2006年12月22日

「時代小説盛衰史」大村益次郎

「時代小説盛衰史」


「大菩薩峠」の中里介山から、「竜馬がゆく」の司馬遼太郎の登場までの作家列伝。ちょうどその時間はほぼ筆者が長年勤務した講談社が出版していた雑誌「講談倶楽部」の時代に重なる。

1911年に野間清治がこの雑誌を創刊する。この誌面を頂点として、数々の雑誌が浮かんでは消え、時代も移ろっていく。正直に言えば、この本の巻末に付いている人名索引は実に結構なものなのだが、その大半の作品を読んだこともないし、作家名すら知らなかった人物も多い。

どこから読んでどこで読み止めてもいい本だけに、読み終わるまでに時間がかかったのだが、作家、編集者、挿絵作家、読者、出版者、新聞社をこれだけつなぎ合わせて、一つの物語に仕立てていく息の長い通史だった。博覧強記というか、人脈をここまで辿る作業を筆者は自身が長年関わってきた「小説現代」のルーツ探し、というが、それだけには収まらない情熱というか、執念のたまものだろう。なお、索引だけでも十分に値打ちのある本だ。

ちなみに講談倶楽部は1962年で廃刊(それまでよく続いていたと思う)。今も人気のある池波正太郎はこの本に登場しているが、まだ藤沢周平は登場してこない。大衆小説という名はもう今や遣われないだろうが、歴史小説は今も新しく登場する作家がその題材と手法として選んでいる。また何十年か後に、この続編を綴るような編集者は登場するのだろうか。そして筆者が長年務め上げた講談社からではなく、筑摩書房からこの本が出版されているというのが象徴的に思える。筑摩書房は講談社のある文京区音羽からは遥かに遠い隅田川沿いの台東区蔵前にある。
posted by 曲月斎 at 23:21| Comment(0) | TrackBack(3) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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