2014年02月01日

☆2014年1月に読んだ本。

2014年1月の読書メーター
読んだ本の数:16冊
読んだページ数:4251ページ
ナイス数:282ナイス

辞書を編む (光文社新書)辞書を編む (光文社新書)感想
辞書系解説本3冊目。岩波新書が書店の編集者なら、これは昨年12月発売となった三省堂国語辞典(三国)7版の編纂者(言葉を採集、項目を執筆、整理、改訂する)で同時進行ドキュメント状態で書いている。国語辞典の特色(用例重視の実用主義か、正統的な日本語の用語用例を示すのを重んじる規範主義か)をどこに置くのかを基本に自身が携わっている三国の考えを元に執筆、発想の展開、集約はどうしているのかがよく分かる。一番、辞書作成の裏方の実務を知るには好個の1冊であろう。また文末の電子辞書時代の辞書像の話は一つの解かもしれない。
読了日:1月31日 著者:飯間浩明
辞書の仕事 (岩波新書)辞書の仕事 (岩波新書)感想
岩波書店の辞典編集部に30年余、籍を置き、広辞苑や岩波国語辞典の編集に携わってきた方が筆者。辞典編集という一般からは見えにくい世界の話、1編大体4ページほどの寸法で1話読み切りの形式で続いていく。見出し語の立て方、用紙の問題など、中の人ならではの視点も楽しい。言葉は常に変化していくし、最近で分かり易いところでいえばジェンダーの問題もあった。去年評判の「舟を編む」ではないけど、1語1枚のカード拾い出しから始まっている作業の積み重ね。国語辞典の頂点の日国まで、独自の色を見せた辞典が各々版を重ねる幸せを思う。
読了日:1月30日 著者:増井元
〈辞書屋〉列伝 - 言葉に憑かれた人びと (中公新書 2251)〈辞書屋〉列伝 - 言葉に憑かれた人びと (中公新書 2251)感想
銀行マンから学者に転身した経歴で読みやすい文章。辞書に生涯を捧げた人々の列伝とその余話。OEDの成立から、母語を作り出したヘブライ語辞典、歴史の波の中で見直されたり、弾圧されたりと多彩な歴史を辿ったカタルーニャ語辞典、メキシコへの棄民(移民に非ず)が生んだ西日辞書、大槻文彦が作り上げた言海。コツコツという言葉が似合う作業、ヒト癖フタ癖ある人々の話は面白い。筆者自身の体験談の部分はホホウと思う。見坊豪紀と山田康雄の確執、白川静の苦闘、諸橋轍次の意気込み、などなど、1冊の辞書に込めた執念と文化を思う。
読了日:1月30日 著者:田澤耕
山口晃作品集山口晃作品集感想
後に自身が「判型が小さかった」と認めている通り、いくらルーペがついているとはいっても、細かい描画が得意の作者にとっては不本意だったろう。それにしてもすごい。どうすごいのか。日本の絵画の伝統的な手法、大和絵風だったり、狩野派だったり、それを換骨奪胎して、自分のテクニックとして自在に描いている点。馬とオートバイが自然に合体していたり、吹抜屋台であったり、透視図であったり。画材が油彩カンバスと書いてあるのが不思議な感じの絵が見られる。遊びとして、波板の茶室だったり、違い棚を作ったり。本当に多才異彩。
読了日:1月29日 著者:山口晃
日本経済の故郷を歩く(下) (中公文庫)日本経済の故郷を歩く(下) (中公文庫)感想
江戸時代までの、人文科学系に関して自覚的な著作や実践例を残した人物の縁の地、ふるさとであったり、任地であったりを訪ねて、思いを致す、という趣向の1冊。文章は引用が多く、それを読むことが苦になる訳ではないが、必要以上に「ご教訓」臭くなってしまう嫌いがあるのは残念。ただ、日本史の教科書では通り一遍にしか触れられることのない、海保青陵とか、石田梅岩、太宰春台、安藤昌益など、著作を読んでみたくなるのもまた事実。昔、岩波書店が出した「日本思想大系」(今となっては揃いでも安いので)をポチリそうになったけど、自粛専一。
読了日:1月27日 著者:舩橋晴雄
満州辺境紀行―戦跡を訪ね歩くおもしろ見聞録 (光人社NF文庫)満州辺境紀行―戦跡を訪ね歩くおもしろ見聞録 (光人社NF文庫)感想
旧満州国安東(現・丹東)で昭和12年に生まれた筆者が旧満州を駆け巡る。それも大連〜奉天〜新京といった満鉄の幹線の旅行記ではなく、その先の哈爾浜、満州里、ハイラルといったソ満国境や、綏芬河、牡丹江から図們、鴨緑江にでて、水豊ダムから河口の新義州、安東まで。およそ主流の満州旅行記とは一味違う。幼稚園の作文+司馬の街道をゆくに、敵中横断三千里を振りかけ、郷土史風にしたものか。読んでいて、焼津の元市長のTさんの思い出話を思い出した。失われた故郷への愛惜というか。Tさん、元気だろうか。
読了日:1月22日 著者:岡田和裕
山口晃 大画面作品集山口晃 大画面作品集感想
参りました。山田芳裕の剽味と圧迫的な描法、井上雄彦のような力感。それらの要素を統べる山口画伯の筆力と機知。就中、「邸内見立洛中洛外図屏風」。屋敷1棟をすべて洛中洛外に見立てるのですが、「辶」だけ書いて真如堂、2畳の座敷で尉が舞って二条城という諧謔や床の間の置物に同志社の校章を置いたり、「妙法」の行灯の下に「鏡台」で京大とか。見立ての藝は見事。さらに千躰佛造立之図の「ピタゴラスイッチ」のような味わい、四天王図の雄渾さ、平等院養林庵の襖絵の「南無阿弥陀仏」の薄墨での散らし書き。例を挙げれば切がない。降参!!
読了日:1月21日 著者:山口晃
ヘンな日本美術史ヘンな日本美術史感想
画家、冷静に技法が分析でき、駆使できる筆者が書く日本美術史。面白くない訳はない。雪舟の慧可断臂図での顔の構成の不思議、天橋立図から見る展開描法との乖離、洛中洛外図屏風で上杉本、舟木本、高津本の比較や間を埋める金雲の意味、明治以降では歴史から消えた河鍋暁斎、月岡芳年、川村清雄を取り上げるセンスも見事。信貴山縁起絵巻と一遍上人絵伝を材料に紙本と絹本の絵の違いを指摘するなど、成程の連発間違いなし。日本の絵画に欠落してきた透視遠近法に代わって「奥行き」という概念が重きをなしたとの見解も納得。今年最初の5つ星本。
読了日:1月19日 著者:山口晃
江戸時代の身分願望―身上りと上下無し (歴史文化ライブラリー)江戸時代の身分願望―身上りと上下無し (歴史文化ライブラリー)感想
江戸時代というと身分制度が固定化し、武士階級とそれ以下が兵農分離した時代と教科書では教える。でも実はそうではなく、士族階級への上昇を願う「身上がり」願望と、逆に平等、自由な世界を願う「上下なし」の志向が錯綜していたのがわかる。徳川氏の支配体制の確立後も、幕末の新撰組の背景も。階級意識はあらゆるところに存在した。ただ「一君万民」「お上意識」と言った儒教的平均化願望は西欧のような極端な階級格差を生みはしなかったとはいえ、所詮、民本主義ではあってもと民主主義は根本的に相容れない、という言説をもう少し読みたかった
読了日:1月15日 著者:深谷克己
町村合併から生まれた日本近代 明治の経験 (講談社選書メチエ)町村合併から生まれた日本近代 明治の経験 (講談社選書メチエ)感想
正直言って難解。何故かと言えば、筆者の目指す概念が結論に至っても抽象的だからだ。曰く「グローバリゼーションと国民国家が、無境界的暴力と境界的暴力が相互に依存し合いながらわたしたちの暮らしに大きな暴力をふるい続けている」のが危険、というのがその言説。要は地縁的な世界から、他の世界の一部分になった相剋を語りたいらしいのだが、為政者側の法制論を後付けしているだけでは目線が下がらない。典型的な事例を追跡して見せた方が同じテーマを書くにも分かり易かったと。ちょっとテーマを精選して具体例右矢印1︎抽象化、というステップを。
読了日:1月14日 著者:松沢裕作
別れの挨拶別れの挨拶感想
「男のポケット」以来のお付き合いだから丸谷才一とはもう40年近くなるだろうか。向後、文庫化されるかどうか分からぬので、香典代わりのつもりで単行本を購入。筆者の編集の目が入っていない遺稿集ゆえ、やや雑駁な感があるものの、筆捌きは丸谷才一の風気が感じられてよかった。ただ随筆など、論理の展開がやや削り切れていない感じでまどろっこしいけど。長年のコンビの和田誠の装丁が秀逸。長いあいだ、楽しませてもらいました。この人の文体の影響は大きいかもしれない。
読了日:1月11日 著者:丸谷才一
考証要集 秘伝! NHK時代考証資料 (文春文庫)考証要集 秘伝! NHK時代考証資料 (文春文庫)感想
NHKの職員向け資料が底本。楽しいけど、そこまで気をつけているのかとも。たとえば地球儀。戦国時代の時代劇に登場させる地球儀に豪州が描いてあれば間違い(豪州の発見は17世紀初頭だから)とか、敵味方の駒の色分けは旧軍も自衛隊も自軍は青、敵は赤だとか、鍋焼きうどんもきつねうどんも出現は明治に入ってからとか。「興奮する」は「血が上る、のぼせあがる、その気になっちまう、妖しくなっちまう」とか。「目から鱗が落ちやした」と江戸っ子が言ったら隠れキリシタン、と言ったり。小姑のような感もあるが、嫌みにならぬのが筆者の徳か。
読了日:1月7日 著者:大森洋平
紅白歌合戦と日本人 (筑摩選書)紅白歌合戦と日本人 (筑摩選書)感想
紅白歌合戦は見る。でもかつてのように、ずっと見る訳ではなくチャンネルを回しながら。テレビは1人に1台の時代だ。筆者と同じ年の生まれ、ほぼ同じように紅白は受け止めてきたと思う。で現況を考えるにさて筆者の言う「紅白歌合戦は日本人の安住の地」たり得ているのか。大上段に振りかぶる勇気はもてない。送り手の意図はどうあれ、受け手の側は変わっている。ただ史料を博索した跡が見え、時代の空気を振り返るのにはいい読み物。嗜好の分散化を重ねてきた日本の戦後史で、「全国民普く愛唱する歌」がない世の幸せというのもある、と再確認。
読了日:1月6日 著者:太田省一
カネを積まれても使いたくない日本語 (朝日新書)カネを積まれても使いたくない日本語 (朝日新書)感想
大学時代、語学研究所という組織があって日本語の授業があった。中で【敬語表現】という講義、大学時代で一番まじめに受けたかもしれない。当時、川口義一先生は今のような敬語の乱発状況を想定していなかっただろう。特に官吏や政治家が使う「汗をかく」「しっかり・きっちり」「してございます」「認識しております・把握しております」「緊張感をもって」「重く受け止める」等々、敬意がないのに使われる敬語表現は実に嫌だ。コンビニ敬語も以下同文。病院の「様」連呼も。内館牧子らしい啖呵、その意気やよし。ただ少々羅列的なのが難。
読了日:1月2日 著者:内館牧子
ビジネスを蝕む 思考停止ワード44 (アスキー新書)ビジネスを蝕む 思考停止ワード44 (アスキー新書)感想
もっともらしいのだけど、マッチポンプではないのか、という気もする。というのは俎上に上げている言葉を見るにつけ、振り回してきたのはどの業界だったかということを思うからだ。挙げている言葉を拾えば、曰く「顧客第一」にしろ「差別化」にしろ、「品質がいい」「多様性」、カタカナ系なら「ターゲット」「イノベーション」「リサーチ」「コンプライアンス」「グローバル」「ブランド」。ひらがな系なら「しかたない」「がんばれ」「できない」「かんがえる」等々。自分たちが推奨して自分たちでくさせばキリがない。筆者は博報堂BD。
読了日:1月2日 著者:博報堂ブランドデザイン
地図で読む昭和の日本: 定点観測でたどる街の風景地図で読む昭和の日本: 定点観測でたどる街の風景感想
明治以降というか、特にこの本の題名にある昭和以降という区切りで、日本という国は劇的に変わってきた。冷静に変遷を記録してきたのは地形図だ。国土地理院(陸地測量部時代を含め)の大縮尺の地形図、1万とか2万の縮尺の地形図は確かに興味深く、さらに郷土史、社史、時刻表まで動員して読み解く作業は楽しい。地図は見るものではなく、読むものであって、そんな楽しさを教えてくれる1冊。今は旧版の地図は謄本請求で入手できるし。何よりこの本が書き下ろしではなく、白水社のHPの連載コラムから生まれた、というのが、時代を感じる。
読了日:1月2日 著者:今尾恵介

読書メーター
posted by 曲月斎 at 17:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする