2017年04月01日

☆2017年3月に読んだ本。

3月の読書メーター読んだ本の数:7読んだページ数:2240ナイス数:324武田氏滅亡 (角川選書)武田氏滅亡 (角川選書)感想長篠合戦の後、すぐ武田氏は滅亡するような感覚を抱きがちだが、間には1575〜1582年という時間が挟まっている(関ヶ原の後、即豊臣氏滅亡という感じに似て。この間実に15年)。その間のことを詳細に跡づけした1冊。武田氏の存亡に限らず、戦国大名は勝頼と同じように精一杯領国支配を続けようと努力したのだろう。隣国と抗争したり、調略したり、同盟を結んだり。合戦もさることながら、日常的な撫民がどれだけできたか、で命運が分かれていったのがよく分かる。最終章の滅亡までは時系列のドキュメント風。一気に崩れていく様は壮観。読了日:03月24日 著者:平山 優
裁判の非情と人情 (岩波新書)裁判の非情と人情 (岩波新書)感想刑事裁判官として長年の経験を積んだ筆者ならではの随筆。1篇4ページほどながら、味わい深い。藤沢周平を読み、鬼平を若手に勧めたり、無罪判決を起案する話であったり、また後進の育て方だったり。法曹の世界に軸足を置きながら、展開する方向は多岐。碩学ぶりと人柄が偲ばれる内容だ。同じ法曹の世界の穂積重陳の「法窓夜話」を思い出した。裁判員裁判制度が導入されて変わることを期待する点や、最高裁の判事の事務方を務めた経験など、ならではの話が多い。担当事件について裁判官は順番ながら検察は上席の思惑が反映するとは知らなかった。読了日:03月06日 著者:原田 國男
海の向こうから見た倭国 (講談社現代新書)海の向こうから見た倭国 (講談社現代新書)感想神功皇后の三韓征伐など今は史実として認める方は少ないだろう。とはいえ、百済、新羅、任那に高句麗。日本もまだ統一国家といえるものがない時代に、先方もそうだった訳で、中小社会がしのぎを削っていた。そんな社会の交流を考古学の手法で読み解こうというのが本書の趣向。出土品であったり、前方後円墳だったり。「吉備の乱」とか「磐井の乱」とか、勝者の歴史からだけでは本当の意味が実はなかなか捉えにくいものであり、その点で考古学的な手法を取り入れた筆者の姿勢、書きぶりには好感が持てる。単線的な交流に簡潔化していない分析が新鮮。読了日:03月06日 著者:高田 貫太
ブッダと法然 (新潮新書)ブッダと法然 (新潮新書)感想釈迦と法然。「0」から「1」を生んだ宗教者という視点で読み解いていく。縁起を説いた人と念仏往生を説いた人。先行する考えを否定することで次の段階に進んでいく。「空亦復空」であり、悟りを開いたと思った瞬間に次の考えを生んでいかざるをえない。キリスト教は公会議で教義を1本に絞ってきたのとは対照的に絶対者・阿弥陀を想定しながら、そこで止まることがなかった点に筆者は仏教の特色を見る。読み終わって感じること。法然のという人はやはり叡山の人で、持戒清浄、大原問答に勝てる学識、もっと認識が改められていい宗教者である。読了日:03月05日 著者:平岡聡
ロシア革命――破局の8か月 (岩波新書)ロシア革命――破局の8か月 (岩波新書)感想帝政ロシアの2月革命から10月革命に至る間の動きを追った1冊。混迷の構図の原因は「2分法」の思想にあるという。資本家、支配者などの「あいつら」と農民、兵士、労働者などの「われわれ」という構図だ。相手を考える余裕がなければ双方の理解と交渉と妥協が成立するはずもない。結局、ボルシェビキは結局、力で圧倒することで政体を確立したのだから。同じく共産主義革命が起きた中国を見れば根底には「士庶」「華夷」の別があり、本書で取り上げられた崩壊にも似る。で、日本では……。中世くらいのイメージかなぁ。さらに今の世相も……。読了日:03月04日 著者:池田 嘉郎
中世の声と文字 親鸞の手紙と『平家物語』 シリーズ<本と日本史>3 (集英社新書)中世の声と文字 親鸞の手紙と『平家物語』 シリーズ<本と日本史>3 (集英社新書)感想本来の本書の趣旨は、人が意図を伝える手段としての手紙や物語が書き言葉の漢文ではなく、仮名交じりになったという事象をきちんと分析、紹介することにあったはず。親鸞の手紙や和讃を取り上げるが表層的な感じ。後段の平家物語の部分は兪々表層。語り本系から読み本系へ発展したとする嘗ての説を筆者は奉じているが、最近の研究では逆。延慶本辺りに古態を見るのが定説だ。保元、平治物語もそう。昨今の国文学研究の進展を理解していないように見える。むしろ、本書は慈圓はなぜ愚管抄を漢字仮名交じりで書いたかを説く方が大切ではなかったか。読了日:03月03日 著者:大隅 和雄
〈麻薬〉のすべて (講談社現代新書)〈麻薬〉のすべて (講談社現代新書)感想痲薬という字面の禍々しさ。「規制薬物=麻薬」なら中枢神経を抑制するモルヒネ類も興奮させる覚醒剤類も幻覚を催すLSDの類いも同じ範疇になる。寧ろ「血液脳関門通過物質」であることが共通項になる。罌粟、麦角といった植物を生かす古代からの知恵と、モルヒネの単離、尿素合成に始まる近現代の有機化学の技術が出会った時に、別方向へのベクトルが働いた気がする。南北戦争や普仏戦争でのモルヒネ、WWUでの覚醒剤、ベトナム戦争時のコカイン。薬用だけとはいかない。ただ薬も麻薬も結局は使い方次第という結論では肩透かしの感もある、が。読了日:03月01日 著者:船山 信次
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2017年03月02日

★2017年2月に読んだ本。

2017年2月の読書メーター
読んだ本の数:9冊
読んだページ数:2357ページ
ナイス数:417ナイス

地下生菌識別図鑑: 日本のトリュフ。地下で進化したキノコの仲間たち地下生菌識別図鑑: 日本のトリュフ。地下で進化したキノコの仲間たち感想
馬路村のトリュフに関連して、お世話になった方に拝借、読み終わった1冊。地球には不思議な世界が広がっているのを実感。元々、地上に顔を出していたキノコがわざわざ地面の中で進化したのが「地下生菌」。子孫を繁栄させるには地面の上で胞子を飛ばした方が有利なのに。それでも独自に進化をして、この形にたどり着いた世界は不可思議。トリュフも豚、犬、モモンガ、ネズミと様々な動物に捕食されることで移動が可能になるという。簡単に見つかるはずもないこの菌類を研究した筆者たちの探究心には敬意を表するしかない。学問の世界は深い。
読了日:2月21日 著者:佐々木廣海,木下晃彦,奈良一秀
文庫解説ワンダーランド (岩波新書)文庫解説ワンダーランド (岩波新書)感想
文庫本の解説を評論した1冊。解説の指針に就いて筆者曰く、@本の書かれた基礎情報。A読書の指針となるアシスト情報。B今読むべき意義を述べた効能情報。C新たな読み方を提案するリサイクル情報――の4点であると視座を説く。その前提の上で夏目漱石、川端康成、サガンに小林秀雄と東西泰斗の文庫の解説を読み解く。性差の視点だけではなく、時代が「読み」を変えていく面白さを解析したのがこの1冊の眼目だ。筆者独特の筆捌きがあるけど、それ以上にテキストを読み込んでいる労力に敬意。原民喜の読みでリービ英雄の評を挙げたのは秀逸。
読了日:2月20日 著者:斎藤美奈子
河内金剛寺の中世的世界 (上方文庫)河内金剛寺の中世的世界 (上方文庫)感想
河内・和泉・紀伊の国境に近い山に成立した金剛寺。在地の勢力の強い地域ならではのことで、一山一寺、寺と地域が一体化することで存続をしてきた。葛城修験の影響もあるし、勿論南北朝の舞台にもなる。早い時期から仁和寺を本寺としながらも独立的な形態を維持し、寺域には城の虎口のような門を構えていたという。寺の種々の側面を点綴することを通じて、中世的な寺と地域の関係を探ろうとした1冊。筆者の言うように観心寺、施福寺など一寺一山が成立しえたエリアの特性も見せる。武家の式酒として定評を得た「天野酒」への言及も興味深い。
読了日:2月17日 著者:堀内和明
一遍読み解き事典一遍読み解き事典感想
江戸期までに教団としての体裁を十全に備え切れなかった故に、明治維新の荒波の前に宗旨として存在感を失った時宗。でも、一遍が求め、布教した趣旨は今の世の中でもっと再確認されていいものだと思う。阿弥陀如来への絶対的な帰依を説きつつ、自身の念仏もまた是として受け入れる。そんな世界をトレースした1冊です。ただ惜しむらくは一遍自身が明解な教義を残していないがゆえに、肝心の部分ですこぶる端折った書き方になっています。でも、捨て聖一遍の生き方は今の日本の精神世界で見直されてもいいと思います。そんな手掛かりの1冊です。
読了日:2月15日 著者:長島尚道,砂川博,岡本貞雄,長澤昌幸,高野修
増補 モスクが語るイスラム史: 建築と政治権力 (ちくま学芸文庫)増補 モスクが語るイスラム史: 建築と政治権力 (ちくま学芸文庫)感想
モスクの建築形態を元にイスラーム世界の歴史を探った1冊。元々はモハメッドの家を原点に始まった礼拝施設が増殖していく。過程には武力があり、王朝の変遷があり、支配地域の変化がある17世紀くらいを範囲に、西アジアから南欧州、北アフリカまで支配が移り変わるままに、宗教施設のモスクが変わっていく姿を追う。本来は墓の存在がないはずのこの宗教で墓が大きな存在になっていくのが興味深い。元々中公新書の1冊たったものに最後の1章を加えて再版したのが筆者の矜持。宗教上の相剋以上にこの近現代に起こったことを記したのが値打ち。
読了日:2月15日 著者:羽田正
親鸞の信仰と呪術: 病気治療と臨終行儀親鸞の信仰と呪術: 病気治療と臨終行儀感想
「浄土真宗とは何か」の底本。今の認識では高僧であった法然も親鸞も平安〜鎌倉期に生き、比叡山で修行し、往生を願う人であったという素朴な背景の設定を読み解く。病気の時には呪術を使って快癒を願い、臨終に臨んでは奇瑞の顕現に願う。本人は元より、門弟や家族もそう願う。子弟も天台、真言の寺に学んでいる人。本書はごく当たり前の当時の風景が、後の信者の偏向で歪められた姿を補正する。新書版と梗概は同じながら、専門書として骨格が明解。浄土教の教えの「揺れ」がむしろ自然であり、後に「聖人」として固定化する前の姿に力を感じる。
読了日:2月12日 著者:小山聡子
ことばの地理学: 方言はなぜそこにあるのかことばの地理学: 方言はなぜそこにあるのか感想
方言と謂えば「蝸牛考」。京を中心に同心円状に伝わるという柳田国男の周圏説だ。本書は視点を変えて区画説の立場で論が進む。例に否定形の語尾が「〜ない」か「〜ん」か。原因理由の接続助詞が「〜から」か「〜さかい」「〜きん」「〜よって」か。東西で分布が分かれると同時に、人の行き来で影響が拡散していることを分析する。そんな学問を「言語地理学」というそうだ。海陸の交通網、家族制度、人口密度、社会組織が東日本の同族的な番か西日本の地域単位の年齢階梯組織の衆か−−種々の要素を考えつつ、調査結果を記した地図を見るのは楽しい。
読了日:2月7日 著者:大西拓一郎
柳田国男と今和次郎 (平凡社新書)柳田国男と今和次郎 (平凡社新書)感想
筆者は今和次郎のことが書きたかったのだと思う。そこで「民俗学とは」を書くためには柳田国男が必要になり、紙幅を割いたことで焦点が合いにくくなってしまったか。日本の民俗学の系譜で、柳田の「弟子」の今和次郎の仕事を探るはずが、登場人物が多くてエピソード集みたいになってしまった感がある。多彩な人脈を書くことより、今和次郎の存在を今の時点で掘り下げて欲しかった気がする。人物群の中で黒岩忠篤(終戦時の農水大臣。映画「日本の一番長い日」では「昭和8年以来の凶作が見込まれ……」みたいな台詞を言う)の存在は興味深かったが。
読了日:2月6日 著者:畑中章宏
日本列島100万年史 大地に刻まれた壮大な物語 (ブルーバックス)日本列島100万年史 大地に刻まれた壮大な物語 (ブルーバックス)感想
この風景はどう出来上がった? という疑問に今の時点での知見で解説した1冊。日本列島は花崗岩質で密度の低いユーラシアプレートに玄武岩質で密度の高い太平洋、フィリピン海プレートが沈み込む現象が続いているのは周知だが、気候変動で海水面の上下が起き、浸蝕や堆積が繰り返されたという視点を繋げたところが興味深い。まさか濃尾平野と近江盆地、京都盆地に大阪平野が繋がった動きであったとか、御前崎、潮岬、室戸岬、足摺岬の生成が関連があったとか。機序は頗る力学的なのだけど、組み合わせた時の面白さ。門外漢も楽しめる1冊でした。
読了日:2月3日 著者:山崎晴雄,久保純子

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2017年02月01日

★2017年1月に読んだ本。

2017年1月の読書メーター
読んだ本の数:15冊
読んだページ数:4097ページ
ナイス数:584ナイス

都市と暴動の民衆史 東京・1905-1923年都市と暴動の民衆史 東京・1905-1923年感想
日露戦争の講和後に起きた日比谷焼き討ち事件、1918年の米騒動、普選運動の時の暴動、そして1923年の関東大震災後の朝鮮人虐殺。農村から都市に流入した人、生活水準の差から生まれた「疎外感、劣等感」の産物と読み解く。さらに性差の意識の影が差す。「飲む打つ買う」が「男らしさ」の証とされた時代。生活水準の上昇かなう見込みない、抜き差しならぬ状況に置かれて、自分よりも立場の弱い者への暴力という形で発露した事実を史資料から読み解く。空気は「大衆迎合」という形で続いた。さらにこの構造は今も再現していないか。考える。
読了日:1月30日 著者:藤野裕子
浄土真宗とは何か - 親鸞の教えとその系譜 (中公新書)浄土真宗とは何か - 親鸞の教えとその系譜 (中公新書)感想
親鸞というと絶対他力。だが自筆の筆跡を見るに実に神経質な人の印象。仏教の験力が信じられていた時代に生きた人であり、衆生済度のために三部経千遍読誦をしたことを思い返して曰く「まはさてあらん」と振り返る。何があっても往生という教えを説く一方で自力を頼む自分も居た訳で、その揺れが興味深い。寧ろその後裔が何を齎したのか、神祇不拝の原則とか、善鸞の存在とか。一神教に近い考え方とか。宗祖、聖人と仰がれる存在である以前に1人の人間として、あるいは宗教者として見直すという姿勢は今に生きる読者には納得がいくものだろう。
読了日:1月26日 著者:小山聡子
<軍>の中国史 (講談社現代新書)<軍>の中国史 (講談社現代新書)感想
本書は「中国は法治ではなく人治の歴史」という前提と「故に中国共産党軍は共産党(正確には毛沢東、今なら習近平)の私軍である」という結論に至るのが骨子。残念ながら論証になっていない。清末までの記述は文献の矧ぎ寄せ。岩波新書の「李鴻章・袁世凱・孫文」の記述に及ばず、軍事力の苛烈さは中公新書の「中国革命を駆け抜けたアウトローたち」の方が躍動感がある。軍閥の長の抗争を跡づけしているだけの感がある。筆者の熱意は買うが新書という寸法、「帯に短し」状態というか。もっと題材を絞って点綴した方がこの分量には見合ったと思う。
読了日:1月25日 著者:澁谷由里
欧州複合危機 - 苦悶するEU、揺れる世界 (中公新書)欧州複合危機 - 苦悶するEU、揺れる世界 (中公新書)感想
興味深かった2点。1)「正統性」。選挙を通じて民意を反映することで担保される概念が成立しえてないことがEUという枠組みの危うさを招く。軍事はNATOに、以外はEUにという流れの中で、独の強大化を抑えようとした仏。局面的には正しくても、戦略的に如何だったのか。選挙という概念は国民国家単位にしか機能しない現実の前に。2)「富の再分配」。富める国の負担を他の国に分配するという機能。円滑に進んでいるのだろうか。日本国内に当てはめても「都市対地方」という構図が顕在化している中、EUには建前論では済まない世界が残る。
読了日:1月23日 著者:遠藤乾
戦国大名 (1960年) (塙選書〈第9〉)戦国大名 (1960年) (塙選書〈第9〉)感想
本書は黒田基樹の同題(平凡社新書)に先行書の記載ありて手を伸ばす。1960年刊。筆者は1904年生。中世史畑を一筋に歩んだ。組版や文章の進め方に時代の差を感じるものの、検索が簡単でなかった時代によくぞここまで様々な史料を頭に入れて、丹念に抽出し、書き上げたと思う。前半は戦国大名諸家の総論。後半は生活や産業、交通全般に及ぶ。細かく出典とした史料の名を引きつつ。江戸時代の随筆や博物学の文化と西欧史学の融合を目指したような1冊。多岐に渉りながら今も役に立つ部分が残るのはすごい。史料編纂の余技というにはすごい。
読了日:1月21日 著者:奥野高広
天に遊ぶ (新潮文庫)天に遊ぶ (新潮文庫)感想
原稿用紙10枚、軛を自らに課しつつ、書かれた掌編はどこまでもいとおしい。私小説は好きではないが、吉村が描く世界はきれいに私小説のそれとは違う世界を描きだす。筆者の他の作品を読んでいれば、思い当たる節も多いエピソードをここまで別世界の出来事のように換骨奪胎してしまう世界に驚きすら覚える。だって原稿用紙10枚、書ける世界は限られる。でもこの切れ味の良さ、首が飛んでもそのまま笑顔になりそうな、切れ味の良さ。元々は週刊新潮の連載だったという。こういう小説が存在しうる時代の犀利さを思う。身近な小説にはない切れ味。
読了日:1月19日 著者:吉村昭
密着 最高裁のしごと――野暮で真摯な事件簿 (岩波新書)密着 最高裁のしごと――野暮で真摯な事件簿 (岩波新書)感想
正確には「最高裁・裁判部門のしごと」という書名になろうか。1、2審が事実関係の審査であり、最高裁は法律に照らして齟齬がないかを確認する組織であること、少数意見も公表されること等々。日頃身近に感じることが少ない組織だけに、筆者の筆致は丁寧で平易。司法記者愛を感じる。ただ一方には司法事務部門があり、人事局が広く下級裁判所を掌握している存在。本書では調査官の話がチラと出てくるが……。それと「霞ヶ関の奇岩城」の異名に違わず、「権力の館」(御厨貴)で各裁判官の事務室の独立性が極端に高いと紹介していたのを思い出す。
読了日:1月18日 著者:川名壮志
戦国大名 (1978年) (教育社歴史新書―日本史〈55〉)戦国大名 (1978年) (教育社歴史新書―日本史〈55〉)感想
本書は1978年刊。同名の黒田基樹の1冊(平凡社新書)で取り上げていたので手を伸ばした。今となっては考古学的な知見が広がったり、新史料が出てきたりと、研究が進歩していることが改めて感じるような内容。後北条家の成立や斎藤道三の出自、長篠の合戦の有様等々。ただそんな点を割り引いても、当時の研究水準で軍事、政治、行政、文化、商業などあらゆる分野について、糸口を付けていくような書きぶりには頭が下がる。戦国時代の史料はなかなかに残っていない。一部の例を敷衍する危うさはあるにせよ、新書の判型でよく纏まっている。好著。
読了日:1月15日 著者:小和田哲男
数学する身体数学する身体感想
中・高校の恩師に卒業した後、蒙を啓かれたことがある。「世の中、物理と数学だ」と。現象の解析を積み重ねる帰納的な方法と仮説を元に演繹的に考える方法と。ものの考え方の手段として数学は有効、と教えられた点だ。本書は数学とは、という問いかけの果てを考える1冊。一人に抽象化を推し進めたチューリングを挙げ、一人に数学が生まれる瞬間を考えた岡潔を描く。「数学は零から」と考えるか、「零までが大切」と見るか。筆者は「ない」世界から「ある」世界への変転に心惹かれるのだろう。その変化をどう生み出すのかを考えるのが数学なのか。
読了日:1月13日 著者:森田真生
クー・クラックス・クラン: 白人至上主義結社KKKの正体 (平凡社新書)クー・クラックス・クラン: 白人至上主義結社KKKの正体 (平凡社新書)感想
白い三角頭巾に松明、燃え盛る十字架−−KKKへの先入観を改める1冊。運動の時期により、1期は南北戦争当時の南部諸州での体制維持が主眼、2期目は増える新移民への排斥主義と表裏のWASPに代表される白人至上主義が、3期目は公民権運動への対立命題として。「文化的定義」のエスニック集団か、「身体的基準」の人種か。さらに人(集団)という存在を「構造主義」的に見るか「本質主義」的に見るか。空想の産物ともいえる共通の敵を想定するときに、後者に傾く傾向が顕著になった事例なのだろう。この動きは米国内に限るものではない、と。
読了日:1月12日 著者:浜本隆三
ニセチャイナ―中国傀儡政権 満洲・蒙疆・冀東・臨時・維新・南京 (20世紀中国政権総覧)ニセチャイナ―中国傀儡政権 満洲・蒙疆・冀東・臨時・維新・南京 (20世紀中国政権総覧)感想
表装は禍々しいゲーム攻略本のようだが中身は真っ当。満洲事変から内蒙古、華北、華中と日本軍が仕立てた傀儡政権(対日協力政権)の記伝。占領地の維持を目指して「自治政府」を作っては崩壊していく。日本側についた人物も日本軍の利害関係者、権力欲を持っていて一筋縄ではない。一方、財源が阿片と関税。紙幣も英ポンドとリンクする法幣と、日銀券、朝鮮銀行券とのリンク頼みの満州中央銀行券、中央儲備銀行券、中国聯合準備銀行券、蒙疆銀行券、華興商業銀行券+軍票では民政も安定する筈もなく、砂上の楼閣建設を繰り返した当時の愚が分かる。
読了日:1月10日 著者:広中一成
「大日本帝国」崩壊―東アジアの1945年 (中公新書)「大日本帝国」崩壊―東アジアの1945年 (中公新書)感想
1945年8月15日は日本では終戦記念日。だが朝鮮、台湾、中国本土、南方、樺太、千島は同じ時期に別の事態が進展した。不可侵条約を破ってソ連軍が南下した北方では後のシベリア抑留や居留民の放置が起こり、朝鮮では南北分割の基礎が固まった。台湾も本省人と外省人の対立は残った。日本は国として戦争終結がやっとで、民間人の保護と統治の引き継ぎすら満足にできなかった。政府の責任や大である。当時、大東亜省は「居留民はできうる限り定着の方針を執る」との指示しかなかったと言う。統治者の責任放棄に近く、戦後の禍根を残した日々だ。
読了日:1月4日 著者:加藤聖文
SMAPと平成 (朝日新書)SMAPと平成 (朝日新書)感想
筆者には「歌舞伎 家と血と藝」という秀逸な1冊がある。梨園を愛憎、欲望、虚実入り乱れて描いたその本の印象があり、期待を持ってSMAP本2冊目と選んだものの、正直のところ期待外れだった。平成という時代区分(が一般化するかどうか分からないけど)、今上天皇、歴代内閣、世上の出来事をSMAPというグループの動向と繋ぎ合わせることで時代の空気感を描こうという意図なのだけど、結構、牽強付会のような気もして、総体にまとまりに欠ける。話の重心はグループとして世に出て第一人者になっていくまでに重心がある。話が流れ過ぎる。
読了日:1月3日 著者:中川右介
日本はなぜ開戦に踏み切ったか―「両論併記」と「非決定」 (新潮選書)日本はなぜ開戦に踏み切ったか―「両論併記」と「非決定」 (新潮選書)感想
1941年の日米開戦に至る官僚(近衛文麿を除けば大臣も官僚の一種)の動向を跡付けした1冊。意思決定というより、筆者の言う「非(避)決定」と「両論併記」、自己矛盾の繰り返しの記録である。資源を目指して南方に進出しても輸送手段が不如意、工業生産の目算もなく、先方の意向すら牽強付会。この論法は満州事変、日中戦争を通じて現場専行を周囲が追認する構図と相似である。明治憲法下で天皇は無答責の存在で、建前論と御都合主義を制止する権能がどこにもないという制度上の欠陥はあるにせよ。今でもこの行動様式への危惧が拭い切れない。
読了日:1月2日 著者:森山優
軍艦と装甲―主力艦の戦いに見る装甲の本質とは (光人社NF文庫)軍艦と装甲―主力艦の戦いに見る装甲の本質とは (光人社NF文庫)感想
「攻めるも守るも鐵の」という存在の軍艦。砲弾の威力と防禦の装甲は矛と盾。本書は木造帆船の時代、船首の衝角で体当たりという戦法の頃から40サンチ砲を備えたビッグ7の登場とワシントン条約で海軍の休日に入るまでの試行と結果を淡々と綴っていく。装甲鈑の質的な改良がある一方、砲撃や水中攻撃の進化で耐えられても人的被害が防げなくなる。1dの砲弾が音速の2倍で命中する世界は戦艦を巨大化させ、建艦費の高額化を招き、時代の遺物化を進めることになる。理詰めの書きぶりで納得。なぜ日本がこの妄想から抜け出せなかったか。不思議だ。
読了日:1月1日 著者:新見志郎
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2017年01月01日

☆2016年12月に読んだ本。

2016年12月の読書メーター
読んだ本の数:20冊
読んだページ数:5587ページ
ナイス数:641ナイス

近代はやり唄集 (岩波文庫)近代はやり唄集 (岩波文庫)感想
不思議な本です。別に歌ったことがあるわけではないけど、どこか知っている。記憶の奥底にあるのかもしれません(といっても世代的な隔絶はあるのを承知、ですが)。要は口伝え、実演で広まっていった唄です。自由民権運動の場面で、映画、演歌師、寄席、宴席。部立てがなかなかに巧いので、ひとかたまりで摑むのにはいい1冊です。方言があり、歌唱力がなかった日本人が唄を、歌を歌うという力を身につけてきた歴史の一部を綴った1冊とも言えるのかもしれません。パイノパイノパイとか、春はうれしや、とか、ダンチョネ節とか。
読了日:12月31日 著者:
勝負の極意 (幻冬舎アウトロー文庫)勝負の極意 (幻冬舎アウトロー文庫)感想
初期の作品ゆえ、今のねっとりした書きぶりではないが、「蒼穹の昴」が世に送り出されるまでの世過ぎ見過ぎを綴った1冊。前半は特に生業の傍らで、作家になるという一念で書くことを続けてきた執念。努力は凡才を天才にするとはいえ、本当に大した物だと改めて思う。競馬の方は余り親しくないので佳く分からない。でも随筆を頼まれて、最初は自衛隊のことを書き、次に自身の来し方を書き、本篇を書く機会を待ったという。日々6時間の執筆を続けるとは。畳のあちこちに座り込んでいたことで出来た窪みができていたという逸話がこの方らしく思えた。
読了日:12月31日 著者:浅田次郎
横浜港の七不思議―象の鼻・大桟橋・新港埠頭 (有隣新書 (65))横浜港の七不思議―象の鼻・大桟橋・新港埠頭 (有隣新書 (65))感想
日本の都市としては横浜は特異な街だ。貿易港が寒村に出来たことで一気に変貌した。砂浜だったところに港を造るのだから大変。石詰みの岸壁がやっとだった時代。今の大桟橋は、米に支払った下関戦争の賠償金がこの頃、返還されることで財源を確保できた訳で、鉄製の桟橋ができたのは知らなかった。「我が日の本は島国よ」の横浜市歌も、東京音楽学校の斡旋宜しきを得ての誕生とか、この街の成立には多くの僥倖があったのが知れる。精いっぱいのやりくりと、生糸輸出港での外貨獲得と。如何にもふるさとに矜恃という筆者の書きぶりが気になるが。
読了日:12月31日 著者:田中祥夫
日米開戦と情報戦 (講談社現代新書)日米開戦と情報戦 (講談社現代新書)感想
昨今「インテリジェンス」という言葉が独歩している。理解力、知性といった意味が本旨だが、情報や諜報という意味に重きを置いている感がある。暗号化情報でも自分が読めていれば相手も読んでいると考えるのが冷静な考えだろう。正確に把握できている保証もない。本書は"1次情報"と内向きの体面に振り回され、陸海軍、外務省、米英側と各々が予断を持ち、真意を摑みかねた揚げ句の失敗の来歴である。巻末に幣原喜重郎や米英駐日大使が公開情報と経験、人脈で適切な判断をした例を挙げる。今でも本当の意味で求められるインテリジェンス、である。
読了日:12月30日 著者:森山優
通州事件 日中戦争泥沼化への道 (星海社新書)通州事件 日中戦争泥沼化への道 (星海社新書)感想
北京郊外の通州で、日本の傀儡政権・冀東防共自治政府の守備隊が、駐屯していた日本軍や民間人を殺害したのが「通州事件」の骨子。華北分離工作の中で、冀東政府と国民党側の冀察政務委員会の対立、中国共産党の工作等の指摘、冀東密貿易や阿片の移動を黙認する体制など、本書は時代背景を完結にまとめている。シベリア出兵に際しての「尼港事件」同様、民間人が巻き込まれたことで、日本軍の統制下で対外宣伝工作の材料となったとの推論も示される。結論が明示されている訳ではないが、当時醸成されていた「抗日」の空気を十二分に理解できる1冊。
読了日:12月29日 著者:広中一成
最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常感想
行ってみたいけど実現していないことの一つに「藝祭」がある。東京藝大の学園祭。毎年9月、上野の山。音楽系、美術系混成の1年生8チームが作る神輿の見事さは写真で知れる。真剣に遊ぶ見事さの象徴に思えた。そんなギモンに答えてくれる1冊。筆致はルポの常道で、丹念に学生に話を聞き、紡いだ書きぶり。取材はこの何倍も重ねているのだろう。この学校の素顔を等身大で写す。「ニッポンの文化芸術を背負うのは、お前らじゃあァ」と言い切れる学長。読み終わってなおカオス。でも本当の姿を知ろうと思うのは「渾沌に目鼻を空ける」ようなものか。
読了日:12月28日 著者:二宮敦人
戦国大名: 政策・統治・戦争 (平凡社新書)戦国大名: 政策・統治・戦争 (平凡社新書)感想
自力救済の時代にあって、地域の単位である村・郡に注目し、戦国大名との関係を解析した1冊。支配構造、徴税、流通、軍役と話を進める。常に近隣との紛争が起こる中で、村という単位が果たした機能を説き起こし、下からの目線の像を描くことになる。史料が多く残る後北条氏が中心。今も残る「村」起源はこの時代にある。貫高制から石高制への移行だったり、大名同士の戦の契機となるのは周縁部の領域争いであったり。織豊時代、いや徳川殿の前期まで続く母型が見えるのが明解。中世と近世の境は軍事費を社会投資に回せる社会への変革だったのかも。
読了日:12月26日 著者:黒田基樹
ノモンハン 1939――第二次世界大戦の知られざる始点ノモンハン 1939――第二次世界大戦の知られざる始点感想
WWUで二正面作戦を勝ち抜けたのは米だけである。外蒙古と満洲の国境(というか口伝の境界線)を巡って関東軍と赤軍が衝突したのがノモンハン事件。本書は拡張を続けるナチスと英仏、ソの均衡と野心収攬の結果が独ソ不可侵条約成立、西部戦線の一時的静穏であり、その裏の東部戦線ではノモンハン事件が起きたのではないか、と筆者は読み解く。スペイン内乱も絡んで、英仏が植民地支配する余力がなくなっていた時代状況を前段で説明、関東軍内の暴走は中段で、日ソ不可侵条約とソの動きは後段で展開。旧日本軍の夜郎自大ぶりには頭を抱えるばかり。
読了日:12月23日 著者:スチュアート・D・ゴールドマン
ゴルゴさんち 全1巻ゴルゴさんち 全1巻感想
昔、別冊ゴルゴ13に連載されていた掌編。ある時期から突然消えたように記憶していたので不思議に思っていたが、実は離婚していたんですね。ゴルゴ13の作者さいとうたかお氏の元夫人が描いたこの漫画。一家の日常を描くもので、どこか昭和の香りのする作品です。巻末に「当時の空気を懐かしみつつ大らかに楽しんでほしい」と後記をいれるほど。でも何か懐かしいような。「将棋の渡辺くん」に刺激されて思い出した本。2009年に単行本として刊行されているのは日本の漫画文化の懐の深さを感じるというか。夫婦に娘2人、そんな生活は今は昔?
読了日:12月21日 著者:セツコ山田
犯罪の大昭和史 戦前 (文春文庫 編 6-18)犯罪の大昭和史 戦前 (文春文庫 編 6-18)感想
本書は「犯罪の昭和史1・戦前」(作品社、1984年)の再編集、文庫化。旧版3冊本を読んでいるので再読になる。戦前の説教強盗や玉ノ井バラバラ事件、阿部定事件など巷間を騒がせた事例から、北原二等兵天皇直訴事件、九大生体解剖事件まで多岐に渉る。今となっては忘れかけた事件も多い。本書の面白いところは当事者が登場する例あり、当時の知識人が分析したものあり。一種のアンソロジーになっている点。週刊誌的な興味だけではない。今、読み返しても事案の骨格と裏面を窺うことができる仕立てになっているのは類書の及ばぬ点だ。好復刊。
読了日:12月21日 著者:
ジャニーズと日本 (講談社現代新書)ジャニーズと日本 (講談社現代新書)感想
騒動の中で改めて、と手にした1冊。戦中戦後を生き抜いたジャニー喜多川という人物が作り上げたこの世界。巷間言われる通り、闇市世代の体験と米西海岸で見たというショービジネスの感覚とが渾然一体となった世界は再現不可能だ。本書の焦点は前半の音楽的な系譜を辿った部分にある。自家薬籠中。後段になって、戦後史の系譜の話になると一寸如何か。確かにバブル後の「失われた10年」は一面的に見れば筆者の所説になるものの、本当は人口減少時代を迎えたところでの安定成長期に切り替えられる契機でもあった。筆者1983年生、まだ若書きか。
読了日:12月20日 著者:矢野利裕
将棋の渡辺くん(2) (ワイドKC 週刊少年マガジン)将棋の渡辺くん(2) (ワイドKC 週刊少年マガジン)感想
この漫画も2年に1冊くらいのペースで単行本が出ているらしい。間遠である。でも何か、プロ棋士という普通には想像しがたい生活ぶりを垣間見ることができて、おもしろい。大タイトル戦だと和服が多くて、順位戦だと背広、意外に大事なのが靴下などなど。中学生でプロ入りした渡辺明のどこか純粋無垢なところが、将棋という藝を支えている気がした。
読了日:12月17日 著者:
将棋の渡辺くん(1) (ワイドKC 週刊少年マガジン)将棋の渡辺くん(1) (ワイドKC 週刊少年マガジン)感想
キンドルで読了。かつて、ゴルゴ13の別冊に「ゴルゴさんち」(セツコ山田)を連想させる内容。棋士という方々はもちろん常識的な方々が多いとは聞くが、渡辺明氏は、なかなかに取捨選択の上手い生活をしているようだ。ぬいぐるみ好き、虫嫌い、考え抜く理論派……。テレビの画面でご尊顔を拝する程度ではあるけど、本当にこの人はすごいんだろうな、と思わせる何かが画面が伝わってくる。いい1冊です。
読了日:12月17日 著者:
1941 決意なき開戦: 現代日本の起源1941 決意なき開戦: 現代日本の起源感想
「ディマジオの奇跡」とか「山田風太郎の明治小説」を連想させる筆致。筆者の管見に入った資料を換骨奪胎して複数の視点、思惑の錯綜を1篇の物語に織り上げた。主役級は近衛文麿、松岡洋右、東条英機。授権法で突っ走った独、ファシスト党独裁をつくった伊とは違い、すべて法手続に基づいて日米開戦への道をひた走るのが怖ろしい。結局「十万の英霊、二十億の国帑」と同じ論理展開が進んでいく。本書は細部が命、長身の近衛、キャビアとウオッカで赤い松岡、生者より死者のメンツを重んじる能吏東条。確かにこの3人に焦点があっているのはいい。
読了日:12月15日 著者:堀田江理
一冊でつかむ日本中世史: 平安遷都から戦国乱世まで (平凡社新書)一冊でつかむ日本中世史: 平安遷都から戦国乱世まで (平凡社新書)感想
帯にある通り、「図版満載 一目瞭然」の部分に惹かれて読んだ。だが、内容は高校の教科書に毛が生えたかな、くらい。「1冊でつかむ」という書名の方に重点を見て選択か。物足りなさが残った。日本の中世という激動期(というか自力救済が徹底していた時代)を俯瞰するHow To本しては佳いのかもしれないけど、事実関係が最新の主流の意見とは異なるものがそのまま定説として掲載されている箇所が散見するし、重要な変化と思われる箇所が簡素な表現で止まっているし。手を伸ばすなら岩波新書の中世シリーズの方が可。模式図化は上手いが。
読了日:12月7日 著者:
修行と信仰――変わるからだ 変わるこころ (岩波現代全書)修行と信仰――変わるからだ 変わるこころ (岩波現代全書)感想
宗教者ルポ本。登場するのは密教、修験道、念仏、神道、カソリック等々。今の日本で「魅力がある」と筆者が考えた人々が登場する。修行の過程でトランス(変性意識状態)になった体験が語られる。最終章のカソリック・本田哲郎氏を除いては個人的には一寸肩透かしの感。というのは取材相手と自分の距離感、あるいは周囲の状況、筆者が基礎に置いている立ち位置がいま一つはっきりしないし、点綴していく手法が某かの結論を導き出せていないように思ったから。勿論、修行を否定しないし、入神、脱魂、恍惚……という境地があるのは重々分かるのだが。
読了日:12月6日 著者:藤田庄市
村上春樹はノーベル賞をとれるのか? (光文社新書)村上春樹はノーベル賞をとれるのか? (光文社新書)感想
往年の井上靖、当今の村上春樹。毎年、ノーベル文学賞候補として話題になる。本書は逆にノーベル文学賞とはどんな賞なのかを分析した1冊と言って佳い。1章は過去の日本作家、川端康成と大江健三郎のほかに、数多くの候補が浮かんでは消えしていたと跡づける。本書の眼目。三島由紀夫はこの栄誉を逃したことを二重に苦しんだのでは、との見立てだ。又、候補に挙がっていたという賀川豊彦や西脇順三郎が受賞していたら、というifを逆に考える。2章は過去の受賞者、非受賞者の分析(名の羅列が続く)、3章で世界文学としての村上春樹を記述する。
読了日:12月3日 著者:川村湊
電通と原発報道――巨大広告主と大手広告代理店によるメディア支配のしくみ電通と原発報道――巨大広告主と大手広告代理店によるメディア支配のしくみ感想
「海軍めしたき物語」(1979年、高橋孟)という本を思い出しました。戦艦霧島に乗務した主計兵の回顧談です。乗り組んでいても炊事場の周囲の出来事しか見えない−−。筆者は博報堂出身の元広告マンで、業界としての客観性を積み上げようとするのですが、視線が広告代理店寄りになっている気がします。利益率が実はどれほど高いか分からないものを商うのは不思議な気がします。電通が得意としたテレビ中心の枠をすべて制御する営業方法はWeb広告が伸びている中で業態自体が変わらざるを得ないし変わっている時期に来たのを改めて感じました。
読了日:12月3日 著者:本間龍
原発プロパガンダ (岩波新書)原発プロパガンダ (岩波新書)感想
プロパガンダは揉み手笑顔で、或時は世間話の様に近寄る。原発関連広告を回顧する1冊。新聞、テレビ、ラジオに雑誌に出稿し、広告主の意図とは反する内容になれば引き揚げる手法で、飴と鞭を繰り返してきたと説く。歯切れのいい書きっぷりで一気に読了。さてどうなのだろうか。今までの電通、博報堂を中心にきた日本の広告界の体制は。して、今やWebの時代。となると、Googleなどのサイトに左右されることになるが、どこまで信頼できるのか……。いずれにせよ、広告代理店はいる。情報は自分の頭と目で精査せよ、ということなのだが。
読了日:12月1日 著者:本間龍
喪失の戦後史喪失の戦後史感想
帰納的日本社会の分析。自身が生まれ育った蒲田での日常生活を土台に、日本社会がどう変わってきたのかを読み解く。筆者は家族制度を権威主義的か自由主義か、兄弟関係が平等か不平等かをXY軸にして考えると、日本は権威主義的不平等から自由主義的不平等に移行したと分析する。つまり家族の崩壊です。契機をエンゲル係数を指標に食べること=生きることという時代からの変化に見ます。結果が人口動態調査に出た日本では有史以来の減少傾向。筆者のいうように不可逆的である以上、静的平衡を探すのが一番だと思います。見事に絵解きされた心境。
読了日:12月1日 著者:

読書メーター
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posted by 曲月斎 at 01:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

☆2016年に読んだ本。

2016年の読書メーター
読んだ本の数:208冊
読んだページ数:55686ページ
ナイス数:6915ナイス

近代はやり唄集 (岩波文庫)近代はやり唄集 (岩波文庫)感想
不思議な本です。別に歌ったことがあるわけではないけど、どこか知っている。記憶の奥底にあるのかもしれません(といっても世代的な隔絶はあるのを承知、ですが)。要は口伝え、実演で広まっていった唄です。自由民権運動の場面で、映画、演歌師、寄席、宴席。部立てがなかなかに巧いので、ひとかたまりで摑むのにはいい1冊です。方言があり、歌唱力がなかった日本人が唄を、歌を歌うという力を身につけてきた歴史の一部を綴った1冊とも言えるのかもしれません。パイノパイノパイとか、春はうれしや、とか、ダンチョネ節とか。
読了日:12月31日 著者:
勝負の極意 (幻冬舎アウトロー文庫)勝負の極意 (幻冬舎アウトロー文庫)感想
初期の作品ゆえ、今のねっとりした書きぶりではないが、「蒼穹の昴」が世に送り出されるまでの世過ぎ見過ぎを綴った1冊。前半は特に生業の傍らで、作家になるという一念で書くことを続けてきた執念。努力は凡才を天才にするとはいえ、本当に大した物だと改めて思う。競馬の方は余り親しくないので佳く分からない。でも随筆を頼まれて、最初は自衛隊のことを書き、次に自身の来し方を書き、本篇を書く機会を待ったという。日々6時間の執筆を続けるとは。畳のあちこちに座り込んでいたことで出来た窪みができていたという逸話がこの方らしく思えた。
読了日:12月31日 著者:浅田次郎
横浜港の七不思議―象の鼻・大桟橋・新港埠頭 (有隣新書 (65))横浜港の七不思議―象の鼻・大桟橋・新港埠頭 (有隣新書 (65))感想
日本の都市としては横浜は特異な街だ。貿易港が寒村に出来たことで一気に変貌した。砂浜だったところに港を造るのだから大変。石詰みの岸壁がやっとだった時代。今の大桟橋は、米に支払った下関戦争の賠償金がこの頃、返還されることで財源を確保できた訳で、鉄製の桟橋ができたのは知らなかった。「我が日の本は島国よ」の横浜市歌も、東京音楽学校の斡旋宜しきを得ての誕生とか、この街の成立には多くの僥倖があったのが知れる。精いっぱいのやりくりと、生糸輸出港での外貨獲得と。如何にもふるさとに矜恃という筆者の書きぶりが気になるが。
読了日:12月31日 著者:田中祥夫
日米開戦と情報戦 (講談社現代新書)日米開戦と情報戦 (講談社現代新書)感想
昨今「インテリジェンス」という言葉が独歩している。理解力、知性といった意味が本旨だが、情報や諜報という意味に重きを置いている感がある。暗号化情報でも自分が読めていれば相手も読んでいると考えるのが冷静な考えだろう。正確に把握できている保証もない。本書は"1次情報"と内向きの体面に振り回され、陸海軍、外務省、米英側と各々が予断を持ち、真意を摑みかねた揚げ句の失敗の来歴である。巻末に幣原喜重郎や米英駐日大使が公開情報と経験、人脈で適切な判断をした例を挙げる。今でも本当の意味で求められるインテリジェンス、である。
読了日:12月30日 著者:森山優
通州事件 日中戦争泥沼化への道 (星海社新書)通州事件 日中戦争泥沼化への道 (星海社新書)感想
北京郊外の通州で、日本の傀儡政権・冀東防共自治政府の守備隊が、駐屯していた日本軍や民間人を殺害したのが「通州事件」の骨子。華北分離工作の中で、冀東政府と国民党側の冀察政務委員会の対立、中国共産党の工作等の指摘、冀東密貿易や阿片の移動を黙認する体制など、本書は時代背景を完結にまとめている。シベリア出兵に際しての「尼港事件」同様、民間人が巻き込まれたことで、日本軍の統制下で対外宣伝工作の材料となったとの推論も示される。結論が明示されている訳ではないが、当時醸成されていた「抗日」の空気を十二分に理解できる1冊。
読了日:12月29日 著者:広中一成
最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常感想
行ってみたいけど実現していないことの一つに「藝祭」がある。東京藝大の学園祭。毎年9月、上野の山。音楽系、美術系混成の1年生8チームが作る神輿の見事さは写真で知れる。真剣に遊ぶ見事さの象徴に思えた。そんなギモンに答えてくれる1冊。筆致はルポの常道で、丹念に学生に話を聞き、紡いだ書きぶり。取材はこの何倍も重ねているのだろう。この学校の素顔を等身大で写す。「ニッポンの文化芸術を背負うのは、お前らじゃあァ」と言い切れる学長。読み終わってなおカオス。でも本当の姿を知ろうと思うのは「渾沌に目鼻を空ける」ようなものか。
読了日:12月28日 著者:二宮敦人
戦国大名: 政策・統治・戦争 (平凡社新書)戦国大名: 政策・統治・戦争 (平凡社新書)感想
自力救済の時代にあって、地域の単位である村・郡に注目し、戦国大名との関係を解析した1冊。支配構造、徴税、流通、軍役と話を進める。常に近隣との紛争が起こる中で、村という単位が果たした機能を説き起こし、下からの目線の像を描くことになる。史料が多く残る後北条氏が中心。今も残る「村」起源はこの時代にある。貫高制から石高制への移行だったり、大名同士の戦の契機となるのは周縁部の領域争いであったり。織豊時代、いや徳川殿の前期まで続く母型が見えるのが明解。中世と近世の境は軍事費を社会投資に回せる社会への変革だったのかも。
読了日:12月26日 著者:黒田基樹
ノモンハン 1939――第二次世界大戦の知られざる始点ノモンハン 1939――第二次世界大戦の知られざる始点感想
WWUで二正面作戦を勝ち抜けたのは米だけである。外蒙古と満洲の国境(というか口伝の境界線)を巡って関東軍と赤軍が衝突したのがノモンハン事件。本書は拡張を続けるナチスと英仏、ソの均衡と野心収攬の結果が独ソ不可侵条約成立、西部戦線の一時的静穏であり、その裏の東部戦線ではノモンハン事件が起きたのではないか、と筆者は読み解く。スペイン内乱も絡んで、英仏が植民地支配する余力がなくなっていた時代状況を前段で説明、関東軍内の暴走は中段で、日ソ不可侵条約とソの動きは後段で展開。旧日本軍の夜郎自大ぶりには頭を抱えるばかり。
読了日:12月23日 著者:スチュアート・D・ゴールドマン
ゴルゴさんち 全1巻ゴルゴさんち 全1巻感想
昔、別冊ゴルゴ13に連載されていた掌編。ある時期から突然消えたように記憶していたので不思議に思っていたが、実は離婚していたんですね。ゴルゴ13の作者さいとうたかお氏の元夫人が描いたこの漫画。一家の日常を描くもので、どこか昭和の香りのする作品です。巻末に「当時の空気を懐かしみつつ大らかに楽しんでほしい」と後記をいれるほど。でも何か懐かしいような。「将棋の渡辺くん」に刺激されて思い出した本。2009年に単行本として刊行されているのは日本の漫画文化の懐の深さを感じるというか。夫婦に娘2人、そんな生活は今は昔?
読了日:12月21日 著者:セツコ山田
犯罪の大昭和史 戦前 (文春文庫 編 6-18)犯罪の大昭和史 戦前 (文春文庫 編 6-18)感想
本書は「犯罪の昭和史1・戦前」(作品社、1984年)の再編集、文庫化。旧版3冊本を読んでいるので再読になる。戦前の説教強盗や玉ノ井バラバラ事件、阿部定事件など巷間を騒がせた事例から、北原二等兵天皇直訴事件、九大生体解剖事件まで多岐に渉る。今となっては忘れかけた事件も多い。本書の面白いところは当事者が登場する例あり、当時の知識人が分析したものあり。一種のアンソロジーになっている点。週刊誌的な興味だけではない。今、読み返しても事案の骨格と裏面を窺うことができる仕立てになっているのは類書の及ばぬ点だ。好復刊。
読了日:12月21日 著者:
ジャニーズと日本 (講談社現代新書)ジャニーズと日本 (講談社現代新書)感想
騒動の中で改めて、と手にした1冊。戦中戦後を生き抜いたジャニー喜多川という人物が作り上げたこの世界。巷間言われる通り、闇市世代の体験と米西海岸で見たというショービジネスの感覚とが渾然一体となった世界は再現不可能だ。本書の焦点は前半の音楽的な系譜を辿った部分にある。自家薬籠中。後段になって、戦後史の系譜の話になると一寸如何か。確かにバブル後の「失われた10年」は一面的に見れば筆者の所説になるものの、本当は人口減少時代を迎えたところでの安定成長期に切り替えられる契機でもあった。筆者1983年生、まだ若書きか。
読了日:12月20日 著者:矢野利裕
将棋の渡辺くん(2) (ワイドKC 週刊少年マガジン)将棋の渡辺くん(2) (ワイドKC 週刊少年マガジン)感想
この漫画も2年に1冊くらいのペースで単行本が出ているらしい。間遠である。でも何か、プロ棋士という普通には想像しがたい生活ぶりを垣間見ることができて、おもしろい。大タイトル戦だと和服が多くて、順位戦だと背広、意外に大事なのが靴下などなど。中学生でプロ入りした渡辺明のどこか純粋無垢なところが、将棋という藝を支えている気がした。
読了日:12月17日 著者:
将棋の渡辺くん(1) (ワイドKC 週刊少年マガジン)将棋の渡辺くん(1) (ワイドKC 週刊少年マガジン)感想
キンドルで読了。かつて、ゴルゴ13の別冊に「ゴルゴさんち」(セツコ山田)を連想させる内容。棋士という方々はもちろん常識的な方々が多いとは聞くが、渡辺明氏は、なかなかに取捨選択の上手い生活をしているようだ。ぬいぐるみ好き、虫嫌い、考え抜く理論派……。テレビの画面でご尊顔を拝する程度ではあるけど、本当にこの人はすごいんだろうな、と思わせる何かが画面が伝わってくる。いい1冊です。
読了日:12月17日 著者:
1941 決意なき開戦: 現代日本の起源1941 決意なき開戦: 現代日本の起源感想
「ディマジオの奇跡」とか「山田風太郎の明治小説」を連想させる筆致。筆者の管見に入った資料を換骨奪胎して複数の視点、思惑の錯綜を1篇の物語に織り上げた。主役級は近衛文麿、松岡洋右、東条英機。授権法で突っ走った独、ファシスト党独裁をつくった伊とは違い、すべて法手続に基づいて日米開戦への道をひた走るのが怖ろしい。結局「十万の英霊、二十億の国帑」と同じ論理展開が進んでいく。本書は細部が命、長身の近衛、キャビアとウオッカで赤い松岡、生者より死者のメンツを重んじる能吏東条。確かにこの3人に焦点があっているのはいい。
読了日:12月15日 著者:堀田江理
一冊でつかむ日本中世史: 平安遷都から戦国乱世まで (平凡社新書)一冊でつかむ日本中世史: 平安遷都から戦国乱世まで (平凡社新書)感想
帯にある通り、「図版満載 一目瞭然」の部分に惹かれて読んだ。だが、内容は高校の教科書に毛が生えたかな、くらい。「1冊でつかむ」という書名の方に重点を見て選択か。物足りなさが残った。日本の中世という激動期(というか自力救済が徹底していた時代)を俯瞰するHow To本しては佳いのかもしれないけど、事実関係が最新の主流の意見とは異なるものがそのまま定説として掲載されている箇所が散見するし、重要な変化と思われる箇所が簡素な表現で止まっているし。手を伸ばすなら岩波新書の中世シリーズの方が可。模式図化は上手いが。
読了日:12月7日 著者:
修行と信仰――変わるからだ 変わるこころ (岩波現代全書)修行と信仰――変わるからだ 変わるこころ (岩波現代全書)感想
宗教者ルポ本。登場するのは密教、修験道、念仏、神道、カソリック等々。今の日本で「魅力がある」と筆者が考えた人々が登場する。修行の過程でトランス(変性意識状態)になった体験が語られる。最終章のカソリック・本田哲郎氏を除いては個人的には一寸肩透かしの感。というのは取材相手と自分の距離感、あるいは周囲の状況、筆者が基礎に置いている立ち位置がいま一つはっきりしないし、点綴していく手法が某かの結論を導き出せていないように思ったから。勿論、修行を否定しないし、入神、脱魂、恍惚……という境地があるのは重々分かるのだが。
読了日:12月6日 著者:藤田庄市
村上春樹はノーベル賞をとれるのか? (光文社新書)村上春樹はノーベル賞をとれるのか? (光文社新書)感想
往年の井上靖、当今の村上春樹。毎年、ノーベル文学賞候補として話題になる。本書は逆にノーベル文学賞とはどんな賞なのかを分析した1冊と言って佳い。1章は過去の日本作家、川端康成と大江健三郎のほかに、数多くの候補が浮かんでは消えしていたと跡づける。本書の眼目。三島由紀夫はこの栄誉を逃したことを二重に苦しんだのでは、との見立てだ。又、候補に挙がっていたという賀川豊彦や西脇順三郎が受賞していたら、というifを逆に考える。2章は過去の受賞者、非受賞者の分析(名の羅列が続く)、3章で世界文学としての村上春樹を記述する。
読了日:12月3日 著者:川村湊
電通と原発報道――巨大広告主と大手広告代理店によるメディア支配のしくみ電通と原発報道――巨大広告主と大手広告代理店によるメディア支配のしくみ感想
「海軍めしたき物語」(1979年、高橋孟)という本を思い出しました。戦艦霧島に乗務した主計兵の回顧談です。乗り組んでいても炊事場の周囲の出来事しか見えない−−。筆者は博報堂出身の元広告マンで、業界としての客観性を積み上げようとするのですが、視線が広告代理店寄りになっている気がします。利益率が実はどれほど高いか分からないものを商うのは不思議な気がします。電通が得意としたテレビ中心の枠をすべて制御する営業方法はWeb広告が伸びている中で業態自体が変わらざるを得ないし変わっている時期に来たのを改めて感じました。
読了日:12月3日 著者:本間龍
原発プロパガンダ (岩波新書)原発プロパガンダ (岩波新書)感想
プロパガンダは揉み手笑顔で、或時は世間話の様に近寄る。原発関連広告を回顧する1冊。新聞、テレビ、ラジオに雑誌に出稿し、広告主の意図とは反する内容になれば引き揚げる手法で、飴と鞭を繰り返してきたと説く。歯切れのいい書きっぷりで一気に読了。さてどうなのだろうか。今までの電通、博報堂を中心にきた日本の広告界の体制は。して、今やWebの時代。となると、Googleなどのサイトに左右されることになるが、どこまで信頼できるのか……。いずれにせよ、広告代理店はいる。情報は自分の頭と目で精査せよ、ということなのだが。
読了日:12月1日 著者:本間龍
喪失の戦後史喪失の戦後史感想
帰納的日本社会の分析。自身が生まれ育った蒲田での日常生活を土台に、日本社会がどう変わってきたのかを読み解く。筆者は家族制度を権威主義的か自由主義か、兄弟関係が平等か不平等かをXY軸にして考えると、日本は権威主義的不平等から自由主義的不平等に移行したと分析する。つまり家族の崩壊です。契機をエンゲル係数を指標に食べること=生きることという時代からの変化に見ます。結果が人口動態調査に出た日本では有史以来の減少傾向。筆者のいうように不可逆的である以上、静的平衡を探すのが一番だと思います。見事に絵解きされた心境。
読了日:12月1日 著者:
SNS時代の写真ルールとマナー (朝日新書)SNS時代の写真ルールとマナー (朝日新書)感想
銀塩カメラからデジカメへ。メディアが変わり、愛好家は増えた。さらに今は携帯端末、Webの時代。写真や動画を撮るのは簡単になった。でもマナーは逆に問い直されている。撮影した人間にある著作権と、被写体の側の肖像権、プライバシーの保護など。日常的に写真を撮っていて、アマチュアカメラマンの傍若無人ぶりに愕然とする一方で、自身の撮影でも改めて法的な側面、公正性の確保の大事さを考える内容。冒頭から8章まではQ&A形式ながら、要点は末尾の2章。手短に読むならここを先に。ぜひ写真教室でもこの本、教材にして欲しい。
読了日:11月30日 著者:
たのしいプロパガンダ (イースト新書Q)たのしいプロパガンダ (イースト新書Q)感想
「プロパガンダ」というと声高なものというイメージが先に立つ。北朝鮮のアナウンサーのように。でも本当に怖いのは耳元で囁くような話だ。手もみしながら笑顔で近付いてくる者だ。戦前の日本では宝塚歌劇が、浪曲が、琵琶が。あらゆる娯楽に紛れ込ませてあった訳で、旧ソ連、ナチス、中国、IS、そして聖林を擁する米国。かつてのオウムもそう。実は今の日本でも百田尚樹の「永遠の0」であったり、荒巻義雄の仮想戦記「紺碧の艦隊」であったり。いつかそういう価値観が身近になっていく部分はないか。筆者はその危惧を指摘する。さも、と思う。
読了日:11月27日 著者:辻田真佐憲
中東鉄道経営史 -ロシアと「満洲」 1896-1935-中東鉄道経営史 -ロシアと「満洲」 1896-1935-感想
筆者の著作の脊梁となった1冊。帝政ロシアが露仏銀行を元に敷設した中東鉄道(満州里〜ハルビン〜綏芬河、ハルビン〜大連)は植民地化会社であった。ただ物資の消費先の開発というより、大豆などの穀物を露側に輸出する道になったこと、日本、清(後に中華民国)との勢力争いの中で、投資額に対して利が生まれない形だったことを浩瀚な資料から分析する。他国に鉄道を通して利権を生もうというのは如何にも帝国主義的な手法だが、無理筋であることを示す。ただ日露の交渉でここでも相手は一枚上手、武力の背景なしに進んだことがない歴史が見える。
読了日:11月24日 著者:麻田雅文
元老―近代日本の真の指導者たち (中公新書)元老―近代日本の真の指導者たち (中公新書)感想
英国型立憲君主制を目指し、天皇機関説を奉じながら、安定した実務のために生まれた元老制度。議会や官僚、藩閥が補完できない部分を調整していく。大久保利通〜伊藤博文〜山県有朋〜西園寺公望と流れを追い掛けた1冊。少人数で清貧だったことが当初は「黒幕会議」と呼ばれた仕掛けを「元老」という名に変えていったのは興味深い。ただ昭和史でも出てくる天皇への「内奏」、宮内省や宮中の支配という点。元老の匙加減が一歩間違うと軍部が振るった帷幄奏上権となる歴史もある。時代と共に、単なる安全弁としての機能に限定されていく気がする。
読了日:11月21日 著者:伊藤之雄
巨大地震の科学と防災 (朝日選書)巨大地震の科学と防災 (朝日選書)感想
著者の人柄+座談を編集構成した2人の力量=好著、の1冊ですね。地震の波形の解析を重ねることで、地震の姿を明らかにすることを自身の仕事にした科学者の最新地震学です。「分かっていることと分からないこと」を明確にし、何のための研究かを示す。「地震職人」を自称する筆者の姿勢に好感が持てます。加えて学術的な内容も平易。マグニチュードって何、地震波、地震の予測は、といった話が続きます。しかも筆者の考えてきた順に話が展開するので読みやすい。末尾の「あとがきにかえて」まで本当に読ませる1冊になっています。お勧めの1冊。
読了日:11月19日 著者:金森博雄(著),瀬川茂子/林能成(構成)
断片的なものの社会学断片的なものの社会学感想
聞き取り調査の手法を元に沖縄や在日を手がかりに今を描くのが生業の筆者。その聞き取りの合間に、理屈の付けようがなく、付ける気もない断片的な話が残る。それを整序して取り合わせた1冊。「私たちは生まれつきだれも孤独だ」という筆者、自分の場所から出ていく人に惹かれ、帰る人に惹かれ。独りでいることが好きだけど接触することは好まない。二律背反ながら、よく分かる感覚ではある。筆者は言う。「どこかに移動しなくても出口を見付けることができる。外に向かって開いている窓がある。私の場合は本だった」と。オチがないのがオチの1冊。
読了日:11月16日 著者:岸政彦
人口と日本経済 - 長寿、イノベーション、経済成長 (中公新書)人口と日本経済 - 長寿、イノベーション、経済成長 (中公新書)感想
富の源は人口だった時代から、技術革新がもたらしたものは今日の富が富を生む時代である。となれば人間が不要になる。となると人口が減少する。確かに人口が減少すること自体は悪ではない。個々人の単位を見れば所得が向上するかに見えるからだ。筆者は高度成長期は個人が貯蓄し、企業が投資をする構図だったが、今は企業が内部留保をする時代になったと見立てる。となれば、富が富を生む時代に、内部留保は咎め立てできない。加えて人口が減少することによって、人間の営みが変容せざるを得ない。人口の偏在は確実に地域を変えているのだから。
読了日:11月12日 著者:吉川洋
読書と日本人 (岩波新書)読書と日本人 (岩波新書)感想
こうやって本を読んでいる。何故だろう。筆者は日本での本と読み手の関係を分析する。筆致は随筆風。写本から版本、活字本、電子書籍と本の形態が変わる。黙読か音読か、識字率と読書の習慣の定着、照明の変化、書斎(個室)の成立、図書館の存在、用紙の需給等々、種々の断面で分析する。結句、読書も大量生産大量消費の20世紀に変貌したことを読み解く。本の内容の硬軟、年代による本への感覚の変遷の指摘も興味深い。個人的には「多読で博識な人(ex丸谷才一)」を手本にして、どこかで憧れて育ったことが今も影を落としているのかも……。
読了日:11月10日 著者:津野海太郎
桂太郎 - 外に帝国主義、内に立憲主義 (中公新書)桂太郎 - 外に帝国主義、内に立憲主義 (中公新書)感想
大正政変と第1次護憲運動の中の登場人物としてだけの認識は改めなくてはなるまい。長州藩上士の出、陸軍内で山県有朋の下、長州閥の一員として出世。1901年に1次内閣で総理に就任すると日英同盟の締結、日露戦争の指導とで約5年半、国政を切り盛りし、2次内閣では日露協約、日韓併合。で、根底に緊縮財政主義があったのは意外。伊藤博文、山県ら元老第1世代を「あしらう」術を披露したのはこの人であった。「外に帝国主義、内に立憲主義」とは徳富蘇峰の評。後者はとまれ、大正期の政治への繋ぎ役として欠かせぬ人物であるのは間違いない。
読了日:11月9日 著者:千葉功
寺社勢力―もう一つの中世社会 (岩波新書 黄版 117)寺社勢力―もう一つの中世社会 (岩波新書 黄版 117)感想
筆者は日本中世史で画期的とされた権門体制論の提唱者。公家と武家という二項対立から脱し、寺社という宗教勢力を権門の一角としてみることで社会体制を見直した。本書は宗教権力について平安期に遡る勃興期から事実上の終焉を迎える織豊時代まで通観した1冊。目配りが行き届いていて、抑えた筆致で書き進む。顕密体制のありよう、今となっては意識しにくい兼学が当たり前だった時代の姿、中で起こった浄土教の動きと抑えていく。ただ民衆に近い部分(周縁部なのかもしれないが)の動きがもう少し欲しいところ。中世を考える上で押さえたい1冊。
読了日:11月7日 著者:黒田俊雄
江戸名所図屏風を読む (角川選書)江戸名所図屏風を読む (角川選書)感想
出光美術館所蔵で出自由来が不明なこの屏風。筆の謎解きシリーズの1点の俎上に上がった。注目したのは江戸湊の繁華。徳川殿の水軍を管掌した向井将監の一門に目をつける。猿若町の賑わいが描かれていることからこの絵の注文主として一門の傍流を歩んだ五郎左右衛門正俊なる人物を挙げるに至る。絵画は作者の創意ではなく注文主の裁量で描かれる時代だったことを思い出す。ただ、本シリーズの豊国祭屏風2本、舟木本洛中洛外図屏風、神護寺の三像(頼朝、重盛など)の分析に比べて、一般読者の興味をつなぎきれるかな。研究とはそういうものだけど。
読了日:11月5日 著者:黒田日出男
戦争の社会学 はじめての軍事・戦争入門 (光文社新書)戦争の社会学 はじめての軍事・戦争入門 (光文社新書)感想
本書の大半が原爆の出現以前の事象に割かれている。歴史を綴ろうという意識のゆえか。然し最早牧歌的な戦闘は起こりえない(という建前に)のであるから無駄だ。本当に紙幅を割くべきなのはナポレオンでもクラウゼビッツでもマハンでもない。国対国ではなく国と非対称的な戦闘行為である。原爆の出現以降、対する相手はゲリラでしかない。「参った」がない暴力行為になる。人類は確かに戦闘行為と共に歩んできた。だが19世紀までの戦闘行為と20世紀に入ってからのものとは峻別されなければならない。その区別を見極める視点、示唆がかけた1冊。
読了日:11月3日 著者:橋爪大三郎
神々の明治維新―神仏分離と廃仏毀釈 (岩波新書 黄版 103)神々の明治維新―神仏分離と廃仏毀釈 (岩波新書 黄版 103)感想
日本会議の一件にも繋がる、単純化した国家観、宗教観の淵源は実はこの神仏分離、廃仏毀釈にある気がする。平田国学や水戸学の面々が力づくで進めようとした奇矯な形の神道の横行は、日本中の村々に続いてきた信仰、社会を歪めた。爾来約150年。度会、荒木田の両家が支えてきた伊勢信仰を始め、修験道系の山岳信仰や本書には出てこないが時衆の存在などを抹殺した。神職は國學院、皇學館の2機関に今も管理されている。一方、仏教側も寺領上知の前に、独自の資金力で踏ん張れたのは本願寺系のみ。今に続く歪んだ伝統の第1歩というべきか。
読了日:11月3日 著者:安丸良夫
弘法大師空海と出会う (岩波新書)弘法大師空海と出会う (岩波新書)感想
筆者は四国霊場28番の住職。新書1冊のサイズで、空海の生涯、遺跡、大師の姿と唐から招来した美術、著作と網羅することを目指した1冊。空海の実像に近い部分を提示する試みだ。ただ、初学を相手に網羅しようとすると、駆け足になる。読者の需要は、2章の遺跡の部分を生かした1冊にした方が良かったかも。最近読んだ手法では高村薫の「空海」が説く鎮護国家の宗教家、日本総菩提所の祖霊信仰の象徴、そして大師個人への信仰の三点倒立が気になる。。四国遍路する人はたぶん、札所よりも札所を繋ぐ路次、小径で大師と出会うのではないだろうか。
読了日:11月2日 著者:川崎一洋
兵隊たちの陸軍史 (新潮文庫)兵隊たちの陸軍史 (新潮文庫)感想
筆者の訃報に接して再読。吉川弘文館で「地域の中の軍隊」というシリーズ本9冊が昨年までに出ているけど、この1冊は筆者自身が当事者、1兵卒の視点で見て、聞いたことを書いているのが強み。新兵の教育から慰安所の話まで、俸給、上下関係や考え方まで筆は及ぶ。巻末の解説で保阪正康が「軍隊経験を持たない人にとっての必読書」といい、初年兵教育の冊子「内務の躾」から「国民が国家の要求に服従すること、とりもなほさず、国民自身の精神生活に満足を與ふる」と言いつつ、「人間の扱いを綴ることで国家の欺瞞を示している」との評が重い。
読了日:11月1日 著者:伊藤桂一
住友銀行秘史住友銀行秘史感想
1991年のイトマン事件をメーンバンクの側から描いた1冊。その多くには住友銀行内部の権力闘争がある。筆者は行内で大蔵省担当(MOF担)を務めた人物。MOF担といえばノーパンしゃぶしゃぶ程度しか連想できない頭には、荷が勝った1冊だった。登場してくる人物に誰ひとりとしてカタルシスがない(ま、必要ないのだけど)。内部告発者としての仮面を脱いだという1点に意味のある1冊だから。とまれ、大変な業界ではあるな、と。この後、山一証券の破綻が97年、拓銀の破綻、大蔵省接待汚職事件が98年。封じ込まれた物は大きかったのか。
読了日:11月1日 著者:國重惇史
鉄道ミステリーの系譜 (交通新聞社新書)鉄道ミステリーの系譜 (交通新聞社新書)感想
鉄道ミステリーの系譜を書くとなると、全部を書けばネタバレになる。だから以て廻った書きぶりになってしまう。筆者が情熱を傾ければ傾けるほどに、読み手は隔靴掻痒になるという自己撞着。正直に言えば、鮎川哲也なりの編んだ鉄道ミステリーのアンソロジーを読んだ方が良かったかもしれない。それと「変革探偵小説入門」(谷口基、岩波書店)が説くような、小説では書けない世界を探偵小説で構築してみせるという側面もこの分野の小説にはある気がした。現に当時の風俗を映す古典となっているのだから。本書はキンドルで読了。
読了日:11月1日 著者:原口隆行
応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)感想
筆者の視点は「応仁の乱」を室町殿6代義教が謀殺された「嘉吉の変」と10代義材(義稙)が廃された「明応の政変」の間の変化の事象として捉える点にある。定点観測点を大和の興福寺に据え、2人の別当の日記を軸に、畿内の出来事を整理することで本書は成立している。従来は諸大名や室町殿の動きの傍証に使われてきた史料を土台にする試みは興味深い。ただ、日記とはいえ、登場人物が多く、空間の移動が激しい。この時代を描く手法として、新鮮だが、新書という体裁では複雑ではないか。1篇の叙述の中で、主語が錯綜するのが取っ付きにくかった。
読了日:10月29日 著者:呉座勇一
きのう何食べた?(12) (モーニング KC)きのう何食べた?(12) (モーニング KC)感想
珍しく再読。自分が好まないサツマイモとカボチャが登場していたことが熟読を妨げていたことがちょと判明。本巻はちょと2人の関係が割合、円滑に進んでいることが、薬味不足かと思わせる要因なのかも。ただ、「へうげもの」もそうだけど、面白いと入れ込んだ作家の描線が目に慣れてくると自分の中に別の反応が起きているのも事実な気がする。何が原因なのだろう? ただ本書のもう一つのテーマ、老いという点では、アクシデントが減っていくものなのかもしれない。
読了日:10月26日 著者:よしながふみ
通貨の日本史 - 無文銀銭、富本銭から電子マネーまで (中公新書)通貨の日本史 - 無文銀銭、富本銭から電子マネーまで (中公新書)感想
副題にある無文銀銭から当今の電子マネーまで。本邦の通貨を主眼に置いた通史。面白い。というのは「1円は1円」という今の感覚(計数貨幣で法定貨幣)という概念が定着するには長い時間がかかったからだ。物々交換の経験を挟んで、金・銀・銅の産出量と市況による変動、対外貿易を管理した江戸時代ですら、貿易決済通貨としての銀があり、不足する少額貨幣の代わりとしての紙幣(藩札)があり、改鋳される度に品位による区別が起きる。勿論、財政経済政策としての操作がある。金銀銭の3貨体制といっても単純ではない。確かに「悪銭苦闘」である。
読了日:10月26日 著者:高木久史
本当に偉いのか あまのじゃく偉人伝 (新潮新書)本当に偉いのか あまのじゃく偉人伝 (新潮新書)感想
帯の惹句はとまれ、この人は偉いのだろうかという懐疑は誰にでもある。個人的には坂本龍馬のごときはその最たるもので、田中光顕が居なければ存在すらしなかった人物になっていたろう。裸の王様と一緒で世間が金襴玉褸であると言っている以上、何となく同調しておかなくてはいけないという気分になるもの。その筆法で歴史上の人物から近接する人物まで、俎上に上げては切りまくる。出自や人間関係等々、博引旁証、手練手管を使っての文章は軽快。博覧強記此処に有りという感じ。一種の快感は覚えつつ。所謂雑文の1冊、後に何が残るか振り返りつつ。
読了日:10月24日 著者:小谷野敦
きのう何食べた?(12) (モーニング KC)きのう何食べた?(12) (モーニング KC)感想
正直にいうと、ワクワク感が薄れていました。この漫画の面白さというか、魅力は、白黒のペン画ながら、匂い立つようなおいしさ(美味しそうというか)が魅力だったのですが。何か理屈が先に立っているような気がして。12巻を待たされた感が導くものなのか、何が原因なのか分析しきれないのですが。とまれ、スタイリッシュな表紙に比べて、自分の中では得心のいく展開ではなかったです。以上。
読了日:10月23日 著者:よしながふみ
憲法の無意識 (岩波新書)憲法の無意識 (岩波新書)感想
幣原の意思だった日本国憲法9条(戦争の放棄)を成立させたGHQの主意は1条(天皇)を成立させるためにあったことを読み解く。日本人にとって太平の世の記憶「pax Tokugawa(徳川の平和)」が蘇り、WWUの鮮烈な記憶と結びついて、9条の改正の意思を持たなくなったのではないか、と読み解く。碩学が先学の考察を読み解く構造。話が次々と展開して楽しい。フロイトから中江兆民、カントにヘーゲル、マルクスまで登場して、筆者の読み解きを追う形。講演録だけに口調が柔らかく、読みやすい1冊。昔の記憶は確かに根強く影響する。
読了日:10月22日 著者:柄谷行人
銀の世界史 (ちくま新書)銀の世界史 (ちくま新書)感想
通史を書くのは難しい。各々の分野の専門家の研究を横串に刺していくからで、粗さはやむを得ないのかもしれないが。本書のテーマは銀。冒頭に提示される2004年の東大世界史の問題「銀が果たした経済の国際化について」の説明が展開されていく。視点はどうしても英、蘭に傾きがちで、銀が決済通貨として世界中を一つに結んでいった様を描くことに力点がある以上、何処か「どうするどうする」とでも合いの手を入れたくなるような筆致。焦点を押さえることは大学受験的な知識プラスアルファならよいのだろうが。個人的には満足に欠ける内容だった。
読了日:10月21日 著者:祝田秀全
アメリカ政治の壁――利益と理念の狭間で (岩波新書)アメリカ政治の壁――利益と理念の狭間で (岩波新書)感想
要旨は「利益の民主制」と「理念の民主制」の相剋。題名にある「壁」は両者を隔てるものの意。大きな政府か小さな政府かの選択をx軸、軍事介入か不介入かをy軸に採って絵解きしていく。4章の相関図を手引きにすると理解しやすい。民主党か共和党か、リベラルか保守というような二項対立ではなく、2大政党制下の有権者の合従連衡は多元方程式の解法並みに展開する。本書はルポの体裁に近く、手がかりの概念図を元に整理しながら読んだ方がいいかも。TV番組のフリップを連想させる図の出来がいいのでもっと挿入してくれた方が有り難いが……。
読了日:10月19日 著者:渡辺将人
ヒトラーに抵抗した人々 - 反ナチ市民の勇気とは何か (中公新書)ヒトラーに抵抗した人々 - 反ナチ市民の勇気とは何か (中公新書)感想
「公益のために民衆共同体に一体化し、総統国家の下、国民同胞となる」。仕事とパンが配られる社会。本書には印象深い数字がいくつか引用されている。終戦時のナチ党員850万人超。1951年の輿論調査ながら「今世紀ドイツが一番うまくいった時期は」との問いに、@第三帝国期44%A帝政期43%Bワイマル期7%。こんな大衆の中で良心に基づく反ナチ行動を執った人がいたこと、無私の行動に頭が下がる。それ以上に戦後の独、EUの体制まで考えた「クライザウ・サークル」の人々がいたことが驚きであり、日本と彼我の差を考え込んだ。重い。
読了日:10月16日 著者:對馬達雄
帰郷帰郷感想
子供のころ、まだあった景色である。白衣姿の傷痍軍人がアコーディオン片手に奏でる傍ら、義手の男が正座をして頭を下げる。日常のように繁華街で見かけていた裏側にある(あっただろう)思いを綴った短編集。サラッと読めば、それなりの音だけど、引っ掛かって読むと別の顔を見せる。短編だけに寸景を切り取った形のものが多い。でも前後の余白をどう想像するのか、その余白の美を感じさせる1冊。普通の人が普通ではなくなる戦争という仕掛けへの穏やかな抗議でもある。浅田自身の年齢と経験が書かせる1冊であると思うし、余人では書けない。
読了日:10月14日 著者:浅田次郎
謎のアジア納豆: そして帰ってきた〈日本納豆〉謎のアジア納豆: そして帰ってきた〈日本納豆〉感想
お見事。現場に勝る知見なし。語学の天才とは本当にうらやましい。納豆菌による大豆醗酵食品を訪ねての旅はタイ、ミャンマーなどの東南アジアに、中国南部に、ネパール、インドにと続く。豆を醗酵させた食品は実は「出汁」であり、魚醤や醤油、味噌(醤)などの調味料と競合する味であった発見。日本に戻れば広く分布した「納豆汁」が東北地方にのみ残る景色もあり。筆者のルポを読むと、思わず納豆が作ってみたくなるし、各地の料理を試してみたくなる。ワクワク感と驚愕と知の喜びと。高野ワールドはこの1冊でも爆発している。今年の5指に入る。
読了日:10月13日 著者:高野秀行
「国史」の誕生 ミカドの国の歴史学 (講談社学術文庫)「国史」の誕生 ミカドの国の歴史学 (講談社学術文庫)感想
「ミカドの国の歴史学」改題。歴史といえば国学、儒学、そして水戸学が果たした役割が大きい。一つの到達点として「大日本史」を挙げられよう。だが明治になって西欧の歴史学研究手法が導入される。文明としてか、文化としてか、両者の相剋を描く1冊。中で転換点となったのが久米邦武筆禍事件(「神道は祭天の古俗」)や喜田貞吉が巻き込まれた南北朝正閏論争だ。この2件は社会科学者としての学問の見識か、国民教育の問題かを争うものであったけど、筆者は日本独自の「中世」を描くことで、後の皇国史観に繫がるような土壌が生まれたと見立てる。
読了日:10月7日 著者:関幸彦
戦国と宗教 (岩波新書)戦国と宗教 (岩波新書)感想
起請文に見えるように、人倫五常を守り,神仏への帰依を誓う者に加護がある一方、他人の信仰には関与しないという姿勢=「天道」という絶対的な是非を想定する。中で信長と本願寺の関係については、実は宗祖親鸞の教団内での争いに、応仁の乱以降の室町殿の内紛が絡んだのではないかという読み解きや、九州のキリシタン大名の分析も新鮮。寺社というと俗世の権力ではないように今日的には先入観を持つが、中世では領地を持つ守護大名と同様の領主であることが伺える。ただ庶民に葬送儀礼が定着したこの時期、書中で時衆への言及が少ないのは残念。
読了日:10月7日 著者:神田千里
ひさしぶりの海苔弁 (文春文庫)ひさしぶりの海苔弁 (文春文庫)感想
最近、海苔弁にはまっているのでつい、買ってしまったが。最後のオチまで行かない感じの文が続くのが……。
読了日:10月6日 著者:平松洋子,安西水丸
日本陸軍と中国: 「支那通」にみる夢と蹉跌 (ちくま学芸文庫 ト 16-1)日本陸軍と中国: 「支那通」にみる夢と蹉跌 (ちくま学芸文庫 ト 16-1)感想
「支那通」−−旧陸軍で中国大陸の情報収集を旨とした専門家を謂う。 軍備兵站を調べ、時に政治工作もする。「日本は東亜の盟主。西欧列強から独立するために指導するのが役目」みたいな自惚れも。「アラビアのロレンス」と似た立場ながら、大局観がないセクト主義の一介の武弁だった。情報は偏向し、傲慢の誹りを免れぬ振る舞い。WWI以後の民族自決の流れを認められないままに。結果が張作霖の謀殺から始まる15年戦争である。中国大陸での抜き差しできない戦いをした揚げ句の日米開戦。少数のエリートが日本の進路を誤らせた歴史は重い。
読了日:10月6日 著者:戸部良一
日本経済のトポス 文化史的考察日本経済のトポス 文化史的考察感想
この本が刊行されたのは1980年代。筆者は著名なマルクス経済学者。まだ「マル経」が現役だった時代の本。丸谷才一がこの本を随筆で褒めていて、読んだ記憶がある。何度もの引っ越しでも、本棚の中でしかるべき位置に置いてきた。読んだ当座、班田収受法から説き起こすなんて、新鮮なのだろうと思ったからだ。あれから約40年、読み直してみたけど、あの当時の驚きはなかった。日本史への科学的研究の進歩のゆえか。権門体制論が生まれ、農民は搾取される存在という訳でもないことが明らかになった今、時代の使命はもう終えた1冊なのかも。
読了日:10月5日 著者:日高普
興亡の世界史 大日本・満州帝国の遺産 (講談社学術文庫)興亡の世界史 大日本・満州帝国の遺産 (講談社学術文庫)感想
岸信介の顕密構造を読み解く。内に国家社会主義、統制経済への志向や反米感情を抱きつつ、米国の覇権の下に自分の権力の扶植と拡大に努める姿は、一介の農業国だった韓国で高度成長を成し遂げた朴正煕と相似形なのかもしれない。2人の指向を培ったのが満州国ではなかったかと読み解く。時に満州事変後の大陸に、或いは5・16軍事クーデターの中にと話が展開していく。顕密構造である以上、主権者である国民の前に本心の部分を明かし切れないのは仕方ないところ。とまれ、祖父の遺訓を顕彰するに足らんと思っている坊ちゃんとは違う次元の話だが。
読了日:10月4日 著者:姜尚中,玄武岩
日本震災史: 復旧から復興への歩み (ちくま新書)日本震災史: 復旧から復興への歩み (ちくま新書)感想
「復旧から復興への歩み」という副題の方が本書の内容に相応しい。震災そのものの被害への言及より、その後についての方に重点がある。特に史料の多くなる江戸期以降、大名普請(被災地の住民への雇用対策の意味も持つ)から、請負普請へと変遷する様を、また火山噴火に関連して幕府が執った施策についての言及。明治期以降は備荒儲蓄金法、罹災救助基本法といった法整備に基づく体制へと引き継がれる。関東大震災に際し、当時の内務官僚がインフラの再建と併行して住民が帰還するか否かへの配慮があったのは興味深い。復興はやはり民間主導である。
読了日:9月30日 著者:北原糸子
ユダヤとアメリカ - 揺れ動くイスラエル・ロビー (中公新書)ユダヤとアメリカ - 揺れ動くイスラエル・ロビー (中公新書)感想
米国の人口比で2%のユダヤ系は政治的に影響力を持ってきた。政治意識の高さ、献金、ロビイスト活動が活発……。米国の「戦略的資産」とまで言われたイスラエルという存在だが、本土と米国在住民との間には意識の乖離が生まれていることをきれいにトレースした1冊。「中東唯一の民主国家」という決まり文句が今も惹き付けるのか、旧約聖書の「約束の地」であるからか(ここには福音派の信者の動きもあるという)。イスラエル本土での右傾化と米国内でのホロコーストを身近に見聞きした世代の高齢化が意識のギャップを生むという見立ては興味深い。
読了日:9月29日 著者:立山良司
無縁所の中世 (ちくま新書)無縁所の中世 (ちくま新書)感想
前著に続き、公、武家ではなく、寺院を中心とした中世文化を想定する。生活に困窮した庶民が流動化して都会に流入する世、移民が発生する世。移民のいない大集落は大きなムラだが、旧住民と移民がいる風景は都市だ。移民が発生するところ、無縁所あり(ま、京都に対する叡山)。「人類普遍の無縁を考察する場合、参考になるのはアメリカ史」なんていう分析は首肯できるのだけど。あらゆる局面の史料を繋ぎ併せての立論ぶりは豪快だが、展開について行き切れなかった。史料を読み込んでいない上、時空座標が組み立てられないのに過ぎないのだろうが。
読了日:9月27日 著者:伊藤正敏
寺社勢力の中世―無縁・有縁・移民 (ちくま新書)寺社勢力の中世―無縁・有縁・移民 (ちくま新書)感想
日本の中世で一番の権力者は寺社(特に比叡山)であるという命題提起の1冊。特に延暦寺末の祇園社が京の経済面で特権を与える一方で寺銭を稼いでいた、警察司法権に対しての検断不入権を誇り、鴨川以東は勿論、洛中にも勢力を伸ばしていた様を描く。祇園社の祭りが洛中の町衆に支えられているのは確かに証左だ。前著「日本の中世寺院」でも叡山の他、南都、高野山、根来寺などを挙げていて、本書でも挙例の事象があちこちに展開し、年代も交錯するので追い掛けるのが大変ではあるが。要は公権力の行使(徴税も含め)が普くことが近世化なのだ、と。
読了日:9月23日 著者:伊藤正敏
シベリア出兵 - 近代日本の忘れられた七年戦争 (中公新書)シベリア出兵 - 近代日本の忘れられた七年戦争 (中公新書)感想
地図を逆さに見た時のような驚きがある。シベリア出兵が後の15年戦争の姿と相似であること、後の戦争を指導する立場にいた人物が関わっているのに、当時の経験が生かせていないこと。鮮満の権益を守り、あわよくば更に北辺を狙う妄想が膨らんだ結果としての出兵。終結への構想がない戦いが広がる。現地と参謀本部、政府の思惑の食い違いが広がるまま、糊塗弥縫が続く。一般には点(尼港事件等)の知識だが、実は19世紀から続く歴史の一齣、面であるのが分かる。兎も角、兵戈を政府が収められたのは元老(山県有朋)という錨の有無でしかない。
読了日:9月20日 著者:麻田雅文
情報参謀 (講談社現代新書)情報参謀 (講談社現代新書)感想
自民党を支えた広告代理店とその周囲に存在するマーケティング会社の話。その中心にいたという筆者がこういう話を書いているということは、既に次の段階に進んでいるということだ。「政策本位の政治」という建前は別にして、「政治家」が「政治屋」になっているということを端なくも提示した形ではある。中身はWeb上やテレビを監視して、対応策を立てていく。果敢な対策を立てられるだけの資金力(これも政党交付金の一部である)。内容自体はさもありなむ、の水準ながら、「情報は発信しないと存在しないのに等しい」ということ。ちょっと引く。
読了日:9月19日 著者:小口日出彦
鳥獣害――動物たちと、どう向きあうか (岩波新書)鳥獣害――動物たちと、どう向きあうか (岩波新書)感想
本書は街の人の視点である。鳥獣害の話は地方に住んでいれば日常生活の一部である。鹿、猪、猿は日常的にいる。(夜、道を走っていて気付くのが遅れて車にぶつかってこられたら、被害は免れないところ。こういう場合は警察は事故証明を出してくれるのだろうか、保険は、と不安になる)。本書は鳥獣害のルポ部分と、日本人が生み出してきた殺生観の考察の2部構成。個人的には思惟的な部分よりも、実例をきちんと紹介してくれた方がよかった。人口減少、過疎化、耕作放棄と続く連環や荒蕪の地になっても自分の土地と手放せない精神性への言及とか。
読了日:9月19日 著者:祖田修
昭和史講義2: 専門研究者が見る戦争への道 (ちくま新書)昭和史講義2: 専門研究者が見る戦争への道 (ちくま新書)感想
全20講の中で9、10講の「日中戦争における和平工作」、12講の「天皇指名制陸相の登場」は読ませる内容だった。以外は厳しいかも。学会機関誌の「研究往来」みたいな欄を思い出す。新書という体裁で一般に向けて本を書くなら、1)先行論文の引用と論文名の提示ではなく、筆者が知見を咀嚼して記述するべきで、文章がぎこちない篇が多いのが気になる。2)参考文献を挙げる欄を作れるのなら、注釈(特に人名)を入れた方がいい。3)活字版にはあるのかもしれないけど、索引が必要な本ではないか−−てな難点を挙げておく。捷径はないな、と。
読了日:9月19日 著者:
孫文――近代化の岐路 (岩波新書)孫文――近代化の岐路 (岩波新書)感想
華夷の別を立てる伝統的な世界観から、孫文は終生脱し切れなかったのではないか。生涯59年のうち、通算19年に及ぶ亡命生活。筆者は二面神ヤヌスに例えているけど、むしろ「キメラ」のような存在を想う。江南から興った明の朱元璋、太平天国の洪秀全のような姿を念頭に描きつつ、目的のためには手段を選ばない手法。白くても黒くても鼠を捕る猫はいい猫、という論理に繫がる。実力はないので「収」(中央集権)を目指しつつ、「散」(地方分権)を呑まざるを得ない。国共双方の国父という偶像になる前の姿を考える。日本史なら足利義昭……。
読了日:9月18日 著者:深町英夫
近代中国史 (ちくま新書)近代中国史 (ちくま新書)感想
快著。中国の宋〜明〜清と続く中で「眠れる獅子」は欧米流とは全く違う統治、財政構造を築いてきた。欧米が予算主義なら、中国は現額主義。地域貨幣の銭と地域間流通貨幣の銀の二本建て。加えて貿易代金として流入する銀に依存する経済。資本が育たず、関税を抵当にした外資頼りの経済。アヘンすら通貨として経済に組み込んできた歴史はすごい。穀物の増産から人口爆発、そして辺境・海外への流出、流氓化と、清末から国民政府、共産党政府にまで続く民間の感覚をトレースしている。この本を読んでから枝葉の本に読みすすめば、理解は数倍違うはず。
読了日:9月16日 著者:岡本隆司
昭和史講義: 最新研究で見る戦争への道 (ちくま新書 1136)昭和史講義: 最新研究で見る戦争への道 (ちくま新書 1136)感想
編者自身が「得難い本」と記したことに失笑を禁じ得ない。「最先端の専門研究者によってまとめられた」と称する15講で構成されているものの、1)時系列の中で事件や出来事ごとでまとめられているので、前後の講との間で、文脈、扱いに齟齬が出る。2)中央官庁や軍関係、中国の中枢にいた人物の記録に依存している部分が多く、記述内容が政治外交軍事に偏重していて、従来の書物での知見の域を出ない。3)最近で言えば加藤陽子の「戦争まで」や、山中恒の「アジア・太平洋戦史」の方が視野が広い−−等々。研究者はやはり自惚はいかんな、と。
読了日:9月14日 著者:
中国の論理 - 歴史から解き明かす (中公新書)中国の論理 - 歴史から解き明かす (中公新書)感想
史記以来の正史は理非の判断を下した上で記録されてきたという感覚が新鮮。「経・史・子・集」という4部の別に基づき、歴史は儒教的解釈第一、今の考証学や史実第一主義の産物ではない。裏付けになっているのは縦方向の士庶の別、横方向の華夷の差。過去の史実に付会するなど、想定外の思考回路。儒教に深く親しんでいるが故に攘夷思想が生まれ、和魂漢才ならぬ「中体西用」の考えが起こる。清朝後は「三国史」で、毛沢東は「士庶の別」を排して新時代を開いたとしつつも、今は長年の中華思想に回帰してはいないか。嫌いでも面白い、の評が的確。
読了日:9月12日 著者:岡本隆司
天下と天朝の中国史 (岩波新書)天下と天朝の中国史 (岩波新書)感想
血統に裏付けされた皇帝と天の指名に基づく天子。両概念が重なった存在こそが東アジアの支配者たりえる。と同時に漢民族を中心とした中華と周囲の異民族を含めた天下を併せてこそ真の天朝を担うものになる。北方の異民族と南方に逃げた漢族の争覇が王朝の交代になるのだが、易姓革命が起きても信仰、思想的な根幹として儒教が横たわる。中華の国の統治する大天下と日本、朝鮮、越などの小天下が構成する世界。逆に言えば双方とも中華の存在を常に意識せざるをえない世界観を示す。冊封体制や現中国の海洋進出もこの論理の延長線上という読み解き。
読了日:9月10日 著者:檀上寛
昭和芸人 七人の最期 (文春文庫)昭和芸人 七人の最期 (文春文庫)感想
残酷な本である。喜劇の世界に生きる限り、旬がある。旬が過ぎれば老い、寂寞が立ちこめる。そういう風を感じさせなかったのは巻末の伊東四朗の聞き語りに出てくる三木のり平ぐらいかもしれない。筆者が俎上に取り上げた7人(生で記憶があるのはそのうち4人だが)はこんな晩年を過ごしていたのか、と思う。ダメなのは分かっていてもなお残る自負と執着。昭和の喜劇役者の雰囲気、戦前戦後の空気、興行界の出来事など、登場人物の姿を通して描き出してみせる。読み物ではあるけど研究論文風。なかなかに畳の上での大往生というのは難しい。好著。
読了日:9月5日 著者:笹山敬輔
地域再生の失敗学 (光文社新書)地域再生の失敗学 (光文社新書)感想
至極真っ当。でも、こんな建前論では追いつかない気がする。広島での原爆投下後、被爆直後の広島赤十字病院で、放射線障害が何かも分からぬまま、手探りで治療に当たった医師らが、当時の数少ない検査方法で、血球数を顕微鏡下で数えたという話を思い出しています。白血球が一定数を割り込むと回復が困難になる、という治療経験が生まれたという思い出の記を思い出した。。確か「爆心」(朝日新聞広島支局)で読んだと思うのだけど。白血球 も人口も同じなんじゃないか、と。漠然とした気分になる。地方創生とは所得の増加がゴールなのは確かだが。
読了日:9月4日 著者:飯田泰之,木下斉,川崎一泰,入山章栄,林直樹,熊谷俊人
日本の中世寺院―忘れられた自由都市 (歴史文化ライブラリー)日本の中世寺院―忘れられた自由都市 (歴史文化ライブラリー)感想
中世の寺院(山門、寺門、興福寺、東大寺、高野山、根来寺)が実は宗教施設ではなく、軍産学複合体の都市だった、という解釈は豪快。学侶、行人、聖という3階層のうち、教学を専らにする学侶は約1割、残りは荘園の管理、商工業の統括をする行人が占め、聖は遊行しているので、掌握不可能という姿を高野山の記録から見立てる。顕密体制とはいえ、教義上最高位の大日如来への信仰は影が薄く、実態は大師信仰、太子信仰を中心に「呪術的」な信仰と死者の供養が中心であったとする言説は今の実態を見ても納得がいく。権門体制論を補完する内容に納得。
読了日:9月3日 著者:伊藤正敏
中世京都と祇園祭: 疫神と都市の生活 (読みなおす日本史)中世京都と祇園祭: 疫神と都市の生活 (読みなおす日本史)感想
同題の中公新書の改版。人口が集積すれば当然、疫病の流行が起こる訳で、京都でどうして長年に亘って続けられてきたかがよく分かる。祭神の牛頭天王が抑も最初は疫病を齎す神であったはずが、蘇民将来と出会って疫病除けを約束した神に変身してしまうのがすごい。最初は官や寺社が主催した祭りで、種々の役銭の収入や名誉が祭りの執行者に付随していたのが、室町期から変化。下京に住む町衆主体の祭りに変わっていく。住民自治の精神の発露と見るか、権門の弱体化とみるか。今に続く祭りが全国で都市の生活に不可欠な神祭として享受された不思議も。
読了日:9月1日 著者:脇田晴子
EU騒乱: テロと右傾化の次に来るもの (新潮選書)EU騒乱: テロと右傾化の次に来るもの (新潮選書)感想
極東の島国では見えないことがある。欧州での異変だ。2度の戦争を基に生まれたEU。国境の撤廃、通貨の統合と、民主主義の先進地域として実験を続けてきたはずが、軋みが目立つ。ギリシャの財政破綻、中近東などからの難民の流入、治安の悪化など。英国の国民投票も記憶に新しい。そんな疑問を解く糸口を示している。フランスに在住し、軸足を置き、地面に近い視線から社会の見た姿の点綴だ。「日常生活で吸った空気、肌で感じたことを大切にしながら、事実から出発して個別事例を考察する」という筆者の姿勢は研究論文にはないルポの強みがある。
読了日:8月30日 著者:広岡裕児
ベストセラーなんかこわくないベストセラーなんかこわくない感想
ベストセラーというとつい背を向ける。旬日を俟たずブックオフでごく安価で流通しているさまを見る。古書店の値付けというのは本の値打ちを正直に示すもので、本書で取り上げられている本の多くはその類いになる。ただ、ノストラダムスの大予言を愛読したという筆者の手にかかると、通り一遍では済まないのも数冊出てくるからおもしろい。香合わせ、歌合わせよろしく、2冊の本を見立てで合わせるのが特に妙手。「なんとなくクリスタル」と「太陽の季節」、「砂の器」と「人間の証明」等々。ただ「どくとるマンボウ航海記」に読み解く手練、中々。
読了日:8月28日 著者:入江敦彦
三浦一族の中世 (歴史文化ライブラリー)三浦一族の中世 (歴史文化ライブラリー)感想
「三浦介、上総介両人に綸旨を与えつつ」と殺生石の謡に出てくる「三浦介」。東国の武士団の代表格の一家である。とはいえ、常に順風満帆であった訳ではなく、和田合戦で和田氏が滅んだり、宝治合戦で本家筋が滅亡したり。ただ「三浦」という家名は分流に伝えられていく訳で、武士団の中ではブランドであったということだろう。本書は別書にあるような足利氏の通史と違って物足りないものが残る。鎌倉殿の時代の盛衰に重きをおかず、中央との関係がある前史や、家名を変えながら全国各地に散らばって行った様を丁寧に追う方が重点にしてほしかった。
読了日:8月27日 著者:高橋秀樹
都と京都と京感想
一篇一篇は面白かったけど、通読した後に何も残らない。例えれば「長生殿・越の雪・山川」みたいな。舌の上に甘みだけが残る感じ。いけずと意地悪、ダサいとモッサイなど、意思を明示することで東京は人付き合いをし、京都は相手の腹を探りながら、意思を悟らせることに重点を置くなど、二分法で論理を進めていくのだけど、確かにそういう世界もおますなぁ、という印象が拭えない。掌編の随筆は「箸休め」であり、一冊の本に仕立てるにはこの論法を使うのが都合がいいのだろうけど、並べると諄くなる。鷲田清一の「京都の平熱」を読後だから余計か。
読了日:8月25日 著者:酒井順子
ふしぎな部落問題 (ちくま新書)ふしぎな部落問題 (ちくま新書)感想
同和の今、これからを紹介したいと考える筆者のルポ。中でも4章の箕面市北芝での取り組みの紹介が精彩を放つ。1969年の同対法施行以後、生活や環境の改善が進んだと同時に、住民の間に行政への「待ち」と「もらい」の姿勢が生まれたと分析。2002年の同法廃止を見据えての努力を続けてきた人々の話が綴られる。内部の人間が「閉じていたから同質のコミュニティで安定している」状態から「部落解放は周辺とのつながりの中で達成される」という次元にどう移行するのか。この話は昨今の「都会対地方」の構図に似てはいないかとふと思うのだが。
読了日:8月24日 著者:角岡伸彦
あたらしい憲法草案のはなしあたらしい憲法草案のはなし感想
憲法の主語が「国民」から「国」に変わるとどういう解釈が成り立ちうるのか、「公共の福祉」が「公益及び公の秩序」に換言されると何が変わるのか。「緊急事態条項」をもうけるということの例外性も。「国民が司法、立法、行政の三権を縛るのが憲法」という立場から「国が国民を縛るための憲法」という立場へ。とまれ、こんな皮肉が、皮肉ときちんと受け止めていられる世の中であって欲しいと思う。
読了日:8月23日 著者:自民党の憲法改正草案を爆発的にひろめる有志連合
戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗感想
ジュンク書店での中高生向け講演会が下敷きの1冊。リットン報告書(国際連盟への対応)、日独伊三国同盟、日米交渉の3点に焦点を合わせて読み解く。俗に日本はブロック経済圏から弾き出されて満州進出を図ったように喧伝されてきたが、実は経済統計から虚偽であることが示される。リットン報告書も蒋介石側に有利な内容とされているが、実は国際協調で日本の主張も認めていたことを読み解く。三国同盟では政府部内の不一致と目的の不明確さが尾を曳くさまも。石橋湛山の評論ではないが、冷静な目で史料を読み解き判断する姿勢の涵養を痛感する。
読了日:8月22日 著者:加藤陽子
戦艦武蔵 - 忘れられた巨艦の航跡 (中公新書)戦艦武蔵 - 忘れられた巨艦の航跡 (中公新書)感想
基準排水量6万4千トンもの戦艦は必要だから造ったはずが、途中で無用の長物と化していたのを承知の上で運用した訳で、筆者の指摘通り、現実と幻想の間に浮かんでいる。本書の真骨頂は「戦艦武蔵の享受史」ともいうべき部分。技術立国日本の先駆とされたり、主計官にとっては愚昧な査定への戒めだったり、天皇制の見方だったり。歴史の常として、「体験した」と称する話者によって「事実」が異なる以上、個人的には吉村昭が「戦艦武蔵」で採った手法が蓋然性が高いように思う。で、吉村が「なぜ」を自身に問うために書いたという読みは正鵠だろう。
読了日:8月22日 著者:一ノ瀬俊也
大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争 (幻冬舎新書)大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争 (幻冬舎新書)感想
途中で引用されている戦争末期の昭和天皇の述懐が印象的。「(米空母の)サラトガが沈んだのは今度で確か4回目だったと思うが」と。組織防衛のために情報軽視が起き、常態化する。追従する新聞社、ラジオがいる。陸軍記者倶楽部、黒潮会(海軍)の存在は記者クラブ制度の1典型でしかない。広報担当が資料を配布し、説明する。今は「ペーパー」であり「レク」と呼んでいるだけである。間違いを探す、矛盾を突くことは、当時の発表資料を詳細に詰めればできたことだし、当時の国民の方が冷静である。原発事故や安保関連法案の報道を見れば自明だが。
読了日:8月20日 著者:辻田真佐憲
高校野球を100倍楽しむ ブラバン甲子園大研究高校野球を100倍楽しむ ブラバン甲子園大研究感想
丹念なルポです。甲子園球場のアルプス席では吹奏楽団の演奏が付き物。風景と言ってもいい。元々は東京六大学の応援に淵源を持つのだろうと想像しつつも、京都二中(現鳥羽)が鼻祖との話や、千葉の市習志野と拓大紅陵との因縁や、PL学園、智弁和歌山などなどの強豪校が刻んできた歴史をひもといてくれる。これば文化だなぁと実感。「美爆音」なる言葉を初めて知った。それと「屋外の演奏で音を太くしてストレートでキレのある音にする」っていう効用、「野球応援を通じて人間付き合いの場になっている」という言葉も感慨深い。さて明日は生音。
読了日:8月15日 著者:梅津有希子
イランの野望 浮上する「シーア派大国」 (集英社新書)イランの野望 浮上する「シーア派大国」 (集英社新書)感想
ペルシア文明を伝える国イラン。日本に伝えられるニュースでは反米デモが盛んで、イスラム革命以降の偏向が印象付けられる。当のイラン自身もそういう姿勢を見せる(見せたい?)ものの、性根は穏健な国であるというのが特派員だった筆者の視線。自然、第5章の「等身大のイラン社会」の章が出色。アラブの2大国サウジとどちらが穏健なのか……。ただ閉塞感から海外への頭脳流出が続き、宗教的な規範に囚われることが今後も続けられるのか。確かにグローバル化に一線を画すのは間違いだとは思えないのだが。兎も角書題の「野望」の2文字が不適切。
読了日:8月15日 著者:鵜塚健
ペリー来航 - 日本・琉球をゆるがした412日間 (中公新書)ペリー来航 - 日本・琉球をゆるがした412日間 (中公新書)感想
連想したのは中世末期に南蛮船の来航、後期倭寇の存在が近世への序章となったこと。相似形で米艦隊の来航が近世から近代への第一歩となったこと。第2に、異文化との遭遇はこういう対応になるのだろうなぁ、と。というのは実家は横浜。米軍進駐前夜に若い女性は兎も角縁故を頼って疎開、でも闇市での横流し物資の取引で町が潤う、民の竈の煙も立つという経験。そして今、こういう目に見える形での遭遇ではなく、無意識的な侵攻を受けているのかも、とも。ま、こういうことをWeb上に書き込んでいることも一翼なんですが。ワンテーマ新書上々。
読了日:8月13日 著者:西川武臣
京都の平熱――哲学者の都市案内 (講談社学術文庫)京都の平熱――哲学者の都市案内 (講談社学術文庫)感想
本圀寺近くで育った筆者の京都考。京都市バス206番東周りの道行きは道具立てだ。自身の経験と知見を元にした都市論である。千年の伝統の都という装いの奥では人が生活している訳で、閉鎖的との指摘は「お上」の交代が激しい経験をした町が、実は人と人との結び付きを重んじてきただけであり、糸口さえあれば異端も受け入れる度量(しなやかさ)が営みを支えてきたと説く。入れ子で柔構造の町も、仕事が変質し、人口が減少すると共に、今は変化しているとの指摘。アブラムシが一番繁殖するのはヒゲが接する距離くらいの環境との引用が示唆に富む。
読了日:8月12日 著者:鷲田清一
分裂から天下統一へ〈シリーズ日本中世史 4〉 (岩波新書)分裂から天下統一へ〈シリーズ日本中世史 4〉 (岩波新書)感想
新書という体裁らしい1冊。応仁の乱から徳川殿の御代まで、東アジアの中の日本という位置づけを見せながら説いていく。日明間の貿易、東シナ海に出没した南蛮船、アイヌとの窓口となった蠣崎氏(松前氏)、朝鮮との間の宗氏、琉球王国の存在と窓口になった島津氏。国内の歴史の歯車を動かす「蝶の羽ばたき」が見えてくる面白さ。秀吉の朝鮮出兵を「16世紀末の大東亜戦争」と見立てた手際の鮮やかさはこの本の中でも出色。壬辰・丁酉の倭乱があれば丁卯・丙子の胡乱もある訳で、松前、対馬、鹿児島と長崎という「四つの口」論にもつながる。明解。
読了日:8月11日 著者:村井章介
坊ちゃんの時代 第5部 凛冽たり近代なお生彩あり明治人 不機嫌亭漱石 アクションコミックス坊ちゃんの時代 第5部 凛冽たり近代なお生彩あり明治人 不機嫌亭漱石 アクションコミックス感想
修善寺大患の漱石。大吐血の後、約30分間意識を失っていたと言われる間に夢を見た。夢の中にはここまで登場してきた多くの人物が出現し、物語を完結にと導く。ただ。夢、という体裁を取ることは多くの構成を無役にする。黒沢明の「夢」が茫洋とした一作になったように、筆者は蓋然性が高いと信じることを融通無碍に繋げられるから。夏目という存在で明治という時代に通底したもの(今も続いているのかも知れないが)を謎解きするカギに仕立てるのは分かるのだが。絵はいいのだけど、本の方がここまで4巻とは違い過ぎる気がする。個人的には。
読了日:8月9日 著者:関川夏央,谷口ジロー
『坊っちゃん』の時代 第4部 明治流星雨―凛冽たり近代なお生彩あり明治人 (第4部)『坊っちゃん』の時代 第4部 明治流星雨―凛冽たり近代なお生彩あり明治人 (第4部)感想
本巻の主題は「大逆事件」。芽生えたばかりの社会主義運動を徹底弾圧するための冤罪事件であります。幸徳秋水を始め、当事者が大逆罪という意識がないままに話がでっち上げられていく。筆者は1945年の敗戦に向けて、日本の近代史の中でエポックにとらえているのですが。個人的には日比谷焼き討ち事件だと思っているから、ちょっと見解の相違かな。ただ、読んでみるに社会主義運動が本当に生硬いままで動き出してしまった不幸は、今でも続いていることかもしれないし、リベラルな動きが未だに円滑にならぬのもここの辺に一因があるのかも。
読了日:8月9日 著者:関川夏央,谷口ジロー
『坊っちゃん』の時代(第3部) 【啄木日録】 かの蒼空に ―凛烈たり近代なお生彩あり明治人  アクションコミックス『坊っちゃん』の時代(第3部) 【啄木日録】 かの蒼空に ―凛烈たり近代なお生彩あり明治人 アクションコミックス感想
啄木と漱石、滝山町の社屋で出会うことがあったかも。啄木石川一に関しては、特に作品、その生活ぶりに共感をすることはないし、感懐を持つことはできないのだけど。この時代の俸給人の一人として、この作品の中で飛び回ることは意味があるのかもしれない。太宰と並ぶダメダメ系だけど、南部の人をはじめ、支えてしまうんだよなぁ。ある意味で全力を尽くした人生だったのかも、と思えてくる。あと、キンドル版で読んでいますが、活字本よりも読み飛ばしがしやすい。過去に得ている知識で埋め合わせるところは筆者のペースにつきあうことはないから。
読了日:8月9日 著者:関川夏央,谷口ジロー
『坊っちゃん』の時代(第2部) 秋の舞姫―凛烈たり近代なお生彩あり明治人  アクションコミックス『坊っちゃん』の時代(第2部) 秋の舞姫―凛烈たり近代なお生彩あり明治人 アクションコミックス感想
「早石炭をば積み果てつ」という書き出し。今は高校国語の教科書に「舞姫」は採用されていないだろうな。でも、僕の頃はまだ教材でした。そんな思い出と共に。以下余談。今、こういう形式の本が出るということは、すでに若い世代にはこれらの文字を脳内で図像化することが難しいのだな、と思います。関川の文章だけなら、ここまでイメージを膨らませることができない。僕の世代はまだ明治百年の祝があったり、明治生まれが身近に居たり。どこかあの時代の空気が残っていた。今、それを求めるのは無理です。黒電話すら想像つかなくなっている時代に。
読了日:8月9日 著者:関川夏央,谷口ジロー
御家騒動―大名家を揺るがした権力闘争 (中公新書)御家騒動―大名家を揺るがした権力闘争 (中公新書)感想
良著。御家騒動の顛末を追うというよりは、主従関係(換言すれば上下関係)の変化を追究した1冊。双務的・契約的な関係の家礼型、権門の庇護を得るための一方的・隷属的な家人型、戦闘要員が従者化した郎党型等の主従関係が、鎌倉殿の時代は片務的に、室町殿は双務的に傾きながら進化し、江戸時代になって固定化する。御家への帰属意識が生まれる。自律性のある家老型から、主君との一体感を絆にする出頭人型への変化は、御家騒動という極限の場面でも変化を見せる。江戸時代に入って御家の上にある「公儀」という概念の成立が与えた影響は大きい。
読了日:8月8日 著者:福田千鶴
『坊っちゃん』の時代―凛冽たり近代なお生彩あり明治人 (アクションコミックス)『坊っちゃん』の時代―凛冽たり近代なお生彩あり明治人 (アクションコミックス)感想
知己に勧められてキンドルで入手。山田風太郎の明治物小説のような風体で、時代の空気を絵にしてみたら、という作意がおもしろい。原作の関川夏央の力もさることながら、こういう企画に谷口ジローの絵が合っているのがいい。初版刊行は1987年。約20年目にして巡り会ったけど、味わい深い1冊です。神は細部に宿る、という感じで。
読了日:8月8日 著者:関川夏央
追記
posted by 曲月斎 at 01:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月01日

☆2016年11月に読んだ本

2016年11月の読書メーター
読んだ本の数:18冊
読んだページ数:5285ページ
ナイス数:612ナイス

喪失の戦後史喪失の戦後史
読了日:11月30日 著者:平川克美
SNS時代の写真ルールとマナー (朝日新書)SNS時代の写真ルールとマナー (朝日新書)感想
銀塩カメラからデジカメへ。メディアが変わり、愛好家は増えた。さらに今は携帯端末、Webの時代。写真や動画を撮るのは簡単になった。でもマナーは逆に問い直されている。撮影した人間にある著作権と、被写体の側の肖像権、プライバシーの保護など。日常的に写真を撮っていて、アマチュアカメラマンの傍若無人ぶりに愕然とする一方で、自身の撮影でも改めて法的な側面、公正性の確保の大事さを考える内容。冒頭から8章まではQ&A形式ながら、要点は末尾の2章。手短に読むならここを先に。ぜひ写真教室でもこの本、教材にして欲しい。
読了日:11月30日 著者:
たのしいプロパガンダ (イースト新書Q)たのしいプロパガンダ (イースト新書Q)感想
「プロパガンダ」というと声高なものというイメージが先に立つ。北朝鮮のアナウンサーのように。でも本当に怖いのは耳元で囁くような話だ。手もみしながら笑顔で近付いてくる者だ。戦前の日本では宝塚歌劇が、浪曲が、琵琶が。あらゆる娯楽に紛れ込ませてあった訳で、旧ソ連、ナチス、中国、IS、そして聖林を擁する米国。かつてのオウムもそう。実は今の日本でも百田尚樹の「永遠の0」であったり、荒巻義雄の仮想戦記「紺碧の艦隊」であったり。いつかそういう価値観が身近になっていく部分はないか。筆者はその危惧を指摘する。さも、と思う。
読了日:11月27日 著者:辻田真佐憲
中東鉄道経営史 -ロシアと「満洲」 1896-1935-中東鉄道経営史 -ロシアと「満洲」 1896-1935-感想
筆者の著作の脊梁となった1冊。帝政ロシアが露仏銀行を元に敷設した中東鉄道(満州里〜ハルビン〜綏芬河、ハルビン〜大連)は植民地化会社であった。ただ物資の消費先の開発というより、大豆などの穀物を露側に輸出する道になったこと、日本、清(後に中華民国)との勢力争いの中で、投資額に対して利が生まれない形だったことを浩瀚な資料から分析する。他国に鉄道を通して利権を生もうというのは如何にも帝国主義的な手法だが、無理筋であることを示す。ただ日露の交渉でここでも相手は一枚上手、武力の背景なしに進んだことがない歴史が見える。
読了日:11月24日 著者:麻田雅文
元老―近代日本の真の指導者たち (中公新書)元老―近代日本の真の指導者たち (中公新書)感想
英国型立憲君主制を目指し、天皇機関説を奉じながら、安定した実務のために生まれた元老制度。議会や官僚、藩閥が補完できない部分を調整していく。大久保利通〜伊藤博文〜山県有朋〜西園寺公望と流れを追い掛けた1冊。少人数で清貧だったことが当初は「黒幕会議」と呼ばれた仕掛けを「元老」という名に変えていったのは興味深い。ただ昭和史でも出てくる天皇への「内奏」、宮内省や宮中の支配という点。元老の匙加減が一歩間違うと軍部が振るった帷幄奏上権となる歴史もある。時代と共に、単なる安全弁としての機能に限定されていく気がする。
読了日:11月21日 著者:伊藤之雄
巨大地震の科学と防災 (朝日選書)巨大地震の科学と防災 (朝日選書)感想
著者の人柄+座談を編集構成した2人の力量=好著、の1冊ですね。地震の波形の解析を重ねることで、地震の姿を明らかにすることを自身の仕事にした科学者の最新地震学です。「分かっていることと分からないこと」を明確にし、何のための研究かを示す。「地震職人」を自称する筆者の姿勢に好感が持てます。加えて学術的な内容も平易。マグニチュードって何、地震波、地震の予測は、といった話が続きます。しかも筆者の考えてきた順に話が展開するので読みやすい。末尾の「あとがきにかえて」まで本当に読ませる1冊になっています。お勧めの1冊。
読了日:11月19日 著者:金森博雄(著),瀬川茂子/林能成(構成)
断片的なものの社会学断片的なものの社会学感想
聞き取り調査の手法を元に沖縄や在日を手がかりに今を描くのが生業の筆者。その聞き取りの合間に、理屈の付けようがなく、付ける気もない断片的な話が残る。それを整序して取り合わせた1冊。「私たちは生まれつきだれも孤独だ」という筆者、自分の場所から出ていく人に惹かれ、帰る人に惹かれ。独りでいることが好きだけど接触することは好まない。二律背反ながら、よく分かる感覚ではある。筆者は言う。「どこかに移動しなくても出口を見付けることができる。外に向かって開いている窓がある。私の場合は本だった」と。オチがないのがオチの1冊。
読了日:11月16日 著者:岸政彦
人口と日本経済 - 長寿、イノベーション、経済成長 (中公新書)人口と日本経済 - 長寿、イノベーション、経済成長 (中公新書)感想
富の源は人口だった時代から、技術革新がもたらしたものは今日の富が富を生む時代である。となれば人間が不要になる。となると人口が減少する。確かに人口が減少すること自体は悪ではない。個々人の単位を見れば所得が向上するかに見えるからだ。筆者は高度成長期は個人が貯蓄し、企業が投資をする構図だったが、今は企業が内部留保をする時代になったと見立てる。となれば、富が富を生む時代に、内部留保は咎め立てできない。加えて人口が減少することによって、人間の営みが変容せざるを得ない。人口の偏在は確実に地域を変えているのだから。
読了日:11月12日 著者:吉川洋
読書と日本人 (岩波新書)読書と日本人 (岩波新書)感想
こうやって本を読んでいる。何故だろう。筆者は日本での本と読み手の関係を分析する。筆致は随筆風。写本から版本、活字本、電子書籍と本の形態が変わる。黙読か音読か、識字率と読書の習慣の定着、照明の変化、書斎(個室)の成立、図書館の存在、用紙の需給等々、種々の断面で分析する。結句、読書も大量生産大量消費の20世紀に変貌したことを読み解く。本の内容の硬軟、年代による本への感覚の変遷の指摘も興味深い。個人的には「多読で博識な人(ex丸谷才一)」を手本にして、どこかで憧れて育ったことが今も影を落としているのかも……。
読了日:11月10日 著者:津野海太郎
桂太郎 - 外に帝国主義、内に立憲主義 (中公新書)桂太郎 - 外に帝国主義、内に立憲主義 (中公新書)感想
大正政変と第1次護憲運動の中の登場人物としてだけの認識は改めなくてはなるまい。長州藩上士の出、陸軍内で山県有朋の下、長州閥の一員として出世。1901年に1次内閣で総理に就任すると日英同盟の締結、日露戦争の指導とで約5年半、国政を切り盛りし、2次内閣では日露協約、日韓併合。で、根底に緊縮財政主義があったのは意外。伊藤博文、山県ら元老第1世代を「あしらう」術を披露したのはこの人であった。「外に帝国主義、内に立憲主義」とは徳富蘇峰の評。後者はとまれ、大正期の政治への繋ぎ役として欠かせぬ人物であるのは間違いない。
読了日:11月9日 著者:千葉功
寺社勢力―もう一つの中世社会 (岩波新書 黄版 117)寺社勢力―もう一つの中世社会 (岩波新書 黄版 117)感想
筆者は日本中世史で画期的とされた権門体制論の提唱者。公家と武家という二項対立から脱し、寺社という宗教勢力を権門の一角としてみることで社会体制を見直した。本書は宗教権力について平安期に遡る勃興期から事実上の終焉を迎える織豊時代まで通観した1冊。目配りが行き届いていて、抑えた筆致で書き進む。顕密体制のありよう、今となっては意識しにくい兼学が当たり前だった時代の姿、中で起こった浄土教の動きと抑えていく。ただ民衆に近い部分(周縁部なのかもしれないが)の動きがもう少し欲しいところ。中世を考える上で押さえたい1冊。
読了日:11月7日 著者:黒田俊雄
江戸名所図屏風を読む (角川選書)江戸名所図屏風を読む (角川選書)感想
出光美術館所蔵で出自由来が不明なこの屏風。筆の謎解きシリーズの1点の俎上に上がった。注目したのは江戸湊の繁華。徳川殿の水軍を管掌した向井将監の一門に目をつける。猿若町の賑わいが描かれていることからこの絵の注文主として一門の傍流を歩んだ五郎左右衛門正俊なる人物を挙げるに至る。絵画は作者の創意ではなく注文主の裁量で描かれる時代だったことを思い出す。ただ、本シリーズの豊国祭屏風2本、舟木本洛中洛外図屏風、神護寺の三像(頼朝、重盛など)の分析に比べて、一般読者の興味をつなぎきれるかな。研究とはそういうものだけど。
読了日:11月5日 著者:黒田日出男
戦争の社会学 はじめての軍事・戦争入門 (光文社新書)戦争の社会学 はじめての軍事・戦争入門 (光文社新書)感想
本書の大半が原爆の出現以前の事象に割かれている。歴史を綴ろうという意識のゆえか。然し最早牧歌的な戦闘は起こりえない(という建前に)のであるから無駄だ。本当に紙幅を割くべきなのはナポレオンでもクラウゼビッツでもマハンでもない。国対国ではなく国と非対称的な戦闘行為である。原爆の出現以降、対する相手はゲリラでしかない。「参った」がない暴力行為になる。人類は確かに戦闘行為と共に歩んできた。だが19世紀までの戦闘行為と20世紀に入ってからのものとは峻別されなければならない。その区別を見極める視点、示唆がかけた1冊。
読了日:11月3日 著者:橋爪大三郎
神々の明治維新―神仏分離と廃仏毀釈 (岩波新書 黄版 103)神々の明治維新―神仏分離と廃仏毀釈 (岩波新書 黄版 103)感想
日本会議の一件にも繋がる、単純化した国家観、宗教観の淵源は実はこの神仏分離、廃仏毀釈にある気がする。平田国学や水戸学の面々が力づくで進めようとした奇矯な形の神道の横行は、日本中の村々に続いてきた信仰、社会を歪めた。爾来約150年。度会、荒木田の両家が支えてきた伊勢信仰を始め、修験道系の山岳信仰や本書には出てこないが時衆の存在などを抹殺した。神職は國學院、皇學館の2機関に今も管理されている。一方、仏教側も寺領上知の前に、独自の資金力で踏ん張れたのは本願寺系のみ。今に続く歪んだ伝統の第1歩というべきか。
読了日:11月3日 著者:安丸良夫
弘法大師空海と出会う (岩波新書)弘法大師空海と出会う (岩波新書)感想
筆者は四国霊場28番の住職。新書1冊のサイズで、空海の生涯、遺跡、大師の姿と唐から招来した美術、著作と網羅することを目指した1冊。空海の実像に近い部分を提示する試みだ。ただ、初学を相手に網羅しようとすると、駆け足になる。読者の需要は、2章の遺跡の部分を生かした1冊にした方が良かったかも。最近読んだ手法では高村薫の「空海」が説く鎮護国家の宗教家、日本総菩提所の祖霊信仰の象徴、そして大師個人への信仰の三点倒立が気になる。。四国遍路する人はたぶん、札所よりも札所を繋ぐ路次、小径で大師と出会うのではないだろうか。
読了日:11月2日 著者:川崎一洋
兵隊たちの陸軍史 (新潮文庫)兵隊たちの陸軍史 (新潮文庫)感想
筆者の訃報に接して再読。吉川弘文館で「地域の中の軍隊」というシリーズ本9冊が昨年までに出ているけど、この1冊は筆者自身が当事者、1兵卒の視点で見て、聞いたことを書いているのが強み。新兵の教育から慰安所の話まで、俸給、上下関係や考え方まで筆は及ぶ。巻末の解説で保阪正康が「軍隊経験を持たない人にとっての必読書」といい、初年兵教育の冊子「内務の躾」から「国民が国家の要求に服従すること、とりもなほさず、国民自身の精神生活に満足を與ふる」と言いつつ、「人間の扱いを綴ることで国家の欺瞞を示している」との評が重い。
読了日:11月1日 著者:伊藤桂一
住友銀行秘史住友銀行秘史感想
1991年のイトマン事件をメーンバンクの側から描いた1冊。その多くには住友銀行内部の権力闘争がある。筆者は行内で大蔵省担当(MOF担)を務めた人物。MOF担といえばノーパンしゃぶしゃぶ程度しか連想できない頭には、荷が勝った1冊だった。登場してくる人物に誰ひとりとしてカタルシスがない(ま、必要ないのだけど)。内部告発者としての仮面を脱いだという1点に意味のある1冊だから。とまれ、大変な業界ではあるな、と。この後、山一証券の破綻が97年、拓銀の破綻、大蔵省接待汚職事件が98年。封じ込まれた物は大きかったのか。
読了日:11月1日 著者:國重惇史
鉄道ミステリーの系譜 (交通新聞社新書)鉄道ミステリーの系譜 (交通新聞社新書)感想
鉄道ミステリーの系譜を書くとなると、全部を書けばネタバレになる。だから以て廻った書きぶりになってしまう。筆者が情熱を傾ければ傾けるほどに、読み手は隔靴掻痒になるという自己撞着。正直に言えば、鮎川哲也なりの編んだ鉄道ミステリーのアンソロジーを読んだ方が良かったかもしれない。それと「変革探偵小説入門」(谷口基、岩波書店)が説くような、小説では書けない世界を探偵小説で構築してみせるという側面もこの分野の小説にはある気がした。現に当時の風俗を映す古典となっているのだから。本書はキンドルで読了。
読了日:11月1日 著者:原口隆行

読書メーター
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2016年11月01日

☆2016年10月に読んだ本。

2016年10月の読書メーター
読んだ本の数:17冊
読んだページ数:4527ページ
ナイス数:712ナイス

応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)感想
筆者の視点は「応仁の乱」を室町殿6代義教が謀殺された「嘉吉の変」と10代義材(義稙)が廃された「明応の政変」の間の変化の事象として捉える点にある。定点観測点を大和の興福寺に据え、2人の別当の日記を軸に、畿内の出来事を整理することで本書は成立している。従来は諸大名や室町殿の動きの傍証に使われてきた史料を土台にする試みは興味深い。ただ、日記とはいえ、登場人物が多く、空間の移動が激しい。この時代を描く手法として、新鮮だが、新書という体裁では複雑ではないか。1篇の叙述の中で、主語が錯綜するのが取っ付きにくかった。
読了日:10月29日 著者:呉座勇一
応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)
きのう何食べた?(12) (モーニング KC)きのう何食べた?(12) (モーニング KC)感想
珍しく再読。自分が好まないサツマイモとカボチャが登場していたことが熟読を妨げていたことがちょと判明。本巻はちょと2人の関係が割合、円滑に進んでいることが、薬味不足かと思わせる要因なのかも。ただ、「へうげもの」もそうだけど、面白いと入れ込んだ作家の描線が目に慣れてくると自分の中に別の反応が起きているのも事実な気がする。何が原因なのだろう? ただ本書のもう一つのテーマ、老いという点では、アクシデントが減っていくものなのかもしれない。
読了日:10月26日 著者:よしながふみ
通貨の日本史 - 無文銀銭、富本銭から電子マネーまで (中公新書)通貨の日本史 - 無文銀銭、富本銭から電子マネーまで (中公新書)感想
副題にある無文銀銭から当今の電子マネーまで。本邦の通貨を主眼に置いた通史。面白い。というのは「1円は1円」という今の感覚(計数貨幣で法定貨幣)という概念が定着するには長い時間がかかったからだ。物々交換の経験を挟んで、金・銀・銅の産出量と市況による変動、対外貿易を管理した江戸時代ですら、貿易決済通貨としての銀があり、不足する少額貨幣の代わりとしての紙幣(藩札)があり、改鋳される度に品位による区別が起きる。勿論、財政経済政策としての操作がある。金銀銭の3貨体制といっても単純ではない。確かに「悪銭苦闘」である。
読了日:10月26日 著者:高木久史
本当に偉いのか あまのじゃく偉人伝 (新潮新書)本当に偉いのか あまのじゃく偉人伝 (新潮新書)感想
帯の惹句はとまれ、この人は偉いのだろうかという懐疑は誰にでもある。個人的には坂本龍馬のごときはその最たるもので、田中光顕が居なければ存在すらしなかった人物になっていたろう。裸の王様と一緒で世間が金襴玉褸であると言っている以上、何となく同調しておかなくてはいけないという気分になるもの。その筆法で歴史上の人物から近接する人物まで、俎上に上げては切りまくる。出自や人間関係等々、博引旁証、手練手管を使っての文章は軽快。博覧強記此処に有りという感じ。一種の快感は覚えつつ。所謂雑文の1冊、後に何が残るか振り返りつつ。
読了日:10月24日 著者:小谷野敦
きのう何食べた?(12) (モーニング KC)きのう何食べた?(12) (モーニング KC)感想
正直にいうと、ワクワク感が薄れていました。この漫画の面白さというか、魅力は、白黒のペン画ながら、匂い立つようなおいしさ(美味しそうというか)が魅力だったのですが。何か理屈が先に立っているような気がして。12巻を待たされた感が導くものなのか、何が原因なのか分析しきれないのですが。とまれ、スタイリッシュな表紙に比べて、自分の中では得心のいく展開ではなかったです。以上。
読了日:10月23日 著者:よしながふみ
憲法の無意識 (岩波新書)憲法の無意識 (岩波新書)感想
幣原の意思だった日本国憲法9条(戦争の放棄)を成立させたGHQの主意は1条(天皇)を成立させるためにあったことを読み解く。日本人にとって太平の世の記憶「pax Tokugawa(徳川の平和)」が蘇り、WWUの鮮烈な記憶と結びついて、9条の改正の意思を持たなくなったのではないか、と読み解く。碩学が先学の考察を読み解く構造。話が次々と展開して楽しい。フロイトから中江兆民、カントにヘーゲル、マルクスまで登場して、筆者の読み解きを追う形。講演録だけに口調が柔らかく、読みやすい1冊。昔の記憶は確かに根強く影響する。
読了日:10月22日 著者:柄谷行人
銀の世界史 (ちくま新書)銀の世界史 (ちくま新書)感想
通史を書くのは難しい。各々の分野の専門家の研究を横串に刺していくからで、粗さはやむを得ないのかもしれないが。本書のテーマは銀。冒頭に提示される2004年の東大世界史の問題「銀が果たした経済の国際化について」の説明が展開されていく。視点はどうしても英、蘭に傾きがちで、銀が決済通貨として世界中を一つに結んでいった様を描くことに力点がある以上、何処か「どうするどうする」とでも合いの手を入れたくなるような筆致。焦点を押さえることは大学受験的な知識プラスアルファならよいのだろうが。個人的には満足に欠ける内容だった。
読了日:10月21日 著者:祝田秀全
アメリカ政治の壁――利益と理念の狭間で (岩波新書)アメリカ政治の壁――利益と理念の狭間で (岩波新書)感想
要旨は「利益の民主制」と「理念の民主制」の相剋。題名にある「壁」は両者を隔てるものの意。大きな政府か小さな政府かの選択をx軸、軍事介入か不介入かをy軸に採って絵解きしていく。4章の相関図を手引きにすると理解しやすい。民主党か共和党か、リベラルか保守というような二項対立ではなく、2大政党制下の有権者の合従連衡は多元方程式の解法並みに展開する。本書はルポの体裁に近く、手がかりの概念図を元に整理しながら読んだ方がいいかも。TV番組のフリップを連想させる図の出来がいいのでもっと挿入してくれた方が有り難いが……。
読了日:10月19日 著者:渡辺将人
ヒトラーに抵抗した人々 - 反ナチ市民の勇気とは何か (中公新書)ヒトラーに抵抗した人々 - 反ナチ市民の勇気とは何か (中公新書)感想
「公益のために民衆共同体に一体化し、総統国家の下、国民同胞となる」。仕事とパンが配られる社会。本書には印象深い数字がいくつか引用されている。終戦時のナチ党員850万人超。1951年の輿論調査ながら「今世紀ドイツが一番うまくいった時期は」との問いに、@第三帝国期44%A帝政期43%Bワイマル期7%。こんな大衆の中で良心に基づく反ナチ行動を執った人がいたこと、無私の行動に頭が下がる。それ以上に戦後の独、EUの体制まで考えた「クライザウ・サークル」の人々がいたことが驚きであり、日本と彼我の差を考え込んだ。重い。
読了日:10月16日 著者:對馬達雄
帰郷帰郷感想
子供のころ、まだあった景色である。白衣姿の傷痍軍人がアコーディオン片手に奏でる傍ら、義手の男が正座をして頭を下げる。日常のように繁華街で見かけていた裏側にある(あっただろう)思いを綴った短編集。サラッと読めば、それなりの音だけど、引っ掛かって読むと別の顔を見せる。短編だけに寸景を切り取った形のものが多い。でも前後の余白をどう想像するのか、その余白の美を感じさせる1冊。普通の人が普通ではなくなる戦争という仕掛けへの穏やかな抗議でもある。浅田自身の年齢と経験が書かせる1冊であると思うし、余人では書けない。
読了日:10月14日 著者:浅田次郎
謎のアジア納豆: そして帰ってきた〈日本納豆〉謎のアジア納豆: そして帰ってきた〈日本納豆〉感想
お見事。現場に勝る知見なし。語学の天才とは本当にうらやましい。納豆菌による大豆醗酵食品を訪ねての旅はタイ、ミャンマーなどの東南アジアに、中国南部に、ネパール、インドにと続く。豆を醗酵させた食品は実は「出汁」であり、魚醤や醤油、味噌(醤)などの調味料と競合する味であった発見。日本に戻れば広く分布した「納豆汁」が東北地方にのみ残る景色もあり。筆者のルポを読むと、思わず納豆が作ってみたくなるし、各地の料理を試してみたくなる。ワクワク感と驚愕と知の喜びと。高野ワールドはこの1冊でも爆発している。今年の5指に入る。
読了日:10月13日 著者:高野秀行
「国史」の誕生 ミカドの国の歴史学 (講談社学術文庫)「国史」の誕生 ミカドの国の歴史学 (講談社学術文庫)感想
「ミカドの国の歴史学」改題。歴史といえば国学、儒学、そして水戸学が果たした役割が大きい。一つの到達点として「大日本史」を挙げられよう。だが明治になって西欧の歴史学研究手法が導入される。文明としてか、文化としてか、両者の相剋を描く1冊。中で転換点となったのが久米邦武筆禍事件(「神道は祭天の古俗」)や喜田貞吉が巻き込まれた南北朝正閏論争だ。この2件は社会科学者としての学問の見識か、国民教育の問題かを争うものであったけど、筆者は日本独自の「中世」を描くことで、後の皇国史観に繫がるような土壌が生まれたと見立てる。
読了日:10月7日 著者:関幸彦
戦国と宗教 (岩波新書)戦国と宗教 (岩波新書)感想
起請文に見えるように、人倫五常を守り,神仏への帰依を誓う者に加護がある一方、他人の信仰には関与しないという姿勢=「天道」という絶対的な是非を想定する。中で信長と本願寺の関係については、実は宗祖親鸞の教団内での争いに、応仁の乱以降の室町殿の内紛が絡んだのではないかという読み解きや、九州のキリシタン大名の分析も新鮮。寺社というと俗世の権力ではないように今日的には先入観を持つが、中世では領地を持つ守護大名と同様の領主であることが伺える。ただ庶民に葬送儀礼が定着したこの時期、書中で時衆への言及が少ないのは残念。
読了日:10月7日 著者:神田千里
ひさしぶりの海苔弁 (文春文庫)ひさしぶりの海苔弁 (文春文庫)感想
最近、海苔弁にはまっているのでつい、買ってしまったが。最後のオチまで行かない感じの文が続くのが……。
読了日:10月6日 著者:平松洋子,安西水丸
日本陸軍と中国: 「支那通」にみる夢と蹉跌 (ちくま学芸文庫 ト 16-1)日本陸軍と中国: 「支那通」にみる夢と蹉跌 (ちくま学芸文庫 ト 16-1)感想
「支那通」−−旧陸軍で中国大陸の情報収集を旨とした専門家を謂う。 軍備兵站を調べ、時に政治工作もする。「日本は東亜の盟主。西欧列強から独立するために指導するのが役目」みたいな自惚れも。「アラビアのロレンス」と似た立場ながら、大局観がないセクト主義の一介の武弁だった。情報は偏向し、傲慢の誹りを免れぬ振る舞い。WWI以後の民族自決の流れを認められないままに。結果が張作霖の謀殺から始まる15年戦争である。中国大陸での抜き差しできない戦いをした揚げ句の日米開戦。少数のエリートが日本の進路を誤らせた歴史は重い。
読了日:10月6日 著者:戸部良一
日本経済のトポス 文化史的考察日本経済のトポス 文化史的考察感想
この本が刊行されたのは1980年代。筆者は著名なマルクス経済学者。まだ「マル経」が現役だった時代の本。丸谷才一がこの本を随筆で褒めていて、読んだ記憶がある。何度もの引っ越しでも、本棚の中でしかるべき位置に置いてきた。読んだ当座、班田収受法から説き起こすなんて、新鮮なのだろうと思ったからだ。あれから約40年、読み直してみたけど、あの当時の驚きはなかった。日本史への科学的研究の進歩のゆえか。権門体制論が生まれ、農民は搾取される存在という訳でもないことが明らかになった今、時代の使命はもう終えた1冊なのかも。
読了日:10月5日 著者:日高普
興亡の世界史 大日本・満州帝国の遺産 (講談社学術文庫)興亡の世界史 大日本・満州帝国の遺産 (講談社学術文庫)感想
岸信介の顕密構造を読み解く。内に国家社会主義、統制経済への志向や反米感情を抱きつつ、米国の覇権の下に自分の権力の扶植と拡大に努める姿は、一介の農業国だった韓国で高度成長を成し遂げた朴正煕と相似形なのかもしれない。2人の指向を培ったのが満州国ではなかったかと読み解く。時に満州事変後の大陸に、或いは5・16軍事クーデターの中にと話が展開していく。顕密構造である以上、主権者である国民の前に本心の部分を明かし切れないのは仕方ないところ。とまれ、祖父の遺訓を顕彰するに足らんと思っている坊ちゃんとは違う次元の話だが。
読了日:10月4日 著者:姜尚中,玄武岩

読書メーター
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2016年10月01日

★2016年9月に読んだ本。

2016年9月の読書メーター
読んだ本の数:17冊
読んだページ数:4503ページ
ナイス数:622ナイス

日本震災史: 復旧から復興への歩み (ちくま新書)日本震災史: 復旧から復興への歩み (ちくま新書)感想
「復旧から復興への歩み」という副題の方が本書の内容に相応しい。震災そのものの被害への言及より、その後についての方に重点がある。特に史料の多くなる江戸期以降、大名普請(被災地の住民への雇用対策の意味も持つ)から、請負普請へと変遷する様を、また火山噴火に関連して幕府が執った施策についての言及。明治期以降は備荒儲蓄金法、罹災救助基本法といった法整備に基づく体制へと引き継がれる。関東大震災に際し、当時の内務官僚がインフラの再建と併行して住民が帰還するか否かへの配慮があったのは興味深い。復興はやはり民間主導である。
読了日:9月30日 著者:北原糸子
ユダヤとアメリカ - 揺れ動くイスラエル・ロビー (中公新書)ユダヤとアメリカ - 揺れ動くイスラエル・ロビー (中公新書)感想
米国の人口比で2%のユダヤ系は政治的に影響力を持ってきた。政治意識の高さ、献金、ロビイスト活動が活発……。米国の「戦略的資産」とまで言われたイスラエルという存在だが、本土と米国在住民との間には意識の乖離が生まれていることをきれいにトレースした1冊。「中東唯一の民主国家」という決まり文句が今も惹き付けるのか、旧約聖書の「約束の地」であるからか(ここには福音派の信者の動きもあるという)。イスラエル本土での右傾化と米国内でのホロコーストを身近に見聞きした世代の高齢化が意識のギャップを生むという見立ては興味深い。
読了日:9月29日 著者:立山良司
無縁所の中世 (ちくま新書)無縁所の中世 (ちくま新書)感想
前著に続き、公、武家ではなく、寺院を中心とした中世文化を想定する。生活に困窮した庶民が流動化して都会に流入する世、移民が発生する世。移民のいない大集落は大きなムラだが、旧住民と移民がいる風景は都市だ。移民が発生するところ、無縁所あり(ま、京都に対する叡山)。「人類普遍の無縁を考察する場合、参考になるのはアメリカ史」なんていう分析は首肯できるのだけど。あらゆる局面の史料を繋ぎ併せての立論ぶりは豪快だが、展開について行き切れなかった。史料を読み込んでいない上、時空座標が組み立てられないのに過ぎないのだろうが。
読了日:9月27日 著者:伊藤正敏
寺社勢力の中世―無縁・有縁・移民 (ちくま新書)寺社勢力の中世―無縁・有縁・移民 (ちくま新書)感想
日本の中世で一番の権力者は寺社(特に比叡山)であるという命題提起の1冊。特に延暦寺末の祇園社が京の経済面で特権を与える一方で寺銭を稼いでいた、警察司法権に対しての検断不入権を誇り、鴨川以東は勿論、洛中にも勢力を伸ばしていた様を描く。祇園社の祭りが洛中の町衆に支えられているのは確かに証左だ。前著「日本の中世寺院」でも叡山の他、南都、高野山、根来寺などを挙げていて、本書でも挙例の事象があちこちに展開し、年代も交錯するので追い掛けるのが大変ではあるが。要は公権力の行使(徴税も含め)が普くことが近世化なのだ、と。
読了日:9月23日 著者:伊藤正敏
シベリア出兵 - 近代日本の忘れられた七年戦争 (中公新書)シベリア出兵 - 近代日本の忘れられた七年戦争 (中公新書)感想
地図を逆さに見た時のような驚きがある。シベリア出兵が後の15年戦争の姿と相似であること、後の戦争を指導する立場にいた人物が関わっているのに、当時の経験が生かせていないこと。鮮満の権益を守り、あわよくば更に北辺を狙う妄想が膨らんだ結果としての出兵。終結への構想がない戦いが広がる。現地と参謀本部、政府の思惑の食い違いが広がるまま、糊塗弥縫が続く。一般には点(尼港事件等)の知識だが、実は19世紀から続く歴史の一齣、面であるのが分かる。兎も角、兵戈を政府が収められたのは元老(山県有朋)という錨の有無でしかない。
読了日:9月20日 著者:麻田雅文
情報参謀 (講談社現代新書)情報参謀 (講談社現代新書)感想
自民党を支えた広告代理店とその周囲に存在するマーケティング会社の話。その中心にいたという筆者がこういう話を書いているということは、既に次の段階に進んでいるということだ。「政策本位の政治」という建前は別にして、「政治家」が「政治屋」になっているということを端なくも提示した形ではある。中身はWeb上やテレビを監視して、対応策を立てていく。果敢な対策を立てられるだけの資金力(これも政党交付金の一部である)。内容自体はさもありなむ、の水準ながら、「情報は発信しないと存在しないのに等しい」ということ。ちょっと引く。
読了日:9月19日 著者:小口日出彦
鳥獣害――動物たちと、どう向きあうか (岩波新書)鳥獣害――動物たちと、どう向きあうか (岩波新書)感想
本書は街の人の視点である。鳥獣害の話は地方に住んでいれば日常生活の一部である。鹿、猪、猿は日常的にいる。(夜、道を走っていて気付くのが遅れて車にぶつかってこられたら、被害は免れないところ。こういう場合は警察は事故証明を出してくれるのだろうか、保険は、と不安になる)。本書は鳥獣害のルポ部分と、日本人が生み出してきた殺生観の考察の2部構成。個人的には思惟的な部分よりも、実例をきちんと紹介してくれた方がよかった。人口減少、過疎化、耕作放棄と続く連環や荒蕪の地になっても自分の土地と手放せない精神性への言及とか。
読了日:9月19日 著者:祖田修
昭和史講義2: 専門研究者が見る戦争への道 (ちくま新書)昭和史講義2: 専門研究者が見る戦争への道 (ちくま新書)感想
全20講の中で9、10講の「日中戦争における和平工作」、12講の「天皇指名制陸相の登場」は読ませる内容だった。以外は厳しいかも。学会機関誌の「研究往来」みたいな欄を思い出す。新書という体裁で一般に向けて本を書くなら、1)先行論文の引用と論文名の提示ではなく、筆者が知見を咀嚼して記述するべきで、文章がぎこちない篇が多いのが気になる。2)参考文献を挙げる欄を作れるのなら、注釈(特に人名)を入れた方がいい。3)活字版にはあるのかもしれないけど、索引が必要な本ではないか−−てな難点を挙げておく。捷径はないな、と。
読了日:9月19日 著者:
孫文――近代化の岐路 (岩波新書)孫文――近代化の岐路 (岩波新書)感想
華夷の別を立てる伝統的な世界観から、孫文は終生脱し切れなかったのではないか。生涯59年のうち、通算19年に及ぶ亡命生活。筆者は二面神ヤヌスに例えているけど、むしろ「キメラ」のような存在を想う。江南から興った明の朱元璋、太平天国の洪秀全のような姿を念頭に描きつつ、目的のためには手段を選ばない手法。白くても黒くても鼠を捕る猫はいい猫、という論理に繫がる。実力はないので「収」(中央集権)を目指しつつ、「散」(地方分権)を呑まざるを得ない。国共双方の国父という偶像になる前の姿を考える。日本史なら足利義昭……。
読了日:9月18日 著者:深町英夫
近代中国史 (ちくま新書)近代中国史 (ちくま新書)感想
快著。中国の宋〜明〜清と続く中で「眠れる獅子」は欧米流とは全く違う統治、財政構造を築いてきた。欧米が予算主義なら、中国は現額主義。地域貨幣の銭と地域間流通貨幣の銀の二本建て。加えて貿易代金として流入する銀に依存する経済。資本が育たず、関税を抵当にした外資頼りの経済。アヘンすら通貨として経済に組み込んできた歴史はすごい。穀物の増産から人口爆発、そして辺境・海外への流出、流氓化と、清末から国民政府、共産党政府にまで続く民間の感覚をトレースしている。この本を読んでから枝葉の本に読みすすめば、理解は数倍違うはず。
読了日:9月16日 著者:岡本隆司
昭和史講義: 最新研究で見る戦争への道 (ちくま新書 1136)昭和史講義: 最新研究で見る戦争への道 (ちくま新書 1136)感想
編者自身が「得難い本」と記したことに失笑を禁じ得ない。「最先端の専門研究者によってまとめられた」と称する15講で構成されているものの、1)時系列の中で事件や出来事ごとでまとめられているので、前後の講との間で、文脈、扱いに齟齬が出る。2)中央官庁や軍関係、中国の中枢にいた人物の記録に依存している部分が多く、記述内容が政治外交軍事に偏重していて、従来の書物での知見の域を出ない。3)最近で言えば加藤陽子の「戦争まで」や、山中恒の「アジア・太平洋戦史」の方が視野が広い−−等々。研究者はやはり自惚はいかんな、と。
読了日:9月14日 著者:
中国の論理 - 歴史から解き明かす (中公新書)中国の論理 - 歴史から解き明かす (中公新書)感想
史記以来の正史は理非の判断を下した上で記録されてきたという感覚が新鮮。「経・史・子・集」という4部の別に基づき、歴史は儒教的解釈第一、今の考証学や史実第一主義の産物ではない。裏付けになっているのは縦方向の士庶の別、横方向の華夷の差。過去の史実に付会するなど、想定外の思考回路。儒教に深く親しんでいるが故に攘夷思想が生まれ、和魂漢才ならぬ「中体西用」の考えが起こる。清朝後は「三国史」で、毛沢東は「士庶の別」を排して新時代を開いたとしつつも、今は長年の中華思想に回帰してはいないか。嫌いでも面白い、の評が的確。
読了日:9月12日 著者:岡本隆司
天下と天朝の中国史 (岩波新書)天下と天朝の中国史 (岩波新書)感想
血統に裏付けされた皇帝と天の指名に基づく天子。両概念が重なった存在こそが東アジアの支配者たりえる。と同時に漢民族を中心とした中華と周囲の異民族を含めた天下を併せてこそ真の天朝を担うものになる。北方の異民族と南方に逃げた漢族の争覇が王朝の交代になるのだが、易姓革命が起きても信仰、思想的な根幹として儒教が横たわる。中華の国の統治する大天下と日本、朝鮮、越などの小天下が構成する世界。逆に言えば双方とも中華の存在を常に意識せざるをえない世界観を示す。冊封体制や現中国の海洋進出もこの論理の延長線上という読み解き。
読了日:9月10日 著者:檀上寛
昭和芸人 七人の最期 (文春文庫)昭和芸人 七人の最期 (文春文庫)感想
残酷な本である。喜劇の世界に生きる限り、旬がある。旬が過ぎれば老い、寂寞が立ちこめる。そういう風を感じさせなかったのは巻末の伊東四朗の聞き語りに出てくる三木のり平ぐらいかもしれない。筆者が俎上に取り上げた7人(生で記憶があるのはそのうち4人だが)はこんな晩年を過ごしていたのか、と思う。ダメなのは分かっていてもなお残る自負と執着。昭和の喜劇役者の雰囲気、戦前戦後の空気、興行界の出来事など、登場人物の姿を通して描き出してみせる。読み物ではあるけど研究論文風。なかなかに畳の上での大往生というのは難しい。好著。
読了日:9月5日 著者:笹山敬輔
地域再生の失敗学 (光文社新書)地域再生の失敗学 (光文社新書)感想
至極真っ当。でも、こんな建前論では追いつかない気がする。広島での原爆投下後、被爆直後の広島赤十字病院で、放射線障害が何かも分からぬまま、手探りで治療に当たった医師らが、当時の数少ない検査方法で、血球数を顕微鏡下で数えたという話を思い出しています。白血球が一定数を割り込むと回復が困難になる、という治療経験が生まれたという思い出の記を思い出した。。確か「爆心」(朝日新聞広島支局)で読んだと思うのだけど。白血球 も人口も同じなんじゃないか、と。漠然とした気分になる。地方創生とは所得の増加がゴールなのは確かだが。
読了日:9月4日 著者:飯田泰之,木下斉,川崎一泰,入山章栄,林直樹,熊谷俊人
日本の中世寺院―忘れられた自由都市 (歴史文化ライブラリー)日本の中世寺院―忘れられた自由都市 (歴史文化ライブラリー)感想
中世の寺院(山門、寺門、興福寺、東大寺、高野山、根来寺)が実は宗教施設ではなく、軍産学複合体の都市だった、という解釈は豪快。学侶、行人、聖という3階層のうち、教学を専らにする学侶は約1割、残りは荘園の管理、商工業の統括をする行人が占め、聖は遊行しているので、掌握不可能という姿を高野山の記録から見立てる。顕密体制とはいえ、教義上最高位の大日如来への信仰は影が薄く、実態は大師信仰、太子信仰を中心に「呪術的」な信仰と死者の供養が中心であったとする言説は今の実態を見ても納得がいく。権門体制論を補完する内容に納得。
読了日:9月3日 著者:伊藤正敏
中世京都と祇園祭: 疫神と都市の生活 (読みなおす日本史)中世京都と祇園祭: 疫神と都市の生活 (読みなおす日本史)感想
同題の中公新書の改版。人口が集積すれば当然、疫病の流行が起こる訳で、京都でどうして長年に亘って続けられてきたかがよく分かる。祭神の牛頭天王が抑も最初は疫病を齎す神であったはずが、蘇民将来と出会って疫病除けを約束した神に変身してしまうのがすごい。最初は官や寺社が主催した祭りで、種々の役銭の収入や名誉が祭りの執行者に付随していたのが、室町期から変化。下京に住む町衆主体の祭りに変わっていく。住民自治の精神の発露と見るか、権門の弱体化とみるか。今に続く祭りが全国で都市の生活に不可欠な神祭として享受された不思議も。
読了日:9月1日 著者:脇田晴子

読書メーター
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2016年09月01日

☆2016年8月に読んだ本。

2016年8月の読書メーター
読んだ本の数:23冊
読んだページ数:5994ページ
ナイス数:649ナイス

EU騒乱: テロと右傾化の次に来るもの (新潮選書)EU騒乱: テロと右傾化の次に来るもの (新潮選書)感想
極東の島国では見えないことがある。欧州での異変だ。2度の戦争を基に生まれたEU。国境の撤廃、通貨の統合と、民主主義の先進地域として実験を続けてきたはずが、軋みが目立つ。ギリシャの財政破綻、中近東などからの難民の流入、治安の悪化など。英国の国民投票も記憶に新しい。そんな疑問を解く糸口を示している。フランスに在住し、軸足を置き、地面に近い視線から社会の見た姿の点綴だ。「日常生活で吸った空気、肌で感じたことを大切にしながら、事実から出発して個別事例を考察する」という筆者の姿勢は研究論文にはないルポの強みがある。
読了日:8月30日 著者:広岡裕児
ベストセラーなんかこわくないベストセラーなんかこわくない感想
ベストセラーというとつい背を向ける。旬日を俟たずブックオフでごく安価で流通しているさまを見る。古書店の値付けというのは本の値打ちを正直に示すもので、本書で取り上げられている本の多くはその類いになる。ただ、ノストラダムスの大予言を愛読したという筆者の手にかかると、通り一遍では済まないのも数冊出てくるからおもしろい。香合わせ、歌合わせよろしく、2冊の本を見立てで合わせるのが特に妙手。「なんとなくクリスタル」と「太陽の季節」、「砂の器」と「人間の証明」等々。ただ「どくとるマンボウ航海記」に読み解く手練、中々。
読了日:8月28日 著者:入江敦彦
三浦一族の中世 (歴史文化ライブラリー)三浦一族の中世 (歴史文化ライブラリー)感想
「三浦介、上総介両人に綸旨を与えつつ」と殺生石の謡に出てくる「三浦介」。東国の武士団の代表格の一家である。とはいえ、常に順風満帆であった訳ではなく、和田合戦で和田氏が滅んだり、宝治合戦で本家筋が滅亡したり。ただ「三浦」という家名は分流に伝えられていく訳で、武士団の中ではブランドであったということだろう。本書は別書にあるような足利氏の通史と違って物足りないものが残る。鎌倉殿の時代の盛衰に重きをおかず、中央との関係がある前史や、家名を変えながら全国各地に散らばって行った様を丁寧に追う方が重点にしてほしかった。
読了日:8月27日 著者:高橋秀樹
都と京都と京感想
一篇一篇は面白かったけど、通読した後に何も残らない。例えれば「長生殿・越の雪・山川」みたいな。舌の上に甘みだけが残る感じ。いけずと意地悪、ダサいとモッサイなど、意思を明示することで東京は人付き合いをし、京都は相手の腹を探りながら、意思を悟らせることに重点を置くなど、二分法で論理を進めていくのだけど、確かにそういう世界もおますなぁ、という印象が拭えない。掌編の随筆は「箸休め」であり、一冊の本に仕立てるにはこの論法を使うのが都合がいいのだろうけど、並べると諄くなる。鷲田清一の「京都の平熱」を読後だから余計か。
読了日:8月25日 著者:酒井順子
ふしぎな部落問題 (ちくま新書)ふしぎな部落問題 (ちくま新書)感想
同和の今、これからを紹介したいと考える筆者のルポ。中でも4章の箕面市北芝での取り組みの紹介が精彩を放つ。1969年の同対法施行以後、生活や環境の改善が進んだと同時に、住民の間に行政への「待ち」と「もらい」の姿勢が生まれたと分析。2002年の同法廃止を見据えての努力を続けてきた人々の話が綴られる。内部の人間が「閉じていたから同質のコミュニティで安定している」状態から「部落解放は周辺とのつながりの中で達成される」という次元にどう移行するのか。この話は昨今の「都会対地方」の構図に似てはいないかとふと思うのだが。
読了日:8月24日 著者:角岡伸彦
あたらしい憲法草案のはなしあたらしい憲法草案のはなし感想
憲法の主語が「国民」から「国」に変わるとどういう解釈が成り立ちうるのか、「公共の福祉」が「公益及び公の秩序」に換言されると何が変わるのか。「緊急事態条項」をもうけるということの例外性も。「国民が司法、立法、行政の三権を縛るのが憲法」という立場から「国が国民を縛るための憲法」という立場へ。とまれ、こんな皮肉が、皮肉ときちんと受け止めていられる世の中であって欲しいと思う。
読了日:8月23日 著者:自民党の憲法改正草案を爆発的にひろめる有志連合
戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗感想
ジュンク書店での中高生向け講演会が下敷きの1冊。リットン報告書(国際連盟への対応)、日独伊三国同盟、日米交渉の3点に焦点を合わせて読み解く。俗に日本はブロック経済圏から弾き出されて満州進出を図ったように喧伝されてきたが、実は経済統計から虚偽であることが示される。リットン報告書も蒋介石側に有利な内容とされているが、実は国際協調で日本の主張も認めていたことを読み解く。三国同盟では政府部内の不一致と目的の不明確さが尾を曳くさまも。石橋湛山の評論ではないが、冷静な目で史料を読み解き判断する姿勢の涵養を痛感する。
読了日:8月22日 著者:加藤陽子
戦艦武蔵 - 忘れられた巨艦の航跡 (中公新書)戦艦武蔵 - 忘れられた巨艦の航跡 (中公新書)感想
基準排水量6万4千トンもの戦艦は必要だから造ったはずが、途中で無用の長物と化していたのを承知の上で運用した訳で、筆者の指摘通り、現実と幻想の間に浮かんでいる。本書の真骨頂は「戦艦武蔵の享受史」ともいうべき部分。技術立国日本の先駆とされたり、主計官にとっては愚昧な査定への戒めだったり、天皇制の見方だったり。歴史の常として、「体験した」と称する話者によって「事実」が異なる以上、個人的には吉村昭が「戦艦武蔵」で採った手法が蓋然性が高いように思う。で、吉村が「なぜ」を自身に問うために書いたという読みは正鵠だろう。
読了日:8月22日 著者:一ノ瀬俊也
大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争 (幻冬舎新書)大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争 (幻冬舎新書)感想
途中で引用されている戦争末期の昭和天皇の述懐が印象的。「(米空母の)サラトガが沈んだのは今度で確か4回目だったと思うが」と。組織防衛のために情報軽視が起き、常態化する。追従する新聞社、ラジオがいる。陸軍記者倶楽部、黒潮会(海軍)の存在は記者クラブ制度の1典型でしかない。広報担当が資料を配布し、説明する。今は「ペーパー」であり「レク」と呼んでいるだけである。間違いを探す、矛盾を突くことは、当時の発表資料を詳細に詰めればできたことだし、当時の国民の方が冷静である。原発事故や安保関連法案の報道を見れば自明だが。
読了日:8月20日 著者:辻田真佐憲
高校野球を100倍楽しむ ブラバン甲子園大研究高校野球を100倍楽しむ ブラバン甲子園大研究感想
丹念なルポです。甲子園球場のアルプス席では吹奏楽団の演奏が付き物。風景と言ってもいい。元々は東京六大学の応援に淵源を持つのだろうと想像しつつも、京都二中(現鳥羽)が鼻祖との話や、千葉の市習志野と拓大紅陵との因縁や、PL学園、智弁和歌山などなどの強豪校が刻んできた歴史をひもといてくれる。これば文化だなぁと実感。「美爆音」なる言葉を初めて知った。それと「屋外の演奏で音を太くしてストレートでキレのある音にする」っていう効用、「野球応援を通じて人間付き合いの場になっている」という言葉も感慨深い。さて明日は生音。
読了日:8月15日 著者:梅津有希子
イランの野望 浮上する「シーア派大国」 (集英社新書)イランの野望 浮上する「シーア派大国」 (集英社新書)感想
ペルシア文明を伝える国イラン。日本に伝えられるニュースでは反米デモが盛んで、イスラム革命以降の偏向が印象付けられる。当のイラン自身もそういう姿勢を見せる(見せたい?)ものの、性根は穏健な国であるというのが特派員だった筆者の視線。自然、第5章の「等身大のイラン社会」の章が出色。アラブの2大国サウジとどちらが穏健なのか……。ただ閉塞感から海外への頭脳流出が続き、宗教的な規範に囚われることが今後も続けられるのか。確かにグローバル化に一線を画すのは間違いだとは思えないのだが。兎も角書題の「野望」の2文字が不適切。
読了日:8月15日 著者:鵜塚健
ペリー来航 - 日本・琉球をゆるがした412日間 (中公新書)ペリー来航 - 日本・琉球をゆるがした412日間 (中公新書)感想
連想したのは中世末期に南蛮船の来航、後期倭寇の存在が近世への序章となったこと。相似形で米艦隊の来航が近世から近代への第一歩となったこと。第2に、異文化との遭遇はこういう対応になるのだろうなぁ、と。というのは実家は横浜。米軍進駐前夜に若い女性は兎も角縁故を頼って疎開、でも闇市での横流し物資の取引で町が潤う、民の竈の煙も立つという経験。そして今、こういう目に見える形での遭遇ではなく、無意識的な侵攻を受けているのかも、とも。ま、こういうことをWeb上に書き込んでいることも一翼なんですが。ワンテーマ新書上々。
読了日:8月13日 著者:西川武臣
京都の平熱――哲学者の都市案内 (講談社学術文庫)京都の平熱――哲学者の都市案内 (講談社学術文庫)感想
本圀寺近くで育った筆者の京都考。京都市バス206番東周りの道行きは道具立てだ。自身の経験と知見を元にした都市論である。千年の伝統の都という装いの奥では人が生活している訳で、閉鎖的との指摘は「お上」の交代が激しい経験をした町が、実は人と人との結び付きを重んじてきただけであり、糸口さえあれば異端も受け入れる度量(しなやかさ)が営みを支えてきたと説く。入れ子で柔構造の町も、仕事が変質し、人口が減少すると共に、今は変化しているとの指摘。アブラムシが一番繁殖するのはヒゲが接する距離くらいの環境との引用が示唆に富む。
読了日:8月12日 著者:鷲田清一
分裂から天下統一へ〈シリーズ日本中世史 4〉 (岩波新書)分裂から天下統一へ〈シリーズ日本中世史 4〉 (岩波新書)感想
新書という体裁らしい1冊。応仁の乱から徳川殿の御代まで、東アジアの中の日本という位置づけを見せながら説いていく。日明間の貿易、東シナ海に出没した南蛮船、アイヌとの窓口となった蠣崎氏(松前氏)、朝鮮との間の宗氏、琉球王国の存在と窓口になった島津氏。国内の歴史の歯車を動かす「蝶の羽ばたき」が見えてくる面白さ。秀吉の朝鮮出兵を「16世紀末の大東亜戦争」と見立てた手際の鮮やかさはこの本の中でも出色。壬辰・丁酉の倭乱があれば丁卯・丙子の胡乱もある訳で、松前、対馬、鹿児島と長崎という「四つの口」論にもつながる。明解。
読了日:8月11日 著者:村井章介
坊ちゃんの時代 第5部 凛冽たり近代なお生彩あり明治人 不機嫌亭漱石 アクションコミックス坊ちゃんの時代 第5部 凛冽たり近代なお生彩あり明治人 不機嫌亭漱石 アクションコミックス感想
修善寺大患の漱石。大吐血の後、約30分間意識を失っていたと言われる間に夢を見た。夢の中にはここまで登場してきた多くの人物が出現し、物語を完結にと導く。ただ。夢、という体裁を取ることは多くの構成を無役にする。黒沢明の「夢」が茫洋とした一作になったように、筆者は蓋然性が高いと信じることを融通無碍に繋げられるから。夏目という存在で明治という時代に通底したもの(今も続いているのかも知れないが)を謎解きするカギに仕立てるのは分かるのだが。絵はいいのだけど、本の方がここまで4巻とは違い過ぎる気がする。個人的には。
読了日:8月9日 著者:関川夏央,谷口ジロー
『坊っちゃん』の時代 第4部 明治流星雨―凛冽たり近代なお生彩あり明治人 (第4部)『坊っちゃん』の時代 第4部 明治流星雨―凛冽たり近代なお生彩あり明治人 (第4部)感想
本巻の主題は「大逆事件」。芽生えたばかりの社会主義運動を徹底弾圧するための冤罪事件であります。幸徳秋水を始め、当事者が大逆罪という意識がないままに話がでっち上げられていく。筆者は1945年の敗戦に向けて、日本の近代史の中でエポックにとらえているのですが。個人的には日比谷焼き討ち事件だと思っているから、ちょっと見解の相違かな。ただ、読んでみるに社会主義運動が本当に生硬いままで動き出してしまった不幸は、今でも続いていることかもしれないし、リベラルな動きが未だに円滑にならぬのもここの辺に一因があるのかも。
読了日:8月9日 著者:関川夏央,谷口ジロー
『坊っちゃん』の時代(第3部) 【啄木日録】 かの蒼空に ―凛烈たり近代なお生彩あり明治人  アクションコミックス『坊っちゃん』の時代(第3部) 【啄木日録】 かの蒼空に ―凛烈たり近代なお生彩あり明治人 アクションコミックス感想
啄木と漱石、滝山町の社屋で出会うことがあったかも。啄木石川一に関しては、特に作品、その生活ぶりに共感をすることはないし、感懐を持つことはできないのだけど。この時代の俸給人の一人として、この作品の中で飛び回ることは意味があるのかもしれない。太宰と並ぶダメダメ系だけど、南部の人をはじめ、支えてしまうんだよなぁ。ある意味で全力を尽くした人生だったのかも、と思えてくる。あと、キンドル版で読んでいますが、活字本よりも読み飛ばしがしやすい。過去に得ている知識で埋め合わせるところは筆者のペースにつきあうことはないから。
読了日:8月9日 著者:関川夏央,谷口ジロー
『坊っちゃん』の時代(第2部) 秋の舞姫―凛烈たり近代なお生彩あり明治人  アクションコミックス『坊っちゃん』の時代(第2部) 秋の舞姫―凛烈たり近代なお生彩あり明治人 アクションコミックス感想
「早石炭をば積み果てつ」という書き出し。今は高校国語の教科書に「舞姫」は採用されていないだろうな。でも、僕の頃はまだ教材でした。そんな思い出と共に。以下余談。今、こういう形式の本が出るということは、すでに若い世代にはこれらの文字を脳内で図像化することが難しいのだな、と思います。関川の文章だけなら、ここまでイメージを膨らませることができない。僕の世代はまだ明治百年の祝があったり、明治生まれが身近に居たり。どこかあの時代の空気が残っていた。今、それを求めるのは無理です。黒電話すら想像つかなくなっている時代に。
読了日:8月9日 著者:関川夏央,谷口ジロー
御家騒動―大名家を揺るがした権力闘争 (中公新書)御家騒動―大名家を揺るがした権力闘争 (中公新書)感想
良著。御家騒動の顛末を追うというよりは、主従関係(換言すれば上下関係)の変化を追究した1冊。双務的・契約的な関係の家礼型、権門の庇護を得るための一方的・隷属的な家人型、戦闘要員が従者化した郎党型等の主従関係が、鎌倉殿の時代は片務的に、室町殿は双務的に傾きながら進化し、江戸時代になって固定化する。御家への帰属意識が生まれる。自律性のある家老型から、主君との一体感を絆にする出頭人型への変化は、御家騒動という極限の場面でも変化を見せる。江戸時代に入って御家の上にある「公儀」という概念の成立が与えた影響は大きい。
読了日:8月8日 著者:福田千鶴
『坊っちゃん』の時代―凛冽たり近代なお生彩あり明治人 (アクションコミックス)『坊っちゃん』の時代―凛冽たり近代なお生彩あり明治人 (アクションコミックス)感想
知己に勧められてキンドルで入手。山田風太郎の明治物小説のような風体で、時代の空気を絵にしてみたら、という作意がおもしろい。原作の関川夏央の力もさることながら、こういう企画に谷口ジローの絵が合っているのがいい。初版刊行は1987年。約20年目にして巡り会ったけど、味わい深い1冊です。神は細部に宿る、という感じで。
読了日:8月8日 著者:関川夏央
蕩尽する中世 (新潮選書)蕩尽する中世 (新潮選書)感想
受領が専横を極めた時代から、戦国期の分国体制まで「蕩尽」の一語で読み解く試み。後三条帝の記録荘園券契所設置を契機に日本の文書主義(或いはフェチ)が始まるという見立ては面白い。為替決済にも似た制度の登場から、受領の行き着いた果てが六波羅政権であると説く。下って守護地頭の時代、足利殿の時代と銭貨の流入が齎す影響が増えていく。荘園領主に代表される商品経済と商品を扱う業者の貨幣経済の並列が悪党の存在を生んでいく。諸国の事例個々は興味深いが、徐々に「蕩尽」から後段は離れていくようで、散漫になる恨みを残した。
読了日:8月5日 著者:本郷恵子
このマンガがすごい! comics 翔んで埼玉 (Konomanga ga Sugoi!COMICS)このマンガがすごい! comics 翔んで埼玉 (Konomanga ga Sugoi!COMICS)感想
同僚からの流浪本で読了。サークルには西武池袋線、常磐線の先輩多々いた中で、あの当時の酒宴の雑談を絵画化すればこうなるよねえ、というのが実感。別に何のストーリーもなく、当時の埼玉県、茨城県に対する揶揄をテーマにしただけのこと。小学生の落書きの域。今では自主規制で描けないとすれば、息苦しい監視社会になっているとしかいいようがないし、筆者自身が所沢から横浜に転居したため、表題作は未完のままというのも乙。さて一読して、この本をどこへ流すかが問題である気がしてきた。手元に置いて置くには煩わしい感が満ち満ちているし。
読了日:8月4日 著者:魔夜峰央
北の富士流北の富士流感想
本書の得手を挙げれば、姿を社会相の中に置いて読み解いていること。ルポでも評伝でもない村松の感想文。北の富士の人生での波瀾万丈の出来事は偶然か、必然か判然としない。でも竹沢勝昭という人物はいる訳で、合間を描きたかったか。昔、北の富士氏が相撲協会を去る時、後任の広報部長に長く巡業畑で知られた親方が就いた。人柄を承知の上で「老い花咲かせたな」と呟いたのを覚えている。もし玉の海が健在だったら、とは思うけど、今の姿が必然なのだろう。将に自身が今や花盛り。育ての親・出羽ノ花の武蔵川が描いた力士の理想像である気がする。
読了日:8月2日 著者:村松友視

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2016年08月01日

★2016年7月に読んだ本。

2016年7月の読書メーター
読んだ本の数:12冊
読んだページ数:3077ページ
ナイス数:432ナイス

京“KYO”のお言葉 (文春文庫)京“KYO”のお言葉 (文春文庫)感想
正確に言えば筆者は西陣が出自。でも京での生活を骨の髄まで染み込ませている筆者ならではの文の数々。婉曲表現を遣いつつ、実は直截的。逆裏対偶のような論理の駆使。とても及ぶところではない。でもそんな嫌みな部分を軽妙な文体で読ませてしまう。同趣向の「京都ぎらい」(井上章一)よりもずっと読みやすい気がする。各項の末尾に店の紹介が2軒ずつ載っているけど、これこそ蛇足。ない方がいいのだが、元々「anan west」の連載だったというから仕方ないか。でも常に蹂躙され続け、新入者を受け入れてきた街のしたたかさが言葉に覗く。
読了日:7月31日 著者:入江敦彦
植民地時代の古本屋たち―樺太・朝鮮・台湾・満洲・中華民国 空白の庶民史植民地時代の古本屋たち―樺太・朝鮮・台湾・満洲・中華民国 空白の庶民史感想
台湾、朝鮮、満洲、樺太と戦前の日本の植民地での古本屋業界を展望した1冊。同業者間の通信物であったり、懐旧記であったりを元に当時を振り返る。挿入されている都市市街図で、奉天、真岡、京城、台北などの町の様子が分かる方が個人的には興味深かった。本が知性と比例した時代。教科書が古本の主力商品だった町、あるいは渡海した人の旧蔵本が出る町など。そんな土地でも、内地の古書業者が「せどり」に出向いていること、本屋商売が花形であった時代の懐旧譚。文は地域別に進んでいるのだけど、総集編部分の充実を他日に俟ちたい。
読了日:7月28日 著者:沖田信悦
都市鎌倉の中世史―吾妻鏡の舞台と主役たち (歴史文化ライブラリー)都市鎌倉の中世史―吾妻鏡の舞台と主役たち (歴史文化ライブラリー)感想
中世史の研究とはこういう風にやるという方法論を一般書にしている1冊。文献学出身の筆者が考古学と出会い、考察を進めていく。吾妻鑑の断片的な記述を元に遺跡、出土品との突き合わせ。北条義時の邸宅跡、大倉御所の後等々。また私的な持仏堂であったり、境界に置いた寺、鎮魂の寺など今に寺院の残る理由を解いたり。一番面白かったのは町の背骨は東西に走る六浦道で、若宮大路に対して約87度で交わる街路が発達していたという考察や、巷間に伝わる城塞都市としての機能はなかったとの見立て、京と並ぶ物流拠点だったことなど。東国国家論?
読了日:7月28日 著者:秋山哲雄
兵隊になった沢村栄治: 戦時下職業野球連盟の偽装工作 (ちくま新書)兵隊になった沢村栄治: 戦時下職業野球連盟の偽装工作 (ちくま新書)感想
読んでいて、悔しくなってきた。前川八郎、坪内道典、川上哲治、千葉茂に会っていた。鈴木龍二の書生にも。腰を据えて聞いていれば色々な話が聞けたに違いない。辛うじて思い出話を聞いた近藤貞雄、近藤をモデルにした新東宝の映画「人生選手」のこと。読んでいてありとあらゆる場面が思い出されて、オレならこう書いたと思うこと屡々。本書には出ていないが、1945年春、阪神間の空襲直前までやっていた職業野球の話がある。当時、出場した選手も取材したっけか。リーグ運営者の立場もさることながら、選手の話を盛り込んで見たかったな、と。
読了日:7月21日 著者:山際康之
代議制民主主義 - 「民意」と「政治家」を問い直す (中公新書)代議制民主主義 - 「民意」と「政治家」を問い直す (中公新書)感想
政策を実行する「執政」と民意を反映する「議会」と。人間の集団には代議制民主主義が登場する。ただ、執政を大統領のように直接国民が選ぶか、議員内閣制にするかの違いがあり、また、議会も小選挙区のような民意との比例性が低い選挙制度か、大選挙区や比例代表制のような制度か。この執政と選挙制度の組み合わせによって行政の有り様が変わるというのが本書の指摘。記述している内容は示唆に富むのだけど、頭の中で「代入(具体的なイメージの連想)」が必要な記述が続く。と同時に日本の現状を鑑みると議員の資質低下に憂慮せざるを得ない。
読了日:7月21日 著者:待鳥聡史
パックス・チャイナ 中華帝国の野望 (講談社現代新書)パックス・チャイナ 中華帝国の野望 (講談社現代新書)感想
書名は「Pax Romana(ローマの平和)」に由来する。ローマ帝国時代の5賢帝時代のことだ。以来、ブリタニカであれ、アメリカーナであれ、その背後には権謀術数がある。習近平の動静をどう見立てるのか。AIIBであれ、一路一帯であれ、19世紀に欧米と日本に席捲された経験を持つ中国の指導者が対米で「同等のパートナー」、対露では主従の関係を逆転させたと見立てる。細部にわたる描写が生々しさを感じさせるのだけど、逆に何がネタ元なのか? という胡散臭さも生んでいる。事実か陰謀論の類いなのか。どこかに夕刊紙の風合いが。
読了日:7月15日 著者:近藤大介
イラストで見る昭和の消えた仕事図鑑イラストで見る昭和の消えた仕事図鑑感想
説明文1頁、イラスト1頁。見開きで1項目。挿絵が秀逸。画風とすれば遠藤ケイか、今和次郎か。昭和の時代のホワッした気分をよく写していると思う。仕事別に文章は綴られていく。本当に消えちゃった仕事って多い。機械化で消えたもの、省力化で消えたもの……。身近に考えればコンピュータの出現で「○○の名手某さん」とか「△△なら某さん」という人々が消えていったなぁ。おまけにコンプライアンスという名の下に、縁故や人脈が忌避され、公明正大一辺倒になった。大切なことだけど、消えちゃったものもあるような気がする。委細は本書を。
読了日:7月15日 著者:澤宮優
足利義稙-戦国に生きた不屈の大将軍- (中世武士選書33)足利義稙-戦国に生きた不屈の大将軍- (中世武士選書33)感想
波瀾万丈を絵に描いたような主人公。世上に知られぬ人物を取り上げた筆者に拍手。同じ「将軍」職でも徳川殿には直轄地(財力)も兵力もあったが、足利殿には2要素がなく、守護大名連合の事務局長程度の力だったという見立てを基盤に「流れ公方」の人生を辿る。父と共に逃れた美濃から上京して10代将軍義材に。細川京兆家に追われて将軍廃立、越中に逃れ、越前、周防で13年余の雌伏を経て将軍義稙として返り咲き。だがまた追われて阿波に逃れた処で没する58年の生涯。大河ドラマには向かないけど、中世という時代を象徴する人物だ。秀逸。
読了日:7月12日 著者:山田康弘
角川映画 1976-1986(増補版) (角川文庫)角川映画 1976-1986(増補版) (角川文庫)感想
角川書店&角川春樹の歩みを振り返った1冊。角川映画というと犬神家の人々、悪魔の手鞠歌、人間の証明等を連想するけど、抱える作家が少なかった書店が、横溝正史、森村誠らの発掘と、自社専属の女優(薬師丸ひろ子、原田知世ら)の育成等々、元々は本を売るためのメディアミックスが変貌していく。映画興行界の習慣を破る形であれ。日本の出版界、いやマスコミの先端的な動きだったのかもしれない。ただ角川書店も結局、旧来の体制に組み込まれていく過程であった気もする。アニメ、Webへの進出と挑戦は続いているが。鵺のような姿かも。
読了日:7月9日 著者:中川右介
裸はいつから恥ずかしくなったか―日本人の羞恥心 (新潮選書)裸はいつから恥ずかしくなったか―日本人の羞恥心 (新潮選書)感想
内容散漫、事実の認識不足。読者をこの問題に誘う切っ掛けに、豆州下田の公衆浴場のスケッチを引いているのだけど、絵柄として別に奇異に見えない。柘榴口があり、流し場がある江戸時代までの風呂の絵。西欧人にとって混浴が珍しいなら、そも入浴自体が珍しい人々相手のこと。青森の酸ヶ湯にでも行けば認識は改まるかも。明治時代初頭に出された政令で意識の変化が生まれたというが、その後長く裸の庶民はいた。羞恥心とは違うレベルが続いた。今和次郎先生の本を玩味熟読せられたいくらい。後段は井上章一の「パンツが見える。」を読んだ方がまし。
読了日:7月7日 著者:中野明
【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛 (新潮選書)【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛 (新潮選書)感想
今日に至る中東紛争の起源とも言われる英仏露によるこの協定。実は後のセーブル、ローザンヌの両条約を経て、今の枠組みが完成した。勝手な領土分割を批判するのは易しい。だが、近代化の中で1)オスマン帝国が自壊 2)露の南進策−−が相俟って不安定になったのが原因と説く。この構図の読み解きが本書の眼目。中東からバルカン半島にかけて、クルド人に限らず民族が混住してきた地域。一歩間違うと「民族浄化」の悲劇に繫がる。現実的には米露を始め、中東の大国も含めての解決が必要だが、WWI後の状況にも似る今、良識が問われている。
読了日:7月5日 著者:池内恵
香港 中国と向き合う自由都市 (岩波新書)香港 中国と向き合う自由都市 (岩波新書)感想
「自治のない自由」な地域である香港。英国の租借地であれ、中国の行政特別区であれ、所謂民主的な手続きで行政が行われるのではなく行政長官(総督)が権力を握る形態である。でも対英国、対大陸であれ、住民が「不自由であること」を自覚した分、「自由」への希求、抑制への危機感が発露する。先の「雨傘運動」が記憶に新しい。この本を読んでいて彼の地の知見が改まったのと同時に、今の日本国憲法下で定められている自由すら、制限する動きに鈍感であるような気がして仕方ない。偖、抑圧するものを民衆に意識させない今の統治を称揚すべきか。
読了日:7月3日 著者:倉田徹,張ケ暋(チョウイクマン)

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posted by 曲月斎 at 02:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 汗牛充棟 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする