2016年12月01日

☆2016年11月に読んだ本

2016年11月の読書メーター
読んだ本の数:18冊
読んだページ数:5285ページ
ナイス数:612ナイス

喪失の戦後史喪失の戦後史
読了日:11月30日 著者:平川克美
SNS時代の写真ルールとマナー (朝日新書)SNS時代の写真ルールとマナー (朝日新書)感想
銀塩カメラからデジカメへ。メディアが変わり、愛好家は増えた。さらに今は携帯端末、Webの時代。写真や動画を撮るのは簡単になった。でもマナーは逆に問い直されている。撮影した人間にある著作権と、被写体の側の肖像権、プライバシーの保護など。日常的に写真を撮っていて、アマチュアカメラマンの傍若無人ぶりに愕然とする一方で、自身の撮影でも改めて法的な側面、公正性の確保の大事さを考える内容。冒頭から8章まではQ&A形式ながら、要点は末尾の2章。手短に読むならここを先に。ぜひ写真教室でもこの本、教材にして欲しい。
読了日:11月30日 著者:
たのしいプロパガンダ (イースト新書Q)たのしいプロパガンダ (イースト新書Q)感想
「プロパガンダ」というと声高なものというイメージが先に立つ。北朝鮮のアナウンサーのように。でも本当に怖いのは耳元で囁くような話だ。手もみしながら笑顔で近付いてくる者だ。戦前の日本では宝塚歌劇が、浪曲が、琵琶が。あらゆる娯楽に紛れ込ませてあった訳で、旧ソ連、ナチス、中国、IS、そして聖林を擁する米国。かつてのオウムもそう。実は今の日本でも百田尚樹の「永遠の0」であったり、荒巻義雄の仮想戦記「紺碧の艦隊」であったり。いつかそういう価値観が身近になっていく部分はないか。筆者はその危惧を指摘する。さも、と思う。
読了日:11月27日 著者:辻田真佐憲
中東鉄道経営史 -ロシアと「満洲」 1896-1935-中東鉄道経営史 -ロシアと「満洲」 1896-1935-感想
筆者の著作の脊梁となった1冊。帝政ロシアが露仏銀行を元に敷設した中東鉄道(満州里〜ハルビン〜綏芬河、ハルビン〜大連)は植民地化会社であった。ただ物資の消費先の開発というより、大豆などの穀物を露側に輸出する道になったこと、日本、清(後に中華民国)との勢力争いの中で、投資額に対して利が生まれない形だったことを浩瀚な資料から分析する。他国に鉄道を通して利権を生もうというのは如何にも帝国主義的な手法だが、無理筋であることを示す。ただ日露の交渉でここでも相手は一枚上手、武力の背景なしに進んだことがない歴史が見える。
読了日:11月24日 著者:麻田雅文
元老―近代日本の真の指導者たち (中公新書)元老―近代日本の真の指導者たち (中公新書)感想
英国型立憲君主制を目指し、天皇機関説を奉じながら、安定した実務のために生まれた元老制度。議会や官僚、藩閥が補完できない部分を調整していく。大久保利通〜伊藤博文〜山県有朋〜西園寺公望と流れを追い掛けた1冊。少人数で清貧だったことが当初は「黒幕会議」と呼ばれた仕掛けを「元老」という名に変えていったのは興味深い。ただ昭和史でも出てくる天皇への「内奏」、宮内省や宮中の支配という点。元老の匙加減が一歩間違うと軍部が振るった帷幄奏上権となる歴史もある。時代と共に、単なる安全弁としての機能に限定されていく気がする。
読了日:11月21日 著者:伊藤之雄
巨大地震の科学と防災 (朝日選書)巨大地震の科学と防災 (朝日選書)感想
著者の人柄+座談を編集構成した2人の力量=好著、の1冊ですね。地震の波形の解析を重ねることで、地震の姿を明らかにすることを自身の仕事にした科学者の最新地震学です。「分かっていることと分からないこと」を明確にし、何のための研究かを示す。「地震職人」を自称する筆者の姿勢に好感が持てます。加えて学術的な内容も平易。マグニチュードって何、地震波、地震の予測は、といった話が続きます。しかも筆者の考えてきた順に話が展開するので読みやすい。末尾の「あとがきにかえて」まで本当に読ませる1冊になっています。お勧めの1冊。
読了日:11月19日 著者:金森博雄(著),瀬川茂子/林能成(構成)
断片的なものの社会学断片的なものの社会学感想
聞き取り調査の手法を元に沖縄や在日を手がかりに今を描くのが生業の筆者。その聞き取りの合間に、理屈の付けようがなく、付ける気もない断片的な話が残る。それを整序して取り合わせた1冊。「私たちは生まれつきだれも孤独だ」という筆者、自分の場所から出ていく人に惹かれ、帰る人に惹かれ。独りでいることが好きだけど接触することは好まない。二律背反ながら、よく分かる感覚ではある。筆者は言う。「どこかに移動しなくても出口を見付けることができる。外に向かって開いている窓がある。私の場合は本だった」と。オチがないのがオチの1冊。
読了日:11月16日 著者:岸政彦
人口と日本経済 - 長寿、イノベーション、経済成長 (中公新書)人口と日本経済 - 長寿、イノベーション、経済成長 (中公新書)感想
富の源は人口だった時代から、技術革新がもたらしたものは今日の富が富を生む時代である。となれば人間が不要になる。となると人口が減少する。確かに人口が減少すること自体は悪ではない。個々人の単位を見れば所得が向上するかに見えるからだ。筆者は高度成長期は個人が貯蓄し、企業が投資をする構図だったが、今は企業が内部留保をする時代になったと見立てる。となれば、富が富を生む時代に、内部留保は咎め立てできない。加えて人口が減少することによって、人間の営みが変容せざるを得ない。人口の偏在は確実に地域を変えているのだから。
読了日:11月12日 著者:吉川洋
読書と日本人 (岩波新書)読書と日本人 (岩波新書)感想
こうやって本を読んでいる。何故だろう。筆者は日本での本と読み手の関係を分析する。筆致は随筆風。写本から版本、活字本、電子書籍と本の形態が変わる。黙読か音読か、識字率と読書の習慣の定着、照明の変化、書斎(個室)の成立、図書館の存在、用紙の需給等々、種々の断面で分析する。結句、読書も大量生産大量消費の20世紀に変貌したことを読み解く。本の内容の硬軟、年代による本への感覚の変遷の指摘も興味深い。個人的には「多読で博識な人(ex丸谷才一)」を手本にして、どこかで憧れて育ったことが今も影を落としているのかも……。
読了日:11月10日 著者:津野海太郎
桂太郎 - 外に帝国主義、内に立憲主義 (中公新書)桂太郎 - 外に帝国主義、内に立憲主義 (中公新書)感想
大正政変と第1次護憲運動の中の登場人物としてだけの認識は改めなくてはなるまい。長州藩上士の出、陸軍内で山県有朋の下、長州閥の一員として出世。1901年に1次内閣で総理に就任すると日英同盟の締結、日露戦争の指導とで約5年半、国政を切り盛りし、2次内閣では日露協約、日韓併合。で、根底に緊縮財政主義があったのは意外。伊藤博文、山県ら元老第1世代を「あしらう」術を披露したのはこの人であった。「外に帝国主義、内に立憲主義」とは徳富蘇峰の評。後者はとまれ、大正期の政治への繋ぎ役として欠かせぬ人物であるのは間違いない。
読了日:11月9日 著者:千葉功
寺社勢力―もう一つの中世社会 (岩波新書 黄版 117)寺社勢力―もう一つの中世社会 (岩波新書 黄版 117)感想
筆者は日本中世史で画期的とされた権門体制論の提唱者。公家と武家という二項対立から脱し、寺社という宗教勢力を権門の一角としてみることで社会体制を見直した。本書は宗教権力について平安期に遡る勃興期から事実上の終焉を迎える織豊時代まで通観した1冊。目配りが行き届いていて、抑えた筆致で書き進む。顕密体制のありよう、今となっては意識しにくい兼学が当たり前だった時代の姿、中で起こった浄土教の動きと抑えていく。ただ民衆に近い部分(周縁部なのかもしれないが)の動きがもう少し欲しいところ。中世を考える上で押さえたい1冊。
読了日:11月7日 著者:黒田俊雄
江戸名所図屏風を読む (角川選書)江戸名所図屏風を読む (角川選書)感想
出光美術館所蔵で出自由来が不明なこの屏風。筆の謎解きシリーズの1点の俎上に上がった。注目したのは江戸湊の繁華。徳川殿の水軍を管掌した向井将監の一門に目をつける。猿若町の賑わいが描かれていることからこの絵の注文主として一門の傍流を歩んだ五郎左右衛門正俊なる人物を挙げるに至る。絵画は作者の創意ではなく注文主の裁量で描かれる時代だったことを思い出す。ただ、本シリーズの豊国祭屏風2本、舟木本洛中洛外図屏風、神護寺の三像(頼朝、重盛など)の分析に比べて、一般読者の興味をつなぎきれるかな。研究とはそういうものだけど。
読了日:11月5日 著者:黒田日出男
戦争の社会学 はじめての軍事・戦争入門 (光文社新書)戦争の社会学 はじめての軍事・戦争入門 (光文社新書)感想
本書の大半が原爆の出現以前の事象に割かれている。歴史を綴ろうという意識のゆえか。然し最早牧歌的な戦闘は起こりえない(という建前に)のであるから無駄だ。本当に紙幅を割くべきなのはナポレオンでもクラウゼビッツでもマハンでもない。国対国ではなく国と非対称的な戦闘行為である。原爆の出現以降、対する相手はゲリラでしかない。「参った」がない暴力行為になる。人類は確かに戦闘行為と共に歩んできた。だが19世紀までの戦闘行為と20世紀に入ってからのものとは峻別されなければならない。その区別を見極める視点、示唆がかけた1冊。
読了日:11月3日 著者:橋爪大三郎
神々の明治維新―神仏分離と廃仏毀釈 (岩波新書 黄版 103)神々の明治維新―神仏分離と廃仏毀釈 (岩波新書 黄版 103)感想
日本会議の一件にも繋がる、単純化した国家観、宗教観の淵源は実はこの神仏分離、廃仏毀釈にある気がする。平田国学や水戸学の面々が力づくで進めようとした奇矯な形の神道の横行は、日本中の村々に続いてきた信仰、社会を歪めた。爾来約150年。度会、荒木田の両家が支えてきた伊勢信仰を始め、修験道系の山岳信仰や本書には出てこないが時衆の存在などを抹殺した。神職は國學院、皇學館の2機関に今も管理されている。一方、仏教側も寺領上知の前に、独自の資金力で踏ん張れたのは本願寺系のみ。今に続く歪んだ伝統の第1歩というべきか。
読了日:11月3日 著者:安丸良夫
弘法大師空海と出会う (岩波新書)弘法大師空海と出会う (岩波新書)感想
筆者は四国霊場28番の住職。新書1冊のサイズで、空海の生涯、遺跡、大師の姿と唐から招来した美術、著作と網羅することを目指した1冊。空海の実像に近い部分を提示する試みだ。ただ、初学を相手に網羅しようとすると、駆け足になる。読者の需要は、2章の遺跡の部分を生かした1冊にした方が良かったかも。最近読んだ手法では高村薫の「空海」が説く鎮護国家の宗教家、日本総菩提所の祖霊信仰の象徴、そして大師個人への信仰の三点倒立が気になる。。四国遍路する人はたぶん、札所よりも札所を繋ぐ路次、小径で大師と出会うのではないだろうか。
読了日:11月2日 著者:川崎一洋
兵隊たちの陸軍史 (新潮文庫)兵隊たちの陸軍史 (新潮文庫)感想
筆者の訃報に接して再読。吉川弘文館で「地域の中の軍隊」というシリーズ本9冊が昨年までに出ているけど、この1冊は筆者自身が当事者、1兵卒の視点で見て、聞いたことを書いているのが強み。新兵の教育から慰安所の話まで、俸給、上下関係や考え方まで筆は及ぶ。巻末の解説で保阪正康が「軍隊経験を持たない人にとっての必読書」といい、初年兵教育の冊子「内務の躾」から「国民が国家の要求に服従すること、とりもなほさず、国民自身の精神生活に満足を與ふる」と言いつつ、「人間の扱いを綴ることで国家の欺瞞を示している」との評が重い。
読了日:11月1日 著者:伊藤桂一
住友銀行秘史住友銀行秘史感想
1991年のイトマン事件をメーンバンクの側から描いた1冊。その多くには住友銀行内部の権力闘争がある。筆者は行内で大蔵省担当(MOF担)を務めた人物。MOF担といえばノーパンしゃぶしゃぶ程度しか連想できない頭には、荷が勝った1冊だった。登場してくる人物に誰ひとりとしてカタルシスがない(ま、必要ないのだけど)。内部告発者としての仮面を脱いだという1点に意味のある1冊だから。とまれ、大変な業界ではあるな、と。この後、山一証券の破綻が97年、拓銀の破綻、大蔵省接待汚職事件が98年。封じ込まれた物は大きかったのか。
読了日:11月1日 著者:國重惇史
鉄道ミステリーの系譜 (交通新聞社新書)鉄道ミステリーの系譜 (交通新聞社新書)感想
鉄道ミステリーの系譜を書くとなると、全部を書けばネタバレになる。だから以て廻った書きぶりになってしまう。筆者が情熱を傾ければ傾けるほどに、読み手は隔靴掻痒になるという自己撞着。正直に言えば、鮎川哲也なりの編んだ鉄道ミステリーのアンソロジーを読んだ方が良かったかもしれない。それと「変革探偵小説入門」(谷口基、岩波書店)が説くような、小説では書けない世界を探偵小説で構築してみせるという側面もこの分野の小説にはある気がした。現に当時の風俗を映す古典となっているのだから。本書はキンドルで読了。
読了日:11月1日 著者:原口隆行

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posted by 曲月斎 at 01:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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