2008年11月26日

「やってみなはれ みとくんなはれ」

やってみなはれみとくんなはれ (新潮文庫)
「やってみなはれみとくんなはれ」

作家というのは人間を観察するのに長けた人種だと思っている。
まして自分が実際にその身近に居たとなれば、余計にそうだろう。この本は山口瞳、開高健が連作したサントリーの創業者・鳥井信次郎の伝記というか、壽屋一代記である。

日本のウイスキー醸造業を盛り立てた人物として鳥井信次郎が欠かせないのは言うまでもない。でもニッカの創業者・竹鶴政孝の評伝や自伝を読むと、双手を挙げて賞賛するまでの人物であるのか、という疑念が起こる。

自分の書架には1冊の私製本がある。竹鶴政孝が日経に連載した「私の履歴書」を文庫サイズにまとめたものだ。ニッカウヰスキーに就職内定したときにもらった1冊だ。内定書とかは全部、返しにいったけどこの本だけは手元に残した。

壽屋がその身代を守るために、合成酒、合成醤油、合成整髪料、そして歯磨き粉のスモカなどなど、合成と名のつくものに幾たび手を染めてきたか。それを「やってみなはれ」という突撃精神の発露として、受け止めるのか。贋造を潔しとしないのか。受け手によって見方は180度変わる。致し方のないことだ。自分自身、ウイスキーはサントリーよりニッカだと思っている。だから、余計にこういう礼賛伝記は本気になれないのだが。

それにしても、「あかさたな」という邦画を地で行くような破天荒な生き方と同時に、商売人としての眼力、そしてブレンダーとしての鼻と舌。これはある意味で一流だったのだろうと思うし、この御仁が居なければ国産ウイスキーなんてこの世の中に流通していなかったろう。

そんな人物の月旦は別にしても、この巧妙な書き手が人物伝を書くとかくも面白いものに仕上がるのか、と感心する。もともとはサントリーの社史のために書いた原稿だという。それを文庫に仕立てた新潮社の編集者の目に感心。巻末に北杜夫の娘斎藤由香が今の社風を書いているのがおまけ。

☆2つ。


posted by 曲月斎 at 16:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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