2016年06月01日

☆2016年5月に読んだ本。

2016年5月の読書メーター
読んだ本の数:19冊
読んだページ数:4811ページ
ナイス数:653ナイス

雨と生きる住まい-環境を調節する日本の知恵 (INAXライブミュージアムブック)雨と生きる住まい-環境を調節する日本の知恵 (INAXライブミュージアムブック)感想
温帯の中でも降水量が多い日本。そこで暮らすためには知恵がいる。雨をどうしのぐか、だ。茅葺き、檜皮葺、瓦葺き。切妻、寄棟、入母屋。水を早く流し切ってしまう、通気をよくして湿気を室内に籠もらせないようにする工夫の成果が日本の伝統建築であることが分かる。写真をふんだんに使い、小さな図録のような仕立ての1冊。レイアウトも丁寧で、写真もいい。いい本ではあるけど、1500円という価格をどうみるかなぁ。展覧会の図録と思えば決して高い訳ではないけど。
読了日:5月31日 著者:INAXライブミュージアム企画委員会
食魔 谷崎潤一郎 (新潮新書)食魔 谷崎潤一郎 (新潮新書)感想
作品から食事の場面を抜き出して考察したり、日記や関係資料から谷崎の食生活をトレースしたり。ただ、色と食慾ともに、個人的には谷崎に親和性を持てない故なのか、読んでいてリズムがつかめず、ぶつりぶつりと小分けしたような文章に乗り切れなかった。末尾の陰影礼讃に出てくる柿の葉鮨のレシピ、高校時代に同書を読んで、一時かぶれたことがあったことを思い出した。杉の葉を敷き詰めたアサガオの小便器の話とともに。
読了日:5月29日 著者:坂本葵
北条氏と鎌倉幕府 (講談社選書メチエ)北条氏と鎌倉幕府 (講談社選書メチエ)感想
烏帽子親、諱、氏族ごとの通字、長子と庶子、本家と庶家、官位など武家社会の常識を押さえつつ、鎌倉殿に於ける北条氏の存在を探る1冊。謎解きが面白い。登場するのは承久の乱の際の義時と元寇の際の時宗。義時は時政にとっては跡継ぎではなく、結果的に後継者になっていたという見立てや、「頼朝が八幡、義時が武内宿彌」の生まれ変わりという説話集の逸話に時代の空気を掬ったり、時宗がモンゴルの襲来もあって独裁的な体制を築くために身内を討ち、皇位継承にまで介入する。吾妻鑑や増鏡などの史料で見事な口語訳ぶりが秀逸。筆者の才気をみる。
読了日:5月28日 著者:細川重男
戦国大名の正体 - 家中粛清と権威志向 (中公新書)戦国大名の正体 - 家中粛清と権威志向 (中公新書)感想
教科書から専門書への階梯を開く意図の1冊。端書きに挙げている「戦国大名」の中の世代差、「天下」の概念、「下剋上」の意味などを事例別に説く。数ページが吉川弘文館などで1冊の本となっている内容なのだから、読者は駆け足を覚悟せねばなるまい。僕は逆の順番で読んでしまったけど、この本を手がかりに次の関心の項目に進めば理解が深まると思うし、入門書としては悪くない。特に外国人宣教師の書簡を手がかりにしているのは新しい試みか。元々は郷村単位の集団が国単位にと進化する中での権力闘争であり、権威付けであり、近世の母胎であり。
読了日:5月26日 著者:鍛代敏雄
コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか (ブルーバックス)コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか (ブルーバックス)感想
流石「ブルーバックス!!」。1杯の珈琲から自然科学の花が咲く。まず植物学的手法でコーヒーノキについて語り、エチオピアの奥地で生まれた豆が全世界に伝播し、広まった歴史を述べる。「おいしさと香り」の相関やら、ガスクロマトグラフィーで味、香りを分析し、DNA解析で系統を探り、さらには鉱石の浮遊選鉱の話で淹れ方を探る。この1杯にどう取り組んでみるかという遊び心と真剣さがどこまでいっても面白い。抽出した香り成分、苦み成分で人造コーヒーを試みたりも。これまでの経験則への科学者としての相対的な評価案とみたてた。
読了日:5月25日 著者:旦部幸博
トウガラシの世界史 - 辛くて熱い「食卓革命」 (中公新書)トウガラシの世界史 - 辛くて熱い「食卓革命」 (中公新書)感想
コロンブスが南米大陸から持ち帰ったことで、主食になる素材でもないのに爆発的に世界中に伝播していった唐辛子。そのスピードたるやすごいものです。胡椒を席捲し、遥か東海の小島まで至るのですから。個人的には第1章が難物でした。農学的な観点から起源を探る部分ですが、ここを乗り越えるとあとは一気呵成。元々は何年も収穫できる木本性の植物であったというのはちょっと驚きでした。今も微妙に欧州の北側では普及せず、多様な品種が続いている。入門書であり専門書の風を押さえた素敵な1冊。今の方が味覚が保守化しているのかもしれない。
読了日:5月23日 著者:山本紀夫
中世社会のはじまり〈シリーズ日本中世史 1〉 (岩波新書)中世社会のはじまり〈シリーズ日本中世史 1〉 (岩波新書)感想
日本に古代はあったのかという議論は扨置、中世と呼ばれる時代の始まりを白河からの3代の院政の間に見て、社会の変化を探った1冊。「家」「身体」「職能」の3つの視点からの読み解きが興味深い。この時期に上は五摂家から始まって家という概念が成立したと見る。加えて武門が西に東にと移動し、攪拌された時代であったのが分かる。身体という視点は宗教でみると分かりやすいか。教学を旨とした平安仏教から禅、念仏聖と行を主体にした鎌倉仏教へ。家が成立することで家職、家藝が成立する訳で。和歌、随筆など文学も史料に時代の空気を探る試み。
読了日:5月20日 著者:五味文彦
鎌倉幕府と朝廷〈シリーズ日本中世史 2〉 (岩波新書)鎌倉幕府と朝廷〈シリーズ日本中世史 2〉 (岩波新書)感想
高校教科書ではほとんど登場しない摂家将軍、親王将軍の存在が鎌倉殿の政権維持と帰趨に影響していた。天皇家内での遺産相続、皇位継承の問題と北条家内の執権、得宗の権力確立との関わりを書札礼や古文書から読み解く。筆者の面目躍如。持明院統と大覚寺統に分かれ、南北朝の因をなした萌芽まで。ただ惜しむべし。筆者は通史の叙述は緑色で、史料の解釈・考察は銅色で書いてみたいと「はてしない物語」の顰みに倣いたい旨をあとがきで述べているけど、この意図が全体を読みにくくしている気がする。権門体制論への一つの反証の標榜を狙っているが。
読了日:5月17日 著者:近藤成一
こんなに変わった歴史教科書 (新潮文庫)こんなに変わった歴史教科書 (新潮文庫)感想
学界で定説になるのには30年間は必要というのが文科省教科書検定官の見解だそうだ。歴史学も社会科学の一分野、研究が深化すれば記述が変わるのもまた宜なる哉。技術の進歩もある。鎌倉殿の権力確立を何時にみるか、肖像画の主の変遷くらいは論争として分かるけど、近代史の部分はどう記述するのか、しうるのか。文科省と執筆者の間でどういうやりとりがあるのか、気になるところ。「〜の役」が{〜戦争」になるのは規模や影響を勘案してのことで済むが、歴史的な意義付けも改変が可能であり、恣意的にプラスにもマイナスにも振れうる気がした。
読了日:5月12日 著者:山本博文
段取りの“段”はどこの“段”? 住まいの語源楽 (新潮新書)段取りの“段”はどこの“段”? 住まいの語源楽 (新潮新書)感想
住まいの用語から派生した言葉を拾い集め、簡単な解説をつけた1冊。トリビア集みたいなものが読みたいのならいいかも。ちょと面白そうに思えたのだけど、中身が薄いかなぁ。広辞苑と逆引き広辞苑片手に書いたような。週刊新潮誌上で広告と抱き合わせの短文ゆえなのか。ふと連想したのが同じ新潮社の1冊、新潮選書「住まいと暮らしの質問箱」(室内編集部)。山本夏彦の「室内」に連載されたコラムをまとめたものですけど、どうせなら質、量とも後者の本の方をおすすめしたいなぁ。
読了日:5月11日 著者:荒田雅之+大和ハウス工業総合技術研究所
キメラ―満洲国の肖像 (中公新書)キメラ―満洲国の肖像 (中公新書)感想
増補版の方を再読。巻末に書き足された約70ページの補章の部分を先に読むとよい。Q&A形式で24問、初学の階梯となるような質疑応答が続く。本文を読み返すに付け、「満州国」とは、関東軍(石原莞爾とも言える)の、溥儀の、思惑の上に築かれた「王道楽土」という看板の掛かった砂上の楼閣であったということが緻密に語られる。溥儀は最初は皇帝ではなく執政であったこと、国内官界から出向した岸信介らの官僚がその体制を創り上げたこと、「弐キ参スケ」が跳梁跋扈したこと等々。「満洲は日本の生命線」という偏執が招いた禍殃というか。
読了日:5月9日 著者:山室信一
カストロとフランコ: 冷戦期外交の舞台裏 (ちくま新書)カストロとフランコ: 冷戦期外交の舞台裏 (ちくま新書)感想
公式的な発言と実際の行動は違って当たり前、「したたか」という言葉で括られるのかもしれないスペインのフランコとキューバのカストロ。「米国眼鏡」を通してみると「独裁者」であるけど。父祖の地を同じくし、カソリックという共通した宗教を持つ、しかもイエズス会系の教育を受け、母語がスペイン語。東西対立が厳しかった時代にも自国の利益を追求し、成果を挙げる、大使は召還しても国交断絶はしない等々−−米国中心の安保体制と言い続けて疑わない日本に比べ、成熟した大人の振るまいに見えて仕方ない。東アジアに据え替えてみても……。
読了日:5月8日 著者:細田晴子
戦国夜話 (新潮新書)戦国夜話 (新潮新書)感想
週刊新潮連載の記事、回を重ねる毎に熟れ、和人節ともいうようなリズムが心地よい。古老の聞書のようでもあり。縦横無尽に人名が連射されても怯まず読み進めること。京大系の権門体制論に異議を立てる東大系の中世史学者の雄(孤塁?)なのかもしれないけど。後書きがこの弾幕の内輪話。文科省が人文系の学問は不要と言い出し、哲・文学と歴史は大変だと言われる中、日本中世史の研究志望者の現状は本当にひどいと嘆く。老年に差し掛かったと悟った1960年生まれの筆者は歴史の面白さを社会に紹介し、後学の役に立ちたいと呟く。その意気や佳し。
読了日:5月7日 著者:本郷和人
殺生と往生のあいだ: 中世仏教と民衆生活 (歴史文化ライブラリー)殺生と往生のあいだ: 中世仏教と民衆生活 (歴史文化ライブラリー)感想
最初にあとがきを読むと筆者の意図が把握しやすい。というのは狩猟の話から始まって仏教での殺生戒、往生要集からの地獄観という風に話が進み、ようよう殺生の話に入っていく葛籠折れ。宇治川の網代木(川魚漁)を主に破却され、再建され、禁止しながら一方で贄は要求するということを繰り返す。最大の殺生者ともいえる武士にとっての戦いに関しての記述で終わる。通底しているのは天台浄土教がいろいろな面で顔を出し、価値判断の基準になっている根深さ。筆者言う処の「少数と隙間の方」を追求した研究の振り返り。忍性はあるが、一遍への言及は?
読了日:5月6日 著者:苅米一志
下り坂をそろそろと下る (講談社現代新書)下り坂をそろそろと下る (講談社現代新書)感想
PCとWebが出現した社会となって以降、何が知性なのか。包み込むような文体で諭していく1冊。脊髄反射のような速度、辞書を食べながら暗記するような知識は不要で、むしろ自分が何に拠って自立するのかを確かめることこそ大事であると説く。鍵になるのは自身の文化なのかを直視すること。今の任地に赴任して、或いは来し方行く末を考える時、必ず浮かぶ何か纏め切れない「曖昧模糊としたもの」を端正に因数分解されたような気分になる本。筆者は言う。「寛容と包摂」と−−。だが同時にガロアの言葉が浮かんでいる。「僕にはもう時間がない」
読了日:5月5日 著者:平田オリザ
習近平の権力闘争習近平の権力闘争感想
習は1953年生まれ、花のニッパチである。文化大革命の余波をもろに被った世代。でも彼には父で元国務院副総理・習仲勲の存在があり、つながる人脈「紅二代」がある。習が2012年に党・軍の中央書記を経て2013年には国家主席に成り上がった。この間の権力闘争について短信を繫ぎ合わせて「陰謀の」物語に仕立てたのがこの1冊。面白いのだけど、逆にどうも説得力に欠ける気がする。中国の為政者として目線は国内8、海外2と言われるが、ほぼ権力の掌握を終え、今後はどうするのか。そう毛、ケの再来と言える程の道を目指すのは隘路だが。
読了日:5月5日 著者:中澤克二
殴り合う貴族たち (角川ソフィア文庫)殴り合う貴族たち (角川ソフィア文庫)感想
能「葵上」では六条御息所の生霊が後妻打ちをする。彼女が何で悔しがったか、車争いとはどんなものなのかを想定させるような出来事が実は頻発していたとする。記述は藤原実資の日記「小右記」を中心に、貴族や宮中の実力行使の実態を点綴していく。巻末の「王朝暴力事件史年表」を本文と一緒に見ながら読み進めると頭が整理できると思う。慈圓は保元・平治の乱を以て武者の世になったと言ったが、公権力が不十分で、私的制裁せざるをえなかった平安中期。既に素地は整っていたような気がする。清少納言も紫式部も書かなかった実際の世相がある。
読了日:5月4日 著者:繁田信一
豊国祭礼図を読む (角川選書)豊国祭礼図を読む (角川選書)感想
秀吉の死から豊国社の成立、大阪&江戸の二極化の中の7回忌の大祭(1604年)の盛儀から生まれた屏風3雙。筆者はイエズス会の記録に従来からの日記類などの史料で背景を読み込み、推定した成立順に、豊国神社本→妙法院模本→徳川美術館本と制作依頼者を淀殿、北政所、蜂須賀家政とし、時期、意図を読み解いていく。先行研究を丹念に紹介し、自説を展開していく。就中、徳川本にある歌舞伎者の喧嘩を秀頼と秀忠と見立てて読み解いたのは妙味。今、山口晃や山田芳裕が「分かる奴には分かる」と隠喩をちりばめた仕掛けを自作に描くのにも似て。
読了日:5月4日 著者:黒田日出男
足利尊氏と関東 (人をあるく)足利尊氏と関東 (人をあるく)感想
尊氏とはと問われて足利幕府の初代将軍と答えるのは教科書レベル。でもこの時代に日本史が変わったと実感するような人物であるのが分かる。たぶん鎌倉で生まれて京都への往復は茶飯事、時に中国地方まで下り、また鎌倉に戻って……と実に動き回る。家族の営みより家や一族を重視、その間に鎌倉幕府を倒し、後醍醐天皇を追い出し、実子・弟との諍いもあり……。太平記のように主語が変わるのではなく、尊氏を主語にした視座での叙述が続くので分かりやすい。後段は関東に根を下ろした源家足利氏の振り返りとその遺跡の考古学的ルポ。立体的な本です。
読了日:5月2日 著者:清水克行

読書メーター
posted by 曲月斎 at 11:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑事雑用 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする