2017年12月02日

★2017年11月に読んだ本。

11月の読書メーター
読んだ本の数:6
読んだページ数:1436
ナイス数:274

ねじ曲げられた「イタリア料理」 (光文社新書)ねじ曲げられた「イタリア料理」 (光文社新書)感想
所謂、イタリア料理というのは何なのだろう。筆者曰く、トマトはトマト缶出現以前は主要な味ではなかったし、乾燥のパスタは生パスタとは別物で、エキストラバージンオイルやピザ、カプチーノが普及したのはこの半世紀ほど……。確かに日本料理を見ても然りと思いつつ、戦後のアメリカ文化の席捲ぶりは凄まじかった(往年の「旅情」「ローマの休日」を考えても想像できる)。ただ、その根底にあるのは農業の工業化であり、本物を考えると相応の対価も生まれるのは至極当然。折しも種子法廃止の議論もある。気付かぬうちに足下の砂が無くなる怖さも。
読了日:11月24日 著者:ファブリツィオ・グラッセッリ
戦争と農業 (インターナショナル新書)戦争と農業 (インターナショナル新書)感想
1950年頃、世界の人口は推計約25億人。直近でそれが約75億人。増加できたのは食料の確保がある訳で、理由は農業機械と化学肥料と農薬と品種改良の故。勿論、光と影があるのは言うまでもなく、特に筆者の言う「砂時計のネック」(穀物メジャーと大手食品メーカー)の見えざる手が全てに働いているのもまた事実。筆者の懸念は理解できる一方で、現実的に人口が増えた事実の前に、どんな処方箋が有り得るのか。農業が工業化することの弊は分かるが、近代的な生活に慣れてしまった身として不可逆的な進化であったような気も。考えることは多い。
読了日:11月19日 著者:藤原 辰史
日本の夜の公共圏:スナック研究序説日本の夜の公共圏:スナック研究序説感想
スナック、というと大人の空気。そんな空間に就いての考現学。法務、社会学、民俗学、歴史学……etc、各々の世界の専門家が真面目に論じる。読み進めて、この手法は「ウルトラマン研究序説」でも採られた手法であったと気付く。各章も興味深く、二次会の起源から探る日本での酒の飲み方や宴会の慣行、昭和初期のカフェー文化との縁等々。題名にある「日本の夜の公共圏」とは蓋し見事な見立てである。統計的手法による分析も興味深いし、スナックという装置を正面から論じて日本の社会規範の一側面を活写することに成功している。真面目で面白い。
読了日:11月16日 著者:谷口 功一,スナック研究会
愛と狂瀾のメリークリスマス なぜ異教徒の祭典が日本化したのか (講談社現代新書)愛と狂瀾のメリークリスマス なぜ異教徒の祭典が日本化したのか (講談社現代新書)感想
フランシスコ・ザビエルの来日以来のクリスマスに特化した日本史である。最初は教会が担い手だったのが、子供の行事になり、乱痴気騒ぎに続く。戦時中の中断を挟んでまた復活。中で紹介している萩原朔太郎の「今の日本には国民的祭日がない。浮かれるのは『失われた祭日』への郷愁」と評が鋭い。この習俗から日中戦争の勃発が落とした影の大きさが分かる。自身のクリスマスの思い出を振り返ると、狂瀾の後に位置していたことが分かる。「サザエさん」の一コマへの違和感の由来だったか。バブル期も経験し、今は遠い思い出。ただし終章は一寸蛇足。
読了日:11月09日 著者:堀井 憲一郎
同性愛は「病気」なの? 僕たちを振り分けた世界の「同性愛診断法」クロニクル (星海社新書)同性愛は「病気」なの? 僕たちを振り分けた世界の「同性愛診断法」クロニクル (星海社新書)感想
同性を愛する行為は一定程度自然な行為であったろう。宗教的な背景から、18世紀に成立したドイツ刑法の143条で、男性同士の性交、獣姦を包括して公序良俗に反すると定めたことを端緒に様々な「判定法」が出現する。脳、ホルモンバランス等々、珍奇な似非医学が登場した。興味本位で日本でも変態性慾という受け止めが生まれた。その後、精神疾患ではないと医学界での見解が成立したのは1990年、日本の文科省の性非行から除外されたのは94年。長い日陰の歴史を「診断法」という切り口で追跡した1冊。さて衆道の歴史のあった日本では如何?
読了日:11月04日 著者:牧村 朝子
天皇家のお葬式 (講談社現代新書)天皇家のお葬式 (講談社現代新書)感想
盛り込み過ぎた部分もあるか。前段が仏式で営まれた葬送の説明で、後段が神式で進められた明治天皇以降の大葬についての説明。でも一番肝心なところは、仁孝天皇までの仏式と国学思想の入ってきた孝明天皇の葬儀、そして国家神道の色彩で統一された明治以降の葬送へと「変形」した部分にある。神仏分離令であり、神道の国家管理化の道である。ここを焦点に詳述して欲しかった。一方、天皇の棺に題目や名号を紙片に書いて納める習俗が残っていたという。表と奥の意識の差が覘く。竹のカーテンの奥には、皇室の私的な信仰は今も残っているのだろうか。
読了日:11月03日 著者:大角 修

読書メーター
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2017年11月01日

☆2017年10月に読んだ本

10月の読書メーター
読んだ本の数:12
読んだページ数:2810
ナイス数:439

出羽三山――山岳信仰の歴史を歩く (岩波新書)出羽三山――山岳信仰の歴史を歩く (岩波新書)感想
山岳信仰は日本の宗教観の中で、特異な位置を占める。2度の変化(江戸時代の宗門改と明治時代の神仏分離)を経て、大きく変容している。中で出羽三山の信仰は今猶、古体を残している。そんな信仰の姿を総まくりした入門書。歴史に始まり、四季の峰入り、古絵図から探る三山の信仰の姿、一世行人と山麓に残る即身仏信仰、そして修行者、参詣者のための食、そしてツーリズムの発展まで目配りの行き届いた1冊になっている。信仰は広く関東地方にまでその跡を残す。2度の破壊を経て、分かり難くなっている元の姿をトレースする試みは成功している。
読了日:10月29日 著者:岩鼻 通明
日本史の内幕 - 戦国女性の素顔から幕末・近代の謎まで (中公新書)日本史の内幕 - 戦国女性の素顔から幕末・近代の謎まで (中公新書)感想
新聞連載の漫筆。森羅万象、見識を蓄積して繋ぎ合わすというのはやはり才能だと思う。本書で面白かったのは第4章の「この国を支える文化の話」の項。能、香道、生花に落語、そして出版。実際に体験してみたからこその随想がおもしろかった。出版の話の中で「本が作った国に生きている」という表現は将に当たっていると思う。江戸時代には「往来」物から、今に至るまで続く「日本外史」の歴史観、そして「養生訓」。ほかにも太平記や謡本など、紙で見聞を広め、知識を積み重ねてきた歴史を改めて思う。筆者ならずとも、Webの時代、如何にせんと。
読了日:10月29日 著者:磯田 道史
十五歳の戦争 陸軍幼年学校「最後の生徒」 (集英社新書)十五歳の戦争 陸軍幼年学校「最後の生徒」 (集英社新書)感想
先の戦争を体験した世代が物故していく中、陸軍幼年学校最後の生徒だった筆者が当時を回顧し、自身の歩みを振り返った等身大の部分には発見がある。俸給を貰うようになって兵として組み込まれた自分の発見、空襲で死んだ学友の屍衛兵のこと、陸幼に同性愛の気風があり、阿南惟幾を評して「陸幼始まって以来の美少年」との言葉をして、その証左という。空気を体験した人ならではだ。「鬼畜米英といっても顔が浮かばない」というのもまた実感で興味深い。終章は「なぜ戦争に進んだか」を筆者なりに謎解きした部分でこの時代を生きた人ならではの解釈。
読了日:10月29日 著者:西村 京太郎
江戸の小判ゲーム (講談社現代新書)江戸の小判ゲーム (講談社現代新書)感想
寛政の改革の際の棄捐令や猿楽町会所の施策、数次に渉る貨幣の改鋳を例に、一連の施策が商人が蓄える金銀を市中に流通させる幕府の金融政策と解釈し直すのが本書の眼目。経済活動を刺激する、と読み替えるのは新鮮。筆者が経済学のゲーム理論に出会い、史料を読み解いたのが面白い。ただ、ここまで劇的だったのだろうか。確かに「支配−被支配」という二項対立という視点だけに縛られていては窮屈だが、ここまで自由闊達であり得たか。江戸三年寄の奈良屋・樽屋・喜多村や大坂の三郷惣年寄の権能、株仲間制度など考慮すべき変数は多い気がする。
読了日:10月29日 著者:山室 恭子
カラー版 地図にない駅 (宝島社新書)カラー版 地図にない駅 (宝島社新書)感想
筆者の本は「秘境駅に行こう」が最初。藤枝に住んでいて、大井川鐵道の奥大井湖上駅が紹介されていたので手に取ったのを思い出した。本書も京成本線の駒井野信号所が出ていたので手を伸ばした。信号所、臨時駅、仮乗降場の一覧がついているので、何かの時?の索引用に手元に置くような。車窓から眺めていてもそれと知らなければ気がつくことはないだろう。でもそこにはなにがしかの物語がある。年に1度の体育祭、あるは祭礼のため、工事の従事者のため、など鉄道が今よりも身近な存在であった証なのかも知れない。函館本線張碓をふと思い出した。
読了日:10月28日 著者: 
折口信夫 - 日本の保守主義者 (中公新書)折口信夫 - 日本の保守主義者 (中公新書)感想
碩学・折口信夫の考えを社会全体の中で位置づけてみたら、という1冊。心の動きを折口の「歌」と「発言」を元に分析する。関東大震災後の朝鮮人虐殺、2・26事件など、心動かすものがあるものの、基調としては日本人の心に与える潤いこそ大事であり、国学で教示するのが仕事と思っていたと説く。社会への関心がありながら、要路への交渉が薄く、WWUでは沖縄戦や養子の春洋の戦死まで実感として戦争を受け止めていたのか……。平泉渉や阿南惟幾など、対照として登場する。ただ、ねっとりとした読み心地がこの本からは感じられない。どうだろう。
読了日:10月27日 著者:植村 和秀
トラクターの世界史 - 人類の歴史を変えた「鉄の馬」たちトラクターの世界史 - 人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち感想
1892年に内燃機関搭載のトラクターが登場した。筆者に指摘される迄、この機械が人間の世界に齎した影響力に気付かなかった。農耕の牛、馬に代わる存在という以上に、収穫量増の代償に、農家の中での肥料の循環が崩れ、化学肥料が浸透、深く耕す影響で進んだ土壌の乾燥化を招き、同時に農家の自給自足が崩れた。中小農家の衰退と工業への労働力移動の20世紀だった。と同時に戦争の世紀でもあり、WWIでの戦車の登場にも繫がる。本書は米、ソ、中、そして日本など世界各地での影響を追う。躍動的で立体的。20世紀を考察する視点として痛快。
読了日:10月22日 著者:藤原 辰史
享徳の乱 中世東国の「三十年戦争」 (講談社選書メチエ)享徳の乱 中世東国の「三十年戦争」 (講談社選書メチエ)感想
1455年から1483年まで続いた関東での内乱「享徳の乱」に就いての筆者執心の1冊。室町殿の東国の出店・鎌倉公方とNo.2の関東管領の覇権争い。前提として守護領国制が明確に確立していた西国と違い、関東はどうだったのだろうとの疑問が残る。関東管領を誅した鎌倉公方・成氏(4代持氏の子)が起こした争乱の間に、国人層の自立が高まり、戦国大名化が進み、地頭、領家、本家という階級や寺社領での力関係が変わる。肝腎の「応仁の乱の前哨」説は筆者のいうのも一理あろう。だが、相似形であるものの今一つ得心がいかない気もしている。
読了日:10月18日 著者:峰岸 純夫
全体主義の起原 3――全体主義 【新版】全体主義の起原 3――全体主義 【新版】感想
テーマはナチドイツとスターリン下のソ連の体制。どちらも全てを巻き込むシステムであったことに変わりはなく、本書では両者を比較対照しながら全体主義についての分析が続く。個人的には現下の状況を代入し、反芻ながら読む、という形になった。その中で、10章「階級社会の崩壊」、11章「全体主義運動」の章は特に興味深く読んだ。というのは「よもや」と思いつつも今の日本社会の姿にどこか相似形にも思えるからだ。「政党制度の枠内で政党が議会に多数を占めたとしてもそれは決して国の現実を反映などしていない」など心に残る表現が続く。
読了日:10月16日 著者:ハンナ・アーレント
帝国の昭和  日本の歴史23 (講談社学術文庫)帝国の昭和 日本の歴史23 (講談社学術文庫)感想
「君主無答責」という明治憲法の原則が生んだ権力の空白は、誰も修正不可能な結果を招いた。ナチスドイツの授権法のような強権的な手法ではなく、官僚と現場、政党と財界、無産階級と資本家等々、WWT後の国際化の波の中で累積した矛盾を合法的に手直ししようとした末の結末は承知の通り。どこに修正すべきことがあったのか。今でも答えは明確にできまい。状況の違いはあるものの、昨今の国内の出来事の構造に類似点を見付けるのが恐いくらいだ。戦前と戦後の連続性を思う。特に大政翼賛会発足のころの感覚は。終章の「戦時とモダニティ」は上々。
読了日:10月14日 著者:有馬 学
空のプロの仕事術―チームで守る航空の安全 (交通新聞社新書)空のプロの仕事術―チームで守る航空の安全 (交通新聞社新書)感想
JALの元・名機長が経験、見聞から飛行機の運航に関わる人々の紹介をしていく。機体の運行から、整備、運行管理、機内サービスもすべて経済効率が優先する今の時代。言えばパンナムが世界中の空にジャンボ機を飛ばしていた時代は優雅ではあっても2度と戻ってはこない。そんな時代に育った敢えて筆者が記しておきたいのは、如何にハイテク機になったとしても、それぞれの経験した事例をどう共有化するのか、という点に尽きるだろう。安全運航技術の蓄積は船>鉄道>空、であると思う。空はなお発展途上の分野。プロという一語に込めた思いを想う。
読了日:10月10日 著者:杉江 弘
斎宮―伊勢斎王たちの生きた古代史 (中公新書)斎宮―伊勢斎王たちの生きた古代史 (中公新書)感想
源氏物語の秋好中宮の逸話か、伊勢物語の「君や来し我や行きけむおもほえず夢かうつつか寝てかさめてか」の歌で知られる話程度しか、斎宮の存在は認識されていないだろう。でも実は奈良、平安期の天皇にとっては祖神を斎き祀る大事な役職で国家管理の役所であったことが説かれる。数人の斎王を点描することが生活ぶりや存在感を生み出す効果を生んでいる。その後、両部神道や度会神道の成立や、役目役職は変質。制度自体は南北朝期に絶えてしまうのだけど、上古期には宮中の意思決定に大きな影響を与える存在であったことが描かれる。一種の裏面史。
読了日:10月04日 著者:榎村 寛之

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2017年09月02日

☆2017年8月に読んだ本。

8月の読書メーター
読んだ本の数:9
読んだページ数:2359
ナイス数:374

貧困と地域 - あいりん地区から見る高齢化と孤立死 (中公新書)貧困と地域 - あいりん地区から見る高齢化と孤立死 (中公新書)感想
大阪・あいりん地区(釜ケ崎)。東京の山谷、横浜の寿町と合わせて日本三大ドヤ街と言われた。一方、「ドヤ街」「寄せ場」という語彙が注釈が必要かと思う今。日雇労務者というと古色だが、非正規雇用者といえば今風に理解できるか。地縁血縁が薄くなり、社会的に孤立する人が増えている今、ここに暮らしてきた人々が独居高齢化している現況は決して特異な例ではない。日本のどこで起こっても不思議ない気がする。むしろここで暮らしてきた人々の長い歴史は社会福祉の先進例とも言え、学ぶべきことは多いと思う。筆者の手堅い筆運びに好感を抱いた。
読了日:08月29日 著者:白波瀬 達也
笛を吹く人がいる: 素晴らしきテクの世界 (ちくま文庫)笛を吹く人がいる: 素晴らしきテクの世界 (ちくま文庫)感想
話を聞いて面白い人と文章を読んで面白い人がいる。確実に筆者は前者だろう。Eテレの番組で話が興味深かったのだけど。解説でしりあがり寿が記している通り、宮沢は「口から万国旗を出す人」なのだ。面白そうに思って平積みから取り上げたけど、筆者の発想の連鎖に着いて行くのが難しかった。味があるなぁ、というのはしりあがり寿の扉絵くらい。頭上を右斜め60度くらいで横切って行くのが筆者の文。僕とは「ねじれ」の位置でした。非ユークリッド空間にでも行けるようになったら……。
読了日:08月26日 著者:宮沢 章夫
飛行機の戦争 1914-1945 総力戦体制への道 (講談社現代新書)飛行機の戦争 1914-1945 総力戦体制への道 (講談社現代新書)感想
「大艦巨砲主義」という言葉で旧海軍の旧弊を片付けてきたことの陥穽を思う。原因を単純化すれば、犯人捜しも責任の回避もしやすい。でも現実はもっと複雑な要素が錯綜していたことを本書は説き明かす。WWTの戦訓、軍縮条約の制約の中、建艦競争をする財政力なき日本では航空力の有為を国民にいち早く周知していたのだから。井上成実が指揮した重慶爆撃も1937年に実行している。航空兵は立身出世の手段であり、羨望の的でもあった。でも結果は承知の通り。巷間の説を否定し、日本が無分別な道を選んだ原因を探り直す契機をこの1冊にみる。
読了日:08月25日 著者:一ノ瀬 俊也
太平記の時代  日本の歴史11 (講談社学術文庫)太平記の時代 日本の歴史11 (講談社学術文庫)感想
扱う範囲は後醍醐天皇の即位から足利義満の死辺りまで。本書の一の主題は天皇が中心とした物語の成立、という点。権力の行使の為には天皇という権威が必要、という図式の定着をいう。通史である以上、事績を追う部分が前半。ただ列島を縦横に走り回る初めての事件が南北朝時代。手がかりになる。二に時代相を記した5章が白眉。村落に法が成立し、文書が登場し、通貨が流通する。平安以来の有職故実が整理される、といった事象が起こることを整理している。太平記やこの時代の本を読むなら、真っ先にこの1冊を選ぶことを勧める。座標軸が作れる。
読了日:08月20日 著者:新田 一郎
山口瞳「男性自身」傑作選 熟年篇 (新潮文庫)山口瞳「男性自身」傑作選 熟年篇 (新潮文庫)感想
久しぶりに山口瞳の随筆を読み直す。高橋義孝と並んで、当時から寸鉄人を刺す警句が含まれていたのは承知していたし、それは歯切れ良くも思えた。読み返してみても、話の扱いが上手いなと思う。ただ、それ以上に、読んでいてゴツゴツする何かがある。昭和の男性が持っていた照れ隠し半分以上とは分かっていても「男は……」「女は……」という口調が目についてしまうことに気がつく。古い言葉で言えば、ちょっと旧弊なのである。あの成人の日のサントリーの5段広告を思い出すにつけ、時代によって受け止め方は変わる、変わっていくものだ、と思う。
読了日:08月18日 著者:山口 瞳
ノーサイド成田闘争―最後になった社会党オルグ (ふるさと文庫)ノーサイド成田闘争―最後になった社会党オルグ (ふるさと文庫)感想
旧社会党オルグの加瀬勉を主人公に据えた成田闘争史。空港開港に向けて国の執った方策、手段は憲法に抵触するものであったと思う。開港40年を迎えようかという今、空港自体が一番の地域にとっての産業であり、雇用先であり、立地要件になっている。都市近郊農業で生活基盤を確保していたかつてとは異なり、「空港があるからこそ」の町なら、空港との共生共栄を考えるしかない。空港周辺で人口の増加が見込めるエリアと少子高齢化+人口減少の続くエリアに二分化している昨今、歴史と現実との間の清算が一層、自覚的に必要ではないか。
読了日:08月18日 著者:桑折 勇一
新・中世王権論 (文春学藝ライブラリー)新・中世王権論 (文春学藝ライブラリー)感想
本郷先生の権門体制論批判。謂わば「東国国家論」の改良版。「王権」という言葉が適切かは別にして、北条家が執権から得宗専制への移行を通じて、東の武門、西の朝廷の関係を読み解いていく。筆者は「将軍と首頂」という概念を提唱している。寧ろ武力政権が統治の手法を習得する過程と受け止めると分かりやすいかも。勿論、その延長線上に後醍醐天皇の建武の新政、また足利高氏、直義の太平記の時代を挟んで、義満に至って文字通りの「王権」が確立するのだが、頻りに2項対立的に見立てる手法には時に違和感があるものの、見立てとしては興味深い。
読了日:08月14日 著者:本郷 和人
日本史の快楽―中世に遊び現代を眺める (角川ソフィア文庫)日本史の快楽―中世に遊び現代を眺める (角川ソフィア文庫)感想
元原稿は1994年から週刊現代に連載された1ページの〈漫筆〉。1ページという紙幅と週刊という時間的制約。当然ながら、文章にコクがあるかと言われれば、普くその水準を維持するのは厳しい。江戸期に多く書かれた随筆を連想する。数篇は成程と思うものもあったが、舌足らずの感が拭えない。余談ながら、この手の随筆というと、その昔、岩波書店の「図書」に連載された「一月一話」(淮陰生=英文学者の中野好夫の筆名)が思い出される。時事ネタを取り上げても古びない。文章の運びがよく、切れ味がいい。こんな水準こそ〈随筆〉であると思う。
読了日:08月05日 著者:上横手 雅敬
歴史力で乱世を生き抜く (中央公論 Digital Digest)歴史力で乱世を生き抜く (中央公論 Digital Digest)感想
呉座本「応仁の乱」ベストセラー記念の特集号2017年4月号の中央公論の抜き刷り。日本中世史学者の呉座が言う「WWIに似ている応仁の乱」説をイギリス外交史学者の細谷雄一との対談で肉付けしていく。均衡・協調・共同体、という秩序の体系が破れ、戦時と平時の区別がなくなる時代になっていく、という見立てが浮き彫りになる。これは「応仁の乱」が改版になるなら是非解説代わりに巻末に欲しい対談。清水克行と古代オリエント学者の小林登志子の対談「神は紛争をどう解決してきたか」も興味深い。この2篇の対談だけで十分にお勧めです。
読了日:08月03日 著者:呉座勇一,細谷雄一,池田嘉郎,佐藤賢一,出口治明,小林登志子,清水克行,原田眞人,宇野重規,瀧井一博

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2017年08月03日

☆2017年7月に読んだ本。

7月の読書メーター
読んだ本の数:12
読んだページ数:3255
ナイス数:460

ペリリュー ─楽園のゲルニカ─ 3 (ヤングアニマルコミックス)ペリリュー ─楽園のゲルニカ─ 3 (ヤングアニマルコミックス)感想
「覚悟ある武人の死は美しいものと思っていた。だが今、間近に来て知る。死というものは実に汚らしく、おぞましく、無残な悪臭を放つ−−」。本巻の終盤で指揮官が組織的戦闘の終結するに当たっての述懐だ。日本陸軍の戦死者の大半が餓死と水死と戦病死だった事実、小松真一が「虜人日記」で、或いは大岡昇平の「レイテ戦記」で書き綴ってきたことを、絵にするとこうなるということだ。本書の表紙のサクラの花、靖国神社の九段の桜などなど、意味するものを改めて考える。体験した者が居なくなる中、本書のような記憶を補完するものが必要だ、と。
読了日:07月29日 著者:武田一義,平塚柾緒(太平洋戦争研究会)
観応の擾乱 - 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い (中公新書)観応の擾乱 - 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い (中公新書)感想
呉座勇一は「応仁の乱」を「嘉吉の変」と「明応の政変」の間の変化と捉えた。本書のテーマ「観応の擾乱」も多くの事象、場面を含んでいるので、筆者独自の見立てが欲しい。一読後も理解しにくい。一言で言えば「足利家の内訌」だが、全国規模で、登場人物の立ち位置が変わっていくのが難しい。@出来事を明確に区分した方が理解しやすい。A系図、地図をもっと掲載できなかったか――と思う。将軍と御内人の関係、鎌倉殿から室町殿へと権力体制の移行での効用など、読みたかった。最終章の「観応の擾乱とは何だったのか?」を先に読む方がいいかも。
読了日:07月27日 著者:亀田 俊和
ソビエト連邦史 1917-1991 (講談社学術文庫)ソビエト連邦史 1917-1991 (講談社学術文庫)感想
20世紀の壮大な実験・ソ連。その歴史をWWUの時代に外相を務めたモロトフを主人公に据えて読み解く。格好の狂言廻しの人物を選び出したのがこの本の第一の妙味。革命の第一世代であり、スターリンの粛正の嵐をかいくぐって1986年にゴルバチョフの時代になるまで生き抜いていた。第二に共産党という組織以前に、ロシア正教の異端派とされた「古儀式派」との関係を探っているのが興味深い。急にボリシェビキが出てくる訳ではない。第三に党と政府、国民の関係が最後まで整序されないままであったのか、ということ。被粛正者の数が桁違いだ。
読了日:07月23日 著者:下斗米 伸夫
番地の謎 (光文社知恵の森文庫)番地の謎 (光文社知恵の森文庫)感想
番地は何のために振られているのか。要は土地登記を明確にする、という目的が第1に来るわけで、地租改正以来の地番が最初に成立する。地方では小字単位にすれば、どこに誰が住んでいるかは明解になるので住居表示はこの用で済む。ただ財政力の面で、明治、昭和、平成と基礎自治体の大合併が進んで、地名が土地の記憶と離れていくにつれ、新しく住居表示法に基づく番地が成立する。そういう当たり前の流れを概説した1冊。この人の本はネタの遣い廻しが多いのだけど、概論を示すには格好の入門書。悉皆性が薄いのでこの本はあくまで手掛かり。
読了日:07月19日 著者:今尾 恵介
飛行機はどこを飛ぶ? 航空路・空港の不思議と謎 (じっぴコンパクト新書)飛行機はどこを飛ぶ? 航空路・空港の不思議と謎 (じっぴコンパクト新書)感想
仕事の都合もあって読了。国内線で飛行機の窓から見える風景の話が一つ、航空機の航路と管制の話が一つ。どちらが眼目で書いているのか、焦点が合いきれない気も。結構乗った時期があったので、そうですね、としか言いようがないのだけど。
読了日:07月14日 著者:
「太平記読み」の時代: 近世政治思想史の構想 (平凡社ライブラリー)「太平記読み」の時代: 近世政治思想史の構想 (平凡社ライブラリー)感想
太平記秘伝理尽鈔。太平記の解釈を記した本だ。和歌・物語の古釈とか、古今伝授のような風体で、口伝のような形で伝えられた。江戸期に入って民衆に伝わり、講談のネタ本になったという。この本が楠正成を軸に忠義とは、宗教権力との対峙姿勢とか、撫民の考え方などを示す中で、金沢、岡山藩などでの享受史や、山崎闇斎や熊沢蕃山、安藤昌益に至るまでの思考の糸口になっているのではないかと読み解いていく。顕密体制が強固だった時代に、宗教を否定し、後の「造反有理」に近い考えを示しているのは驚き。今日忘れかけられた思索の源流が見える。
読了日:07月13日 著者:若尾 政希
ペリリュー ─楽園のゲルニカ─ 2 (ヤングアニマルコミックス)ペリリュー ─楽園のゲルニカ─ 2 (ヤングアニマルコミックス)感想
前巻に続き淡々とした筆致。飲料水を確保するために戦い、鹵獲した兵器で戦い、フィリピン出撃の米軍の基地となるはずだった島はすでに1間跳びで先に侵攻が進んで戦いの目的を失っても戦闘行為が続く。伝単も登場して、筆者の下調べのほどがうかがえる。「この世界の片隅に」もそうであったけど、調査が行き届いたシナリオで、なおかつバイアスがかかっていない分、説得力が増す。最終的にはこの島は戦史によると34人が1947年まで生き残っていたそうな。次の巻は組織的な戦闘の終了からその後辺りになるのかな。
読了日:07月11日 著者:武田一義,平塚柾緒(太平洋戦争研究会)
ペリリュー ─楽園のゲルニカ─ 1 (ヤングアニマルコミックス)ペリリュー ─楽園のゲルニカ─ 1 (ヤングアニマルコミックス)感想
WWUでの米軍の太平洋飛び石作戦の一つ、ペリリュー島での戦いを日本軍の1兵卒の目線から描いた作品。人物が3頭身でケロロ軍曹のように見え、戯画的。背景は細密な描きぶりで、そもそもレイテ島、硫黄島、沖縄と続く戦いふり、敵に勝つというより、負けを引き延ばすための戦いという思いテーマとの乖離が逆に効果を生む。暴発で死に、居た場所で明暗が分かれ、屍体には蠅がたかり、戦死した兵の水筒の水を飲む。当たり前の出来事が淡々と描かれるが故の迫力。声高でない分、響くものがある。本巻は米軍の上陸辺りまで。
読了日:07月11日 著者:武田一義,平塚柾緒(太平洋戦争研究会)
人民元の興亡 毛沢東・ケ小平・習近平が見た夢人民元の興亡 毛沢東・ケ小平・習近平が見た夢感想
紙幣とは不思議なもの。たとえば日本円。外貨準備としてかつては金、今は米ドルの保有が信用の裏付けになる。今の人民元もバスケット制があり、米国債を保有が信用の源だ。大陸では多くの発券銀行が存在し、統一的な紙幣がなかった。日米英ソなどが瓜分を試みた時期に重なる。筆者はそんな時代から読み解き始め、人民元をIMFのSDR構成通貨まで育て上げた苦闘を読み解く。この先、米ドルとならぶ基軸通貨になり得るかと言えば、中国自身の体制が抱える弱点ゆえに限界があるとの指摘、ビットコインの登場まで目配りする視野が広くて楽しい1冊。
読了日:07月08日 著者:吉岡 桂子
バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史 (中公新書)バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史 (中公新書)感想
オスマン帝国の西端、バルカン半島の来歴をまとめた1冊。旧ユーゴ諸国が分離独立した後の出来事は記憶に残る。決して昔の話ではない。何で「火薬庫」になってしまったのか、を読み解くのが眼目。民族、宗教(イスラム、ギリシャ正教などなど)という「違い」を意識するきっかけとなったのは西欧から来た「ナショナリズム」の故であり、露、独、墺、仏、英といった周囲の国々の影響、思惑が覘く。一概に「国民国家」の成立が近代化なのか、と考え込む。現在進行形である中東での混乱を見るにつけても……。巻末の訳者外題から読む方が分かりやすい。
読了日:07月05日 著者:マーク・マゾワー
東京昭和百景―山高登木版画集東京昭和百景―山高登木版画集感想
たぶん戦後、1964年の東京五輪前後までの風景の版画。安藤広重を初め、多くの浮世絵師が手がけてきた素材だが、どこか、新版画の旗手、川瀬巴水の感性とか、川上澄生の色づかいの影響も感じられる。小、中学生のころ、背伸びして出かけた東京にあった風景。もう残っているところは少ないが。ちょと知人がいいねをしているので、手を伸ばした1冊。
読了日:07月03日 著者:山高 登
ノモンハン事件―機密文書「検閲月報」が明かす虚実 (平凡社新書)ノモンハン事件―機密文書「検閲月報」が明かす虚実 (平凡社新書)感想
ノモンハン事件の概要、国内での報道、現地での検閲ぶり、そして戦中戦後に亘る享受史を概説した1冊。新書という判型、入門書という制約があるので仕方ないのだけど、力点を絞って欲しかった気がする。抑も日本側、旧ソ連側の記録が詳細になっているという状況になく、なお先方の秘密文書が次々発見されているのが現状では事件についての記述も得心のいく内容を提示しにくいのは承知だが。個人的には本書は副題にもある「検閲資料」の部分と戦中戦後の当事者の執筆に懸かる戦記、そして藤田嗣治の絵が2枚あったという逸話を膨らませて欲しかった。
読了日:07月02日 著者:小林 英夫

読書メーター
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2017年06月07日

★2017年5月に読んだ本。

5月の読書メーター
読んだ本の数:11
読んだページ数:2863
ナイス数:537

真説・戦国武将の素顔 (宝島社新書)真説・戦国武将の素顔 (宝島社新書)感想
面白さは筆者が表白している立ち位置。曰く「僕らの頃は、少なくともソ連が崩壊する以前には(中略)共産主義と自由貿易主義があって、どちらが勝つのかわからない時代に生まれていたから、正義とか秩序というのは『疑ってかかるものだ』というのが深層心理の中にある」といい、「秩序を作る上位者を認めてしまう」若い研究者に疑問を投げかける。1960年生まれ、奇しくも同い年。先生のこの気持ちが分かる。本書の釈台に張り扇、調子のいい語り口の裏にある漠然とした「懼れ」みたいなものがシニカルに響いてくる。史料を読み込んだ自負と共に。
読了日:05月29日 著者:本郷 和人
プロテスタンティズム - 宗教改革から現代政治まで (中公新書)プロテスタンティズム - 宗教改革から現代政治まで (中公新書)感想
教皇を頂点とする旧教の改善を求めて、ルダーに始まるプロテスタンティズムの分析が中心。ただ改善したものは次の時代にはまた権威を持つものになり、異端は別の場所で広まっていく。運動に旧と新の別を挙げている。社会の要求に合わせて姿を変える歴史である。ただ、個人的にはそれ以上に、面白く読めたのは「頭の中の代入」の故だ。教皇が天台座主なら、ルターは法然、バプテストが親鸞という見立てもできるし、教皇や公会議が明治政府ならルターは憲法を立てにとった大正期の政治とも見える。知識を得る以上に、人の営みとしての宗教は興味深い。
読了日:05月25日 著者:深井 智朗
東京下町百景 100 Views of Tokyo東京下町百景 100 Views of Tokyo感想
「おとなの週末.com」という雑誌に連載された作品集。東京の下町(というか東部)の風景を描いた戯画集。筆者自身も影響を受けたと記しているけど、浮世絵から発展した新版画の吉田博(瀬戸内海集など)や、川瀬巴水の版画(東京二十景など)を連想させる。ただ、画面の片隅に招き猫だったり達磨だったりが紛れ込んでいる。これを戯れと見るか、緩みと見るか。見る人間の感覚次第だろう。「少し不思議で少し懐かしい」という味を出したいのなら、個人的にはこれだけ上手の描き手、あえて戯れて見せる必要はなかったのではないかな、と思う。
読了日:05月24日 著者:つちもちしんじ
「成田」とは何か―戦後日本の悲劇 (岩波新書)「成田」とは何か―戦後日本の悲劇 (岩波新書)感想
筆者が本書を「世界」に連載したのは成田空港の閣議決定から四半世紀の頃、1992年刊。その後、さらに四半世紀の時が過ぎている。。時の経つのは早い。経済は低成長期に入り、当時は考えもしなかった人口減少が進む。今、本書から掬すべきは、為政者(と官僚)が恣意的に私的な財産権すら「公益のため」という理由で蹂躙することがあり得る、という教訓だろう。封建制度の時代と変わらぬ手法だった。と同時に、この成田空港という土地の長い歴史(江戸期からの住人、明治期の移住者、戦後の入殖者)という3層だったことも見逃してはなるまい。
読了日:05月23日 著者:宇沢 弘文
ノモンハン 1939――第二次世界大戦の知られざる始点ノモンハン 1939――第二次世界大戦の知られざる始点感想
秦郁彦の「明と暗のノモンハン戦史」を読んだので、本書を再度通読。やはり、おすすめの1冊だ。第1。二正面作戦を展開できる戦力、資本があったのは米国だけという当時、ソ連にとって西側の欧州戦線と東の満蒙の国境。2正面作戦となるのをどう回避するのか、という意味のある戦いだった訳で、アジアの局面だけ見ていると意識できない部分が多すぎる。第2。本書でも旧ソ連時代の資料の博索は進んでおり、戦いの評価は冷静である。第3。日本型の組織と、恐怖による統制を旨としたソ連の軍制。類似点を見せているのが興味深い。お勧めの1冊です。
読了日:05月21日 著者:スチュアート・D・ゴールドマン
明と暗のノモンハン戦史明と暗のノモンハン戦史感想
眼目は「旧ソ連側の資料と突き合わせた」という1点に尽きる。確かに戦史を綴るためには客観的事実が必要なのは分かる。只、筆者のタネ明かしの仕方は作為的。張鼓峰事件にも当て嵌まるが、当時も今も「軍事的に価値のないエリアは放置する」というのが正しい姿勢。GPSの発達した今の物差しとは違う。国境線の位置より、陸続きの大陸では第1歩を踏み出す事と、戦後処理こそ大事なのは謙信&信玄の川中島に同じ。撃鉄を誰が何のために引いたのか、どう終息を付けたのか。単なる数字の羅列では手薄い。単なる甲乙論併記、赤白の旗判定ではなく。
読了日:05月20日 著者:秦 郁彦
日本の近代とは何であったか――問題史的考察 (岩波新書)日本の近代とは何であったか――問題史的考察 (岩波新書)感想
「議論による統治」に始まる近代化の分析に始まって、貿易、植民地と視野を広げていく。幕政の中に合議制の素地を見、権力の集中を回避する体制への親和性を見る。国民国家が成立するために不可欠な個人の成立、そのための教育の充実。地租改正による村の請負から個人の責任への移行、租税収入の安定化、外債に頼らない殖産から、戦争を機に国際金融の世界への転換。そして立憲主義の中で教育勅語の果たした役割。歴史を振り返る時、点を覚えて知ったつもりになり、線を知って理解したつもりになりがちだが、本書が示すのはその先、立体模型の世界。
読了日:05月13日 著者:三谷 太一郎
80時間世界一周 格安航空乗りまくり悶絶ルポ (扶桑社新書)80時間世界一周 格安航空乗りまくり悶絶ルポ (扶桑社新書)感想
80時間、13万円台で西周りで世界一周(茨城〜上海〜モスクワ〜デュッセルドルフ〜チューリッヒ〜NY〜LA〜羽田)する話。2012年刊。就航していない所に住んでいたので実感がなかったが、実はLCCが空の世界を大きく変えているのを実感する。旅の大半が旅客機の中という旅行記なので、J・ヴェルヌのような波瀾万丈の中身にはならないのだけど、手続きと出入国審査と乗り継ぎを繰り返すのが現代的な波乱劇なのかも。小さな出来事からお国柄の見立てはなかなかに巧者。ともあれ今、世界の空はLCCだらけだったんだ、と。
読了日:05月09日 著者:近兼 拓史
和食の歴史 (和食文化ブックレット5)和食の歴史 (和食文化ブックレット5)感想
和食の歴史を概観した1冊。卓上に備えた塩や醬で自分で調味しながら食べた大饗料理の時代から、醱酵調味料の登場で味付けまでした形で供される形へ。実質的には鎌倉期の精進料理(粉食文化も)、室町期の本膳料理が茶道の懐石料理、江戸期の会席料理を節目に進化する。根幹にあるのは主食の米。モンスーン地域に適合した作物だったのが幸い。で、興味深かったのは、戦前の水準に米作の量が戻ったのが1955年。高度成長期前夜。進学率、集団就職、いろんなことに繫がっていそう。副菜の中で、肉食が魚食を上回ったのが1988年だったとは意外。
読了日:05月06日 著者:原田 信男
「天皇機関説」事件 (集英社新書)「天皇機関説」事件 (集英社新書)感想
美濃部達吉が貴族院で追及された「天皇機関説」。立憲主義を守るために必要であったものが、「天皇主体説」を奉じる面々に駆逐されていった。端緒は箕田胸喜や菊池武夫らながら、政争の具にした鈴木喜三郎、枢密院議長の座を巡っての平沼騏一郎、陸軍内の主導権争いの梃子にした真崎甚三郎と、有象無象が群れていき、混迷を深める。しかも「国体」という実態のない概念を奉じての行動に振り回される。勿論、世上に正常な情報を与えるべき報道機関も含め、呆れるばかりの軽躁の様に、情けなくさえある。さて歴史の彼方と嗤っていられるか否か……。
読了日:05月05日 著者:山崎 雅弘
天下泰平の時代〈シリーズ 日本近世史 3〉 (岩波新書)天下泰平の時代〈シリーズ 日本近世史 3〉 (岩波新書)感想
江戸時代でも、4代家綱から10代家治の頃までを視野に入れた1冊。外は明から清への王朝交代に始まって、露国の蝦夷地への来訪まで。内は武力による統治から権威を利用した治世に、江戸と京の関係では融和、統制から幕末への胎動まで。版図の言葉通り、地図を作り、戸籍を作り、修史をし、貨幣の改鋳から経済政策まで。天下泰平の大筋を網羅していく。今に続く統治機構、官僚制度の根幹が作られ、確立した体制は盤石に見えても格差の拡大によって揺らいでいく。時代区分で言えば中世から近世への移行期。小さな変化を紡いでいく書きぶり、良書。
読了日:05月04日 著者:高埜 利彦

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2017年05月01日

★2017年4月に読んだ本。

4月の読書メーター読んだ本の数:9読んだページ数:2386ナイス数:354シリーズ<本と日本史> 4 宣教師と『太平記』 (集英社新書)シリーズ<本と日本史> 4 宣教師と『太平記』 (集英社新書)感想軍記物といっても平家物語や保元、平治物語と比べて影が薄い太平記。近代的な歴史学が移入する前、江戸時代までは貴賤、老若男女を問わず享受されていたことを説くのが眼目。「戦国と宗教」で筆者が説いたように、単に儒学や仏教の因果論だけではない「天道」の導くところが、歴史の帰趨に反映すると展開するのが、太平記が広汎に享受された理由と見立てる。と同時に、物語が成立した室町期は「日本国」「日本人」という概念が定着した時期。国民意識の形成に影響を与えたと見る。大津雄一の「平家物語の再誕」にも通じる「享受史」は興味深い。読了日:04月30日 著者:神田 千里
足利尊氏 (角川叢書 583)足利尊氏 (角川叢書 583)感想尊氏像を、発給した文書から探る1冊。中でも領地を与える際などの「袖判下文」(冒頭に花押が据わった文書)と「軍勢催促状」、所領安堵の「下文」など、文書の性格、書式、時期、、年号、書き手などを分析して、尊氏と弟直義、その次世代の義詮と直冬といった人物の内心や権限、役割を探る。倒幕の挙兵から南北朝、観応の擾乱と、時代が移る中で、発される文書の性格、権能が変わっていく。現存する文書を解析した功は興味深いが、同時に、未発見の文書の山が有り得るのでは、という気持ちが起こる。門外漢だからか。ま、「悪魔の証明」だけど。読了日:04月26日 著者:森 茂暁
帝国大学―近代日本のエリート育成装置 (中公新書)帝国大学―近代日本のエリート育成装置 (中公新書)感想本書の述べる通り、高等教育を自力でするにはまず教員の確保が必要で、明治の世に国家の人材養成のために作った機関というのが描かれる。と同時に、旧制高校、講座制、学位制度、大学特別会計など、旧7帝大という存在の特権的な地位を改めて実感する。予算があってこその高等教育、である。旧帝大>旧官立大>私学という序列……。ただ一方で、複線式の高等教育制度だった戦前と6334制に統一された今の学制と、どちらが良かったのか。巻末に取り上げられているが「研究大学(RU)」の芽は今後の「大学」像として求められるのではないか……。読了日:04月20日 著者:天野 郁夫
昭和の能楽名人列伝 (淡交新書)昭和の能楽名人列伝 (淡交新書)感想1939年生まれの筆者が書いた本書は33人登場して10人が見ていない演者。昭和の能楽師を語る上で、万六銕や新、長は欠かせないのだろうけど、選から外した役者に惜しい人が多い。例えば茂好、一次。紙幅を考えると差し替えても良かった気がする。「私の観た」の一句をタイトルに入れればいいのだから。振り返ればこの本に登場する役者の多くを観てきた仕合わせというか。一方で自分自身が観た印象を併せると、能狂言の評の本で、どうしても印象批評の域を出ない気がするのは残念。藝系とか空気とか。戦争という大事を挟んだ昭和の世だけに。読了日:04月19日 著者:羽田 昶
昭和の歌舞伎 名優列伝 (淡交新書)昭和の歌舞伎 名優列伝 (淡交新書)感想本文269頁の本で169頁までが筆者の未見の役者の話。列伝体ではあっても筆者の知識の集積を編輯した体裁。1次資料といいづらく、出典の明記も少ない。1955年生まれの筆者が取り組む主題としては厳しい気がする。75年以前が没年の役者になると、実際に見ていても運びが弱い。勢い文末を丸めるような文体で上品だけど、全体的に歯切れが悪い。同趣向の1冊として1960年生まれの中川右介「歌舞伎 家と血と藝」(講談社現代新書)の方が見立ての藝が行き届いていて出来がいいと思う。役者同士の聯関の説明が分かりにくいのも残念。読了日:04月17日 著者:石橋 健一郎
ドラマ「鬼平犯科帳」ができるまで (文春文庫)ドラマ「鬼平犯科帳」ができるまで (文春文庫)感想鬼平というと白鸚。高麗屋のニンに合っていた。丹波哲郎、萬屋錦之助と挟んで長く続いたのが当代の播磨屋。本書は4代目の話が軸。ただ背景の理解が欲しいところ。2章、序章を前にして1章の聞き書き部分を中に挟んだかも。元々「必殺」ものを撮影していた松竹京都に残っていた映像の職人衆が新生・鬼平を支えた。仕事の聞き書きは貴重で脚本、殺陣から記録まで、職責への自負が行間に覗く。4代目のシリーズが映像的にも今の時代で受け入れられ、長く続いた謎解きになったかどうか。アナログ時代からデジタル化。時代劇もその例外ではなかった。読了日:04月17日 著者:春日 太一
張作霖:爆殺への軌跡一八七五‐一九二八張作霖:爆殺への軌跡一八七五‐一九二八感想日本史の教科書なら1行にも満たない出来事が約350ページの本になった。1875年に奉天海城で生まれた張作霖を主人公に、日清、日露の戦役から清朝崩壊、軍閥の割拠、国民党の北伐を前に躍動した跡を辿る。2000年代以降に主に刊行された中国側の資料を読み込み、日本側の資料と付き合わせて描き出した物語、前半は講談を聞くような快感があり、後段はソ、日など外国勢力の思惑と各軍閥の絡み合いを描いて倦むことない展開。1928年の爆殺まで、精緻な細工ものを見るような楽しさがある1冊。行間にひとかどの人物像が浮かび上がる。読了日:04月09日 著者:杉山 祐之
プロ野球・二軍の謎 (幻冬舎新書)プロ野球・二軍の謎 (幻冬舎新書)感想田口はプロ生活を始めた頃を知っているし、その後のMLBでの経験談も愛読してきた。書きぶりには一目どころか井目風鈴くらい置いているものの、本書はちょっと物足りない。テーマはファーム制度の話か、日米の比較なのか、2軍監督1年生としての経験談なのか。焦点が絞り切れていない感じが残った。もっと自在に書いていいのだし、筆者ならできるはず。何しろ、あの仰木彬やT・ラルーサの下でプレーした選手なのだから。もっと歯切れ良く書けたはず。プロの世界を一般社会まで敷衍しようという試みが本書の内容を半煮えにしたような気がする。読了日:04月08日 著者:田口 壮
世界のなかの日清韓関係史-交隣と属国、自主と独立 (講談社選書メチエ)世界のなかの日清韓関係史-交隣と属国、自主と独立 (講談社選書メチエ)感想冊封制度は中国に臣下の礼はとっても、内政外交は自主的にできる「属国自主」の概念。植民地とは東アジアでは似て非なるものと受け止められてきた。礼を基本とする儒教を国教とした朝鮮は中国本土の王朝が明から清にと変わった中、自身が正統で天朝を引き継ぐものとしての自負が膨らむ。一方、18世紀にこの地を訪れた帝国主義を掲げる西欧列強には不可解な慣習だったろう。本書は朝鮮のそんな歴史的背景を踏まえた上で19世紀以降の変化を解析した点が今に続く事情の理解に役立つ。筆者の一連の著作を併読すると立体的に見えてくるものがある。読了日:04月05日 著者:岡本 隆司
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2017年04月01日

☆2017年3月に読んだ本。

3月の読書メーター読んだ本の数:7読んだページ数:2240ナイス数:324武田氏滅亡 (角川選書)武田氏滅亡 (角川選書)感想長篠合戦の後、すぐ武田氏は滅亡するような感覚を抱きがちだが、間には1575〜1582年という時間が挟まっている(関ヶ原の後、即豊臣氏滅亡という感じに似て。この間実に15年)。その間のことを詳細に跡づけした1冊。武田氏の存亡に限らず、戦国大名は勝頼と同じように精一杯領国支配を続けようと努力したのだろう。隣国と抗争したり、調略したり、同盟を結んだり。合戦もさることながら、日常的な撫民がどれだけできたか、で命運が分かれていったのがよく分かる。最終章の滅亡までは時系列のドキュメント風。一気に崩れていく様は壮観。読了日:03月24日 著者:平山 優
裁判の非情と人情 (岩波新書)裁判の非情と人情 (岩波新書)感想刑事裁判官として長年の経験を積んだ筆者ならではの随筆。1篇4ページほどながら、味わい深い。藤沢周平を読み、鬼平を若手に勧めたり、無罪判決を起案する話であったり、また後進の育て方だったり。法曹の世界に軸足を置きながら、展開する方向は多岐。碩学ぶりと人柄が偲ばれる内容だ。同じ法曹の世界の穂積重陳の「法窓夜話」を思い出した。裁判員裁判制度が導入されて変わることを期待する点や、最高裁の判事の事務方を務めた経験など、ならではの話が多い。担当事件について裁判官は順番ながら検察は上席の思惑が反映するとは知らなかった。読了日:03月06日 著者:原田 國男
海の向こうから見た倭国 (講談社現代新書)海の向こうから見た倭国 (講談社現代新書)感想神功皇后の三韓征伐など今は史実として認める方は少ないだろう。とはいえ、百済、新羅、任那に高句麗。日本もまだ統一国家といえるものがない時代に、先方もそうだった訳で、中小社会がしのぎを削っていた。そんな社会の交流を考古学の手法で読み解こうというのが本書の趣向。出土品であったり、前方後円墳だったり。「吉備の乱」とか「磐井の乱」とか、勝者の歴史からだけでは本当の意味が実はなかなか捉えにくいものであり、その点で考古学的な手法を取り入れた筆者の姿勢、書きぶりには好感が持てる。単線的な交流に簡潔化していない分析が新鮮。読了日:03月06日 著者:高田 貫太
ブッダと法然 (新潮新書)ブッダと法然 (新潮新書)感想釈迦と法然。「0」から「1」を生んだ宗教者という視点で読み解いていく。縁起を説いた人と念仏往生を説いた人。先行する考えを否定することで次の段階に進んでいく。「空亦復空」であり、悟りを開いたと思った瞬間に次の考えを生んでいかざるをえない。キリスト教は公会議で教義を1本に絞ってきたのとは対照的に絶対者・阿弥陀を想定しながら、そこで止まることがなかった点に筆者は仏教の特色を見る。読み終わって感じること。法然のという人はやはり叡山の人で、持戒清浄、大原問答に勝てる学識、もっと認識が改められていい宗教者である。読了日:03月05日 著者:平岡聡
ロシア革命――破局の8か月 (岩波新書)ロシア革命――破局の8か月 (岩波新書)感想帝政ロシアの2月革命から10月革命に至る間の動きを追った1冊。混迷の構図の原因は「2分法」の思想にあるという。資本家、支配者などの「あいつら」と農民、兵士、労働者などの「われわれ」という構図だ。相手を考える余裕がなければ双方の理解と交渉と妥協が成立するはずもない。結局、ボルシェビキは結局、力で圧倒することで政体を確立したのだから。同じく共産主義革命が起きた中国を見れば根底には「士庶」「華夷」の別があり、本書で取り上げられた崩壊にも似る。で、日本では……。中世くらいのイメージかなぁ。さらに今の世相も……。読了日:03月04日 著者:池田 嘉郎
中世の声と文字 親鸞の手紙と『平家物語』 シリーズ<本と日本史>3 (集英社新書)中世の声と文字 親鸞の手紙と『平家物語』 シリーズ<本と日本史>3 (集英社新書)感想本来の本書の趣旨は、人が意図を伝える手段としての手紙や物語が書き言葉の漢文ではなく、仮名交じりになったという事象をきちんと分析、紹介することにあったはず。親鸞の手紙や和讃を取り上げるが表層的な感じ。後段の平家物語の部分は兪々表層。語り本系から読み本系へ発展したとする嘗ての説を筆者は奉じているが、最近の研究では逆。延慶本辺りに古態を見るのが定説だ。保元、平治物語もそう。昨今の国文学研究の進展を理解していないように見える。むしろ、本書は慈圓はなぜ愚管抄を漢字仮名交じりで書いたかを説く方が大切ではなかったか。読了日:03月03日 著者:大隅 和雄
〈麻薬〉のすべて (講談社現代新書)〈麻薬〉のすべて (講談社現代新書)感想痲薬という字面の禍々しさ。「規制薬物=麻薬」なら中枢神経を抑制するモルヒネ類も興奮させる覚醒剤類も幻覚を催すLSDの類いも同じ範疇になる。寧ろ「血液脳関門通過物質」であることが共通項になる。罌粟、麦角といった植物を生かす古代からの知恵と、モルヒネの単離、尿素合成に始まる近現代の有機化学の技術が出会った時に、別方向へのベクトルが働いた気がする。南北戦争や普仏戦争でのモルヒネ、WWUでの覚醒剤、ベトナム戦争時のコカイン。薬用だけとはいかない。ただ薬も麻薬も結局は使い方次第という結論では肩透かしの感もある、が。読了日:03月01日 著者:船山 信次
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2017年03月02日

★2017年2月に読んだ本。

2017年2月の読書メーター
読んだ本の数:9冊
読んだページ数:2357ページ
ナイス数:417ナイス

地下生菌識別図鑑: 日本のトリュフ。地下で進化したキノコの仲間たち地下生菌識別図鑑: 日本のトリュフ。地下で進化したキノコの仲間たち感想
馬路村のトリュフに関連して、お世話になった方に拝借、読み終わった1冊。地球には不思議な世界が広がっているのを実感。元々、地上に顔を出していたキノコがわざわざ地面の中で進化したのが「地下生菌」。子孫を繁栄させるには地面の上で胞子を飛ばした方が有利なのに。それでも独自に進化をして、この形にたどり着いた世界は不可思議。トリュフも豚、犬、モモンガ、ネズミと様々な動物に捕食されることで移動が可能になるという。簡単に見つかるはずもないこの菌類を研究した筆者たちの探究心には敬意を表するしかない。学問の世界は深い。
読了日:2月21日 著者:佐々木廣海,木下晃彦,奈良一秀
文庫解説ワンダーランド (岩波新書)文庫解説ワンダーランド (岩波新書)感想
文庫本の解説を評論した1冊。解説の指針に就いて筆者曰く、@本の書かれた基礎情報。A読書の指針となるアシスト情報。B今読むべき意義を述べた効能情報。C新たな読み方を提案するリサイクル情報――の4点であると視座を説く。その前提の上で夏目漱石、川端康成、サガンに小林秀雄と東西泰斗の文庫の解説を読み解く。性差の視点だけではなく、時代が「読み」を変えていく面白さを解析したのがこの1冊の眼目だ。筆者独特の筆捌きがあるけど、それ以上にテキストを読み込んでいる労力に敬意。原民喜の読みでリービ英雄の評を挙げたのは秀逸。
読了日:2月20日 著者:斎藤美奈子
河内金剛寺の中世的世界 (上方文庫)河内金剛寺の中世的世界 (上方文庫)感想
河内・和泉・紀伊の国境に近い山に成立した金剛寺。在地の勢力の強い地域ならではのことで、一山一寺、寺と地域が一体化することで存続をしてきた。葛城修験の影響もあるし、勿論南北朝の舞台にもなる。早い時期から仁和寺を本寺としながらも独立的な形態を維持し、寺域には城の虎口のような門を構えていたという。寺の種々の側面を点綴することを通じて、中世的な寺と地域の関係を探ろうとした1冊。筆者の言うように観心寺、施福寺など一寺一山が成立しえたエリアの特性も見せる。武家の式酒として定評を得た「天野酒」への言及も興味深い。
読了日:2月17日 著者:堀内和明
一遍読み解き事典一遍読み解き事典感想
江戸期までに教団としての体裁を十全に備え切れなかった故に、明治維新の荒波の前に宗旨として存在感を失った時宗。でも、一遍が求め、布教した趣旨は今の世の中でもっと再確認されていいものだと思う。阿弥陀如来への絶対的な帰依を説きつつ、自身の念仏もまた是として受け入れる。そんな世界をトレースした1冊です。ただ惜しむらくは一遍自身が明解な教義を残していないがゆえに、肝心の部分ですこぶる端折った書き方になっています。でも、捨て聖一遍の生き方は今の日本の精神世界で見直されてもいいと思います。そんな手掛かりの1冊です。
読了日:2月15日 著者:長島尚道,砂川博,岡本貞雄,長澤昌幸,高野修
増補 モスクが語るイスラム史: 建築と政治権力 (ちくま学芸文庫)増補 モスクが語るイスラム史: 建築と政治権力 (ちくま学芸文庫)感想
モスクの建築形態を元にイスラーム世界の歴史を探った1冊。元々はモハメッドの家を原点に始まった礼拝施設が増殖していく。過程には武力があり、王朝の変遷があり、支配地域の変化がある17世紀くらいを範囲に、西アジアから南欧州、北アフリカまで支配が移り変わるままに、宗教施設のモスクが変わっていく姿を追う。本来は墓の存在がないはずのこの宗教で墓が大きな存在になっていくのが興味深い。元々中公新書の1冊たったものに最後の1章を加えて再版したのが筆者の矜持。宗教上の相剋以上にこの近現代に起こったことを記したのが値打ち。
読了日:2月15日 著者:羽田正
親鸞の信仰と呪術: 病気治療と臨終行儀親鸞の信仰と呪術: 病気治療と臨終行儀感想
「浄土真宗とは何か」の底本。今の認識では高僧であった法然も親鸞も平安〜鎌倉期に生き、比叡山で修行し、往生を願う人であったという素朴な背景の設定を読み解く。病気の時には呪術を使って快癒を願い、臨終に臨んでは奇瑞の顕現に願う。本人は元より、門弟や家族もそう願う。子弟も天台、真言の寺に学んでいる人。本書はごく当たり前の当時の風景が、後の信者の偏向で歪められた姿を補正する。新書版と梗概は同じながら、専門書として骨格が明解。浄土教の教えの「揺れ」がむしろ自然であり、後に「聖人」として固定化する前の姿に力を感じる。
読了日:2月12日 著者:小山聡子
ことばの地理学: 方言はなぜそこにあるのかことばの地理学: 方言はなぜそこにあるのか感想
方言と謂えば「蝸牛考」。京を中心に同心円状に伝わるという柳田国男の周圏説だ。本書は視点を変えて区画説の立場で論が進む。例に否定形の語尾が「〜ない」か「〜ん」か。原因理由の接続助詞が「〜から」か「〜さかい」「〜きん」「〜よって」か。東西で分布が分かれると同時に、人の行き来で影響が拡散していることを分析する。そんな学問を「言語地理学」というそうだ。海陸の交通網、家族制度、人口密度、社会組織が東日本の同族的な番か西日本の地域単位の年齢階梯組織の衆か−−種々の要素を考えつつ、調査結果を記した地図を見るのは楽しい。
読了日:2月7日 著者:大西拓一郎
柳田国男と今和次郎 (平凡社新書)柳田国男と今和次郎 (平凡社新書)感想
筆者は今和次郎のことが書きたかったのだと思う。そこで「民俗学とは」を書くためには柳田国男が必要になり、紙幅を割いたことで焦点が合いにくくなってしまったか。日本の民俗学の系譜で、柳田の「弟子」の今和次郎の仕事を探るはずが、登場人物が多くてエピソード集みたいになってしまった感がある。多彩な人脈を書くことより、今和次郎の存在を今の時点で掘り下げて欲しかった気がする。人物群の中で黒岩忠篤(終戦時の農水大臣。映画「日本の一番長い日」では「昭和8年以来の凶作が見込まれ……」みたいな台詞を言う)の存在は興味深かったが。
読了日:2月6日 著者:畑中章宏
日本列島100万年史 大地に刻まれた壮大な物語 (ブルーバックス)日本列島100万年史 大地に刻まれた壮大な物語 (ブルーバックス)感想
この風景はどう出来上がった? という疑問に今の時点での知見で解説した1冊。日本列島は花崗岩質で密度の低いユーラシアプレートに玄武岩質で密度の高い太平洋、フィリピン海プレートが沈み込む現象が続いているのは周知だが、気候変動で海水面の上下が起き、浸蝕や堆積が繰り返されたという視点を繋げたところが興味深い。まさか濃尾平野と近江盆地、京都盆地に大阪平野が繋がった動きであったとか、御前崎、潮岬、室戸岬、足摺岬の生成が関連があったとか。機序は頗る力学的なのだけど、組み合わせた時の面白さ。門外漢も楽しめる1冊でした。
読了日:2月3日 著者:山崎晴雄,久保純子

読書メーター

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2017年02月01日

★2017年1月に読んだ本。

2017年1月の読書メーター
読んだ本の数:15冊
読んだページ数:4097ページ
ナイス数:584ナイス

都市と暴動の民衆史 東京・1905-1923年都市と暴動の民衆史 東京・1905-1923年感想
日露戦争の講和後に起きた日比谷焼き討ち事件、1918年の米騒動、普選運動の時の暴動、そして1923年の関東大震災後の朝鮮人虐殺。農村から都市に流入した人、生活水準の差から生まれた「疎外感、劣等感」の産物と読み解く。さらに性差の意識の影が差す。「飲む打つ買う」が「男らしさ」の証とされた時代。生活水準の上昇かなう見込みない、抜き差しならぬ状況に置かれて、自分よりも立場の弱い者への暴力という形で発露した事実を史資料から読み解く。空気は「大衆迎合」という形で続いた。さらにこの構造は今も再現していないか。考える。
読了日:1月30日 著者:藤野裕子
浄土真宗とは何か - 親鸞の教えとその系譜 (中公新書)浄土真宗とは何か - 親鸞の教えとその系譜 (中公新書)感想
親鸞というと絶対他力。だが自筆の筆跡を見るに実に神経質な人の印象。仏教の験力が信じられていた時代に生きた人であり、衆生済度のために三部経千遍読誦をしたことを思い返して曰く「まはさてあらん」と振り返る。何があっても往生という教えを説く一方で自力を頼む自分も居た訳で、その揺れが興味深い。寧ろその後裔が何を齎したのか、神祇不拝の原則とか、善鸞の存在とか。一神教に近い考え方とか。宗祖、聖人と仰がれる存在である以前に1人の人間として、あるいは宗教者として見直すという姿勢は今に生きる読者には納得がいくものだろう。
読了日:1月26日 著者:小山聡子
<軍>の中国史 (講談社現代新書)<軍>の中国史 (講談社現代新書)感想
本書は「中国は法治ではなく人治の歴史」という前提と「故に中国共産党軍は共産党(正確には毛沢東、今なら習近平)の私軍である」という結論に至るのが骨子。残念ながら論証になっていない。清末までの記述は文献の矧ぎ寄せ。岩波新書の「李鴻章・袁世凱・孫文」の記述に及ばず、軍事力の苛烈さは中公新書の「中国革命を駆け抜けたアウトローたち」の方が躍動感がある。軍閥の長の抗争を跡づけしているだけの感がある。筆者の熱意は買うが新書という寸法、「帯に短し」状態というか。もっと題材を絞って点綴した方がこの分量には見合ったと思う。
読了日:1月25日 著者:澁谷由里
欧州複合危機 - 苦悶するEU、揺れる世界 (中公新書)欧州複合危機 - 苦悶するEU、揺れる世界 (中公新書)感想
興味深かった2点。1)「正統性」。選挙を通じて民意を反映することで担保される概念が成立しえてないことがEUという枠組みの危うさを招く。軍事はNATOに、以外はEUにという流れの中で、独の強大化を抑えようとした仏。局面的には正しくても、戦略的に如何だったのか。選挙という概念は国民国家単位にしか機能しない現実の前に。2)「富の再分配」。富める国の負担を他の国に分配するという機能。円滑に進んでいるのだろうか。日本国内に当てはめても「都市対地方」という構図が顕在化している中、EUには建前論では済まない世界が残る。
読了日:1月23日 著者:遠藤乾
戦国大名 (1960年) (塙選書〈第9〉)戦国大名 (1960年) (塙選書〈第9〉)感想
本書は黒田基樹の同題(平凡社新書)に先行書の記載ありて手を伸ばす。1960年刊。筆者は1904年生。中世史畑を一筋に歩んだ。組版や文章の進め方に時代の差を感じるものの、検索が簡単でなかった時代によくぞここまで様々な史料を頭に入れて、丹念に抽出し、書き上げたと思う。前半は戦国大名諸家の総論。後半は生活や産業、交通全般に及ぶ。細かく出典とした史料の名を引きつつ。江戸時代の随筆や博物学の文化と西欧史学の融合を目指したような1冊。多岐に渉りながら今も役に立つ部分が残るのはすごい。史料編纂の余技というにはすごい。
読了日:1月21日 著者:奥野高広
天に遊ぶ (新潮文庫)天に遊ぶ (新潮文庫)感想
原稿用紙10枚、軛を自らに課しつつ、書かれた掌編はどこまでもいとおしい。私小説は好きではないが、吉村が描く世界はきれいに私小説のそれとは違う世界を描きだす。筆者の他の作品を読んでいれば、思い当たる節も多いエピソードをここまで別世界の出来事のように換骨奪胎してしまう世界に驚きすら覚える。だって原稿用紙10枚、書ける世界は限られる。でもこの切れ味の良さ、首が飛んでもそのまま笑顔になりそうな、切れ味の良さ。元々は週刊新潮の連載だったという。こういう小説が存在しうる時代の犀利さを思う。身近な小説にはない切れ味。
読了日:1月19日 著者:吉村昭
密着 最高裁のしごと――野暮で真摯な事件簿 (岩波新書)密着 最高裁のしごと――野暮で真摯な事件簿 (岩波新書)感想
正確には「最高裁・裁判部門のしごと」という書名になろうか。1、2審が事実関係の審査であり、最高裁は法律に照らして齟齬がないかを確認する組織であること、少数意見も公表されること等々。日頃身近に感じることが少ない組織だけに、筆者の筆致は丁寧で平易。司法記者愛を感じる。ただ一方には司法事務部門があり、人事局が広く下級裁判所を掌握している存在。本書では調査官の話がチラと出てくるが……。それと「霞ヶ関の奇岩城」の異名に違わず、「権力の館」(御厨貴)で各裁判官の事務室の独立性が極端に高いと紹介していたのを思い出す。
読了日:1月18日 著者:川名壮志
戦国大名 (1978年) (教育社歴史新書―日本史〈55〉)戦国大名 (1978年) (教育社歴史新書―日本史〈55〉)感想
本書は1978年刊。同名の黒田基樹の1冊(平凡社新書)で取り上げていたので手を伸ばした。今となっては考古学的な知見が広がったり、新史料が出てきたりと、研究が進歩していることが改めて感じるような内容。後北条家の成立や斎藤道三の出自、長篠の合戦の有様等々。ただそんな点を割り引いても、当時の研究水準で軍事、政治、行政、文化、商業などあらゆる分野について、糸口を付けていくような書きぶりには頭が下がる。戦国時代の史料はなかなかに残っていない。一部の例を敷衍する危うさはあるにせよ、新書の判型でよく纏まっている。好著。
読了日:1月15日 著者:小和田哲男
数学する身体数学する身体感想
中・高校の恩師に卒業した後、蒙を啓かれたことがある。「世の中、物理と数学だ」と。現象の解析を積み重ねる帰納的な方法と仮説を元に演繹的に考える方法と。ものの考え方の手段として数学は有効、と教えられた点だ。本書は数学とは、という問いかけの果てを考える1冊。一人に抽象化を推し進めたチューリングを挙げ、一人に数学が生まれる瞬間を考えた岡潔を描く。「数学は零から」と考えるか、「零までが大切」と見るか。筆者は「ない」世界から「ある」世界への変転に心惹かれるのだろう。その変化をどう生み出すのかを考えるのが数学なのか。
読了日:1月13日 著者:森田真生
クー・クラックス・クラン: 白人至上主義結社KKKの正体 (平凡社新書)クー・クラックス・クラン: 白人至上主義結社KKKの正体 (平凡社新書)感想
白い三角頭巾に松明、燃え盛る十字架−−KKKへの先入観を改める1冊。運動の時期により、1期は南北戦争当時の南部諸州での体制維持が主眼、2期目は増える新移民への排斥主義と表裏のWASPに代表される白人至上主義が、3期目は公民権運動への対立命題として。「文化的定義」のエスニック集団か、「身体的基準」の人種か。さらに人(集団)という存在を「構造主義」的に見るか「本質主義」的に見るか。空想の産物ともいえる共通の敵を想定するときに、後者に傾く傾向が顕著になった事例なのだろう。この動きは米国内に限るものではない、と。
読了日:1月12日 著者:浜本隆三
ニセチャイナ―中国傀儡政権 満洲・蒙疆・冀東・臨時・維新・南京 (20世紀中国政権総覧)ニセチャイナ―中国傀儡政権 満洲・蒙疆・冀東・臨時・維新・南京 (20世紀中国政権総覧)感想
表装は禍々しいゲーム攻略本のようだが中身は真っ当。満洲事変から内蒙古、華北、華中と日本軍が仕立てた傀儡政権(対日協力政権)の記伝。占領地の維持を目指して「自治政府」を作っては崩壊していく。日本側についた人物も日本軍の利害関係者、権力欲を持っていて一筋縄ではない。一方、財源が阿片と関税。紙幣も英ポンドとリンクする法幣と、日銀券、朝鮮銀行券とのリンク頼みの満州中央銀行券、中央儲備銀行券、中国聯合準備銀行券、蒙疆銀行券、華興商業銀行券+軍票では民政も安定する筈もなく、砂上の楼閣建設を繰り返した当時の愚が分かる。
読了日:1月10日 著者:広中一成
「大日本帝国」崩壊―東アジアの1945年 (中公新書)「大日本帝国」崩壊―東アジアの1945年 (中公新書)感想
1945年8月15日は日本では終戦記念日。だが朝鮮、台湾、中国本土、南方、樺太、千島は同じ時期に別の事態が進展した。不可侵条約を破ってソ連軍が南下した北方では後のシベリア抑留や居留民の放置が起こり、朝鮮では南北分割の基礎が固まった。台湾も本省人と外省人の対立は残った。日本は国として戦争終結がやっとで、民間人の保護と統治の引き継ぎすら満足にできなかった。政府の責任や大である。当時、大東亜省は「居留民はできうる限り定着の方針を執る」との指示しかなかったと言う。統治者の責任放棄に近く、戦後の禍根を残した日々だ。
読了日:1月4日 著者:加藤聖文
SMAPと平成 (朝日新書)SMAPと平成 (朝日新書)感想
筆者には「歌舞伎 家と血と藝」という秀逸な1冊がある。梨園を愛憎、欲望、虚実入り乱れて描いたその本の印象があり、期待を持ってSMAP本2冊目と選んだものの、正直のところ期待外れだった。平成という時代区分(が一般化するかどうか分からないけど)、今上天皇、歴代内閣、世上の出来事をSMAPというグループの動向と繋ぎ合わせることで時代の空気感を描こうという意図なのだけど、結構、牽強付会のような気もして、総体にまとまりに欠ける。話の重心はグループとして世に出て第一人者になっていくまでに重心がある。話が流れ過ぎる。
読了日:1月3日 著者:中川右介
日本はなぜ開戦に踏み切ったか―「両論併記」と「非決定」 (新潮選書)日本はなぜ開戦に踏み切ったか―「両論併記」と「非決定」 (新潮選書)感想
1941年の日米開戦に至る官僚(近衛文麿を除けば大臣も官僚の一種)の動向を跡付けした1冊。意思決定というより、筆者の言う「非(避)決定」と「両論併記」、自己矛盾の繰り返しの記録である。資源を目指して南方に進出しても輸送手段が不如意、工業生産の目算もなく、先方の意向すら牽強付会。この論法は満州事変、日中戦争を通じて現場専行を周囲が追認する構図と相似である。明治憲法下で天皇は無答責の存在で、建前論と御都合主義を制止する権能がどこにもないという制度上の欠陥はあるにせよ。今でもこの行動様式への危惧が拭い切れない。
読了日:1月2日 著者:森山優
軍艦と装甲―主力艦の戦いに見る装甲の本質とは (光人社NF文庫)軍艦と装甲―主力艦の戦いに見る装甲の本質とは (光人社NF文庫)感想
「攻めるも守るも鐵の」という存在の軍艦。砲弾の威力と防禦の装甲は矛と盾。本書は木造帆船の時代、船首の衝角で体当たりという戦法の頃から40サンチ砲を備えたビッグ7の登場とワシントン条約で海軍の休日に入るまでの試行と結果を淡々と綴っていく。装甲鈑の質的な改良がある一方、砲撃や水中攻撃の進化で耐えられても人的被害が防げなくなる。1dの砲弾が音速の2倍で命中する世界は戦艦を巨大化させ、建艦費の高額化を招き、時代の遺物化を進めることになる。理詰めの書きぶりで納得。なぜ日本がこの妄想から抜け出せなかったか。不思議だ。
読了日:1月1日 著者:新見志郎
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2017年01月01日

☆2016年12月に読んだ本。

2016年12月の読書メーター
読んだ本の数:20冊
読んだページ数:5587ページ
ナイス数:641ナイス

近代はやり唄集 (岩波文庫)近代はやり唄集 (岩波文庫)感想
不思議な本です。別に歌ったことがあるわけではないけど、どこか知っている。記憶の奥底にあるのかもしれません(といっても世代的な隔絶はあるのを承知、ですが)。要は口伝え、実演で広まっていった唄です。自由民権運動の場面で、映画、演歌師、寄席、宴席。部立てがなかなかに巧いので、ひとかたまりで摑むのにはいい1冊です。方言があり、歌唱力がなかった日本人が唄を、歌を歌うという力を身につけてきた歴史の一部を綴った1冊とも言えるのかもしれません。パイノパイノパイとか、春はうれしや、とか、ダンチョネ節とか。
読了日:12月31日 著者:
勝負の極意 (幻冬舎アウトロー文庫)勝負の極意 (幻冬舎アウトロー文庫)感想
初期の作品ゆえ、今のねっとりした書きぶりではないが、「蒼穹の昴」が世に送り出されるまでの世過ぎ見過ぎを綴った1冊。前半は特に生業の傍らで、作家になるという一念で書くことを続けてきた執念。努力は凡才を天才にするとはいえ、本当に大した物だと改めて思う。競馬の方は余り親しくないので佳く分からない。でも随筆を頼まれて、最初は自衛隊のことを書き、次に自身の来し方を書き、本篇を書く機会を待ったという。日々6時間の執筆を続けるとは。畳のあちこちに座り込んでいたことで出来た窪みができていたという逸話がこの方らしく思えた。
読了日:12月31日 著者:浅田次郎
横浜港の七不思議―象の鼻・大桟橋・新港埠頭 (有隣新書 (65))横浜港の七不思議―象の鼻・大桟橋・新港埠頭 (有隣新書 (65))感想
日本の都市としては横浜は特異な街だ。貿易港が寒村に出来たことで一気に変貌した。砂浜だったところに港を造るのだから大変。石詰みの岸壁がやっとだった時代。今の大桟橋は、米に支払った下関戦争の賠償金がこの頃、返還されることで財源を確保できた訳で、鉄製の桟橋ができたのは知らなかった。「我が日の本は島国よ」の横浜市歌も、東京音楽学校の斡旋宜しきを得ての誕生とか、この街の成立には多くの僥倖があったのが知れる。精いっぱいのやりくりと、生糸輸出港での外貨獲得と。如何にもふるさとに矜恃という筆者の書きぶりが気になるが。
読了日:12月31日 著者:田中祥夫
日米開戦と情報戦 (講談社現代新書)日米開戦と情報戦 (講談社現代新書)感想
昨今「インテリジェンス」という言葉が独歩している。理解力、知性といった意味が本旨だが、情報や諜報という意味に重きを置いている感がある。暗号化情報でも自分が読めていれば相手も読んでいると考えるのが冷静な考えだろう。正確に把握できている保証もない。本書は"1次情報"と内向きの体面に振り回され、陸海軍、外務省、米英側と各々が予断を持ち、真意を摑みかねた揚げ句の失敗の来歴である。巻末に幣原喜重郎や米英駐日大使が公開情報と経験、人脈で適切な判断をした例を挙げる。今でも本当の意味で求められるインテリジェンス、である。
読了日:12月30日 著者:森山優
通州事件 日中戦争泥沼化への道 (星海社新書)通州事件 日中戦争泥沼化への道 (星海社新書)感想
北京郊外の通州で、日本の傀儡政権・冀東防共自治政府の守備隊が、駐屯していた日本軍や民間人を殺害したのが「通州事件」の骨子。華北分離工作の中で、冀東政府と国民党側の冀察政務委員会の対立、中国共産党の工作等の指摘、冀東密貿易や阿片の移動を黙認する体制など、本書は時代背景を完結にまとめている。シベリア出兵に際しての「尼港事件」同様、民間人が巻き込まれたことで、日本軍の統制下で対外宣伝工作の材料となったとの推論も示される。結論が明示されている訳ではないが、当時醸成されていた「抗日」の空気を十二分に理解できる1冊。
読了日:12月29日 著者:広中一成
最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常感想
行ってみたいけど実現していないことの一つに「藝祭」がある。東京藝大の学園祭。毎年9月、上野の山。音楽系、美術系混成の1年生8チームが作る神輿の見事さは写真で知れる。真剣に遊ぶ見事さの象徴に思えた。そんなギモンに答えてくれる1冊。筆致はルポの常道で、丹念に学生に話を聞き、紡いだ書きぶり。取材はこの何倍も重ねているのだろう。この学校の素顔を等身大で写す。「ニッポンの文化芸術を背負うのは、お前らじゃあァ」と言い切れる学長。読み終わってなおカオス。でも本当の姿を知ろうと思うのは「渾沌に目鼻を空ける」ようなものか。
読了日:12月28日 著者:二宮敦人
戦国大名: 政策・統治・戦争 (平凡社新書)戦国大名: 政策・統治・戦争 (平凡社新書)感想
自力救済の時代にあって、地域の単位である村・郡に注目し、戦国大名との関係を解析した1冊。支配構造、徴税、流通、軍役と話を進める。常に近隣との紛争が起こる中で、村という単位が果たした機能を説き起こし、下からの目線の像を描くことになる。史料が多く残る後北条氏が中心。今も残る「村」起源はこの時代にある。貫高制から石高制への移行だったり、大名同士の戦の契機となるのは周縁部の領域争いであったり。織豊時代、いや徳川殿の前期まで続く母型が見えるのが明解。中世と近世の境は軍事費を社会投資に回せる社会への変革だったのかも。
読了日:12月26日 著者:黒田基樹
ノモンハン 1939――第二次世界大戦の知られざる始点ノモンハン 1939――第二次世界大戦の知られざる始点感想
WWUで二正面作戦を勝ち抜けたのは米だけである。外蒙古と満洲の国境(というか口伝の境界線)を巡って関東軍と赤軍が衝突したのがノモンハン事件。本書は拡張を続けるナチスと英仏、ソの均衡と野心収攬の結果が独ソ不可侵条約成立、西部戦線の一時的静穏であり、その裏の東部戦線ではノモンハン事件が起きたのではないか、と筆者は読み解く。スペイン内乱も絡んで、英仏が植民地支配する余力がなくなっていた時代状況を前段で説明、関東軍内の暴走は中段で、日ソ不可侵条約とソの動きは後段で展開。旧日本軍の夜郎自大ぶりには頭を抱えるばかり。
読了日:12月23日 著者:スチュアート・D・ゴールドマン
ゴルゴさんち 全1巻ゴルゴさんち 全1巻感想
昔、別冊ゴルゴ13に連載されていた掌編。ある時期から突然消えたように記憶していたので不思議に思っていたが、実は離婚していたんですね。ゴルゴ13の作者さいとうたかお氏の元夫人が描いたこの漫画。一家の日常を描くもので、どこか昭和の香りのする作品です。巻末に「当時の空気を懐かしみつつ大らかに楽しんでほしい」と後記をいれるほど。でも何か懐かしいような。「将棋の渡辺くん」に刺激されて思い出した本。2009年に単行本として刊行されているのは日本の漫画文化の懐の深さを感じるというか。夫婦に娘2人、そんな生活は今は昔?
読了日:12月21日 著者:セツコ山田
犯罪の大昭和史 戦前 (文春文庫 編 6-18)犯罪の大昭和史 戦前 (文春文庫 編 6-18)感想
本書は「犯罪の昭和史1・戦前」(作品社、1984年)の再編集、文庫化。旧版3冊本を読んでいるので再読になる。戦前の説教強盗や玉ノ井バラバラ事件、阿部定事件など巷間を騒がせた事例から、北原二等兵天皇直訴事件、九大生体解剖事件まで多岐に渉る。今となっては忘れかけた事件も多い。本書の面白いところは当事者が登場する例あり、当時の知識人が分析したものあり。一種のアンソロジーになっている点。週刊誌的な興味だけではない。今、読み返しても事案の骨格と裏面を窺うことができる仕立てになっているのは類書の及ばぬ点だ。好復刊。
読了日:12月21日 著者:
ジャニーズと日本 (講談社現代新書)ジャニーズと日本 (講談社現代新書)感想
騒動の中で改めて、と手にした1冊。戦中戦後を生き抜いたジャニー喜多川という人物が作り上げたこの世界。巷間言われる通り、闇市世代の体験と米西海岸で見たというショービジネスの感覚とが渾然一体となった世界は再現不可能だ。本書の焦点は前半の音楽的な系譜を辿った部分にある。自家薬籠中。後段になって、戦後史の系譜の話になると一寸如何か。確かにバブル後の「失われた10年」は一面的に見れば筆者の所説になるものの、本当は人口減少時代を迎えたところでの安定成長期に切り替えられる契機でもあった。筆者1983年生、まだ若書きか。
読了日:12月20日 著者:矢野利裕
将棋の渡辺くん(2) (ワイドKC 週刊少年マガジン)将棋の渡辺くん(2) (ワイドKC 週刊少年マガジン)感想
この漫画も2年に1冊くらいのペースで単行本が出ているらしい。間遠である。でも何か、プロ棋士という普通には想像しがたい生活ぶりを垣間見ることができて、おもしろい。大タイトル戦だと和服が多くて、順位戦だと背広、意外に大事なのが靴下などなど。中学生でプロ入りした渡辺明のどこか純粋無垢なところが、将棋という藝を支えている気がした。
読了日:12月17日 著者:
将棋の渡辺くん(1) (ワイドKC 週刊少年マガジン)将棋の渡辺くん(1) (ワイドKC 週刊少年マガジン)感想
キンドルで読了。かつて、ゴルゴ13の別冊に「ゴルゴさんち」(セツコ山田)を連想させる内容。棋士という方々はもちろん常識的な方々が多いとは聞くが、渡辺明氏は、なかなかに取捨選択の上手い生活をしているようだ。ぬいぐるみ好き、虫嫌い、考え抜く理論派……。テレビの画面でご尊顔を拝する程度ではあるけど、本当にこの人はすごいんだろうな、と思わせる何かが画面が伝わってくる。いい1冊です。
読了日:12月17日 著者:
1941 決意なき開戦: 現代日本の起源1941 決意なき開戦: 現代日本の起源感想
「ディマジオの奇跡」とか「山田風太郎の明治小説」を連想させる筆致。筆者の管見に入った資料を換骨奪胎して複数の視点、思惑の錯綜を1篇の物語に織り上げた。主役級は近衛文麿、松岡洋右、東条英機。授権法で突っ走った独、ファシスト党独裁をつくった伊とは違い、すべて法手続に基づいて日米開戦への道をひた走るのが怖ろしい。結局「十万の英霊、二十億の国帑」と同じ論理展開が進んでいく。本書は細部が命、長身の近衛、キャビアとウオッカで赤い松岡、生者より死者のメンツを重んじる能吏東条。確かにこの3人に焦点があっているのはいい。
読了日:12月15日 著者:堀田江理
一冊でつかむ日本中世史: 平安遷都から戦国乱世まで (平凡社新書)一冊でつかむ日本中世史: 平安遷都から戦国乱世まで (平凡社新書)感想
帯にある通り、「図版満載 一目瞭然」の部分に惹かれて読んだ。だが、内容は高校の教科書に毛が生えたかな、くらい。「1冊でつかむ」という書名の方に重点を見て選択か。物足りなさが残った。日本の中世という激動期(というか自力救済が徹底していた時代)を俯瞰するHow To本しては佳いのかもしれないけど、事実関係が最新の主流の意見とは異なるものがそのまま定説として掲載されている箇所が散見するし、重要な変化と思われる箇所が簡素な表現で止まっているし。手を伸ばすなら岩波新書の中世シリーズの方が可。模式図化は上手いが。
読了日:12月7日 著者:
修行と信仰――変わるからだ 変わるこころ (岩波現代全書)修行と信仰――変わるからだ 変わるこころ (岩波現代全書)感想
宗教者ルポ本。登場するのは密教、修験道、念仏、神道、カソリック等々。今の日本で「魅力がある」と筆者が考えた人々が登場する。修行の過程でトランス(変性意識状態)になった体験が語られる。最終章のカソリック・本田哲郎氏を除いては個人的には一寸肩透かしの感。というのは取材相手と自分の距離感、あるいは周囲の状況、筆者が基礎に置いている立ち位置がいま一つはっきりしないし、点綴していく手法が某かの結論を導き出せていないように思ったから。勿論、修行を否定しないし、入神、脱魂、恍惚……という境地があるのは重々分かるのだが。
読了日:12月6日 著者:藤田庄市
村上春樹はノーベル賞をとれるのか? (光文社新書)村上春樹はノーベル賞をとれるのか? (光文社新書)感想
往年の井上靖、当今の村上春樹。毎年、ノーベル文学賞候補として話題になる。本書は逆にノーベル文学賞とはどんな賞なのかを分析した1冊と言って佳い。1章は過去の日本作家、川端康成と大江健三郎のほかに、数多くの候補が浮かんでは消えしていたと跡づける。本書の眼目。三島由紀夫はこの栄誉を逃したことを二重に苦しんだのでは、との見立てだ。又、候補に挙がっていたという賀川豊彦や西脇順三郎が受賞していたら、というifを逆に考える。2章は過去の受賞者、非受賞者の分析(名の羅列が続く)、3章で世界文学としての村上春樹を記述する。
読了日:12月3日 著者:川村湊
電通と原発報道――巨大広告主と大手広告代理店によるメディア支配のしくみ電通と原発報道――巨大広告主と大手広告代理店によるメディア支配のしくみ感想
「海軍めしたき物語」(1979年、高橋孟)という本を思い出しました。戦艦霧島に乗務した主計兵の回顧談です。乗り組んでいても炊事場の周囲の出来事しか見えない−−。筆者は博報堂出身の元広告マンで、業界としての客観性を積み上げようとするのですが、視線が広告代理店寄りになっている気がします。利益率が実はどれほど高いか分からないものを商うのは不思議な気がします。電通が得意としたテレビ中心の枠をすべて制御する営業方法はWeb広告が伸びている中で業態自体が変わらざるを得ないし変わっている時期に来たのを改めて感じました。
読了日:12月3日 著者:本間龍
原発プロパガンダ (岩波新書)原発プロパガンダ (岩波新書)感想
プロパガンダは揉み手笑顔で、或時は世間話の様に近寄る。原発関連広告を回顧する1冊。新聞、テレビ、ラジオに雑誌に出稿し、広告主の意図とは反する内容になれば引き揚げる手法で、飴と鞭を繰り返してきたと説く。歯切れのいい書きっぷりで一気に読了。さてどうなのだろうか。今までの電通、博報堂を中心にきた日本の広告界の体制は。して、今やWebの時代。となると、Googleなどのサイトに左右されることになるが、どこまで信頼できるのか……。いずれにせよ、広告代理店はいる。情報は自分の頭と目で精査せよ、ということなのだが。
読了日:12月1日 著者:本間龍
喪失の戦後史喪失の戦後史感想
帰納的日本社会の分析。自身が生まれ育った蒲田での日常生活を土台に、日本社会がどう変わってきたのかを読み解く。筆者は家族制度を権威主義的か自由主義か、兄弟関係が平等か不平等かをXY軸にして考えると、日本は権威主義的不平等から自由主義的不平等に移行したと分析する。つまり家族の崩壊です。契機をエンゲル係数を指標に食べること=生きることという時代からの変化に見ます。結果が人口動態調査に出た日本では有史以来の減少傾向。筆者のいうように不可逆的である以上、静的平衡を探すのが一番だと思います。見事に絵解きされた心境。
読了日:12月1日 著者:

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posted by 曲月斎 at 01:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする