2006年08月16日

Dos機を遣う男

 五能線は奥羽本線の秋田・東能代駅と、青森・川部駅を結ぶローカル線である。
 沿線上に「能代」と「五所川原」があるゆえに、五能線とばれる。本線から分かれて、日本海沿いに男鹿半島をぐるりと巻くように北上し、岩木山の麓、津軽平野を横断しまた奥羽本線に合流する。ちょうど白神山地を巻くように海岸線を走るので最近は観光路線として注目を集めている。この夏は沿線の十二湖の幻想的な色がポスターになっていたので、目にする機会も多かったように思う。

 海へ出掛けたのはこの路線に乗ってだった。行きは普通列車。途中まではのんびりしたものだったが、途中の千畳敷といわれる景勝地から、バス旅行の団体が乗り込んできて、あたかも貸し切り列車に乗り込んだような振る舞い。いい加減にしてくれ、といいたくなる。もっとも、この会社、うちのお袋どのも愛用している社なので、ああいうことはしていなことを祈るばかりなのだが。

 閑話休題。この帰路は「リゾート白神号」という、快速列車になった。それを逃すと1時間半はないのだから、仕方なく指定券を乗って乗車する。すると窓際には酒田から乗ってきたであろう先客がいた。男1人。年齢30歳代後半から40歳からみ、人品卑しからず。胸にはフュエルタンクを模したスキットルを入れ、片手にビール。車窓に景勝地が迫るとデジカメで写し、またビールなり酒をあおる。優雅な、でも所帯じみた匂いのしない旅ぶりである。

 隣にすわった自分の格好はといえば、蛍光ブルーのアリーナのTシャツ。これも40歳後半のおっさんの腹の出っ張り具合には似合わないとしかいいようがないが、熱いんだからここはご勘弁。で、ふと先客の席の前に目をやると開けたワンカップは1本。こういう景勝地を見ながらの一献とはしゃれたことだわい、と前例にならって車内販売で買う。常温の冷やというヤツである。高清水か、樽平かの2者択一。この路線限定販売みたいなワンカップだったので、樽平を買い、口寂しいのはいやなので貝柱の干したものを買う。当然一人で食べきれるわけではないが、まあいいかという心境。

隣を見やると今度は買ったビールにスキットルから液体を移している。中身は色合いからしてウオッカと見た。なかなか渋い話である。敵もやるわいと思ってみていたら、次にはDOSで動く簡易PC。エディタの機能とメール機能くらいならなんとかできる程度の古代機である。この時代の機械は丈夫で軽い。壊れにくい。携帯用にはもってこいなので、ちょっと羨望のまなざしを送る。

もう一度、車内販売。今度は先客が日本酒を注文していた。ならばとさっきの貝柱のひものを寄進する。「いやさっきからみていてちょっと美味そうで」と彼。考えることに大差はない。下車駅が迫っていたので、勧めてくれたテネシーウイスキーを固辞して話になる。「どこまで行くんですか?」「きょうは海峡線を通って明日の朝6時ごろに札幌に着ければ、と思ってます。旅費が高いので鉄道オンリー。今回は根室とか釧路とか、道東に言ってみたいと思っています」「この機械ですか? 日記を付けるのに遣っています。漢字変換があほで。でも乾電池で動くのがよくて」そうなんです。電池で動くというのは実に便利なことなのです。

こちらは五所川原で下車。東京に入る身。自由に時間に束縛されず、列車で動いている彼がだんだんうらやましくなった。

移動手段に金を掛けるなら酒、という先客。シャツにタンガリーを羽織った姿は一昔前の若者の旅姿。デイパックからあれこれと現れるのも旅慣れた証拠だろう。しきりにテネシーウイスキーを勧める。

とこう話す内に列車は五所川原に着いた。「よい旅を」と言って分かれた。少し大阪風の訛りがあったが、仕事の匂いの薄い、いい感じの男だった。

話はここでおしまいである。きょう辺りは目的地の根室までたどり着いたことだろう。その先どうするのかは聞かなかったが。袖刷り合うも多生の縁、か。


posted by 曲月斎 at 23:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 街角辻辻 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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