2018年04月02日

★2018年3月に読んだ本。

3月の読書メーター
読んだ本の数:11
読んだページ数:2855
ナイス数:463

日本問答 (岩波新書)日本問答 (岩波新書)感想
感想が難しい1冊。日本で複線的に(筆者は「デュアルでリバース」という術語を使う)事態が進行してきたことを種々の例を挙げながら語らっていく。自分の断片的な知識をフル稼働して追いつくはずもないけど、この本の示唆で手を伸ばしてみようか、と思う本が何冊もあったのは事実。個人的には8章の「日本の来し方・行く末」から読む方がいいかも、と。2人の考えの後付けから理解しないと。あと、松岡の本は面白そうなのだけど、閊える理由が分かった気もする。というのは概念を表象する英語が理由で、もっと割註を入れてくれたらいいのに、と。
読了日:03月31日 著者:田中 優子,松岡 正剛
技術の街道をゆく (岩波新書)技術の街道をゆく (岩波新書)感想
ダム造りと酒井田柿右衛門の磁器づくりの共通項を探ったり、銑鉄→転炉→鋼材という一貫生産と鑪製鉄の技術を比較したり。筆者が出掛けてルポしていく。発想が興味深い。津波関連でも田老町の津波堤の話が出てくるが、知識と行動との間に聯関ができるかどうかはなかなかに難しいのが興味深い。あと、筆者が強調したいのが時間軸の概念。作業は直列つなぎで進めるような気分になるが、時間軸を考慮すれば並列つなぎで進めた方がいい。ただ、最終章の発想法の項目は本書のトーンにはそぐわない。再々筆者自身が書いているように、別の本を読めばいい。
読了日:03月26日 著者:畑村 洋太郎
空気の検閲 大日本帝国の表現規制 (光文社新書)空気の検閲 大日本帝国の表現規制 (光文社新書)感想
曰く「加納部隊長は死の直前軍旗をにぎらせてくれといつたから、軍旗をにぎらせるとにつこり笑つて死んだ」が事前検閲を通すと「○○をにぎらせてくれといつたから、○○をにぎらせるとにつこり笑つて死んだ」となった。伏字で却って卑猥でもあり不思議でもあり。新聞紙法、出版法に基づく内務省の検閲の一側面だ。寧ろ戦後のGHQによる検閲は徹底していた。筆者のいう「空気の検閲」とは言い得て妙の関係だったように思う。検閲する側・される側、双方忖度の産物が戦前戦中の検閲制度だったのか。放送禁止歌に通じる自主規制の感覚、今も。
読了日:03月25日 著者:辻田 真佐憲
墓石が語る江戸時代: 大名・庶民の墓事情 (歴史文化ライブラリー 464)墓石が語る江戸時代: 大名・庶民の墓事情 (歴史文化ライブラリー 464)感想
墓石の悉皆調査で歴史を探ろうという画期的な1冊。筆者は弘前などの津軽地方や北海道の松前、江差、海路で繫がっていた福井の敦賀、小浜、三国などの墓石を調べ上げ、人口動態や災害、疾病の流行、物流や家族像などを考察していく。墓石は位置が動かず、多様で紀年銘がある。過去帳や人別帳など他の資料と照合すると見事な史料になる。地道な文字の拾い起こしを続けたことで、生の人の動きが浮き彫りになる。家の観念が変化し、墓じまいなどの話題がのぼる昨今。筆者の地道な研究は翻って今の日本人の葬制観のみならず、生活観を映し出している。
読了日:03月23日 著者:関根 達人
古代の都と神々―怪異を吸いとる神社 (歴史文化ライブラリー 248)古代の都と神々―怪異を吸いとる神社 (歴史文化ライブラリー 248)感想
神社という装置について、飛鳥〜平安期に亘って考察した1冊。氏族の信仰装置はあったにせよ、都市の成立と共に変容していく。王権による地方の神社の系列化、王家の宗廟とされる神宮の位置と皇統の継承などに関わり、認定される祭祀の場に出現するものから、社に閉じ込められるものに変わる。行く先々で名が変わる春日社や、どこに出現しても八幡社となる信仰形態が出現。平安京の成立に至っては官幣の二十二社制や、法相、天台、真言の各宗派の影響での御霊信仰や神仏習合が起きる。今の神社の存在は、実は大きな変容の果て、なのかもしれぬ。
読了日:03月22日 著者:榎村 寛之
畜生・餓鬼・地獄の中世仏教史: 因果応報と悪道 (歴史文化ライブラリー)畜生・餓鬼・地獄の中世仏教史: 因果応報と悪道 (歴史文化ライブラリー)感想
中世に生きた人の宗教観を説話集等から探ろうという1冊。題材は今昔物語、沙石集などの説話や絵巻等。今の極楽と地獄という二分ではなく、悪道が畜生、餓鬼、地獄と細分化され、責苦の種類も観念されていたというのが不思議だ。また、前九年の役の源頼義が回向で成仏でき、後三年の役の義家が堕地獄したという考え方や、観応の擾乱で高師直らを討った足利直義が報いで非業の死を迎えるとか、因果を理屈として受け止められていたのが興味深い。あと万能の存在の地蔵菩薩。こんな風に獄代受苦は勿論、功徳を説かれれば信仰しておかない手はあるまい。
読了日:03月21日 著者:生駒 哲郎
陰謀の日本中世史 (角川新書)陰謀の日本中世史 (角川新書)感想
立大の一般科目としての講義録が底本。歴史学は人文科学で「科学する」範疇に入る学問。歴史の分野で陰謀論を振り翳す時の陥穽のパターンを示した。俎上は保元平治の乱から関ヶ原までだが、筆致に生彩があるのは室町期の章だ。曰く類型に「結果から逆行して原因を引き出す」「因果関係の単純明快すぎる証明」等々。暗記科目ではなく、歴史を学ぶ本当の意味を示す1冊となっている。同時に明治以来の歴史学の深化に触れている部分に学者としての矜持が覗く。「猫に鈴」というが、二元論的な論理に振り回されがちな今だからこそ、必要な1冊といえる。
読了日:03月20日 著者:呉座 勇一
壬申の乱と関ヶ原の戦い――なぜ同じ場所で戦われたのか (祥伝社新書)壬申の乱と関ヶ原の戦い――なぜ同じ場所で戦われたのか (祥伝社新書)感想
今でも日清どん兵衛の出汁の分岐点は関ヶ原と聞く。関ヶ原を舞台に起こった戦い壬申の乱、北畠顕家の戦い、関ヶ原の戦いを日本の東西の構図に落とし込んで見れば、という1冊。もう1点は戦いをやる必然の明確化。誰と誰が何のために仕掛けたのか。当たり前のことを手がかりに読み解く。内容に新味は薄いが、この立論の仕方が明解で、読み手は納得させられる。東西の境界は他にも、木曽三川や浜名湖、親不知子不知とあるが、全国一律と考える方が無理なのは当然。この一連の立論の向こうには権門体制論に対する東国国家論の意図、進化が見える。
読了日:03月11日 著者:本郷 和人
物語 フィンランドの歴史 - 北欧先進国「バルトの乙女」の800年 (中公新書)物語 フィンランドの歴史 - 北欧先進国「バルトの乙女」の800年 (中公新書)感想
日本から一番近い欧州・フィンランド。母語として瑞典語、芬蘭語を話す民からなり、スウェーデンとロシア、挟まれた位置から、両国の影響を受けながらの歴史を重ねてきた。アジアで言えば冊封体制のような。特にロシアの影響下から、二月革命、十月革命の起きた1917年に独立。以降も独ソの均衡の中で、或いは東西冷戦下で、独立を守った。トップの微妙な舵取りが絶妙で感服するしかない。冷戦終了後に市場経済に転換していく。木材資源の国から今の姿へと変貌したのもまた、入念な準備がある。女性の社会進出も然り。十二分に他山の石である。
読了日:03月09日 著者:石野 裕子
帝都防衛: 戦争・災害・テロ (歴史文化ライブラリー)帝都防衛: 戦争・災害・テロ (歴史文化ライブラリー)感想
人が集まった場所には騒乱が起きる。帝都東京で人が混乱した歴史を点綴していく。日比谷焼き打ち事件以降、内務省系の警察、陸軍の憲兵を始めとした武力、さらに東京府と東京市の二重行政の話と進んでいく。本書の要の空襲対策。ここで二重行政の解消が進み、防空法が登場。多くの犠牲を生む構図が生まれる。本書を読んでも、重慶爆撃でやる側の経験を、独ハンブルク空襲以下の戦訓を、学ぶことができたのに、何で生かせないのか、と改めて思う。「地震と違い、空襲は覚知できる」と言い放った結果を思うに。桐生悠々以来の予測は十分可能だったが。
読了日:03月07日 著者:土田 宏成
イスラームの歴史 - 1400年の軌跡 (中公新書)イスラームの歴史 - 1400年の軌跡 (中公新書)感想
モハメットの生涯に始まって、中東での盛衰とイスラム教、そして近代化を果たした欧州との角逐、瓜分された後の現代の話まで見事な通史です。スンニ派、シーア派などの分立については日蓮宗の分立してきた姿を代入しながら読みました。本書の核になる部分は5章「戦うイスラーム」以降。西欧の築いた政教分離や、その反動の原理主義の出現など。イスラムへのマイナスイメージは誤りであることを自然に説く筆運びに脱帽。分からない用語、人物名が出てきたら巻末の注釈、索引、年表を見るべし。イスラム世界を主語にした世界史は別の視点を生みます。
読了日:03月03日 著者:カレン・アームストロング

読書メーター
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2018年03月02日

★2018年2月に読んだ本。

2月の読書メーター
読んだ本の数:6
読んだページ数:1341
ナイス数:245

貴の乱 日馬富士暴行事件の真相と日本相撲協会の「権力闘争」貴の乱 日馬富士暴行事件の真相と日本相撲協会の「権力闘争」感想
成程ね、という内容。相撲協会、いや、相撲会所は力士が主体でも、力士以外が運営に介在してきた。番付版元、相撲茶屋等々。その後の歴史で、力士出身以外の人間には権限を持たせない方向で組織を変えてきた。一方、実務を担う面で、事務方の存在は不可欠。相撲協会は人材に恵まれなかった。本書で俎上に上がるのは小林慶彦氏。専横に対し、外部の人間を掌握するだけの力量が、在京の理事に乏しかった結果がこの混迷の原因。事務方にの管掌事務を把握できる取締、頭取=つまり理事が不在だったということ。「ハサミは遣いよう次第」といえるような。
読了日:02月25日 著者:鵜飼 克郎,岡田 晃房,別冊宝島特別取材班
日中戦争―和平か戦線拡大か (中公新書)日中戦争―和平か戦線拡大か (中公新書)感想
筆者1924年生まれ、「日中十五年戦争史」の筆者1925年生まれ。この世代ならではの臨場感が行間に覘く。ただ、歴史は人の営みである以上、内外の政府、軍部の動きを詳述しようとすればするほど、彼らの判断の背景が大事に思えてくる。文中、1944年1月に三笠宮が南京で行った講話(173p)を紹介している。冷静に数字を見、人の意思を判断すれば宮の発言の蓋然性は容易に理解できるだろう。行きがかり、本音と建前、蔑視など人間の奢りがこの戦いを生んだとみたい。単に個人の誤判断の累積とみることは歴史を見誤ることになると思う。
読了日:02月21日 著者:臼井 勝美
1933年を聴く:戦前日本の音風景1933年を聴く:戦前日本の音風景感想
昭和8年。東京音頭が町に流れた年。戦時中ではあるけど、まだ大陸での出来事の時代。そんな時世に流行した音楽、音を追いかけていくことで世相を描く。新民謡の登場や国際連盟脱退の式典などを通じ、地方と都会、共産党への弾圧と右翼運動の勃興などを点綴していく。手法としては新鮮だけど、掘り下げが粗い気も。最後のサイレンが皇太子誕生の奉祝歌の歌詞に登場、次の空襲の時代につながる予兆と見立てるのは興味深いが。本書のような筋立てには「ディマジオの奇跡」(1941年を描いた1冊、M・シーデル)のような筆法が似合う気がする。
読了日:02月20日 著者:齋藤 桂
日中十五年戦争史―なぜ戦争は長期化したか (中公新書)日中十五年戦争史―なぜ戦争は長期化したか (中公新書)感想
15年戦争を新書で簡潔にまとめている1冊。それぞれの節目での人事構成や、事件の一覧、或いは年表に地図と、ツボを押さえている。本文351ページの中で節目は外していない感はあるものの、本書は1996年刊。今では同じテーマで執筆された山中恒の「アジア・太平洋戦争史(上下)」(2005年刊、岩波現代文庫)や、「日中戦争全史(上下)」(2017年刊、笠原十九司、高文研)が紙幅が違うとはいえ、通史として一日の長がある気がする。その一方、旭川の聯隊で終戦を迎えた筆者ならではのあとがきが玩味すべきで、筆者の姿勢に敬意。
読了日:02月18日 著者:大杉 一雄
源氏と坂東武士 (歴史文化ライブラリー)源氏と坂東武士 (歴史文化ライブラリー)感想
系図は豊富だが、地図は少なく、頭で絵を描くのが難しいので、巻末の年表を先に押さえたい。東国で在地の豪族が蜂起→京から派遣された武家貴族が登場→そのまま東国に在留→派閥抗争あり、武力統合あり、という流れを繰り返す。中でも源頼義、義朝、義平の3世代が鍵を握っていく。本書ではその武門が姻戚関係や乳母の繋がりで結び付く様を分析していく。ただし、頼朝が鎌倉殿となった頃には旧来の勢力はほとんど駆逐されていた点、そして貴種を頭領に頂こうとする心象が今一つ、釈然とできないまま。坂東武者も生き残りは大変だったということか。
読了日:02月07日 著者:野口 実
戦前日本のポピュリズム - 日米戦争への道 (中公新書)戦前日本のポピュリズム - 日米戦争への道 (中公新書)感想
新書判で概説的ながら、「ポピュリズム」という言葉で日露戦争後の日比谷焼き打ち事件以降のエポックを綴っていく。藤野裕子が「都市と暴動の民衆史」に詳述している日本での「民衆」の誕生、そして新聞に代表される輿論形成を受けて、振幅が大きくなる。単純明解な、正論重視の方向に進みやすい性向は、今も変わってはいない。寧ろ、SNSの登場で加速している。阿川弘之が謂う「軽躁」が齎すものが、せめても日本国憲法による「箍」で納まってきたと思ってきたが、それすら今や危うい。戦争を経験した者が退場すると又、妄想が広がりやすいのか。
読了日:02月06日 著者:筒井 清忠

読書メーター
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2018年02月02日

☆2018年1月に読んだ本。

1月の読書メーター
読んだ本の数:9
読んだページ数:2450
ナイス数:607

訓読みのはなし 漢字文化圏の中の日本語 (光文社新書 352)訓読みのはなし 漢字文化圏の中の日本語 (光文社新書 352)感想
東アジアには漢字文化圏があり、母語の言語体系とは異なる漢字を書き文字として使用するに当たって、折り合いを付けなくてはいけない。便法として登場したのが「訓読み」である訳で、日本語のみならず、朝鮮語、ベトナム語などのほか、北方、西方の領域にも広がった。本書は日本語での訓読みを相対的に位置づけると共に、事例を探っていく。後者の比重が高いか。漢字文化圏もハングルやクオック・グーの登場で漢字が退場した国あり、日本のように文字制限を加えながら遣うのもあり。高島俊男の随筆を連想した。本書は一生懸命だけど、少し散漫かな。
読了日:01月30日 著者:笹原 宏之
マニ教 (講談社選書メチエ)マニ教 (講談社選書メチエ)感想
西は欧州アフリカ、東は中国まで、伝播した宗教「マニ教」。書物と絵画で信仰が広まったのに、その2つながらに完全な形で現存しない。そんな宗教の姿を復元して入門書を書き上げた筆者の手腕に敬服。西域の砂塵に埋もれた断簡から、或いはイスラムの書、キリスト教の書と、繋ぎ合わせて全体像を描いていく筆運びはクロスワードを解いていくような愉悦がある。宗教自体の理解はキリスト教徒、イスラム教徒ならぬ身には理解し切れていないのは事実だけど。どんな宗教だったかという興味より、話の展開に惹かれた1冊。語学と宗教学への造詣に脱帽。
読了日:01月23日 著者:青木 健
特攻――戦争と日本人 (中公新書)特攻――戦争と日本人 (中公新書)感想
何か肝腎のところで、体を交わされることの連続のような読後感。勿論、本書は肯定的にとらえる訳でもなく、全体像を書こうとする。だがその試みのゆえに余計にピントが甘くなった感じ。筆者は毎日新聞学芸部記者。破綻はないのだけど平板。特攻に関し、事は単純な訳で、操縦をできる技術を持つ人間を養成するには時間と金と資源が必要な訳で、できないとなれば手を出すべきものではないということ。技術がなく、粗悪な機体だから、特攻が選択肢になるというのは本末転倒。戦争に関してもまた同じ。研究者の筆とは異質で、雑観記事の連続のような味。
読了日:01月18日 著者:栗原 俊雄
鉄道が変えた社寺参詣―初詣は鉄道とともに生まれ育った (交通新聞社新書)鉄道が変えた社寺参詣―初詣は鉄道とともに生まれ育った (交通新聞社新書)感想
徒歩か馬車だけだった時代に、鉄道の出現はどれほど大きな変化だったか想像が付かない。年に1度の正月に恵方詣に出掛ける程度だった都市住民は鉄道で遠出するようになる。川崎大師に成田山、関西圏なら伊勢神宮。今に変わらぬ年始の光景が出現する。しかも新聞広告の力もあって運行が2社競合になると人気が集まる不思議。一連の動きは寺社、参詣客、鉄道会社と三方良しの社会の進化だったように思える。そして生活から旧暦が消失する後付けを示した西宮戎の記録も興味津々。心地良い読後感とともに、文化の発展とは、という問いにもなっている。
読了日:01月16日 著者:平山 昇
日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実 (中公新書)日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実 (中公新書)感想
戦争回顧では指導者層に目が向きがちだが、最前線にこそ実相がある。筆者が掘り起した細部には狂気が見える。例えば旧陸軍には歯科医師が職制としていなかったこと。中国大陸で伸びた戦線では虫歯を患う兵士が続出し、歯が欠損するのは当たり前。軍靴の材料の革が粗悪になり、縫製する糸が亜麻からスフの混紡になり、糸が腐って壊れた。軍靴ゆえの水虫や、南方でのマラリア、性病は勿論、集団生活を営んでいる中で結核を発症しても打つ手なく、戦争の極限状態が原因の精神疾患を惹起。或は員数合わせに知的障害者まで招集。傷病兵、俘虜の殺害……。
読了日:01月12日 著者:吉田 裕
仲代達矢が語る日本映画黄金時代 完全版 (文春文庫)仲代達矢が語る日本映画黄金時代 完全版 (文春文庫)感想
小林正樹、黒澤明、山本薩夫、岡本喜八、五社英雄……。邦画史を振り返る時、この人が欠かせないのは言うまでもない。五社協定など制約が多い時代だったから尚更だ。同時に、小沢栄太郎、滝沢修などアクの強い相手、三船敏郎、市川雷蔵等、渡り合った顔ぶれも錚々たるもの。中でも「天国と地獄」の山崎努、「影武者」の勝新太郎など、銀幕の向こう側からの見方も面白い。ただ、仲代自身が一方の軸足としてきた舞台が言及が少ないのが残念。せめて年譜に載せて欲しかった。「味のある役者がいた」「タレントと俳優の別が曖昧」などの苦言が効く。

読了日:01月11日 著者:春日 太一
通じない日本語: 世代差・地域差からみる言葉の不思議 (平凡社新書)通じない日本語: 世代差・地域差からみる言葉の不思議 (平凡社新書)感想
日本言語学会長の著作。謎解きが楽しい。音節とモーラ(拍)という単位で単語を読み解くところにこの本の新鮮さがある。俳句の五七五もモーラの概念なら休符の分も含めて888になるという説を紹介。高低、強弱のアクセントも語頭から何音目か、或いは語尾からかなど、母語の話者は意識せずに発音していることも分析する。規則性がないようでも、実は法則性があるというのが面白い。世代間、地域性など、語彙(略語)や発音の変化を理屈付けられるのがまた興味津々。「日本言語地図」など先行研究を別の概念で生かし、解析していく手際が心地よい。
読了日:01月09日 著者:窪薗 晴夫
日中戦争全史 下巻日中戦争全史 下巻感想
教科書的に言うと、1941年の太平洋戦争開戦で、戦場の中心は一気に南方に広がる。でも大陸でも延々と続いていた訳で、寧ろ物資の供給源の役割は増大。対国民党戦に加え、共産党の解放区を掃討する粛正戦を展開。無差別爆撃や、毒ガス、細菌兵器の使用、無為の大陸打通作戦。読んで情けなくなります。満州事変以来の流れを止める好機に「陸軍は暴力犯、海軍は知能犯。陸海軍あって国あるを忘れていた」振る舞いで開戦を避けえず、国益より組織的利益を優先した代価は大。日米開戦で敗者となる道しか残らぬ選択だったのに、気付かぬ不思議……。
読了日:01月06日 著者:笠原 十九司
一遍 捨聖の思想 (平凡社新書)一遍 捨聖の思想 (平凡社新書)感想
日本での浄土教の成立から、一遍の出現に至るまでが前段、後段はその言行録、伝承から教義を探っていく。極楽往生を願う民衆の願いを極限まで切り詰めて行けば一遍に至る。法然、親鸞に比して影が薄いのは否めない一遍に焦点を当てた好著。ただ一遍の没後、直ちに教団化が進んだ。戦国時代に陣僧の職務を果たし、庶民に近い宗教者だったと思うが、江戸期に徳川殿に全国遊行の許しを得る教団になり、権力の統制の下に入るのが現実。浄土系でも巧く立ち回った宗旨との差が出てしまった。一遍の個性、人柄が屹立した存在だったことの証左でもあるが。
読了日:01月03日 著者:桜井 哲夫

読書メーター
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2018年01月08日

★2017年12月に読んだ本。

12月の読書メーター
読んだ本の数:7
読んだページ数:1951
ナイス数:348

「南京事件」を調査せよ (文春文庫)「南京事件」を調査せよ (文春文庫)感想
NNN系列で放送された「南京事件 兵士たちの遺言」の制作者が著した取材ルポが前段。「なかった」と言い募る人に対し、従軍兵士が残した記録を元に少なくとも1937年12月16日に揚子江に面した水魚雷営という施設で、また17日にも大湾子という地で「捕虜」を殺害したという事実を裏付ける。1次資料を残した兵、掘り起こした民間の研究者、記録に陽を当てた筆者。南京事件の全容には言及せず「あったこと」だけを記す手法が効いた。後段は自身にも潜む「視線」の解明の独白録。確かに大虐殺という言葉が適切と理解させる理詰めが明確。

読了日:12月31日 著者:清水 潔
日中戦争全史 上巻日中戦争全史 上巻感想
「統帥乱れて信を中外に失う」を繰り返した歴史−−これは北部仏印進駐に際して西原一策が打った電文だが、大局観なく、派閥争い、予算獲得と覇権奪取に血道を上げた結果が招いたものは重い。本書は1945年まで続く中国大陸での日本軍の行動通史で上巻は対華21カ条要求から南京占領まで。夜郎自大、現場が暴走しても抑止出来ない。今風に言えば「組織統治」が行き届かない。事態に引き摺られていく。西原もまた組織の駒だが。筆致に軽い違和感を抱くものの、前段から全史を通観しようという1冊なので、長いうねりを概観するには好個の編年史。
読了日:12月26日 著者:笠原 十九司
模索する1930年代―日米関係と陸軍中堅層模索する1930年代―日米関係と陸軍中堅層感想
「それでも戦争を選んだ」「戦争まで」の謂わば基礎部分、底本です。元は5篇の論文で、1930年代、満州事変から太平洋戦争前夜まで。「政党制の崩壊」や「軍部の擡頭」と単純化した理解とは異なり、不戦条約に起因する米国の互恵通商法、中立法の立場や、蜂起した皇道派に対して統制派が目指した改革を進める陸軍中堅層(課長級)に焦点を当てて、分析していきます。中国大陸での宣戦できない戦争「事変」に対しての現地と中央の感覚の差、貿易統計に見る比重、枢軸国側との思惑等々。「微小量」の表現で現実に起きたことを解析している好著。
読了日:12月17日 著者:加藤 陽子
炎の牛肉教室! (講談社現代新書)炎の牛肉教室! (講談社現代新書)感想
土佐あかうし、の話が登場するので読了。好きこそ物の上手なれ、というけど、本当に牛肉LOVEの筆者が体を張って書いたルポ、です。ただ、肉を相応に評価してくれる枠組みができてこそ、すべては始まる訳で、第4章の「土佐あかうし」の事例紹介は、担い手確保が難しくなっている日本の農業の中で、一つの好事例であるのがよく分かります。消費者の嗜好は変わりますが、相対的な評価ではなく、絶対的な価値を畜産農家が持ち続けられるかどうか。行間にあかうし王子こと高知県の公文喜一君や、世話になった室戸の信吾さん、拓也くんの顔が……。
読了日:12月15日 著者:山本 謙治
戦争調査会 幻の政府文書を読み解く (講談社現代新書)戦争調査会 幻の政府文書を読み解く (講談社現代新書)感想
幣原喜重郎を中心に、終戦直後に組織された「戦争調査会」。本書では経緯、人選などに触れ、結局、GHQの意向で尻切れ蜻蛉になるまでが前段。後段は議事録をいくつか拾い読みして、興味深い部分の紹介、という構成。なにぶん、知名度の低い調査会の存在を書くのだから仕方ないとはいえ、組織の経緯よりも、証言集の内容の方に興味がある。ただ、この組織が辿った道は今の「もり・かけ」にも通底するような行政組織の記録の残し方、歴史の検証に耐えうるものかという好個の例であったのは間違いない。忘れるに加え、燃やす、消去では困るのだから。
読了日:12月09日 著者:井上 寿一
わたしが生きた「昭和」わたしが生きた「昭和」感想
1995年。戦後50年に刊行された1冊。手元に残った写真、家族と一緒に移住した満州の吉林での体験、また釜山の沖合にある加徳島に駐在し、一家全滅した叔父一家などが綴られる。五族共和、王道楽土という看板だった満州の実像こそ、貴重な記録といえる。食事や物資の配給、住居など、厳然とした差別が横たわる世界。朝鮮に渡る祖母との永久の別れとなった場面で「おかめ蕎麦」が羨ましかったという筆致が妙に印象的。結局、国籍法のなかった満州国。筆者のいう無数の無名な歴史を掘り起こすことこそ、歴史を確認するために必要な作業になる。
読了日:12月08日 著者:澤地 久枝
兼好法師 - 徒然草に記されなかった真実 (中公新書)兼好法師 - 徒然草に記されなかった真実 (中公新書)感想
小机に肘を付いている姿が浮かぶ兼好法師。でも実に執着に富んだ人生を送った様が描かれる。金沢貞顕、高師直の所に出入りしたり、二条良基の下、頓阿らと歌人としての地歩を築いたり。閑居というより、器用に目端利かせて立ち回った人、という印象になる。文書と残っているものが少ない時代ゆえ、筆者の立論は推定、比定の部分が多いとはいえ、作者像の認識を一新させられる。そして「徒然草」自体が随筆というより、事例集としての「大草子」という分類に属するもの、という見立てが興味深い。本書自体が紙背に徹する読みを披露してくれている。
読了日:12月04日 著者:小川 剛生

読書メーター
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★2017年に読んだ本。

2017年の読書メーター
読んだ本の数:119
読んだページ数:31454
ナイス数:4955

炎の牛肉教室! (講談社現代新書)炎の牛肉教室! (講談社現代新書)感想
土佐あかうし、の話が登場するので読了。好きこそ物の上手なれ、というけど、本当に牛肉LOVEの筆者が体を張って書いたルポ、です。ただ、肉を相応に評価してくれる枠組みができてこそ、すべては始まる訳で、第4章の「土佐あかうし」の事例紹介は、担い手確保が難しくなっている日本の農業の中で、一つの好事例であるのがよく分かります。消費者の嗜好は変わりますが、相対的な評価ではなく、絶対的な価値を畜産農家が持ち続けられるかどうか。行間にあかうし王子こと高知県の公文喜一君や、世話になった室戸の信吾さん、拓也くんの顔が……。
読了日:12月15日 著者:山本 謙治
戦争調査会 幻の政府文書を読み解く (講談社現代新書)戦争調査会 幻の政府文書を読み解く (講談社現代新書)感想
幣原喜重郎を中心に、終戦直後に組織された「戦争調査会」。本書では経緯、人選などに触れ、結局、GHQの意向で尻切れ蜻蛉になるまでが前段。後段は議事録をいくつか拾い読みして、興味深い部分の紹介、という構成。なにぶん、知名度の低い調査会の存在を書くのだから仕方ないとはいえ、組織の経緯よりも、証言集の内容の方に興味がある。ただ、この組織が辿った道は今の「もり・かけ」にも通底するような行政組織の記録の残し方、歴史の検証に耐えうるものかという好個の例であったのは間違いない。忘れるに加え、燃やす、消去では困るのだから。
読了日:12月09日 著者:井上 寿一
わたしが生きた「昭和」わたしが生きた「昭和」感想
1995年。戦後50年に刊行された1冊。手元に残った写真、家族と一緒に移住した満州の吉林での体験、また釜山の沖合にある加徳島に駐在し、一家全滅した叔父一家などが綴られる。五族共和、王道楽土という看板だった満州の実像こそ、貴重な記録といえる。食事や物資の配給、住居など、厳然とした差別が横たわる世界。朝鮮に渡る祖母との永久の別れとなった場面で「おかめ蕎麦」が羨ましかったという筆致が妙に印象的。結局、国籍法のなかった満州国。筆者のいう無数の無名な歴史を掘り起こすことこそ、歴史を確認するために必要な作業になる。
読了日:12月08日 著者:澤地 久枝
兼好法師 - 徒然草に記されなかった真実 (中公新書)兼好法師 - 徒然草に記されなかった真実 (中公新書)感想
小机に肘を付いている姿が浮かぶ兼好法師。でも実に執着に富んだ人生を送った様が描かれる。金沢貞顕、高師直の所に出入りしたり、二条良基の下、頓阿らと歌人としての地歩を築いたり。閑居というより、器用に目端利かせて立ち回った人、という印象になる。文書と残っているものが少ない時代ゆえ、筆者の立論は推定、比定の部分が多いとはいえ、作者像の認識を一新させられる。そして「徒然草」自体が随筆というより、事例集としての「大草子」という分類に属するもの、という見立てが興味深い。本書自体が紙背に徹する読みを披露してくれている。
読了日:12月04日 著者:小川 剛生
日本の夜の公共圏:スナック研究序説日本の夜の公共圏:スナック研究序説感想
スナック、というと大人の空気。そんな空間に就いての考現学。法務、社会学、民俗学、歴史学……etc、各々の世界の専門家が真面目に論じる。読み進めて、この手法は「ウルトラマン研究序説」でも採られた手法であったと気付く。各章も興味深く、二次会の起源から探る日本での酒の飲み方や宴会の慣行、昭和初期のカフェー文化との縁等々。題名にある「日本の夜の公共圏」とは蓋し見事な見立てである。統計的手法による分析も興味深いし、スナックという装置を正面から論じて日本の社会規範の一側面を活写することに成功している。真面目で面白い。
読了日:11月16日 著者:谷口 功一,スナック研究会
愛と狂瀾のメリークリスマス なぜ異教徒の祭典が日本化したのか (講談社現代新書)愛と狂瀾のメリークリスマス なぜ異教徒の祭典が日本化したのか (講談社現代新書)感想
フランシスコ・ザビエルの来日以来のクリスマスに特化した日本史である。最初は教会が担い手だったのが、子供の行事になり、乱痴気騒ぎに続く。戦時中の中断を挟んでまた復活。中で紹介している萩原朔太郎の「今の日本には国民的祭日がない。浮かれるのは『失われた祭日』への郷愁」と評が鋭い。この習俗から日中戦争の勃発が落とした影の大きさが分かる。自身のクリスマスの思い出を振り返ると、狂瀾の後に位置していたことが分かる。「サザエさん」の一コマへの違和感の由来だったか。バブル期も経験し、今は遠い思い出。ただし終章は一寸蛇足。
読了日:11月09日 著者:堀井 憲一郎
同性愛は「病気」なの? 僕たちを振り分けた世界の「同性愛診断法」クロニクル (星海社新書)同性愛は「病気」なの? 僕たちを振り分けた世界の「同性愛診断法」クロニクル (星海社新書)感想
同性を愛する行為は一定程度自然な行為であったろう。宗教的な背景から、18世紀に成立したドイツ刑法の143条で、男性同士の性交、獣姦を包括して公序良俗に反すると定めたことを端緒に様々な「判定法」が出現する。脳、ホルモンバランス等々、珍奇な似非医学が登場した。興味本位で日本でも変態性慾という受け止めが生まれた。その後、精神疾患ではないと医学界での見解が成立したのは1990年、日本の文科省の性非行から除外されたのは94年。長い日陰の歴史を「診断法」という切り口で追跡した1冊。さて衆道の歴史のあった日本では如何?
読了日:11月04日 著者:牧村 朝子
天皇家のお葬式 (講談社現代新書)天皇家のお葬式 (講談社現代新書)感想
盛り込み過ぎた部分もあるか。前段が仏式で営まれた葬送の説明で、後段が神式で進められた明治天皇以降の大葬についての説明。でも一番肝心なところは、仁孝天皇までの仏式と国学思想の入ってきた孝明天皇の葬儀、そして国家神道の色彩で統一された明治以降の葬送へと「変形」した部分にある。神仏分離令であり、神道の国家管理化の道である。ここを焦点に詳述して欲しかった。一方、天皇の棺に題目や名号を紙片に書いて納める習俗が残っていたという。表と奥の意識の差が覘く。竹のカーテンの奥には、皇室の私的な信仰は今も残っているのだろうか。
読了日:11月03日 著者:大角 修
全体主義の起原 3――全体主義 【新版】全体主義の起原 3――全体主義 【新版】感想
テーマはナチドイツとスターリン下のソ連の体制。どちらも全てを巻き込むシステムであったことに変わりはなく、本書では両者を比較対照しながら全体主義についての分析が続く。個人的には現下の状況を代入し、反芻ながら読む、という形になった。その中で、10章「階級社会の崩壊」、11章「全体主義運動」の章は特に興味深く読んだ。というのは「よもや」と思いつつも今の日本社会の姿にどこか相似形にも思えるからだ。「政党制度の枠内で政党が議会に多数を占めたとしてもそれは決して国の現実を反映などしていない」など心に残る表現が続く。
読了日:10月16日 著者:ハンナ・アーレント
帝国の昭和  日本の歴史23 (講談社学術文庫)帝国の昭和 日本の歴史23 (講談社学術文庫)感想
「君主無答責」という明治憲法の原則が生んだ権力の空白は、誰も修正不可能な結果を招いた。ナチスドイツの授権法のような強権的な手法ではなく、官僚と現場、政党と財界、無産階級と資本家等々、WWT後の国際化の波の中で累積した矛盾を合法的に手直ししようとした末の結末は承知の通り。どこに修正すべきことがあったのか。今でも答えは明確にできまい。状況の違いはあるものの、昨今の国内の出来事の構造に類似点を見付けるのが恐いくらいだ。戦前と戦後の連続性を思う。特に大政翼賛会発足のころの感覚は。終章の「戦時とモダニティ」は上々。
読了日:10月14日 著者:有馬 学
空のプロの仕事術―チームで守る航空の安全 (交通新聞社新書)空のプロの仕事術―チームで守る航空の安全 (交通新聞社新書)感想
JALの元・名機長が経験、見聞から飛行機の運航に関わる人々の紹介をしていく。機体の運行から、整備、運行管理、機内サービスもすべて経済効率が優先する今の時代。言えばパンナムが世界中の空にジャンボ機を飛ばしていた時代は優雅ではあっても2度と戻ってはこない。そんな時代に育った敢えて筆者が記しておきたいのは、如何にハイテク機になったとしても、それぞれの経験した事例をどう共有化するのか、という点に尽きるだろう。安全運航技術の蓄積は船>鉄道>空、であると思う。空はなお発展途上の分野。プロという一語に込めた思いを想う。
読了日:10月10日 著者:杉江 弘
斎宮―伊勢斎王たちの生きた古代史 (中公新書)斎宮―伊勢斎王たちの生きた古代史 (中公新書)感想
源氏物語の秋好中宮の逸話か、伊勢物語の「君や来し我や行きけむおもほえず夢かうつつか寝てかさめてか」の歌で知られる話程度しか、斎宮の存在は認識されていないだろう。でも実は奈良、平安期の天皇にとっては祖神を斎き祀る大事な役職で国家管理の役所であったことが説かれる。数人の斎王を点描することが生活ぶりや存在感を生み出す効果を生んでいる。その後、両部神道や度会神道の成立や、役目役職は変質。制度自体は南北朝期に絶えてしまうのだけど、上古期には宮中の意思決定に大きな影響を与える存在であったことが描かれる。一種の裏面史。
読了日:10月04日 著者:榎村 寛之
天皇の戦争宝庫: 知られざる皇居の靖国「御府」 (ちくま新書1271)天皇の戦争宝庫: 知られざる皇居の靖国「御府」 (ちくま新書1271)感想
皇居の中に今も残る(と推定される)御府と呼ばれた施設に就いてのルポ。日清戦争の戦利品と戦没者名簿、遺影を納めた振天府に始まり、北清事変の懐遠府、日露戦争の建安府と明治期に続き、大正天皇の時代のWWI、シベリア出兵の惇明府、昭和の戦役を対象とした顕忠府の5棟。天皇が身近で戦没者を慰霊していることを宣撫するための施設に変容し、終戦と共に姿を消す。鹵獲品の行方はともあれ、多くの写真等歴史資料が残る可能性があるという。竹のカーテンの奥、まだこういう存在があったことに驚く。記憶と記録は尚、封じ込められて……。
読了日:09月10日 著者:井上 亮
絶滅危急季語辞典 (ちくま文庫)絶滅危急季語辞典 (ちくま文庫)感想
本書は東京堂出版で出された1冊が親本。あの事典の東京堂が版元なのだが、寧ろ歳時記の体裁を取った随筆、漫筆という方がいい。筆者の謂う「絶滅の虞がある季語」を拾い上げ、俎上に載せて捌いていく。絶滅危惧といっても、「佐竹の人飾」のように、実態を失っているもの、「われから」のように疎遠になっていたもの。面白がるのか、素っ気ないか、それも俳味ということになるのだけど。「綾取」の項でふっと覘く心根や、「霹靂(はたた)神」の項で欣喜している筆者と青ざめる憧れの君の落差とか。句の背後に描かれる世界が面白い1冊。
読了日:09月07日 著者:夏井 いつき
字幕屋の気になる日本語字幕屋の気になる日本語感想
映画の字幕翻訳に生涯を捧げた筆者の最後の随筆。まず字幕が台詞1秒4文字という制約の下で成立しているとは知らなかった。プロ意識に関わる部分は「字幕屋・酔眼亭の置き手紙」の章に詳しい。"You didn't know?"が「知らなかった?」になり、秒数の制限から「初耳?」に置き換えていく。言葉への感覚が研ぎ澄まされるのはなるほど、と思う。それと1章目の「気になる日本語」も成程の連続。自分の言葉への感覚に近いのにちょっと安堵したり、膝を打ったり。制約の下で意を尽くす。字幕翻訳で身に着けた圧縮技術、畏るべし。
読了日:09月06日 著者:太田 直子
鎌倉幕府滅亡と北条氏一族 (敗者の日本史)鎌倉幕府滅亡と北条氏一族 (敗者の日本史)感想
鎌倉殿の屋台骨を支える北条氏が執権、得宗となり、滅亡していく過程から、権門体制論に対する「東国国家+西国での軍事勢力」という構図を見立てる。北条氏は実質的に政権を掌握した後、元寇を機に全国支配を目指すものの内部抗争から破綻していく。一門で鎌倉殿+六波羅、鎮西探題と切り回すのは人材的に厳しかった。それ以上に事務方の根強さが際立つ。実務を担った官僚は室町殿の時代になっても、或いは徳川殿の時代になっても(今も?)生き残る。角田文衛の「平家後抄」ではないが、「鎌倉殿後抄」みたいな本を読んでみたいなぁ、と。
読了日:09月02日 著者:秋山 哲雄
ノーサイド成田闘争―最後になった社会党オルグ (ふるさと文庫)ノーサイド成田闘争―最後になった社会党オルグ (ふるさと文庫)感想
旧社会党オルグの加瀬勉を主人公に据えた成田闘争史。空港開港に向けて国の執った方策、手段は憲法に抵触するものであったと思う。開港40年を迎えようかという今、空港自体が一番の地域にとっての産業であり、雇用先であり、立地要件になっている。都市近郊農業で生活基盤を確保していたかつてとは異なり、「空港があるからこそ」の町なら、空港との共生共栄を考えるしかない。空港周辺で人口の増加が見込めるエリアと少子高齢化+人口減少の続くエリアに二分化している昨今、歴史と現実との間の清算が一層、自覚的に必要ではないか。
読了日:08月18日 著者:桑折 勇一
新・中世王権論 (文春学藝ライブラリー)新・中世王権論 (文春学藝ライブラリー)感想
本郷先生の権門体制論批判。謂わば「東国国家論」の改良版。「王権」という言葉が適切かは別にして、北条家が執権から得宗専制への移行を通じて、東の武門、西の朝廷の関係を読み解いていく。筆者は「将軍と首頂」という概念を提唱している。寧ろ武力政権が統治の手法を習得する過程と受け止めると分かりやすいかも。勿論、その延長線上に後醍醐天皇の建武の新政、また足利高氏、直義の太平記の時代を挟んで、義満に至って文字通りの「王権」が確立するのだが、頻りに2項対立的に見立てる手法には時に違和感があるものの、見立てとしては興味深い。
読了日:08月14日 著者:本郷 和人
日本史の快楽―中世に遊び現代を眺める (角川ソフィア文庫)日本史の快楽―中世に遊び現代を眺める (角川ソフィア文庫)感想
元原稿は1994年から週刊現代に連載された1ページの〈漫筆〉。1ページという紙幅と週刊という時間的制約。当然ながら、文章にコクがあるかと言われれば、普くその水準を維持するのは厳しい。江戸期に多く書かれた随筆を連想する。数篇は成程と思うものもあったが、舌足らずの感が拭えない。余談ながら、この手の随筆というと、その昔、岩波書店の「図書」に連載された「一月一話」(淮陰生=英文学者の中野好夫の筆名)が思い出される。時事ネタを取り上げても古びない。文章の運びがよく、切れ味がいい。こんな水準こそ〈随筆〉であると思う。
読了日:08月05日 著者:上横手 雅敬
歴史力で乱世を生き抜く (中央公論 Digital Digest)歴史力で乱世を生き抜く (中央公論 Digital Digest)感想
呉座本「応仁の乱」ベストセラー記念の特集号2017年4月号の中央公論の抜き刷り。日本中世史学者の呉座が言う「WWIに似ている応仁の乱」説をイギリス外交史学者の細谷雄一との対談で肉付けしていく。均衡・協調・共同体、という秩序の体系が破れ、戦時と平時の区別がなくなる時代になっていく、という見立てが浮き彫りになる。これは「応仁の乱」が改版になるなら是非解説代わりに巻末に欲しい対談。清水克行と古代オリエント学者の小林登志子の対談「神は紛争をどう解決してきたか」も興味深い。この2篇の対談だけで十分にお勧めです。
読了日:08月03日 著者:呉座勇一,細谷雄一,池田嘉郎,佐藤賢一,出口治明,小林登志子,清水克行,原田眞人,宇野重規,瀧井一博
人民元の興亡 毛沢東・ケ小平・習近平が見た夢人民元の興亡 毛沢東・ケ小平・習近平が見た夢感想
紙幣とは不思議なもの。たとえば日本円。外貨準備としてかつては金、今は米ドルの保有が信用の裏付けになる。今の人民元もバスケット制があり、米国債を保有が信用の源だ。大陸では多くの発券銀行が存在し、統一的な紙幣がなかった。日米英ソなどが瓜分を試みた時期に重なる。筆者はそんな時代から読み解き始め、人民元をIMFのSDR構成通貨まで育て上げた苦闘を読み解く。この先、米ドルとならぶ基軸通貨になり得るかと言えば、中国自身の体制が抱える弱点ゆえに限界があるとの指摘、ビットコインの登場まで目配りする視野が広くて楽しい1冊。
読了日:07月08日 著者:吉岡 桂子
バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史 (中公新書)バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史 (中公新書)感想
オスマン帝国の西端、バルカン半島の来歴をまとめた1冊。旧ユーゴ諸国が分離独立した後の出来事は記憶に残る。決して昔の話ではない。何で「火薬庫」になってしまったのか、を読み解くのが眼目。民族、宗教(イスラム、ギリシャ正教などなど)という「違い」を意識するきっかけとなったのは西欧から来た「ナショナリズム」の故であり、露、独、墺、仏、英といった周囲の国々の影響、思惑が覘く。一概に「国民国家」の成立が近代化なのか、と考え込む。現在進行形である中東での混乱を見るにつけても……。巻末の訳者外題から読む方が分かりやすい。
読了日:07月05日 著者:マーク・マゾワー
東京昭和百景―山高登木版画集東京昭和百景―山高登木版画集感想
たぶん戦後、1964年の東京五輪前後までの風景の版画。安藤広重を初め、多くの浮世絵師が手がけてきた素材だが、どこか、新版画の旗手、川瀬巴水の感性とか、川上澄生の色づかいの影響も感じられる。小、中学生のころ、背伸びして出かけた東京にあった風景。もう残っているところは少ないが。ちょと知人がいいねをしているので、手を伸ばした1冊。
読了日:07月03日 著者:山高 登
ノモンハン事件―機密文書「検閲月報」が明かす虚実 (平凡社新書)ノモンハン事件―機密文書「検閲月報」が明かす虚実 (平凡社新書)感想
ノモンハン事件の概要、国内での報道、現地での検閲ぶり、そして戦中戦後に亘る享受史を概説した1冊。新書という判型、入門書という制約があるので仕方ないのだけど、力点を絞って欲しかった気がする。抑も日本側、旧ソ連側の記録が詳細になっているという状況になく、なお先方の秘密文書が次々発見されているのが現状では事件についての記述も得心のいく内容を提示しにくいのは承知だが。個人的には本書は副題にもある「検閲資料」の部分と戦中戦後の当事者の執筆に懸かる戦記、そして藤田嗣治の絵が2枚あったという逸話を膨らませて欲しかった。
読了日:07月02日 著者:小林 英夫
謎の漢字 - 由来と変遷を調べてみれば (中公新書)謎の漢字 - 由来と変遷を調べてみれば (中公新書)感想
肩肘張らずに読むと楽しい。漢字に魅せられて、享受の歴史を辿れば、という随筆だからだ。中国に発し、日本に渡ってきた文字体系がどう受け止められてきたのか。地名に残る国字、或いは作字の山。JIS水準漢字のコードを決める作業に携わった筆者には感慨深いものがあろう。また、5代目團十郎が名乗った「鰕蔵」のエビの字。海老でも蝦でも蛯でもない。江戸期の爛熟した文化が背景にある。そして科挙の制を通じて筆記の際に変転する字形、書体で甲乙を付ける愚かしさ。研究というのはこういう風に目線を上げたら楽しい、と説いている1冊。
読了日:06月09日 著者:笹原宏之 著
陰謀・暗殺・軍刀―一外交官の回想 (岩波新書 青版 38)陰謀・暗殺・軍刀―一外交官の回想 (岩波新書 青版 38)感想
初版は1950年。世上では真相を記す貴重な書であったのだろうけど、今、読み返してみると、果たしてどうだろうか。例えば文中に、奉天総領事時代の吉田茂について「現総理」という記述が出てくる。当時はあからさまなことを書けないほどに生存者はいただろうし、筆者が先を急ぐあまり、書いていることが散漫になっている気がする。頭の中でかなりの事項を補いつつ読むしかない1冊で、当事者の記録としての価値は見いだし得るものの、今となっては隔靴掻痒、馬耳東風の感が強い。彼も東大法科を出た一流官僚。視点は一角からしか、でない。
読了日:06月05日 著者:森島 守人
習近平の中国――百年の夢と現実 (岩波新書)習近平の中国――百年の夢と現実 (岩波新書)感想
読み終えて感じること。「歴史は2度繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」という言葉だ。この国は2度目どころか、この警句を何回も繰り返してきた訳で、今の習近平もまた軛から逃れることはない。「士庶の別」と「華夷の別」。本書を通じて、この2つの概念を乗り越えることはかなり難しいのを実感した。と同時に時代はこの国に別の役割を求め始めている現実。一強だったはずの米国が漂流を始めた中、党の下に国家があるという体制がどこまで維持できるのか。事実を積み上げた書きぶりならではの説得感が残る。大丈夫なのか、と。
読了日:06月03日 著者:林 望
列島を翔ける平安武士: 九州・京都・東国 (歴史文化ライブラリー)列島を翔ける平安武士: 九州・京都・東国 (歴史文化ライブラリー)感想
「一所懸命」という言葉に引き摺られる訳でもないが、武士=土着、という印象が強い。実は京の兵家貴族が地方へ下り、地元の豪族と結びついて勢力を広げていった様を読み解く。全国を股にかけての展開だ。本書の話題の舞台の中心は九州。京から、関東から下った武士が頭角を現していく様を書く。立論に蓋然性は高いとは思うものの、推定形の結論が一寸目立つのが気になった。伊勢を基盤にした平氏、東国を基盤にのし上がった源氏と、一朝一夕に表舞台に躍り出た訳ではないのが分かる。物資も自給自足ではなく、薩摩〜京〜陸奥と結んだ。興味深い。
読了日:06月01日 著者:野口 実
80時間世界一周 格安航空乗りまくり悶絶ルポ (扶桑社新書)80時間世界一周 格安航空乗りまくり悶絶ルポ (扶桑社新書)感想
80時間、13万円台で西周りで世界一周(茨城〜上海〜モスクワ〜デュッセルドルフ〜チューリッヒ〜NY〜LA〜羽田)する話。2012年刊。就航していない所に住んでいたので実感がなかったが、実はLCCが空の世界を大きく変えているのを実感する。旅の大半が旅客機の中という旅行記なので、J・ヴェルヌのような波瀾万丈の中身にはならないのだけど、手続きと出入国審査と乗り継ぎを繰り返すのが現代的な波乱劇なのかも。小さな出来事からお国柄の見立てはなかなかに巧者。ともあれ今、世界の空はLCCだらけだったんだ、と。
読了日:05月09日 著者:近兼 拓史
和食の歴史 (和食文化ブックレット5)和食の歴史 (和食文化ブックレット5)感想
和食の歴史を概観した1冊。卓上に備えた塩や醬で自分で調味しながら食べた大饗料理の時代から、醱酵調味料の登場で味付けまでした形で供される形へ。実質的には鎌倉期の精進料理(粉食文化も)、室町期の本膳料理が茶道の懐石料理、江戸期の会席料理を節目に進化する。根幹にあるのは主食の米。モンスーン地域に適合した作物だったのが幸い。で、興味深かったのは、戦前の水準に米作の量が戻ったのが1955年。高度成長期前夜。進学率、集団就職、いろんなことに繫がっていそう。副菜の中で、肉食が魚食を上回ったのが1988年だったとは意外。
読了日:05月06日 著者:原田 信男
「天皇機関説」事件 (集英社新書)「天皇機関説」事件 (集英社新書)感想
美濃部達吉が貴族院で追及された「天皇機関説」。立憲主義を守るために必要であったものが、「天皇主体説」を奉じる面々に駆逐されていった。端緒は箕田胸喜や菊池武夫らながら、政争の具にした鈴木喜三郎、枢密院議長の座を巡っての平沼騏一郎、陸軍内の主導権争いの梃子にした真崎甚三郎と、有象無象が群れていき、混迷を深める。しかも「国体」という実態のない概念を奉じての行動に振り回される。勿論、世上に正常な情報を与えるべき報道機関も含め、呆れるばかりの軽躁の様に、情けなくさえある。さて歴史の彼方と嗤っていられるか否か……。
読了日:05月05日 著者:山崎 雅弘
天下泰平の時代〈シリーズ 日本近世史 3〉 (岩波新書)天下泰平の時代〈シリーズ 日本近世史 3〉 (岩波新書)感想
江戸時代でも、4代家綱から10代家治の頃までを視野に入れた1冊。外は明から清への王朝交代に始まって、露国の蝦夷地への来訪まで。内は武力による統治から権威を利用した治世に、江戸と京の関係では融和、統制から幕末への胎動まで。版図の言葉通り、地図を作り、戸籍を作り、修史をし、貨幣の改鋳から経済政策まで。天下泰平の大筋を網羅していく。今に続く統治機構、官僚制度の根幹が作られ、確立した体制は盤石に見えても格差の拡大によって揺らいでいく。時代区分で言えば中世から近世への移行期。小さな変化を紡いでいく書きぶり、良書。
読了日:05月04日 著者:高埜 利彦
昭和の歌舞伎 名優列伝 (淡交新書)昭和の歌舞伎 名優列伝 (淡交新書)感想
本文269頁の本で169頁までが筆者の未見の役者の話。列伝体ではあっても筆者の知識の集積を編輯した体裁。1次資料といいづらく、出典の明記も少ない。1955年生まれの筆者が取り組む主題としては厳しい気がする。75年以前が没年の役者になると、実際に見ていても運びが弱い。勢い文末を丸めるような文体で上品だけど、全体的に歯切れが悪い。同趣向の1冊として1960年生まれの中川右介「歌舞伎 家と血と藝」(講談社現代新書)の方が見立ての藝が行き届いていて出来がいいと思う。役者同士の聯関の説明が分かりにくいのも残念。
読了日:04月17日 著者:石橋 健一郎
張作霖:爆殺への軌跡一八七五‐一九二八張作霖:爆殺への軌跡一八七五‐一九二八感想
日本史の教科書なら1行にも満たない出来事が約350ページの本になった。1875年に奉天海城で生まれた張作霖を主人公に、日清、日露の戦役から清朝崩壊、軍閥の割拠、国民党の北伐を前に躍動した跡を辿る。2000年代以降に主に刊行された中国側の資料を読み込み、日本側の資料と付き合わせて描き出した物語、前半は講談を聞くような快感があり、後段はソ、日など外国勢力の思惑と各軍閥の絡み合いを描いて倦むことない展開。1928年の爆殺まで、精緻な細工ものを見るような楽しさがある1冊。行間にひとかどの人物像が浮かび上がる。
読了日:04月09日 著者:杉山 祐之
プロ野球・二軍の謎 (幻冬舎新書)プロ野球・二軍の謎 (幻冬舎新書)感想
田口はプロ生活を始めた頃を知っているし、その後のMLBでの経験談も愛読してきた。書きぶりには一目どころか井目風鈴くらい置いているものの、本書はちょっと物足りない。テーマはファーム制度の話か、日米の比較なのか、2軍監督1年生としての経験談なのか。焦点が絞り切れていない感じが残った。もっと自在に書いていいのだし、筆者ならできるはず。何しろ、あの仰木彬やT・ラルーサの下でプレーした選手なのだから。もっと歯切れ良く書けたはず。プロの世界を一般社会まで敷衍しようという試みが本書の内容を半煮えにしたような気がする。
読了日:04月08日 著者:田口 壮
世界のなかの日清韓関係史-交隣と属国、自主と独立 (講談社選書メチエ)世界のなかの日清韓関係史-交隣と属国、自主と独立 (講談社選書メチエ)感想
冊封制度は中国に臣下の礼はとっても、内政外交は自主的にできる「属国自主」の概念。植民地とは東アジアでは似て非なるものと受け止められてきた。礼を基本とする儒教を国教とした朝鮮は中国本土の王朝が明から清にと変わった中、自身が正統で天朝を引き継ぐものとしての自負が膨らむ。一方、18世紀にこの地を訪れた帝国主義を掲げる西欧列強には不可解な慣習だったろう。本書は朝鮮のそんな歴史的背景を踏まえた上で19世紀以降の変化を解析した点が今に続く事情の理解に役立つ。筆者の一連の著作を併読すると立体的に見えてくるものがある。
読了日:04月05日 著者:岡本 隆司
ブッダと法然 (新潮新書)ブッダと法然 (新潮新書)感想
釈迦と法然。「0」から「1」を生んだ宗教者という視点で読み解いていく。縁起を説いた人と念仏往生を説いた人。先行する考えを否定することで次の段階に進んでいく。「空亦復空」であり、悟りを開いたと思った瞬間に次の考えを生んでいかざるをえない。キリスト教は公会議で教義を1本に絞ってきたのとは対照的に絶対者・阿弥陀を想定しながら、そこで止まることがなかった点に筆者は仏教の特色を見る。読み終わって感じること。法然のという人はやはり叡山の人で、持戒清浄、大原問答に勝てる学識、もっと認識が改められていい宗教者である。
読了日:03月05日 著者:平岡聡
ロシア革命――破局の8か月 (岩波新書)ロシア革命――破局の8か月 (岩波新書)感想
帝政ロシアの2月革命から10月革命に至る間の動きを追った1冊。混迷の構図の原因は「2分法」の思想にあるという。資本家、支配者などの「あいつら」と農民、兵士、労働者などの「われわれ」という構図だ。相手を考える余裕がなければ双方の理解と交渉と妥協が成立するはずもない。結局、ボルシェビキは結局、力で圧倒することで政体を確立したのだから。同じく共産主義革命が起きた中国を見れば根底には「士庶」「華夷」の別があり、本書で取り上げられた崩壊にも似る。で、日本では……。中世くらいのイメージかなぁ。さらに今の世相も……。
読了日:03月04日 著者:池田 嘉郎
中世の声と文字 親鸞の手紙と『平家物語』 シリーズ<本と日本史>3 (集英社新書)中世の声と文字 親鸞の手紙と『平家物語』 シリーズ<本と日本史>3 (集英社新書)感想
本来の本書の趣旨は、人が意図を伝える手段としての手紙や物語が書き言葉の漢文ではなく、仮名交じりになったという事象をきちんと分析、紹介することにあったはず。親鸞の手紙や和讃を取り上げるが表層的な感じ。後段の平家物語の部分は兪々表層。語り本系から読み本系へ発展したとする嘗ての説を筆者は奉じているが、最近の研究では逆。延慶本辺りに古態を見るのが定説だ。保元、平治物語もそう。昨今の国文学研究の進展を理解していないように見える。むしろ、本書は慈圓はなぜ愚管抄を漢字仮名交じりで書いたかを説く方が大切ではなかったか。
読了日:03月03日 著者:大隅 和雄
〈麻薬〉のすべて (講談社現代新書)〈麻薬〉のすべて (講談社現代新書)感想
痲薬という字面の禍々しさ。「規制薬物=麻薬」なら中枢神経を抑制するモルヒネ類も興奮させる覚醒剤類も幻覚を催すLSDの類いも同じ範疇になる。寧ろ「血液脳関門通過物質」であることが共通項になる。罌粟、麦角といった植物を生かす古代からの知恵と、モルヒネの単離、尿素合成に始まる近現代の有機化学の技術が出会った時に、別方向へのベクトルが働いた気がする。南北戦争や普仏戦争でのモルヒネ、WWUでの覚醒剤、ベトナム戦争時のコカイン。薬用だけとはいかない。ただ薬も麻薬も結局は使い方次第という結論では肩透かしの感もある、が。
読了日:03月01日 著者:船山 信次
親鸞の信仰と呪術: 病気治療と臨終行儀親鸞の信仰と呪術: 病気治療と臨終行儀感想
「浄土真宗とは何か」の底本。今の認識では高僧であった法然も親鸞も平安〜鎌倉期に生き、比叡山で修行し、往生を願う人であったという素朴な背景の設定を読み解く。病気の時には呪術を使って快癒を願い、臨終に臨んでは奇瑞の顕現に願う。本人は元より、門弟や家族もそう願う。子弟も天台、真言の寺に学んでいる人。本書はごく当たり前の当時の風景が、後の信者の偏向で歪められた姿を補正する。新書版と梗概は同じながら、専門書として骨格が明解。浄土教の教えの「揺れ」がむしろ自然であり、後に「聖人」として固定化する前の姿に力を感じる。
読了日:02月12日 著者:小山 聡子
ことばの地理学: 方言はなぜそこにあるのかことばの地理学: 方言はなぜそこにあるのか感想
方言と謂えば「蝸牛考」。京を中心に同心円状に伝わるという柳田国男の周圏説だ。本書は視点を変えて区画説の立場で論が進む。例に否定形の語尾が「〜ない」か「〜ん」か。原因理由の接続助詞が「〜から」か「〜さかい」「〜きん」「〜よって」か。東西で分布が分かれると同時に、人の行き来で影響が拡散していることを分析する。そんな学問を「言語地理学」というそうだ。海陸の交通網、家族制度、人口密度、社会組織が東日本の同族的な番か西日本の地域単位の年齢階梯組織の衆か−−種々の要素を考えつつ、調査結果を記した地図を見るのは楽しい。
読了日:02月07日 著者:大西 拓一郎
柳田国男と今和次郎 (平凡社新書)柳田国男と今和次郎 (平凡社新書)感想
筆者は今和次郎のことが書きたかったのだと思う。そこで「民俗学とは」を書くためには柳田国男が必要になり、紙幅を割いたことで焦点が合いにくくなってしまったか。日本の民俗学の系譜で、柳田の「弟子」の今和次郎の仕事を探るはずが、登場人物が多くてエピソード集みたいになってしまった感がある。多彩な人脈を書くことより、今和次郎の存在を今の時点で掘り下げて欲しかった気がする。人物群の中で黒岩忠篤(終戦時の農水大臣。映画「日本の一番長い日」では「昭和8年以来の凶作が見込まれ……」みたいな台詞を言う)の存在は興味深かったが。
読了日:02月06日 著者:畑中 章宏
日本列島100万年史 大地に刻まれた壮大な物語 (ブルーバックス)日本列島100万年史 大地に刻まれた壮大な物語 (ブルーバックス)感想
この風景はどう出来上がった? という疑問に今の時点での知見で解説した1冊。日本列島は花崗岩質で密度の低いユーラシアプレートに玄武岩質で密度の高い太平洋、フィリピン海プレートが沈み込む現象が続いているのは周知だが、気候変動で海水面の上下が起き、浸蝕や堆積が繰り返されたという視点を繋げたところが興味深い。まさか濃尾平野と近江盆地、京都盆地に大阪平野が繋がった動きであったとか、御前崎、潮岬、室戸岬、足摺岬の生成が関連があったとか。機序は頗る力学的なのだけど、組み合わせた時の面白さ。門外漢も楽しめる1冊でした。
読了日:02月03日 著者:山崎 晴雄,久保 純子
「大日本帝国」崩壊―東アジアの1945年 (中公新書)「大日本帝国」崩壊―東アジアの1945年 (中公新書)感想
1945年8月15日は日本では終戦記念日。だが朝鮮、台湾、中国本土、南方、樺太、千島は同じ時期に別の事態が進展した。不可侵条約を破ってソ連軍が南下した北方では後のシベリア抑留や居留民の放置が起こり、朝鮮では南北分割の基礎が固まった。台湾も本省人と外省人の対立は残った。日本は国として戦争終結がやっとで、民間人の保護と統治の引き継ぎすら満足にできなかった。政府の責任や大である。当時、大東亜省は「居留民はできうる限り定着の方針を執る」との指示しかなかったと言う。統治者の責任放棄に近く、戦後の禍根を残した日々だ。
読了日:01月04日 著者:加藤 聖文
SMAPと平成 (朝日新書)SMAPと平成 (朝日新書)感想
筆者には「歌舞伎 家と血と藝」という秀逸な1冊がある。梨園を愛憎、欲望、虚実入り乱れて描いたその本の印象があり、期待を持ってSMAP本2冊目と選んだものの、正直のところ期待外れだった。平成という時代区分(が一般化するかどうか分からないけど)、今上天皇、歴代内閣、世上の出来事をSMAPというグループの動向と繋ぎ合わせることで時代の空気感を描こうという意図なのだけど、結構、牽強付会のような気もして、総体にまとまりに欠ける。話の重心はグループとして世に出て第一人者になっていくまでに重心がある。話が流れ過ぎる。
読了日:01月03日 著者:中川右介
日本はなぜ開戦に踏み切ったか―「両論併記」と「非決定」 (新潮選書)日本はなぜ開戦に踏み切ったか―「両論併記」と「非決定」 (新潮選書)感想
1941年の日米開戦に至る官僚(近衛文麿を除けば大臣も官僚の一種)の動向を跡付けした1冊。意思決定というより、筆者の言う「非(避)決定」と「両論併記」、自己矛盾の繰り返しの記録である。資源を目指して南方に進出しても輸送手段が不如意、工業生産の目算もなく、先方の意向すら牽強付会。この論法は満州事変、日中戦争を通じて現場専行を周囲が追認する構図と相似である。明治憲法下で天皇は無答責の存在で、建前論と御都合主義を制止する権能がどこにもないという制度上の欠陥はあるにせよ。今でもこの行動様式への危惧が拭い切れない。
読了日:01月02日 著者:森山 優
軍艦と装甲―主力艦の戦いに見る装甲の本質とは (光人社NF文庫)軍艦と装甲―主力艦の戦いに見る装甲の本質とは (光人社NF文庫)感想
「攻めるも守るも鐵の」という存在の軍艦。砲弾の威力と防禦の装甲は矛と盾。本書は木造帆船の時代、船首の衝角で体当たりという戦法の頃から40サンチ砲を備えたビッグ7の登場とワシントン条約で海軍の休日に入るまでの試行と結果を淡々と綴っていく。装甲鈑の質的な改良がある一方、砲撃や水中攻撃の進化で耐えられても人的被害が防げなくなる。1dの砲弾が音速の2倍で命中する世界は戦艦を巨大化させ、建艦費の高額化を招き、時代の遺物化を進めることになる。理詰めの書きぶりで納得。なぜ日本がこの妄想から抜け出せなかったか。不思議だ。
読了日:01月01日 著者:新見 志郎

読書メーター
posted by 曲月斎 at 23:47| Comment(0) | 雑事雑用 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

★2017年に読んだ本。

2017年の読書メーター
読んだ本の数:119
読んだページ数:31454
ナイス数:4955

炎の牛肉教室! (講談社現代新書)炎の牛肉教室! (講談社現代新書)感想
土佐あかうし、の話が登場するので読了。好きこそ物の上手なれ、というけど、本当に牛肉LOVEの筆者が体を張って書いたルポ、です。ただ、肉を相応に評価してくれる枠組みができてこそ、すべては始まる訳で、第4章の「土佐あかうし」の事例紹介は、担い手確保が難しくなっている日本の農業の中で、一つの好事例であるのがよく分かります。消費者の嗜好は変わりますが、相対的な評価ではなく、絶対的な価値を畜産農家が持ち続けられるかどうか。行間にあかうし王子こと高知県の公文喜一君や、世話になった室戸の信吾さん、拓也くんの顔が……。
読了日:12月15日 著者:山本 謙治
戦争調査会 幻の政府文書を読み解く (講談社現代新書)戦争調査会 幻の政府文書を読み解く (講談社現代新書)感想
幣原喜重郎を中心に、終戦直後に組織された「戦争調査会」。本書では経緯、人選などに触れ、結局、GHQの意向で尻切れ蜻蛉になるまでが前段。後段は議事録をいくつか拾い読みして、興味深い部分の紹介、という構成。なにぶん、知名度の低い調査会の存在を書くのだから仕方ないとはいえ、組織の経緯よりも、証言集の内容の方に興味がある。ただ、この組織が辿った道は今の「もり・かけ」にも通底するような行政組織の記録の残し方、歴史の検証に耐えうるものかという好個の例であったのは間違いない。忘れるに加え、燃やす、消去では困るのだから。
読了日:12月09日 著者:井上 寿一
わたしが生きた「昭和」わたしが生きた「昭和」感想
1995年。戦後50年に刊行された1冊。手元に残った写真、家族と一緒に移住した満州の吉林での体験、また釜山の沖合にある加徳島に駐在し、一家全滅した叔父一家などが綴られる。五族共和、王道楽土という看板だった満州の実像こそ、貴重な記録といえる。食事や物資の配給、住居など、厳然とした差別が横たわる世界。朝鮮に渡る祖母との永久の別れとなった場面で「おかめ蕎麦」が羨ましかったという筆致が妙に印象的。結局、国籍法のなかった満州国。筆者のいう無数の無名な歴史を掘り起こすことこそ、歴史を確認するために必要な作業になる。
読了日:12月08日 著者:澤地 久枝
兼好法師 - 徒然草に記されなかった真実 (中公新書)兼好法師 - 徒然草に記されなかった真実 (中公新書)感想
小机に肘を付いている姿が浮かぶ兼好法師。でも実に執着に富んだ人生を送った様が描かれる。金沢貞顕、高師直の所に出入りしたり、二条良基の下、頓阿らと歌人としての地歩を築いたり。閑居というより、器用に目端利かせて立ち回った人、という印象になる。文書と残っているものが少ない時代ゆえ、筆者の立論は推定、比定の部分が多いとはいえ、作者像の認識を一新させられる。そして「徒然草」自体が随筆というより、事例集としての「大草子」という分類に属するもの、という見立てが興味深い。本書自体が紙背に徹する読みを披露してくれている。
読了日:12月04日 著者:小川 剛生
日本の夜の公共圏:スナック研究序説日本の夜の公共圏:スナック研究序説感想
スナック、というと大人の空気。そんな空間に就いての考現学。法務、社会学、民俗学、歴史学……etc、各々の世界の専門家が真面目に論じる。読み進めて、この手法は「ウルトラマン研究序説」でも採られた手法であったと気付く。各章も興味深く、二次会の起源から探る日本での酒の飲み方や宴会の慣行、昭和初期のカフェー文化との縁等々。題名にある「日本の夜の公共圏」とは蓋し見事な見立てである。統計的手法による分析も興味深いし、スナックという装置を正面から論じて日本の社会規範の一側面を活写することに成功している。真面目で面白い。
読了日:11月16日 著者:谷口 功一,スナック研究会
愛と狂瀾のメリークリスマス なぜ異教徒の祭典が日本化したのか (講談社現代新書)愛と狂瀾のメリークリスマス なぜ異教徒の祭典が日本化したのか (講談社現代新書)感想
フランシスコ・ザビエルの来日以来のクリスマスに特化した日本史である。最初は教会が担い手だったのが、子供の行事になり、乱痴気騒ぎに続く。戦時中の中断を挟んでまた復活。中で紹介している萩原朔太郎の「今の日本には国民的祭日がない。浮かれるのは『失われた祭日』への郷愁」と評が鋭い。この習俗から日中戦争の勃発が落とした影の大きさが分かる。自身のクリスマスの思い出を振り返ると、狂瀾の後に位置していたことが分かる。「サザエさん」の一コマへの違和感の由来だったか。バブル期も経験し、今は遠い思い出。ただし終章は一寸蛇足。
読了日:11月09日 著者:堀井 憲一郎
同性愛は「病気」なの? 僕たちを振り分けた世界の「同性愛診断法」クロニクル (星海社新書)同性愛は「病気」なの? 僕たちを振り分けた世界の「同性愛診断法」クロニクル (星海社新書)感想
同性を愛する行為は一定程度自然な行為であったろう。宗教的な背景から、18世紀に成立したドイツ刑法の143条で、男性同士の性交、獣姦を包括して公序良俗に反すると定めたことを端緒に様々な「判定法」が出現する。脳、ホルモンバランス等々、珍奇な似非医学が登場した。興味本位で日本でも変態性慾という受け止めが生まれた。その後、精神疾患ではないと医学界での見解が成立したのは1990年、日本の文科省の性非行から除外されたのは94年。長い日陰の歴史を「診断法」という切り口で追跡した1冊。さて衆道の歴史のあった日本では如何?
読了日:11月04日 著者:牧村 朝子
天皇家のお葬式 (講談社現代新書)天皇家のお葬式 (講談社現代新書)感想
盛り込み過ぎた部分もあるか。前段が仏式で営まれた葬送の説明で、後段が神式で進められた明治天皇以降の大葬についての説明。でも一番肝心なところは、仁孝天皇までの仏式と国学思想の入ってきた孝明天皇の葬儀、そして国家神道の色彩で統一された明治以降の葬送へと「変形」した部分にある。神仏分離令であり、神道の国家管理化の道である。ここを焦点に詳述して欲しかった。一方、天皇の棺に題目や名号を紙片に書いて納める習俗が残っていたという。表と奥の意識の差が覘く。竹のカーテンの奥には、皇室の私的な信仰は今も残っているのだろうか。
読了日:11月03日 著者:大角 修
全体主義の起原 3――全体主義 【新版】全体主義の起原 3――全体主義 【新版】感想
テーマはナチドイツとスターリン下のソ連の体制。どちらも全てを巻き込むシステムであったことに変わりはなく、本書では両者を比較対照しながら全体主義についての分析が続く。個人的には現下の状況を代入し、反芻ながら読む、という形になった。その中で、10章「階級社会の崩壊」、11章「全体主義運動」の章は特に興味深く読んだ。というのは「よもや」と思いつつも今の日本社会の姿にどこか相似形にも思えるからだ。「政党制度の枠内で政党が議会に多数を占めたとしてもそれは決して国の現実を反映などしていない」など心に残る表現が続く。
読了日:10月16日 著者:ハンナ・アーレント
帝国の昭和  日本の歴史23 (講談社学術文庫)帝国の昭和 日本の歴史23 (講談社学術文庫)感想
「君主無答責」という明治憲法の原則が生んだ権力の空白は、誰も修正不可能な結果を招いた。ナチスドイツの授権法のような強権的な手法ではなく、官僚と現場、政党と財界、無産階級と資本家等々、WWT後の国際化の波の中で累積した矛盾を合法的に手直ししようとした末の結末は承知の通り。どこに修正すべきことがあったのか。今でも答えは明確にできまい。状況の違いはあるものの、昨今の国内の出来事の構造に類似点を見付けるのが恐いくらいだ。戦前と戦後の連続性を思う。特に大政翼賛会発足のころの感覚は。終章の「戦時とモダニティ」は上々。
読了日:10月14日 著者:有馬 学
空のプロの仕事術―チームで守る航空の安全 (交通新聞社新書)空のプロの仕事術―チームで守る航空の安全 (交通新聞社新書)感想
JALの元・名機長が経験、見聞から飛行機の運航に関わる人々の紹介をしていく。機体の運行から、整備、運行管理、機内サービスもすべて経済効率が優先する今の時代。言えばパンナムが世界中の空にジャンボ機を飛ばしていた時代は優雅ではあっても2度と戻ってはこない。そんな時代に育った敢えて筆者が記しておきたいのは、如何にハイテク機になったとしても、それぞれの経験した事例をどう共有化するのか、という点に尽きるだろう。安全運航技術の蓄積は船>鉄道>空、であると思う。空はなお発展途上の分野。プロという一語に込めた思いを想う。
読了日:10月10日 著者:杉江 弘
斎宮―伊勢斎王たちの生きた古代史 (中公新書)斎宮―伊勢斎王たちの生きた古代史 (中公新書)感想
源氏物語の秋好中宮の逸話か、伊勢物語の「君や来し我や行きけむおもほえず夢かうつつか寝てかさめてか」の歌で知られる話程度しか、斎宮の存在は認識されていないだろう。でも実は奈良、平安期の天皇にとっては祖神を斎き祀る大事な役職で国家管理の役所であったことが説かれる。数人の斎王を点描することが生活ぶりや存在感を生み出す効果を生んでいる。その後、両部神道や度会神道の成立や、役目役職は変質。制度自体は南北朝期に絶えてしまうのだけど、上古期には宮中の意思決定に大きな影響を与える存在であったことが描かれる。一種の裏面史。
読了日:10月04日 著者:榎村 寛之
天皇の戦争宝庫: 知られざる皇居の靖国「御府」 (ちくま新書1271)天皇の戦争宝庫: 知られざる皇居の靖国「御府」 (ちくま新書1271)感想
皇居の中に今も残る(と推定される)御府と呼ばれた施設に就いてのルポ。日清戦争の戦利品と戦没者名簿、遺影を納めた振天府に始まり、北清事変の懐遠府、日露戦争の建安府と明治期に続き、大正天皇の時代のWWI、シベリア出兵の惇明府、昭和の戦役を対象とした顕忠府の5棟。天皇が身近で戦没者を慰霊していることを宣撫するための施設に変容し、終戦と共に姿を消す。鹵獲品の行方はともあれ、多くの写真等歴史資料が残る可能性があるという。竹のカーテンの奥、まだこういう存在があったことに驚く。記憶と記録は尚、封じ込められて……。
読了日:09月10日 著者:井上 亮
絶滅危急季語辞典 (ちくま文庫)絶滅危急季語辞典 (ちくま文庫)感想
本書は東京堂出版で出された1冊が親本。あの事典の東京堂が版元なのだが、寧ろ歳時記の体裁を取った随筆、漫筆という方がいい。筆者の謂う「絶滅の虞がある季語」を拾い上げ、俎上に載せて捌いていく。絶滅危惧といっても、「佐竹の人飾」のように、実態を失っているもの、「われから」のように疎遠になっていたもの。面白がるのか、素っ気ないか、それも俳味ということになるのだけど。「綾取」の項でふっと覘く心根や、「霹靂(はたた)神」の項で欣喜している筆者と青ざめる憧れの君の落差とか。句の背後に描かれる世界が面白い1冊。
読了日:09月07日 著者:夏井 いつき
字幕屋の気になる日本語字幕屋の気になる日本語感想
映画の字幕翻訳に生涯を捧げた筆者の最後の随筆。まず字幕が台詞1秒4文字という制約の下で成立しているとは知らなかった。プロ意識に関わる部分は「字幕屋・酔眼亭の置き手紙」の章に詳しい。"You didn't know?"が「知らなかった?」になり、秒数の制限から「初耳?」に置き換えていく。言葉への感覚が研ぎ澄まされるのはなるほど、と思う。それと1章目の「気になる日本語」も成程の連続。自分の言葉への感覚に近いのにちょっと安堵したり、膝を打ったり。制約の下で意を尽くす。字幕翻訳で身に着けた圧縮技術、畏るべし。
読了日:09月06日 著者:太田 直子
鎌倉幕府滅亡と北条氏一族 (敗者の日本史)鎌倉幕府滅亡と北条氏一族 (敗者の日本史)感想
鎌倉殿の屋台骨を支える北条氏が執権、得宗となり、滅亡していく過程から、権門体制論に対する「東国国家+西国での軍事勢力」という構図を見立てる。北条氏は実質的に政権を掌握した後、元寇を機に全国支配を目指すものの内部抗争から破綻していく。一門で鎌倉殿+六波羅、鎮西探題と切り回すのは人材的に厳しかった。それ以上に事務方の根強さが際立つ。実務を担った官僚は室町殿の時代になっても、或いは徳川殿の時代になっても(今も?)生き残る。角田文衛の「平家後抄」ではないが、「鎌倉殿後抄」みたいな本を読んでみたいなぁ、と。
読了日:09月02日 著者:秋山 哲雄
ノーサイド成田闘争―最後になった社会党オルグ (ふるさと文庫)ノーサイド成田闘争―最後になった社会党オルグ (ふるさと文庫)感想
旧社会党オルグの加瀬勉を主人公に据えた成田闘争史。空港開港に向けて国の執った方策、手段は憲法に抵触するものであったと思う。開港40年を迎えようかという今、空港自体が一番の地域にとっての産業であり、雇用先であり、立地要件になっている。都市近郊農業で生活基盤を確保していたかつてとは異なり、「空港があるからこそ」の町なら、空港との共生共栄を考えるしかない。空港周辺で人口の増加が見込めるエリアと少子高齢化+人口減少の続くエリアに二分化している昨今、歴史と現実との間の清算が一層、自覚的に必要ではないか。
読了日:08月18日 著者:桑折 勇一
新・中世王権論 (文春学藝ライブラリー)新・中世王権論 (文春学藝ライブラリー)感想
本郷先生の権門体制論批判。謂わば「東国国家論」の改良版。「王権」という言葉が適切かは別にして、北条家が執権から得宗専制への移行を通じて、東の武門、西の朝廷の関係を読み解いていく。筆者は「将軍と首頂」という概念を提唱している。寧ろ武力政権が統治の手法を習得する過程と受け止めると分かりやすいかも。勿論、その延長線上に後醍醐天皇の建武の新政、また足利高氏、直義の太平記の時代を挟んで、義満に至って文字通りの「王権」が確立するのだが、頻りに2項対立的に見立てる手法には時に違和感があるものの、見立てとしては興味深い。
読了日:08月14日 著者:本郷 和人
日本史の快楽―中世に遊び現代を眺める (角川ソフィア文庫)日本史の快楽―中世に遊び現代を眺める (角川ソフィア文庫)感想
元原稿は1994年から週刊現代に連載された1ページの〈漫筆〉。1ページという紙幅と週刊という時間的制約。当然ながら、文章にコクがあるかと言われれば、普くその水準を維持するのは厳しい。江戸期に多く書かれた随筆を連想する。数篇は成程と思うものもあったが、舌足らずの感が拭えない。余談ながら、この手の随筆というと、その昔、岩波書店の「図書」に連載された「一月一話」(淮陰生=英文学者の中野好夫の筆名)が思い出される。時事ネタを取り上げても古びない。文章の運びがよく、切れ味がいい。こんな水準こそ〈随筆〉であると思う。
読了日:08月05日 著者:上横手 雅敬
歴史力で乱世を生き抜く (中央公論 Digital Digest)歴史力で乱世を生き抜く (中央公論 Digital Digest)感想
呉座本「応仁の乱」ベストセラー記念の特集号2017年4月号の中央公論の抜き刷り。日本中世史学者の呉座が言う「WWIに似ている応仁の乱」説をイギリス外交史学者の細谷雄一との対談で肉付けしていく。均衡・協調・共同体、という秩序の体系が破れ、戦時と平時の区別がなくなる時代になっていく、という見立てが浮き彫りになる。これは「応仁の乱」が改版になるなら是非解説代わりに巻末に欲しい対談。清水克行と古代オリエント学者の小林登志子の対談「神は紛争をどう解決してきたか」も興味深い。この2篇の対談だけで十分にお勧めです。
読了日:08月03日 著者:呉座勇一,細谷雄一,池田嘉郎,佐藤賢一,出口治明,小林登志子,清水克行,原田眞人,宇野重規,瀧井一博
人民元の興亡 毛沢東・ケ小平・習近平が見た夢人民元の興亡 毛沢東・ケ小平・習近平が見た夢感想
紙幣とは不思議なもの。たとえば日本円。外貨準備としてかつては金、今は米ドルの保有が信用の裏付けになる。今の人民元もバスケット制があり、米国債を保有が信用の源だ。大陸では多くの発券銀行が存在し、統一的な紙幣がなかった。日米英ソなどが瓜分を試みた時期に重なる。筆者はそんな時代から読み解き始め、人民元をIMFのSDR構成通貨まで育て上げた苦闘を読み解く。この先、米ドルとならぶ基軸通貨になり得るかと言えば、中国自身の体制が抱える弱点ゆえに限界があるとの指摘、ビットコインの登場まで目配りする視野が広くて楽しい1冊。
読了日:07月08日 著者:吉岡 桂子
バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史 (中公新書)バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史 (中公新書)感想
オスマン帝国の西端、バルカン半島の来歴をまとめた1冊。旧ユーゴ諸国が分離独立した後の出来事は記憶に残る。決して昔の話ではない。何で「火薬庫」になってしまったのか、を読み解くのが眼目。民族、宗教(イスラム、ギリシャ正教などなど)という「違い」を意識するきっかけとなったのは西欧から来た「ナショナリズム」の故であり、露、独、墺、仏、英といった周囲の国々の影響、思惑が覘く。一概に「国民国家」の成立が近代化なのか、と考え込む。現在進行形である中東での混乱を見るにつけても……。巻末の訳者外題から読む方が分かりやすい。
読了日:07月05日 著者:マーク・マゾワー
東京昭和百景―山高登木版画集東京昭和百景―山高登木版画集感想
たぶん戦後、1964年の東京五輪前後までの風景の版画。安藤広重を初め、多くの浮世絵師が手がけてきた素材だが、どこか、新版画の旗手、川瀬巴水の感性とか、川上澄生の色づかいの影響も感じられる。小、中学生のころ、背伸びして出かけた東京にあった風景。もう残っているところは少ないが。ちょと知人がいいねをしているので、手を伸ばした1冊。
読了日:07月03日 著者:山高 登
ノモンハン事件―機密文書「検閲月報」が明かす虚実 (平凡社新書)ノモンハン事件―機密文書「検閲月報」が明かす虚実 (平凡社新書)感想
ノモンハン事件の概要、国内での報道、現地での検閲ぶり、そして戦中戦後に亘る享受史を概説した1冊。新書という判型、入門書という制約があるので仕方ないのだけど、力点を絞って欲しかった気がする。抑も日本側、旧ソ連側の記録が詳細になっているという状況になく、なお先方の秘密文書が次々発見されているのが現状では事件についての記述も得心のいく内容を提示しにくいのは承知だが。個人的には本書は副題にもある「検閲資料」の部分と戦中戦後の当事者の執筆に懸かる戦記、そして藤田嗣治の絵が2枚あったという逸話を膨らませて欲しかった。
読了日:07月02日 著者:小林 英夫
謎の漢字 - 由来と変遷を調べてみれば (中公新書)謎の漢字 - 由来と変遷を調べてみれば (中公新書)感想
肩肘張らずに読むと楽しい。漢字に魅せられて、享受の歴史を辿れば、という随筆だからだ。中国に発し、日本に渡ってきた文字体系がどう受け止められてきたのか。地名に残る国字、或いは作字の山。JIS水準漢字のコードを決める作業に携わった筆者には感慨深いものがあろう。また、5代目團十郎が名乗った「鰕蔵」のエビの字。海老でも蝦でも蛯でもない。江戸期の爛熟した文化が背景にある。そして科挙の制を通じて筆記の際に変転する字形、書体で甲乙を付ける愚かしさ。研究というのはこういう風に目線を上げたら楽しい、と説いている1冊。
読了日:06月09日 著者:笹原宏之 著
陰謀・暗殺・軍刀―一外交官の回想 (岩波新書 青版 38)陰謀・暗殺・軍刀―一外交官の回想 (岩波新書 青版 38)感想
初版は1950年。世上では真相を記す貴重な書であったのだろうけど、今、読み返してみると、果たしてどうだろうか。例えば文中に、奉天総領事時代の吉田茂について「現総理」という記述が出てくる。当時はあからさまなことを書けないほどに生存者はいただろうし、筆者が先を急ぐあまり、書いていることが散漫になっている気がする。頭の中でかなりの事項を補いつつ読むしかない1冊で、当事者の記録としての価値は見いだし得るものの、今となっては隔靴掻痒、馬耳東風の感が強い。彼も東大法科を出た一流官僚。視点は一角からしか、でない。
読了日:06月05日 著者:森島 守人
習近平の中国――百年の夢と現実 (岩波新書)習近平の中国――百年の夢と現実 (岩波新書)感想
読み終えて感じること。「歴史は2度繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」という言葉だ。この国は2度目どころか、この警句を何回も繰り返してきた訳で、今の習近平もまた軛から逃れることはない。「士庶の別」と「華夷の別」。本書を通じて、この2つの概念を乗り越えることはかなり難しいのを実感した。と同時に時代はこの国に別の役割を求め始めている現実。一強だったはずの米国が漂流を始めた中、党の下に国家があるという体制がどこまで維持できるのか。事実を積み上げた書きぶりならではの説得感が残る。大丈夫なのか、と。
読了日:06月03日 著者:林 望
列島を翔ける平安武士: 九州・京都・東国 (歴史文化ライブラリー)列島を翔ける平安武士: 九州・京都・東国 (歴史文化ライブラリー)感想
「一所懸命」という言葉に引き摺られる訳でもないが、武士=土着、という印象が強い。実は京の兵家貴族が地方へ下り、地元の豪族と結びついて勢力を広げていった様を読み解く。全国を股にかけての展開だ。本書の話題の舞台の中心は九州。京から、関東から下った武士が頭角を現していく様を書く。立論に蓋然性は高いとは思うものの、推定形の結論が一寸目立つのが気になった。伊勢を基盤にした平氏、東国を基盤にのし上がった源氏と、一朝一夕に表舞台に躍り出た訳ではないのが分かる。物資も自給自足ではなく、薩摩〜京〜陸奥と結んだ。興味深い。
読了日:06月01日 著者:野口 実
80時間世界一周 格安航空乗りまくり悶絶ルポ (扶桑社新書)80時間世界一周 格安航空乗りまくり悶絶ルポ (扶桑社新書)感想
80時間、13万円台で西周りで世界一周(茨城〜上海〜モスクワ〜デュッセルドルフ〜チューリッヒ〜NY〜LA〜羽田)する話。2012年刊。就航していない所に住んでいたので実感がなかったが、実はLCCが空の世界を大きく変えているのを実感する。旅の大半が旅客機の中という旅行記なので、J・ヴェルヌのような波瀾万丈の中身にはならないのだけど、手続きと出入国審査と乗り継ぎを繰り返すのが現代的な波乱劇なのかも。小さな出来事からお国柄の見立てはなかなかに巧者。ともあれ今、世界の空はLCCだらけだったんだ、と。
読了日:05月09日 著者:近兼 拓史
和食の歴史 (和食文化ブックレット5)和食の歴史 (和食文化ブックレット5)感想
和食の歴史を概観した1冊。卓上に備えた塩や醬で自分で調味しながら食べた大饗料理の時代から、醱酵調味料の登場で味付けまでした形で供される形へ。実質的には鎌倉期の精進料理(粉食文化も)、室町期の本膳料理が茶道の懐石料理、江戸期の会席料理を節目に進化する。根幹にあるのは主食の米。モンスーン地域に適合した作物だったのが幸い。で、興味深かったのは、戦前の水準に米作の量が戻ったのが1955年。高度成長期前夜。進学率、集団就職、いろんなことに繫がっていそう。副菜の中で、肉食が魚食を上回ったのが1988年だったとは意外。
読了日:05月06日 著者:原田 信男
「天皇機関説」事件 (集英社新書)「天皇機関説」事件 (集英社新書)感想
美濃部達吉が貴族院で追及された「天皇機関説」。立憲主義を守るために必要であったものが、「天皇主体説」を奉じる面々に駆逐されていった。端緒は箕田胸喜や菊池武夫らながら、政争の具にした鈴木喜三郎、枢密院議長の座を巡っての平沼騏一郎、陸軍内の主導権争いの梃子にした真崎甚三郎と、有象無象が群れていき、混迷を深める。しかも「国体」という実態のない概念を奉じての行動に振り回される。勿論、世上に正常な情報を与えるべき報道機関も含め、呆れるばかりの軽躁の様に、情けなくさえある。さて歴史の彼方と嗤っていられるか否か……。
読了日:05月05日 著者:山崎 雅弘
天下泰平の時代〈シリーズ 日本近世史 3〉 (岩波新書)天下泰平の時代〈シリーズ 日本近世史 3〉 (岩波新書)感想
江戸時代でも、4代家綱から10代家治の頃までを視野に入れた1冊。外は明から清への王朝交代に始まって、露国の蝦夷地への来訪まで。内は武力による統治から権威を利用した治世に、江戸と京の関係では融和、統制から幕末への胎動まで。版図の言葉通り、地図を作り、戸籍を作り、修史をし、貨幣の改鋳から経済政策まで。天下泰平の大筋を網羅していく。今に続く統治機構、官僚制度の根幹が作られ、確立した体制は盤石に見えても格差の拡大によって揺らいでいく。時代区分で言えば中世から近世への移行期。小さな変化を紡いでいく書きぶり、良書。
読了日:05月04日 著者:高埜 利彦
昭和の歌舞伎 名優列伝 (淡交新書)昭和の歌舞伎 名優列伝 (淡交新書)感想
本文269頁の本で169頁までが筆者の未見の役者の話。列伝体ではあっても筆者の知識の集積を編輯した体裁。1次資料といいづらく、出典の明記も少ない。1955年生まれの筆者が取り組む主題としては厳しい気がする。75年以前が没年の役者になると、実際に見ていても運びが弱い。勢い文末を丸めるような文体で上品だけど、全体的に歯切れが悪い。同趣向の1冊として1960年生まれの中川右介「歌舞伎 家と血と藝」(講談社現代新書)の方が見立ての藝が行き届いていて出来がいいと思う。役者同士の聯関の説明が分かりにくいのも残念。
読了日:04月17日 著者:石橋 健一郎
張作霖:爆殺への軌跡一八七五‐一九二八張作霖:爆殺への軌跡一八七五‐一九二八感想
日本史の教科書なら1行にも満たない出来事が約350ページの本になった。1875年に奉天海城で生まれた張作霖を主人公に、日清、日露の戦役から清朝崩壊、軍閥の割拠、国民党の北伐を前に躍動した跡を辿る。2000年代以降に主に刊行された中国側の資料を読み込み、日本側の資料と付き合わせて描き出した物語、前半は講談を聞くような快感があり、後段はソ、日など外国勢力の思惑と各軍閥の絡み合いを描いて倦むことない展開。1928年の爆殺まで、精緻な細工ものを見るような楽しさがある1冊。行間にひとかどの人物像が浮かび上がる。
読了日:04月09日 著者:杉山 祐之
プロ野球・二軍の謎 (幻冬舎新書)プロ野球・二軍の謎 (幻冬舎新書)感想
田口はプロ生活を始めた頃を知っているし、その後のMLBでの経験談も愛読してきた。書きぶりには一目どころか井目風鈴くらい置いているものの、本書はちょっと物足りない。テーマはファーム制度の話か、日米の比較なのか、2軍監督1年生としての経験談なのか。焦点が絞り切れていない感じが残った。もっと自在に書いていいのだし、筆者ならできるはず。何しろ、あの仰木彬やT・ラルーサの下でプレーした選手なのだから。もっと歯切れ良く書けたはず。プロの世界を一般社会まで敷衍しようという試みが本書の内容を半煮えにしたような気がする。
読了日:04月08日 著者:田口 壮
世界のなかの日清韓関係史-交隣と属国、自主と独立 (講談社選書メチエ)世界のなかの日清韓関係史-交隣と属国、自主と独立 (講談社選書メチエ)感想
冊封制度は中国に臣下の礼はとっても、内政外交は自主的にできる「属国自主」の概念。植民地とは東アジアでは似て非なるものと受け止められてきた。礼を基本とする儒教を国教とした朝鮮は中国本土の王朝が明から清にと変わった中、自身が正統で天朝を引き継ぐものとしての自負が膨らむ。一方、18世紀にこの地を訪れた帝国主義を掲げる西欧列強には不可解な慣習だったろう。本書は朝鮮のそんな歴史的背景を踏まえた上で19世紀以降の変化を解析した点が今に続く事情の理解に役立つ。筆者の一連の著作を併読すると立体的に見えてくるものがある。
読了日:04月05日 著者:岡本 隆司
ブッダと法然 (新潮新書)ブッダと法然 (新潮新書)感想
釈迦と法然。「0」から「1」を生んだ宗教者という視点で読み解いていく。縁起を説いた人と念仏往生を説いた人。先行する考えを否定することで次の段階に進んでいく。「空亦復空」であり、悟りを開いたと思った瞬間に次の考えを生んでいかざるをえない。キリスト教は公会議で教義を1本に絞ってきたのとは対照的に絶対者・阿弥陀を想定しながら、そこで止まることがなかった点に筆者は仏教の特色を見る。読み終わって感じること。法然のという人はやはり叡山の人で、持戒清浄、大原問答に勝てる学識、もっと認識が改められていい宗教者である。
読了日:03月05日 著者:平岡聡
ロシア革命――破局の8か月 (岩波新書)ロシア革命――破局の8か月 (岩波新書)感想
帝政ロシアの2月革命から10月革命に至る間の動きを追った1冊。混迷の構図の原因は「2分法」の思想にあるという。資本家、支配者などの「あいつら」と農民、兵士、労働者などの「われわれ」という構図だ。相手を考える余裕がなければ双方の理解と交渉と妥協が成立するはずもない。結局、ボルシェビキは結局、力で圧倒することで政体を確立したのだから。同じく共産主義革命が起きた中国を見れば根底には「士庶」「華夷」の別があり、本書で取り上げられた崩壊にも似る。で、日本では……。中世くらいのイメージかなぁ。さらに今の世相も……。
読了日:03月04日 著者:池田 嘉郎
中世の声と文字 親鸞の手紙と『平家物語』 シリーズ<本と日本史>3 (集英社新書)中世の声と文字 親鸞の手紙と『平家物語』 シリーズ<本と日本史>3 (集英社新書)感想
本来の本書の趣旨は、人が意図を伝える手段としての手紙や物語が書き言葉の漢文ではなく、仮名交じりになったという事象をきちんと分析、紹介することにあったはず。親鸞の手紙や和讃を取り上げるが表層的な感じ。後段の平家物語の部分は兪々表層。語り本系から読み本系へ発展したとする嘗ての説を筆者は奉じているが、最近の研究では逆。延慶本辺りに古態を見るのが定説だ。保元、平治物語もそう。昨今の国文学研究の進展を理解していないように見える。むしろ、本書は慈圓はなぜ愚管抄を漢字仮名交じりで書いたかを説く方が大切ではなかったか。
読了日:03月03日 著者:大隅 和雄
〈麻薬〉のすべて (講談社現代新書)〈麻薬〉のすべて (講談社現代新書)感想
痲薬という字面の禍々しさ。「規制薬物=麻薬」なら中枢神経を抑制するモルヒネ類も興奮させる覚醒剤類も幻覚を催すLSDの類いも同じ範疇になる。寧ろ「血液脳関門通過物質」であることが共通項になる。罌粟、麦角といった植物を生かす古代からの知恵と、モルヒネの単離、尿素合成に始まる近現代の有機化学の技術が出会った時に、別方向へのベクトルが働いた気がする。南北戦争や普仏戦争でのモルヒネ、WWUでの覚醒剤、ベトナム戦争時のコカイン。薬用だけとはいかない。ただ薬も麻薬も結局は使い方次第という結論では肩透かしの感もある、が。
読了日:03月01日 著者:船山 信次
親鸞の信仰と呪術: 病気治療と臨終行儀親鸞の信仰と呪術: 病気治療と臨終行儀感想
「浄土真宗とは何か」の底本。今の認識では高僧であった法然も親鸞も平安〜鎌倉期に生き、比叡山で修行し、往生を願う人であったという素朴な背景の設定を読み解く。病気の時には呪術を使って快癒を願い、臨終に臨んでは奇瑞の顕現に願う。本人は元より、門弟や家族もそう願う。子弟も天台、真言の寺に学んでいる人。本書はごく当たり前の当時の風景が、後の信者の偏向で歪められた姿を補正する。新書版と梗概は同じながら、専門書として骨格が明解。浄土教の教えの「揺れ」がむしろ自然であり、後に「聖人」として固定化する前の姿に力を感じる。
読了日:02月12日 著者:小山 聡子
ことばの地理学: 方言はなぜそこにあるのかことばの地理学: 方言はなぜそこにあるのか感想
方言と謂えば「蝸牛考」。京を中心に同心円状に伝わるという柳田国男の周圏説だ。本書は視点を変えて区画説の立場で論が進む。例に否定形の語尾が「〜ない」か「〜ん」か。原因理由の接続助詞が「〜から」か「〜さかい」「〜きん」「〜よって」か。東西で分布が分かれると同時に、人の行き来で影響が拡散していることを分析する。そんな学問を「言語地理学」というそうだ。海陸の交通網、家族制度、人口密度、社会組織が東日本の同族的な番か西日本の地域単位の年齢階梯組織の衆か−−種々の要素を考えつつ、調査結果を記した地図を見るのは楽しい。
読了日:02月07日 著者:大西 拓一郎
柳田国男と今和次郎 (平凡社新書)柳田国男と今和次郎 (平凡社新書)感想
筆者は今和次郎のことが書きたかったのだと思う。そこで「民俗学とは」を書くためには柳田国男が必要になり、紙幅を割いたことで焦点が合いにくくなってしまったか。日本の民俗学の系譜で、柳田の「弟子」の今和次郎の仕事を探るはずが、登場人物が多くてエピソード集みたいになってしまった感がある。多彩な人脈を書くことより、今和次郎の存在を今の時点で掘り下げて欲しかった気がする。人物群の中で黒岩忠篤(終戦時の農水大臣。映画「日本の一番長い日」では「昭和8年以来の凶作が見込まれ……」みたいな台詞を言う)の存在は興味深かったが。
読了日:02月06日 著者:畑中 章宏
日本列島100万年史 大地に刻まれた壮大な物語 (ブルーバックス)日本列島100万年史 大地に刻まれた壮大な物語 (ブルーバックス)感想
この風景はどう出来上がった? という疑問に今の時点での知見で解説した1冊。日本列島は花崗岩質で密度の低いユーラシアプレートに玄武岩質で密度の高い太平洋、フィリピン海プレートが沈み込む現象が続いているのは周知だが、気候変動で海水面の上下が起き、浸蝕や堆積が繰り返されたという視点を繋げたところが興味深い。まさか濃尾平野と近江盆地、京都盆地に大阪平野が繋がった動きであったとか、御前崎、潮岬、室戸岬、足摺岬の生成が関連があったとか。機序は頗る力学的なのだけど、組み合わせた時の面白さ。門外漢も楽しめる1冊でした。
読了日:02月03日 著者:山崎 晴雄,久保 純子
「大日本帝国」崩壊―東アジアの1945年 (中公新書)「大日本帝国」崩壊―東アジアの1945年 (中公新書)感想
1945年8月15日は日本では終戦記念日。だが朝鮮、台湾、中国本土、南方、樺太、千島は同じ時期に別の事態が進展した。不可侵条約を破ってソ連軍が南下した北方では後のシベリア抑留や居留民の放置が起こり、朝鮮では南北分割の基礎が固まった。台湾も本省人と外省人の対立は残った。日本は国として戦争終結がやっとで、民間人の保護と統治の引き継ぎすら満足にできなかった。政府の責任や大である。当時、大東亜省は「居留民はできうる限り定着の方針を執る」との指示しかなかったと言う。統治者の責任放棄に近く、戦後の禍根を残した日々だ。
読了日:01月04日 著者:加藤 聖文
SMAPと平成 (朝日新書)SMAPと平成 (朝日新書)感想
筆者には「歌舞伎 家と血と藝」という秀逸な1冊がある。梨園を愛憎、欲望、虚実入り乱れて描いたその本の印象があり、期待を持ってSMAP本2冊目と選んだものの、正直のところ期待外れだった。平成という時代区分(が一般化するかどうか分からないけど)、今上天皇、歴代内閣、世上の出来事をSMAPというグループの動向と繋ぎ合わせることで時代の空気感を描こうという意図なのだけど、結構、牽強付会のような気もして、総体にまとまりに欠ける。話の重心はグループとして世に出て第一人者になっていくまでに重心がある。話が流れ過ぎる。
読了日:01月03日 著者:中川右介
日本はなぜ開戦に踏み切ったか―「両論併記」と「非決定」 (新潮選書)日本はなぜ開戦に踏み切ったか―「両論併記」と「非決定」 (新潮選書)感想
1941年の日米開戦に至る官僚(近衛文麿を除けば大臣も官僚の一種)の動向を跡付けした1冊。意思決定というより、筆者の言う「非(避)決定」と「両論併記」、自己矛盾の繰り返しの記録である。資源を目指して南方に進出しても輸送手段が不如意、工業生産の目算もなく、先方の意向すら牽強付会。この論法は満州事変、日中戦争を通じて現場専行を周囲が追認する構図と相似である。明治憲法下で天皇は無答責の存在で、建前論と御都合主義を制止する権能がどこにもないという制度上の欠陥はあるにせよ。今でもこの行動様式への危惧が拭い切れない。
読了日:01月02日 著者:森山 優
軍艦と装甲―主力艦の戦いに見る装甲の本質とは (光人社NF文庫)軍艦と装甲―主力艦の戦いに見る装甲の本質とは (光人社NF文庫)感想
「攻めるも守るも鐵の」という存在の軍艦。砲弾の威力と防禦の装甲は矛と盾。本書は木造帆船の時代、船首の衝角で体当たりという戦法の頃から40サンチ砲を備えたビッグ7の登場とワシントン条約で海軍の休日に入るまでの試行と結果を淡々と綴っていく。装甲鈑の質的な改良がある一方、砲撃や水中攻撃の進化で耐えられても人的被害が防げなくなる。1dの砲弾が音速の2倍で命中する世界は戦艦を巨大化させ、建艦費の高額化を招き、時代の遺物化を進めることになる。理詰めの書きぶりで納得。なぜ日本がこの妄想から抜け出せなかったか。不思議だ。
読了日:01月01日 著者:新見 志郎

読書メーター
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★2017年9月に読んだ本。

天皇の戦争宝庫: 知られざる皇居の靖国「御府」 (ちくま新書1271)天皇の戦争宝庫: 知られざる皇居の靖国「御府」 (ちくま新書1271)感想
皇居の中に今も残る(と推定される)御府と呼ばれた施設に就いてのルポ。日清戦争の戦利品と戦没者名簿、遺影を納めた振天府に始まり、北清事変の懐遠府、日露戦争の建安府と明治期に続き、大正天皇の時代のWWI、シベリア出兵の惇明府、昭和の戦役を対象とした顕忠府の5棟。天皇が身近で戦没者を慰霊していることを宣撫するための施設に変容し、終戦と共に姿を消す。鹵獲品の行方はともあれ、多くの写真等歴史資料が残る可能性があるという。竹のカーテンの奥、まだこういう存在があったことに驚く。記憶と記録は尚、封じ込められて……。
読了日:09月10日 著者:井上 亮
絶滅危急季語辞典 (ちくま文庫)絶滅危急季語辞典 (ちくま文庫)感想
本書は東京堂出版で出された1冊が親本。あの事典の東京堂が版元なのだが、寧ろ歳時記の体裁を取った随筆、漫筆という方がいい。筆者の謂う「絶滅の虞がある季語」を拾い上げ、俎上に載せて捌いていく。絶滅危惧といっても、「佐竹の人飾」のように、実態を失っているもの、「われから」のように疎遠になっていたもの。面白がるのか、素っ気ないか、それも俳味ということになるのだけど。「綾取」の項でふっと覘く心根や、「霹靂(はたた)神」の項で欣喜している筆者と青ざめる憧れの君の落差とか。句の背後に描かれる世界が面白い1冊。
読了日:09月07日 著者:夏井 いつき
字幕屋の気になる日本語字幕屋の気になる日本語感想
映画の字幕翻訳に生涯を捧げた筆者の最後の随筆。まず字幕が台詞1秒4文字という制約の下で成立しているとは知らなかった。プロ意識に関わる部分は「字幕屋・酔眼亭の置き手紙」の章に詳しい。"You didn't know?"が「知らなかった?」になり、秒数の制限から「初耳?」に置き換えていく。言葉への感覚が研ぎ澄まされるのはなるほど、と思う。それと1章目の「気になる日本語」も成程の連続。自分の言葉への感覚に近いのにちょっと安堵したり、膝を打ったり。制約の下で意を尽くす。字幕翻訳で身に着けた圧縮技術、畏るべし。
読了日:09月06日 著者:太田 直子
鎌倉幕府滅亡と北条氏一族 (敗者の日本史)鎌倉幕府滅亡と北条氏一族 (敗者の日本史)感想
鎌倉殿の屋台骨を支える北条氏が執権、得宗となり、滅亡していく過程から、権門体制論に対する「東国国家+西国での軍事勢力」という構図を見立てる。北条氏は実質的に政権を掌握した後、元寇を機に全国支配を目指すものの内部抗争から破綻していく。一門で鎌倉殿+六波羅、鎮西探題と切り回すのは人材的に厳しかった。それ以上に事務方の根強さが際立つ。実務を担った官僚は室町殿の時代になっても、或いは徳川殿の時代になっても(今も?)生き残る。角田文衛の「平家後抄」ではないが、「鎌倉殿後抄」みたいな本を読んでみたいなぁ、と。
読了日:09月02日 著者:秋山 哲雄
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2017年12月02日

★2017年11月に読んだ本。

11月の読書メーター
読んだ本の数:6
読んだページ数:1436
ナイス数:274

ねじ曲げられた「イタリア料理」 (光文社新書)ねじ曲げられた「イタリア料理」 (光文社新書)感想
所謂、イタリア料理というのは何なのだろう。筆者曰く、トマトはトマト缶出現以前は主要な味ではなかったし、乾燥のパスタは生パスタとは別物で、エキストラバージンオイルやピザ、カプチーノが普及したのはこの半世紀ほど……。確かに日本料理を見ても然りと思いつつ、戦後のアメリカ文化の席捲ぶりは凄まじかった(往年の「旅情」「ローマの休日」を考えても想像できる)。ただ、その根底にあるのは農業の工業化であり、本物を考えると相応の対価も生まれるのは至極当然。折しも種子法廃止の議論もある。気付かぬうちに足下の砂が無くなる怖さも。
読了日:11月24日 著者:ファブリツィオ・グラッセッリ
戦争と農業 (インターナショナル新書)戦争と農業 (インターナショナル新書)感想
1950年頃、世界の人口は推計約25億人。直近でそれが約75億人。増加できたのは食料の確保がある訳で、理由は農業機械と化学肥料と農薬と品種改良の故。勿論、光と影があるのは言うまでもなく、特に筆者の言う「砂時計のネック」(穀物メジャーと大手食品メーカー)の見えざる手が全てに働いているのもまた事実。筆者の懸念は理解できる一方で、現実的に人口が増えた事実の前に、どんな処方箋が有り得るのか。農業が工業化することの弊は分かるが、近代的な生活に慣れてしまった身として不可逆的な進化であったような気も。考えることは多い。
読了日:11月19日 著者:藤原 辰史
日本の夜の公共圏:スナック研究序説日本の夜の公共圏:スナック研究序説感想
スナック、というと大人の空気。そんな空間に就いての考現学。法務、社会学、民俗学、歴史学……etc、各々の世界の専門家が真面目に論じる。読み進めて、この手法は「ウルトラマン研究序説」でも採られた手法であったと気付く。各章も興味深く、二次会の起源から探る日本での酒の飲み方や宴会の慣行、昭和初期のカフェー文化との縁等々。題名にある「日本の夜の公共圏」とは蓋し見事な見立てである。統計的手法による分析も興味深いし、スナックという装置を正面から論じて日本の社会規範の一側面を活写することに成功している。真面目で面白い。
読了日:11月16日 著者:谷口 功一,スナック研究会
愛と狂瀾のメリークリスマス なぜ異教徒の祭典が日本化したのか (講談社現代新書)愛と狂瀾のメリークリスマス なぜ異教徒の祭典が日本化したのか (講談社現代新書)感想
フランシスコ・ザビエルの来日以来のクリスマスに特化した日本史である。最初は教会が担い手だったのが、子供の行事になり、乱痴気騒ぎに続く。戦時中の中断を挟んでまた復活。中で紹介している萩原朔太郎の「今の日本には国民的祭日がない。浮かれるのは『失われた祭日』への郷愁」と評が鋭い。この習俗から日中戦争の勃発が落とした影の大きさが分かる。自身のクリスマスの思い出を振り返ると、狂瀾の後に位置していたことが分かる。「サザエさん」の一コマへの違和感の由来だったか。バブル期も経験し、今は遠い思い出。ただし終章は一寸蛇足。
読了日:11月09日 著者:堀井 憲一郎
同性愛は「病気」なの? 僕たちを振り分けた世界の「同性愛診断法」クロニクル (星海社新書)同性愛は「病気」なの? 僕たちを振り分けた世界の「同性愛診断法」クロニクル (星海社新書)感想
同性を愛する行為は一定程度自然な行為であったろう。宗教的な背景から、18世紀に成立したドイツ刑法の143条で、男性同士の性交、獣姦を包括して公序良俗に反すると定めたことを端緒に様々な「判定法」が出現する。脳、ホルモンバランス等々、珍奇な似非医学が登場した。興味本位で日本でも変態性慾という受け止めが生まれた。その後、精神疾患ではないと医学界での見解が成立したのは1990年、日本の文科省の性非行から除外されたのは94年。長い日陰の歴史を「診断法」という切り口で追跡した1冊。さて衆道の歴史のあった日本では如何?
読了日:11月04日 著者:牧村 朝子
天皇家のお葬式 (講談社現代新書)天皇家のお葬式 (講談社現代新書)感想
盛り込み過ぎた部分もあるか。前段が仏式で営まれた葬送の説明で、後段が神式で進められた明治天皇以降の大葬についての説明。でも一番肝心なところは、仁孝天皇までの仏式と国学思想の入ってきた孝明天皇の葬儀、そして国家神道の色彩で統一された明治以降の葬送へと「変形」した部分にある。神仏分離令であり、神道の国家管理化の道である。ここを焦点に詳述して欲しかった。一方、天皇の棺に題目や名号を紙片に書いて納める習俗が残っていたという。表と奥の意識の差が覘く。竹のカーテンの奥には、皇室の私的な信仰は今も残っているのだろうか。
読了日:11月03日 著者:大角 修

読書メーター
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2017年11月01日

☆2017年10月に読んだ本

10月の読書メーター
読んだ本の数:12
読んだページ数:2810
ナイス数:439

出羽三山――山岳信仰の歴史を歩く (岩波新書)出羽三山――山岳信仰の歴史を歩く (岩波新書)感想
山岳信仰は日本の宗教観の中で、特異な位置を占める。2度の変化(江戸時代の宗門改と明治時代の神仏分離)を経て、大きく変容している。中で出羽三山の信仰は今猶、古体を残している。そんな信仰の姿を総まくりした入門書。歴史に始まり、四季の峰入り、古絵図から探る三山の信仰の姿、一世行人と山麓に残る即身仏信仰、そして修行者、参詣者のための食、そしてツーリズムの発展まで目配りの行き届いた1冊になっている。信仰は広く関東地方にまでその跡を残す。2度の破壊を経て、分かり難くなっている元の姿をトレースする試みは成功している。
読了日:10月29日 著者:岩鼻 通明
日本史の内幕 - 戦国女性の素顔から幕末・近代の謎まで (中公新書)日本史の内幕 - 戦国女性の素顔から幕末・近代の謎まで (中公新書)感想
新聞連載の漫筆。森羅万象、見識を蓄積して繋ぎ合わすというのはやはり才能だと思う。本書で面白かったのは第4章の「この国を支える文化の話」の項。能、香道、生花に落語、そして出版。実際に体験してみたからこその随想がおもしろかった。出版の話の中で「本が作った国に生きている」という表現は将に当たっていると思う。江戸時代には「往来」物から、今に至るまで続く「日本外史」の歴史観、そして「養生訓」。ほかにも太平記や謡本など、紙で見聞を広め、知識を積み重ねてきた歴史を改めて思う。筆者ならずとも、Webの時代、如何にせんと。
読了日:10月29日 著者:磯田 道史
十五歳の戦争 陸軍幼年学校「最後の生徒」 (集英社新書)十五歳の戦争 陸軍幼年学校「最後の生徒」 (集英社新書)感想
先の戦争を体験した世代が物故していく中、陸軍幼年学校最後の生徒だった筆者が当時を回顧し、自身の歩みを振り返った等身大の部分には発見がある。俸給を貰うようになって兵として組み込まれた自分の発見、空襲で死んだ学友の屍衛兵のこと、陸幼に同性愛の気風があり、阿南惟幾を評して「陸幼始まって以来の美少年」との言葉をして、その証左という。空気を体験した人ならではだ。「鬼畜米英といっても顔が浮かばない」というのもまた実感で興味深い。終章は「なぜ戦争に進んだか」を筆者なりに謎解きした部分でこの時代を生きた人ならではの解釈。
読了日:10月29日 著者:西村 京太郎
江戸の小判ゲーム (講談社現代新書)江戸の小判ゲーム (講談社現代新書)感想
寛政の改革の際の棄捐令や猿楽町会所の施策、数次に渉る貨幣の改鋳を例に、一連の施策が商人が蓄える金銀を市中に流通させる幕府の金融政策と解釈し直すのが本書の眼目。経済活動を刺激する、と読み替えるのは新鮮。筆者が経済学のゲーム理論に出会い、史料を読み解いたのが面白い。ただ、ここまで劇的だったのだろうか。確かに「支配−被支配」という二項対立という視点だけに縛られていては窮屈だが、ここまで自由闊達であり得たか。江戸三年寄の奈良屋・樽屋・喜多村や大坂の三郷惣年寄の権能、株仲間制度など考慮すべき変数は多い気がする。
読了日:10月29日 著者:山室 恭子
カラー版 地図にない駅 (宝島社新書)カラー版 地図にない駅 (宝島社新書)感想
筆者の本は「秘境駅に行こう」が最初。藤枝に住んでいて、大井川鐵道の奥大井湖上駅が紹介されていたので手に取ったのを思い出した。本書も京成本線の駒井野信号所が出ていたので手を伸ばした。信号所、臨時駅、仮乗降場の一覧がついているので、何かの時?の索引用に手元に置くような。車窓から眺めていてもそれと知らなければ気がつくことはないだろう。でもそこにはなにがしかの物語がある。年に1度の体育祭、あるは祭礼のため、工事の従事者のため、など鉄道が今よりも身近な存在であった証なのかも知れない。函館本線張碓をふと思い出した。
読了日:10月28日 著者: 
折口信夫 - 日本の保守主義者 (中公新書)折口信夫 - 日本の保守主義者 (中公新書)感想
碩学・折口信夫の考えを社会全体の中で位置づけてみたら、という1冊。心の動きを折口の「歌」と「発言」を元に分析する。関東大震災後の朝鮮人虐殺、2・26事件など、心動かすものがあるものの、基調としては日本人の心に与える潤いこそ大事であり、国学で教示するのが仕事と思っていたと説く。社会への関心がありながら、要路への交渉が薄く、WWUでは沖縄戦や養子の春洋の戦死まで実感として戦争を受け止めていたのか……。平泉渉や阿南惟幾など、対照として登場する。ただ、ねっとりとした読み心地がこの本からは感じられない。どうだろう。
読了日:10月27日 著者:植村 和秀
トラクターの世界史 - 人類の歴史を変えた「鉄の馬」たちトラクターの世界史 - 人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち感想
1892年に内燃機関搭載のトラクターが登場した。筆者に指摘される迄、この機械が人間の世界に齎した影響力に気付かなかった。農耕の牛、馬に代わる存在という以上に、収穫量増の代償に、農家の中での肥料の循環が崩れ、化学肥料が浸透、深く耕す影響で進んだ土壌の乾燥化を招き、同時に農家の自給自足が崩れた。中小農家の衰退と工業への労働力移動の20世紀だった。と同時に戦争の世紀でもあり、WWIでの戦車の登場にも繫がる。本書は米、ソ、中、そして日本など世界各地での影響を追う。躍動的で立体的。20世紀を考察する視点として痛快。
読了日:10月22日 著者:藤原 辰史
享徳の乱 中世東国の「三十年戦争」 (講談社選書メチエ)享徳の乱 中世東国の「三十年戦争」 (講談社選書メチエ)感想
1455年から1483年まで続いた関東での内乱「享徳の乱」に就いての筆者執心の1冊。室町殿の東国の出店・鎌倉公方とNo.2の関東管領の覇権争い。前提として守護領国制が明確に確立していた西国と違い、関東はどうだったのだろうとの疑問が残る。関東管領を誅した鎌倉公方・成氏(4代持氏の子)が起こした争乱の間に、国人層の自立が高まり、戦国大名化が進み、地頭、領家、本家という階級や寺社領での力関係が変わる。肝腎の「応仁の乱の前哨」説は筆者のいうのも一理あろう。だが、相似形であるものの今一つ得心がいかない気もしている。
読了日:10月18日 著者:峰岸 純夫
全体主義の起原 3――全体主義 【新版】全体主義の起原 3――全体主義 【新版】感想
テーマはナチドイツとスターリン下のソ連の体制。どちらも全てを巻き込むシステムであったことに変わりはなく、本書では両者を比較対照しながら全体主義についての分析が続く。個人的には現下の状況を代入し、反芻ながら読む、という形になった。その中で、10章「階級社会の崩壊」、11章「全体主義運動」の章は特に興味深く読んだ。というのは「よもや」と思いつつも今の日本社会の姿にどこか相似形にも思えるからだ。「政党制度の枠内で政党が議会に多数を占めたとしてもそれは決して国の現実を反映などしていない」など心に残る表現が続く。
読了日:10月16日 著者:ハンナ・アーレント
帝国の昭和  日本の歴史23 (講談社学術文庫)帝国の昭和 日本の歴史23 (講談社学術文庫)感想
「君主無答責」という明治憲法の原則が生んだ権力の空白は、誰も修正不可能な結果を招いた。ナチスドイツの授権法のような強権的な手法ではなく、官僚と現場、政党と財界、無産階級と資本家等々、WWT後の国際化の波の中で累積した矛盾を合法的に手直ししようとした末の結末は承知の通り。どこに修正すべきことがあったのか。今でも答えは明確にできまい。状況の違いはあるものの、昨今の国内の出来事の構造に類似点を見付けるのが恐いくらいだ。戦前と戦後の連続性を思う。特に大政翼賛会発足のころの感覚は。終章の「戦時とモダニティ」は上々。
読了日:10月14日 著者:有馬 学
空のプロの仕事術―チームで守る航空の安全 (交通新聞社新書)空のプロの仕事術―チームで守る航空の安全 (交通新聞社新書)感想
JALの元・名機長が経験、見聞から飛行機の運航に関わる人々の紹介をしていく。機体の運行から、整備、運行管理、機内サービスもすべて経済効率が優先する今の時代。言えばパンナムが世界中の空にジャンボ機を飛ばしていた時代は優雅ではあっても2度と戻ってはこない。そんな時代に育った敢えて筆者が記しておきたいのは、如何にハイテク機になったとしても、それぞれの経験した事例をどう共有化するのか、という点に尽きるだろう。安全運航技術の蓄積は船>鉄道>空、であると思う。空はなお発展途上の分野。プロという一語に込めた思いを想う。
読了日:10月10日 著者:杉江 弘
斎宮―伊勢斎王たちの生きた古代史 (中公新書)斎宮―伊勢斎王たちの生きた古代史 (中公新書)感想
源氏物語の秋好中宮の逸話か、伊勢物語の「君や来し我や行きけむおもほえず夢かうつつか寝てかさめてか」の歌で知られる話程度しか、斎宮の存在は認識されていないだろう。でも実は奈良、平安期の天皇にとっては祖神を斎き祀る大事な役職で国家管理の役所であったことが説かれる。数人の斎王を点描することが生活ぶりや存在感を生み出す効果を生んでいる。その後、両部神道や度会神道の成立や、役目役職は変質。制度自体は南北朝期に絶えてしまうのだけど、上古期には宮中の意思決定に大きな影響を与える存在であったことが描かれる。一種の裏面史。
読了日:10月04日 著者:榎村 寛之

読書メーター
posted by 曲月斎 at 23:42| Comment(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月02日

☆2017年8月に読んだ本。

8月の読書メーター
読んだ本の数:9
読んだページ数:2359
ナイス数:374

貧困と地域 - あいりん地区から見る高齢化と孤立死 (中公新書)貧困と地域 - あいりん地区から見る高齢化と孤立死 (中公新書)感想
大阪・あいりん地区(釜ケ崎)。東京の山谷、横浜の寿町と合わせて日本三大ドヤ街と言われた。一方、「ドヤ街」「寄せ場」という語彙が注釈が必要かと思う今。日雇労務者というと古色だが、非正規雇用者といえば今風に理解できるか。地縁血縁が薄くなり、社会的に孤立する人が増えている今、ここに暮らしてきた人々が独居高齢化している現況は決して特異な例ではない。日本のどこで起こっても不思議ない気がする。むしろここで暮らしてきた人々の長い歴史は社会福祉の先進例とも言え、学ぶべきことは多いと思う。筆者の手堅い筆運びに好感を抱いた。
読了日:08月29日 著者:白波瀬 達也
笛を吹く人がいる: 素晴らしきテクの世界 (ちくま文庫)笛を吹く人がいる: 素晴らしきテクの世界 (ちくま文庫)感想
話を聞いて面白い人と文章を読んで面白い人がいる。確実に筆者は前者だろう。Eテレの番組で話が興味深かったのだけど。解説でしりあがり寿が記している通り、宮沢は「口から万国旗を出す人」なのだ。面白そうに思って平積みから取り上げたけど、筆者の発想の連鎖に着いて行くのが難しかった。味があるなぁ、というのはしりあがり寿の扉絵くらい。頭上を右斜め60度くらいで横切って行くのが筆者の文。僕とは「ねじれ」の位置でした。非ユークリッド空間にでも行けるようになったら……。
読了日:08月26日 著者:宮沢 章夫
飛行機の戦争 1914-1945 総力戦体制への道 (講談社現代新書)飛行機の戦争 1914-1945 総力戦体制への道 (講談社現代新書)感想
「大艦巨砲主義」という言葉で旧海軍の旧弊を片付けてきたことの陥穽を思う。原因を単純化すれば、犯人捜しも責任の回避もしやすい。でも現実はもっと複雑な要素が錯綜していたことを本書は説き明かす。WWTの戦訓、軍縮条約の制約の中、建艦競争をする財政力なき日本では航空力の有為を国民にいち早く周知していたのだから。井上成実が指揮した重慶爆撃も1937年に実行している。航空兵は立身出世の手段であり、羨望の的でもあった。でも結果は承知の通り。巷間の説を否定し、日本が無分別な道を選んだ原因を探り直す契機をこの1冊にみる。
読了日:08月25日 著者:一ノ瀬 俊也
太平記の時代  日本の歴史11 (講談社学術文庫)太平記の時代 日本の歴史11 (講談社学術文庫)感想
扱う範囲は後醍醐天皇の即位から足利義満の死辺りまで。本書の一の主題は天皇が中心とした物語の成立、という点。権力の行使の為には天皇という権威が必要、という図式の定着をいう。通史である以上、事績を追う部分が前半。ただ列島を縦横に走り回る初めての事件が南北朝時代。手がかりになる。二に時代相を記した5章が白眉。村落に法が成立し、文書が登場し、通貨が流通する。平安以来の有職故実が整理される、といった事象が起こることを整理している。太平記やこの時代の本を読むなら、真っ先にこの1冊を選ぶことを勧める。座標軸が作れる。
読了日:08月20日 著者:新田 一郎
山口瞳「男性自身」傑作選 熟年篇 (新潮文庫)山口瞳「男性自身」傑作選 熟年篇 (新潮文庫)感想
久しぶりに山口瞳の随筆を読み直す。高橋義孝と並んで、当時から寸鉄人を刺す警句が含まれていたのは承知していたし、それは歯切れ良くも思えた。読み返してみても、話の扱いが上手いなと思う。ただ、それ以上に、読んでいてゴツゴツする何かがある。昭和の男性が持っていた照れ隠し半分以上とは分かっていても「男は……」「女は……」という口調が目についてしまうことに気がつく。古い言葉で言えば、ちょっと旧弊なのである。あの成人の日のサントリーの5段広告を思い出すにつけ、時代によって受け止め方は変わる、変わっていくものだ、と思う。
読了日:08月18日 著者:山口 瞳
ノーサイド成田闘争―最後になった社会党オルグ (ふるさと文庫)ノーサイド成田闘争―最後になった社会党オルグ (ふるさと文庫)感想
旧社会党オルグの加瀬勉を主人公に据えた成田闘争史。空港開港に向けて国の執った方策、手段は憲法に抵触するものであったと思う。開港40年を迎えようかという今、空港自体が一番の地域にとっての産業であり、雇用先であり、立地要件になっている。都市近郊農業で生活基盤を確保していたかつてとは異なり、「空港があるからこそ」の町なら、空港との共生共栄を考えるしかない。空港周辺で人口の増加が見込めるエリアと少子高齢化+人口減少の続くエリアに二分化している昨今、歴史と現実との間の清算が一層、自覚的に必要ではないか。
読了日:08月18日 著者:桑折 勇一
新・中世王権論 (文春学藝ライブラリー)新・中世王権論 (文春学藝ライブラリー)感想
本郷先生の権門体制論批判。謂わば「東国国家論」の改良版。「王権」という言葉が適切かは別にして、北条家が執権から得宗専制への移行を通じて、東の武門、西の朝廷の関係を読み解いていく。筆者は「将軍と首頂」という概念を提唱している。寧ろ武力政権が統治の手法を習得する過程と受け止めると分かりやすいかも。勿論、その延長線上に後醍醐天皇の建武の新政、また足利高氏、直義の太平記の時代を挟んで、義満に至って文字通りの「王権」が確立するのだが、頻りに2項対立的に見立てる手法には時に違和感があるものの、見立てとしては興味深い。
読了日:08月14日 著者:本郷 和人
日本史の快楽―中世に遊び現代を眺める (角川ソフィア文庫)日本史の快楽―中世に遊び現代を眺める (角川ソフィア文庫)感想
元原稿は1994年から週刊現代に連載された1ページの〈漫筆〉。1ページという紙幅と週刊という時間的制約。当然ながら、文章にコクがあるかと言われれば、普くその水準を維持するのは厳しい。江戸期に多く書かれた随筆を連想する。数篇は成程と思うものもあったが、舌足らずの感が拭えない。余談ながら、この手の随筆というと、その昔、岩波書店の「図書」に連載された「一月一話」(淮陰生=英文学者の中野好夫の筆名)が思い出される。時事ネタを取り上げても古びない。文章の運びがよく、切れ味がいい。こんな水準こそ〈随筆〉であると思う。
読了日:08月05日 著者:上横手 雅敬
歴史力で乱世を生き抜く (中央公論 Digital Digest)歴史力で乱世を生き抜く (中央公論 Digital Digest)感想
呉座本「応仁の乱」ベストセラー記念の特集号2017年4月号の中央公論の抜き刷り。日本中世史学者の呉座が言う「WWIに似ている応仁の乱」説をイギリス外交史学者の細谷雄一との対談で肉付けしていく。均衡・協調・共同体、という秩序の体系が破れ、戦時と平時の区別がなくなる時代になっていく、という見立てが浮き彫りになる。これは「応仁の乱」が改版になるなら是非解説代わりに巻末に欲しい対談。清水克行と古代オリエント学者の小林登志子の対談「神は紛争をどう解決してきたか」も興味深い。この2篇の対談だけで十分にお勧めです。
読了日:08月03日 著者:呉座勇一,細谷雄一,池田嘉郎,佐藤賢一,出口治明,小林登志子,清水克行,原田眞人,宇野重規,瀧井一博

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posted by 曲月斎 at 01:26| Comment(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする