2014年07月01日

★6月に読んだ本。

2014年6月の読書メーター
読んだ本の数:18冊
読んだページ数:4298ページ
ナイス数:336ナイス

鹿洲公案―清朝地方裁判官の記録 (東洋文庫 (92))鹿洲公案―清朝地方裁判官の記録 (東洋文庫 (92))感想
18世紀の清朝の地方官が広東省の沿岸部潮陽県知事中の出来事を記した本。人間の性格の形成は3世代100年はかかると思うけど、単なる裁判録というより民衆の行状記として興味深い。というのは、今の中国で抱え込んでいる問題の祖型を見る思いがするからだ。癒着してクズ米を売る、墓を暴いて強請りの種を作る、豚の血で書いた血書を利用したり、結納金目当てで重婚させたり、邪教をネタに金稼ぎしたり。そんな曲者を彩る三百代言、学生崩れ……。裏仕掛けで動く上司の横車で解決できなかったことも。中央集権、法治国家、官僚制の面目躍如。
読了日:6月29日 著者:藍鼎元
大空襲と原爆は本当に必要だったのか大空襲と原爆は本当に必要だったのか感想
筆者は英哲学者。第2次大戦下での独、日での地域爆撃、原爆投下の是非について論じた1冊です。しかも英側の史料のみを駆使し、ハンブルグ空襲を中心の例に無差別爆撃は非効率で非人道的なことを論証していく。「死者を減らし、戦争を短期化するのが目的と言われた。このような非人道的手段を正当化するのは力は正義なりというナチの哲学と同じ」という一文を引く。都合が悪くても自国の歴史を直視する姿勢こそ、成熟した市民の姿勢であることを示す。さて読後、浮かんだこと一つ。会津藩内の子供の掟の一条だ。「ならぬものはならぬのです」と。
読了日:6月23日 著者:A・C・グレイリング
書物の達人 丸谷才一 (集英社新書)書物の達人 丸谷才一 (集英社新書)感想
読みの達者が論じるとこうなるのだろうけど、個人的には和歌、民俗の専門家の岡野弘彦、歌舞伎の見巧者・関容子の章が一番面白かった。多分、丸谷才一は小説家ではなく随筆家として見ている自分のゆえだろう。だから逆にほう、そんなものかと思い知ること点も多々。文中で「作家は処女作に向けて熟成していく」という亀井勝一郎の言葉を鹿島茂が紹介しているけど、少なくとも丸谷の随筆は「男のポケット」に向かっての歴史だったのは実感している訳で、なるほどと思ったり。元は世田谷文学館での連続講演で才人丸谷の全体像を振り返るに好個の1冊。
読了日:6月23日 著者:川本三郎,湯川豊,岡野弘彦,鹿島茂,関容子
野球の国 (光文社文庫)野球の国 (光文社文庫)感想
昔。日本ではあることないことを繋ぎ合わせて書くような夕刊紙の元記者や週刊誌記者の野球の読み物しかなかった(スポーツジャーナリズムなんていう言葉のない時代だ)。同じころ、米国にはロジャー・エンジェルのような書き手がいた。駆け出しの野球記者だったころ、そんな空気に憧れて、大洋のキャンプ地・宜野湾球場のスタンドに座った朝を思い出す。玉木正之と初めて会ったのもその頃。奥田のこの本を読んでいて、そんな時代を思い出した。この本の題材は内容はいささか時代を感じさせるけど、野球の力っていいなあ、と思うのであります。
読了日:6月22日 著者:奥田英朗
泳いで帰れ (光文社文庫)泳いで帰れ (光文社文庫)感想
シドニー五輪観戦記が村上春樹の「シドニー」なら、アテネ五輪はこの1冊だ。中畑が代理指揮を執った野球の話題を縦糸に、柔道や陸上の観戦やアテネでの日々、観客席での席取りから埒外で起こっていた体操男子団体の優勝まで。本当のテーマは「旅の効用」だ。「思い切って出かけると多少は利口になって帰ってくる。行って損したと思ったことはない」といい、「旅の経験は心の中で推敲される。大半の出来事が忘れ去られ、ほんの少しの出来事が記憶として残る」と。表題は日本野球が銅になった時、筆者の思い付いた罵声。こんな風にいえる客が欲しい。
読了日:6月21日 著者:奥田英朗
用もないのに (文春文庫)用もないのに (文春文庫)感想
北京五輪の野球−−天安門では「世界人民大団結万歳 やや不安な感じもする。日本人は団結する恐ろしさを六十数年前に知りましたから」と記す。「わたしは、コメント欲しさに媚を売るぶら下がり記者ではない。ドラマを捏造してスポーツを汚すな」なんていう記述は胸がすく。ニューヨーク漫遊記、楽天の仙台初戦ルポ、雨の中のフジロック等々ルポの名手である。富士急ハイランドのフジヤマ行は「現役意識とはいつ決別しなければならないのか」という警句で始まる。巧い。就中「四国お遍路歩き旅」は秀逸。道路縁を肩身狭くあるく姿。将に実像である。
読了日:6月20日 著者:奥田英朗
港町食堂 (新潮文庫)港町食堂 (新潮文庫)感想
この本を薦めてくれた後輩に感謝。面白い。文が短くリズムがいい。不思議な口語調で真似できそうでできない。物を食べてばかりいる感じだけど警句が混じる。「旅は人を感傷的にする。そこで暮らす人にふれあいを期待するのはありていに言って図々しい。少なくともわたしはその温度差に自覚的でありたい」とか「独り者は不便じゃ」とか。女川を訪ねた時は「さびれた漁村でいくのか、原発を受け入れて豊かな生活を手にいれるのか。原発に万一のことがあったときは町ごと滅びる」−−2005年刊の本だけど、3・11後はどう思ったか、興味がある。
読了日:6月19日 著者:奥田英朗
坂元雪鳥能評全集 (1972年)坂元雪鳥能評全集 (1972年)感想
読み終わったのはこの本の底本になった方の畝傍書房版。1943年、戦雲急を告げる中でよく豪華な造本の本がつくられたと思うほど。
読了日:6月18日 著者:坂元雪鳥,秋葉安太郎
未完の憲法未完の憲法感想
2013年の本。2人の憲法学者が語り合った内容は今も新鮮。でもそれ以上に政治が憲法を無視した形で進むもどかしさ。「法の支配というものは専門の法律家であれば誰が解釈しても同じ結論が出る。それが法の支配で、人の支配ではない。人に法解釈を任せる人は法の支配という概念が分かっていない」と木村は断じているのだけど。序段の章にある「立憲主義」には「立憲君主制」に根差したものもあるという指摘が当たっていたというべきか。解釈改憲をした後、何がしたいのか? そんな程度のビジョンもないいまま流れていく怖さを改めて感じる。
読了日:6月17日 著者:奥平康弘,木村草太
天切り松闇がたり 第五巻 ライムライト天切り松闇がたり 第五巻 ライムライト感想
文庫化が待ち切れずに珍しく単行本を買う。9年ぶりの新刊、歌舞伎の渡り台詞を読んでいるような独特のリズムは健在。6篇収められている中では前3篇がいい。義理を通すという立場で有無を言わさぬ筋を通す話、惚れられた男の思いを受け止めつつサラリと人情を切り分ける手筋、希代の箱師が見せた恩と、どれも長短付けがたい。山田風太郎の明治ものに似て、思わぬ時代の綾を綴って縦横に織り重ねていく虚実が背景にあるところへ、登場人物の立ち居振る舞いの水際立った様が爽快感を生む。やはり文庫化まで待たずに良かった。そう思える浅田の1冊。
読了日:6月14日 著者:浅田次郎
ビゴーが見た日本人 (講談社学術文庫 (1499))ビゴーが見た日本人 (講談社学術文庫 (1499))感想
仏人戯画家、というラベルを貼ってしまっては実像を見誤る。正統的写実派の画業を修め、浮世絵の文化を探りたいと来日した御仁で、写実的な作風から写真が一般的ではなかった時代の世相を映す作を残しているのだ。新聞でも画家が腕を振るっていた時代である。ただ、この人は小心な皮肉屋だったみたいで、日本の姿を戯画的に描かずにはおれなかったのだろう。所収している市井の人間の姿を見ると文明国からの上から目線ではあるけど当時の日本の姿は伝わってくる。なお「絵で書いた日本人論−−ジョルジュ・ビゴーの世界」(中央公論社刊)の改題。
読了日:6月13日 著者:清水勲
『枕草子』の歴史学: 春は曙の謎を解く (選書916)『枕草子』の歴史学: 春は曙の謎を解く (選書916)感想
期待していたほどの「読んだぞ」感はなかった。昔の国文学徒とすればこういう読み方はごく当たり前のことで、公卿補任、尊卑分脈といった基礎文献から小右記のような公家の日記に至るまで博索、短い文章に記号の如く書かれる人物像を探り当てたり、年代同定をしたり。この本の親身はそれを部立てにしてみせたことだろう。言い換えれば枕草子の諸本の中で、雑纂本と類纂本があるように、この本は筆者の恣意による「堺本」といった風情だった。推論は推論で結構だけど、同じ朝日選書でも角田文衛の「平家後抄」を読み終えた時のような驚きには薄い。
読了日:6月12日 著者:五味文彦
唐物の文化史――舶来品からみた日本 (岩波新書)唐物の文化史――舶来品からみた日本 (岩波新書)感想
「舶来品」という言葉が価値を失って久しいけど、正倉院御物から王朝文化の時代、平清盛の日宋貿易、足利義満の日明貿易、そして江戸時代の出島での交易に至るまで、さまざまな局面で「舶来品」が日本の文化に彩り、影響を与えてきたのは言うまでもない。この言葉をキーに日本史をスパッと唐竹割りにした1冊。割れた竹の中にはいろんな文物が詰まっている。窯変天目れあれ、銘馬蝗絆(かすがいで継いだ青磁)の碗であれ、珍重し、受け入れるだけでなく自分の価値観に合わせていくところが面白い。何とも実直な書きぶりで、好感がもてる内容。
読了日:6月12日 著者:河添房江
日本国勢図会〈2014/15〉―日本がわかるデータブック日本国勢図会〈2014/15〉―日本がわかるデータブック感想
この本を読むのは38年ぶりだ。高校の地理の授業で使って以来。当時、恩師は「統計だけでなく地の文が面白い」と言ったがその通りだ。本のネタを拾っていけば優秀な代議士も勤まる。国土と気候から始まって人口、エネルギー、産業、貿易、物価、財政、サービス、社会福祉、環境、防衛まで網羅している。中で面白いのが波線で囲われた解説欄。要旨簡潔だ。ウクライナ情勢、領土問題の経緯、今冬の豪雪、電力システム改革、3Dプリンター、ジェネリック家電、消費税の歩み、特殊詐欺等々。数字に目を転じればまた刮目。地に足が付いた知識の宝庫だ。
読了日:6月8日 著者:
江戸の備忘録 (文春文庫)江戸の備忘録 (文春文庫)感想
元々は朝日新聞土曜版の連載。連載のゆえに、1篇の分量が少ない気もする。ネタはふた転がししてオチをつけるとちょうどおもしろい寸法のような気がするのだけど、そのリズムには少しかける。それでもなお面白いと思うのは古文書を読み込んでいること、そして時空を超えての比較があることだろう。例えば公務員定数の問題、織豊時代から太平洋戦争下、あるいは戦後にまで目を配っての比較や、江戸時代の少子化対策、あるいは庄屋総選挙などなど、筆者の取り上げるエポックが今の時代に問いかけるものは多い。今に引き付ける力が興趣の原動力である。
読了日:6月7日 著者:磯田道史
どちらとも言えません (文春文庫)どちらとも言えません (文春文庫)感想
スポーツをネタに縦横無尽に筆を進めた随筆集。元々はナンバーの連載だったという。時期とすれば前回のW杯前後。奥田が一番言いたいことは、最後の1篇、スポーツはやって楽しく、見て楽しく、話して楽しい--それを実践したのがこの1冊である。北の湖や江川に見る悪役の存在感、野球には向いてもサッカーには向かない(と筆者はいう、僕もそう思う)という立論、あるいはプロ野球の選手権試合が国民的行事だった時代の話など、昭和の匂いをどこかに身にまといながら、単なる思い出話に終わらせないところが技だろう。真夏の剣道部の叙述は出色。
読了日:6月5日 著者:奥田英朗
日本語スケッチ帳 (岩波新書)日本語スケッチ帳 (岩波新書)感想
1篇2〜3ページほどの掌編が続く。拾い読みもよし、通読もよし。個人的には「米を炊く、大根を炊く」「米を炊く、大根を煮る」「米を煮る、大根を煮る」という地域別の使い分けにみる言葉の伝播の話や、ポツダム宣言発表時の鈴木貫太郎内閣の発言が「黙殺する→無視する→拒絶する」と変じた翻訳の綾であったり、「カード、カルタ、カルテ」と用途によって変じる日本語の不思議であったり。筆者の視点が単に国内にとどまらず、海外から見た時の「日本語」であることがスケッチに陰影を与えている。何冊か読んでみたいと思った本も出てきた。
読了日:6月2日 著者:田中章夫
日本語の考古学 (岩波新書)日本語の考古学 (岩波新書)感想
国文専攻の授業のような内容です。定家本土左日記を題材にした授業を思い出してしまった。中で「最終章のテキストの完成とは」という項目が一般的に受け入れられる題材かも。たとえ版本でも書き込みをすることで初めて完成するし(謡本なんてつい最近までそう)、今の活字本でも表記の変化が続いている訳で、文字の大きさや行が揃っているという状態は長い歴史の中ではほんの短いことでしかないのだという指摘。今はテキストファイルが原初形になり、電子化が進むとなれば、どう享受されていくのだろう、と思ってしまいます。形が残らないのだから。
読了日:6月1日 著者:今野真二

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posted by 曲月斎 at 21:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする