2007年04月11日

鐵馬で駆けた四国八十八カ所#10/札所と札所の間

1カ寺ごとの印象記や来歴などは、他の方も熱心に書いておられることなので、以下ざっと綴っていく。

約15年ぶりに遍路をしてみて(といってもこの時は1〜11番と81〜87番を廻っただけだったけど)、どの札所も繁盛しているのだな、ということを実感した。納経所や庫裡が立派になった、どこも山門近くまで自動車が入れる道が付いている、などなど。四国遍路の「商業化」といったら言い過ぎだろうか。

NHKの放送によれば、年間150万人もが遍路に出ているそうだ。札所で納経をしていただけば、それだけで300円。笈擦に朱印を戴けばさらに200円。納経だけとしても、単純計算でいけば、1カ寺当たり年間4億5千万円になる。

檀家からの収入だけでは寺を維持しきれないこともあろう。広い地所を持っていたり、堂塔や仏像の補修、維持管理も大変だと思う。しかし、「札所」になっているからこそ、これだけの人が訪れる。

今回の巡礼では納経と笈擦2枚、御影を2枚余分に戴いて、大半は800円ずつ納めてきた(というのは、納経を巻子本にしたからで、「これは掛軸だ。軸が付いているものは掛軸」と言い切った寺が数カ寺あったから。ちなみに43番明石寺と52番太山寺ともう一カ所は失念。掛軸だと朱印代は500円になる)。収入の面で考えれば、札所とそれ以外の霊跡の格差は本当に広がる一方だろう。

そんな危機感もあって「別格霊場二十カ所」とか「新四国曼荼羅八十八カ所」とか名乗る寺が出ているのだろうが、その寺との差別化を計るのが狙いか「別格の朱印と八十八カ所の朱印は同じ朱印帳には捺さない」という取り決めもある。34番種間寺では札所の朱印の後ろに奥の院の朱印をお願いしたら、「八十八カ所は別。奥の院の朱印は捺せない」と住侶。その前に30番善楽寺の本来の札所だった土佐神社の印があるのも見咎めて「神社と一緒なんてとんでもない」と声を荒らげられた。神仏両参りは遍路の原則だろう。また霊場は札所に限ったものではないはずだ。印のあるなしはもうどうでも佳くなってくる。

僕が遍路をしていた期間が春だった所為もあるだろうが、団体のバス、あるいは大型ワゴンでの遍路が多い。で先達が一人付いて廻っている。歩きの遍路が確かに増えているとは思うし、個人で車で廻っている方、夫婦連れだっての方といるが絶対数は団体が多い。

団体だと添乗員が、納経所に預かった朱印帳やら一切を持ち込んで、ご一行さまがおつとめをしている間に筆を染め、印を戴いている。さらに四国は「重ね」といい、同じ朱印帳に重ねて印を捺す。その方が功徳が増えるといわれるので、帳面全体が真っ赤になるほど、朱印を重ねている方もいる。

納経所では「団体の場合は事前に申請をして下さい」との張り紙がある。聞けばかつては大学生が納経軸を10数本抱えて遍路し、仕上げたものを1本30万円余で売りさばいていたころもあったという。今はそういうアルバイトを防ぐために、数多くの納経をしてもらうには事前の連絡が必要ということらしい。

納経所

添乗員と寺側のやりとりを聞いていると何か不思議な気分になる。「新規が10冊で重ねが15冊です」と言うと、寺側は得たりや応と、新聞紙を挟んである個所を開いて一人が印を捺し、もう一人が筆を走らせるといった流れ作業を始める。添乗員は1冊ずつ受け取ると終わると新聞紙を挟み替えていく。「はい、これが領収書。お姿を枚数、忘れずにね」と添乗員に手渡している。添乗員は掛け軸ならせっせと備え付けのドライヤーで墨を乾かし、納経帳はキャリーバックに入れたり、風呂敷に包んだり。ある若い女性の添乗員が苦笑していた。「この若さで寝床に入っても、耳の中に般若心経が響いて居るんですよ」「あら、そんなのすぐになれるわよ」とは先輩の言葉だった。
納経所に居る添乗員のところに先達が来て「まだ掛かりそう」「もう少しかかるんで」「ほな分かったわ」とおつとめが終わった後も、寺の説明にかかる先達。見送って添乗員が「何がありがたいのやら」と言い残して包みをまとめている姿も見た。ちなみに先達は四国八十八カ所霊場会の認定であり、どこかの寺の推薦がないと認定申請もできない。つまり先達は霊場会に従う存在だ。四国八十八カ所のいきかたに意見が言える立場の方は少ないだろう。

47番八坂寺で、愛媛新聞のイベント担当の方々が庫裏で挨拶に来ていた。「今までは伊予鉄と一緒に遍路の企画をやってまいりましたが、今度、私どもで独自にやろうということでよろしく」とのこと。こういう挨拶回りも必要なことなのだろう。

話は飛ぶけれど、ちょうど自分が讃岐にかかるころに読売新聞に以下のような記事が出たそうだ。
  ◇  ◇
「遍路の証し」盗難多発 札所でもらう朱印納経軸 結願ゴール目前で/香川2007/03/17, 大阪読売新聞 夕刊, 15ページ,
 ◆達成横取り?販売目的?
 年間15万人にのぼるというお遍路さんが四国八十八か所の全札所で朱印をもらい、結願の証しとなる「納経軸」の盗難が終着点のある香川県内で相次いでいる。徳島、高知、愛媛と回り、ゴールを目前にして、〈一生の宝物〉を失った人たちの落胆ぶりは計り知れない。関係者は「残りの朱印をもらって、結願を達成するのだろうか」「販売目的なのか」といぶかり、注意を呼びかけている。(中略)
 香川県内で納経軸などの盗難が目立つようになったのは約5年前。八十番・国分寺(高松市)で旅館を営む片岡隆さん(64)は「この数年で宿泊客約20人から香川に入ってから軸を盗まれたと聞いた」と話す。近くの宿にも同様の訴えがあり、付近ではわかっているだけで、少なくとも月1件以上あるという。
 終着点の八十八番・大窪寺(さぬき市)門前で民宿を営む安部君枝さん(75)は昨年11月、大阪から来た年配の男性宿泊客から、「国分寺で軸を盗まれた」と打ち明けられた。ベンチにリュックを置き、たばこを買いに立った数十秒の間にリュックにくくりつけた袋から軸だけを盗まれた。「せっかく歩いて各札所で朱印をしてもらってきたのに……」と落ち込んでいたという。
 結願目前の札所付近で盗めば、車を使って1日で残りを巡り、計88の朱印を集めることができる。ネットオークションでは納経軸が10万円近い値段で出品されるなど、需要があり、販売目的も考えられるという。
 四国八十八ヶ所霊場会事務局(善通寺市)の担当者は「病気や高齢で巡礼できない人が購入したがり、売買は以前からあった」としながらも、「盗んだもので結願するのは論外。長い歩き旅で人を信用する習慣がついているお遍路さんから盗むとは、せちがらい世の中だ」と嘆いている。(後略)
  ◇   ◇

結願の88番大窪寺ではこんな事件があった。
  ◇   ◇
遍路ナイフ男逮捕 さぬき・大窪寺=香川2007/03/10, 大阪読売新聞 朝刊, 27ページ,

 9日正午ごろ、さぬき市多和、四国霊場八十八番札所・大窪寺の納経所に包丁を持った男がいると、住職からさぬき署に通報があった。署員が駆けつけ、山門前の売店内で男を発見。所持していたリュックサックの中にクッキングナイフ(刃渡り約12センチ)を所持していたため、男を銃刀法違反で現行犯逮捕した。
 調べでは男は大阪市西成区の無職の71歳。「四国遍路をするため来た」と話しているといい、6日からバスや電車を使って屋島寺、志度寺、長尾寺を回り、9日午前に大窪寺に到着。同寺の納経所で金剛杖を納めようとしたところ、僧侶から「杖のカバーを取ってください」と言われたことに腹を立てて、ナイフを取り出したという。同寺では結願したお遍路さんが道中に使った金剛杖を納める。
  ◇   ◇
胎蔵山寺2.jpg
その大窪寺で、奥の院の胎蔵山寺まで参拝して納経をしてもらった時、若い住侶が言った言葉が印象的だった。「さっきまでみたいに団体さんが立て込んで居るときは話もできないんですけど、今の時間ならね、ゆっくり話もできる。どうでしたか。奥の院は」「きっとこういうところで弘法大師は修行したんだな、お寺ってこういう形で始まったのだな、と思いました」「そうですね。で、この後は」「太瀧寺か、與田寺へ行こうと思いますが」「どちらもいいお寺です。太瀧寺は山岳信仰の色合いも残っているし、神仏習合の時の雰囲気もある。與田寺は町の中のお寺ですけどたたずまいがいいお寺ですよ。どちらもバイクなら1時間くらいかな。本当はこういうお話をしなきゃいけないんですけどね」

確かに、個人で廻る人は増えている。徒歩も自転車でも車でも。団体のお遍路さんも増えている。

でも、実は四国八十八カ所の本質は寺にある部分と、「寺と寺の間」にもあるような気がしている。その点で札所の寺側の意識と、詣でる側の意識には、知らず知らずに落差ができているような気がする。

でもまだ、寺に詣でること自体で拝観料を取る寺はなかった(
坂東三十三カ所の中禅寺は詣でるのに500円必要である)。その点は「お四国」なのだろう。

お寺の姿勢は自然と境内ににじむ。46番浄瑠璃寺では年配の住侶が穏やかなたたずまいだった。そんな庭先では近所の方々が集まって話をし、遍路を見付けては御接待していた。バイクで廻っている身ながら「どうぞ」と差し出された菓子袋はとてもありがたく思えた。


posted by 曲月斎 at 01:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 辺地遍路 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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