2016年03月01日

☆2016年2月に読んだ本。

2016年2月の読書メーター
読んだ本の数:12冊
読んだページ数:3402ページ
ナイス数:341ナイス

乱舞の中世: 白拍子・乱拍子・猿楽 (歴史文化ライブラリー)乱舞の中世: 白拍子・乱拍子・猿楽 (歴史文化ライブラリー)感想
音も映像も残っていない中世の藝能。本の読み手の想像力如何となる世界だ。専門家には脳裏に音が再現されるのだろうけど、素人には能や歌舞伎、民俗藝能といった今まで見聞きしてきたことを総動員して読み進める。断片的な記憶が繋がっていく。正しい理解か否かは別にして、楽しい作業ではあった。音源として残る越天楽今様から能の「融」の小書の笏拍子、「道成寺」の乱拍子、「安宅」の延年ノ舞、室戸・吉良川の御田祭の演目や静岡の志太榛原で見た数々の神楽や田遊びなどなど。本論の蓋然性は別にして、文字記録からの脳内での復元作業は一興。
読了日:2月28日 著者:沖本幸子
戦国の陣形 (講談社現代新書)戦国の陣形 (講談社現代新書)感想
軍談という藝能が成立したり、軍学に流儀が成立して甲州流だ、越後流だ、北条流だと、威勢を張り合う中で、魚鱗鶴翼、車懸の陣備えという伝説が生まれたのが「陣形」の淵源だと思う。太平の世に実際の戦いの場では生まれ得なかったような概念が闊歩したのではないか。力説する兵科の分離や兵農分離の成立を以て「陣形」が生まれたと見る説を筆者は立てているのだけど、何か張扇の音がするような内容。唯一、成程と思ったのは戦場の地形、道や川、池沼などに配慮したという三方原合戦図の読み解きくらい。帯にある「快作」という惹句に惑わされた感。
読了日:2月25日 著者:乃至政彦
清朝と近代世界――19世紀〈シリーズ 中国近現代史 1〉 (岩波新書)清朝と近代世界――19世紀〈シリーズ 中国近現代史 1〉 (岩波新書)感想
「東アジア」という視点から歴史を語ることが増えた。だが勘違いの基ともなることを教えてくれる1冊。日本から見ると中国(清朝)も東アジアだけど、中国は実は大陸国家で多民族国家。内政的には人口増があった上、欧米の進出に伴う交易や銀の流出、信仰宗教に由来する内乱と、内憂外患に晒されることになる。内陸と沿岸部の格差、少数民族の問題など、今に続く問題の萌芽が既に現れている。国って何だろう? 最初に結構をつかんだ方が理解しやすいと思うので、「おわりに」から読むことと同じ岩波新書の「李鴻章」を併読することをお勧めします。
読了日:2月23日 著者:吉澤誠一郎
昭和史(下)昭和史(下)感想
1945年の敗戦から1989年の昭和天皇の崩御までの叙述。同時代を生きた1箇の人としての叙述で、筆者自身が「田中内閣以降は面白くない」と後書きで記しているけど、まだ歴史として客観的に書くのが難しかったことと、影響を与える間もなく政権が次々交代していくことと……。戦後の経済成長と共に進む社会の叙述に、獅子文六の小説「大番」を個人的には思い重ねた。株屋の牛ちゃんが成功を収めていくまでの大衆小説だが、厳格な中村の本と「大番」が好一対の本に思える。あと「右傾化する日本政治」を重ねると丁度読み物として三幅対か。
読了日:2月15日 著者:中村隆英
増補版 誤植読本 (ちくま文庫)増補版 誤植読本 (ちくま文庫)感想
誤植という言葉が手書き原稿と活字の時代の遺物である。ワープロ(パソコン)が出現し、DTPが当たり前になった今も校正刷りの制度は残っている訳だから、印刷物に誤りがあり、それを見逃したとなれば、それは文選工の誤りでも編集者の錯誤でもなく、筆者自身の誤謬になる。印刷物であれ、Webであれ、文字を扱う以上、誤りが生まれるのはどこかで覚悟をしなくてはいけない。このアンソロジーは「Good Old Day」の昔噺に見えてならない。文士さまであり、活字への信仰があった時代の。坪内稔典、吉村昭の一文が光っているけど。
読了日:2月14日 著者:高橋輝次
京都の歴史を歩く (岩波新書)京都の歴史を歩く (岩波新書)感想
江戸時代の俳諧師秋里籬島が書いた「都名所図会」と今の「ブラタモリ」を合体したような風合い。単に名所旧跡を巡るというよりも、土地が刻んできた歴史を振り返ることに重点がある(この様式は全国でも成立しうる町は少ないということ)。例えば江戸期の繁栄の基礎となった高瀬川についての項で、物流の動脈という視点だけではなく、都市化の結果として六条界隈の被差別集落が移転したり、明治期に角倉家が所有権回復を申請したり、と通り一編の読み物にはない面白さが売りだ。ただ現地の地理が頭に入っていないと興趣の減衰は間違いないけど。
読了日:2月14日 著者:小林丈広,高木博志,三枝暁子
籤引き将軍足利義教 (講談社選書メチエ)籤引き将軍足利義教 (講談社選書メチエ)感想
4代義持の死後、4人の弟から籤引きで選ばれたのが6代義教。この本の縦糸が義教の選定に至るまでの話と後継指名を受けた後の義教の治政で「籤引き大好き」だった話になる。横糸が卜占のあれこれ。宮中でも紫宸殿の東廊下での「軒廊御卜」の伝統があり、後白河院が皇位継承で頻りに遣っていたという話が加わる。「凡慮として定め難し」「神慮覚束なし」と思考停止し湯起請にと及ぶ義教の話が本筋のはずなのだが、途中から盛り沢山過ぎて「神判」の話なのか。虻蜂取らずの気もする。「神判」のみ掘り下げた清水克行の「日本神判史」の方が好著。
読了日:2月13日 著者:今谷明
右傾化する日本政治 (岩波新書)右傾化する日本政治 (岩波新書)感想
右に左にと振れる振り子の支点自体が右にスライドしてきた結果が今の安倍政権の行動に反映している。ここがよく分かる。憲政の危機が急に訪れた訳ではない。本書の面白いところは「日本政治」とは銘打っているものの、序盤で諸外国の事例も引き、日本の右傾化が特異ではないことを説いている点。もう一つは官主導の開発主義と補助金を核とする恩顧主義の融合した旧右派が衰退の一方、国際協調主義の中から生まれた新右派が偏狭な国家主義に変質しつつある実態を跡づけした点。無条件に多数党が生まれる今からリベラルの再建は難しいのか……。
読了日:2月11日 著者:中野晃一
街頭から見た新東京の裏面 (青空文庫POD(シニア版))街頭から見た新東京の裏面 (青空文庫POD(シニア版))感想
関東大震災後の東京のルポ。九州日報記者時代の作品でしょうか。震災以前の東京にあった風紀が消えた、と嘆きます。日本論とも読めるのですが、何か話題が堂々巡りをしているのと、時代相の違いと。何となくしっくり読後感はしっくりこなかった感じです。キンドルで読んだ所為もあるのかな。
読了日:2月10日 著者:夢野久作
東京の風俗 (1978年) (富山房百科文庫)東京の風俗 (1978年) (富山房百科文庫)感想
青空文庫版で出ているのは本の一部のみ。別編も通して読むと滋味深い。素っ気ない文章ながら哀惜が伝わってくる。筆者は明治中期に牛鍋チェーンを展開した「いろは大王」こと木村荘平の息。妾を構える度に店を持たせたことから筆者は両国広小路の第8いろはに育つ。後に画家・文筆家となり、「濹東綺譚」の挿絵でしられる。江戸の残り香、関東大震災前に育った人ならではの感覚が小気味よく語られる。就中、洲ア遊郭訪問記や東両国回向院の相撲場や生家のいろは牛鶏肉店の風景などこの人でなければという内容が多い。冨山房百科文庫って小体でいい。
読了日:2月9日 著者:木村荘八
権力の館を歩く: 建築空間の政治学 (ちくま文庫)権力の館を歩く: 建築空間の政治学 (ちくま文庫)感想
毎日新聞への連載を元に刊行されたこの本。今、読むと何か違和感が拭えない。森喜朗首相のころまではルポの世界があったろう。だが「劇場政治」といわれた小泉内閣以降(民主党政権の鳩山首相、小沢幹事長の時代を例外として)、私邸であれ、派閥事務所であれ、「権力の館」「政治劇場」が廃れてしまったのではないか。政治家の変成、変節というか、「館」をはみ出してしまった気がする。後書きで藤森照信が筆者を政治劇場の座付き役者に見立てているけど。今は情報公開されているように見せているけど以前より不可視化が進んでいる気がする。
読了日:2月7日 著者:御厨貴
朝鮮王公族―帝国日本の準皇族 (中公新書)朝鮮王公族―帝国日本の準皇族 (中公新書)感想
清の冊封国・朝鮮が日本から「冊立」され、西欧的な概念では保護国化したのが日韓併合。朝鮮王室は存続している訳で、日本の国内法的には「皇族≧王族>華族」という序列で扱ってきた歴史を分析する。2世代目になると「臣民」「日本国民」としての生活に同化していく。朝鮮半島が当時、累卵の危にあったのは分かるものの、歴史の評価としてどういう対処をするのが最善だったのか。王族の死に伴う国葬、宮廷費の問題、戦後の処遇などなど、考えることが多すぎる。ただ筆者の土台、テーマになる部分が著述がニッチな感じ。手法自体は緻密なのだけど。
読了日:2月3日 著者:新城道彦

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posted by 曲月斎 at 12:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする