2014年01月04日

☆2013年のまとめ。

2013年の読書メーター
読んだ本の数:142冊
読んだページ数:36216ページ
ナイス数:1975ナイス

藤森照信×山口晃 日本建築集中講義藤森照信×山口晃 日本建築集中講義感想
古くは法隆寺、新しくは聴竹居、日本建築の名品、優品、珍品を取り上げて、藤森テルノブ先生と画家の山口晃師が巡るという構成。元々、裏千家御用の淡交社の雑誌に掲載されたもの、品よくまとまっている。山口師の絵は一昔前の夏目房之介風であり、その感覚は新鮮だった。引き換え藤森センセイはもう自家薬籠中の所説という感じ。軽みを感じたとすれば、良き聞き手をえ、良き編集者を得たゆえだろう。中で未訪の閑谷学校や西本願寺書院などいってみたいと思うところがあったのはまた幸せ。
読了日:12月30日 著者:藤森照信,山口晃
今日の風 (中公文庫)今日の風 (中公文庫)感想
昭和40年前後の随筆が中心。今、読み返すと、こういう感覚を持てる大人がいたのだ、という事実に感嘆を禁じえない。今となってはジェンダーとか、いろいろな制約はあるにせよ、そういうものを超越して読ませてしまうのがこの筆者の人徳というか。でも、あれだけの仕事をこなしながら、自由な時間にこれだけの随筆をこなしてしまうというのは一種の天才、なのでありましょう。
読了日:12月29日 著者:入江相政
歌舞伎 型の真髄 (単行本)歌舞伎 型の真髄 (単行本)感想
数々の演目を取り上げ、演目ごと、場面ごとに、上演された型を紹介して行く。古い時代は劇評や写真を頼りに推量、推定する。膨大な蓄積があっての藝である。歌舞伎という演劇が数日に渡って興行されるからできる芸当ともいえる。同じ古典演劇で、能なら1回限りが原則。偶然の産物が型として、小書(特別演出)として、残ることもあるが、大半は揮発してしまう。そんな彼我の差を読みながら考えていた。あと、ああ、この場面と思い浮かぶ程度に演目を脳内で画像化できないと面白くもなんともない1冊になる。
読了日:12月27日 著者:渡辺保
日本海軍進水絵はがき〈第4巻〉 (光人社NF文庫)日本海軍進水絵はがき〈第4巻〉 (光人社NF文庫)感想
このシリーズは切り離せばそのまま絵はがきとして使えます、という趣向。つまり本の「のど」の部分の製本が甘い。少し開いて読もうとすると、本自体がバラバラになってしまうという代物。この巻の中に出てくる戦艦摂津、戦艦加賀のように、計画と実態は食い違ってしまうと思うのはうがちすぎですな。
読了日:12月24日 著者:
日本海軍進水絵はがき〈第3巻〉 (光人社NF文庫)日本海軍進水絵はがき〈第3巻〉 (光人社NF文庫)感想
重巡利根の絵はがきが所収されているが、出てくるのは進水式のくす玉と日章旗&スリーダイヤの旗。今の自衛艦の進水式に変わらぬ有様で、興味深い。あと藤永田造船所というのが頻出する。見れば元禄年間創業の大阪・堂島の船大工屋兵庫屋を淵源にもち、1967年に三井造船に吸収合併されるまでそのブランドはあったという。特に駆逐艦の建造を得意として「東の浦賀船渠、西の藤永田」と言われたよし。
読了日:12月23日 著者:
日本海軍 進水絵はがき〈第2巻〉 (光人社NF文庫)日本海軍 進水絵はがき〈第2巻〉 (光人社NF文庫)感想
同じ絵はがきでも、かつてタミヤなどプラモデルメーカーが連合して発売していたウォーターラインシリーズの箱の絵、のようなタッチのものもある。いわば劇画調というか。でも、進水式の空気にはそういう勇猛果敢なものよりもどこかめでたさがあるものの方がふさわしい。
読了日:12月23日 著者:
日本海軍 進水絵はがき〈第1巻〉 (光人社NF文庫)日本海軍 進水絵はがき〈第1巻〉 (光人社NF文庫)感想
進水式というのは実に晴れがましい。今でも防衛省の海自のHPにいけばその光景を見せてくれる。そこで記念品で登場するのが絵はがき、というのが時代である。昭和初期の「意匠(デザインとはいわない)」を尽くしたものもあり、なかなかに興味深い。中でも龍驤、雪風、第12号掃海艦のものがそんな空気を伝えている。
読了日:12月23日 著者:
味のぐるり (中公文庫 M 62-5)味のぐるり (中公文庫 M 62-5)感想
明治38年生まれの筆者。生家は藤原俊成、定家親子を先祖にもつ家柄である。お公家さんの出だなぁ、というしかない筆捌き。久しぶりにこの人の文章を読んで思った。今までの食の遍歴を綴るもの。品のいい店が多いのだけど嫌みにならないのが筆者の徳、というものだろう。体言止めがうまくリズムを作っているし。自身の書き方の上では知らず知らず影響を受けていたかも。ただ、こういう文章を書く品格のある人物はもう日本にはいない。それをスノビッシュとか、ペダンチックとか、ディレッタンティズムとか謂わば言えと言い切れる気位の歯切れ良さ。
読了日:12月23日 著者:入江相政
そして、メディアは日本を戦争に導いたそして、メディアは日本を戦争に導いた感想
要点は最後の2章、「暴力とジャーナリズム」「現在への問いかけ」にある。特定秘密保護法が成立した今、国民を四角形に囲い込む1辺が成立してしまったのを感じる(残りの3辺は教育、暴力、情報の一元化)。昭和1ケタ時代に似ているという措辞は今までにも重々感じてきたところ。中で、週刊朝日の「ハシシタ事件」に関しての橋下市長の態度など劇場型になっているという指摘が興味深い。確かに情報発信の手段を個々が持てなかった時代との差、経験則が成立しえない、煽情や大衆行動、暴走が起きやすいのは事実。改めて「軽躁」という言葉を想う。
読了日:12月21日 著者:半藤一利,保阪正康
場末の文体論場末の文体論感想
1956年生まれの筆者の妄言、いちいち心に響く。高度成長期、自身が果たせなかった夢を託す親、収集癖もリアルでないと納得できない世代。こういう人種はある意味で奇矯であると思うし、その自覚はある。でも筆者がこの本で書いていることは、痒いところに手が届く愉悦に近い。他の世代に共感を得うるとは思えないが。本を溜め込む親父、ブリタニカのセールスの親父、いたよ、うんいた、としか言えない。ただ筆者の目指すところはそういう同時代感だけではないのは言うまでもない。悲しいくらいにある意味で普遍的なのだから。
読了日:12月19日 著者:小田嶋隆
小田嶋隆のコラム道小田嶋隆のコラム道感想
随筆、漫筆、コラム、エッセー、随想。色々な言い方はあるにせよ、本記が主菜なら、コラムはお新香である。このお新香を美味しく食べてもらうには、盛り方、塩加減、素材は何、等々を縷々書いている本。コラムについてのコラムだ。ハウトゥ本ではない。巻末に付いている内田樹との対談を先に読んで、本編を読み返すと面白かったかもしれない。筆者のいう、主語、結語の大切さ、視座の多様性、話題を飛躍させるテクニックなどなど、掬すべき点は多かったとまじめっぽく書くと、似合わない気がする。原稿の行数と締め切り、確かに執筆の2大要素だ。
読了日:12月16日 著者:小田嶋隆
正弦曲線 (中公文庫)正弦曲線 (中公文庫)感想
不明にして筆者のことは知らぬ。岐阜県出身の作家で仏文系が専門みたいだ。扨措、故丸谷才一が力業の随筆とすれば、筆者は手弱女ぶりが目立つ。標題は三角函数の「sin cos tan」に由来する。バイオリズムを想えば分かるけど、いつも同じ振れ幅の波動だが、少しずつ前に進む。そんな論法を身近で展開してみせる。野帳、測鉛、パジャマ、瓦、製氷皿。60年代生まれの感覚をどこかで擽りながら進む。こういう本もたまにはいいか、と思う。ところで活字の組体裁で天の余白は広めで小洒落ていると思ったが……。目の錯覚だった。なぜ?
読了日:12月15日 著者:堀江敏幸
大衆めし 激動の戦後史: 「いいモノ」食ってりゃ幸せか? (ちくま新書)大衆めし 激動の戦後史: 「いいモノ」食ってりゃ幸せか? (ちくま新書)感想
一番おもしろい部分は「野菜炒め」の考察。家庭の厨房の火力が強くならないと作れない。炭火とか、竈では無理であるとの指摘は実に目から鱗。1960年代ごろから一般化する。かつて横浜の南京町ではコークスを燃やして料理を作っていたのを思い出す。その下りに至るまでの全段、結構話がややこしい。言い換えれば理屈っぽいというか。大洋漁業に関わったらしいこと、大量生産大量消費の時代に移っていったこと。そういう記述が筆者の体験と重ね合わせて綴られるのであるが。で、日本料理は料亭割烹のもので家庭の菜とは違うという論理は如何かな。
読了日:12月12日 著者:遠藤哲夫
失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)感想
久しぶりの読み直し。内容については各氏が書いているので。俎上に上がっているのはノモンハン事件、ミッドウェー海戦、ガダルカナル島攻防戦、インパール作戦、レイテ沖海戦、そして沖縄戦。そろいもそろって敗因に共通項があり、それをえぐり出していくのが妙味。2度目だったので、各章のアナリシスを読み、最後の失敗の本質、失敗の教訓と読み進めるといいでしょう。詳細な項目に戻りたければ1章目の各項に戻ればいい。今でも何も改善されていないのだな、と久しぶりに読み直して、ひとりつぶやくばかり。
読了日:12月10日 著者:戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎
日本軍艦ハンドブック (光人社NF文庫)日本軍艦ハンドブック (光人社NF文庫)感想
光人社NF文庫っていうのは、不思議なラインナップです。これは旧日本海軍の軍艦の艦歴などを略記した本。文庫の紙質という制約の中、写真を掲載してもつらい。Webにある「天翔艦隊」(http://www.d1.dion.ne.jp/~j_kihira/tensyofleet.htm)の艦影でもきちんと載せた方が良かったか。ざっとした記述なのだけど、戦艦→空母→重巡→軽巡→駆逐艦、とあっけなく沈んでいるのがよく分かる。中で潜水艦では「消息不明」「沈没と推定」「喪失と認定」という用語が増えるのは何ともいえぬ。
読了日:12月9日 著者:雑誌「丸」編集部
著名人名づけ事典 (文春新書)著名人名づけ事典 (文春新書)感想
失礼ながら、好事家がまとめた1冊、って感じ。ただただ羅列。その上、「願いを込めたものではなかっただろうか」「意味を込めた命名であっただろうか」という文末が非常に目立ち、筆者の「思い込み」が窺える。本の体裁とすれば、著名人の尊属、卑属を羅列し、事績を切り貼りしただけの本。名前の通事(1字をもらって、みたいな部分)があればそれを宛て推量する、くらい。今後、この本を眺めるとすれば、森鴎外の子供の名前は何と読むのだったっけ、と探す時くらい。工具書にもならない1冊。徒労感が残る。でも筆者は満足なのだろうな。
読了日:12月6日 著者:矢島裕紀彦
謎解き洛中洛外図 (岩波新書)謎解き洛中洛外図 (岩波新書)感想
1994年京博の図録「都の形象」が見付かったら読み直すかと思っていた1冊。今回の引っ越しで2冊がそろった上に、東博の新図録も加わって再読。上杉本洛中洛外図屏風の成立を探るという内容。明治時代に存在を知られるようになって時期や作者、注文主等の経緯が探られてきた。先学先考の論文を引用しながら、結論はある1点に収斂していく。パズルであり、歴史学や美学、建築学など学際を縫う世界。それはおもしろい。でも、一推論である。個人的には「研究とは世の中の何に役立つのか考えよ」と師匠に学生時代に言われた言葉が脳裏に浮かぶ。
読了日:12月4日 著者:黒田日出男
龍の棲む日本 (岩波新書)龍の棲む日本 (岩波新書)感想
結構、話題の展開に飛躍がある。理解するにはエピローグを読んでからの方がいいかもしれない。測量も衛星写真もない時代に書かれた行基図。日本の古い地図であるが、「日本は密教法具の独鈷の形である」という理屈が加わったり、「金輪際(地底の最深部)から続く要石がある」「竜が出入りする穴が各地にあり、つながっている」などの解釈だったりと、残っている図の背景の不可解さを謎解きしていく。それが蒙古襲来であったり、鉄砲伝来とともに変化、衰退していくという指摘はおもしろい。ただ筆者のいう竜穴のように論理は天衣無縫、である。
読了日:12月3日 著者:黒田日出男
倫敦巴里 (1977年)倫敦巴里 (1977年)感想
引っ越しの余録。本棚のいい位置に鎮座していたはずだったが、久しぶりにひょっこりと出てきた。いわゆる「パロディ(筆者のいう『もじり』)」の極北を連ねた本、である。川端康成の「雪国」の冒頭のもじりであったり、「兎と亀」の映画版の想定だったり。ただいずれのものも、本歌(元ネタ)が分かっていないと笑えない、という代物。今読み返してもおもしろいと思う。でも今の若い世代に理解を求めるのは難しいだろうとも思う。ただ、それ以上に、今の時代に、こういう共通認識みたいなものが形成されていないことが不思議であり、不安でもある。
読了日:11月26日 著者:和田誠
山賊ダイアリー(4) (イブニングKC)山賊ダイアリー(4) (イブニングKC)感想
今年2013年の本、となれば、この山賊ダイアリーシリーズが5指に入るのは間違いない。その新刊。イノシシには美味いと不味いがあるなんていうのはまさに実感。下手なものを持ち込んで、店の親父に嫌みを言われることもままある訳で、狩猟をしなくても、筆者のいうような生活感はあるのであります。今回は猟そのものよりも、その周辺の生き方(獲物の捌き、休猟期入り前の暮らしなどなど)を重点に取り上げているので、それはそれ、おもしろいものであります。今、猟期。今年はまだシシ肉の到来がないなあ。どこかで探してこなくては。
読了日:11月24日 著者:岡本健太郎
神社の本殿: 建築にみる神の空間 (歴史文化ライブラリー)神社の本殿: 建築にみる神の空間 (歴史文化ライブラリー)感想
神社では何を拝むのか。筆者は本殿を拝んでいる、と喝破する。成立から発展を追いかけた1冊。本殿は仏教の影響を受けて住居空間の延長として発生。仏教とは違う姿たらんと発展、融合し、今に至っているとの説明だ。構造的な話、専門的な用語が頻出する本だけに、図版の配置や数にもっと配慮があれば初学の者でも理解しやすい本だったろう。神のいます空間は占有空間で人が基本的には入らないので粗略に作ってあるというのが面白い。中世からの進展で拝殿が大きくなり、今や拝殿を拝んでいるのが実態かもしれぬが。ありそうでなかった1冊である。
読了日:11月24日 著者:三浦正幸
詰むや詰まざるや 続 (2) (東洋文庫 335)詰むや詰まざるや 続 (2) (東洋文庫 335)感想
完全に眺めた本。将棋という世界のほかに、詰将棋という世界が広がっているのです。5五の位で詰むのが都詰という話とか、詰み上がりの形が盤面半分がすべて市松模様になったり、大とか小とかいう文字になったり。詰将棋作家がいて欠陥を指摘するファンがいて改作する好事家がいる。眺めているだけですが、趣味の世界の深淵さは何か空恐ろしいような。ちなみにプロ棋士のタイトルホルダーに詰将棋を作ってもらうと1題63000円らしいです。http://www.shogi.or.jp/kansai/kishi/kisihaken.htm
読了日:11月22日 著者:
歌舞伎は恋: 山川静夫の芝居話歌舞伎は恋: 山川静夫の芝居話感想
「大向こうの人々」の読後感がさわやかだったので読んだのだけど、ちょっと高踏的かなあ。澄ました感じではないのだけど、どこかに昔は良かった系の匂いがある。中村右介の「歌舞伎 家と血と藝」と引き比べると直接話を聞いている強みがある分、話の内容にはバイアスがかかる、というか。特に17代目勘三郎の個性に惹かれている分、随筆の行間にもそのにおいが残る。それをいいもんだと思うか、くさいと思うか。意見の分かれるところかなあ。
読了日:11月20日 著者:山川静夫
日本の家紋大事典日本の家紋大事典感想
読んだ、というのは正確ではないと思いつつ。家紋の本(紋帳)と解説書の中庸を狙った1冊。意匠は丁寧に描かれているし、もう少しサイズが大きければもっと良かったかも。筆者の意図で、他の紋帳に掲載されていないようなものを敢えて掲載しているなど、なかなかに意欲的な選択ぶりです。筆者は上絵師(家紋を和服に描き込む職人さん)で、そういう視点もこの本に反映されているよう。家紋って、と思ったら、この本はおすすめです。デザインを眺めているだけでも楽しいです。
読了日:11月19日 著者:森本勇矢
監督はスタンドとも勝負する (1963年) (コンパクト・シリーズ〈30〉)監督はスタンドとも勝負する (1963年) (コンパクト・シリーズ〈30〉)感想
三原脩、といってももう歴史の中の人物だ。この本は元々は「文藝朝日」という雑誌に連載されたものをまとめたもので、1968年刊。「主力選手の調子が少しぐらい悪くても、監督の勘がひらめかなくても、ちっともびくともしないようなチームに育てたい。(中略)野球は生きものであり、運、不運が勝負を決する度合いが他の競技にくらべてことさら大きいスポーツだ、ということだ。賭博的要素を含んでいるから面白いのだ」と書いている。こんなことを誰かから聞いたような気がすると思ったら、弟子の仰木彬だった。今読み直しても球趣に富む1冊だ。
読了日:11月10日 著者:三原脩
金融政策入門 (岩波新書)金融政策入門 (岩波新書)感想
安倍内閣の発足、日銀の黒田総裁の就任と、国内の金融政策に関心を集めている中、もう一度確認するために読んだ。かいつまんで言えば、景気対策として財政政策よりも金融政策が有効である/日銀の人事には国民は直接関与はできないものの、議院の議決が必要であり、間接的に民意の反映である/というところかなあ。ともあれ、中央銀行の役割から説き起こして、今はやりのインフレターゲット策まで書き綴った内容です。ただ、末尾の「おわりに」で筆者が自戒の意味を込めて書いたという6箇条の但し書き部分が一番、得心がいった部分だったかな。
読了日:11月5日 著者:湯本雅士
囲碁発陽論 (東洋文庫 412)囲碁発陽論 (東洋文庫 412)感想
日本のスポーツ記事の起源は大相撲にある。その大相撲の評論の文体は、碁将棋の解説にあるのではないか、と思う。江戸時代の囲碁の家に生まれた井上因碩の書いた詰め碁の本。作品自体のおもしろさもさることながら、評というか、注釈を入れている藤沢秀行の文体、その歯切れの良さが魅力になっているのがおもしろい。褒めるところは褒め、簡潔な解説ぶり。いつの日にか、この棋譜を自分で並べてみながら、渋茶でも啜りたいと思うのだが、当分先になるのはいうまでもない。この本の本当の楽しみはその日までとっておくしかない。
読了日:11月4日 著者:井上因碩
詰むや詰まざるや―将棋無双・将棋図巧 (東洋文庫 282)詰むや詰まざるや―将棋無双・将棋図巧 (東洋文庫 282)感想
将棋が上手い訳でも、関心がある訳でもない。でもこの本は不思議な魅力がある。江戸時代、将棋は伊藤家や大橋本家、大橋分家が幕府の将棋所を預かっていた。その7世名人の大橋宗看、その弟の看寿が書いた詰め将棋の本がこれ。読者として想定しているのは将軍只一人。自身の藝と能力、家の名誉など一切合切をかけてこれらの詰め将棋を考案したわけで、その藝にはうなるしかない。39枚の駒が消えていくもの、裸の王将1枚が詰んでいくもの、手数611手を要するものなどなど、緻密な藝はすごいとしかいいようがない。
読了日:11月4日 著者:伊藤宗看,伊藤看寿
新版 歌舞伎十八番新版 歌舞伎十八番感想
今年急逝した12代団十郎の文。歌舞伎十八番といえば古くは戸板康二の著作があるが、演じる側から書いているのが興味深い。言ってみれば渡辺保の名著「歌舞伎手帳」で余白のような部分に、書き込んでいる藝談の部分のような味わい。これを歌舞伎十八番の根源、団十郎が語ったというところがミソです。勧進帳、助六、矢の根、毛抜など、上演頻度の高い狂言に関しては興味深い。口伝や伝承といった歴史的な部分から上演者としての経験を織り交ぜている。いわば堀越夏雄の肉声です。読んだ後、「歌舞伎 家と血と藝」を再読すると興趣が深いです。
読了日:10月26日 著者:十二代目市川團十郎
仏像の顔――形と表情をよむ (岩波新書)仏像の顔――形と表情をよむ (岩波新書)感想
入門書としては好個の1冊でしょう。図版がもっと挿入されていればもっとよかったのに、と思います。 印度から中国、そして日本。日本国内では飛鳥、白鳳の昔から鎌倉時代までの変遷を追います。当たり前のことですけど、顔を科学することが仏像の表情の研究に役立つというのはコロンブスの卵、みたいな話。習った記憶の彼方の「日本美術史」ではそんな視点はなかったなあ。ただ、初心者向けに書いていることを筆者自身も認めていますが、ちょっと訳知りな方にはもの足りないかもしれない。そんな気もしました。
読了日:10月16日 著者:清水眞澄
暦に見る日本人の知恵 (生活人新書)暦に見る日本人の知恵 (生活人新書)感想
これも今更、本かな。日本が採用していた「旧暦」と呼ばれるものは、月の満ち欠けを基本にした太陰暦の部分と、太陽の運行を利用した二十四節気の2つの組み合わせで成立している訳で、それをどう割り振るか、という点で改暦が繰り返されてきたのですから。日本人の知恵と大上段に振りかざすほどの内容ではないです。「こよみのページ」をWebで検索してその詳細な注釈を読んだ方が得策です。
読了日:10月10日 著者:岡田芳朗
スポーツの世界は学歴社会 (PHP新書)スポーツの世界は学歴社会 (PHP新書)感想
プロスポーツ選手と学歴の相関関係を探った1冊。目新しいのは統計経済学の手法を取り入れ(ちょっとその変数の設定には疑問が残るが)て、大卒、あるいは特定の大学を卒業する方が、セカンドライフを含めて優位である、というのが本書の結論。ただ、中盤で調べたことがうれしくなったのか、少し訳が分かっている人間には既知のことを羅列されるのには閉口。ただ、手法が目新しく見えるとはいえ、何かサプライズはない気がする。
読了日:10月10日 著者:橘木俊詔,齋藤隆志
孤独なボウリング―米国コミュニティの崩壊と再生孤独なボウリング―米国コミュニティの崩壊と再生感想
「社会関係資本」という概念こそが人間が生きていく上で重要である、ということ−−ま、人間ひとりじゃ生きていけない−−ってことなのだが。米国内での社会的な統計調査の結果を駆使して、1960年代から始まった社会構造の変化、つまり社会関係資本の衰退を分析する。その理由は? 時間と金銭的な問題、世代交代、技術革新などなど傍証が並ぶ。社会関係資本は大事、ということになるのだけど再生の端緒はあるのだろうか。米国内がそうであったように日本国内でも同じ現象は進行している訳で、加えて少子高齢化が進んでいる。不可逆的に見えるが
読了日:10月9日 著者:ロバート・D.パットナム
ひと皿の記憶: 食神、世界をめぐる (ちくま文庫)ひと皿の記憶: 食神、世界をめぐる (ちくま文庫)感想
本を読んでいて「これを食ってみたい」と思ったのは久々の経験。 それほどに食い物を美味く、巧く書く技能に長けているとしか言いようがない。言ってみれば、「丸谷才一+開高健+吉田健一」というべきか。 冒頭の能勢のアユから始まって、世界を巡る食談は端倪すべからざる、としかいいようがないので、知り合いのイタリアンシェフに「フィレンツェ風ステーキは作れるか」と尋ねるしかないほど。 一時が万事、腹が空いている時には読むべき1冊ではない。 「食べることは記憶につながる」というテーゼを傍証する旅に付き合うのもまた一興である
読了日:10月8日 著者:四方田犬彦
ヒロシマヒロシマ感想
「葭のずいから天覗く」ということわざが思い浮かんだ。被爆直後の広島で生存者に聞き取り調査をし、それを時系列で整理する。人類が初めて蒙ったこの惨劇を「点」を細密に描くことでそれ以外の情景を連想させている。筆致が上手い。ただ真実を探ればはその何万倍もの事実の山があるのも確かだ。後段はその生存者の後日談。こういうルポを読んだなら、当然抱くその後の話に答えてくれている。GHQが報道制限をした中で、ある意味で率直な姿を米本国に伝えたこの一編のルポは貴重なものだろう。出来れば訳出される時に広島の地図が欲しかった。
読了日:10月2日 著者:ジョンハーシー
一軍人の思想 (1940年) (岩波新書)一軍人の思想 (1940年) (岩波新書)感想
第1次大戦後の制約の下、独逸陸軍を再建したといわれる人物の本です。たぶん、今の日本ではゼークトの組織論、と喧伝される部分で唯一知名度を保っているともいえるかも。その論に曰く「有能な怠け者。これは前線指揮官に向いている。/有能な働き者。これは参謀に向いている。/無能な怠け者。これは総司令官または連絡将校に向いている、もしくは下級兵士。/無能な働き者。これは処刑するしかない」と。でもそんなことは書きそうもない人物の本に見えましたね。「次の大戦は米がついた方が勝つ」ともあったし。所謂、「ギョエテ曰く」の伝説?
読了日:10月2日 著者:ゼークト
戦前日本の安全保障 (講談社現代新書)戦前日本の安全保障 (講談社現代新書)感想
本の俎上に上っているのは4人。山県有朋、原敬、浜口雄幸、永田鉄山。山県を除けば、普選の人、金解禁の人、暗殺された人、ということに日本史の教科書的にはなるものの、その思惑が紹介されていて面白い。就中、英米との協調で貿易立国を目指した原は後の東洋経済の石橋湛山の考えにも通じるし、国際連盟や多国間条約で安定を目指した浜口の思考回路も興味深い。そして統制派の総帥・永田は軍官民の総力戦を認識しながら純粋に受け止めきれなかったのが後々の禍根となったのもおもしろい。山県を除く、残りの3人が斃れていなかったら……。if?
読了日:9月30日 著者:川田稔
へうげもの(17) (モーニングKC)へうげもの(17) (モーニングKC)感想
最終章に向かって本当に着々と進んでいる感じ。でも何かどんでん返しを仕掛けてきそうな。井戸茶碗でカレーを食べさせる発想は秀逸(ま、ドリアンを持ち出してきたかつてを思い出すけど)。ともあれ、無事に完結することを祈るばかり。
読了日:9月22日 著者:山田芳裕
相棒season10(上) (朝日文庫)相棒season10(上) (朝日文庫)感想
改めてノベライズ、という作業の妙味を実感。普通は本を読むことで頭の中に画像が浮かんで読書が進むのに、この本は逆。画像をおうように活字が進む。不思議な感じですね。あと、個人的には台本そのままを出版したらおもしろいのになあ。ノベライズと台本の間の落差がちょっと読んでみたい気がする。
読了日:9月22日 著者:碇卯人(ノベライズ),輿水泰弘ほか(脚本)
「方言コスプレ」の時代――ニセ関西弁から龍馬語まで「方言コスプレ」の時代――ニセ関西弁から龍馬語まで感想
今、高知に住んでいると、標準語を話すか、土佐弁を話すかの2分法だから得心があまりゆかぬ。ただ、土佐弁は変形している、つまり筆者のいうテレビの生み出した「土佐弁風」になっている気がする。確かに時制の概念は残っているけど、四つ仮名の聞き分け、発音は薄れているし、「××じゃき」「××ぜよ」という語尾は「年配の方」という語感になる。土佐弁のネイティブにとっても、コスプレ的な用法が生まれてるのかもしれない。「きんこん土佐日記」が表紙というのが象徴的。あと方言を上手く書き生かしているのは「カツオ人間」だと書いて置こう
読了日:9月22日 著者:田中ゆかり
江戸の艶道を愉しむ―性愛文化の探究江戸の艶道を愉しむ―性愛文化の探究感想
ちょっと内容的には今一つの本。江戸時代の色道指南本を中心に、挿絵とそれの翻刻、そして書誌的な解説と、内容が何とも。類書がないのかもしれないけど、その中身にはあまり掬すべきものはなかった気がする。
読了日:9月17日 著者:〓露庵主人
江戸の色道: 古川柳から覗く男色の世界 (新潮選書)江戸の色道: 古川柳から覗く男色の世界 (新潮選書)感想
何気ない文章が「陰間」と呼ばれた男娼の世界からのぞくとその隠喩となっているのを指摘している本です。確かに能「菊慈童」が皇帝に枕をまたいだからといって配流されて、その皇帝にまた思いを寄せるという訳の分からぬ世界より、こりゃ男色だと洒落のめした方が理解はしやすいかも。でも、肝心の筆者の生硬い講釈が続くのが何とも味気ないのは事実。同系統の本は数冊読んだけど、古川柳にカンしてはこの本がいいのかもしれないですけど、全体像から考えると見誤る気もします。
読了日:9月17日 著者:渡辺信一郎
血盟団事件血盟団事件感想
冒頭の提示がすべてな気がする。首謀者の井上日召は戦後、妾宅で暮らしで家族の面倒は見なかったという。ある種の右翼ゴロのような存在だったのでは、と思うしかない気がする。その理屈付けに社会変革を求めたのではないか、と。騙された者、犠牲になった者、戦後も「フィクサー」という生業を続けた者……。社会構造が未熟だった故の暴走だった部分もある。ただ、今は完備し、改善されたのかというと、はなはだ心元ない気がする。あと書き方は今一つ。マイケル・シーデルの「ディマジオの奇跡」みたいな味のある筆裁きならもっと読後感は違ったかも
読了日:9月17日 著者:中島岳志
戦略論の名著 - 孫子、マキアヴェリから現代まで (中公新書)戦略論の名著 - 孫子、マキアヴェリから現代まで (中公新書)感想
中国の古典孫子から近現代に至るまでの主要な戦略、戦術に関する書籍を紹介、というより、書かれた時代背景やその意義みたいなものを軽く紹介した本。ではその本に何が書かれているのか、ということは出ていません。 出ていないというか、そういうことよりも、戦略書入門みたいな話ですから、おかど違いな要求ではあるとは思いますが。 個人的にはちょっと本を選び間違えたかな、と思っています。
読了日:9月16日 著者:野中郁次郎
「鉄道唱歌」の謎―“汽笛一声”に沸いた人々の情熱 (交通新聞社新書)「鉄道唱歌」の謎―“汽笛一声”に沸いた人々の情熱 (交通新聞社新書)感想
作詞の大和田建樹は伊予宇和島の人。博覧強記を地で行くような人物で、数々の本を書き、詞を書き、旅をして。明治時代にしては太り過ぎで、54歳で死去。作曲の多梅雅は心臓を患い、51歳で死去。版元を務めた三木佐助は家業の出版業に加え、ヤマハのピアノなどの販売元として、あるいはスタンウェイの総代理店として大阪に今に残る三木楽器を育てる一方、出版業では開成館として手広く商い、大阪書籍などの設立に関与、74歳で死去。この3人を中心に進むのだが、誰の名も表舞台からは消えてもまだJRではこの曲を使っているかな。
読了日:9月13日 著者:中村建治
苦い蜜―わたしの人生地図苦い蜜―わたしの人生地図感想
澤地久枝という人は抑えた筆致で文章を書いていくのがモットー。この手のテーマでは吉村昭と双璧だけど、師匠という五味川純平の影響が強いのか、どこか剛直な感じも残る。この1冊は冒頭の「わが還暦・ゴッホへの旅」が一番。後は自著の追い書きのような内容が多く、本を読んでいない人間にはちょっと理解しかねる部分が残る。ちなみにこれは死んだ親父どのの本棚から見つけた1冊。奥付だと1991年刊とある。ちょうど現場の責任者をやっていたころに読んだものだったか。今のこの人の随筆はすこぶるいいのだけど、時代の差、かなあ。
読了日:9月13日 著者:澤地久枝
発展する地域 衰退する地域: 地域が自立するための経済学 (ちくま学芸文庫)発展する地域 衰退する地域: 地域が自立するための経済学 (ちくま学芸文庫)感想
「地域が自立するための処方箋を描いた先駆的名著」という謳い文句や、「孤独なボウリング」にも出てくるのでちょっと気になってトライしましたが、どうにも頭に論旨が入ってこなかった。その点で巻末にある元鳥取県知事の片山善博の解説が一番、この筆者の言わんとしていることを要約しているように思えた。363ページに及ぶ1冊は13ページ分の解説に尽きる。国を単位とせず地域を単位として経済を考えるとする筆者の主張はよくわかる。ただそれ以上に日本では人口減少、高齢化が急激に進んでいるのも事実である。
読了日:9月12日 著者:ジェインジェイコブズ
昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)感想
田原総一郎が先日、テレビで勧めていたので読了。太平洋戦争開戦前夜に日本のエリート官僚らが日米決戦の是非をシュミレーションした、という話が前半の骨子。後半は戦争を回避するために、天皇から大命が降下しながら何もできなかった東條英樹の姿が後半の軸。小説風に仕立てることで、軽く読めるのだけど、むしろ、一つひとつのインタビューであったり、メモであったり、備忘録の記述であったり、事実を提示する形式で書いてくれた方が説得力があったように思う。もっとも猪瀬直樹の本はこういう形式が多いのだけど。ちょっともの足りず。
読了日:9月12日 著者:猪瀬直樹
歌舞伎 家と血と藝 (講談社現代新書)歌舞伎 家と血と藝 (講談社現代新書)感想
歴史書には「編年体」と「紀伝体」があるけど、どちらでも楽しめる本。渡辺保の本が「正史」なら、この本は「稗史」。出典も筆者が咀嚼した上で一篇の文章に仕立てている。際どい部分まで書き込んでいるけど、却って得心がいく。歌舞伎興行としての側面と、藝の伝承と、血統と「名跡」という看板と人気と。その連立方程式の一つの解を示す1冊だ。明治の團菊時代、昭和の菊五郎、吉右衛門、戦後の歌右衛門……。首魁が現れ、時代を動かした。筆者は当代を2代目吉右衛門にその姿を見ているが。こういう政治力学的に歌舞伎を読み解いた本は貴重。
読了日:9月7日 著者:中川右介
暴走する地方自治 (ちくま新書)暴走する地方自治 (ちくま新書)感想
要は軽躁に走るべからず。「改革派」を看板に登場する首長は新鮮に映るが立論の危うさをまず説く。 続けて主要国の地方自治制度に言及する。昨今取りざたの道州制も生なかの覚悟では実現できないし、基礎自治体のありよう、国全体の制度設計が必要なことがよくわかる。 首長は時に裸の王様である。本来は二元代表制でその一方を担うはずの議会の体たらくもある。 人口減少社会、財源の縮小。アベノミクスの破綻、或いは大都市を襲う災害によって地方交付税など吹き飛ぶ可能性もある。地方の基礎自治体が扶助費すら賄えない現状なのに。
読了日:9月3日 著者:田村秀
森の力 植物生態学者の理論と実践 (講談社現代新書)森の力 植物生態学者の理論と実践 (講談社現代新書)感想
高知は山林面積が大きな県。戦後の計画造林の影響でほとんどが杉、檜の林。本来の照葉樹林ではありません。 本当は間伐をして手入れをしなければいけないのですが行き届きません。このままならいつかは破綻するでしょう。 筆者のいう本来の植生に戻すにはまた手間がいります。人口が縮減する今、その試みも必要なのではないか、と思います。 昔、川根本町の杉山嘉英・元町長の話を思い出します。「ここで育った材木を使って家を建てれば数百年は持つ家がつくれます。でも林は手入れが必要。もし元の林に戻すにはまた努力が必要です」と。
読了日:8月29日 著者:宮脇昭
政治学のエッセンシャルズ―視点と争点政治学のエッセンシャルズ―視点と争点感想
拾い読み可、大学生向けの講義なので実に理解しやすい(文章はかなり修飾関係が難解)。 1項目、政治と選挙では、英、米、豪などのいわゆる「民主主義」と欧州大陸の民主主義の概念を述べる(前者は二大政党制、後者は連立政権になる)。で、日本は、という話で、結局は地縁、血縁など縁を基盤にした価値判断が未だに主流を占め、これが「日本型」民主主義の典型と説く解説は明快。 後段の各章もわかりやすい。事前会計に重きを置く公会計と事後会計に重きを置く一般企業の差や、日本とアジア、天皇制など網羅した内容だ。各章の参考図書が親切。
読了日:8月27日 著者:松浦正孝,山口二郎,吉田徹,宮脇淳,辻康夫,空井護,中村研一,眞壁仁,中島岳志,川島真,野村真紀,田口晃,宮本太郎,山崎幹根,遠藤乾
脱グローバル論 日本の未来のつくりかた脱グローバル論 日本の未来のつくりかた感想
大阪市長時代の平松さんって印象がないのだけど、対談の形で提示されると興味深い。 「グローバル資本主義」が迫ってきたら、どうなるか、ということを考えていたというのがよく分かる本だからです。 今のTPP問題もそうですが、「政治的決断」とかいうのは松岡洋右のジュネーブでの姿同様、かっこうよくみえるけど、実際には違うのだということが後々見えてくるのです。 ネオコン以降、競争社会、市場経済こそ至上という考えが蔓延していますが、それだけではない社会、後戻りはできないけど、新たな形で創造しうるという励みになります。
読了日:8月23日 著者:内田樹,中島岳志,平松邦夫,イケダハヤト,小田嶋隆,高木新平,平川克美
華より幽へ―観世榮夫自伝華より幽へ―観世榮夫自伝感想
大学に入って最初に見た能がこの人の「頼政」ではなかったか。独特の存在感は比類ないものだった。 そんな思い出話はさておき、実に能の鍛錬のもつ、多様性を実践して見せた御仁だと思う。観世流の分家に産まれ、三つ子の魂で能に親しみ、戦火を潜って、戦後は「シテ一人で決める能ではなく公演する全体で作る能」を目指して喜多流に転じ、さらに能の世界から離れ、再び兄寿夫の死の後、能界に戻った。山姥のような人生。そのエネルギッシュさ。「自分の好奇心の赴くままに」と記述しているけど、好奇心を満たすには体力がいるのを実感。凄い人だ。
読了日:8月23日 著者:観世栄夫
師弟 ~吉本新喜劇・岡八朗師匠と歩んだ31年~ (ヨシモトブックス)師弟 ~吉本新喜劇・岡八朗師匠と歩んだ31年~ (ヨシモトブックス)感想
人ものの原稿を書く時の極意。2つ褒めて1つ貶す、と教わった。世の中に完璧な人間などいない。ひとさじのスパイスが造型を際立たせるのだ。が。 この本はしんどい。全編いい人、自分も善人という論調が続くからだ。事実かもしれない。でも何か違和感の方がさきに立ってしまった。
読了日:8月20日 著者:オール巨人
彼のオートバイ、彼女の島 (角川文庫 緑 371-9)彼のオートバイ、彼女の島 (角川文庫 緑 371-9)感想
片岡義男の本、なんてね。池波正太郎と並んで、数多く読んでる作家かもしれない。今から30年以上前の夏。プールの監視員のバイトをしながらこの1冊を読んだ。それ以来のこと。読み返してみて、マニアックな書き癖は何か今も文体に影響を与えられているのかもしれない。 今、高知のこの辺りではツーリングのバイクが多数往来。それぞれに「彼女の島」を目指しているのかもしれない。
読了日:8月13日 著者:片岡義男
映画は父を殺すためにある: 通過儀礼という見方 (ちくま文庫)映画は父を殺すためにある: 通過儀礼という見方 (ちくま文庫)感想
こういう解釈があるのかと思うと同時に、このキーワードを使えば何でもこじつけられるということできる。そのキーワードは「通過儀礼」。 「通過儀礼」の形式として、1日だけのローマの休日を楽しんだアン王女、「東京物語」の老夫婦の東京行などなど。挙げている解釈は明解とみるか、牽強付会とみるか……。 本文もさることながら、この本の一番の出色は文庫版解説の町山智浩の文章が一番おもしろかった、といってはいけないか。 島田裕巳という書き手の立ち位置が一番よく分かった。
読了日:8月13日 著者:島田裕巳
観世寿夫著作集〈3〉伝統と現代 (1981年)観世寿夫著作集〈3〉伝統と現代 (1981年)感想
荻原達子女史の編集にかかる1冊。彼女が拙に漏らした言葉「昔の学生さんは元気があったわよねえ」につきる。 というのは、寿夫の言葉、対談相手も含めて、ある意味での60年安保、70年安保の熱気が含まれているからだ。そういう思想に浮くの一つの事実。でも同時に、寿夫が指摘する「観客論」は今に至っても色あせることはない。なぜか。能の観客があの時代より進歩しているとは思えないからだ。否、退歩しているかもしれない。 彼は金のための家元制度、ということを喝破しているけど、その現実は何も変わるところはないのだから。
読了日:8月10日 著者:観世寿夫
ゴルフの作法ゴルフの作法感想
個人競技のゴルフで、師弟関係というのは不思議なものだけど、芹沢一門っていうのは、ノーブルなゴルファーが多い。藤田寛之、宮本勝昌、上井邦浩……。で、書いてある内容はごく常識的なものだけど、この人の看板で書かれると、ううん、なるほど、と思ってしまうのが不思議ではある。
読了日:8月8日 著者:
関西弁講義 (講談社学術文庫)関西弁講義 (講談社学術文庫)感想
大阪弁、京都弁など関西圏の言葉の言語学的論考。日本語はアクセントが1カ所で高低の変化をするのが一般的だが、関西弁は高い発音からと低い発音からの区別もあると説く。 種々の用例引証は興味深いが、実際のところ、音が頭の中で響かない悲しさ、ネイティブには面白い本だと思うのだが
読了日:8月8日 著者:山下好孝
「リベラル保守」宣言「リベラル保守」宣言感想
筆者の前提は以下の通り。「人間の理性によって理想社会を作ることが可能とする立場」に立ち、その実現の手段として、国家を使えば共産主義であったり、社会民主主義ということになり、それに頼らないとなるとアナキズムになる。一方、「人間の完成可能性を疑い、長年の制度や伝統や良識に信頼を置く立場」というのが保守主義(親鸞の悪人正機説もそうという解釈は上手い)。以下思索が続くのだけど、橋下市長の言動の分析や原発に対する立場など、教えられることが多い。いえば自民党宏池会みたいな存在が本当は一方の旗手になるのがいいのだろうが
読了日:8月5日 著者:中島岳志
有川浩の高知案内 (ダ・ヴィンチブックス)有川浩の高知案内 (ダ・ヴィンチブックス)感想
カツオ人間写真集第2弾かと思いきや、存外まじめなガイドブック。ちなみに自分が住んでいるところであるからして、どこを紹介するのか、気になったが、東は馬路と安芸だけ。本当は室戸まで行ってほしいんだけどなあ。でもアクセスの点で1泊2日のコースではしんどい、という現実がはしなくも現れる。ちなみに安芸は地場産市場と大山岬、伊尾木洞。馬路は馬路温泉。参考になるような……。日本3大がっかりの「はりまや橋」をきちんと紹介している視点はたしかにその通り。今度西の方に行くときには参考にしようかな。彼女は高知市内出身だそう。
読了日:8月1日 著者:
蕎麦の事典 (講談社学術文庫)蕎麦の事典 (講談社学術文庫)感想
毎日、少しずつ読み進めた。蕎麦という食品が今の暮らし以上に身近な存在であったことを教えてくれる。備荒用の食品から、嗜好品へと、変化していくのがおもしろい。あと、いろんなそば切りの変わり、また、蕎麦粉を使った粉食、あるいは汁物への変化と、なかなかに楽しい。 よくある蕎麦のうんちく本よりも、はるかに実証的で楽しかった。
読了日:7月31日 著者:新島繁
ラブコメ今昔 (角川文庫)ラブコメ今昔 (角川文庫)感想
この人の文体は歯切れがいいので、嫌いではない。 よく取材をしているし。 以上。
読了日:7月23日 著者:有川浩
政治の終焉 (NHK出版新書 406)政治の終焉 (NHK出版新書 406)感想
2012年末の総選挙後に書かれ、2013年の参院選前夜に読了。両碩学が危惧している通り、追憶の対象として自民党の勝利、理念なき政治屋が跳梁跋扈する日は目前に迫っている。マスコミもかつての微分的な手法での取材を抜け出せず、時代が要請している積分的な視点に欠けるとの指摘はごもっとも。政治学者としての御厨がプロとして現況を分析不能を明かせば、経済学者の松原も所謂アベノミクスの効能がないことに慨嘆する。どうすりゃいいんだ、というのが結論。結局、個人的には地方の再生、再編、再構築をどうするか、に帰納することにした。
読了日:7月21日 著者:御厨貴,松原隆一郎
限界集落の真実: 過疎の村は消えるか? (ちくま新書)限界集落の真実: 過疎の村は消えるか? (ちくま新書)感想
「限界集落」という用語は高知から生まれた。人口減少+高齢化により集落としての社会的な機能が喪失し、集落が消失する、という概念だ。筆者は自身のフィールドワークから、集落は消失した例はない、と再三力説するのだが、高知に住んでいると、現実には消失してしまった集落がたくさんある。概念として、明治の大合併以前の村落単位と考えればもちろん、昭和の大合併直前の状況、各小学校区を単位とした集落でも、消滅している。たとえ、住基台帳の上では住民登録があっても、居住者がいないのだ。こういう本を書くなら少しは虫の視座がほしい。
読了日:7月19日 著者:山下祐介
古語と現代語のあいだ―ミッシングリンクを紐解く (NHK出版新書 409)古語と現代語のあいだ―ミッシングリンクを紐解く (NHK出版新書 409)感想
相性のいい書き手と悪い書き手がいるもので、この人は後者。若山牧水の「白鳥はかなしからずや海のあお」という歌の「悲しい」と解釈すべきか、「愛しい」と読むべきか、といった話から始まるのだけど、最後は文科省が出てきて教科書検定がでてきて、仮名遣いの件が出てきて……。ミッシングリンクという用語は新鮮なのだけど、文学として、或いは史料として、どう読むかという話なのだから、ちと期待とはミッシングリンクでした。擬古文めかしたい時もあるしね、ちとピンぼけ。
読了日:7月16日 著者:白石良夫
バチカン近現代史 (中公新書)バチカン近現代史 (中公新書)感想
一応、カソリックの学校で6年間を過ごした。受洗することはなかったけど、ローマ教皇は身近な存在ではあった。無条件で君臨できた中世はさておき、近現代に於いてどう立ち回って来たのかを記述する。都合が悪くなればオーストリアに頼り、反共の目標の下、ナチスとも妥協してきた。そして記憶に新しいヨハネ・パウロ2世が東西対立を破った話に続く。時代が近づくにつれ、やや筆鋒が緩む気もするが、事実の叙述の積み重ねに終始している分、嫌みを抜いているのが救い。確かにもう一つの世界近現代史である。
読了日:7月15日 著者:松本佐保
続・暴力団 (新潮新書)続・暴力団 (新潮新書)感想
暴対法+暴排条例=カオス、ということか。一般的には「暴力団対警察」という図式を考えがちだが、実は「暴力団対一般社会」という構図になっていること、あるいは警察がよくも悪くも、組織を合法的に大きくしていること、また、暴力団の側も昔のような構成員ではなく、半グレと呼ばれる集団まで巻き込んでいること、などなどの指摘が続く。何とも、どうしたものだろう、という感想しか残らない1冊。ある意味でこれが真実をさらしている部分はあるとは推察するが。
読了日:7月8日 著者:溝口敦
ウイスキー粋人列伝 (文春新書 918)ウイスキー粋人列伝 (文春新書 918)感想
サントリー提供、の7文字が透かし入りで入っているとさえ思うような本です。 本を切り貼りして、あれこれと書いた本であり、時に秀逸なエピソードを抜き出してきたものだ、とも思います。でも。 ともかく出てくるウイスキーがダルマであり、角であり、ローヤルであり。あるいは同社が輸入元を引き受けているブランドであったり。 日本のウイスキー草創期から、この会社が大きなウエートを占めてきたことは認めますが、ちょっと手の込みすぎたPR本という感じが否めません。 ちなみに私はニッカの方に好意があるせいかもしれませんが。
読了日:7月8日 著者:矢島裕紀彦
やり直し教養講座 戦争で読み解く日本近現代史 (NHK出版新書 358)やり直し教養講座 戦争で読み解く日本近現代史 (NHK出版新書 358)感想
日本の近現代史を振り返る上で、関係の精査が欠かすことのできない米中韓英露の5カ国に関して、それぞれに紀伝体?風に書いた1冊。 戦争から、という言葉通り、戦争がキーワードなのだけど、それゆえに非常に平板になる。 そして挙げ句の果ては、明治大正の外交官、政治家は偉かった。大衆に迎合しない毅然とした姿勢こそ必要だ、みたいな結論では……。 いかな入門書とはいえ、もう少し丁寧さがないと、却って誤った歴史認識に繋がるような気がする。残念。
読了日:7月3日 著者:河合敦
日本人の地獄と極楽 (読みなおす日本史)日本人の地獄と極楽 (読みなおす日本史)感想
「地獄八景亡者戯」でこんな場面がある。「ご隠居、地獄ってどこですかいな」「そりゃ極楽のあっちゃ側や」「じゃ極楽は」「地獄のこっちゃ側や」って。ディズニーランドとUSJが隣り合わせなような感覚。その源流を探ったのがこの本。 源信僧都の「往生要集」が末法思想にのって流布した、と教えるのが日本史の教科書だが、祖霊は山や海に帰っていくという祖先崇拝の心持ちに乗った「地獄極楽観」があったと読み解く。曰く「発心因縁十王経」なる日本製の偽経や各地に残った民俗風習からそれを肉付けしていく。すこぶる面白い1冊である。
読了日:7月2日 著者:五来重
高柳重信全句集高柳重信全句集感想
高田馬場の「旗亭尚武」の思い出から浮かんできた俳人。日本海軍などの連作や、分かち書きの句の形式など、に取り組んだ方らしい。 こういう本は急に読み通す訳ではないけど、ぱらぱらとめくって、気になった一句を。「夕風/絶交/運河・ガレージ/十九の春」(日本海軍・補遺)
読了日:6月28日 著者:高柳重信
昭和戦前傑作落語選集 (講談社文芸文庫)昭和戦前傑作落語選集 (講談社文芸文庫)感想
大日本雄辯会講談社の「講談倶楽部」といえば、戦前を代表する雑誌の一つ。その速記を集めたのがこの本だ。 第1)源平盛衰記に見る話藝の妙。 筆記されているのは7代目正藏のもの。つまり先代三平の父。解説に在るとおり、台本はないけど、三平〜当代と続く藝風の伝承を感じた。 第2)金語楼の存在 新作で名をはせた人物ではあり、「金語楼の後備兵」「女優志願」の2篇が収められているけど、不易流行とはいかんなあ。 第3)文楽、圓生、今輔、金馬…… 戦後まで生き残り名を残した人の口演は何か楽しい。荒削りなのかもしれないけど。
読了日:6月27日 著者:三遊亭金馬,柳家小さん,春風亭柳好,柳家金語楼,三遊亭圓生,柳亭左楽,桂文楽,古今亭志ん生,柳家小三治,春風亭柳橋,橘家円蔵,柳家権太楼,桂米丸
コミュニティを再考する (平凡社新書)コミュニティを再考する (平凡社新書)感想
3・11以降、コミュニティの存在を称揚、あるいは至高の妙方のように、紹介する向きが多い。曰く「絆」「つながり」と。でも一歩、立ち止まって考えれば、そんな綺麗事ばかりではない。家であり、集落であり、個人の生活を優先する中にあって、否定されてきた存在ではなかったか。地域は人口減少で崩壊し、会社中心の終身雇用を基盤とした繋がりも消えたいま、コミュニティの文字を唱えれば頓服のように幸福になれるという幻想を掻き立てている気がしてならぬ。この文は頗る衒学的で難解だけど、この呪文の本当の意味を考える契機にはなる1冊。
読了日:6月25日 著者:伊豫谷登士翁,齋藤純一,吉原直樹
はなくそ時評蔵出し100選 (TOKYO NEWS MOOK 359号)はなくそ時評蔵出し100選 (TOKYO NEWS MOOK 359号)感想
しりあがり寿の1コママンガ集。筆というか、割り箸というか、独特の線で俳画にも見えるのが不思議。 中で、今年の3・11。教室でこの数字を書いて見せた教師は「絶対に忘れてはならない。これはなんでしょう」と聞くと、生徒が「円周率」と答えるもの。何とも当たっているなあ、と。 こういう味は他の作家ではないものですねえ。 お約束のパタパタ漫画付き。
読了日:6月25日 著者:しりあがり寿
ビッグデータの覇者たち (講談社現代新書)ビッグデータの覇者たち (講談社現代新書)感想
こんな風に書き込んでいることも、どこかで収集されているだろうし、それを解析しようとする人もいるでしょう。「ビッグデータ」という漠然とした存在を、どう利用しているのか、というのを解説している本です。入門書としてはわかりやすい書き方に好感がもてます。Twitterの文字数制限の起源、あるいはアマゾンのデータ処理への姿勢、Googleの戦略など、なるほどと思わせることが続々出てきます。で、これから。東日本大震災の際のホンダのようにGPSデータを活用したいい例もある一方、個人情報の管理も難しいと改めて思います。
読了日:6月24日 著者:海部美知
探偵ゲーム―怪盗Xより七つの挑戦状 (1968年) (カワデベストセラーズ)探偵ゲーム―怪盗Xより七つの挑戦状 (1968年) (カワデベストセラーズ)感想
1968年の初版。小学校3年ほどのガキが買ってもらうにはませ過ぎた本だけど、久々に巡り会った形。 類書の手本となったようなもので、文章上の表現に時代を感じさせるものがあるけど内容は古くない。焼死体の胃の内容物の豚肉から何人かを推理するとか、キリル文字を使ったトリックとか。 カバーに佐野洋が「高級な知識の遊戯として大変面白い。また仕事の合間の疲労回復にぴったりだ」といい、戸川昌子が「推理小説の楽しさを10倍にした本。謎解きゲームに夢中になって本業の仕事が手につかなくて困った」とか、笑わせてくれる賛辞つき。
読了日:6月16日 著者:藤原宰太郎
風雅と官能の室町歌謡  五感で読む閑吟集 (角川選書)風雅と官能の室町歌謡 五感で読む閑吟集 (角川選書)感想
抽象的。「小歌を読むには多くの困難が伴う。作者も分からず前後の文脈もない。歌の成立事情や状況そのものがはっきりしない」と筆者自身も書いている。それでも「当時の人々が歌をどのように理解していたのか、近づきたい」と悪戦苦闘した結果がこの本である。 閑吟集、宗安小歌集、隆達節と、室町歌謡を読み解くのに、平安朝物語から和歌、能、狂言とありとあらゆる周縁を援用する。余計にわかりにくい。 何しろ楽しそうな歌うものだったろうに、どう歌ったかが分からない。 拙の頭の中では狂言の小舞や謡の小哥を連想していたが。茫洋。
読了日:6月14日 著者:植木朝子
2分間ミステリ (ハヤカワ・ミステリ文庫)2分間ミステリ (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
たった2ページの「探偵小説」です。答えは1問先の次のページ。わざわざ活字が天地逆さまに組んであります。 以前に買って積読にしてあった気もするんだが……。 とあれ、なかなかに楽しい1冊です。 子供時代にわくわくしながら探偵小説を読んだ時の記憶がよみがえるというか。内容に言及するより、体裁に言及して楽しかった、という1冊です。 続、続々と買ってしまいそうな気がする。
読了日:6月9日 著者:ドナルド・J.ソボル
中世のなかに生まれた近世 (講談社学術文庫)中世のなかに生まれた近世 (講談社学術文庫)感想
サイン・花押などが書かれた文書を「判物(はんもつ)」といい、印を本人の証とした文書を「印判状(いんぱんじょう)」と呼ぶ。 戦国時代の武将らが、どんな体裁の書状を家臣や領民、寺社に与えたか、あるいは書面で使っている儀礼的な言葉(ex恐惶謹言など)がどう変化しているか、などを量的に分析して、支配体制の強弱や官僚化を探っていくという知的刺激に満ちた1冊。 東国の後北条氏でその官僚化が一番進み、西国の毛利氏や島津氏ではほとんど進んでいなかったという指摘がおもしろい。 巻末の用語集を先に読む方がいい。好個の入門書。
読了日:6月9日 著者:山室恭子
犬の伊勢参り (平凡社新書)犬の伊勢参り (平凡社新書)感想
これも今秋の遷宮あやかり本ですな。犬が単独で伊勢参りをした、という伝説。これが事実だったと古文書から解き明かす。中ほどで延々と「六畜の穢れ」話が続くものの、これは不要では。元々、神宮と犬は禁忌だったというくらいで十分です。この本を読んで真っ先に思い出したのは「行旅病人及行旅死亡人取扱法」(1899年)の条文。旅先で行き倒れたら、亡骸は故郷まで送られるという内容なのですが、犬を次々に村が送っていく仕掛けはここにつながっていたんですね。あと伊勢参りは犬のほか豚や馬、牛もやっていたというのが驚き。
読了日:6月3日 著者:仁科邦男
騎手の一分――競馬界の真実 (講談社現代新書)騎手の一分――競馬界の真実 (講談社現代新書)感想
競馬の取材に関わっていたころは「若手」と言われていた藤田伸二ももうベテランなのですね。栗東TCもシステマティックになっているのですね。 たぶん、聞き書きの編集ながら、本の中で出てくるデータとして、サラブレッドの国内生産の減少、騎手の減少……などが説得力を増しています。1000勝騎手の調教師転向の特典がなくなったのもボディーブローのように響いているんですね。 馬主→調教師→騎手の順で変化が起きていたのですね。小林稔、戸山為夫などなど、懐かしい名前が出てきました。 競馬世界の表層の繁栄と深層の制度劣化と。
読了日:6月2日 著者:藤田伸二
ねこと国芳ねこと国芳感想
猫好きの浮世絵師、国芳のクロニクルです。 よくできています。 「猫のけん」「猫の稽古」 この団扇絵はかなわん。 六歌仙見たての「当世猫の六毛撰」なんざウマイとしか言いようがない猫の様だ。 猫好きが描く猫の絵の白眉、だろうな。
読了日:5月27日 著者:金子信久
江戸猫 浮世絵 猫づくし江戸猫 浮世絵 猫づくし感想
江戸博で見付けた本。広重、暁斎、春信と名前は並んでいるけど、結局は国芳の本です。 国芳が描く猫は実に巧い。 本当はもっと絵が大判になればいいんだけど、それは本のサイズもあること。 解説も軽妙だし、浮世絵に出てくる猫を良く点描しています。いい本。
読了日:5月27日 著者:稲垣進一,悳俊彦
大相撲の見かた (平凡社新書)大相撲の見かた (平凡社新書)感想
大相撲というスポーツ(というか藝能)は自分でやった経験の有無で分かる分からないが大きく分かれる(ま、長唄であれ、小唄であれ、謡、義太夫などなど、藝事は何でもそうなのだが)。 自分でやったことのない人のために、相撲のテクニカルタームを解説、取組中の力士がどんな攻防をしているのかを説くことに主眼を置いた珍しい本。NHKの実況で使う用語の解説であり、相撲はここまで常識の枠に外れたと思うと感慨深い。 ただ巻末に近くなるにつれ、好取組や相撲の科学と自称する部分は今までも見慣れた内容になってくるのが残念。
読了日:5月23日 著者:桑森真介
山伏と僕山伏と僕感想
出羽三山の山伏修行に出掛けた青年の体験談。 ただのルポというよりも、自分の心象風景に重ね合わせての記述に特徴がある。日本、というか、人間という生き物の原初的な信仰はどこもそう大差がないであろうと想像できるが、その感覚を彼は山伏修行の中で体験して、実感しているような。 日本の信仰の中でたぶん、修験道というのは一番身近な存在であったろうけど、神仏分離・廃仏毀釈を経た今となっては一番わかりにくいものかもしれない。でも度しがたくなっている我が身も含めて、彼のように自分の中で一つの「解」を見付ける手がかりかもしれぬ
読了日:5月23日 著者:坂本大三郎
明治演劇史明治演劇史感想
江戸時代から明治へ。安定(逼塞ともいえるが)の時代から混乱の時を経て、演劇がどううねっていったかを記す。 歌舞伎に関しては筆者自家薬籠中のことなので委細は省くが、興行(座元)の視点からの記述が興味深かった。 能に関しては岩倉具視が画策した天覧能の影響がその後の能楽という文化に与えた影響に関しての指摘も簡潔で筆者ならではの視点だろう。 話が編年調なので、非常に前後重なりあって記述されるのが少し煩雑だけど、それを抜いても十分におもしろい1冊だった。生の演劇は上演された途端に型に嵌って古典化していくのである。
読了日:5月20日 著者:渡辺保
漢字雑談 (講談社現代新書)漢字雑談 (講談社現代新書)感想
高島先生の本は面白いのだけど、どうも国語政策に関わる話になると硬いんだなあ。
もっと身辺雑事を題材にして書いた随筆は好きなのだけど。
この本は残念ながら前者の方。
ということで。
読了日:5月17日 著者:高島俊男
山賊ダイアリー(3) (イブニングKC)山賊ダイアリー(3) (イブニングKC)感想
狩猟免許のこと、カラス退治のこと、などなど。 今、自分が暮らすエリアではごく日常的に、隣の生活で起こっていることです。 確かにイノシシはうまいし、シカも工夫次第。 でも、猟友会の高齢化もあるし。 現実に起きていることと、筆者の描くファンタジーと。 大人の絵本ですね。
読了日:5月12日 著者:岡本健太郎
山賊ダイアリー(2) (イブニングKC)山賊ダイアリー(2) (イブニングKC)感想
罠でイノシシを仕留めた話、スズメバチ狩りの話と、筆者のワイルドライフは進化します。 で途中で「命を頂く」みたいな話が挟まったり。 この間合いが、一般の人が考えるハンティング像と現実の乖離を埋めている気がします。上手い。
読了日:5月12日 著者:岡本健太郎
山賊ダイアリー(1) (イブニングKC)山賊ダイアリー(1) (イブニングKC)感想
おもしろい。漫画というより、画文集なのだけど、間合いがいい。 筆者が故郷の岡山に帰って、狩猟を友とした生活を始めるのがこの巻。 空気銃なので鳥が主体なのだけど、時にヘビやカラスも食べてしまう。 カラスが食べられるとは知らなかったぞ。 つい自分も狩猟を始めたくなってしまうような1冊です。 自分が今暮らしている環境が筆者に似通っている所為もあるけど。
読了日:5月12日 著者:岡本健太郎
とっさの方言 (ポプラ文庫)とっさの方言 (ポプラ文庫)感想
検索には著者名が2人ですが全64人の作家が綴った方言にまつわる随筆です。雑誌の連載だったようですが、1冊の本にまとめることを多分、想定していたのではないか、と思うほど、編集者の腕が冴えた1冊でもあります。中で、旬な作家は書くものが面白いというのが印象的(EX.有川浩)。逆に大家でもそうでもない方も(例は挙げないで措きます)。すべての方言噺をまとめるように据えた池上永一の一文が掉尾を飾ってめでたい本です。次いでながら、この随筆が連載されていた「asta*」なるポプラ社の雑誌を購読しようかなとさえ思います。
読了日:5月8日 著者:小路幸也,大崎善生
核爆発災害―そのとき何が起こるのか (中公新書)核爆発災害―そのとき何が起こるのか (中公新書)感想
今となってはおめでたい内容というしかないかなあ。永田町に核爆弾が落ちることを想定するより、原発で災害が起こることを想起すべきだったと思う。ある学者が「日本は細菌もウイルスもない無菌室をどう維持するのかに一生懸命だったけど、今の状態はくみ取り式便所並みの状態」と言っていたが、「くみ取り式でも安全、たまに跳ね返ることがあるかもしれないが拭けば問題ない」という論理になるのだろうなあ。
読了日:5月8日 著者:高田純
「二〇世紀民俗学」を乗り越える―私たちは福田アジオとの討論から何を学ぶか?「二〇世紀民俗学」を乗り越える―私たちは福田アジオとの討論から何を学ぶか?感想
「民俗学は滅んでも仕方ない」という惹句に読み始めた本だけど、論議のための論議、神学論争のような印象だった。人口減少の中、集落自体が消失し、学問の手掛かり自体が消失している中、今に生きる学問としての道を模索しようとしているのは分かるけど、それ以前に、研究の手法が衰退し、長いスパンで考える土壌が流しているのではないか、ということだけは分かった。いくら国や県、市町村が無形文化財の指定をしても、それ自体がなくなっているのが現実だから。
読了日:4月29日 著者:福田アジオ,菅豊,塚原伸治
聖書考古学 - 遺跡が語る史実 (中公新書)聖書考古学 - 遺跡が語る史実 (中公新書)感想
「旧約聖書考古学」の方が相応しい。旧約聖書の中でもモーゼ5書の「律法」、続く史書の「預言者」部分を重点に、考古学の成果と付き合わせて、史実を探るのがこの学問。探るというより、むしろ伝承者意図考察すると言った方が正解かもしれぬ。中で筆者が「旧約聖書と古事記の構造、成立過程」の類似性を指摘しているのは、面白かった。極東の日本で古代オリエント史の参究に励む筆者に敬意。ただ図版をもっと挿入し、見やすい位置におくこと、さらには頭の中を整理しやすいよう年表、系譜をいれるなどの工夫が欲しかった。馴染みが薄い世界だから。
読了日:4月28日 著者:長谷川修一
サムライとヤクザ: 「男」の来た道 (ちくま文庫)サムライとヤクザ: 「男」の来た道 (ちくま文庫)感想
「男伊達」「達引き」等々、ジェンダーの観点からは少し埃をかぶった感のある言葉だが、どっこい生きて使っている。男という概念を探った1冊です。 武士道なるものが成立するまで、「かぶき者」=無頼の町奴が出現したという。そして幕政下の綱紀粛正で存在が滅んだ後、今度は大名の籠かきなど、現業部門を担うガテン系の「陸尺(ろくしゃく)」という存在が生まれ、幕末期には単なるホワイトカラーと化した武士に変わり、兵役を担ったという。さらに明治期に至ってのやくざへの進化はご存じの通り。面白い1冊。ただ「ちくま新書」の再版です。
読了日:4月24日 著者:氏家幹人
ゴルフは寄せとパットから考える (日経プレミアシリーズ)ゴルフは寄せとパットから考える (日経プレミアシリーズ)感想
3年間、ゴルフと付き合って、素敵だなと思った選手の1番手。日本ではなかなか生のプレーを見る機会はないけど、スタイリッシュという言葉がぴったりです。 そんな今田竜二の本です。 62度のロブウエッジを軸に、パッティングに対しての考え方も、すこぶる示唆に富んでいて楽しい本です。彼と同じような感覚を持っているのは、池田勇太ではないでしょうか。 ただ、聞き書きの編集が稚拙。同じ話が重複したり、聞き手の技量のなさで、もう一押し、引き出せる言葉があったのではないかと。その点が惜しまれます。PGAツアー復帰を願いつつ。
読了日:4月20日 著者:今田竜二
不動明王 (岩波現代文庫)不動明王 (岩波現代文庫)感想
元々は朝日選書の1冊。成田山が1968年に新本堂を落成した際、関係者に配るために筆者に執筆を依頼して上梓したという。 不動信仰というのは身分の上下を問わず受け入れられてきた歴史がある。 前段はその享受史を丹念に紐解いている。空海が招来した密教に於いて効力、主尊の大日如来の化身という位置づけが説かれ、上臈への傾倒を深めて民衆から離れた密教、その一方で地に足を付けた僧もいて広く浸透したとのた指摘は興味深い。 後段は大日経やその注釈書、法会の在り方などを原典に遡って説く。学識としての自負に満ちている。良心的。
読了日:4月17日 著者:渡辺照宏
歴史の愉しみ方 - 忍者・合戦・幕末史に学ぶ (中公新書)歴史の愉しみ方 - 忍者・合戦・幕末史に学ぶ (中公新書)感想
1話3〜4ページで読み切り。歴史の本というと、堅苦しく思えるが裃を脱いだ筆運びに、よどみなく読み進める。 古文書を元に歴史を解明していくというのはごくオーソドックスなスタイルだが、そこに現代の視点(たとえば忍者の労災死亡率とか、新幹線からの関ヶ原見物作法とか)があるのが妙味。 それと、3・11以降、歴史学者として、この問題に取り組もう(特に中世、あるいは東国などの地方の)記録が少ないのを埋めようと決意した辺り、ふと「経済とは経世済民の意、さて文学研究や如何に」と頭を抱えた学生時代の我が身を思い出した。
読了日:4月17日 著者:磯田道史
米陸軍サバイバル全書 [新版]米陸軍サバイバル全書 [新版]感想
存在を知って、好奇心を持って、読み終えた1冊。 生き残る、生き延びるためには、多くの技術が必要なのだなあ、と改めて実感しました。 再三、出てくるのが「シェルター」という言葉。あと飲料水の確保ということ。 万一の場合は、この2点を本当に考えなくてはいけません。 「煮沸しても浄水剤を入れよ」と重ねて警告しているのが、いかにもアメリカ的。途中で竹槍の作り方まで紹介されていました。 しかし、サバイバルキットだけで、荷物がいっぱいになってしまいそうな気分にもなりました(使えば壊れるという注記もありましたが)。
読了日:4月14日 著者:米国陸軍省編
大研究 日本の道路120万キロ (じっぴコンパクト新書)大研究 日本の道路120万キロ (じっぴコンパクト新書)感想
人間が生きていく上で、道という存在は欠かせません。で、日本という国ではどんな道であれ、法律的な根拠があり、設置する人間の意思が働いている。 そういう基本的なことを教えてくれる1冊です。 筆者は「酷道」マニアとして知られている人物。道路にかける愛情?というか好奇心が結実した1冊といえるでしょう。 印象的だったのは旧内務省系の建設省と、旧鉄道省系の運輸省が各々道路を管理してきたということ。今は国交省という名になっていますが……。農道や林道を管理する農水省の存在も。錯綜した権益が今も禍根として残っていますが。
読了日:4月13日 著者:平沼義之
地名に隠された「南海津波」 (講談社プラスアルファ新書)地名に隠された「南海津波」 (講談社プラスアルファ新書)感想
東海、東南海、南海トラフ地震の津波被害想定域の中の地名から「浜・州・島・田」など、低湿地を含意する地名を拾い出し、過去の被害の記憶を探ろう、というのが本の主題。 ただ、内容は総花的で、このサイズの新書にまとめるのには無理がある内容だ。また、抽出している地名が、国土地理院の2万5千分の1地形図掲載の地名検索で探せる程度のものにとどまっているのが恨みだ。 今は地形図上からも、実生活からも消えている「小字」にこそ、本当は含意は多く含まれていると思うのだが。 ただ旧版の地形図を使ったり、工夫しているのは評価。
読了日:4月11日 著者:谷川彰英
戦前の生活: 大日本帝国の”リアルな生活誌” (ちくま文庫)戦前の生活: 大日本帝国の”リアルな生活誌” (ちくま文庫)感想
さらさらと読み進めてしまうのだけど、雑駁な印象は免れない。 旧制高校の学生らのご乱行は北杜夫の「どくとるマンボウ青春記」の世界。阿部定の話も新味にかける。 強いて言えば、当時の物価と今の貨幣価値を換算して実感を持たせようとする努力は買うけど、「都新聞」の社会面の切り貼り、って感じかなあ。 概観というか、戦前の日本がどんな暮らしだったのか、ということを、発見しなおすきっかけにはなるかもしれないけど。
読了日:4月7日 著者:武田知弘
カツオ人間写真集カツオ人間写真集感想
やっぱり高知に住みゆうき、暫時、買うたちや。 写真集になったらまた、違うた趣よねえ。 この本見てパラダイス山本の「マン盆栽」思い出した。マン盆は普通の盆栽にフィギュアを置いたがぁで、物語を可視的にしちゅうがやけんど、この本は実際の景色にカツオ人間を立たせちゅうきに、ただの名所写真集やない。ちゃんと物語を生み出しちゅう。 きもかわ、て言われゆうけんど、ぎっちり愛嬌があるヤツやき。 それと副産物。ト書の高知弁がネイティブに近いき、こりゃぁまことに土佐弁の教科書よねえて、いいゆう人もおる。(方言を修正)
読了日:4月3日 著者:
カツオ人間写真集カツオ人間写真集感想
やはり高知に住みゆうき、真っ先にこうたちや。写真集にばなると、またまことにちごうた趣よねえ。 この本ば見てから、パラダイス山本の「マン盆栽」ば思い出したが。マン盆は普通の盆栽にフィギュアを添えることで、物語を可視的にしゆうけんど、この本は実際の景色にカツオ人間をたたせることで、単なる名所写真集ではない、物語を生み出しゆう。きもかわ、とか言われゆうけんど、実に愛嬌があるヤツやき。 それと副産物。この本のト書きで入っている高知弁ば、すこぶるネイティブに近いけん、土佐弁の教科書じゃ、いいゆう人もおりゆう。
読了日:4月3日 著者:
醤油鯛醤油鯛感想
大人の1冊です。 醤油入れとして使われる「醤油鯛」の収集をきっかけに、特徴を見極めて筆者が入手した全76種を6科21属に分類、その形質的特徴を考察した本である。 たかが醤油入れというなかれ。統一した意思の下に作られた崎陽軒のひょうちゃんと違い、全国津々浦々の業者が勝手に作った製品である。それを一つの意思の下に体系づけた労を多としたい。 筆者によれば絶滅種もいると推定される一方、新種も確認されているという。今後もこの研究が発展することをぜひに期待したい。
読了日:3月31日 著者:沢田佳久
国際秩序 - 18世紀ヨーロッパから21世紀アジアへ (中公新書)国際秩序 - 18世紀ヨーロッパから21世紀アジアへ (中公新書)感想
序章と1章目は小生には難解。2章目から18世紀の欧州を舞台にした話になり、筆者の言う「均衡」「協調」「共同体」という国際秩序の実例が分かってくる。英露普墺仏の5大国による安定から米独日という新たな存在の出現による新しい枠組みの模索、第1次大戦→国際連盟→第2次大戦→国連まで続く。今や国と国という枠を超えて秩序を破壊する存在としての民族主義的な要素の指摘から、日米中の枠組みの俯瞰まで話は進む。文中に再々、米国務長官だったキッシンジャーの名が出てくる。翻って彼の著作を改めて読んでみたくなった。冷静で的確な1冊
読了日:3月29日 著者:細谷雄一
京のわる口 (平凡社ライブラリー)京のわる口 (平凡社ライブラリー)感想
「位どり」という視点で、自分を如何に上げる(優位に立つ)のか、小細工に優れた待遇表現の体系を持つ方言としての京都弁の分析をしている。分析といっても1編が3ページ。題材が次の章立てに流れるようにつながっているのだから、たいしたものだ。悪口だけでここまで微妙な差異と使い分けが生まれているのだから。 京都弁訳の「源氏物語」「枕草子」などは秀逸。話す人間が伝えてきた精神性みたいなのが、現代京都弁に直してもにじむのがおもしろい。 名著「全国アホバカ分布考」で指摘していたように、流行の最先端地というのは実に奥深い。
読了日:3月27日 著者:秦恒平
地図の遊び方 (ちくま文庫)地図の遊び方 (ちくま文庫)感想
図幅の大半を海が占める図の話から始まって、地図記号の話、地名の話と続く。この手の本の恨みになるが、せっかくの引用した地図図版が小さいのが残念。それでも、種々読み解いて見せるのは門外漢にも興味深いのではないか。今はないが「肥前鳥ノ島」という5万分の1の図があって、約400平方キロの地図にわずか187平方メートルの島(というか岩)が載っていた図があった。墨1色刷り、海を表す波状水線が芸術的だったことよ。筆者はこの図に触れていないが、そんな時代に育ち、地図が画面ではなく紙で育ったから書いた1冊かも。
読了日:3月24日 著者:今尾恵介
地図を探偵する (ちくま文庫)地図を探偵する (ちくま文庫)感想
個人的な記憶だが、国土地理院の地形図に親しみ始めたのは中2のころ。5万分の1の「田野々、桜谷、五百石」だった。それからずっとつかず離れずの暮らしだ。地図は「読む」ものである。等高線を見やすくしたり、分水嶺を追いかけたり。筆者もそんな「遊び」から始まったのだろう。廃線跡を探したり、地名の変遷を追ったり。地図を読み、さらに深読みする作業の最たるものだ。巻末に「地図のたのしみ」「地図をあるく」の2冊で親しんでいた堀淳一さんの名前があったのも何とも懐かしい。マニア入門書として、その気分、分かる分かるという1冊。
読了日:3月24日 著者:今尾恵介
ヘタウマ文化論 (岩波新書)ヘタウマ文化論 (岩波新書)感想
何とも散漫な本。中でいくつか興味深い見立て(東海林さだお、タモリなど)はあるのだけど、それ以上でも以下でもない。 本人曰く、寝る前に思いついたことを書き綴ったというが、それにしても。 ここまで散漫な本の前に、ぶきっちょなまでにぎちぎちの本「滑稽の研究」を書いた田河水泡のことを思い出した。
読了日:3月22日 著者:山藤章二
方言漢字 (角川選書)方言漢字 (角川選書)感想
元々は三省堂のHPでまとめたものを下敷きに書いた1冊だそうだ。日本各地の地名などに残る用例の少ない漢字を博索して、その地域ごとの考察を展開していく。実地に現地に行ってみるという手法なので、ルポ風でもある。その点で、書斎で作り上げられた本とはひとあじ違う風味が楽しい。 ただ、こういう地域の風土や歴史を示す小字名(基礎自治体の中で大区分が大字、その下が小字)が消えていく中、こういう漢字も同様の運命をたどっていくのではないか、と思う。JIS基準外の字も多いし、PC上で表示されないというのは大きなハンディだから。
読了日:3月4日 著者:笹原宏之
センセイの書斎---イラストルポ「本」のある仕事場 (河出文庫)センセイの書斎---イラストルポ「本」のある仕事場 (河出文庫)
読了日:3月4日 著者:内澤旬子
飲食事典 下巻(たーわ) (平凡社ライブラリー も 11-2)飲食事典 下巻(たーわ) (平凡社ライブラリー も 11-2)感想
ふと、連想したのが村井弦斎の「食道楽」。今は岩波文庫で原典が読めます。奇しくも筆者は村井と同じ報知新聞の出身。自ら小料理屋「つたや」を経営しつつ、この本の記述に当たったといいます。項目6000、小型随筆の体もあり、いい本です。ちょっと寝転がって読むには厚いけど。ちなみに下巻は「鯛」の「た」から、「わんぱ(忘八)」の「わ」まで。
読了日:3月4日 著者:本山荻舟
飲食事典 上巻(あーそ) (平凡社ライブラリー も 11-1)飲食事典 上巻(あーそ) (平凡社ライブラリー も 11-1)感想
所謂「工具書」でしょうか。五十音順に食物に関する素材、料理法、人名、年中行事などなど、記述が並びます。各項目は簡潔で読みやすい。通読するものかもしれませんが、多分、拾い読みの楽しさを味わう本ではないでしょうか。上巻は「あいがも」の「あ」から、「樽俎」の「そ」までです。
読了日:3月4日 著者:本山荻舟
近現代日本史と歴史学 - 書き替えられてきた過去 (中公新書)近現代日本史と歴史学 - 書き替えられてきた過去 (中公新書)感想
早くに出版されていれば、全然違う本の読み進め方ができたのに、と思います。新説の展開というより歴史学の研究方法の変遷を跡づけし、基礎的な文献や所説を解説、紹介していくという体裁です。 その3段階の考え方というのは、第1期はマルクス主義歴史学、第2期は実証主義歴史学、そして第3期は隣接する諸学問(社会学や民俗学など)の知見を生かした史学。 エポックで取り上げるのは明治維新、自由民権運動、日清日露戦争、大正デモクラシー、アジア・太平洋戦争時代、そして戦後社会など。何度も読み返して本を探したくなります。
読了日:3月3日 著者:成田龍一
お伊勢参り - 江戸庶民の旅と信心 (中公新書)お伊勢参り - 江戸庶民の旅と信心 (中公新書)感想
2013年は伊勢神宮の式年遷宮が行われる年、多くの「お伊勢さま」本が出回ることだろう。元々は皇室の氏神であった存在がいつしかあらゆる神の頂点に君臨する存在と認識され、広く庶民の信仰を集めたという展開(これは御師の存在が大きいが、高野山の高野聖と同じ形だろう)が説かれ、特に江戸時代の庶民はどう享受してきたがかひもとかれる。面白いところは実際に奈良から伊勢までの徒歩参宮経験記の部分だ。ちょっと新鮮だった。歩けば分かる旅もあると、本の帯にあるがその通り。なお、岩波写真文庫の「伊勢」を参照されると面白いかも。
読了日:2月28日 著者:鎌田道隆
芸人の肖像 (ちくま新書)芸人の肖像 (ちくま新書)感想
門前の小僧、という言葉があるけど、この写真を見ていると、ああ、小沢昭一の生家は写真館だったな、と思い出した。今のようにデジカメではなく、銀塩写真の時代に、これだけ表情を切り取った写真を見せられると、うなるしかない。懐かしい藝人さんの写真も。たとえば広沢瓢右衛門。決して美声ではなかったけど、迫力十分の人だったなあ。印画紙の向こうに、彼ら、彼女らの持って行ってしまった藝が見えるような気がした。新書判というのも味噌がもしれない。切り詰め、そぎ落としてのこのスナップ集。それだけに写真を見ることで、その人の藝をもう
読了日:2月26日 著者:小沢昭一
へうげもの(16) (モーニングKC)へうげもの(16) (モーニングKC)感想
いよいよ大団円に向けてのラストスパート。古田織部もすっかり老成、とはいかないのが、いいですね。 ただ、一読で作意を計りかねるようになってきた気もするのでござるが。
読了日:2月24日 著者:山田芳裕
3日もあれば海外旅行 (光文社新書)3日もあれば海外旅行 (光文社新書)感想
時間がない、金がない、という言い訳はしたくないけど、海外となる腰が重い。少しは軽くなるかと思って読んだけど、確かにねえ、とは思わせてもらいました。週末は海外旅行、という生活も成立しうる世の中になっているのですね。それも贅沢、としてではなく。ある意味でネット時代の海外旅行の在り方を教えてくれる1冊かもしれません。
読了日:2月22日 著者:吉田友和
宗教のレトリック宗教のレトリック感想
レトリック(修辞)の観点から、宗教の言葉を読み解くと、という本です。レトリックとは何ぞやとなると、直喩、隠喩……などという「たとえ・見立て」ということになるのでしょうか。筆者の視点は冒頭にある「ゴータマ・シッタルダ」という人物が「ブッダ(覚者)」と、大工のイエスが「キリスト(救世主)」と呼ばれた構図をして一つの「意図がある見立て」と読み解いてみせる。文はなかなかに軽快で飄逸。ただ個人的にはこの修辞という考え方になかなかなじめず、結構難航しました。こういう読み解き方もあるのか、という参考にはなります。
読了日:2月22日 著者:中村圭志
密教仏像図典―インドと日本のほとけたち密教仏像図典―インドと日本のほとけたち感想
図鑑本なので、通読という訳ではないのですが、この当時にしては意欲的な本だったと思います。というのは密教の神々は多くはインドに起源を持つわけで、その何でも取り込んでしまう包容力ゆえに、唐→日本と渡る間に、大幅な転化を遂げ、何が本性なのか分からなくなっているものが多いのです。その点で、原点に立ち戻って解明しようとする本書の姿勢は敬意に値します。入門書という訳ではないですが、引っかかった時に立ち戻って参照するにはいい本だと思います。「密教の神々―その文化史的考察 (平凡社ライブラリー)」を連想させる1冊です。
読了日:2月17日 著者:頼富本宏,下泉全暁
吉田神道の四百年 神と葵の近世史 (講談社選書メチエ)吉田神道の四百年 神と葵の近世史 (講談社選書メチエ)感想
中世から近世にかけ、日本人の「神」への在り方を決定付けた「吉田家」という存在について、追いかけた1冊です。この世の位階は朝廷が決められても、神さんは別で、この家の裁量だった。神様のことは一切取り仕切ってきたわけで、前半は神と人との関係を下世話にした役割が明かされます。後半は「饅頭の本家・元祖の争い」みたいな話になるのですが、いい加減な商売をしていては、実証主義の前に屈するのも仕方ないかな。大きく言えば、日本人と神・権威の関係を天皇制、幕藩体制の中で読み解いています。知的な刺激も多く、文章も平易な好著です。
読了日:2月17日 著者:井上智勝
間抜けの構造 (新潮新書)間抜けの構造 (新潮新書)感想
口述筆記したものでしょうけど、非常に間が悪い。何か読みにくい。話し言葉はくどくなりがちなのだけど、それを反映している感じ。本の内容としては漫才の部分までかなあ。その後は何か牽強付会な気がしてならぬ。 別に武に悪意がある訳ではないのだけど。 何か精いっぱい背伸びをしているようで、どうにも間合いについて行けない感じです。個人的には
読了日:2月16日 著者:ビートたけし
中世芸能人の思想―世阿弥あとさき中世芸能人の思想―世阿弥あとさき感想
所謂中世からの藝談を追いかけ、分析したもの。もちろん中心は能についての藝談が中心をなす。能では世阿弥、金春禅竹、禅鳳、安照と藝談の変容が追いかけられるので、氏もそういうことがしたかったのだろう。世阿弥時代から始まる「権威付け」や、さらには禅僧や歌人、高貴との交流で身につけた知識、見解の引用や敷衍化等々、時代が下がるにつれて種々の俗臭にまみれてくるのが面白い。なお、原典を多く引用しているがその後ろに現代語訳が付けているのが楽でもあり、鬱陶しくもあり。ま、独特の「堂本節」を堪能できることは間違いありません。
読了日:2月15日 著者:堂本正樹
俳句で綴る 変哲半生記俳句で綴る 変哲半生記感想
先途他界した小沢昭一の句集。この人の句で一番好きな一句「校長満悦裁縫学校潮干狩」は句作を始めて間がないころの句だったというのは初めて知った。句集ってのは読み通すものではないと思っているので、拾い読みの楽しさを味わう。ところでこの本、装丁が凝っている。写真では普通の縦長の本のようだが、実は中身は横長の版型、横本になっているのである。1行17音という短詩形文学には、天地の余白といい、ちょうどいい。この趣向だけでも岩波書店、やるなあ、という感じになる。本の内容については数日前の朝日新聞歌俳欄の評を御覧乞う。
読了日:2月15日 著者:小沢昭一
信長の城 (岩波新書)信長の城 (岩波新書)感想
今の学問とはこういうスタイルをとるのだ、ということを示すような本です。信長が関わった城、というのを鍵に、古文書学、考古学、自然&人文地理学などなどを駆使して、何もない地平にかつての姿を想像するーー楽しい1冊です。中でポイントは「懸崖作り」の発想でしょう。現存する城郭には少ないものの、清水寺の舞台のような、斜面まで利活用する構造です。これが城郭建築に活用されていたと読み解くのは見事です。確かに自身が生まれた勝幡城から那古野城、清須城と住み、自らが建てた小牧山城、岐阜城、安土城と高度化する立論は快感です。
読了日:2月15日 著者:千田嘉博
井月句集 (岩波文庫)井月句集 (岩波文庫)感想
この方のこと、不明にして知りませんでした。金高堂に平積みになっていたのをぺらぺらとめくって購入。味わい深い句が多いような気がします。芥川龍之介が褒め、種田山頭火があこがれ、つげ義春は漫画に描いたよし。句集ってのは一気に通読するものではないので、しばらくパラパラするつもりですが、一身放下したような作風はなかなかのものと思います。ちなみに、モデルにした映画「ほかいびと」はこちらから。http://youtu.be/HD9lblDXfic
読了日:1月31日 著者:井上井月
高速道路の謎 (扶桑社新書)高速道路の謎 (扶桑社新書)感想
2009年の本。つまり民主党政権誕生前夜、後半の内容はもう古くなっています。前半の渋滞のメカニズムは「渋滞学」の入門編として分かりやすい。拡幅や新路線建設が交通の円滑化に資しているのはよくわかる。そして今、首都高速の改修が叫ばれ、それは尤もと思うのだけど、今暮らすエリアにはまともな国道はなく、高規格道路もない。日本人として交通の便を平等に享受したいと思うが、限られた財源。どうしたらいいのか、正直のところ、答えはまだ見つかっていない。
読了日:1月27日 著者:清水草一
空海と密教美術 (角川選書)空海と密教美術 (角川選書)感想
弘法大師空海が本格的な形として日本にもたらした密教。彼が招来した膨大な仏像や法具、絵画などから読み解くというのが眼目の本だが、結構厳しいかも。ただ、大日経系の思想を反映した胎蔵曼荼羅と金剛頂経系の金剛界曼荼羅の両部が彼のところで合体したという示唆や、その発展で実際に法具を使っての法要、後七日御修法の内容、台密を伝えた天台宗のみならず、浄土、曹洞、日蓮の各宗に見る密教的要素にも言及。ざっと概観するには便利かも。ただ、空海自身が目指した思想とは別に、高野聖が確立した信仰の方が今も色濃く残る、との指摘はいい。
読了日:1月27日 著者:正木晃
日本の舞踊 (岩波新書)日本の舞踊 (岩波新書)感想
舞踊が難解に見える理由を「定義がない→どこまでを舞踊というのか領域が分からない→故に言葉で表現しにくい」と言う。 で、提示した概念が「身体の言葉」。曰く声が聞こえるものが舞踊である、と。巻末の章では「振、肚、舞い手の言語」と言い換える。ここを先に読んだ方がいいかもしれない。 代表的な演者として地唄舞の武原はん、歌舞伎の7代目三津五郎、6代目歌右衛門&7代目梅幸、6代藤間勘十郎、京舞の4世井上八千代、能の友枝喜久夫を挙げる。自分で得心がいったのは親しみのある喜久夫くらい。 難しいことを易しく書くのは難しい。
読了日:1月22日 著者:渡辺保
浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか (幻冬舎新書)浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか (幻冬舎新書)感想
表題に対応する部分は224ページから231ページの前半のみ。それまでの縷々とした文は南都六宗から、各宗旨の解説が続く。いくつか興味深いこと(曹洞宗で暴力が修行の課程で容認される気風、親鸞伝説の意図的な形成など)はあるが、氏の本の特徴か、全体的に既読感は否めない。本書では指摘が薄いが、曹洞宗の寺院が異様に多いのは江戸時代の寺請制度、宗門改の影響である。親鸞&日蓮を除き、相互乗り入れが多いのが日本仏教の特質であると思う。だから××宗とも○○派ともいえない。誠実さに欠け、新書だからな、という感が濃厚な1冊。
読了日:1月16日 著者:島田裕巳
北の無人駅から北の無人駅から感想
今年最初の★5本。北海道の無人駅を端緒に其処に暮らす人の姿を綴っていく。時間をかけ、人間関係を深めながらの記述に敬服。時間軸を加味した4次元のルポというべきか。断崖の磯で暮らす漁師、タンチョウから考えた自然保護、美味いと最近評判の北海道米の生産現場から見た日本の農政、流氷の果てから見た日本の観光と世代間の意識の差、陸の孤島で暮らし続ける人々の覚悟、平成の市町村合併と地方自治のあり方への論考。どれも北海道での問題であるが、北海道だけの問題ではない。自分もいつかはこんな1冊を、と勇気を与えてくれた本。注も秀逸
読了日:1月14日 著者:渡辺一史,並木博夫
田中角栄 - 戦後日本の悲しき自画像 (中公新書)田中角栄 - 戦後日本の悲しき自画像 (中公新書)感想
神は細部に宿るという。首相在任時代から刑事被告人となり、没するまでの間、取材対象と記者として身近に接してきた筆者ならではのエピソードが心憎い。ただ、日本の政治、自民党の政争という側面から見た場合の充足感と、ex.孫崎史観(というか「戦後史の正体」のような対米関係の中も視野に入れた考え)を見た時の物足りなさと。何か不思議な読後感だった。この本が微分なら後者は積分、のような関係か。早野さんはこの本と大逆事件が書きたかったテーマなのだろうか。記者としては冥利の対象だとは思うけれど。あと現下の政治家は小物だなあ。
読了日:1月13日 著者:早野透
体現芸術として見た寺事の構造体現芸術として見た寺事の構造感想
世の中には天才という人がいるのだな、と思う本です。体裁は能の世界でいえば岩波の旧大系本に付された解説のように、基礎的な事項解説の後、寺で行われる諸法要を分類、小段に分類して解説していくという作業を9種の行事で解説しています。また、口伝や直伝の多い世界のこと、参考文献を列挙しているのも研究者の姿勢として畏敬できます。筆者は日本の楽劇の構造解明に一生を捧げた方ですが、源流の一つにこの「寺事」を見、研究の第1歩だけを示されたように思います。後進の研究者がこれをどう生かすか、泉下の先生はどう見ているのかなあ。
読了日:1月13日 著者:横道萬里雄
戦後史の正体 (「戦後再発見」双書)戦後史の正体 (「戦後再発見」双書)感想
外交で自国の利益を優先して相手と交渉するのは当たり前だ。それが「これは驚いた!」という本の帯に惑わされてしまうのは如何? 対米追従か、自主外交か。世界の中の日本の立場で変わるのは当然。紹介している石橋湛山の言葉、「次の大蔵大臣も圧力に屈しなければ米国も考える」と紹介している。政治家以上に国益を守るのを職責とし、外交の任に当たっているプロの外務官僚がそれすら貫けないのかよく分からん。政治家の所為にするのと同時にプロの責任は? と思う。一歩過てば松本清張の「戦後史探訪」になる所を事実の積み上げで凌いだのは佳。
読了日:1月8日 著者:孫崎享
空海と日本思想 (岩波新書)空海と日本思想 (岩波新書)感想
正直に言えば、難解本です。筆者が「プラトンの思想は美とイデアと政治という基本系」と覚醒したのに基づき、空海の基本系は「風雅と成仏と政治」にあると、気づいたというテーマに基づいての随想が続きます。性霊集を軸に、その著作を例挙しながら、論を進めていくのですけど、これがまた実に飛び石風で難解。なかなか筆者の意図するジャンプについていけません。白川密成の「空海さんに聞いてみよう」の方が平易で、ほぼ同じ内容を綴っている気がすると思うのは小生の僻目でありましょうが。
読了日:1月4日 著者:篠原資明
米軍が恐れた「卑怯な日本軍」 帝国陸軍戦法マニュアルのすべて米軍が恐れた「卑怯な日本軍」 帝国陸軍戦法マニュアルのすべて感想
書名はともかくも、日、米、中の地上戦戦闘マニュアルの比較です。圧倒的な火力と物量、制空・制海権を持つ米軍に対して、建前の水際殲滅から勝つ見込みのないゲリラ戦に変換していく日本軍の思想、そして重視をしていなかった「地雷」の不足ゆえに手作り爆弾をせっせと作っていたかと思うと切なくなります。「相手が圧倒的な鉄量なら日本は土の量」と蛸壺、ですから。「未完のファシズム」から連なる思想の揺れが最末端にいくとどうなるのか、教えてくれる1冊です。
読了日:1月4日 著者:一ノ瀬俊也
日本のデザイン――美意識がつくる未来 (岩波新書)日本のデザイン――美意識がつくる未来 (岩波新書)感想
デザイン、という言葉から連想されることよりもずっと広い世界を見渡している。日本を繁栄させてきたキーワードを「繊細・丁寧・緻密・簡潔」に収斂し、車や家、観光、先端素材などに論考を広げる。ものや情報が平衡、均衡が進む今の日本(というか世界)にあって、「オープンネス」と「シェアリング」への感受性の大事さを説く。2011年の東日本大震災を契機に考えることまた広がりが刺激に富む。今、自分が住んでいる土地の問題を考える上で、一つのきっかけになった。68歳のミック・ジャガーを「大人のプリンシパル」と評すのが面白い。
読了日:1月3日 著者:原研哉
性愛空間の文化史性愛空間の文化史感想
「ラブホテル」という空間の誕生から現在に至るまでの考現学、です。立派な博士論文。前著より読みやすいかもしれません。「さかさクラゲ」なんて言っても今時は死語。でも曖昧宿の昔からモーテルの出現、そして改正風営法の下で、変貌を遂げ、さらにはぴあ、Tokyo1週間などの雑誌媒体でのラブホの登場など、紆余曲折を綴っています。ただ、この装置の盛衰は結局は人口減少という今の現実の前に、大きくカーブを切っていくのだろうなあというのが読後感。ともあれ、筆者の資料を博索し、聞き書きを積み上げる執筆姿勢には敬服します。
読了日:1月2日 著者:金益見
キリスト教入門 (扶桑社新書)キリスト教入門 (扶桑社新書)感想
日本では難解と思えるキリスト教を簡単に説明した本です。キーワードは「マーケティング」と「イノベーション」。宗教をビジネスとみれば、パウロに始まるカソリックの経営には教会、修道院、聖職者という括りが、ルターに始まる宗教改革には在家第一の考えが、英国教会には寺請檀家制度が、今のアメリカの清教徒系〜福音派では野外集会が果たした役割の大きさを説きます。だが、日本ではすべての試みは在来の文化に飲み込まれるという指摘はなるほど、です。あと実はキリスト教は多神教という指摘もGOOD。新書の読み物としては好個の1冊です。
読了日:1月2日 著者:島田裕巳

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posted by 曲月斎 at 17:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 積本抛讀 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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