2008年11月14日

「兵隊たちの陸軍史」

「兵隊たちの陸軍史」
こういう本を文庫で再び世に送り出した新潮社の見識をまず評価したい。大したものだ。

元は1969年に書かれた。元々、大宅壮一監修のドキュメント・近代の顔シリーズの初巻だった。このシリーズは完結することなく終わり、爾来約40年間、活字の山に埋もれた。

簡潔に言ってしまえば、中支に派遣され、終戦を迎えた1兵卒の見た「日本陸軍」の姿である。この組織が地上から消えてもう63年を経て、旧軍の体験をした人に巡りあうことも稀になってきた今、入営から実戦まで体験した人間の記述は貴重だ。

しかも筆者は極力、抑制の効いた筆致で話を進める。意気軒昂に武勇談を語るでなし、結果論としか思えないような訳知りの口調でもない。また、指揮官の立場とは違う視線がその実像に近いものを映し出している。

「軍隊では見付からない限り、いかなる悪い事をしてもかまわなかった」とか「一方では強姦したら殺せと言い、一方では発覚すると厳罰がくる」「制限と隔絶が現役兵の性欲をむしろ澄明化するのに比べると召集兵の性欲は饐えていくのである」
昨今、従軍慰安婦問題をそんなものはなかったくらいに言う者もいる中で、慰安所規程まで設けて実際にその体験を書いている。嫌らしいものでもなく、そういう実際もあっただろうなと思う。

そして中国大陸で「日本軍は点は抑えたが面は抑えられなかった」という表現がよくあるけど、後段の戦闘場面の述懐や、中支に駐屯した時の話など、なるほどと思わせられた。

日本陸軍の戦死者の大半は餓死と水死だった。そんな中で、終戦間際に阿南陸相が本土決戦を主張した思考回路もまた、矛盾と倒錯をそう感じることができなくなる環境にあったと思えばまた、納得できる気がする。

この本はウチの元番頭さんの薦めで読んだ。今年の5冊には入る本だと思う。
「虜人日記」
この1冊と並んで、あの15年戦争を考える時の貴重な手がかりになると思う。


posted by 曲月斎 at 00:57| Comment(1) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
注文してしまいました。
Posted by 遅筆堂 at 2008年11月15日 22:24
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