2015年09月01日

☆2015年8月に読んだ本。

2015年8月の読書メーター
読んだ本の数:15冊
読んだページ数:4506ページ
ナイス数:408ナイス

軍隊と地域社会を問う: 地域社会編軍隊と地域社会を問う: 地域社会編感想
隣に普通に暮らしていた兵隊さんの存在は記憶の彼方に消えつつある。衣食住、支える民間組織、組織の中での兵の立身出世につながる意識など、戦争の歴史をたどるだけでは見えにくくなっている部分を掘り下げたのがこの1冊。軍都には不可欠とされた遊郭(慰安所)の存在や輸送手段としての鉄道の意味など既刊の本で取り上げられているテーマもある一方、国防婦人会と兵の側からの視線、戦死者の公葬という事柄や、軍内部の統計すら正確性が戦いと共に劣化していったという指摘、戦史の編纂過程など、当時の「空気」をトレースする意図は実っている。
読了日:8月31日 著者:
帝国支配の最前線: 植民地 (地域のなかの軍隊 7)帝国支配の最前線: 植民地 (地域のなかの軍隊 7)感想
日本が植民地経営をした時代、その最前線での軍隊の姿を綴った1冊。台湾、朝鮮、南満州では武力を背景にした統治を続けざるを得ず、元々住民が少なかった南樺太では進出、引き揚げを繰り返す度に犠牲を生み、南洋群島でも戦闘に巻き込まれる住民を生んだ。一等地が本州、四国、九州、二等地が北海道、沖縄(共に今でも内地という言葉が生きている)、そしてそれ以外の外地は三等地というランク付け意識が根底にあるだろう。勿論、欧州列強も武力を背景に植民地経営をしたのだけど、それと比較しても日本の植民地政策は武骨に見えて仕方ない。
読了日:8月29日 著者:
アジア・太平洋戦争史――同時代人はどう見ていたか(下) (岩波現代文庫)アジア・太平洋戦争史――同時代人はどう見ていたか(下) (岩波現代文庫)感想
最後まで通貨戦争の色合いが残る。日本銀行券=朝鮮銀行券=満州中央銀行券=中国聯合準備銀行券=中国儲備銀行券=蒙彊銀行券、とつなぐことで「円ブロック経済圏」を作るはずが、英ポンド、米ドルとリンクしているか否かの1点で、国民党政府の法幣に敗れ去る。決済用資金の欠如する中、近代戦に必要な3つの「M(Money、Men、Material)」のうち、第1、第3を欠いたのを認識したまま、戦いを始めてしまった結果である。落語の「素人鰻」のような様にしか見えないが、当時は真面目にやっていたのかと思うと、空恐ろしくなる。
読了日:8月28日 著者:山中恒
アジア・太平洋戦争史――同時代人はどう見ていたか(上) (岩波現代文庫)アジア・太平洋戦争史――同時代人はどう見ていたか(上) (岩波現代文庫)感想
あの戦いを考える時、手に取ってみるべき1冊。「十万の英霊、二十億の国帑」で購った旧満州の権益をどう生かすか。折しも清朝の滅亡に伴う大陸の混乱、第1次大戦後の経済の混乱で欧米が東アジアに手を出しかねていた等々の事情が重なって、日本の一人相撲ぶりがよく分かる。もし、日本も誘われた英主導の「法幣改革」に参画し、石橋湛山の主張した貿易立国を目指す態度をしめしていたら……。日比谷焼打事件以来、感情論に振り回された結果があの戦いの根本だと思う。満州国自体、インフラの整備に経費が掛かり、赤字の植民地だったのだから。
読了日:8月26日 著者:山中恒
日本海軍はなぜ過ったか――海軍反省会四〇〇時間の証言より (岩波現代文庫)日本海軍はなぜ過ったか――海軍反省会四〇〇時間の証言より (岩波現代文庫)感想
海軍反省会という1次史料を読みこなした3人の鼎談。1)予算獲得のために組織という存在は生命体となる。2)人数が限られていると手が回り切らない。冷静に考えれば分かることが分からなくなる。3)組織では失敗をどう次に繋げるかが大事、の3点に要約されよう。福島の原発事故も東京五輪の一連の問題も、企業の不祥事も同根ではないかと思う。そして海軍という道具を使う組織故の特殊性。戦時中の特攻作戦も人間を道具の一部と考えられる人間がいるからこそできた発想であり、真珠湾攻撃を立案した黒島亀人が関わったというのは新知見。
読了日:8月22日 著者:澤地久枝,半藤一利,戸高一成
もの食う話 (文春文庫)もの食う話 (文春文庫)感想
アンソロジーは日頃縁のない筆者、疎遠になった筆者の文も楽しめるのが妙味。この1冊は序章・食前酒の大岡昇平「食慾について」という一文が圧巻で、食い意地が張っていることと命への感覚の連環を説く。武田百合子、吉行淳之介、向田邦子、筒井康隆……。手練れの文が手際よく続くのが楽しい。巻末の中島敦の「幸福」なる掌編が、掉尾を飾るにふさわしい軽みが残す。あとペットのウサギを食う夫人の話。確か阿川弘之が随筆のネタにしていたと思うが近藤紘一という産経の記者の話が元であったか、ということを知る。編集者の手腕や見事也。
読了日:8月18日 著者:文藝春秋
東西ミステリーベスト100 (文春文庫)東西ミステリーベスト100 (文春文庫)感想
読者投票で本邦と翻訳もののミステリーベスト100を選ぶというのが趣向。日頃、ほとんど読まない分野なので発見も多かった。本邦では1位に獄門島、2位に虚無への供物、3位に占星術殺人事件。今でも横溝正史や松本清張が入ってるのがちょっと意外。ただ孤島での事件、密室での事件と古典的な道具立てが復活しているのも不思議な感じ。洋物では1位がそして誰もいなくなった、2位がYの悲劇、3位がシャーロック・ホームズの冒険。相変わらず、クリスティ、エラリー・クイーンが強いのが印象的。評者によると前回と大きな変動がないともいうが。
読了日:8月18日 著者:
玉の井という街があった (ちくま文庫)玉の井という街があった (ちくま文庫)感想
関東大震災の後、浅草十二階下の銘酒屋(という名の私娼窟)が集団移転したのが隅田川の東・玉の井。「濹東綺譚」で知られる街について同時代に生きた筆者が自身の見聞を含めて綴る等身大のルポ。廃娼運動側でもなく店主側でもない。視点が中立なのに好感。娼婦が搾取といっても実は店の家主、大家が一番の黒幕だったという指摘や、永井荷風が身長175cmの偉丈夫でコンドームを必ず利用する合理主義であったとか、高見順と従兄弟の関係であったとか、太宰治がここに流連したエノケンの座付作家菊谷栄の助手をしていた話とか。興趣漫々。好著。
読了日:8月16日 著者:前田豊
玉の井という街があった玉の井という街があった感想
関東大震災の後、浅草十二階下の銘酒屋(という名の私娼窟)が集団移転したのが隅田川の東・玉の井。「濹東綺譚」で知られる街について同時代に生きた筆者が自身の見聞を含めて綴る等身大のルポ。廃娼運動側でもなく店主側でもない。視点が中立なのに好感。娼婦が搾取といっても実は店の家主、大家が一番の黒幕だったという指摘や、永井荷風が身長175cmの偉丈夫でコンドームを必ず利用する合理主義であったとか、高見順と従兄弟の関係であったとか、太宰治がここに流連したエノケンの座付作家菊谷栄の助手をしていた話とか。興趣漫々。好著。
読了日:8月16日 著者:前田豊
根来寺を解く 密教文化伝承の実像 (朝日選書)根来寺を解く 密教文化伝承の実像 (朝日選書)感想
同じ空海を宗祖と仰ぎながら、新義と古義が違うのか。疑問を解く鍵がこの本にあった。浄土教の要望が高まった時代、覚鑁が阿弥陀と大日は一体という教義を立て、高野山上に大伝法院を構えた。パトロンの交代で山内で騒乱があったが、両者の交流は覚鑁が根来に退去した後も続いた。だが独立。頼瑜が教学を継ぎ、文書の形で流布していく。地方に根を張った理由だ。戦国時代は寺の事務を仕切った行人方が騒乱に身を投じ、寺が荒廃したが、法統は続いた。醍醐寺、葛城を主に山岳修験の道に伸びていた。そんな多重的な寺の再確認はもっとされてもいい。
読了日:8月15日 著者:中川委紀子
天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災 (中公新書)天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災 (中公新書)感想
元は朝日新聞Beに連載された「磯田道史の備える歴史学」。新聞の連載なので文の運びはスピード感重視というか、氏のリズムというか。何よりもテレビに多数ご出演で、その謦咳に接しているという部分が大きいのかもしれない。内容に関しては、過去の史料や口碑口伝、実地の踏査などを織り交ぜて、日本を襲った災害(といっても津波、地震、高潮がメイン)と防災の心得を説く内容。実地の面白さが売りの1冊。
読了日:8月11日 著者:磯田道史
明治開化 安吾捕物帖 全21巻合本版明治開化 安吾捕物帖 全21巻合本版感想
古くは角川文庫版、ちくま文庫版で読んでいるのだけど、電子媒体で読むとまた味わいが変わる。何より活字が大きくなるのがありがたい。勝海舟の伝法な口ぶりなど、浅田次郎の「天切り松」につながるような歯切れの良さがある一方、くどくどしい文体、面妖なカタカナの遣い方など、読み手を幻惑しながら話が進む。元々は青空文庫版をまとめて売り出したもの。惜しむらくはたとえば「石の下」の一篇、紙媒体だと碁の「石の下」の手順表がついているけど、そういう部分がかけてしまうのであります。でも坂口安吾の独特な捕物帖もの、再認識されていい。
読了日:8月9日 著者:坂口安吾
応仁の乱に就て応仁の乱に就て感想
言葉遣いはともあれ、「時代の空気」をどう捕まえたらいいのか、ということを教えてくれる1冊。どうしても歴史教育というと、政権(朝廷、あるいは武家政権)などの上から目線になるけど、実は下から見上げた方がわかりやすいということを平明に説いています。今読み返しても、あ、この講演を粉本にして書いている本があるな、と思うほど。ぜひ、機会があればご一読を勧めたいところであります。
読了日:8月6日 著者:内藤湖南
フォト・ストーリー 沖縄の70年 (岩波新書)フォト・ストーリー 沖縄の70年 (岩波新書)感想
同じ著者の「四国八十八カ所」と同じ読後感。声高に訴える訳ではないけど、身近で起こったこと、聞いたこと、見たことを積み上げていく。当時の写真を添えていく。長い時間をかけて定点観測するように見つめ続ける。例えば、本土への疎開児童を乗せた対馬丸を撃沈した潜水艦は米・真珠湾に潜水艦博物館になっていたり、南洋諸島の戦禍には移住した沖縄の人々が巻き込まれていたり。「これから犯しますといいますか」と暴言を吐いた沖縄防衛局長の発言は辺野古の環境アセスの件だった。点の記憶はあってもそれを、線、面と広げていく努力が必要、と。
読了日:8月4日 著者:石川文洋
かわいい自分には旅をさせよ (文春文庫)かわいい自分には旅をさせよ (文春文庫)感想
随筆集とはいえ、「アサヒ芸能」の連載、朝日、読売、産経などの新聞への寄稿から岩手医科大の年史までいろんな媒体に書いたものを集めた1冊。作家という仕事は実に大変だと思う。往年の「勇気凜々ルリの色」のような軽みというより、年輪を重ねた味わいがにじむ作が多い。森鷗外に始まる漢文脈、夏目漱石以来の和文脈、昨今の翻訳に由来する文体などの分析から、清朝末を題材にした「蒼穹の昴」の余滴。挟み込んである一篇「かっぱぎ権左」が一服の妙薬。筆者の三島由紀夫への愛憎相半ばする感情の揺れが興味深い。そして肉体と思想の連環を思う。
読了日:8月2日 著者:浅田次郎

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posted by 曲月斎 at 11:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする