2016年08月01日

★2016年7月に読んだ本。

2016年7月の読書メーター
読んだ本の数:12冊
読んだページ数:3077ページ
ナイス数:432ナイス

京“KYO”のお言葉 (文春文庫)京“KYO”のお言葉 (文春文庫)感想
正確に言えば筆者は西陣が出自。でも京での生活を骨の髄まで染み込ませている筆者ならではの文の数々。婉曲表現を遣いつつ、実は直截的。逆裏対偶のような論理の駆使。とても及ぶところではない。でもそんな嫌みな部分を軽妙な文体で読ませてしまう。同趣向の「京都ぎらい」(井上章一)よりもずっと読みやすい気がする。各項の末尾に店の紹介が2軒ずつ載っているけど、これこそ蛇足。ない方がいいのだが、元々「anan west」の連載だったというから仕方ないか。でも常に蹂躙され続け、新入者を受け入れてきた街のしたたかさが言葉に覗く。
読了日:7月31日 著者:入江敦彦
植民地時代の古本屋たち―樺太・朝鮮・台湾・満洲・中華民国 空白の庶民史植民地時代の古本屋たち―樺太・朝鮮・台湾・満洲・中華民国 空白の庶民史感想
台湾、朝鮮、満洲、樺太と戦前の日本の植民地での古本屋業界を展望した1冊。同業者間の通信物であったり、懐旧記であったりを元に当時を振り返る。挿入されている都市市街図で、奉天、真岡、京城、台北などの町の様子が分かる方が個人的には興味深かった。本が知性と比例した時代。教科書が古本の主力商品だった町、あるいは渡海した人の旧蔵本が出る町など。そんな土地でも、内地の古書業者が「せどり」に出向いていること、本屋商売が花形であった時代の懐旧譚。文は地域別に進んでいるのだけど、総集編部分の充実を他日に俟ちたい。
読了日:7月28日 著者:沖田信悦
都市鎌倉の中世史―吾妻鏡の舞台と主役たち (歴史文化ライブラリー)都市鎌倉の中世史―吾妻鏡の舞台と主役たち (歴史文化ライブラリー)感想
中世史の研究とはこういう風にやるという方法論を一般書にしている1冊。文献学出身の筆者が考古学と出会い、考察を進めていく。吾妻鑑の断片的な記述を元に遺跡、出土品との突き合わせ。北条義時の邸宅跡、大倉御所の後等々。また私的な持仏堂であったり、境界に置いた寺、鎮魂の寺など今に寺院の残る理由を解いたり。一番面白かったのは町の背骨は東西に走る六浦道で、若宮大路に対して約87度で交わる街路が発達していたという考察や、巷間に伝わる城塞都市としての機能はなかったとの見立て、京と並ぶ物流拠点だったことなど。東国国家論?
読了日:7月28日 著者:秋山哲雄
兵隊になった沢村栄治: 戦時下職業野球連盟の偽装工作 (ちくま新書)兵隊になった沢村栄治: 戦時下職業野球連盟の偽装工作 (ちくま新書)感想
読んでいて、悔しくなってきた。前川八郎、坪内道典、川上哲治、千葉茂に会っていた。鈴木龍二の書生にも。腰を据えて聞いていれば色々な話が聞けたに違いない。辛うじて思い出話を聞いた近藤貞雄、近藤をモデルにした新東宝の映画「人生選手」のこと。読んでいてありとあらゆる場面が思い出されて、オレならこう書いたと思うこと屡々。本書には出ていないが、1945年春、阪神間の空襲直前までやっていた職業野球の話がある。当時、出場した選手も取材したっけか。リーグ運営者の立場もさることながら、選手の話を盛り込んで見たかったな、と。
読了日:7月21日 著者:山際康之
代議制民主主義 - 「民意」と「政治家」を問い直す (中公新書)代議制民主主義 - 「民意」と「政治家」を問い直す (中公新書)感想
政策を実行する「執政」と民意を反映する「議会」と。人間の集団には代議制民主主義が登場する。ただ、執政を大統領のように直接国民が選ぶか、議員内閣制にするかの違いがあり、また、議会も小選挙区のような民意との比例性が低い選挙制度か、大選挙区や比例代表制のような制度か。この執政と選挙制度の組み合わせによって行政の有り様が変わるというのが本書の指摘。記述している内容は示唆に富むのだけど、頭の中で「代入(具体的なイメージの連想)」が必要な記述が続く。と同時に日本の現状を鑑みると議員の資質低下に憂慮せざるを得ない。
読了日:7月21日 著者:待鳥聡史
パックス・チャイナ 中華帝国の野望 (講談社現代新書)パックス・チャイナ 中華帝国の野望 (講談社現代新書)感想
書名は「Pax Romana(ローマの平和)」に由来する。ローマ帝国時代の5賢帝時代のことだ。以来、ブリタニカであれ、アメリカーナであれ、その背後には権謀術数がある。習近平の動静をどう見立てるのか。AIIBであれ、一路一帯であれ、19世紀に欧米と日本に席捲された経験を持つ中国の指導者が対米で「同等のパートナー」、対露では主従の関係を逆転させたと見立てる。細部にわたる描写が生々しさを感じさせるのだけど、逆に何がネタ元なのか? という胡散臭さも生んでいる。事実か陰謀論の類いなのか。どこかに夕刊紙の風合いが。
読了日:7月15日 著者:近藤大介
イラストで見る昭和の消えた仕事図鑑イラストで見る昭和の消えた仕事図鑑感想
説明文1頁、イラスト1頁。見開きで1項目。挿絵が秀逸。画風とすれば遠藤ケイか、今和次郎か。昭和の時代のホワッした気分をよく写していると思う。仕事別に文章は綴られていく。本当に消えちゃった仕事って多い。機械化で消えたもの、省力化で消えたもの……。身近に考えればコンピュータの出現で「○○の名手某さん」とか「△△なら某さん」という人々が消えていったなぁ。おまけにコンプライアンスという名の下に、縁故や人脈が忌避され、公明正大一辺倒になった。大切なことだけど、消えちゃったものもあるような気がする。委細は本書を。
読了日:7月15日 著者:澤宮優
足利義稙-戦国に生きた不屈の大将軍- (中世武士選書33)足利義稙-戦国に生きた不屈の大将軍- (中世武士選書33)感想
波瀾万丈を絵に描いたような主人公。世上に知られぬ人物を取り上げた筆者に拍手。同じ「将軍」職でも徳川殿には直轄地(財力)も兵力もあったが、足利殿には2要素がなく、守護大名連合の事務局長程度の力だったという見立てを基盤に「流れ公方」の人生を辿る。父と共に逃れた美濃から上京して10代将軍義材に。細川京兆家に追われて将軍廃立、越中に逃れ、越前、周防で13年余の雌伏を経て将軍義稙として返り咲き。だがまた追われて阿波に逃れた処で没する58年の生涯。大河ドラマには向かないけど、中世という時代を象徴する人物だ。秀逸。
読了日:7月12日 著者:山田康弘
角川映画 1976-1986(増補版) (角川文庫)角川映画 1976-1986(増補版) (角川文庫)感想
角川書店&角川春樹の歩みを振り返った1冊。角川映画というと犬神家の人々、悪魔の手鞠歌、人間の証明等を連想するけど、抱える作家が少なかった書店が、横溝正史、森村誠らの発掘と、自社専属の女優(薬師丸ひろ子、原田知世ら)の育成等々、元々は本を売るためのメディアミックスが変貌していく。映画興行界の習慣を破る形であれ。日本の出版界、いやマスコミの先端的な動きだったのかもしれない。ただ角川書店も結局、旧来の体制に組み込まれていく過程であった気もする。アニメ、Webへの進出と挑戦は続いているが。鵺のような姿かも。
読了日:7月9日 著者:中川右介
裸はいつから恥ずかしくなったか―日本人の羞恥心 (新潮選書)裸はいつから恥ずかしくなったか―日本人の羞恥心 (新潮選書)感想
内容散漫、事実の認識不足。読者をこの問題に誘う切っ掛けに、豆州下田の公衆浴場のスケッチを引いているのだけど、絵柄として別に奇異に見えない。柘榴口があり、流し場がある江戸時代までの風呂の絵。西欧人にとって混浴が珍しいなら、そも入浴自体が珍しい人々相手のこと。青森の酸ヶ湯にでも行けば認識は改まるかも。明治時代初頭に出された政令で意識の変化が生まれたというが、その後長く裸の庶民はいた。羞恥心とは違うレベルが続いた。今和次郎先生の本を玩味熟読せられたいくらい。後段は井上章一の「パンツが見える。」を読んだ方がまし。
読了日:7月7日 著者:中野明
【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛 (新潮選書)【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛 (新潮選書)感想
今日に至る中東紛争の起源とも言われる英仏露によるこの協定。実は後のセーブル、ローザンヌの両条約を経て、今の枠組みが完成した。勝手な領土分割を批判するのは易しい。だが、近代化の中で1)オスマン帝国が自壊 2)露の南進策−−が相俟って不安定になったのが原因と説く。この構図の読み解きが本書の眼目。中東からバルカン半島にかけて、クルド人に限らず民族が混住してきた地域。一歩間違うと「民族浄化」の悲劇に繫がる。現実的には米露を始め、中東の大国も含めての解決が必要だが、WWI後の状況にも似る今、良識が問われている。
読了日:7月5日 著者:池内恵
香港 中国と向き合う自由都市 (岩波新書)香港 中国と向き合う自由都市 (岩波新書)感想
「自治のない自由」な地域である香港。英国の租借地であれ、中国の行政特別区であれ、所謂民主的な手続きで行政が行われるのではなく行政長官(総督)が権力を握る形態である。でも対英国、対大陸であれ、住民が「不自由であること」を自覚した分、「自由」への希求、抑制への危機感が発露する。先の「雨傘運動」が記憶に新しい。この本を読んでいて彼の地の知見が改まったのと同時に、今の日本国憲法下で定められている自由すら、制限する動きに鈍感であるような気がして仕方ない。偖、抑圧するものを民衆に意識させない今の統治を称揚すべきか。
読了日:7月3日 著者:倉田徹,張ケ暋(チョウイクマン)

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posted by 曲月斎 at 02:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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