2015年11月01日

☆2015年10月に読んだ本。

2015年10月の読書メーター
読んだ本の数:17冊
読んだページ数:3902ページ
ナイス数:652ナイス

世界史を変えた薬 (講談社現代新書)世界史を変えた薬 (講談社現代新書)感想
大航海時代のビタミンC、マラリヤの特効薬キニーネ、消毒の草分けとなった石炭酸、第一次世界大戦の塹壕戦から生まれたサルファ剤、そして結核の特効薬として知られたペニシリン……。出現によって人類の生活が変わったことは言うまでもない。でもその発見に至る過程には偶然もある。発見した人物と薬の物語。数学とか物理の分野でもよく見掛ける紀伝体の歴史物語だけど、筆者が巧く話を砕いて書いているので門外漢にも興味深い仕立て。ただ残念なのは分子構造図が挿絵になっているのだけど、発見者の肖像1枚でも載せていた方が親切だったかな。
読了日:10月30日 著者:佐藤健太郎
源頼政と木曽義仲 - 勝者になれなかった源氏 (中公新書)源頼政と木曽義仲 - 勝者になれなかった源氏 (中公新書)感想
論の根幹になっているのは読み本系と言われる平家物語(延慶本、長門本など)、貴族の日記や尊卑分脈を併せた1冊です。面白さは人物の動きの背景に白河院を中心とした宮中、藤原家の内紛に、源氏の家系内部での勢力争い(特に為義と義朝の対立)を絡めて読ませる所が新味。摂津源氏の源頼政が意外や平清盛にとって安全弁になっていたこと、同じ清和源氏でも河内源氏の門流の動き(義朝流と義国流)が後の征服者義仲の動きの伏線になること等々。園城寺の嗷訴が予定調和で収まるつもりが治承寿永の内乱につながることを読み解く。読み解きの妙味。
読了日:10月27日 著者:永井晋
孤高 国語学者大野晋の生涯 (集英社文庫)孤高 国語学者大野晋の生涯 (集英社文庫)感想
評伝は取り上げる人物と筆者の距離感が命だと思う。近すぎても遠すぎても駄目だ。その点、この本は前者の嫌いがあるような気がする。大野晋、希代の国語学者で、広辞苑、大系本、ひいては文語文法の教科書でもお世話になった。若い時に勉強しておくものですね。興味深く読んだのは、その前半生部分。つまり岩波古典大系の万葉集、日本書紀の校注をした辺りまで。それ以降について筆者にしてみれば一番書きたかったところなのだろうけど、何かあまり感心できなかった。というのは文脈がナマ過ぎる感じだから。「ロマン」をロマンと書く拙さというか。
読了日:10月26日 著者:川村二郎
書斎の王様 (岩波新書 黄版 324)書斎の王様 (岩波新書 黄版 324)感想
「書斎」−響きはいい。ただ本書は1985年初版。WebもDBもない時代の話だから、今とは比較できない。でも本が溜まり続ける現実の前にみんな悩んで大きくなった、とでも言うか。家にきた大工に「この本全部読んだのですか」と聞かれ「戦争がなくても軍備をするのと同じ」と答えた下村寅太郎、「現実、それは哀しみの異名、空想の中だけ人々は幸福と一緒だ」という森茉莉の言葉を引いた小泉喜美子。17人の筆者中存命は6人。題名は元日銀理事、鷗外研究家の吉野俊彦の「書斎こそ我が城、私こそ我が城我が書斎の王様」という結句による。
読了日:10月24日 著者:
空海空海感想
空海という平安時代の1人の僧侶と、弘法大師という諡号を贈られた存在は別人格と考えるのが至当、というのが本書の論旨。足跡を辿り、継承者の姿を綴り、民衆への浸透を考える。弘法大師を尊格とする庶民信仰と、今も続く後七日御修法に見られるような鎮護国家の宗教と、日本総菩提所という祖霊信仰に根ざす高野山への信仰−−3点セットが真言宗を支えてきたという見立ては間違いない。と同時に「宗教行為が僧侶の専有だった1200年前のかたちを留めて今日に至っている」という指摘も。1人で完結した世界は広大無辺だったということか。
読了日:10月24日 著者:村薫
【新版】 雑兵たちの戦場 中世の傭兵と奴隷狩り (朝日選書(777))【新版】 雑兵たちの戦場 中世の傭兵と奴隷狩り (朝日選書(777))感想
今、中東でISが悪逆非道をしているように報じられるけれど、実は戦の世の習い、日本でも同様のことは起きていた訳で、「乱暴狼藉」とは殺戮、略奪、拉致などなど。戦国時代末期から江戸時代初頭にかけては日常茶飯事。筆者は断片的な史料を読み継ぐことで、拉致した人間を転売し、諸外国に労働力、兵力として売り払っていたことを読み解く。当時の生産力から、冬から春にかけて多くの農民が飢餓に陥ったことも事実で、出稼ぎ感覚で戦乱の原動力となっていた側面もあります。教科書では見えない当時の世相の一断面を活写している好著です。
読了日:10月21日 著者:藤木久志
刀狩り―武器を封印した民衆 (岩波新書 新赤版 (965))刀狩り―武器を封印した民衆 (岩波新書 新赤版 (965))感想
秀吉による「検地」と並ぶ「刀狩り」は教科書的に言えば、兵農分離策であり、庶民の武装解除であったとされるけど、「刀を帯びる」スタイルを武士と庶民の差として表象することに意味があり、武装解除の意味は薄いという見立てを示す。確かに鳥獣害が身近にある中、鉄砲は一種の農具である。秀吉の試みが綱吉の時代に一つの節目を迎えるという見方は興味深い。昨今の「惣無事令」の及んだ範囲の研究を考えると限定的だったと見るのは妥当。明治の廃刀令、進駐軍の武装解除と3度の「刀狩り」があったにせよ、最後の時の印象が強烈に過ぎたのか。
読了日:10月19日 著者:藤木久志
日本神判史 (中公新書)日本神判史 (中公新書)感想
熱湯中の石を拾う「湯起請」、熱鉄を握る「鉄火起請」。今から見れば過激で非科学的な判定である。でも犯人、審判を即決し、冤罪が生まれるのも厭わぬ必要があった。曰く「自力解決社会であった中世は常に外部に敵を抱え、共同体の秩序を乱す存在を放置して置く寛容さのない社会」という背景にあったとの分析は興味深い。同時に「神慮」を根拠に行いながらも、神仏を時に疑い、軽んじていく過程が同時並行する。神判の盛衰は「聖から俗へ」の文化史ともいえる。さて今の日本。外に敵を論う社会になっている。今様、鉄火起請はネットの炎上か。
読了日:10月15日 著者:清水克行
タモリと戦後ニッポン (講談社現代新書)タモリと戦後ニッポン (講談社現代新書)感想
読み手の世代によって受け止め方が違うだろう。タモリが登場した時には既に意識があった者の読みは、権威的、重厚長大なものを否定し、受けの名手として生きてきたという見立て、植草甚一、森繁久彌との重ね合わせに成程と思う。同時代の証言を綴り、環境を説明することで、自らを生で語らぬ人物を浮き彫りにする−−筆者のいう「補助線」−−手法は成功している。引用の元の文献に当たりたいと思うものも。「国民史」とは言えまいが1970年代以降のテレビ編年史ではある。日本に都市は成立しえたのだろうか。望蜀の嘆だが、年表が欲しかった。
読了日:10月14日 著者:近藤正高
金魚はすごい (講談社+α新書)金魚はすごい (講談社+α新書)感想
東大本郷キャンパスに近い店、江戸時代以来の金魚屋さんの主が書いた金魚の蘊蓄本。フナの突然変異種から営々と交配が続けられ、種の固定が試みられてきた歴史は、園芸植物のそれにも似て途方もなく根気のいる作業でそれだけに新種を創り出す喜びは一入なのだろう。この本を読んで、最近は蘭鋳とか、和蘭陀獅子頭とかは偶に見るけど、出目金って見かけなくなったなぁと。筆者は琉金を美しいという。何か分かる気がする。後半は金魚の種類と飼育法指南。昔なら1冊の分厚い本になったような内容が続く。久しぶりに身近に金魚を置く生活もいいかも。
読了日:10月10日 著者:吉田信行
ニッポンの裁判 (講談社現代新書)ニッポンの裁判 (講談社現代新書)感想
裁判所の現状を元裁判官が書いた本。司法・立法・行政の三権分立が根幹のはずだが、人事権を握る最高裁事務総局を頂点とした組織の論理が正義よりも優先していると説く。政治の支配を受け、民主主義の最後の砦などという感覚は蜃気楼であるのが分かる。下級審から最高裁まで一貫している論理、旧軍の組織論理と相似形であり、官僚組織に共通しているともいえる。民事裁判の和解で「恫喝強要型・長期懐柔型」という例示や「株式会社ジャスティス」の比喩。「怪物と戦うものは自らを怪物と化さないよう心掛けなければならない」という箴言が重い。
読了日:10月10日 著者:瀬木比呂志
壇蜜日記2 (文春文庫)壇蜜日記2 (文春文庫)感想
2冊目はちょっと読んでいてしんどかった。なぜなら、売れなくなったとも、テレビで見なくなったとも思わない壇蜜ながら、この日記ではすこぶる湿っぽいというか、自分を卑下したように見るような表現が目につくからだ。筆者が述懐するほどに、「短足ババア」とも「臭そう」とも「消えたおばさん」とも思っていないと思うのだが。警句めいた文章が挟まるのは1冊目に同じく小気味いい。でもそれ以上に原稿を覆う無彩色のトーン。黒でも灰でも白でもない。筆者の見せる韜晦の手管なのか、あるいは本音がそうなのか。前者であるような気がするが。
読了日:10月6日 著者:壇蜜
文明探偵の冒険 今は時代の節目なのか (講談社現代新書)文明探偵の冒険 今は時代の節目なのか (講談社現代新書)感想
4月に出た本。既にどこかで古さを感じる。寿命の短い本だったか。帯に曰く「気鋭の科学史学者が知の世界を飛び回る」と。話は桂馬、大桂馬に三間開き。理解が大変だ。「時代の節目」を探る話が骨子。ただ同時代の人間には言えないことだろう。文中の記述を借りれば「歴」は過去を、「暦」は未来を考える概念で、同根の字であるという。筆者のこの示した「節目」というテーゼに向けての論考が進むのだけど、成程と思えないままの読了。多分、冪乗的に人口変動が進む日本にあって、過去に経験したことのないことが起こるだろうことは分かるが。
読了日:10月4日 著者:神里達博
大飢饉、室町社会を襲う! (歴史文化ライブラリー)大飢饉、室町社会を襲う! (歴史文化ライブラリー)感想
「応永の大飢饉」を時系列的に書いていく。「満済准后日記」「看聞日記」を軸に、ドキュメント風で「世相」を描くことに力点を置く。天候の分析、足利義持という人の奇矯な考え方(禅宗への原理主義的な傾倒)の一方で飽食好色な権力者の撫民策の無為。疫病が流行り、餓死者が出る中、一方で高麗の対馬出兵(応永の外寇)を機にか、能「白楽天」を書き、数々の藝談書を書き上げていく。寡聞にして能の研究論文でこんな見方は出会ったことがない。文化も生活も社会を反映するものだ。さらに盆踊りが生まれるという見立て。これまた学際を突く1冊。
読了日:10月2日 著者:清水克行
思い出袋 (岩波新書)思い出袋 (岩波新書)感想
岩波書店「図書」に「一月一話」と題して連載された随筆。難しいことを書いている訳でもなく、気張ってもない。肩の力が抜けたというと碩学に対して失礼ながら、こういうしなやかな文章が書ける日はいつ来るのかと思う。どこか向田邦子の随筆を連想させるような情景の切り取り方だ。ハーバード大留学中に日米が開戦し、引き揚げるかどうかの判断。「この戦争で日本が米国に負けるのはわかっている。日本が正しいと思っているわけではない。しかし、負けるときには負ける側にいたいという気がした」と考えを決める。覚悟が後の生き方の基礎にある。
読了日:10月2日 著者:鶴見俊輔
日本の地名 (岩波新書)日本の地名 (岩波新書)感想
刊行されたのが1997年。この後、平成の大合併が全国で進み、多くの地名が消えていった。たぶん、この本で俎上にのせている「小字」などは登記簿の上とか、各市町村の字切図などにかろうじて残っているだけだろう。角川、平凡社と相次いで地名辞典を刊行したころが辛うじて、の時代だったか。地方では人口減少が続いていて、集落が消え、地名も一緒に消えているのが現状。わずかこの20年ほどの間に、日本という国が大きくその姿を変えているのが忍ばれる1冊。この時代はカードだろうけど、小字のデータベースみたいなものはできているのかな。
読了日:10月1日 著者:谷川健一
日本仏教入門 (角川選書)日本仏教入門 (角川選書)感想
日本人の宗教観(顕と冥)の関係を押さえてから読むと分かりやすい。宗派や開祖の知識ではなく、仏伝以降、南都六宗に天台、真言が入り、天台から禅宗、浄土系が派生していく様がよく分かる。宗論を重ねる中で、本覚思想から仏教の大衆化、伴う堕落、一方で戒律回復運動が起きる。また兼学が当たり前の時代、密教が基調低音のように広がる中で、浄土三部経への絶対的帰依を説く浄土教系、法華経への信仰に基づく日蓮宗と、専修の仏教に変貌していく。元々は個別の論文ながら、再編集よろしきを得て、日本の仏教の全体像を示すものになっている。
読了日:10月1日 著者:末木文美士

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posted by 曲月斎 at 00:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする