇は深いってことになるのかな。
読了日:1月9日 著者:羽田圭介
鎌倉幕府の滅亡 (歴史文化ライブラリー)鎌倉幕府の滅亡 (歴史文化ライブラリー)感想
「鶏が先か、卵が先か」という警句を思い出す。教科書では暗愚な執権北条高時の出現で鎌倉幕府は崩壊したとされる。だが将軍と御家人が直接結びつく中央集権型の地方政権として頼朝の下で発足した幕府が、執権を頂点とする合議制、家系を重視した得宗専制へと進化する中で全国政権となり、地方分権化を迫られつつ、中央集権化も守るという矛盾をはらむ。家職化した幕府の官僚の活躍でトップは必要ですらなくなる。被支配層の武士が最大の宿痾は幕府組織であると覚醒した時に倒れるのは自明。昨今の「霞ケ関対地方」の論議にもどこか重なって見える。
読了日:1月9日 著者:細川重男
新田一族の中世: 「武家の棟梁」への道 (歴史文化ライブラリー)新田一族の中世: 「武家の棟梁」への道 (歴史文化ライブラリー)感想
源頼朝、足利尊氏、新田義貞。八幡太郎義家を祖先に持つ同族であり、「武家政権が成立した」と京で関東で全国津々浦々で認知されるためには武力を以て「清和源氏の棟梁」となる必要があった。征伐をしないと認められない。そのために足利氏には新田氏が必要であり、徳川氏が系図を乗っ取って新田氏を祖先に仕立て武威を示したのもこの構図による。だが新田一族の実像は如何だったのか、史実と物語の間を読み込んだ1冊。正史に準ずる扱いの太平記にどう描かせるか、当事者には問題になる訳で、出来事の点綴では見えない世界を立体視させてくれる。
読了日:1月4日 著者:田中大喜
弊風一斑 蓄妾の実例 (現代教養文庫)弊風一斑 蓄妾の実例 (現代教養文庫)感想
黒岩涙香は土佐国安芸郡川北村前島の人。蓄妾は男(女も)の甲斐性という社会通念の時代に、一夫一婦制を宣揚しようと、妾を囲っている者を暴露していく。町の商人から貴族院議員まで。俎上には北里繁三郎、犬養毅といった面々も。個人情報とかプライバシーとかいう以前の時代。後のモンティパイソンを連想させるような。逆に何で書いてくれぬという者もいたというから、蓄妾も栄典のうち、という意識だったか。ただ救いようがなく読めたのは池上本門寺関係の記事。女犯と横領と。本当なら本当に筆誅に値するのかも。紙一重ですね、この手の問題は。
読了日:1月1日 著者:黒岩涙香

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posted by 曲月斎 at 01:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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