2014年09月01日

★2014年8月に読んだ本。

2014年8月の読書メーター
読んだ本の数:17冊
読んだページ数:4542ページ
ナイス数:335ナイス

被差別部落の暮らしから (朝日文庫)被差別部落の暮らしから (朝日文庫)感想
被差別部落の問題は地域差がある。都市化の進捗でほとんど痕跡を残さぬまでになったエリアもあれば今も色濃く残っている地方もある。この1冊は長野での日々の暮らしはどう営まれてきたのか、ということを淡々と綴った1冊である。心に響く。言葉、食べるもの、衣類、仕事などなど。中でも貧困故に着たきりにならざるをえなかった暮らし、あるいは小学校で弁当を持参できない児童の話は胸が痛む。敬虔な仏教徒でありながら、逆に寺側が「差別戒名」や処遇の面で差別の淵源になっていたのには驚く。最終章は信州出身の小林一茶の句の解説。
読了日:8月29日 著者:中山英一
日本霊性論 (NHK出版新書 442)日本霊性論 (NHK出版新書 442)感想
一箇の生命体として感知できる感性を磨きましょうというのが内田の論点。人間が生き延びるために「裁き、学び、癒し、祈り」の4項目が大事であるとか、危険なものは大切なものと類似しているとか、あえて「空位」を作ることによって生まれるものの指摘など示唆に富む。ただレヴィナスが出てくると正直手に負えない感も。この感覚は一種の内田自身の法悦につながるから。釈は鈴木大拙の「日本的霊性」をテキストに「日本の宗教は空気が教義」と絵解きする。ただ個人的には阿部謹也の言う「世間論」に比べて狭い気も。あと法然&親鸞に傾きすぎ?
読了日:8月28日 著者:内田樹,釈徹宗
怨霊とは何か - 菅原道真・平将門・崇徳院 (中公新書)怨霊とは何か - 菅原道真・平将門・崇徳院 (中公新書)感想
恨みを残して死んだ人は祟る、という御霊信仰の入門書。具体的には菅原道真、平将門、崇徳院の3人を詳述し、後は後鳥羽院や後醍醐帝などを順次列挙していく。ただ新書である恨みが残る。御霊の発動の仕方とその対策を追うことが本旨であろうけど、時宗の僧が「陣僧」として戦場での回向を担当し、本来は霊魂の存在を教義に持たない禅宗が「怨親平等」と掲げて敵味方を同時に供養する宗旨となっていったことなどにもう少し筆を割いてほしかった。さらには島津氏の「高麗陣敵味方供養塔」の存在が明治期以降の忠霊塔や興亜観音につながるという点も。
読了日:8月28日 著者:山田雄司
ものの言いかた西東 (岩波新書)ものの言いかた西東 (岩波新書)感想
方言は語彙や発音の違いではなく、発想の違いであるという指摘が新鮮。人口密度、物の流通、北日本の同族組織型に対し南日本の年齢階梯型の社会組織等。背景の下に話し方が原初型から進化して社会性を帯びていく。発想が変わるから言葉も変わる。中でも時代によって変わる人口密度が大きな影響を残している気がします。というのは人口の集積の有無で、人との接触頻度が変わっていく訳ですから。筆者らが着眼点として挙げたのが次の7項目。発言性、定型性、分析性、加工性、客観性、配慮性、演出性−−委細は本を。第8章を先に読む方がいいかも。
読了日:8月27日 著者:小林隆,澤村美幸
山賊ダイアリー(5) (イブニングKC)山賊ダイアリー(5) (イブニングKC)感想
狩猟を続けていくことの難しさを感じます。結婚であったり、転居であったり。自然と身近な環境で生きるということは決して楽しいことばかりではないのですから。それと生活感に満ちた1冊になっている気がします。山菜、アメリカザリガニ、ヌートリア、ミドリガメ……。食べようとするものがだんだん陸自のレンジャー部隊のような感じになってきている気も。それとこの漫画の魅力である「地の文」が哲学的になっているような気もします。一方、身近にいる猟をするおんちゃんたちはもっと楽天的であるような。この冬の猟期もどんな経験をするのか?
読了日:8月27日 著者:岡本健太郎
愛唱歌ものがたり (岩波現代文庫)愛唱歌ものがたり (岩波現代文庫)感想
所謂「愛唱歌」の出自を探り、その作詞作曲歌手の遍歴とそのゆかりの人の証言を点綴していく、という手法を繰り返している本。新聞に連載しているときにはなかったけど、本という形になると、何ともいえない鬱屈感、違和感が募る。同じ手法を毎度踏襲していく所為だろうか。1篇1篇に込められた思いはよく分かるのだけど。まとめて読むという行為となるとつらい手法なのかもしれない。少し考えてしまった。
読了日:8月26日 著者:読売新聞文化部
完本 酔郷譚 (河出文庫)完本 酔郷譚 (河出文庫)感想
いろんなものを想起させられる。新古今集の本歌取り、能の数々「定家」「黒塚」「菊慈童」……、唐宋代、江戸時代の文人趣味、ひいては沼正三の「家畜人ヤプー」まで。数え切れないほどの先行作品や民俗学を下敷きにすることで、あたかも「文章のカクテル」が生まれる。少し囓っていれば何かの折に詞章は脳裏を駆け巡るものだ。文中で九鬼さんが慧君に振る舞うカクテルのように、読み手を別世界に誘う。本書は筆者の絶筆であると聞く。本の後半より前半の陶酔感こそこの1冊の身上だと思う。久しぶりに読んだ小説の世界、十二分に歓を尽くした。
読了日:8月25日 著者:倉橋由美子
あんこの本 何度でも食べたいあんこの本 何度でも食べたい感想
上品で美味しいあんこが食べたい。薄紫色になったような。あるいはねっとりとした黒糖の風味もいい。そんな日常的に起きている渇仰感を刺激、促進するような1冊。気軽にこういう菓子が食べられる環境にいる、というのが都会であると思う。本所一つ目の越後屋若狭、そして南青山の菊屋。ああ本当の水羊羹が變しい變しい。あと、アンパンマンの中身は粒あんであるとやなせたかしが定義しているのは初耳であったことよ。
読了日:8月24日 著者:姜尚美
学問と「世間」 (岩波新書)学問と「世間」 (岩波新書)感想
一連の「世間」の概念について、高等教育機関に於いての人文科学の発展ではどう考えればいいのかを説いた1冊。折しも大学での一般教養が廃止され、独法化がされた時期に重なる。欧州の研究を導入しても思考の停止があり、別世界の出来事のように論じられる現実を説く。打開のためには「現場主義」「生涯学習」などのキーワードを最後に提示している。日本人が本来生きている「世間」と公的な場所での「社会」。二重の世界構成が生む落差は今でも生きている。筆者はフッサールの著作を紹介しているが、個人的には佐藤直樹という人物が気になった。
読了日:8月24日 著者:阿部謹也
鮎の宿 (講談社文芸文庫)鮎の宿 (講談社文芸文庫)感想
師匠の志賀直哉葬送記を冒頭に据え、獅子文六、内田百ケンなどの作家の月旦を導入に、主に日経の文芸欄に書いた雑文を並べ、末尾は奈良京都の紀行文という結構。個人的におもしろかったのは、水交なる雑誌に寄せた一文。趣旨はサイレントネービーを旨とした旧日本海軍が時世時節の移ろうままに、妙に美化されすぎてはいないか、という戒めの一文。「アングルバー(鉄棒)でなにができる、フレキシブルワイヤー(鋼索)でなくてはいけない」と教えたことをネタに話が進むのですが、戦争体験を冷静に見る目に好感を持ちます。所謂、雑文の名手です。
読了日:8月23日 著者:阿川弘之
戦国大名の「外交」 (講談社選書メチエ)戦国大名の「外交」 (講談社選書メチエ)感想
知的な愉悦を刺激してくれる本。戦国大名というと戦に明け暮れ、粗野な人々というような先入観がある。でも実は他の領国との境界地域の人間を仲介に、自分の信頼できる部下を正使に、同盟を結んだり、中立地帯で話し合ったり、仲裁をしてもらったり。筆者の専門は甲州武田氏とのことですが、広く全国の戦国大名に目配りをして、蓋然性の高い立論を展開しています。在判か花押かという区別や書札礼という書式の様式、起請文の文言に至るまで、細かく気を配り、大義名分が立つように振る舞う。ウィーン会議で確立した欧州の外交様式にも似ています。
読了日:8月22日 著者:丸島和洋
桃の宿 (講談社文芸文庫)桃の宿 (講談社文芸文庫)感想
日経に連載した「私の履歴書」の抄録、長年の友人だった吉行淳之介、遠藤周作や、志賀直哉門下の先輩に当たる尾崎一雄の謦咳を綴ったものからなる。惜別の文章は難しい。臨終のスケッチになったり、葬式の段取りであったりと、親しいが故の難しさもあるがけど、これもまた記録文学なのかもしれない。むしろ交誼は深くないものの、向田邦子が事故死した時の感懐の味わいがいい。元々は多くの随筆集から再編してこの1冊が編まれた。単行本の頃に読んだ何編かは含まれているけど再読しても楽しい。編集者の力である。気がつけば筆者現在93歳だった。
読了日:8月18日 著者:阿川弘之
森の宿 (講談社文芸文庫)森の宿 (講談社文芸文庫)感想
淡々とした筆致と諧謔。50歳ごろに書いた文章には歯切れがいいし剽味がある。「論語知らずの論語読み」からの転戦。冒頭にある里見クの全集刊行祝賀会の逸話。案内された卓で宇野千代、小林秀雄、横山隆一ら鎌倉文士の長老らと居合わせた話や、今はなき東洋活性白土の機関車の話、船便で戦時中に赴任した上海を再訪する話などなど。そして師匠と思慕する志賀直哉への敬意が背筋を貫いているのが1冊の支えになっている気がする。説教臭と昔はよかった系が強い最近の作は性に合わないのだけど、このころの随筆は自分も影響を受けたのかと再認識。
読了日:8月17日 著者:阿川弘之
日本人の歴史意識―「世間」という視角から (岩波新書)日本人の歴史意識―「世間」という視角から (岩波新書)感想
断層のある1冊。日本文学回顧の部分と西欧の歴史の学徒のしての部分と。後者に引き摺り込むために前段がある。6〜9章を読めばよろしい。就中、9章を先に読むことをお勧めする。回りくどい筆者の論法をかなり回避できるから。言わんとするところは所謂西洋史学的「社会」という概念と、日本の民俗学的「世間」という概念は似て非なるものであるということに尽きる。後出しで被差別階層の話を持ち出してくるけど、違和感以外の何物でもない。「世間」という視角は根強いものだ。この1冊を読むにも「世間」を知りたいのが第一の動機である。
読了日:8月12日 著者:阿部謹也
論語知らずの論語読み (講談社文芸文庫)論語知らずの論語読み (講談社文芸文庫)感想
初版の再読。この版を選ぶ自分が悲しい。でも、この本と丸谷才一の「男のポケット」が我が身に及ぼした影響を考えると絶大で何も言えない。「徳ハ孤ナラズ、孤ハ徳ナラズ」と言い習わす遠藤周作をはじめ、筆者の交遊録の浩瀚さに思いをいたすしかないからだ。この文芸文庫のよろしさは解説と年譜の充実。さもなくはこの版を買う意味はない。でも(逆接が続くのは不愉快だが)この本が教えてくれたことはあまりに多すぎる。非カク三原則はさておき、今の安倍内閣に対して何で阿川は発言しないのか。「軽躁を嫌う」というのはこの人に教わったのだが。
読了日:8月8日 著者:阿川弘之
世にも奇妙なマラソン大会 (集英社文庫)世にも奇妙なマラソン大会 (集英社文庫)感想
表題作は真夜中に突如、西サハラで開催されるマラソン大会に出場を決意し、顛末をルポしたもの。むしろ、名前変更物語での悪戦苦闘ぶりに飄逸な味がある。タイから国外退去処分を受けている身ながらもう一度入国したくて奸計を巡らす話である。名前の読みを変更する、妻の姓に帰るなどなど、いろいろと取り組むものだ。最後の「謎のペルシア商人」は7編の掌編からなる。どれも読後感がサラッとしていて、なかなかの随筆に仕上がっているのがうれしい。中でも「ペルシャ商人」と「二十年後」はなかなかにホワッしている。さすがエンタメノンフ。
読了日:8月4日 著者:高野秀行
ヤバい日本経済ヤバい日本経済感想
日本を代表するエコノミストの鼎談による経済趨勢の分析本。3人がかなり高い水準(というか門外漢の私にはそう思える)で共通認識を持っているので、話のテンポについて行けない。対談本で取り残された感を味わうというのも久しぶりの経験。話は断片的な理解ながらすこぶる面白く、東洋経済の出す本は違うと思うのだけど、編集者が脚注か頭注を入れてくれないとついていけません。話し合っている方々は違和感がないのだろうけど。一つよく分かったのは経済というとすこぶる計量的に見えるけど、実は人間的な要素が左右している、のだというと。
読了日:8月4日 著者:山口正洋,山崎元,吉崎達彦

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posted by 曲月斎 at 11:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする